今回の話ですが、特に動きと言う動きはありません。タイトル通りに、学園祭の準備が始まってるな~……程度の話。
パッと日にちを一気に進めて、学園祭にしても良いんですねどね……それだとどうも間が持たない気がするので、亀の歩みでやって行こうと思います。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
「わぁ……真って、やっぱり器用だよね。僕の作った花よりかなり綺麗だよ」
「そうか……?単純に慣れだと思うがな」
俺の掌の上に出来上がっている飾り付け用の花を見て、デュノアは感心したような声を上げる。俺達は授業時間を使って、学園祭に向けての下準備をしているところだ。
この飾り付けもその一部……定番だな。俺は器用だと褒められたが、それが特別な事だとは思わない。こうやって細かい作業をするのは、長い事培ってきたスキルだし。
「しかも早いよな……」
「戦友の机の上だけ、華やかな事だ」
そうボーデヴィッヒに指摘されてみて、俺は自分の机を良く見てみる。するといつの間にか、山のように花がドッサリ……集中し過ぎた。一回凝り始めると、周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だろう。
「はぁ……段ボール貰って来る……」
「ちょっといいかな?加賀美君」
「ん?何かあったか?」
「燕尾服のサイズ合わせ、まだして無かったよね?加賀美君は大きいから早めに合わせておかないと……」
立ち上がったあたりに呼び止められ、着付けがどうのと言われるが……覚えのない話だ。そう言えば、俺のクラスってなんの出し物するんだっけ?あの時は完全に話を聞いてなかったからな……。
「あ~……悪い。全く話が見えんのだが……」
「真……もしかして聞いてなかった?」
「どうにもあの日の戦友は、呆けていたが」
「まさか、ウチが何の出し物するかも分からない……なんて言わないよな?」
クソッ……全く逃げ場がない……!?何だ一夏この野郎、ここぞと言わんばかりに呆れた顔しやがって……。だが実際にそうなのもなた事実……俺は大人しく教えを乞う事にした。
詳しく聞くと、どうやら一組はメイド喫茶と言うか……コスプレ喫茶と言うか、そんな感じの出し物らしい。それで、意味不明な事に俺もコスプレ担当で接客なんだそうな。
それで燕尾服か……俺と一夏は執事な訳ね。というか、そうでないと……一夏はともかく俺の女装とか……おぇっ!自分で想像しておいて吐き気が……。それもあるが、俺に接客させるなんて正気の沙汰とは思えない。
「なんでだよ、知らんぞ……?演技なんてできんぞ?」
「ああ、良いの良いの。加賀美君を目当てで来る子は、たぶんいつもの加賀美君をご所望だから」
俺の承諾も無しに良く言ってくれる……。このクラスの事だ……どうせ勢いに押し切られたのであろう。その時の俺が例え話を聞いていたとしても、反論の余地は無かったはずだ。
「分かった……。それでサイズ合わせってのは、今すぐの方が良いか?」
「「「!?」」」
「え……?な、なんだよ……その視線は?」
「加賀美君……着てくれるの!?」
「見せてくれるの!?」
「ていうか見たい!加賀美君は絶対似合うもん!」
これは……どうやらミスリードだったらしい。やけに食いつきが良い事に、断れない雰囲気が出来上がってしまった。…………って本音……頼むからそっちに混ざらないでくれ。
「…………。着替えて来るから貸してくれ……」
「は、はいコレ……」
何やら期待の眼差しで紙袋を手渡された。その瞬間に期待の視線はより強い物になるのを感じる。厄日だ……今日はそうに違いない。俺はトボトボと教室を出て行く。
しかし着替えか……トイレが妥当なところなのだろうが、男子トイレは遠いんだよなぁ。ま……サイズが合わないで本番になってから着れませんでしたじゃ……案外いい作戦だな、もう手遅れだが。
そう言う訳で、トイレでチャッチャと着替えを済ます。なかなか手こずりはしたが……キチッとしている服は苦手だ、なるべく着崩せる所は着崩すのが俺のポリシーである。
