戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

76 / 143
どうも、マスクドライダーです。

今回も話ばかりですね。と言うか……恐らく次回とか、その次辺りも話してばっかりの可能性が大なんですけど……。

キャノンボール・ファスト編?ではもはやないですが。ここいらで一気にフラグを回収するつもりだったから、当然こうなりますわな。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


古狸は語る(本懐)ですが何か?

 キャノンボール・ファストが中止となり、翌朝が明けた。真が失踪した事は、すぐにZECT内を駆け巡り、関係各所は、朝っぱらから慌ただしい様子が続いている。

 

 ラボラトリ経緯でガタックの反応を追おうにも、何故か全く反応がつかめない。それは、真が青子に命令してやらせている事だが……それを岬たちが知る由も無い。

 

 この事実に、真と親しい間柄にある岬及びラボラトリの面子。そして、田所は焦りを隠せない。特に田所は、真を愛弟子だと思っていただけに、苛立ちも大きかった。

 

 そしてそんな中、ZECT総本山……会長室の加賀美 陸は、指と指とを組ませた所に顎を置き、何か考えにふけっているらしい。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そんな陸の横に佇む三島もまた、口を開く様子は無い。それどころか目を閉じ直立不動で、それは余計な事はしないと、そう意思表示をしているようにも見える。

 

「三島……」

 

「ハッ……」

 

「客だ……」

 

「ハッ、失礼いたします」

 

 突然そう呟いた陸に、三島は何の疑問も持たず退室する。本来ならば、今日は来客の予定は入っていない。だが……陸がそう言うのなら、三島はそうするのだ。

 

 恐らく世界レベルであろう綺麗なお辞儀を見せると、ここから先に自分が良いと言うまで、陸には電話等々を入れないよう部下に命令しながら、三島は会長室のドアを開いた。

 

 それを見て、陸はスーツの襟とネクタイを正す。会長用の豪華な椅子に座り直すと、後はただジッと……何かを待つような様子だった。

 

 陸がこれだけ気を使うとなると、よほど重要な相手なのだろう。その相手は、陸が思っていたよりもずっと早くに現れた。ただし、ドアでは無く……窓から。

 

ガシャアアアアン!

 

「早かったな……真」

 

「……よう、爺ちゃん」

 

 乱暴に体ごとガラスを突き破りながら会長室に突っ込んで来たのは、ガタックを装備した真だった。陸は真の方は一切見る事無く、よく来たなと呟く。

 

 そんな陸に、真はガタックを解除して、会長用デスクの正面へと回った。そしてそのまま本気でデスクをバン!と叩くと、顔を陸へと近づけ凄むようにこう言う。

 

「どこまで知ってた?」

 

「…………」

 

「俺の事はクソ野郎から聞いてんだ……隠さなくたっていいぜ?」

 

「…………」

 

 陸に詰め寄っている真の目元には、大きな隈が出来ている。いや、それだけで無く頬もどこか痩せこけていた。特にヤバく見えるのは、目だろう。

 

 真の瞳の奥には、淀みが見える。そのせいで雰囲気は、何をしでかすか分から無いような狂人のようだ。真はその暗く淀んだ目で、陸を睨めつけた。

 

「答えろ!隠すな!全部話せよ!」

 

「全てだ」

 

「あぁ!?」

 

「何から何まで、全て知っていた」

 

 あまりにも清々しい白状に、真は一周回って言葉が出なかった。フラフラとデスクから後ずさり、次にどう行動して良いかもわからないようだ。

 

 何から何まで……とは、恐らく光葉の事も……と言う事なのだろう。そう理解すると、また真の心の中で、グラグラと煮えたぎる何かが噴き出た。

 

「何で……何で教えてくれなかったんだよ!!」

 

「言って、信じたかね?」

 

「そう言う問題じゃ……!」

 

「あるな。例え話したとして、今のお前と同じ状況になるだけだ」

 

 完全に情緒不安定な状態である真に、陸はあくまで淡泊で冷淡な返しをした。正論ではある……が、やはり真は納得がいかない。

 

「ふざけんなよ!それで……はいそうですかなんて、言いに来たわけじゃない!」

 

「ならば、何をしにここに来た?」

 

「アンタの年齢からして、ソルより詳しく知ってるハズだ!言えよ……全部!」

 

 真はまるで、駄々をこねる子供の様に喚く。陸は真が来た時には、どんな要求でも受ける気でいた。まずここまでは、予想していた通りだ。

 

