戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

尺が余ったらどうしようか?みたいな話を前回しましたが、何の心配も無かったぜ!だって、想定していたよりも長くなったんだもの!

少し油断するとこれですねぇ……。それでなくても一話一話が長いと言うのに、よほど私には文章をまとめる力が無いのだろうか?

まぁ今回は何とか上手くいったから、良しとしましょう。……なんて思ってるから、いつまでたってもダメなのかも……。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


死闘!再来の無人機(後編)ですが何か?

『青子……アーマーの状況は』

 

『稼働に、重度の障害が発生しつつあります。完全に停止するのは、時間の問題かと』

 

 簪と並び、さぁ……コレから反撃と、その前に真はガタックのアーマーの様子を問いかけた。どうにも本調子でないのは分かっていたが、完全停止は時間の問題と来た。

 

 すると、ガタックのハイパーセンサーにタイマーが表示された。時間は……5分から、文字通りに刻一刻とカウントダウンを始める。どうやらこれが、ガタックが稼働していられる残り時間のようだ。

 

「簪、幸い俺達は、近遠距離攻撃どちらも可能だ」

 

「臨機応変に……攻める……?」

 

「大正解。行くぜ!」

 

 真は、あえて簪にタイムリミットを伝える事無く、無人機への攻撃を開始した。時間が差し迫ると言うのは、精神的にも追いつめられる部分がある。そのデメリットを考えた際に、黙っておいた方が良いと言う判断をしたのだろう。

 

 ダブルカリバーを携え、無人機に向かってゆく真。それを見た簪は、春雷で狙いを定める……と同時に、即発射。当然ながら、真は射線上から外れている。

 

 避けれない事も無かった無人機だが、続いてやってきている真に備え、エネルギーシールドでの防御を選択した。春雷の弾では、このエネルギーシールドは突破できない。

 

ドン!

 

 春雷の弾は防がれたが、エネルギーシールドを無人機が展開した時点で、真は次の選択肢を選んでいた。真は空中で振り向き、シザーアンカーを打鉄弐式目がけて射出した。

 

「簪、意味は分かるな?!」

 

「うん……!」

 

 真が直接簪に声をかけると、何の躊躇いも無く弐式の腕部をシザーアンカーに噛ませた。火花を上げながらアンカーが顎を閉じると、真はそのままワイヤーを巻き取りながら簪を引っ張る。

 

 簪の方は、弐式のスラスターを吹かせ無人機へと突っ込む。真の引く力と、弐式の前に出る力は相乗効果ですさまじい加速を付ける。

 

 タイミングを見計らい、真はアンカーを解除し、勢いそのままに少し後方へ距離を取った。肩部にガタックガトリングを展開すると、無人機の背中目がけて射撃を行う。

 

「がら空きだぜ!」

 

 前方を向いている無人機の背は、確かに隙だらけだ。ガトリングのエネルギー弾は、全て無人機に命中する。だが、ガトリングでは致命傷とまではいかない。

 

 無論、真の狙いはガトリングで倒す事では無く、あくまで簪が攻め入る隙を作るためだ。背中に集中砲火を喰らったせいか、それまで展開されていたエネルギーシールドは、消失した。

 

「そこっ……!」

 

「さらに続くぜ!」

 

ガァン!ガン!ガギィ!

 

 シールドが消失した頃には、調度簪が無人機に辿り着いたタイミングだった。簪は夢現を横一線に薙ぎ払い、真はすれ違うようにダブルカリバーの二連撃を浴びせた。

 

 そしてそのまま挟み撃ちの形で、真はキャノンを、簪は春雷を発射。キャノンの方は、再び展開されたエネルギーシールドに防がれるが、春雷の方は先ほどのガトリングのように、無人機に直撃した。

 

 真と簪は、確かな手応えを感じる。コンビネーションに全く問題は無く、会話をせずともお互いの狙いが理解できるほどだ。微塵の油断も無いが、このまま攻めれば……。

 

『コロス』

 

「ぐぅっ!?おおおおっ……!!」

 

「真……!?」

 

 無人機の声が再び聞こえたかと思えば、出撃以前と同様に、激しい頭痛が真を襲う。狙ってやっているのではないか、真はそう思えるほどだった。

 

 どちらにしても、二人の足並みは止まってしまう。この場合、完全に隙だらけなのは真の方だ。無人機は、左腕のビーム砲を真に向けると、有無も言わさず熱線を放つ。

 

ドォン!

