戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

前回軽~く次回の予告を忘れてしまっていましたが、タイトルから分かる通り夏祭りです。真が誘うのはもちろん簪と本音。

まぁ二人同時ですから、ドキドキ成分よりもホノボノ成分の方が強いです。多分ですけど簪、本音の単体で一話丸々書ければ、ドキドキ成分も出せるでしょう。

今回は二人同時と言う事で、どうかお許しください。って言うか……もうこの話か~……「戦いの神(笑)ですが何か?」も中盤って所です。どうか最後まで、お付き合いください。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


夏祭り(ワッショイ!)ですが何か?

「夏祭り……?この近くでんなモンやってたっけか?」

 

「おいおい……真が子供の時に連れて行ったろ?」

 

 家でゆっくりしていると、突然親父が夏祭りの話題を出してきた。いまいち記憶に残っていないと返答をすれば、親父は非常に呆れた表情を浮かべ、俺にチラシを見せてきた。

 

 ……そう言われてみれば、確かに行った事があるよな気がしてきた。「行かねぇ」と言う無関心な反応をする小学生を、無理矢理連行する親父の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「せっかくの夏休みなんだから、誰か誘ってみたらどうだ?例えば……本音ちゃんと簪ちゃんだっけ?もしかしたら喜ぶんじゃないかと思って」

 

「親父にしてはいいアイデアだな。それ採用」

 

「お前は一言多いんだよ……!」

 

 親父にしては、と言うのが気に障ったのか、肩を掴んで前後にブンブンと揺さぶられる。そんな事には全く動じず「ハッハッハ」と笑い飛ばすと、親父の両腕を振り払った。

 

「ま、とりあえず誘ってみる」

 

「……そうか」

 

「拗ねんなよ、面倒くさい……。……電話して来る」

 

 年甲斐も無く口を尖らせ、そっぽを向く親父を軽く睨むと、テーブルの上に置いていた携帯を掴みながらリビングを出る。さて……どちらから先に電話を掛けるか……別のどっちでも良いんだけども。

 

 五十音順に並べてあるから、簪の方で良いだろう。俺は電話帳に登録されている更識 簪と書かれている部分をタッチ。数コール鳴らすが、なかなか簪は出て来ない。……都合が悪かったのだろうか?

 

『も、もしもし……?』

 

「よぉ簪。出るの遅かったけど、もしかして忙しかったか?」

 

『大丈夫……ただ、その……緊張しちゃって』

 

 緊張って……俺の電話に出るくらいで緊張しなくても……まぁ簪らしいとも思っておこう。とりあえず俺は用件を伝えてしまう事に、すると二つ返事が返ってきた。

 

『絶対行くから……』

 

「あ、あぁ……分かった。それじゃ……」

 

『待って、本音も誘うつもり……なんだよね?』

 

「ん……?そうだな、そのつもりだけど」

 

『ちょっと待ってて……』

 

 簪がそう言うと、受話器越しにゴソゴソとかドタバタと音が聞こえる。一体向こうで何が起きているというんだ……?しばらくすると、出てきたのは意外な人物だった。

 

『もしも~し、かがみ~ん?』

 

「おぉ、本音。なんだ、簪と遊んでたのか」

 

『ん~ん、違うよ~。一緒の家に住んでるの~』

 

「へぇ~……そうなの……ん?……そうなのか」

 

 俺は思わず不思議そうな声を上げた。もちろん言葉の意味自体は理解できているが……ど、同居?一体全体更識家と布仏家の関係性はどうなっているんだ?

