シンデレラからオータム戦突入まで、無理矢理まとめました。ただし、まとまっているとは言ってない。ちょっと長くなった……後半も雑だ。
この話もそうですけど、ここから早く書きたい話が多いんですよね……それこそ、オータム戦とか。真の成長した姿が見せれるのは、まずそこなので……。
そのせいで勇み足になっているかもしれません……うん、もう少し落ち着きを持とう……そろそろ良い大人なんだから……。
それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。
「はぁ……はぁ……」
体力には自信がある方だが、このまま逃げ回っていたら限界を迎えるのもすぐだろう。数で勝るのは嫌でも向こうなのだから、完全なる無策は死を招く。
それにしても、状況的に悪いのが一夏が見当たらない事だ。仮に合流するにしても、一夏は恐らく俺よりも大人数に追跡されているはずだからな……。
さらに言ってしまえば、曲者なのは『あの五人』だろう。奴らが一夏争奪戦をしている中に飛び込むなんざ、話がややこしくなる上に自殺行為も良い所……ここは、一夏を遠くから視認できる場所を目指すのがベストか。
「そうと決まれば……!」
見晴らしのいい場所へと向かう事にしよう。用意されたセットで最も高所は、あの城しかないな。俺の逃げている方向とは逆方向のため、俺はその場で180度ターンし、城を目指した。
「あっ、方向転換!」
「今がチャンスね!」
「アンタら仲良いな……チクショウ」
まぁ分かってはいた事だが俺が方向を変えたのに合わして、女子達は壁を作るようにして立ちはだかった。いや……そのまま押し寄せて来ているから、壁と言うよりは波だな。
女子達の波に、縫い目はなく隙間を通るのは無理だろう。それならば……上か、出来ない事も無いんだが……最近やってないからな、失敗したら危ないが、やるしかないだろう。
「怪我したくなかったら、どいときな」
「あ……あれ?加賀美君……なんかスピードあげてるんだけど……」
「ハ、ハッタリよ!」
どうやら向こうは、俺がチキンレースを仕掛けていると思っているのだろう。だが残念……コレは助走だ。まぁ本来はここまでスピードはいらないんだけど。さぁ……行くぜ!
「よっと!」
「と、跳んだ……!?」
俺は女子達にぶつかる寸前にバックフリップ……抱え込み側宙で上を飛び越えた。ふぅ……久しぶりだが、何とか成功したらしい。見事に着地した俺は、勢いそのままに走り出す。
「キャー!やっぱり加賀美君……カッコイイ!」
「そういうのサラッとこなしちゃう所とか、素敵!」
「あ~も~……やり辛ぇ……」
背後から聞こえてくる黄色い声に、俺はほんの少しだけ肩を落とした。当然の事ながら、嬉しいには嬉しいとも……だが、逃げている最中にそういう事を言われると……。
(ま、まぁ良いや……とにかく、城へ急ごう)
急ごうと言いつつも、常に急いではいるのだけれども。このハイペースを維持できれば、すぐについてしまいそうだ。待ち伏せなんかをされると、完全に詰む恐れがあるが……。
大丈夫……そうだな。城の周辺には、特に女子は見当たらない。だが念には念を入れて、警戒しつつ城へと侵入した。外から見えたが、確かバルコニーがあったな……そこから見渡せればいいが。
セットと化しているとはいえ、ここはアリーナだ。ISで戦闘する事を想定されているため、広大な土地となる。俺が目指しているバルコニーからでは、全体は見えないだろう。
もっと高い所を目指しても良いのだが、そこからだと退路が無い。ガタックを使う事も考えたが、そんな事をした日には女子達のブーイングが怖い。という訳で、なんとか一夏を発見できることを祈るしかないな。
階段を駆け上がり、両開きの扉を突き飛ばすように開いた。バァンと大きな音と共に、扉が開くと俺はある事に気が付いた。この扉……都合の好い事に閂錠か、これで時間が稼げる。
開いた扉を閉じ、閂をはめ込む。試しに押したり引いたりしてみたが、俺でもなかなか手応えを感じない。よしっ、かなりの時間をかけない限り、この扉は開かないと考えて良いな。
(さて……一夏は……)
……居た!なんとか見つけられる位置に……って、おおぅ……エクストリーム……。なんちゅう修羅場だよ……ってか、アイツら武器使ってんな、唯一の良心はデュノアが盾を持っている事だろう。
ち、近づきたくねぇ……だが、いつでも援護できる場所には付いておきたい。着かず離れずを狙うか……とにかく、一夏の方へ移動だけはしておこう。
「あ~!かがみん見~っけ!」
「は、はい?」
なんか今……本音の声が聞こえた気がする。というか、あの間延びした喋り方は本音しかありえん。いやいや、そんなまさか……本音は今ごろ対亡国企業のために尽力しているはずだろ?
