活動報告を読んで頂いた方は、ご存知と思われますが、六巻と七巻の内容を入れ替えます。故に、今回から全学年専用機持ちタッグトーナメント篇が開始です。
一夏の誕生日とかは、そのままですね。アニメ版だとコスプレ大会みたいになってましたけど、ウチは原作基準かな……真にコスプレさしてもしょうがないですし。
相変わらず冒頭なので、大した動きのある話でもありませんが、いつもの事だとでも思って下さい。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
「戦友よ、いつぞやの雪辱を晴らす時が来たぞ!」
「は?あぁ、はいはい……前回のタッグマッチの事か」
先ほどのホームルームで『全学年専用機持ちタッグマッチ』について説明があった。それが終わると、すぐにボーデヴィッヒは俺の元に来たらしい。
いつぞやの雪辱……と言うのは、学年別トーナメントで事実的な一回戦敗退をした事に関してか。うん……確かに、俺ももう一度ボーデヴィッヒと組んでみたいとは思うのだが……。
「悪い。組みたい奴がいる」
「と言うと……四組の更識か?聞いた話によると、籍をZECTに移したらしいな」
簪がZECTに移籍?した事は、ニュースになるほどでもないが、学園中には知れ渡っているようだ。この間の休みに岬さんの所を尋ね、簪は正式にZECT所属を名乗れるようになった。
「ふむ……同じ所属の者同士が組むのは自然か。今回は控える事にしよう」
「本当……悪いな。じゃあ、一夏を誘うのか?」
「よ、嫁か?嫁は……う、うむむ……」
あれ……おかしいな、この反応は照れているとかでは無く、単に一夏と組む気が無いようにも見える。いつもの五人ならば、すぐさま一夏と組もうとするだろうに。
俺が不思議そうにしているのを察したのか、ボーデヴィッヒは取り繕うようにハハハと笑う。……不自然だよなぁ?いつものボーデヴィッヒじゃないと言うか。
「私は、シャルロットを誘ってみる。一学年二強のタッグだ、一筋縄ではいかんぞ!」
そう言いながらボーデヴィッヒは、俺の元を去って行った。いったいなんだったのか……さっぱりだ。……それにしても、デュノアとボーデヴィッヒのタッグだと……?考えたくもないのだが。
ま、壁は分厚いほど燃えると言うもんだ……俺と簪の力でぶち破って見せようじゃねぇの。ってなわけで、俺も簪を誘いに行きますかねぇ~……。
「「あっ……」」
廊下に出てすぐの事だ、俺は四組に向かう方向、簪は一組に向かう方向で『バッタリ』といった感じで鉢合わせた。どうやら、簪も同じことを考えていたらしい。
俺と簪が組むのは、ボーデヴィッヒが言った通りに自然な流れではある。だがそれを差し引いても、何だか気恥ずかしくて……俺はニシシと歯を見せると、簪は俺に向かって微笑んだ。
「いっちょ、やってやりますか?」
「うん……私と真で……!」
こうなってしまっては、もはや『俺と組まないか?』なんて言葉にするのは無粋だ。そう思って遠まわしな言い方をするが、どうやら簪は俺が何を言いたいのか察してくれたらしい。
「なんにせよ、打鉄弐式を完成させちまわないとな~」
「そうだね……。でもなんとか、トーナメントには間に合いそう……」
簪の言う通りに、打鉄弐式はほぼ完成していると言って良い。トーナメントまでの時間は、簪が実際に動かしてみたりと、最終調整に費やす事になりそうだ。
俺は大したことをしてはいないとはいえ……まさか学生の力だけで、専用機の組み立てに立ち会えるとは思ってもみなかった。俺がそう呟くと、簪も同じく頷いた。
「ラボラトリの人達も……驚いてたね」
「……まぁ、うん」
「? どうかしたの……?」
「い、いや……なんか、悪かったな……この間は」
「ううん……。変わった人達だったけど……悪い人達では無かったから……」
この間……ラボラトリに簪を連れて行った時の事だ……。ラボラトリの面々は、その日も平常運転……どころか、俺が亡国機業を退けた事を知っていたらしく、いつもの三割増しでテンションが高かった。