さて……教室に戻るとしよう。俺はとんぼ返りで一組の教室まで向かう。その際に別の生徒に目撃されないか心配だったが、特に問題は無いな……。俺は少し緊張しながら、教室に入った。
「帰ったぞ」
「キャーッ!やっぱり似合ってるぅー!」
「加賀美君……足長ッ!?」
「加賀美君、加賀美君!御帰りなさいませ、お嬢様って言ってみて!」
「いや……だからそう言うのはできないって……。はぁ~……ったく……御帰りなさいませ、お嬢様……」
どうにも俺の燕尾服姿は女子にウケが良いようで、ワーキャーと盛り上がっている。そして要求されたセリフを渋々言うと、更に盛り上がりを見せた。
「なんなんだよ……」
「いや、冗談抜きで似合ってるぞ?真……」
「真は大人っぽいからね……そういう格好が映えるって言えばいいのかな」
「戦友よ、写真を撮ってもいいだろうか?我が隊の者が喜びそうだ」
申し訳ないが写真だけはNG……ボーデヴィッヒには悪いが丁重にお断りする。ボーデヴィッヒはまるで小動物かのように「そうか……」なんて言うので、罪悪感が心に残った……。
「加賀美君。サイズ、どうかな?」
「おう、問題なさそうだが……。「コレ」どうすっかな……」
俺がコレと指したのは、右手の包帯の事だ。学園祭本番までには取れそうもないし、ましてや本番で包帯を取る訳にも、着けている訳にもいかない。俺としては早く外したいんだがな、それでなくても最近「邪気眼使い」だの囁かれているというのに。
「あっ、執事用手袋とかあるけど……」
「そうか、なら本番はそれで行く」
「真が付けるんだったら、俺もそうした方が良いかもな」
「そうだな。よしっ、サイズの確認終了!脱いでくる」
「え~!そんな殺生な!」
「せめてこの時間だけでも!ね?ね?」
「…………授業が終わる数分前にはもう脱ぐからな」
俺がそう言うと女子達は「流石加賀美君!話が分かる!」……なんて言うが、俺って怖がられてたよな?俺が毒されたのか、はたまた連中の俺の認識が変わったのか……。
どちらにしたって、一昔前の俺では考えられない事だ。仮に昔の俺がこの光景を見たとしたら、目ん玉ひん剥いて泡を吹きながら気絶するね、賭けても良い。
だが……俺がコレを望んで、選んだんだ。昔の俺がなんと言おうが構わん、これが今の俺なのだから。俺はそのまま喧騒に身を投じる……俺が望んだものを、噛みしめるかのように。
**********
放課後の整備室……こちらに至ってはますます忙しく、簪達は無駄なく作業を進めている。学園祭の準備も本格化するため、全員揃ってこういった時間を取るのは難しい。そのために、簪達は打鉄弐式の作成をいったん中断するつもりなのだ。
今日はそのための最後の追い込み、と言った所だろうか。もちろん真も手伝いに来ているのだが……正直なところ居ても居なくてもあまり変わらないだろう。
「加賀美君、ここ押さえててくれない?」
「おぅ」
「ちょっと、加賀美君。この部品を取って来てくれると助かるんだけど……」
「……あぁ、うん」
「かがみ~ん、数値の記録お願~い」
「…………俺って、居ない方が良いか?」
真が任されているのは明らかに雑用だ。それを感じ取った真は、もしかすると自分は邪魔をしているだけなのではないかと思い、素直に自分の思ってる事を述べた。
「そんな事無い……よ?」
「いや、簪……疑問形って……」
「そ~だよ~。人手は多い方が良いかな~なんて~」
「うん……あのな、だから「かな」とか自信なさそうに言われると……」
「居ないよりかは全然マシだから安心してよ!」
「どうせ俺なんか……」
相川としては、全く悪気のない言葉が真の心を折った。真はネガティブなオーラを放ちながらその場に蹲っている。自分で言っておきながら、かなりの大ダメージを受けた真に、周りの者はギョッとするしかない。
「ちょっと!何を清々しい口調でそんな事を……!?」
「だ、だって……加賀美君だったら言い返して来るだろうなって逆に……」
「た、確かにこんな加賀美君は始めて見るかも……」
最近になってようやく真と話すようになった三人は、真が意外と豆腐メンタルである事を知らない。皮肉を言えば皮肉で返す、それが加賀美 真であると大半の生徒が思っているはずだ。
