戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです!

気合で書いてたら何とか火曜日に投稿できました!やればできる子、私!

タイトルが若干のネタバレですが、新の奥さん、真のお母さんの名前は光葉さんですね。つまりは、加賀美 光葉さんと言う事です。

ちなみに旧姓の方ですが、コレは「つば」と呼んで下さい。いつも突然出てくるキャラの名前は適当ですが、これにはちゃんと理由がありますので。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


加賀美 光葉(旧姓 津波)ですが何か?

 日も完全に登った朝の時間帯……俺と親父は朝食を済ませ、外出の準備をしていた。そんでその身支度には正装である事が要求されるのだが……俺は脱衣所にて中学時代の学ランと格闘している。

 

 袖を通したのだが、どうにも入り辛い……もしや、と俺の頭に嫌な考えが過った。俺は急いで身長を測定してみる……あっ、ちなみに身長測定器がウチの脱衣所にはあって、すぐに身長が測れるのだ。

 

「ああああああああっっっっ!?」

 

「なんだなんだ!?どうした、真!?」

 

「また伸びてやがるぅぅぅぅ!それも3cm!」

 

 俺が大声を出すもので、何事かと思ったのだろう、親父がすっ飛んできた。そして俺の身長が伸びたことに対する嘆きだと知ると、呆れた表情を浮かべた。

 

「なんだ……そんな事か、ビックリさせるなよ……」

 

「うるせぇ!俺にとっては一大事なんだよ!」

 

 俺こと加賀美 真……現在の身長181cm……。これ以上いらないって言ってるのに……。あはは~……ついに俺も180cm代か~……。ええい!前に測ってから二か月弱しか経ってないのに!

 

「今日はそれで我慢しろ。IS学園の制服が黒ならなぁ……」

 

「全くだ……あれじゃぁ喪に服すにはふさわしくねぇかんな……」

 

 喪に服す……と言う言葉でピンときた奴もいるかもしれない。そう……今日8月15日……日本で盆とされる故人を悼む日は、皮肉にもお袋の命日なのだ……。

 

 ウチでは毎年、お袋の命日にはビシッとした格好で居ると決めている。親父も黒のスーツに黒ネクタイを締め、準備万端と言った所だろう。

 

「しゃーねぇ……窮屈だが、お袋に会いに行くんだから……多少の事は言ってられねぇか」

 

「着崩すなよ?」

 

「分かってるっての。親父……ネクタイ曲がってっぞ」

 

 人のふり見てわが身を直せってね……と言いながら親父の横を通り抜ける。親父は鏡の前で慌ててネクタイを締め直していた。さて……必要な物は持った……いつでも大丈夫そうだな。

 

「親父ー、はよ」

 

「悪い悪い!じゃあ、行くか」

 

 玄関で親父を急かすと、苦笑いを浮かべながら小走りで近づいて来た。俺はそれを見ると、靴を履き家を飛び出る。ちょっと遅れて親父も出てきたところで、家をしっかり施錠した。

 

 俺達の足は、駅に向かう前に商店街の方へ向かう。目的は、花を買うためだ……お袋は、どうやら花が好きだったらしい。特に白百合の花には何か格別な思いがあったそうだ。……これも、皮肉な話だ……献花によく用いられる花とは……。

 

 商店街の花屋に立ち寄ると、華屋のおばさんは毎年の事なせいか、既に白百合の花束を用意してくれていた。もう今年も、そんな時期なのね……なんて言う。

 

 白百合の花束を買い終わると、駅の方へ向かう。お袋の眠る場所は、都内から少し離れた場所にあるため電車に乗る必要がある。親父は当然車の運転はできるが、こちらの方が早いそうだ。

 

 毎年8月15日は、俺も親父も極端に口数が少なくなる。電車内では二人とも終始押し黙ったままで、ただただ静かに時間と景色だけが流れていくのだった……。

**********

「ぜぇ……ぜぇ……!ま、真……ちょっと待ってくれ……!」

 

「親父……やっぱ年か?」

 

