戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

タイトルでお察しの通り、今回で打鉄弐式が完成です。なかなか引っ張り過ぎた気がしなくも無いですね……。流石にここらあたりで完成させないと……。

でもなんだろ?打鉄弐式は、見れば見るほど打鉄の面影が無い気がする。まぁ別に量産機でなく専用機じゃないから良いんですけど……。

っていうかデザインだけで言わせるなら、打鉄は好きだったりします。まぁ単に私が和風のデザインが好きってだけの話ですけど。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


VS更識 簪(模擬戦)ですが何か?

『さぁて……ついに、来たね』

 

『いやぁ、なかなか感慨深いものがありますなぁ』

 

『簪ちゃ~ん!機体の動作はどうかな?』

 

『スラスター出力……問題なし……。その他、飛行系統の……』

 

『ありゃりゃ、聞いて無さそう』

 

 九月と言えば、残暑とも言う。まだ気温も高めなラインをキープしつつあるが、日が落ちるのは幾分か早くなりつつあるようだ。

 

 放課後のアリーナは、茜色に染まる空……そんな中、俺達は打鉄弐式の飛行テストのため集まっている。管制室には本音を始めたとした四人。俺と簪は、それぞれ別のカタパルトに待機していた。

 

 一応だが、向こうの様子はモニターを通じて確認が取れる。簪は、ハイパーセンサーか何かで機体の状況をチェックしているようだ。あまりの集中ぶりに、管制室の声が届いていない。

 

『かがみ~ん。そっちはど~お?』

 

「何、いつでもフォローできるようにしてある。念のため、コイツも連れて来たからな」

 

『お~、てんだ~君だね~。臨海学校以来かな~』

 

 なんだその美味そうな略し方は……ちなみに、テンダーと言うのは、主に肉などが柔らかい場合に使われる表現である。…………どういでもいいか、つか皆知ってるよな、これくらい。

 

 俺がこの場に居るのは、もしもの事態が起きた時の救済措置だ。俺達は全力を尽くしたとはいえ、最悪の事態を想定したことに越したことはない。

 

 そうした場合に、ガタックのみでは心もとないと思い……俺はこうしてガタックエクステンダーの上に乗っているという訳だ。こいつが基本どこに居るのかって?ハッチ付のカタパルトを間借りして、いつでも出撃できるようにしてある。

 

 そうでもしないと、流石にガタックのパススロットには収まりきらんからな……。バイクモードにでも変形できれば、もう少し場所を取らないのかもしれないけど。

 

「んじゃ、俺は出るぜ」

 

『おっけ~い。いってらっしゃ~い』

 

 非常に緩い見送りに、苦笑いを浮かべつつ、エクステンダーをホバリングの状態からトップスピードにシフトチェンジし、カタパルトを勢いよく飛び出た。

 

 俺が最初に出ない事には、簪をフォローするもクソも無いからな。簪が出てくるまでの間は、俺もエクステンダーの動作テストに充てよう。

 

 アリーナを縦横無尽に飛び回るが……やはり速度があると楽しい物だ。今度から個人的に曲芸飛行でも練習してみるか?エクステンダーは装着で無く、乗っているから、かなりアクロバティックな事が出来そうだ。

 

 よしっ、エクステンダーの方は問題なさそうだ。それでももしフォローが間に合わないようなら、クロックアップを使うしか無かろう。というか、あれさえあればエクステンダーも必要なかったかもしれない。

 

『そんな事を考えていると、エクステンダーに突進されますよ』

 

『マジで!?つか、頭の中を覗くのは止めてくれって言ったろう……』

 

 いきなり青子に話しかけられ、とんでもなく恐ろしい事を言われた。エクステンダーはコアを使っていないはずだから、そんな機嫌を損ねて突進をされるのだろうか……?