そしていつも通りに、俺に賽銭を渡すわ、拝むわ……てんやわんやだった。断っておくが、簪の前でだぞ?そんなん……引くに決まってるだろ。雰囲気から俺がやらしてる訳じゃない事は分かってくれたらしいが……不憫な目で見られることが耐えられなかった。
「特に岬さん……?あの人は、凄かった……」
「おう、あの人は別格だぞ。いつも世話になってる」
岬さんに簪を紹介した所、どうやら専用機を組んでいる事に興味を持ったらしく、打鉄弐式のデータを見せてほしいと頼まれたのだ。
それで実際に見せてみた所……パッと見ただけで、俺達のこなしてきた工程や、その際に発生している問題点をスラスラと述べた。
アレは流石に面喰ったと言うか、俺もどこか岬さんを見くびっていたのかもしれない。どうにも主任としての威厳が無くなりつつあったせいだろうな……。
「とりあえず弐式は俺らで完成させるとして……アフターケアはラボラトリに頼った方がよさそうだな」
「そう……だね。……でも、やっぱり」
「おいおい、遠慮する必要は何処にも無いだろ。俺と簪は一緒の所属なんだから、頼って然るべきだって」
「い、一緒の……。うん……一緒……一緒……。えへへ…………」
……なんだろうか、ZECTに頼る事を後ろめたく思っているようなのでフォローを入れたのに……。俺が『一緒』だと言うと、もうそんなんどうでも良いと言わんばかりに、照れ笑いを浮かべている。
それどころか『一緒』と言う言葉を脳内で何度も咀嚼していると言うか……そんな感じ。随分と都合のいい解釈をされてしまっているような……。
キーンコーンカーンコーン……
「うげっ……時間か……。簪、教室に戻らないと怒られるぞ?」
「え……?あっ、うん……。そ、それじゃ……また……」
「ああ、またな」
そう言いながら簪を見送ると、スキップ&鼻歌交じりに帰って行った。……貴重な場面を見ているのと同時に、なんだか見てはいけない物を見ているような気もする。
まぁ……俺も、戻るか……。うん、簪がそれで良いならどうでもいいや……。そんな感じで、何か妙な感覚を味わいつつ教室に戻る俺であった。
**********
「どもっす」
「あら?真君……。今日はこの後、部活じゃなかったかしら?」
「ああ、その前にちょっと、聞いておきたい事があって」
「そう?虚ちゃん、いつものお願い」
「かしこまりました」
放課後、生徒会室に顔を出すと、珍しく楯無先輩がキチンと仕事をしていた。俺にとっては好都合だが、なにやら楯無先輩がまともに仕事をしていると、雨でも降るのではないかと思ってしまう。
俺はすっかり自分専用となった椅子に座ると、虚先輩に入れてもらった茶を飲んでとりあえず一服。向こうは俺が話を切り出すのを待っているようなので、言葉を紡いだ。
「まぁ……聞きたい事ってのは色々あるんだが、まずは日常生活においてな」
「それはまた……何かあったの?」
「ああ……右手の事なんだけど」
俺はそう言いながら、右手に巻いてある包帯を外した。俺の右手の掌と甲には、生々しい刺し傷の痕が残っている。言わずもがな、カブトクナイガンに貫かれた時のだ。
傷は塞がり、痛む事は無い……無いにしても、この傷はもう一生消える事は無いだろう。そこで相談があって来たのだ。俺は掌を見せながら、楯無先輩に尋ねた。
「この傷、隠してた方が良いか?」
「な、何でそれを私に……。先生に聞くべきでしょう」
「好きにしろって言われた」
「あぁ……誰が言ったか、丸わかりですね」
恐らく、この一言を聞けば、誰もが黒髪の悪魔を想像する事だろう。俺も当然、先に教師に相談したさ……聞く相手が悪かったかもしれないが、納得のいく答えでなかったため、生徒の長に聞きに来たという訳だ。
「う~ん……貴方が隠したいのなら、普通にオーケーよ」
「いや、俺は別に気にしてないんだよ。ただ……やっぱこういうの見るのは嫌な奴もいるだろ……特にここは、女子高みたいなもんなんだし」
昔の俺なら全く気にせず、そのままにしておいただろう。だけど、自分で見ていても結構な傷痕だし……流石に全く気にせずってのは……。
「そうねぇ……周りの子の事を考えるなら……隠した方が良いかもしれないわね」
「やっぱりそう思うか?分かった」