 

「真!」

 

 こんな状況を、簪が黙って見ていられるはずも無い。真の元に超特急で飛んで行き、抱き着くような形でその場から真を移動させた。

 

 その際に、簪の背後をビームが通り過ぎた。掠りすらしていないが、絶対防御は正常に作動していない。とんでもない熱量のビームは、簪に苦悶の表情を浮かばさせる。

 

「つっ……!」

 

「かん……ざし……」

 

 痛そうな表情を浮かべる簪を見て、真は無人機を睨みつけた。今のは俺を狙ったのではなく、簪が庇うのを想定しての事か……と。

 

 そう思うと物言わぬ無人機が、自分を嘲笑っているかのように見えた。真は、ギリギリと砕け散りそうな勢いで歯噛みする。しかし、真は怒りに身を任せるほど単純では無い。

 

 どうせ倒してやるのだから、同じ事だ。そう自分に言い聞かせつつ、少し乱れた呼吸を整える。すると、無人機の様子は、先ほどまでと変わらぬ冷たい物に見えた。

 

「簪……済まない」

 

「謝らないで……。私は……大丈夫だから」

 

 簪の言う通り、気にするほどの事では無い。むしろ心配されるべきは、真の方だろう。頭痛は未だ治まらず、肩の怪我と筋肉疲労に、更に拍車をかけた。

 

 ガタックの稼働限界時間も残りわずか、三重苦ならぬ四重苦の自分に、真は思わず苦笑いを浮かべた。笑っている暇では無いにしても、真がマトモに動けないのにも変わりは無い。

 

「もう一つ謝るが、マトモに動けそうもねぇ」

 

「真……やっぱり体調が……」

 

「ん、まぁな……だから、次で止めを刺したい……が、いいアイデアが浮かばん」

 

「私に……いい考えがある」

 

 そう呟く簪に、それは失敗フラグであると言いたかったが、そんな余裕は何処にも無い。大人しく黙って、簪の言葉に耳を傾けた。

 

「山嵐の一斉掃射……」

 

「だがそれだと、エネルギーシールドが……」

 

「マニュアル操作だと……そうはいかない……」

 

 単純なマルチロックとは違って、マニュアルのマルチロックは、山嵐のミサイル一発一発に、複雑な軌道を描かせられる。だがその分、入力に時間がかかってしまうのが難点だ。

 

 そうなると、真が時間を稼ぐしかない。今の真は、誰が見ても満身創痍な状態だ。だが……簪の提案以外に、あの無人機を落せなさそうなのも、また事実。

 

「ちなみに、どれだけ持ちこたえれば良い?」

 

「30秒くれれば……確実……」

 

 分単位で持ち堪えなければならないと思っていた真は、口笛を鳴らした。そんな真の様子に、簪は練習のおかげだと続ける。

 

「それじゃ、始めるか」

 

「うん……!」

 

 真が飛び出したのを見て、簪は弐式の両手両足から、自身の手足を露出させた。それと同時に、八枚のスフィア・キーボードを呼び出し、山嵐のマニュアルロックを開始。

 

 それぞれ入力するのは、現在の大気の状態、ミサイルの軌道など、様々だ。簪は入力する事柄を、ブツブツと声を漏らしながら、鬼気迫る勢いで入力を進める。

 

「おおっ!」

 

『――――――――』

 

 様々な激痛に次ぐ激痛が、真を襲う。それでも真は、果敢に無人機へと挑む。幸いなのは、無人機が素直に近距離での戦闘をしてくれる事だろう。

 

 真を舐めている……のは考えにくいだろう。ならばAIが、今の真をさほどの脅威と判断していないのか。定かではないが、その判断もあながち間違ってはいない。

 

『コロス』

 

ガァン!!

 

「ぐっ!ぬおおおおおお!!!!」

 

 頭の上から振り下ろされたブレードを、真はダブルカリバーを交差させて防ぐ。……が、全力ではないせいか、ギチギチと音をたて、徐々に刃は真の方へ押し込まれる。

 

 そして待っているのは、左腕のビーム砲だろう。予期はできていても、防ぎようのない状況だ。どうした物かと思考を巡らせていると、無人機は動き出す。

 

『――――――――』

 

「何!?」

 

 ビーム砲が来るまでは、当たっていた。だがその狙いは真でなく、簪の方だった。全神経を入力に使っているのか、どうやら簪は気付いていないらしい。

 

 これまで見てきたビーム砲の射程からして、簪の現在地は圏内と言った所か。真は必死にブレードを横に逸らし、小脇に抱えるようにして左腕に飛びついた。

 

ドォン!