 お袋の眠る霊園は、少し高い場所にある。なんでも、お袋は見晴らしの良い景色も好きだったらしい。それ故、向かうには少しキツイ上り坂が続くのだ。

 

 俺の若々しい歩みに付いて来れない親父は、息を切らせながら待てと懇願する。だが俺はあえて、挑発するような言葉を親父に述べた。

 

「……っの……!」

 

 親父はワナワナと口元を震わせるが、騒ぎ出しはしない。流石の親父も、故人が多く眠るこの場所では自重してくれる。だから親父は、何か言いたそうな様子で開いていた俺との距離をグングンと詰めた。

 

 親父は負けず嫌いだから、こう言っておけば大概追いついてくれる。ちょろいちょろい、本人に言えば恐らく殴りかかられるだろうが。

 

 そうしてお袋が眠る霊園の本部ともいえる場所に辿り着く。この場所は高さのおかげか涼しい風が吹く、そしてこのパノラマ……この景色ならきっとお袋も満足してくれている事だろう。

 

「真、どうかしたか?」

 

「いや、なんでも」

 

 立ち止まって景色に見とれてしまっていた。先を行く親父を追いかけると、確かにそこに点在している「加賀美家之墓」と掘られた墓石へとたどり着く。

 

「おっ……やっぱ今年もか……」

 

「ああ、ありがたい話だよ。誰かは分からないけど、いつも一緒に母さんの死を悼んでくれて……」

 

 何の話かと言うと、毎年お袋の命日には俺達が来るよりも先に献花がしてある。それも俺達のよりも立派な白百合の花束だ。

 

「ま、俺達も俺達でしっかりやんねぇとな」

 

「そうだな、始めるか」

 

 俺と親父は、加賀美家の墓石を掃除するところから始める。もう手慣れたもので、それぞれの役割も暗黙の了解で決定しているも同然だ。

 

 俺たち親子が見せるコンビネーションの中で、恐らく最も美しいのがこの作業だろう。だがもちろん流れ作業と言う感覚では無く、心を込めてやっているとも。

 

 掃除が終わると線香を焚いて、本格的にお参りを始める。しっかり両手を合わせ、俺の事を生んでくれた感謝の気持ちを精一杯捧げる事……それがお袋に対して出来る唯一の事だ。

 

 俺はお参りの相場からすると、長すぎるくらいに両手を合わせていたつもりだ。だがパッと頭を上げると、親父は未だに両手を合わせる事を止めない。

 

「…………」

 

 当然「長ぇよ」なんて無粋な事は思わない……親父の気が済むまでそっとしておく、これも毎年の事だ。俺はそっと立ち上がり、少し後ろで親父の背中を見守った。

 

「おや、加賀美さん……」

 

「あ……ども、世話になってます」

 

 俺の方に近づいて来たのは、この寺の住職さんだ。ペコリと会釈すると、向こうは丁寧なお辞儀で返してきた。お坊さんらしく、綺麗な所作だ。

 

「今年も、良い天気になりましたね。貴方達親子が揃う日は、いつも晴れやかです」

 

「あ、言われてみればそうですね。気が付かなかったです……」

 

「フフフ……きっと、お母様も笑顔でお出迎えしている事でしょう……」

 

 住職さんの言葉にほんの少しの微笑を浮かべると、住職さんは満足そうに頷いた。だが……顔を上げると、寂しそうな顔で親父の背中を見ている。

 

「……人の死と言うのは……かくも虚しい物ですな……」

 

「ええ……」

 

「これは……失敬……分かったような口を……」

 

「いえ、大丈夫っす」

 

 思わず口を出た言葉なのか、住職さんは慌てて謝罪をしてきた。もちろん、俺は気にしない……なにせ、本当の事だ。虚しい以外にどう例えれば良いのか……。

 

「そう言えば……ですけど、住職さん」

 

「はい、何でしょう?」

 

「あの立派な白百合の花束……毎年一体どなたが?」

 

「それが、申し訳ありません。私にもよく分からないのです」

 