 

 まぁ……それはともかく、本音にも同じく用件を伝える。本音も簪と同じく、返事を待つ必要も無いくらいに行くと言葉にした。

 

『集合場所とかどうしようか~?』

 

「うん……詳しい事は簪か本音にメールしとく。それで大丈夫か?」

 

『おっけ~い。だいじょぶだよ~』

 

「そうか、分かった。それじゃ、また後でな」

 

 この前本音と待ち合わせに使った駅だが……実は俺の家からだと距離があったりするんだよなぁ。俺は苦にならないが、女の子を歩かせるわけにもいかん。しっかりリサーチしてから……っと。

 

「どうだって?」

 

「おぅ、二人とも大丈夫だってよ」

 

 リビングに戻ると、いつもの様子で親父が声をかけてきた。良かった……まだ拗ねてたらどうしてくれようかと思っていたが、流石の親父もそこまで子供じゃないらしい。

 

「親父は行かねぇのか?」

 

「いや、行くけど……安心しろよ、真には遭遇しないようにするって」

 

「何の心配をしとるんだ……」

 

 良いや、親父は放っておこう。時間までにはたっぷりあるが、早めに集合時間や場所を確定させとかねぇといかんな。俺は親父が持ってきたチラシにキチンと目を通し始めた。

**********

「お~い!」

 

「待たせちゃったかな……?」

 

 改札から元気に俺を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、そこには浴衣を着た本音と簪が俺の方に向かって歩いて来ている。う~む……良いもんだなぁ、浴衣ってのは。何と言うか、独特の雰囲気がある感じで。

 

 それになんだか二人とも着慣れている様子だ。ここの駅一帯は、すでにたくさんの浴衣を着た女性が歩いているが、何処か二人はランクが違って見える……のは贔屓してるからだろうか?

 

「大丈夫だ。呼び出しといて、先に着いてないのは礼儀に反するからな」

 

 この駅は前回の集合場所から二駅ほどずれた場所で、俺の家からもほど近い。案外二人とも俺の家からは近い訳だ。流石に二駅分もずれれば小中は違うがな。

 

「しかし二人とも、似合ってるな。可愛いと思うぞ?」

 

「そう……?ありがとう、嬉しい……」

 

「えへへ~照れるなぁ~」

 

 とりあえず二人を軽く褒める事に、軽くと言ってももちろん本心からだぞ。フッ……俺もなかなか成長したもんだ。この程度のセリフなら、恥ずかしげも無く言えるようになったぜ……。

 

 内心ドッキドキだけどな、最近気が付いたけど、俺基本そういう所はヘタレだから。対人関係が少なかった=異性との交流も少なかったって事だし……それ言わせたら恐らく女子には嫌われてただろうし……。

 

「よっし、んじゃ……歩くか」

 

「は~い!」

 

「今日はよろしくね……」

 

 と、言いつつ俺の腕に抱き着く二人……。あの~……ココからっすか?駅に多くの人達がいらっしゃるんですが……。特に男共の視線が矢のように……。

 

 ……ざ、ざまぁみろ!ホレ、両手に華だぞこの野郎ども!へっへ~ん俺って勝ち組~。……とか思っとかなきゃやっとられん。

 

 そのまましばらく……と言っても本当に近場だけど、目的地に到着した。時間帯はそろそろ日が沈みそうな事もあってか、賑わいは最高潮と言った所だろう。

 

 通り一帯が出店で埋め尽くされ、ズラリと並んでいる。街灯にはたくさんの提灯が吊り下げられていて、これこそまさに日本の祭り、だな。

 

「お~……かなり規模が大きいんだね~」

 

「ん?らしいな、ここら一帯じゃ一番……って親父が言ってた」

 

「あまり、来ないの……?」

 

「う~ん……昔の俺はなぁ……。まぁ察してくれ」

 

 頬を掻きながら苦笑いを浮かべそう言うと、簪も俺を苦笑いしながら見上げた。きっと俺がガキの頃に何回か……なのだろう。親父の反応を見る限りは、諦めて俺を誘うのを止めたみたいだし。

 

「さて、まずは何処から攻める?御嬢さん方」

 

「甘い物かな~?」

 

「は、早くない……?普通食後に……」

 

 二人とも晩飯は食って来て無いだろうからな……とは言っても、晩飯にはまだ早い。となると、本音の言う事もあながち間違ってはいない。

 

「りんご飴屋さんはっけ~ん!」

 

「なんか、本音の奴……やけにテンション高いな」

 

「フフ……たぶん真と一緒で楽しいんだよ……」

 

 フラフラとりんご飴の屋台に誘い込まれていく本音を、見守りながら追いかける。しかしりんご飴か……なんとなくだけど、仮面ライダーWを思い出すのは俺だけだろうか?