楯無先輩も隠す方に賛成なようだ。それがわかると、俺は再び右手に包帯を巻こうとするのだが……虚先輩に取り上げられた。何事かとキョトンとしていると、虚先輩は黙って俺の右手に包帯を巻いて行く。
あ、ありがたいが……なんか恥ずかしいな。頼んだわけでも無いのに、甘えてるような気分になる。申し訳ないと視線を送ると、微笑まれるのでこれまた恥ずかしい。
「きつくないですか?」
「は、はい……大丈夫です」
相変わらず完璧だ事……。掌を閉じたり開いたりしても、まるで何も巻いてないかのような絶妙な加減だ。この人を嫁にもらえる男は大層幸せだろうな。
「さて、続けよう……。あのな、『生徒会』関係の話だけど……ココで話して大丈夫か?」
「聞き耳立てるような悪い子は居ないでしょう。ま、聞かれたら聞かれたで……口封じしちゃえばいいし?」
「冗談に聞こえんわ!……あれ?じょ、冗談だよな……?」
俺がそう言うと、楯無先輩はケラケラ笑いながら冗談であることを肯定するが、対暗部用暗部の頭が言うと説得力が無いのは気のせいか?……気のせいと思う事にしておこう。
「あ~っとな……。この間、俺が戦った奴……オータムだっけ?」
「織斑君が、そう名乗ってたって言ってたわね」
「アイツがさ、俺が駆け付けた時に『わざわざ殺されに来てくれたのか』って言ったんだ」
「なにか、気になる所があるの?」
「俺はてっきり、ソルってのが個人的に俺を殺そうとしてるんだと思っていた。だけどオータムの言い方だと……まるで俺を殺す事が、組織全体の目標に聞こえるんだよ」
これは学園祭が終わったときから、ずっと気になっていた事だ。もっと早くに言っておくべきだったのかもしれないが、向こうも俺に更識とZECTが手を組んだことを言わなかったのでご愛嬌だろう。
「何か心当たりはないか?」
「……貴方が、なんらかの理由で邪魔……なのは確定かしら。もしくは、貴方がすでに用済みとか。もっと言えば、用済みになったから邪魔である……とか?」
「…………」
用済み……?既に俺は、何かしらでアイツらに利用されている……?と、考えるとすれば……一番に思いつくのはカブトだ。俺が動かしたガタックを参考に、カブトを開発したとすれば、なるほど俺は用済みと言う事になる。
だけど、夏休みのあの日……。ソルは……近々にカブトに慣れたような動きでは無かったように思える。むしろ、俺よりも扱いに慣れているかのような、洗礼された動きだった。
そうすると、前述した事柄と矛盾が出来てしまう……。とすれば、単に邪魔……?それも違和感があるよな……。俺自身に、亡国機業を脅かすような要素は無いぞ。
「言っておくけれど、変に思い詰めない事。貴方の命は、他の誰でも無く真君の物なんだから……連中が貴方の命をどうするかとかは、考えちゃダメ」
「……そうだな、ありがとよ」
なんだか湿っぽくなってしまったか……。最近やっていなかったが、頭に叩き込んで置こう。馬鹿になれ、だ……楯無先輩の言う通り、アイツらの事なんか知った事では無い。俺は生きる……それだけだ。
「じゃあ最後に……専用機持ちの様子がおかしいんだ。アンタ、何かしたか?」
「人聞きが悪いわね……。私だって、日柄日中に人をからかって遊んでる訳じゃないわよ」
遊んでること自体は否定しないのかよ。違ったか……てっきり楯無先輩が何か仕掛けたのだと思っていたのに。楯無先輩に、どこがどう変なのか聞かれたので、簡潔に答える。
俺はせっかくのタッグマッチなのに、誰も一夏と組もうとしない事を伝えた。明らかにおかしい……タッグマッチなんて、一夏をパートナーにしようと騒ぎが起きてもおかしくないのに、みな大人しい物だ。
「ふ~ん……。織斑君の近辺で、変わった事とかは無かったの?」
「変わった事……?……一夏が誕生日……いや、関係なさそうだな、忘れてくれ」
「関係あるんじゃないの?誕生日が近い織斑君と組むと、いろいろ考えちゃって集中できないとか」
楯無先輩はそう言いながら『妄想』と書かれた扇子を広げた。……そんなモンなのかねぇ?でも集中できずに無様な姿を晒すくらいなら、他と組んだ方がマシ……なのだろうか?