 陸は椅子から立ち上がると、後ろ手でを組むようにして窓から景色を眺めた。そしてそのままゆっくりと、ポツリポツリと昔を懐かしむように語りだした。

 

「お前の母……光葉君は、我々ZECTが保護した」

 

「!? アンタまさか……親父とお袋との出会いを仕組んだのか!?」

 

「いや、それは無い。完全に偶然……と言うよりは、もはや運命だな」

 

 振り返り真剣な表情を見せる陸は、これだけはどうか信じてくれと真に懇願した。真が声を荒げたのは、自分を産ませようとした陰謀であると想像したからだ。

 

 しかし、最近になって陸の言葉の嘘は見抜けるようになっていた。だからこそ……陸が何かを隠しているのが分かっていたのだから。真は吐き捨てるように、続けろよと言う。

 

「あるとき、救難信号を発見してな……向かってみれば、当時十代ほどの少女を保護した」

 

「それが、お袋……」

 

「うむ……。彼女は、自身が逃げて来た事を我々に伝えたよ。その他にも、色々な……」

 

 立ったままの状態で、デスクに置いてあるノートPCをカタカタと叩く。目的の画面が表示されたのか、陸はノートPCの画面を真の方へ向けた。

 

 すると、映っていたのは……ISのコア制作の基礎となるようなデータで、一緒にカブトの設計図のようなものも載っている。これに真は、驚きを隠せない。

 

「どういう……ことだ……?」

 

「恐らくソルの語っていた言葉は、矛盾していただろう?これが、その答えの一部のようなものだ」

 

「お袋が、これを持ってた……ってことは……」

 

「ISのコアを完成させたのは、篠ノ之 束では無い」

 

 もはや世界の常識である事が、根本からひっくり返される一言だ。つまりは、光葉に子を産ませる目的とISが誕生する計画は、同時進行であったという事だろう。

 

「正確に言えば、篠ノ之 束に完成『させた』と、そちらが正しい表現だろう」

 

「んでそんな、遠まわしな事を……」

 

「そちらの方が、都合が良かったのだろう。表立つより、裏で暗躍している方が亡霊らしい」

 

 陸の言葉は、もっともだった。秘密組織が目立ってしまっては、元も子もない。真の『そうか……』とでも言いたそうな表情に、陸は少し調子が狂うのを感じた。

 

 いつもの真であれば、この程度の事に補足なんぞ入れずとも頭が回るはずだ。それも仕方ない事だと、陸は心底で真に申し訳ない気持ちとなる。

 

 陸が真にしてやれる事と言えば、真実を語るくらいだ。だがそれは、やはり真が困惑するような内容がほとんど……。だが陸は、孫を愛するからこそ立ち止まらない。

 

「……ISのコアは、亡国が造った……って事で良いんだよな?だとしたら、お袋なのか?」

 

「違うな。光葉君の育ての親のような人物だ」

 

「そう……か……。お袋は、亡国で産まれたんだよな……」

 

 当たり前のように呟く陸に、真は気を落した。無理も無い……顔しか知らない、自身の命と引き換えに産んでくれた母親が、いわゆる悪の組織に造られた存在なのだから。

 

 それでいて、光葉がなにをされてきたのか想像するだけで、やりきれない気持ちとなる。新と結ばれて、幸せだったであろうことを考えると、更に胸中は晴れない。

 

「それで、その人物も光葉君と同じく『元』だ」

 

「脱走……したのか?」

 

「ああ、実際に本人に聞くと言い。彼女の方が、私よりも事情に詳しいのでな」

 

「!?」

 

 まさかのご本人登場に、真はやはり言葉が出ない。そんな真にはかまわず陸は、会長室と隣接している応接室の扉を指さした。

 

 どうやら既に、そこで待機していると言う事らしい。陸は三島にも気づかれぬように、既にセッティングは済ませておいたのだ。

 

 真はフラフラとした足取りで、応接室の前で立ち止まった。この先に何が待ち受けているのか、真は内心で恐怖する。しかし、その恐怖を打ち払うように扉を乱暴に開け放つ。

 

バァン!