 

 確かサイクロンジョーカーエクストリームにフォームチェンジする回に出てたような……。ダメだ、ハッキリ思い出せん……俺の記憶も、かなり薄れてきているみたいだ。……どうでも良いか、そんな事。

 

 まぁとりあえず、俺は大きい方を買って、二人は小さめなのを購入。櫛に刺さっているため、歩きながら食べれるな。本当は行儀は良くないが、祭り故致し方なし。

 

「甘~い!美味しいね~かんちゃん」

 

「うん……」

 

(正直な話、俺には甘すぎるがな……)

 

 嫌いじゃないけどな……どうしたって甘ったるくはある。後さ、りんご飴って少し食べ辛いと思う。球体の形がツルツルしてるから、いまいち歯が通りにくい。

 

 俺はチマチマ舐めるよりかは、ボリボリと噛み砕く方が良い。そんな俺の様子を本音はじぃっ……と見て、何か想いついたのか、笑みを浮かべた後。俺のりんご飴にかじり付いた、しかも俺がかじった所周辺……。

 

「本音……」

 

「ふふ~ん。油断大敵だよ~?」

 

「いや、俺はもっと他に言いたいことがだな……」

 

「まっ、真……。その、私も……」

 

「…………ホラよ」

 

 自分のがあるだろうが……なんて無粋な事は言わんよ……うん。なんか最近、本当に簪と本音が良いならそれでいいや……とか思ってる俺が居る。慣れたのか、それとも諦めたのか、それは俺にもわからない。

 

 簪に俺のりんご飴を差し出すと、非常に控えめにかじった。りんご飴を咀嚼している間、簪は全く俺の方を見ようとしない。照れるならやめとけよ、とかも言わない……言わないったら言わない……。

**********

「…………」

 

「かんちゃ~ん?」

 

「あっ……な、なんでも無いから……」

 

 本音は数秒立ち止まった簪に、どうかしたのかと言った視線を送る。すると簪は、なんでもないとはぐらかすが、あれでは何かありますと言っているようなものだ。

 

 よ~く目を凝らして、簪の視線の先に会った物を観察してみる。その先にあるのは……お面屋か?ああ、なるほど……並んでいるヒーローのお面を眺めてたわけな。

 

 ラインナップは、どうしても現在放送中の特撮になるか……。となると「天翼戦隊 ウィングマン」と「仮面ライダー シノビ」か、詳しく話したい所だが……多分いくら時間があっても足りん。

 

「二人とも、ちょっとそこで待っててくれ」

 

「おっけぇ~い」

 

「あっ……」

 

 簪がどうこう関係なく、単純に俺はウィングマンのお面が欲しい。決して「ついで」と言うつもりはないが、せっかくだしな。という訳で、コンドルウィング、ファルコンウィング、スワンウィングのお面を購入。順にレッド、ブルー、ホワイトの戦士だ。

 

「待たせたな。ん、プレゼント」

 

「わ~い。かがみんからプレゼント~」

 

「…………」

 

 本音にはスワンウィングのお面を贈呈した。さっそく本音は、しっかりと顔に装着してバタバタと騒いでいる。当然と言うか、簪は少し迷った様子だ。

 

「はぁ~……簪。恥ずかしいから、とかで遠慮したんだろ?」

 

「う、うん……少し……」

 

「何も恥ずかしがる事なんてねぇよ。俺だったら見つけ次第買うぞ?着けるのも別に……ほら」

 