 聞けば、住職も坊主なのだからかなりの早起きらしい。だけどいつの間にか、お袋の墓には毎年きっかりとこうして、花束が置かれているんだそうだ。

 

「そうですか……」

 

「お役にたてないようで……。む……?おや、もうこんな時間……私はこの辺りで失礼します」

 

「ええ、わざわざありがとうございました」

 

 どうやら住職さんは、俺達の姿が見えたので出向いてくれたらしい。そろそろ用事を済まさなければいけない時間なのか、ザッザッと草履を鳴らしながら慌てて去ってしまった。

 

 それと同時くらい親父はガバッと立ち上がる。少し下がった位置にいる俺にも聞き取れるくらいの声で「母さん、またな」と呟くと、元気に俺の方へ振り返った。

 

「よっし!待たせたな、真!」

 

「……もう、良いのか?」

 

 親父は俺の質問には答えず、黙ってバンバンと俺の肩を叩くのみだった。……空元気であるとすぐ分かってしまう……それだけに、痛々しい……。

 

(クソッ……!)

 

 歯がゆい、その一心で思わず心の中で悪態をついてしまう。なんでだよ……親父……辛いときには泣いて良いって、教えてくれたのはアンタだろ……。

 

「真?」

 

「……何でもねぇ」

 

 気付けば親父が俺の事を心配そうに眺めていた。俺が親父の隣まで追いつくと、二カッと俺に笑って見せる。……言える訳が無い……俺の前で、無理してほしくないのに……。

 

 親の心子知らず、と言うのなら……きっと逆もまた同じ場合もあるのだろう。だが……俺の胸の内にのみ仕舞っておこう……。親父が無理をしているのは、俺の為でもあるのだから……。

**********

「今年の夏は暑いな……しかし。真、もう前は開けて良いぞ?」

 

「いや、大丈夫……」

 

 俺と親父は、霊園のふもと辺りに位置する甘味処に入っていた……これも毎年恒例な。親父は宇治金時のかき氷を頼み、俺は餡蜜。親父のかき氷をザクザクと突く音は、どこか涼しげに聞こえる。

 

 俺は今、迷っていた……。親父に、お袋の事を尋ねるかべきかを……だ。顔しか知らない……その上遺影だ。親父も落ち込むだろうと思っていたし、触れるべき所では無いのは分かる。

 

 だが……最近になって、お袋が一体どんな人物であったか気になってしょうがない。親父とどんなことを話し、どのようにして惹かれあい、俺が生まれたのか……。

 

「……なぁ、親父。答えたくなかったら、答えなくても良い。だけどどうか聞かせてくれ。……俺のお袋って、どんな人だった?」

 

「…………」

 

 親父の手は、まるで時間が止まったかのようにピタリと止まった。数秒後にようやく動き出し、かき氷をテーブルの端の方に置くと、真剣な眼差しで俺に向き合った。

 

「そう……か、そりゃ気にもなるよな……。うん……と言うより、良く今まで聞かないでいてくれたよ。俺に、気を使ったのか?」

 

「まぁ……そりゃ」

 

「ハハハ……悪い。俺も未だに引きずってる所があるからな。だけど大丈夫、俺なりにしっかり向き合ってはいるつもりだ」

 

 そう語る親父の表情には、説得力はまるでない。よほどお袋の事を愛していたのだろう。俺がガキの頃から、女の気配は全くしなかったし、お袋以外には考えられないのかもしれない。

 

「あ~っと……どこから話すべきか……。真、名前くらいは知ってるよな?」

 

「っと……加賀美 光葉……だよな?」

 

 流石に俺だって名前くらいは知っている……けど旧姓は知らんな。と言うか……むしろ顔と名前くらいしか知らないとした方が良いのかもしれない。

 

 お袋は……何と言うか、若々しい見た目をしていた。可愛い寄りの美人……?とでも例えれば良いのかねぇ?優しそうなクリクリとした目に、日本人らしい綺麗な長い黒髪……。俺が分かるのは、本当にこれくらいだ。

 