「お~い!かっがみ~ん!」
「なんっ……でやねん!!」
居るよ、一つ上の階……って言っても高さはそんなにないけど。つーか、なんで本音もシンデレラ仕様なんだ。いろいろと聞きたい事が多いが、話している暇も無い。本音には悪いが、ここは逃げさせて……。
「じゃ~受け止めてね~」
「『じゃあ』って何さ!?ストップ、早まるな!」
「ダ~イブ」
親方、空から女の子が!(見たら分かる)いや、言うてる暇じゃなくて!いくら俺が鍛えてるからといって、流石にそれはキツイからね!?あわばばばば!
「うごふっ!?」
本音はそのまま俺の胸に飛び込んできた。さほど高さが無い……とは言ったが、流石に人間一人が自由落下してきたら受け止めきれるはずも無く、俺は本音に押し倒される形になる。
背中から転ぶが、その点に関しては大丈夫。田所さんとの組手で、受け身の取り方も教えてもらっておいた。あくまでダメージ軽減にしかならないが……。
「あのな、本音……。心臓に悪い行動は止めてくれ」
「でもでも~、いつもみたいにのんびり出来ないからね~」
「……なぁ、そこを退いてくれないか?」
「え~、やだ~」
本音にしては珍しく、拒否の意思を示した。いつまでもこのままだと、別の意味で心臓に悪いんだけど。主に本音の格好のせいで……シンデレラドレスなのはいいんだが、なんでそんなに胸を強調したデザインに……。
「あ~気になる~?これね~せっかくだから参加してこい~って」
「ま、まさか……楯無先輩か!?」
「そだよ~。票は無効だけどね~」
あ、あの女狐め……変な所に気を回しよってからに。それだったら、簪も参加しているのだろうか?せっかくだからってなんだよ……。
「似合ってるかな~?かがみんだけのお姫様だよ~」
「ごっふ!?あ、あぁ……うん、似合ってる似合ってる」
かなり聞いてて恥ずかしい事を言われ、俺は思わずむせた。なんでこの子は、そんなに恥ずかしげも無く言えるんだ。俺は既に本音を直視できないでいると言うのに……。
「えへ~、よかった~」
「あ、あのさ……そろそろ本当に退いてくれないか?正直に言うが、なんかもういろいろ限界なんだ」
「やだ~。王冠をくれたら良いよ~」
またそれか……逃げ始めて幾度となく耳にした言葉だ。いったいこの王冠を取られたら、女子に何の得があると言うのか?だが、コレは自らの意志では外せないしな……自責の念(物理)が発動してしまう。
それは本音も知っているんだろうし、あくまで渡すか渡さないかは俺に委ねていると判断して良いのだろうか?でもそれだと、ますます王冠の意味を知らない限りは渡せないのだけど。
「本音……だったらこの王冠が欲しい理由を……」
ドォン!
その瞬間、あり得ないほどの大きな音が、閂付きの扉の方から響いた。ま、まさか……破ろうとしていらっしゃる!?嘘だろおい……破られる前に逃げ出さなくては!