「のほほんさん、簪ちゃん!パス!」
「え……?うん……。大丈夫だよ……前に真も言ったよね。出来る事、出来ない事があるのは仕方ないって……」
「そうだよ~?かがみんは~気にし過ぎ~」
そう言いながら二人は真の頭をナデリナデリ……。あまり首に力が入っていないのか、真の頭はメトロノームのように右~左~右~左~。やがて自分が撫でられているこの状況が飲み込めたのか、ゆっくり立ち上がった。
「そうだな……居ないより全然マシ……うん!それなら十分だよな。サンキュー、元気出た」
真は五人の方に向き直りながら、ニカッと微笑む。それを見た簪と本音を除く三人は「加賀美君も笑うんだ……」なんて事を考えていた。
「それじゃ~気を取り直して頑張ろ~!」
「「「お~!」」」
「おう!」
本音がピョインと飛び跳ねながら右手を突き上げると、それに倣って皆も勢いよく腕を上げた。そこから気合が入り直したのか、真は生き生きとした表情で雑用を進めていく。
「加賀美君、ヘルプ!」
「任せろ!」
「あっ、加賀美君。こっちもお願い!」
「おう!」
「かがみ~ん。飲み物買ってきてくれな~い?」
「行って来る!」
「あれれ~冗談なんだけど~!?かがみ~ん!」
気合が入りすぎて空回りせぬよう、本音は真を和ませようと放った一言だった。本音としては「おいおい、それは違うだろう?」とか言う返しを期待していたのだが、真は脱兎の如く整備室から出て行ってしまう。
それもそのはず、既に真は空回りをしているからである。それはもうドドドドドド!といった感じの足音と共に出て行った真に対し、取り残されたメンバーはポカンとした表情を浮かべるしかない。
「……少し、休憩にしようか……」
「なんか、今日ですっごい加賀美君の見方が変わったよ……」
「そうかな?なんか最近表情とか違うと思うけど」
鬼の居ぬ間に洗濯、という訳ではないが……本人が居ない間に真談義が始まった。とは言っても真の事を詳しく知らない三人が、単に簪と本音に質問をするという形だが。
「加賀美君ってさ~前からあんなに優しかったっけ?なんか「俺に近づくんじゃねぇ」的なオーラを醸し出してたけど……最近は普通に一組の皆と話してるし」
「う~ん……基本的にかがみんは最初から優しい人なんだよ~?優しいけど~皮肉交じりにしかそういうのを表現出来なかったんじゃないかな~」
「最近の真は……真がちゃんと変わろうとしてるからだよ……」
簪は臨海学校にて、真が心境の変化をするきっかけとなった出来事を伝えた。三人は普段思っている真のイメージと照らし合わせて話を聞いているようだ。
「あ~……そうだよねぇ、アレはどちらかと言うと他人を避けてたよねぇ」
「でも加賀美君……私達が考えてる以上に真面目なんだね」
「なんか、私……加賀美君の事を誤解してたかも」
「それは正直……仕方ないと思う……」
「わざと誤解されるように振る舞ってたみたいだからね~」
簪と本音の言う通り、誤解して当然の事だ。むしろかつての真は、完全に悪気がある場合の方が割合的には多かった。対象となるのは主に一夏だったとはいえ、それを差し引いても人間が出来ていなかったのは間違いない。
「でも今は……きっと大丈夫」
「だから皆も~かがみんといろいろお話してみて~。きっとかがみんが素直じゃないだけって分かるから~」
「そっか……それじゃあ今日は皆で晩御飯を食べようか?」
「いいわね、それ!決定!」
ここに真との親睦を深めようの会が立ち上がった。三人としても、日ごろ真に聞いてみたかった事なども多い。今からどんな質問をしようかと盛り上がる。
「まぁそれは良いんだけどさ、結局のとこ……のほほんさんと簪ちゃんは加賀美君の事が好きなの?」
「えへへ~」
「フフフ……」
「誤魔化し方がへたくそっ!?」
「笑って誤魔化すって奴?」
ぶっちゃけた話だが、三人にとって一番気になる話題は「そこ」だった。しかし聞くや否や、速攻で誤魔化しに入る簪と本音であった。ここで逃すわけにはいかないと、追求に入ろうとしたその時。
「おい!今思ったんだが、コレはなんか違うくないか!?」