「まぁ、うん……優しい人だったよ。だけど……ちょっとなぁ……ヌケたとこがあるって言うか、天然と言うか……」

 

「しっかり者では無かったのか?」

 

「いや、家事とか生活に必要なとこは完璧だったぞ。な~んかこう、浮世離れ?しててさ……どこかのお嬢様だったのかな~とか思ったり……」

 

「思ったりって……知らねぇのかよ」

 

 曰く、親父はお袋の過去に関しては詳しく知らないらしい。どことなく、はぐらかされていたそうな。親父も親父で、何か事情がある物だと思ったらしく、深く聞くことはしなかったんだとか。

 

「まず初めての出会いが衝撃的だったもんなぁ……」

 

「ほぅ……?どんな?」

 

「アレは今日みたいな暑い夏だったなぁ……。俺がまだ交番勤務だったころの話なんだけど」

**********

「あの~……少しよろしいでしょうか?」

 

「はいはい!何かご用でしょうか!」

 

 交番の入り口付近で声がしたので、新はバタバタと騒がしい様子で声のした方へ急ぐ。この頃の新は、念願かなった警察官になりたてで、現在以上に気合が入っていた時期だ。故に、必要以上に騒がしい。

 

「道をお尋ねしたいのですが……」

 

「はいっ!お任せくださ……」

 

 声からして、女性であることは簡単に予想だ出来た。だが、ここまでの美女が立っているのは完全に想定外だった。黒真珠のようにきれいな瞳、つややかな長い黒髪、白磁の様な肌……その全てが最上級と言っていいだろう。

 

 またその立ち姿は、何処か清楚さを醸し出している。新は思わず女性に目を奪われた。女性の方はと言うと、見られていると気が付かないのか、キョトンとした表情を浮かべる。

 

「お巡りさん?」

 

「ハッ!?す、すみません……。道……でしたよね?どこに向かいたいのですか?」

 

「それがですね……」

 

 聞けば、彼女は近場の幼稚園に用事があるらしい。それならば、地図を書けば簡単にたどり着けると新は踏んだ。紙を取出し、簡易的な地図を書くと、女性に手渡した。

 

「はい……これをどうぞ」

 

「あっ、コレはご親切にどうも。本当に助かりました、では」

 

 ペコリと丁寧にお辞儀をした女性は、新の書いた地図に沿って……行かない。まず初めに進みだす方向が真逆であった。新は慌てて女性を引き留める。

 

「ちょっ……た、タイムタイム!逆!?逆ですから!」

 

「へ……?」

 

 女性に「何か間違いでも?」とでも言いたげな視線で見られた新は、渡した地図を確認した。よく見てみると、ロクに地図を回転させずに、受け取ったままの方向に進もうとしたらしい。

 

 これには新は冷や汗が止まらなかった……とりあえず思ったのが、この女性を放置しておいたら色んな意味で危険であると言う事。

 

 もう一人交番に在中している先輩に相談したところ、道案内してやれと言われる。止めてある警察用の自転車を引っ張り出すと、女性と連れ立って歩くことに。

 

「わざわざ申し訳ありません……。私、いわゆる方向音痴という物でして」

 

「いえ、市民の皆さんあってこその我々警官なので、当然の事ですよ」

 

「フフッ、ご立派ですね。素敵な事だと思います」

 

 優雅に微笑む美女を前に、新は思わず鼻の下を伸ばす。女性の方に全くその気はないのか、ニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべている。

 

「あっ、私は津波 光葉と言います。よろしければ、名前を教えていただいても?」

 

「えっと、加賀美 新です……」

 

 光葉……と名乗った女性は、再度新に礼を言い深々と頭を下げた。新もそれに倣ってペコペコと頭を下げる……その様子を光葉は楽しそうな様子で眺めているようだ。

 

「その……津波さんは、幼稚園にどんなご用事で?」

 

「光葉で良いですよ。私は、幼稚園に読み聞かせをしに行く予定なんです」

 

 ホラとこれまた楽しそうな様子で、光葉は手提げのかばんから、数冊の本や紙芝居を取り出した。なんでも、ボランティアでそう言った事をチマチマ行っているのだとか。

 