「ちなみに、アンタは誰と組んだんだ?」
「ん~?箒ちゃん。あの子もあの子で、気になる所があるのよねぇ~」
篠ノ之か……なんか紅椿の絢爛舞踏が発動したりしなかったりと、かなり困惑していたな。紅椿のせいなのか、はたまた篠ノ之に問題があるのか……。
楯無先輩の言っている『気になる事』というのは、その辺りなのかもしれない。あくまで予想するしかないな、聞いてもどうせ教えてくれないのだろうし。
俺としては気になると言えば、姉の方なのだけど……。臨海学校の時に言われた『ISに乗るな』との忠告……あれ以来、俺は継続してISに乗っている。しかし……コレと言って俺にも、俺の周囲にも変化があるようでは無い。
……ひょっとして、篠ノ之 束の忠告と、亡国機業が俺の命を狙う理由は繋がりがあるのかも……。はぁ……篠ノ之 束も意味深な事を言わずに、ハッキリ言ってくれればいい物を。
「まぁ……こんなとこか。悪かったな、時間を取らせて」
「ああ、少し待って。織斑君で思い出したんだけど……」
「どうした?」
「貴方こそ、彼に何かしたでしょう。彼ね、ここ最近は以前の比じゃないほどに努力してるわよ」
確かに俺は、あの日一夏と話した……。が、それで俺が何かをしたかと聞かれれば……ノーだ。なぜならそれは、一夏の意志で動いているから。俺が何を言おうと、後は全て本人の事でしかない。
一夏が努力をするようになったのなら、おかしな話だが、それは一夏のおかげだ。俺が楯無先輩にそう言うと、楽しそうに笑いを零した。隠してはいるが、虚先輩もそれは同じだ。
「ったく……なんなんだ?」
「相変わらず素直じゃないのねぇ。本人は言ってたわよ『真のおかげで目が覚めた』って」
「だからそれは、過程だろ。最終的に、それは一夏の意志であって……」
「フフ……謙遜はよろしいですよ?貴方のおかげで、こうして会長も仕事をするようになりましたし」
虚先輩が横目で、楯無先輩を眺めながらそう言った。見られた方はたまらないらしく、アハハ……と苦笑いを浮かべる。楯無先輩曰く、俺が生徒会の仕事を一生懸命にこなすから、なんとなく申し訳なく思い……との事。
「と、とにかく!真君が周囲にいい影響を与えてるのは確かなんだから、もっと胸を張りなさい!」
「……善処する」
「素直じゃないですね」
くそぅ……虚先輩にまで言われた……。これで恐らく、俺に関わる人間の大半に素直じゃない、ツンデレ等々……全く持って不本意極まりない事を言われたことになる。
いや……織斑先生にはまだ言われてないな、あの人が俺の中で最後の砦となるだろう。なんだそれ、織斑先生が砦とか……最強じゃね?俺の勝手な心情に存在する砦の話だけどな。
「ところで、真君。お時間はまだ平気ですか?」
「あ……そうっすね、遅れて行くとは言っておきましたけど、そろそろヤバそうです。虚先輩、茶……ありがとうございました。今日も美味かったっす」
「はい。ご丁寧にどうも」
「またね、真君。用事が無くても、お姉さんは会いに来てくれると嬉しいゾ☆」
「ぬかせ、女狐。……またな」
そう言いながら、俺にバッチリとウィンクを見せる楯無先輩。俺はそれを冗談と心得ているので、あえてかつて呼んでいたあだ名で返す。
そんな俺を見て、楯無先輩はクスリと笑い手を振った。やはり冗談か……まぁだからと言って、ここに用事が無かったら来ないって事でもないのだけれども。
俺はニヤリと笑って見せながら振り向くと、生徒会室を後にした。さて……言った通り今日は部活に駆り出されるのだが……どこの予定だったかな?
……そうそう、確か料理部だったはずだ。どこで聞きつけたのかは知らんが、俺の料理の腕が見たい……とか言ってたな。それは一夏も同じだろうに……あいつも普通に料理は上手いぞ。
まぁ……ブツクサいってもしょうがないか、顔を出したら一夏も居るかもしれない。考える前にまず動け、それでなくても遅刻しているのだから。廊下を走ると、なぜか織斑先生と遭遇しそうな気がして、俺は早歩きで調理室へと向かった。
IS学園の専用機持ちは、一年生が8名、二年生が2名、三年生が1名の計11名。タッグマッチ……奇数……は~い二人組になって下さいね~……うっ、頭が……!
真、簪ペア以外は、そのままで行きます。一夏が余っちゃうけどしょうがないね。原作だと簪と組んでたから……と言う理由があったけど、適当に理由を付けておくことに……それにしても酷いですけれども。
トーナメント本番ではキッチリ一夏の出番も作るつもりですが、なんだろうね……組む相手が居なくて、酷く落ち込む一夏の姿が目に浮かぶ……。
次回は……うん、次回も未定でお願いします。原作と違う事をしているせいか、慎重に事を進めておりますので……。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。