「本音!自分以外に王冠を取られるのは嫌だよな?!」
「ん~……かんちゃんだったらアリかな~」
「わ、分かった……それじゃあ本音と簪以外の手には渡さないって約束するから!とにかく、そこを退いてくれ!」
「む~、約束だよ~?」
予想外な事に、簪はセーフと言う回答が帰ってきて焦ったが、どうやら説得には成功したらしい。だが……かなり不服そうだな、はぁ……イベントが終わったら、なんか奢ろうそうしよう。
「でも~、ここからどう逃げるの~?」
「普通に飛び降りるが……それがどうかしたか?」
「あ~……かがみんも学園に毒されてきてるね~」
別に飛び降りても怪我をするような高さではないし……うん、全然平気だろ?何か問題でもあるのだろうか……。最後になんて呟いたのかも、いまいち聴こえなかったし。
「んじゃ、行くからな」
「気を付けてね~。それと~、約束守ってくれないと知らないから~」
「そ、それは怖いな……。でもまぁ、絶対守り切って見せるからな」
それだけ言葉を交わすと、俺はダンッと踏み切って飛び降りた。マントをバサバサとはためかせながら降下し、地面に着地。少しばかり足がビリビリと痺れたが、それ以外は問題ないな。
俺は城を見上げ、片腕を上げながら本音に合図を送る。すると本音も、こちらに向けて大きく腕を左右に振った。よしっ……行くか、一夏の逃げた方向は……あっちだな!
**********
「っかしいな……確かにこっちの方にに逃げてたと思うんだが」
城に誘い込んだおかげで、女子達を撒く事に成功した俺は、森の中をウロチョロしていた。だが一夏がなかなか見つからない……あれだけ騒いでいれば分かり安いはずなのだが……。
まさか……既に亡国企業と交戦している?いや、その線は薄いと考えて良いだろう……ガタックゼクターが何かしら警告してくれるだろうし。なら……単純に見失ったか、困ったな……手がかりが無いぞ。
「仕方ない……ガタックゼクターに一夏の居場所を……」
「確かに見たのね?」
「ええ、森の中に入ったわ!」
どうするか迷っていると、周囲が騒がしくなってきた。どうやら、のんびりしすぎてしまったらしいな……どうするか、このフィールドは不利だぞ……ひとたび囲まれたら逃げ場が無くなる。
「ん……?なんか、背丈の高い人影が見えた気が……」
いいっ!?ま、マズイ……!クソっ、だから背なんて高くなくていいんだよ!ど、どどどうする!?こっちに向かって来ているはずだ……このままではイカン!
「こっち……」
「なぁあああ!?」
パニックになっているところに、茂みからいきなり手が伸びて来て、かなりビックリした。ビックリついでにそのまま茂みの中に簡単に引っ張られてしまう。
「静かに……」
「か、簪……」
茂みの中に潜んでいたのは、シンデレラの格好をしていた簪だ。なんでそんなところに潜んで居たんだ……?突っ込みどころはいろいろあるが、とにかく今は感謝しなくては。
「サンキュー、助かった」
「まだこれから……見つからないとは限らないよ……」
それもそうだ……。女子達は草の根をかき分ける勢いで俺の事を捜索しているらしい。ここも、安全とは言えないだろう。そう思っていると、簪が俺に身を寄せてきた。
「ちょ、簪……」
「だ、だって……見つかっちゃうかも……」
「確かにそうだが……。ええい……ホラ、これで良いんだろ?」
俺も観念して、なるべくコンパクトになるよう簪を引き寄せた。う~……それでなくても縮こまってないとならんのに、余計に密着するなぁ……足音が近いから、しばらくはこのままでいないといけないだろう。
「その、なんでこんな所に?」
「えっと……その、たっ、たまたま……真の姿が見えたから……」
「なんつーか、判断力良いんだな」
(言えない……隠れてチャンスを窺ってたなんて……)