 簪の目の前で、イーグルウィングのお面を付けてみせる。そしてそのまま名乗りの時のポーズを取った。妙にキレの良い俺の動きに、本音はお~!と歓声を送った。

 

「かがみんカッコイイ~。私のは~?」

 

「ん~?ああ……スワンウィングはだな……」

 

「真……コンドルウィングの……ちょうだい?」

 

「おぅ、せっかくだから三人でやって見るか」

 

 簪もようやく乗り気になったのか、コンドルウィングのお面を俺から受け取った。そして簪もビシッ!とポーズを取った。わぉ……完璧……本音はまた拍手を送るが、俺も思わず拍手をしていた。

 

「かんちゃんもカッコイイ~!二人は~本当に特撮が大好きなんだね~」

 

「ポーズを覚えるのは……特撮ファンの嗜み……」

 

「全くだな、この程度は造作もねぇ」

 

 俺と簪は腕を組みながら背中合わせになり、本音に対してドヤァ……とした表情を見せた……見えてないと思うけど。というか、視界が悪い……こっちもこっちであまり見えてない。

 

「でだな、スワンウィングのポーズだが……。こう来て、こんな感じ!」

 

「こうかな~?」

 

「違うよ……もっと肘の角度が……こう……!」

 

「えっと~……こ~お?」

 

「いや、惜しいな……それだと角度が付きすぎ。んで、スワンウィングはもっと優雅に……こうやって、こう!」

 

「ど、どう違うの~!?」

 

 特撮ファンによる一般人へ向けての演技指導が始まると、思いの他の厳しさに本音は本気でビックリしている様子だ。俺と簪は、熱が入ってしまう……その後しばらく演技指導は続き、しまいには動画をチェックしながらの徹底っぷりとなった……。

**********

 あの後は、しっかり本音に謝罪をした。特に気にしていない、と言うので俺達は気を取り直して祭りを楽しんでいた。あっちをフラフラこっちをフラフラ……ここら一帯を何往復も歩く。

 

 いろんな屋台を巡り彷徨っているうちに、やがて時刻は花火が始まる時間が近づいていた。という訳で、俺は簪と本音を連れ、ある場所を目指しているのだ。

 

「本当にこっちなの~かがみ~ん?」

 

「まぁ俺も親父に聞いただけだからな……。行ってみないと分からん」

 

「行き当たりばったり……」

 

 本当にな……もう少しちゃんと親父に聞いときゃ良かった。親父が言うには、花火が綺麗に見えて、なおかつ人も居ないに等しい特等席みたいな場所があるらしいのだ。

 

「そう言えば……真のご両親って……」

 

「ん~……親父は熱血って感じの人だな、俺とは似てない。お袋は……う~ん……最初に言っとくけど、暗くなるなよ?」

 

 俺はお袋に関しての事は、気にする必要はないという事を前置きとして、既にお袋は他界していることを伝えた。二人の表情は見る見るうちに陰って行く。

 

「ま、暗くなるなって方に無理があるか……。でも気にすんな、俺は大丈夫だから」

 

「かがみ~ん……」

 

「ごめん……なさい……」

 

「だぁっ!?いや、本当に気にしてねぇからな?」

 

 だから今までは親の話題をなるべく避けて来たのだが……多少強引にでも誤魔化した方が良かったのだろうか?でも……それだったら何か隠してるのも明白だしな……。

 

「あーっ!あそこじゃないか!?」

 

 とにかく今はこの雰囲気をどうにかしなくては、今更遅いかもしれないけれど、大げさに俺は特等席なる場所を見つける。そこは祭りの喧騒から少し離れたような、そんな場所だった。

 

 ちょっとした丘のようになっていて、人も俺たち以外には居ない。まさに特等席と言えるだろうが……お袋はどうやってここまでたどり着いたのだろうか?そんで、親父もよくお袋を見つける事が出来たな……。

 

 なんにせよ、こんないい場所を見つけてくれたことには感謝せねばなるまい。丘の天辺までたどり着くと、時間を確認する……本当にもうすぐ始まるな。

 

ドォン!