「あ……でもしっかり飲み物は買って来るんだね……」
騒がしく整備室の扉を開きながら、真が帰ってきた。簪の指摘通りに、その両手には炭酸飲料やお茶類といったラインナップの飲み物を六本抱えている。
「加賀美君、空気呼んでよ!」
「なっ、何の話だ?」
「じゃ~休憩は終わりね~」
「ああっ、のほほんさん!お願いだからその辺りkwsk!」
「ちょっと待たんか、お前ら休憩してたのか!?俺なんのために飲み物買って来たか分からんぞ!」
全力疾走で往復したのか、真はゼェゼェと息を荒げる。そんな真の様子を見てか、五人はそれぞれ好きな飲み物を受け取ると、満面の笑みを真に向け……。
「「「「「ありがとう!」」」」」
「違ああぁぁう!別に労ってほしい訳じゃねええええ!」
あまりにも雑な扱いに、真は声を大にして叫ぶ。いい加減に真が可哀想になって来たのか、皆して真を宥めはじめた。ようやく真も落ち着きを取り戻したのか、呼吸がだんだんと落ち着いていく。
「ふぅ~……ふ~っ……と、とにかくだ!俺にも少しは休憩させてくれ……」
「それは良いんだけどさ、加賀美君。ちょ~っと聞きたい事が……」
「だっ、ダメ……!?デリケートなところだから……」
「……何の事かは知らんが、とりあえずはだ。簪、ちっとは手加減してやりなさい」
後ろから思い切り口元を抑えられ、鷹月は苦しそうにしている。必死で簪の手をタップするが、同じく簪も必死なため気付いてはもらえない。
「ぶはぁ!?こ……これが代表候補生の力という物なのね……」
「なんかそれ間違ってないかな~?」
「あっ……!ごっ、ごめんなさい!」
「ま、自業自得だから簪ちゃんは気にしない気にしない」
状況が全くもってつかめない真は、とにかく水分補給だと買ってきたスポーツドリンクをグビグビと流し込む。矛先がこちらに向くまでは傍観に徹する気らしい。
何やら話題が色恋沙汰である事くらいは理解できるが、そこに割って入るほどの勇気を真は持ち合わせてはいない。いつまで続くか分からないと思っていたガールズトークだが、真が置いてきぼりになっているのを察してか、櫛灘は慌てて取り繕う。
「わっ、ごめんね加賀美君。とにかく加賀美君たちに迷惑はかけない程度に、コレ鉄則」
「はいはい了解!じゃ、まず手始めに好きなタイプから!」
「ん~……まぁそう言うのはまた後でな。俺も休憩はもう良いから、続きはまた今度にしようぜ」
「今さ、後でなって言ったよね?絶対後で答えてよね?」
「分かった分かった……。本音、さっき記録しといた数値はどうしたら良い?」
「お~ありがと~。すぐ使うからこっちちょ~だい」
真は困った様子で相川、鷹月の両名をあしらいつつ作業に戻った。完全に断る事をしなかった真に、二人はハイタッチしつつ、それぞれの持ち場に戻る。そんな二人をヤレヤレ……と苦笑いで眺める簪と櫛灘。
こういった風に、案外この六人はバランスがいいのかもしれない。当の本人達は決して気が付く事は無いだろうが……。それでもお互いに、チームであるという認識は完全に芽生えていた。
それぞれのやれる事に限界は有れども、それを補い合ってこそのチームだ。真もあまり役には立てないながらも、自分もこのチームの一員であると再認識しつつ、自らのできる精一杯の事をこなしながら作業に没頭した。
IS学園の生徒会はどうなってんだと本気で思います。と言うのも私、学生時代は生徒会執行部所属でして、こういったイベントの時期になるとそれはもう忙殺されてました。
企画とかが煮詰まり始めると皆ピリピリし始めるし……関係ない所で出た不備も生徒会のせいにされるわ……今となってはいい思い出ですけどね。
まぁフィクションと比べてどうこうってのもナンセンスですよね。というかIS学園の生徒会が、仕事してる暇じゃないのも事実ですし……主に飛び入りゲストの対応で……。
そんな訳で、次回はまたまた生徒会……ならぬ生徒回を予定しております。そこからZECTで一話使って、その次の話が学園祭本番って所でしょうか。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。