 

「ぐあああっ!?」

 

 発射する寸前だったのか、ビームはガタックの小脇を掠める。ガタックの装甲に伝わった熱が、真の身を焼いた。目的であった左腕をずらす事には成功だ。ビームは、簪の遥か横を通り過ぎて行く。

 

 だが流石に簪も真の悲鳴が聞こえたとあっては、集中力が続かない。ビクッと身体を反応させると、演算を行う手足は、完全に停止した。

 

「あ……。ま……まこっ……」

 

「手を……止めるな、簪!俺は大丈夫だ……だから!」

 

「……!?うん……うん!」

 

 ガタックの焼け焦げた装甲を眺め、簪は涙を流す。本当は、今にも真の元へ向かいたいほどだった。だが……山嵐の作戦が成功しなくては、真は死ぬ。

 

 そんな事は、嫌だ。だからこそ、手を動かすんだ。簪の両手足は、再び動き出す。とめどなくあふれてくる涙をこらえながら、入力を進める。

 

(それで良い……)

 

『左腕……完全に停止。先ほどの攻撃が、要因の様です』

 

『やっぱりか、ウンともスンとも言わねぇもんな』

 

 ガタックの左腕は、真が最後に取ったポーズ以降、全く動かなくなってしまった。これではマイナスカリバーも使う事が出来ない。残ったのは一本の短剣……絶望的な状況だ。

 

 それでも簪が予告した30秒まで、残りは10秒程度だ。まだ希望はついえていない……真は、彼を手本に諦める事はしない。他でも無く、自分の父親だ。

 

 前世で見たドラマの中でも、今世での日常生活の中でも、真は彼が『諦める』を選択した事など、見た事は無かった。どんな時でも立ち上がろうとする意志……真は、その姿に憧れを抱いている。

 

 だがそれも、今世に入ってからの事だ。ガタックも彼も、戦いの神(笑)だと執拗にネタにされる。真もその中の一人だった……そう、前世までは。

 

(そうじゃ、ねぇよな……)

 

 だが冷静に、客観的に、もう一度自身の父親を見直してみれば、最近は違った見え方が出来るようになった。大事なのは、彼の扱いでは無く、彼の意志なのだと。

 

 迷い苦しむ事はあっても、彼の行動原理は、いつだって誰かを守ろうとすることだ。だから彼は立つ、どれだけ自身が傷つこうと、どんな絶体絶命の状況だろうと、必ず立って見せた。

 

 真は、こう考える。どんな時でも諦めず、必ず立つ姿勢こそまさに、戦いの神と呼ぶにふさわしいのではないかと。真は一人、彼に問いかける……自分は、アンタに近づけているかと。

 

(決めるのは、誰でも無いか……とりあえず俺も、諦めない!)

 

 そう真が決意した瞬間に、無人機はまたブレードを振るった。それもガタックの左腕が動かない事を察知しているのか、確実に真の死角となっている左側からの攻撃だ。

 

 しかし、ここに来て真の集中力は、限界を突破した。真が全く意識せずとも、集中回避が発動している。スローモーションに流れて見える無人機の動きに合わせ、真は振り向きながら無理矢理プラスカリバーをブレードに合わせた。

 

ガチィ!ギリリリリ……!!

 

「っし!」

 

『マスター、お見事です』

 

「これで……完了……。真……離れて!」

 

「仰せの通りに!」

 

 プラスカリバーで受けたブレードを、しばらく耐えていると、簪が真へ離脱するよう呼びかけた。そうはさせるかと行動しかけた無人機だったが、密着状態から真に蹴り飛ばされ、それは叶わない。

 

「これで終わり……!」

 

ドシュウ!

 

 簪の指揮のもと、発射される四十八発のミサイル。その統率のとれた起動は、それこそ訓練を積んだ軍隊かのようだ。無人機は、当然喰らってなる物かと、ミサイル撃墜を試みる。

 

『――――――――』

 

ドォン!ドォン!ドォン!