 

 その時丁度、花火を打ち上げる音が響いた。勢いよく空へ昇って行く花火は一定の高さまでたどり着くと、文字通り火の花を咲かせた。

 

「た~まや~!」

 

「か~ぎや~……」

 

「……ダメだ、何も言う事が思いつかん」

 

本音と簪は、花火が上がったときの掛け声としてはポピュラーな言葉を叫んだ。なんとなく俺も続こうとするが、やっぱ「玉屋」と「鍵屋」以外には無いよな。

 

 俺達はしばらく無言で花火を眺めた。一瞬のみしか咲き誇らないという儚さ、なんと美しい事なのだろうか。それに多種多様の色や形が、見る物を楽しませ飽きさせない。

 

 なるほど……コレは今まで随分と勿体ない事をしていたものだ。花火も祭りも、なかなか悪い物ではない……今俺は心から楽しんでいる。

 

「綺麗だね……」

 

「そ~だねぇ~……」

 

「あぁ……。……また来年も、見に来よう」

 

 俺がそう二人に語りかけると、二人は俺の言葉に同意するのと同時に、身を摺り寄せて来た。う、うむむむむ……べ、別にそう言うつもりでは無かったんだが……ま、まぁ良いか……役得役得。

 

 花火もいよいよクライマックスと言った様子か、なんだか寂しい物だ。花火の終わりは、何だか夏の終わりも物語っているようで……事実、夏休みももうすぐ終わりを告げる頃だし。

 

 そうすれば、またIS学園か……なに、嫌なわけでは無いけどな。昔の俺は嫌だと思っていたが、今は学園を楽しめている。そう思えるのは、俺の隣にいるこの二人のおかげだろう。

 

 二人に出会えて本当に良かった……そうじゃないと俺は、一生かけても変わろうなんて気は起きなかったに決まっている。まぁ……主にの話だけどな、ちゃんと一夏達を中心とした連中にも感謝はしてるさ。

 

 俺は多くの人の支えを噛みしめながら、残りの花火を眺めた。そのせいか、より一層侘しい気分にはなってしまったものの、忘れられない思い出になってくれる事だろう。

**********

「本当に、送らなくても平気か……?」

 

「も~……かがみんは心配性だな~」

 

「大丈夫……駅を降りればすぐだから」

 

 俺が送って行くために、簪の家にほど近い駅の切符を買おうとすると、二人に止められてしまった。二人は俺に悪いからと言うが、正直送って行かない方が悪い気が……。

 

 それでも二人は折れる事無く、結局俺が納得する形となった……。二人ともかなり頑固と言うか……送って行くと押し通せなんだ。けっこうな迫力だった……とだけ言っておこう。

 

「それじゃあ……また……」

 

「今日はありがとうね~!」

 

「ああ、また今度な」

 

 そうやって手を振る二人に、こちらも手を振って返した。二人の背中はゆっくりと改札の奥へと消えていく、ふむ……よく見ると、他にも祭りの帰り客が多いようだが……本当に、何事も無ければいいが。

 

 って、心配性だな……おい。本音に言われたばかりだと言うのに、今まで自覚が無かったのだろうか?なんか……二人とも、俺以上に俺の内面に敏感だ。

 

ピリリリリリリ……

 

 すると突然、携帯電話が鳴りだした。親父、簪、本音のいずれかかと思ったが、どうやら相手は爺ちゃんらしい。こんな時分に一体何の用事だろうか、もしかして……俺の事を調べて、何か成果が出たのかもしれない。

 

 そう思うと、ほんの数秒ほど出るのを躊躇ってしまった。だがそうと決めるのはまだ早い……内容は、蓋を開けてみるまで分からないのだから……俺は恐る恐る携帯の通話ボタンをプッシュする。

 