 

『ガタックと接続されているからか、分かります。久しぶりの出番で、かなりご機嫌斜めの模様です』

 

『そうなのか……?う~ん、高空域の戦闘自体がほぼ無いからな……』

 

 かといって、他の大会でエクステンダーを用いるのは違反行為なんだろうし……けっこう扱い辛いパッケージではあるんだよ。いっそのこと、乗るのでなく合体ならば良かったのかもしれない。

 

『それはまた……随分とロマンのある話ですね。ですが、いつまでも少年心を忘れないマスターも素敵です』

 

『だから、思考を読むなって』

 

『? 何か問題がありましたか?私達夫婦の間に、隠し事は必要ないと思います』

 

 あ、ダメだコレ……何言ってもダメな奴だ。青子こと、ガタックは……本気で自身を俺の嫁だと思っているらしい。何と言うか、進化し過ぎも考え物なところもあると思い知らされる。

 

『あぁ……分かったから。お前は俺のモノ……これでいいか?』

 

『良いも悪いもありません。始めからそうなのです』

 

 なかなか頑固なものだ……変にへそ曲げられて、ガタックを展開すらさせて貰えないと困るし、適当に話を合わせておく。現実世界に居れば、文句なしとだけ言っておこう。

 

『加賀美君、簪ちゃん出るってさ!』

 

「了解!」

 

『そもそも、更識 簪のために私が出るのは納得していないですよ。何度も言いますが、私という者がありながらあなたは……』

 

 くどくどと青子が何やらを呟いてはいるが、完全に無視して簪が出てくるカタパルトの方へ寄った。固唾を飲んで打鉄弐式を待つ……そして、その時は訪れた。

 

『出てきた~!』

 

『ああ~……簪ちゃん、もっと慎重に……』

 

『飛べてる!?飛べてるよね、あれ!?』

 

 簪の事を心配するあまりか、管制室はちょっとしたパニック状態にあるらしい。騒ぐより、手元のモニターで打鉄弐式の状態を確認した方が早いと思う……。

 

「簪、調子はどうだ?」

 

「うん……今の所は、問題なし……」

 

 声をかけてみるが、心配は無さそうなほどにスムーズな動きで簪はこちらに向かってきた。相変わらず管制室はギャーギャーうるさいが……おっ、本音が鎮めてら……。

 

「じゃ、好きに動き回ってみなよ。俺が後ろから付いて回る」

 

「分かった……。思い切り、行くからね……」

 

 そう言うと、間髪入れずにスピードを上げて飛び去る簪。打鉄弐式は、打鉄と言いつつ高軌道なんだっけか。確かデータ上では、ブルー・ティアーズくらい速度は出るって言ってたな。

 

 まぁ、高軌道パッケージに換装していないブルー・ティアーズの速度なら、普通に追いつけるはずだ。もちろんエクステンダー抜きだと無理だが。ガタックは全専用機中でも最も鈍足だ。

 

 そんな訳で、余裕はありつつも簪を追いかける。スラスターを限界まで稼働させているのか、やはり打鉄弐式はすさまじい速度だ。

 

 高高度まで上昇し、急降下など……かなり無茶な制動をしているようにも見える。だがそれは、同時にPICやその他デバイス系統の調子も見ての事だろう。

 

 鷹月も言っていたが、感慨深い……本当に。こうして簪と共に飛ぶことを、俺がどれだけ望んだ事か。なんて、今までの事を思い出しながら飛んでいると、簪は速度を落とし、そのうちに止まった。

 

「各部異常なし……。これだけ動いて大丈夫なら……問題ないと思う……」

 

「っつー事はつまり……」

 

「うん……皆のおかげで……完成したよ……」

 

『『『『やった~!!!!』』』』

 

 音声通信の機器が、ハウリングを起こすほどの大声が響いた。管制室に居る四人は、まさに体中で喜びを表現している。耳がどうにかなってしまいそうだ……とりあえず音量を落しとこ……。

 

「…………」

 

「…………簪?」

 

「ありがとう……。皆……本当にありがとう……」

 

「簪……ちびっとでも嬉しいんだったらさ、笑ってやりな。あいつらも、きっとその方が喜ぶさ」

 

 俺が指差した方向は、観客席だ。四人はいても立っても居られなくなったらしく、観客席から大きく簪に手を振っている。そんな四人に、簪は泣き笑いで返した。

 