 

「!? そんな……!」

 

「よう、坊主」

 

「店……長……!アンタも……アンタまで!俺をだましてたってのか!」

 

「あぁ、待て待て……騙すつもりは……いや、結果的に騙してるにはちげぇねぇんだろうよ……」

 

 そこで待ち構えていたのは、真が予想だにしない人物だった。秋葉原にある寂れた特撮専門店……そこで店長を務める女性が、ISのコアを作ったと言うのか。

 

 店長はいつものラフな格好とは違って、女性用のスーツに身を包んでいた。いつも不真面目な女性なだけに、その恰好だけで、真剣に話すつもりであることがうかがえる。

 

「落ち着け、真。喧嘩腰では、話にならん」

 

「…………」

 

「坊主、恨むなら恨め。今更、許してくれなんて言わねぇよ」

 

「御託は良い……とっとと話せ……!」

 

 真も店長に対しては、色々言いたい事があった。が、とにかく今はどんな方法だろうと、冷静であろうと従事する。その方法は、店長を睨むと言うなんとも荒っぽい方法だが。

 

 それに対して、店長はなんとも女性らしくない仕草で頭を掻きむしった。ブフーッと大きく吐息をつくと、真としっかり目を合わせる。

 

「あ~……どこから話すか?」

 

「……アンタと爺ちゃんの関係。爺ちゃんは、一人の少女を保護したって……そう言った」

 

「そりゃ、単純さ。オレが脱走したのは、あの子よりもかなり後だったからな」

 

「彼女が脱走した際も、光葉君と同じく救難信号を察知したのだ」

 

「あの子もZECTに保護されたっつーのは知ってたが、あの子と会うのは止めておいた。あの子は、オレとは関わらない方が幸せだったろう」

 

 どこか遠く悲しい目をしている店長に、真はある考えが浮かんだ。光葉に脱走を計画したのは、この人なのではないかと。

 

 『あの子』と言う口ぶりから店長がなんとなくではあるが、光葉を大切に想っていたことが窺える。そう考えると少しは気が緩んだのか、幾分か真の目つきは大人しくなった。

 

「アンタ……結局いくつだ?名前は?」

 

「名前は……ねぇよ。ZECTが用意してくれた仮の戸籍の名前はあるが……そんなモン、名前とは言わねぇ」

 

「つまりアンタも……」

 

「ああ、ISのコアを作成するためだけに生まれた」

 

 亡国機業にはこう言った境遇の人間が何人いるのかと考えると、虫唾が走るのを感じた。それに加えてあの明るく姉御肌な店長が、こんなしおらしい様子になるなど真は考えられない。

 

 年齢に関しては女性としてのプライドが残っているのか、『あの子とは、母と子ほどは離れていない』『とは言いつつ、年離れの姉くらい』と、明言は避けられた。が、何も真もそこが気になる訳でも無いので、特に追求はしない。

 

「アンタと、お袋の関係って……」

 

「言った通り、姉みてぇなモンだ。ある日突然に、赤ん坊育てろなんざ言われてよぉ……あんときゃオレもまだガキだってのに」

 

 つまり店長は、光葉の教育係のようなものも兼任していたのだ。一般人並……いや、それ以上の知識や、日常生活に困らない程度の家事等を仕込んだのが、店長らしい。

 

 それ故に光葉は、常識はあれども世間を知らなかったのだろう。方向音痴だとかは、単に光葉が抜けていただけだろうが、それでもやはり外の世界を知らずして生きてきたはずだ。

 

「アンタ、亡国機業で何してた?」

 

「あの子を育てる傍ら、コア制作ってとこか?」

 

「お袋が何されてたかは……」

 

「いや、知らねぇ。あの子は頑なに言おうとしなかった。だからオレも、聞かねぇ事にしてたんだ」

 

 やはりISのコアを作ったのは、間違いなく店長と言う事らしい。人は見かけによらないと言うか、何と言うか。見た目どころか、中身も知性の欠片も感じられない人物のせいでギャップが大きい。

 

 光葉の事に関しては、光葉が自身にされて居た事を知っているかも、知らないかも分からないようだ。だが店長の様子は、何処か悔しそうにも見える。

 

「ISのコア、何のための物かは?」

 

「それも知らねぇ。なんかの兵器っつーのは分かってたけどな、ただ言われた通りにやってただけだからな」

 

「言われた……通り」

 

「ああ、未完成の状態のコアの設計図をよ、とある人物に贈る必要があった……とか言ってたな」

 

 そのとある人物と言うのは、間違いなく篠ノ之 束だ。亡国が光葉と店長にしていたことは、今日に辿り着くための壮大な仕込だった……と言う事なのだろうか?