「……もしもし」

 

『あぁ、真……夜分に済まないね……今は、大丈夫か?』

 

「特には、何もしてねぇよ」

 

『そうか……。真、夏休みはどうかね』

 

「楽しんでるぜ、今も祭りに行ってたとこ」

 

 電話越しに爺ちゃんは、そうかそうかと満足そうな様子だ。爺ちゃんは、忙しい事だろう……もしかすると、まだ仕事場に居るのかもしれない。

 

 当たり障りのない内容なため、いきなり何が飛び出して来るかと内心警戒しているのだが、この様子なら心配ないのだろうか?しばらく世間話を続けると、爺ちゃんはいきなり切り出した。

 

『ところで真。いつか、私の元に来れるか?』

 

「う~ん……どうだろうな。今のところ予定は入ってないが、この先予定は開けとくことにする。だから爺ちゃんの仕事が緩い日を指定してくれよ」

 

 俺が尋ねるのは別にいいのだが、爺ちゃんの仕事を邪魔するのは気が引ける。この間だってそうだ……三島さんの様子から察するに、爺ちゃんは無理してでも時間を空けてくれたみたいだった。

 

『そうか、済まんな。後でスケジュールを確認しておく、その時に再度連絡しよう』

 

「分かった、それで頼む。それより……俺が必要って……?」

 

『何……ちょっとした相談事だ。若い者の意見も欲しいのだよ』

 

 そうか……何を決めるかは知らないが、ZECTの幹部に入り込める若者なんてのは、俺くらいしかいないのか。それならば、協力は惜しまないとも。

 

「あ~……もしかして、重役会議に巻き込まれるとか?」

 

『それは無いだろうから安心したまえ。私と意見を交わしてくれれば結構だ。そう言った物は、その後だな』

 

 スーツ着たおじ様たちの中に放り込まれるのは勘弁だからな、少し安心した。しかし……ココでは相談できない内容なのだろうか?ZECTなら仕方ない……と思うしかないかもしれない。

 

「了解した。それじゃ」

 

『うむ……またな。真、しっかりと学生らしく過ごすのだぞ』

 

 爺ちゃんは、ありがたい言葉を残して電話を切った。その言葉……今になって身に染みる。良く俺は今までんな暇~な夏休みを過ごせていたものだ……思い返してみるだけでゾッとするわ。

 

(んじゃ……帰るか……)

 

 あまり遅いと、親父に変な心配をされる。しかし……本当に出会わなかったな、かなり歩いたつもりだったのに、普通に見つからなかった。

 

 まぁその方が良いんだけどねぇ……もしかしたら、一方的にこちらは見つかっているのかもしれない。大勢の前で、変身ポーズとか取ってたんだし。

 

 とにかく、帰ってみたら親父と祭りに関して話して見る事にしよう。俺は通話を終えた携帯をポケットにしまい込むと、余計な寄り道などせず真っ直ぐ家に帰った。

 

 既に帰宅していた親父に話を伺ってみると、やはり親父はこちらを見つけていたらしい。そして、そのまましばらく本音と簪の事を根掘り葉掘り聞かれる。

 

 その時親父は「これほど楽しい職務質問は初めてだと」ケラケラと笑う。……なんでその例え方をするんだ、犯罪を起こしうる可能性は無いっての。

 

 あまりに清々しいその様子に、今回俺は怒る気力も無く、素直に親父の質問に答えていった……。親父も、なかなか意地悪な部分もある物だと思う16歳の息子であった。

 

 

 




次のZECT回で、夏休み編は最後の話になると思います。

本当は一夏や弾と遊びに行ったり、簪と本音が真の家に来る……みたいな話を計画していたのですが、いつかお話した通りに時間がねぇ……(怨)

という訳で、夏休みのラストがまさかのZECT回……。まぁ……とある理由からですが、それは次回を見ていただければ。

あえて予告はZECT回である……とだけ言わせて頂きます。

それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。

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