「ただ……礼を言うにはまだ早ぇ。簪、約束を覚えてるか?」

 

「……弐式が完成した暁には……」

 

「そう……。簪……俺と、勝負だ」

 

「望むところ……」

 

 今日は飛行テストと言ったが……どのみち、いずれは実戦形式の動作テストもしなくてはならない。これでもし問題が出たのなら、また解決する……トライ&エラーという奴だ。

 

 簪も乗り気なようなので、俺はエクステンダーとガタックを切り離すと、もともと格納してあった場所まで戻るように指示した。

 

 エクステンダーが帰ったのを確認したところで、俺と簪は試合を始める際の定位置まで付く。そこでようやく事態を察したのか、耳元に相川達の声が響いた。

 

『ちょっとストーップ!』

 

『何いきなり試合始めようとしてる訳?』

 

「ぬぅ……携帯型通信機をもってたんかい……油断した。心配すんな、何か問題が起きたらすぐ止める」

 

『そう言う問題じゃないの!分かるでしょ!?』

 

 まぁ……そりゃ普通に止めにかかるよな。やると言い出したのは俺だが、自分でも馬鹿なこと言ってるとは思う。だけどよぉ……理屈じゃないんだよ、こういうのは。

 

 恐らく簪も、言葉で伝わる物でないと分かっているはずだ。特撮好き特有のシンパシー?なんか、今の簪に対しては、そんな感じのものが発生しているように思える。

 

「止めないで……」

 

『簪ちゃん!?』

 

「本音、試合開始の合図を頼む」

 

『あいあいさ~』

 

『ちょっ……のほほんさんまで……正気じゃないわ……』

 

 俺達に何を言っても無駄と分かっているのか、はたまた俺達の戦いを望んでいるのか、本音は驚くほどすんなり管制室に戻って行った。

 

 ノロノロと移動を始める本音の後ろ姿を見て、三人は何か諦めがついたのか、大人しくアリーナの席に着いた。後でしっかりと謝っておくことにしよう。

 

『はいは~い!二人とも~、準備はいいかな~?』

 

「ああ」

 

「……いつでも」

 

『それじゃ~……いくよ~!』

 

 あぁ……良いなぁ……最近になって、血が騒ぐと言う感覚を理解した。各専用機持ち、アイツらと模擬戦をする前もそうだった。この……程よい緊張感が、ピリピリと肌を劈くこの感じ!この感じが堪らない!

 

『試合開始~!』

 

 本音の合図とともに、試合開始のブザーがアリーナに響き渡った。さぁ……始めようか、簪!出し惜しみする気は、はなっから持ち合わせてはいない!

 

 俺は両肩の武装を、片方ガトリングに変更した。そのまま簪を追いかけるように、とにかく乱射を続ける。高軌道型だけあって、すさまじいスピードだ。そのままでは当たらんだろうな……だけれど。

 

 簪はかいくぐるのでなく、一定の方向へ動く事で直撃を免れている。そこでだ、片方残っているガタックバルカンを、チャージショットで放った。

 

ドォン!

 

「くっ……!」

 

 いわゆる偏差射撃という奴だ。ロックオン自体を簪にすることでなく、その移動先に照準を定め、放つ。そうする事によって、撃たれた方は自ら辺りに来てしまうと言う事だ。

 

 射撃のコツに関しては、デュノアとオルコットから学習済みだ。付け焼刃だが、簪になんとか命中させることに成功した。体勢を崩したのなら、ここからさらに崩していくのが俺流だ!残っていたバルカンをガトリングに変え、簪に突貫する。

 

「反撃……」

 

『来ますね、荷電粒子砲の狙撃でしょう』

 

『オーケー、避ける』

 

 打鉄弐式に搭載されている兵装の一つ『春雷』だ。その雷の名は伊達でなく、連射の効く荷電粒子砲となっている。言うは易し、行うは難しと言うが……大丈夫、自分を信じろ。

 