 

 遠方からのビーム砲が、ミサイル群を襲う。しかし、そんな事は山嵐の軌道に入力済みだ。ミサイルは、意志でもあるかのように、回避行動をとる。

 

「ついでにコイツも、貰っときな!」

 

 飛んでいくミサイルを眺めて、真は肩部をミサイルに変更した。マルチロックして、撃つという一連の作業を淡々とこなす。その結果ミサイルの総数は、七十発を超え無人機へと向かっていく。

 

 すべての回避は不可と、そう判断したらしく、無人機は前方にエネルギーシールドを展開。それを見た簪は、思わず口元を歪めた。ここまで全て、狙い通りと……。

 

 ミサイルの群れが、三つの分隊へと分かれる。そのまま前方に進む群れと、それぞれ左右に進路を変える群れだ。もとより簪は、全てのミサイルを当てれるなどは思っていない。

 

 正面に残ったミサイルは、足止めの為だ。エネルギーシールドを展開している際は、無人機はほとんど動こうとしない。その特性を利用し、先にガタックミサイル含む正面のミサイルが、着弾を開始した。

 

ズドドドドォン!!!!

 

 無人機は簪の狙い通りに、しっかりと足を止めた。正面に放ったミサイルは、エネルギーシールドに防がれる。だが足止め用に放ったミサイルは、十数発。

 

 左右に分かれた残り三十数発のミサイルは、一度無人機の横を通り過ぎ、背後を目がけてUターンをした。真の放ったガタックミサイルも、確実に無人機を足止めできている。

 

ズドドドドドドドドォン!!!!

 

 そして、さっきの比では無い数のミサイルが、無人機の背後から直撃した。煙で視認ははできないが、打鉄弐式のハイパーセンサーが、ミサイルの命中を告げる。

 

(どうだ……!?)

 

『まだです!無人機、大破寸前ながらも健在!』

 

『!?』

 

 脳内で響く青子の声に、真は驚きを隠せなかった。ここまでして、まだ動こうとするのかと。しかし頭痛が鳴り止まないのを見るに、無人機の存在を感じられずにはいられない。

 

 簪は、何処か勝利を確信したかの様子だ。そんな簪を見て、真は……何の躊躇も無く、ベルトの右部分に位置するクラップスイッチを叩いた。

 

『―CLOCK UP―』

 

『貴方は、本当に馬鹿なのですか!?二度のクロックアップ……これが何を意味するか……』

 

『分かってるさ。だけど……これが確実なんだ』

 

 ガタックは、もうすぐ活動を停止する。そうなれば、簪は一人で戦う事となる。いくら無人機が大破寸前とは言え、確実に勝てるなんて保証はない。

 

 簪を信じない……と言いたいのではない。とにかく、なんとしてでも、確実に無人機を仕留める。先ほどのミサイルで倒せなかった時点で、真に残された選択肢は、これしかなかった。

 

 クロックアップが可能な時間も、さほど長くは無い。真は無人機の頭上辺りまでガタックを上昇させると、フルスロットルスイッチを、三度押した。

 

『―ONE TWO THREE―』

 

「ライダー……キック!!」

 

『―RIDER KICK―』

 

 正位置に戻した顎を逆位置まで開くと、ライダーキックの電子音と共に、イオンエネルギーがガタックの右足に伝わり満たされる。それを確認した真は再度高度を上げ、足を頭より上にあげた。

 

「いっけええええ!」

 

 そしてそのまま回転し、無人機の頭を目がけて落ちていく。どこからどう見ても、いつものボレーキックとは違う。これも、無人機を確実に仕留めるための措置だ。

 

 いわゆる回転式踵落しで、真は無人機の頭部を叩き割るつもりなのだろう。グルングルンとガタックが回転する速度は、加速の一途をたどり、そして……。

 

ゴシャア!

 

 と、盛大に鉄がひしゃげる音を立てながら、無人機の頭部は潰れた。真は気付いていないが、有言実行と言った所だろう。自分たちの前に立ちはだかる奴は、ぶっ潰すと、真はそう言った。

 

『無人機の反応が、ロストしました。これを持って、完全停止を宣言します』

 

『そうか……』

 

 潰れた頭部から飛び散った無人機の部品は、クロックアップの影響でゆっくりと空中を漂う。そしてそれはやがて、等速へと戻り重力に従う。

 

『―CLOCK OVER―』

 

 それは同時に、クロックアップの終了を意味する。瞬間、真の全身は、悲鳴どころか、絶叫を上げた。筋線維の痛めつけられる感覚が、ハッキリ伝わるような錯覚さえ覚える。

 

 声にはならない叫び、と言うのはこの事だろう。真は叫び散らす事でしか、全身を走る激痛から気を逸らす方法が思いつかなかった。

 

 簪も、一夏も、箒も、目に余る凄惨な光景に、ただ茫然とするしかない。活動を停止した無人機が地に落ちた轟音で、周りの人間はようやく我に返った。

 