 

「つって、コアだけじゃなくてISを完成させたのはオレだが……」

 

「まさか、カブトか!?」

 

「ああ、そうだ。白騎士がコアナンバー001だとすりゃ、カブトはコアナンバー000ってとこだろ」

 

 光葉が持っていたデータに、カブトの設計図があった。これは、店長が亡国のやろうとしている事を伝えるためらしい。しかし、事は既に起きてしまっている。

 

 陸ならば、止められる可能性はあったはずだ。だがそれを、陸がしなかったとなると……話はまたおかしな方向へ転がってしまう。

 

「爺ちゃん、何で篠ノ之 束を止めなかった!」

 

「それが、光葉君の望みだったからだ」

 

「何……!?」

 

「彼女は、少しでも可能性を高めたかったのだろう」

 

 恐らくどう転んでも、ISは完成する事になる。それならば、毒を持って毒を制す。光葉は、亡国に対抗しうる手段としてISが必要だと考えたのだ。

 

 そうして予想通りISは世に送り出され、各国が振るって多くの専用機を開発させるに至る。光葉は誰よりも、この世界が平和であるように願っていたのだ。

 

「じゃあガタックはなんなんだ!?」

 

「……開発したのはラボラトリだが、設計したのは彼女だ」

 

「爺さんから、依頼が来てな」

 

 かつての知識をフルに絞って、店長はガタックを設計したらしい。岬たちは、それこそ基礎を与えられ……見事にキャストオフやプットオンを再現して見せたのだ。

 

 陸は詳しい事は聞かずに、とにかく自分たちの技術であると公言するよう釘を刺しておいた。この言葉に、岬たちは渋々ながら従っていたらしい。

 

「……お袋とアンタが、脱走した理由」

 

「……あの子はな、笑顔を絶やさない子だった。それだけに……解かっちまうんだよ、無理して笑ってるってのが」

 

「…………」

 

「始めは、義務と言うか役目のつもりだったんだけどな。情が移っちまったのか……耐えられなくなったんだ。あの子が、無理して笑うのを見る事に」

 

 そこまで言って店長は、片手で両目を覆い隠した。どうやら、昔を思い出して冷静でいられないらしい。真に一言だけ済まないと呟いた。

 

 いくら真が冷静で無いにしても、流石に急かしはしない。じっくりゆっくりと、店長が落ち着きを取り戻すまでを待った。

 

「それにな、あの子も……外に出たいって望んでた。だからこそ、オレに出来る事は……あの子に外を見せてやる事くらいだったのさ」

 

「一緒には、逃げてやらなかったのか?」

 

「少なくとも、あの時のオレはどだい無理だと思ってたからな……。まさか、それも計画だなんてよ……」

 

 店長は参った参ったなんて言いながら、どっかりとソファにもたれかかった。世の中そこまで上手くいくはずが無かった……と言う事なのだろう。

 

 次いで店長が脱走できたのも、もはや用済みだからだろう。逃がしたところで、自分たちに何の損得も無い。亡国機業は、そう判断したに違いない。

 

「まぁ……オレから話せんのは、これくらいか」

 

「後は……私から真に、渡すものがいくつかある」

 

「…………?」

 

 それまで座っていた真は、立ち上がって陸の前まで歩いた。すると陸が胸ポケットから何かを取出して、真に手渡した。

 

 見れば、かなり旧式のポケットサイズハンディカムの様だった。近頃は空間投影できたりするタイプが主流なだけに、物珍しそうに掌のハンディカムを見つめた。

 

「それは、私あてに届いた……真へのメッセージだ」

 

「!?」

 

「真が真実を知った時に、渡してほしいと頼まれた。今が、その時だ……」

 

「お袋の……」

 

 真はハンディカムを、大事そうに握りしめた。もちろんだが陸は、内容を知らない。愛する息子が失意に陥っているときの為のメッセージだ、陸もそこまで無粋な事はしない。

 

 そうやって真が母の思いを噛みしめている最中に、陸は何処へやら行ってしまっている。そうして応接室に戻ってみれば、片手にジュラルミンケースを抱え戻ってきた。

 

「爺ちゃん……?」

 

「中を見れば、分かる」

 

「…………。これはっ……ハイパーゼクター!?」

 

 ハンディカムをポケットにしまって、次に受け取ったジュラルミンケースをパカリと開いた。するとそこに入っていたのは、ハイパーゼクターだった。

 