 と言うか、自分に言い聞かせろ……見えていれば、避けれるのだと!こちらに向かって来る弾丸を、のらりくらりとかいくぐる。……が、簪の射撃制度が良いのか、絶妙に避け切れてはいない。

 

 掠らす程度で済ませれたのなら、及第点だ。簪との距離が詰まった所で、火力を一気に集中砲火。ガトリングはヴヴヴヴと発射感覚の短さを表す音を発しながら、簪を襲う。

 

「同じ手は通じないよ……」

 

『ここまで近づければ、シザーアンカーで捕まえてしまいましょう』

 

『今日は良く喋るな……賛成だけどさ!』

 

 左腕にシザーアンカーを展開し、すぐさま射出。ガトリングに集中していた簪だが、アンカーの存在には気付いたらしい。だが一足遅く……ダジャレという訳ではないが、打鉄弐式の脚部を挟んだ。

 

「へっ、そう簡単には離さないぜ!」

 

「は、離さな……」

 

『……チッ!分かっていますね?ミサイルです』

 

 簪……『離さないぜ!』で頬を赤く染められても困るんだが……。ん……まぁ、ここは青子の指示通りに行くとしよう。肩部の武装をミサイルへと変更!そのままカーソルが四つ重なったのを確認して……発射!

 

「み……身動きが……」

 

 えげつない事に、シザーアンカーのワイヤーを思い切り後方に引っ張っているため、簪は上手く制動を制御できないらしい。その間にもミサイルは迫ってるぜ……どうする?簪!

 

「……突撃の心得。とにかく臆さず、挑むべし……!」

 

 む、今のセリフはチャージマンの中に出てきたものだ。そのセリフを呟きつつ、簪は打鉄弐式の近接武装『夢現』を展開した。おいおい……まさかそのまま突っ込んで来ようなんざ思っちゃ……。

 

「……突撃の心得。一度決めたら……一直線……!」

 

 ほう、思ってたか!当然、春雷を駆使しつつだが……。簪は、見事にミサイルを四発撃墜しつつ、こちらに向かって来ているではないか!ハハハハ!こりゃあいい……最高だぜ、最ッ高!

 

『笑っている場合ではありません!キャストオフを!』

 

『分かってる分かってる。楽しいもんで、ついな』

 

「キャストオフ!」

 

『―CASTOFF CHANGE STAGBEETLE―』

 

 シザーアンカーは残しつつ、各部アーマーが一斉に弾け飛んだ。打鉄弐式が突っ込んでくる間には合ったな。俺はダブルカリバーを両手に取り、簪を迎え撃った。

 

 振りかぶった薙刀を、交差させたダブルカリバーで受けた。受けたはいいが……ココからどうした物か、ダブルカリバーは、槍や矛などの武装を相手にするのは苦手とする。

 

 理由は単純に、リーチの長さだ。現にガタックダブルカリバーの長さは、夢現の半分にも満たない。この差が埋まらない事には恐らく、簪は……。

 

『春雷、来ます!分かっているなら回避を!』

 

『ああ!』

 

 ジャコン!と重厚な音を立てつつこちらを向く砲門……俺は、冷静に夢現を下方に弾き、回避行動をとる。春雷の弾丸は、俺の脇腹を通り過ぎて行った。

 

「そこ……!」

 

「ずぅっ……!」

 

 回避を始めた俺を逃さんと、夢現の先端が、ガタックの腹部へと抉り込む。クソッ、今の俺に、あの二段攻撃を避ける技量は無いか……ただ。ここから何とかせねば、簪はまだ夢現を押し込んだままだ。

 

 ここは一つ、俺もチャージマンを見習ってみる事にしようか。確かこういう時に行っていたセリフがあったはずだ……。閃いた、こういうシチュエーションには……あれしかない!

 

「突撃の心得!いつだって玉砕覚悟でよろしくどうぞ!」

 

「え……?キャッ……!」

 

ドゴォォォォン!