緊張をほぐすために、簪に話しかけてみた。そうか……俺の姿が見えて、囲まれ始めているのを察知しただろう。やはりと言うか、簪に言ったら嫌がられるかもしれないが、更識の者である事には違いない。
「なんか……ドキドキするね」
「ん?あぁ……二重の意味でな」
「本当だ……心臓が凄く速い……」
「…………」
簪はそう言いながら、俺の胸に耳を押し当てた。あぁ……ダメだ、そんな事をされたらまた鼓動が早くなる。俺はうるさくて仕方が無いが、簪は心地よさそうに聞き入っているようだ。
「でも……慣れないんだね?」
「慣れるかよ……こんなの。簪と本音は……俺にゃ勿体ないくらいなんだし」
そう……こんなヘタレで情けない男なのに、こうやって簪も、本音も俺の事を放っておいてくれない。止めてくれなんて野暮な事は言わないが、まぁ……正直なんで俺?とは思うわな。
「そんなことない……前にも言ったけど、貴方は私のヒーローだから……。貴方が居てくれたから……今の私がここに居るの……」
「…………」
「きっと本音だって……同じような事を言うと思う。だからそんな……寂しい事を言わないで……」
「簪……」
簪はそう言ってくれるが、やっぱり俺はダメな奴なのだろう。女の子にそういう事を言わせる時点で、男としてどうなのか……。なんて後ろ暗い事を考えていると、ようやく周りが静かになる。
俺を誘い出す作戦かもしれないので、注意深く辺りを観察してみれば、やはり人影も気配も完全に消えている。どうやら、やり過ごす事に成功したらしい。俺は、勢いよく茂みから飛び出た。
「古典的な方法も、案外なんとかなるもんだな」
「そう……だね……」
肩をグルグル回しながら簪にそう問いかけると、なんだか生返事が帰ってきた。急な簪の態度の変化に、俺は様子を注意深く観察するが、なんで暗くなっているのかは分からない。
「行っちゃう……の?」
「……あぁ。俺は、俺のやるべきことをしなくちゃならない」
どうやら簪は、俺の身を案じてくれているらしい。もちろん女子達の脅威からでは無く、亡国企業との戦いに赴く事に関してだ。
「……真の事を信じるって決めたから……止めない。けど……約束して、必ず無事でいるって……」
「うん……任せろ、約束する。なんたって俺は、簪のヒーローだからな!」
「真……」
簪に歩み寄り、軽く軽く頭をポンポンと触った。すると簪は、気持ちの良さそうな、くすぐったそうな……そんな表情で目を細めた。頃合いと感じ数歩下がると、俺は簪に一つ頼みごとを言う。
「そんじゃ、俺の一番力になる一言をくれないか?」
「分かった……。……いってらっしゃい」
「ああ、行ってきます!」
俺はその一言を受け取って、元気に振り返り走り出す……事はせず、その場で駆け足を始めた。俺も簪に言っておくべきことがあるのを忘れていた。
「あ~……その、それ……似合ってる。うん……見れて良かったよ」
「ほ、本当……?ありがとう……」
全く振り返らずに、頭だけ二、三度頷かせ全力疾走を開始した。なんていうか……簪も本音も白が良く似合う……って、んな事より集中せんかい集中。気持ちを切り替え、一夏捜索に力を入れた。
**********
「ん……あれは……?」
かなり遠くに、ほんの小さく一夏の後ろ姿を見つけた。周りには五名をはじめとした女子一同は居ない……マジか、アイツあれを一人で撒いたのか……?
まぁ……それならそれで構わんか……俺も追いかけられてない状態な訳だし、合流してしまっても良いだろう。そう思い、一夏の背中を追いかけはじめた瞬間……一夏の姿が消えた。
「何っ!?ガタックゼクター!」
『キュイイイイ……』
俺はガタックゼクターを呼び寄せ、並走しながら一夏が消えたポイントを目指した。かなり遠かったため、着くのに時間がかかってしまったが……とにかく、消えた原因を調べなくては。
ここの地面……隙間がある?顔を近づけてみると、確かに風の流れを感じた。どうやら、下には空間があるようだ。それなら……誰かが一夏を引き込んだ?