 ただし、そのハイパーゼクターは真が良く見知っている物とは違う。まず形が、カブトムシでなくクワガタタイプ。カラーリングも、カブトムシタイプでいう所の銀色の部分が金色となり、真紅の部分は群青……と言ったように、対を成すような配色だ。

 

「まだ……俺に戦えって言いたいのかよ!」

 

「いや、その力は好きに使うと言い。奴と戦うために使ってもよし、世界に復讐するもよし、お前次第だ」

 

 陸はハッキリと、きっぱりと真に言い切った。これでソルと戦えと言う意思表示に見えた真は、予想だにしない返答に、目を見開いた。

 

 とりあえず真は、ハイパーゼクターをガタックのパススロットへと仕舞わせた。再度陸を睨みつけると、聞きたい事を聞く事にしたらしい。

 

「誰に造らせた……?」

 

「オレだ。それも、爺さんからの依頼だな」

 

「コアはどうした!?」

 

「そのコアは、光葉君が未来へと託したコアだ」

 

 陸が言うには、光葉はISのコアを三つほど店長に持たされたらしい。そして、何かがあったときの為に使ってくれと、陸に預けたのだ。

 

 その三つの内の一つを使ったのが、ガタックだ。一つはソルに奪われハイパーゼクターへとさせてしまったが、残った一つは、こうして真用のハイパーゼクターへとなった。

 

「ふざけんな!力だけ与えておいて、後は好きにしろだ!?無責任にもほどがある!」

 

「では、戦えと……言ってほしいのかね?さっきの言葉と、矛盾するが」

 

「そ、それは……」

 

「真。お前は、誰かに答えを求めているだけだ。お前が考え、悩み、自分の道を見つけなさい。その果てに何があっても、後悔しないような道を選ぶのだ」

 

 真は、半分図星を突かれたようなものだった。どうしようもない憤りが湧き上がるが、頭では陸は悪くないと理解できている。ストレスのはけ口は、さっきまで座っていたソファだった。

 

 ドガン!と全力で蹴り飛ばされたソファは、派手に転がり応接室の向こう側の壁で、ようやく勢いを止めた。間髪入れずに真は、飛び出すように会長室へと戻る。

 

 戻るや否や、割れた窓から外へと飛び出してしまった。状況からして、店長は思わず肝を冷やした。窓まで駆け寄って下を覗き込むと、そこをガタックが通過していった。

 

「おい……坊主!」

 

「やめたまえ、店長」

 

「爺さん……これで、本当に良かったのか……?」

 

「そうするしか、無いだろう。我々は、光葉君の意思を尊重すると決めた」

 

 大声で飛び去りつつある真に呼びかける店長を、陸は止めた。振り返った店長は、真に対して何もしてやれなかったのが歯がゆいのか、チッと舌を打つ。

 

 それでは真の意思はどうなるのか……と、反論したい店長だったが、思いとどまった。なぜなら、真が精神的にやられて辛いのは、陸だ。

 

 先ほどから後ろ手に組まれていた拳は、震えるほどに握り締められている。そのせいで爪が食い込み、血が滲み出てしまうほどだ。

 

「今日は、わざわざ呼び出して済まなかったね。その上……嫌な事を思いださせた」

 

「気にすんな、あの子の為だからな」

 

「では、足を出させよう」

 

「いや……一人で帰らせてくれ。今は、そう言う気分なんだ……」

 

 陸の言葉に薄い笑みで店長は答えると、ヒラヒラと手を振って会長室を出た。店長が帰って行ったのを見て、陸もゆっくりと椅子に腰かける。

 

 陸はここに来て、大きな溜息を吐いた。誰も見ていない所でも、陸は一切の気を抜かない。なのに……この疲れたような顔だ。三島ですら、お目にかかれないだろう。

 

 とにかく真の事も心配ではあるが、陸が一大企業の会長でもあるのは確かだ。自分の携帯電話で三島を呼び戻すと、おぼつかない手で資料を手に取った。

 

 

 

 




店長、まさかの重要人物。

年齢・本名とも不詳ってのは、実は伏線だったって事ですね。本編で店長が言っていた通りに、戸籍上の名前はあるのですが……。

店長は、基本的にその名を語る事はありません。なぜなら、単に仮の名を名だと認めていないからです。

サインとかが必要な時に、しょうが無しに書いたりする程度です。なので設定上は名前を用意してあるんですが、暇があったら公開しようと思います。

さて、次回は……失意の真の前に『あの人』が現れる……かも?

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。