 

 俺は簪と接近したままの状態で、ノーロックでミサイル四門から一発ずつ発射した。即座に展開し、急に飛び出たミサイルに、簪は対処しきれず全弾命中したようだ。近くにいた俺も、巻き添えを喰らう形となるがな。

 

 いち早く爆煙から飛び出たのは、俺の方だ。いや、むしろ簪は、この煙を利用してやろうと言う魂胆なのだろうが……そうはさせん。なぜなら、今もシザーアンカーの顎は、打鉄弐式の脚部に噛みついたままなのだ。

 

『ワイヤーの巻き上げを、フルパワーで頼む』

 

『了解しました』

 

 次の瞬間、ワイヤーは大きな音を立てながら縮まっていく。弛んでいたワイヤーは、やがて空中でピン!と一直線に張られる。ここで俺は左腕に力を籠め、思い切り後方に引っ張った。

 

「キャッ……!」

 

 まるで……と言うよりは、まんま釣りだな。とにかくして、力づくで簪を煙から引っ張り出す事に成功した。向こうはどうやら、出てしまったものは仕方が無いと、夢現で近接を仕掛ける気らしい。

 

 だが、思惑が外れたという事から生じる心の隙。その心の隙から生まれる、攻撃の躊躇い。俺の目には、先ほどの攻撃とは打って変わって、稚拙な物に見えていた。

 

 攻撃方法は……斜めの振りかぶりか。俺はヒョイっと言った感じに夢現を回避し、簪の懐に潜り込んだ。とは言っても……集中して一回これをやるのは、かなり疲れるんだけどな……。

 

「いくぜ!」

 

 今の簪の背は、隙だらけだ。俺はやたらめったらに切りつけるのではなく、より効果的に、効率的に、いつ反撃が来ても大丈夫なようダブルカリバーを振るう。

 

「ぐ……っ……くっ!やぁ!」

 

ガギィ!

 

 俺がマイナスカリバーの切り払いを、浴びせた直後だった。簪はほんの少しスラスターを吹かし前に出ると、そのままでんぐり返しをするようにして、夢現を下から切り上げてきた。

 

 いつでも対処できるようにしていたおかげか、とっさにダブルカリバーをジョイントさせ、鋏の状態にして受ける事に成功した。簪は、珍しく分かり安いほどに驚いている様子だ。

 

 このまま押し込んで腕ごと挟む……のは、流石に無理だったか……離脱されてしまう。だが、シザーアンカーは未だに打鉄弐式の脚部にある。ワイヤーを巻いたために、簪は距離も取れない……まだここから……!

 

「…………」

 

 簪が歯がゆそうな表情で、お次に見せたのは……空間投影のキーボード?……あぁ、なんかスフィアキーボードとか言ってたっけ、なんでもアレで山嵐をコントロール……山嵐?

 

『マスター、ロックオン警報が……あぁ~……っと、とにかく沢山です!』

 

『やばい……忘れてたわけじゃないけど、忘れてた!』

 

『意味が解りませんよ?』

 

 青子の警告通りに、すさまじい数のロックオン警報が鳴り響く。こ、これが怒涛の同時ロックオン数フォーティーエイト……略してDDL48……。

 

『青子、正確な数の算出を!』

 

『……たった今、四十八になりました』

 

 そうかい、それなら良い事だ。これより先に、増える事は無いのだから。今までの俺ならば、ここで大人しく退いていたはず、だがここは……臆さず攻める!

 

 とりあえずシザーアンカーは外しておこう……緊急脱出の時に邪魔になっても困る。ガギン!と大きめの音を立てながら、ようやくシザーアンカーの顎は打鉄弐式の脚から外れた。

 

「おおおお!」

 

 ワイヤーを巻き取りつつ、そのまま簪に向けて突っ込む。それでも、簪はスフィアキーボードの入力は止めない。間に合うか……?間に合わなければ、まずい展開になるぞ……。

 

「完了……。行って……!」

 

 くっ……簪の方が早かったか……。いや……ここまで来て、何も攻撃の手を緩める事も無い。ここは冷静に、一つ一つミサイルを撃ち落と……撃ち落とす……。

 

ドシュゥゥゥウ!