それが五人のうちの誰かなら御の字だが、この場合は亡国企業の仕業と見た方が良いだろう。俺は何とか開けてみようと試みるも、どこにも手を引っかけるような取っ手は見当たらない。
「くっ……ここまで来たら、やるしかないか……。変身!」
『―HENSHIN―』
『青子、白式の反応は?』
『……確かに、この先にいるようです。と言うよりこれは……交戦状態?』
やはりか!だが、俺がこの場に居合わせたのは不幸中の幸いだろう。すぐにでもこの隠し戸をぶち破って、一夏の元に向かは無ければ。
『ステルスモードの起動を』
『了解しました。しかし……どうやってここを開きますか?』
「それは……こうするのさ!』
俺はそう言いながら、隠し戸の調度真上に位置する場所まで跳びあがった。空中で一時制止すると、ポイントの修正を始める。もちろん、青子に頼んで完璧に真上だ。
『ここから、重力デバイスを最大だ。もちろん、加重でな』
『なるほど、そういう事でしたか……それでは』
ガクン!と全身に負荷がかかったような感覚を覚える。そう……自由落下の比ではないストンプだ。通常ではありえないほどの急降下で、ガタックの両足は隠し戸の上に降り立った。
ゴシャァ!
当然、そんな重い物がのしかかってくるのは想定外だろう。隠し戸は、鉄のひしゃげる様な音を立て、俺は下のスペースまで突き抜けた。
『白式の反応は?』
『マスターが着替えを行った更衣室の様です。ルートを出しますので、従ってください』
ガタックのハイパーセンサーに、目的地までのルートが表示された。ったく、有能な事で助かるぜ……。良い相棒を持ったものだ。
『いいえ、私は貴方の妻です。そこを間違えないでいただきたい』
『……ナチュラルに頭の中を覗く嫁は勘弁だね』
んな事を言っていないで、パパッと行動を開始しなくては……。一夏もそう簡単にやられることは無いと思うが、相手はプロだ……今の俺達でどこまで通じるかは分からん……とにかく、急ぐ!
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真は最大限に急いでいるものの、一夏はピンチもピンチと言っていい状態だろう。目の前にいる人間が、自身をさらい、姉が優勝を逃した原因を作った組織の人間だとしってしまったからだ。
残念ながら、今の一夏はそれで冷静を保ってはいられない。直線的な動きを繰り返し、簡単に捕らわれ、あまつさえ白式も解除されてしまった。
ISを強制的に解除させる装置……その名も『リムーバー』。リムーバーを用いて白式を奪った張本人、蜘蛛型のIS『アラクネ』を操る亡国企業の構成員オータムは、楽しそうにケラケラと笑う。
「ハッハッハ!なんだこりゃ、楽勝じゃねーか!お前のISもさぞ悲しいだろうぜ、持ち主がこんな体たらくなんだからなぁ」
「返せ……!返せよ……!」
一夏はISの無い状態でも、決死の覚悟でオータムに食らいついていた。しかし……悲しい事に人は人、生身でISに太刀打ちできるはずも無い。
「もう飽きちまったなぁ……そろそろ死んどけや、クソガキィ!」
(クソッ……!!)
「え~……生徒会よりお知らせしま~す。学園内にて、捕縛プレイなどという淫行は許可されておりませ~ん。速やかに退去願いま~す」
薄暗い更衣室に、確かに真の声が響いた。オータムは訝しむ様子で、ハイパーセンサーを確認するが、どういう訳かガタックが捕捉できない。
「ッチ!姿を見せやがれ!」
「あっそ、そんじゃ……強制退去だな」
ガン!