 真も気を失ったのか、空中でふらりと倒れ込み、地に向けて真っ逆さまだ。そうはさせまいと、簪が見事に空中でキャッチする。だが簪も取り乱しており、真の運搬はスムーズに進まなかった……。

**********

「あ~あ……まぁた失敗……」

 

 その光景をモニターで確認しながら、面白くなさそうに呟く天災が一人。篠ノ之 束は、まるで中年のおじさんかのように、グデーッとイスに背を預けた。

 

「おっかしいなぁ。絶対に倒せないレベルに設計したハズなんだけどなぁ」

 

 自らを天才と自負する束は、トレードマークであるカチューシャを外し、ガシガシと頭を掻く。何がいけなかったのか考えるが、それこそ完璧にしたはずなのだから、妙案が浮かぶはずも無い。

 

「戦いの中で成長?……非科学的、ナンセンス。まぁ……誰得ツンデレの存在が非科学っちゃあ非科学だけども……」

 

 空間投影ディスプレイに映し出されてるのは、ゴーレムⅢの稼働データだ。自分が作り上げたそれに、微塵も障害となる部分は見られない。

 

 なのになぜ、負けたのだ。全く理解の及ばないこの状況に、だんだんと束は苛立ちを募らせる。その時、しばらく鳴る事は無かったゴットファーザーのテーマが流れる。

 

「はいはいはいはい!何かな、何かなちーちゃん!寂しくなった?束さんの声が聞きたくなった?」

 

『お前の仕業か?』

 

 それまでの不機嫌が嘘のように、束は千冬からかかった電話を取った。しかし全く変わる事の無い千冬の様子に、不機嫌……とまでは行かないが、束はつまら無さそうに口を尖らせる。

 

「いやぁ~だけど失敗失敗!絶対防御をジャミングして、その他大勢を庇わせるまでは良かったんだけどね!」

 

『もはや否定すらせんか……』

 

「ちーちゃんには、臨海学校の時に話したし、隠し立てする必要ないもん。それにしても、なんで殺されてくれないんだろうね、誰得ツンデレ。ちーちゃん、なんでかな?」

 

 束は無垢な子供が大人に質問するような態度で、千冬に問いかけた。その無邪気な物言いに、思わず千冬ですら戦慄する。そして、懇願するように呟いた。

 

『なぁ束……もう、止めにしないか……?』

 

「う~ん……止めにしないかって言うか~もう手遅れだよね!束さんはこれがラストチャンスのつもりだったし」

 

『ラストチャンス……だと?』

 

「誰かさんのせいに見せかける……って意味ではね~。あと残ってるのは正攻法かな?毒殺とか」

 

『貴様……いい加減にしろ!この件には、箒も巻き込まれているんだぞ!?』

 

「コラテラルダメージだよ」

 

 スッパリと、束はそうい言う切って見せた。コラテラルダメージ……直訳すると『副次的な被害』と言うような意味だが……『やむおえない犠牲』とも翻訳できる。

 

 千冬は束がそう言ったニュアンスで用いたのを理解しているのか、言葉を失った。『あの』篠ノ之 束が自身の妹を、やむおえない犠牲だと言い切ったのだから。

 

「前にも言ったよね?アレを殺さないと、もっと大変なことになるって」

 

『…………だが……』

 

「まぁ……毒殺は冗談だよ。って言うか、本当に手遅れだろうし」

 

『ならば、どうするんだ?』

 

「後は野となれ山となれ……そんな感じ?とにかく、次に亡国が攻めてきたら、潮時だって思った方が良いよ」

 

ピッ!

 

 束は千冬の返事も待たずに、台詞を言い切った瞬間に、通話を切った。やはりと言うか、必要なくなった携帯を投げ捨て、回転イスに腰掛けた。

 

「あ~あ……厄介なものを遺してくれちゃったよねぇ……津波 光葉……」

 

 その呟きは、どこか自嘲じみた様子を孕んでいた。天井を眺め、回転イスでグルグルと回る天災は、いったい何を見て、何を思うのか。

 

 

 

 




何だかウチの主人公、良く気絶する気が……。

クロックアップを二度使ったから、多少はね?今まで何とか一度で済んでいましたが、今回は二度で。

初めて使った時は、耐性の無さ故に、気絶を起こしました。だけど二度目は、何が何でも気絶していただきましょう。

それでなくても破壊された筋線維が、更に破壊されるのだから……気絶で済むならオールオーケー。私なら、ショック死してる自信があります。

次回は、いつも通りに後日談ですかな?気絶から目覚めた真からスタート……かな?

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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