 

「いや、無理だろこれ!?プットオン!」

 

『―PUTON―』

 

 迫ってくるミサイルの群れを見て、瞬時に悟った。これをすべて完璧に避けきるのは……無理だ!そのため、多少の機動力は落ちても、防御力を優先するためにマスクドフォームに戻る。

 

『どうやら、小出しにするようですね。今発射されているのは、四十八発ではありません』

 

『これでもか……。推奨武装のナビゲート、頼む』

 

『手数と火力の両立……ガトリング、キャノンでいきましょう』

 

 なるほど、細かなエネルギー弾のガトリングと、巨大なエネルギー弾のキャノンか……。俺は指示通りに、両肩の武装を変更した。だが……キャノンの方は打てて六発、大事に使わなければ。

 

『さぁ、来ますよ!更識 簪の動きにも注意してください』

 

『注意しろって言ったって……』

 

ドォォォォン!

 

「そこだよ……」

 

「っ!ぐあ!」

 

 ガトリングとキャノンを駆使して、何とか山嵐のミサイルを落せてはいる。しかし、そちらに集中すると、簪はその隙を逃さない。事実今も、隙を突かれて春雷の直撃を受けてしまった。

 

『足を止めては……!』

 

「づっ!ぐっ!ぐぉぉぉぉ……!」

 

 春雷の直撃を受けたことにより、撃ち漏らしたミサイルは見事に俺に直撃していく。くそっ!エネルギー兵器なら避けれない事も無いが……自動追尾してくるミサイルになると……!

 

「まだまだ……」

 

「御代わりかよ……もうお腹いっぱいだっての!」

 

 まだミサイルが全て無くなる前に、簪は追加のミサイルを放った。ち……ちくしょう!ここまでどうしようもないのは久しぶりだ!山嵐……『嵐』の名は、それにふさわしいと言う事か。

 

 どちらか一方に気を取られると、押し込まれてしまう。それが、簪の直接攻撃か、ミサイルかの差だ。その上、簪は俺に仕掛けるタイミングが絶妙で、やりにくいったらない。

 

『残存エネルギー、危険域に入りました』

 

『もうか!?さっきまであんなに余裕があったってのに……』

 

「これで……!」

 

 簪のセリフの先は『トドメ』か?『終わり』か?どっちにしたってロクな事じゃねぇ!全てのミサイルはさっきからカウントをしてある。今簪が打ち出した分で四十八発!山嵐もこれで打ち止めなら、必ずここはしのぎ切る!

 

「おらぁ!」

 

ドォォォォン!!

 

 とりあえずミサイルの群れに、キャノンの残りエネルギーを全て圧縮した一発をお見舞いする。これで直撃、誘爆も含めて、残りはわずか!その前に振り返って簪に牽制を……。

 

「遅いよ……!」

 

「ふごぅ!?」

 

 振り返ると同時に、ガタックの腹部に夢現が突き刺さる。しゅ、瞬時加速!?かなり削ったと思ったのに、まだそんな事をする余裕があったか……。

 

 てか……簪が夢現を突き刺したままスラスター全開って事は……もしかして……もしかしなくても!?ぎゃああああ!!後ろから……残ったミサイルが迫って来てるうううう!!残りわずかって言っても、十数発くらいある!

 

「ちょっ……ちょっとタイム!」

 

「……いつだって……玉砕覚悟でよろしくどうぞ……」

 

 このタイミングでやり返してきただと!?止めろと言って、止めるとは思っていませんけれども!……なーんて考えてる間に、俺とミサイルとの距離は……ゼロ……。

 

「うわああああああああああああ!?」

 

ドゴォォォォオオオオ!!