「コイツを喰らいな!」
「あん?んだ、こんなもん」
真の言葉と同時に、更衣室のロッカーがオータム目がけて飛んで来る。当然オータムからして見れば、子供の遊び同然だ。アラクネの脚で適当に弾くと、ロッカーが飛んできた方向を睨む。
しかし……次の瞬間、あろう事かロッカーがオータムの頭上を旋回し、まるで気でも変わったように落下して来たのだ。あまりに不可解な軌道に対処しきれず、ロッカーはアラクネにのしかかる。
「何ッ!?ぐぉあ!」
キィイイイン……ズガン!
押しつぶされている間に、オータムの後方からプラズマ火球が飛んできた。火球は的確に白式のコアを持っている腕に当たり、アラクネの手から離れる。
「そこだっ!」
「クソがぁ!」
チャンスと言わんばかりに、暗闇からガタックが出てきた。もちろん目標は白式のコアの奪取……オータムもそれを理解しているのか、邪魔なロッカーを弾き飛ばし、アラクネの腕を伸ばす。
やはりリーチではガタックの方が劣るためか、この一回で取り返すには至らなかった。真は、無理だと判断すると、すぐさま離脱して一夏の近くに止まった。
「真!」
「悪い、いっぺんじゃ無理だった」
「テメェ……加賀美 真か?ハハハ!こりゃいいや、わざわざ殺されに来てくれたのかよ!」
オータムは正面に立つISがガタックであることをキチンと確認すると、高らかに笑い声をあげた。それとは対照的に、真はオータムを静かに見ている。
「ククク……ソルの奴、獲物を取られてどんな顔するだろうなぁ……」
「ソル……?カブトの操縦者は、そういうコードネームなのか」
「あぁ……そうよ、クソ生意気なガキだ……思い出すだけでも胸糞わりぃ!」
真としては、ベラベラとよくしゃべる口を指摘したい気分であったが、今回はそれが好都合となっているために黙っていた。そのおかげで、カブトが亡国企業であることがハッキリしたのだから。
「それにしても……テメェ一人か?まさか一人で勝てるなんて思ってんじゃねぇだろうなぁ……クソガキ!」
「真……アイツは確かに強い……他に誰か援護を……」
「何、問題ねぇよ。こんな所で躓いてちゃ……いつまでたっても『アイツ』にゃ勝てねぇ」
問題ないと、確かに真はそう言う。この場に居る真以外の二人、特にオータムは、その言葉が良く届いた。自分は舐められていると、そう感じたオータムはピクピクと目元をヒクつかせる。
「それに知ってっか、おねーさん。蜘蛛ってのはな、やられ役なんだぜ……少なくとも仮面ライダー的には」
「あぁ!?なに訳わかんねぇ事言ってんだ!」
「いやさ、初代仮面ライダーにやられた記念すべき怪人が蜘蛛男なんだって。それ以来、第一話で蜘蛛の怪人が多く登場してんだ。だからほら、俺から見たら、そのISは死亡フラグにしか見えねぇの……分かる?」
「テメェが私を馬鹿にしてる事だけはよ~く分かった!タダじゃ死なせてやらねぇ……嬲り殺しにしてやらぁ!」
怒髪天を衝く、といった様子でオータムは完全にキレてしまった。すさまじい勢いで迫ってくるアラクネに対しても、真はまだ余裕な態度は崩さない。
「何でだろうなぁ……全っ然負ける気がしねぇや。さてと……伝統通り、とっととご退場願おうか!」
唐突ですが、次回で新武装が登場します。
不自然な動きをしたロッカーは、新武装を用いた攻撃をしているのです。次回で詳しく紹介しますが……ぶっちゃけ頂いた意見なんですけれども。
臨海学校編のあたりに意見をもらって、私がそれに申し訳程度のアレンジを加えたものです。ずっと出す機会をうかがっていたが……出すならココだ!と思ったので。
その新武装のおかげで、戦い方にバリエーションが出るかと思われます。フフフ……次回を書くのが楽しみだ!そんな事で、次回のオータム戦でお会いしましょう。
それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。