 

『試合しゅ~りょ~!』

 

 豪快な爆発音……無慈悲なブザー……これをもって、俺VS簪の試合は幕を閉じた……。……うん、挑んだのは他でも無い……俺だ。とりあえずこの経験を、また次のバネにすることにしよう……ただ……。

**********

「トッ、トラッ……トラウマになりそうだ……」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝らなくても良いんじゃない?自業自得でしょ」

 

 整備組が集まった食堂のテーブルで、俺は小刻みに震えていた。最後の迫ってくるミサイルが、怖すぎたんだ……。いやぁ……恐ろしや恐ろしや……。

 

 簪はしょんぼりしているが、本音を覗いた三名は自業自得との言葉にうんうんと頷く。どうやら、打鉄弐式にいきなり無理をさせたことにご立腹なようだ。

 

「はぁ~……まぁ、打鉄弐式がちゃんと動けるぞって所を見れたのも事実かな……」

 

「明日からは……微調整の繰り返し……?」

 

「そうだね、簪ちゃんの言う通り。本番まで時間ないし、出来る限りの事はしないと」

 

 そう言って、整備組はわいわいと議論を始める。あぁ……このパターンは、俺が置いてきぼりをくらう奴だ。いかんせん、整備の事を勉強する時間がねぇんだよなぁ……そもそも、俺は整備科じゃないし。

 

「かがみ~ん」

 

「ん~……?どした?」

 

 さっきから本音が黙っているのは、食べる事に集中しているからだと思ったが、どうやら違うらしい。これからの日程を話し合っている四人を尻目に、声をかけてきた。

 

「負けちゃったね~」

 

「な、何でそれをわざわざ言うんだよ……。ああ、まぁ……負けは負けだな、リベンジすっけど」

 

「でもでも~、かがみんも強くなってるよね~」

 

「そこは……否定はしないが」

 

 今になってみると、山嵐を撃たれた時点で、昔の俺ならそれで詰みだったろう。対処法は拙いにしても……何とかやれた方か。もちろん、こんな事で満足するつもりはない。いずれはノーダメージでかいくぐって見せよう。

 

「クロックアップを使わなかったのは~?」

 

「ん?あぁ……。アレは、大事な時だけに使う事にしようかと思ってな」

 

 どうにも俺は、クロックアップありきな部分があった。それ故に、同じくクロックアップを使用したカブトに、何も出来なかったのだろう。だからこそ、候補生とか相手に、クロックアップを使って勝つのは……なにか、違う気がしてきた。

 

 もちろん、それはあくまで模擬戦など非公式な場での話だ。勝負ごとに手加減などもっての外……今回のトーナメントや大事な試合では、使う予定でいる。

 

「いざって時にはとっとかないとな……生徒会役員としては……」

 

「そっか~。…………そっか~」

 

「……本音。調子でも悪いか?」

 

「え~?そんな事無いよ~」

 

 ……気のせいか?ほんの少しだけ、本音の表情が陰ったようにも見えたが。いつも元気な本音とは言え、完璧に『いつも』元気とはいかない。何かあるのなら……相談してほしいんだけどな。

 

 かといって、相手は女子だ……『何か悩みでもあるのか?』なんて聞いて、困らせてしまうのは心苦しい。本音が、どこか誤魔化しているから、なおの事だ。

 

 俺が様子を探ったと分かったその時には、本音も整備トークに混ざってしまった。……杞憂なら、良いんだけどな……。そう思うと、なかなか箸の進まない食事となる。

 

 その後も注意深く本音を観察してみるも、コレと言った変化は見られない。やはり気のせいだったのであろうか?……何かあって、本音が話してくれたその時は、全力で解決できるように臨もう。

 

 今はただ……こうして本音を見守る事しかできない俺は、なんとも……ちっぽけな事か。机の下に隠した左手が、ギリリ……と強く握られた。

 

 

 

 




決着の瞬間に、真の叫び声を見てウンメイノーと聞こえた人は末期。

いやぁ……好きですよ?ガタックは好きですけどもね……やっぱり一回は言わせた見たかったって所は有ります(開き直り)

以前もどこかで言いましたが、私はガチ、ネタ、両方あってこそのガタックを愛していますので。ただ戦いの神(笑)って言うのは勘弁な!思いっきりタイトルに(笑)が付いてるけども!

ガチとネタが合わさり最強に見えると言う点では、剣も好き。どこがガチで、どこの辺がネタかは……言わなくても分かるな?

それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。

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