 そうこう話しているうちに、光葉の目的地である幼稚園が見えてきた……のだが、どうにも光葉の表情が冴えない事に新は気付いた。どうかしたのか、と問いかける前に光葉は慌てた様子でメモ帳を取出し……膝から崩れ落ちた。

 

「ええ!?だ、大丈夫ですか?!いったい何が……」

 

「ここ……第二幼稚園……ですか?」

 

 プルプルと震える腕で、光葉は幼稚園の看板を指さす。するとそこには、確かに第二保育園と書いてあった。それがどうかしたのかと問いかけると、光葉は震えた声で答える。

 

「目的地……第二じゃなくて第一なんです……!」

 

「……は?」

 

 そんなはずはない、なぜなら第一幼稚園は、ここから数キロ離れた場所にあるからだ。いくら迷ったからと言って、こんな所まで辿り着ける訳が……。

 

「あぁ、私は……どうしていつもこうなんでしょう……うぅ……!」

 

「い、いやほら!元気出しましょう!?必ず俺が目的地まで連れて行きますから、ね!」

 

 本格的に泣き出してしまった光葉に、新は精一杯の励ましの言葉をかけた。ゆっくりと立ち上がらせると、光葉はよほど自分が情けないのか、フラフラだ。

 

「うぅ……す、すみません……」

 

「あ~……まぁ元気出して。誰にでも間違いはありますから……」

 

 新は話題を反らしてみたり、とにかくポジティブな声をかけてみるが、光葉が立ち直る様子は無い。結局第一幼稚園に辿り着くまで新はポジティブ発言を、光葉はネガティブ発言をしたまま歩くのであった。

**********

「……とまぁ、俺と母さんの出会いは……ってどうした、真?」

 

「いや……スマン……何と言うか……俺とは似てないな……」

 

 天然も天然……ド天然じゃないか。聞いてて途中から頭が痛くなったぞ……あ~……でも、生きててくれたらより楽しい家庭になった事だろうな。

 

「そうでもないぞ?いや、中身の話じゃなくてさ、真の顔つきは割と母さんに似てる」

 

「ふ~ん……?」

 

 まぁ俺の中身は前世の依存だからなぁ……よく思い出せないが、基本的なスタンスは前世と変わっていない気がする。で、こっちに来て悪化した……主に店長のせいで。

 

 会うたびに売り言葉に買い言葉……子供にすら容赦ねぇからな、あの人。なんか言い返さないと、あの人は余計に調子に乗るから……悪口が勝手に鍛えられてしまったのだ。

 

 話がそれたな、まぁ見た目も少しは似ているのなら良しとしよう。お袋との繋がりが、血しかないと言うのはいくらか寂しい所がある。

 

「で、その後は?」

 

「ん~……まぁ流れ、かな。いつの間にか会う約束をするようになってて、いつの間にか好き合ってて、いつの間にか結婚してた」

 

「軽くないか……?」

 

「いや~……母さんといるとな、振り回されっぱなしなんだよ。良くも悪くも唯我独尊だったから。そんなの気にしてる暇は無かったんだ。あっ、だけど俺と母さんが愛し合ってたのはホントだぞ?」

 

 誰もそこを疑ってる訳じゃねぇっての……。しかし……振り回される……か、苦笑いを浮かべながらそう言われると、親父の気苦労が少し伝わってきた気がする。

 

「俺は母さんに振り回されるのが楽しかったんだろうなぁ……。なんか、俺が付いていてやらないと……って気分にならされる」

 

「ん……そうか」

 

 だけどなんだろうか……俺も「いつの間にか」の枠組みに入っていたりはしないよな……?別に親父とお袋が愛し合って出来たのが俺ならそれで良いけど……いや、なんかそれは納得いかん。

 

「あぁ、そうそう。真……誕生日おめでとう。生まれて来てくれて、本当にありがとうな」

 

「…………」

 

 そう……お袋の命日と言う事は、今日が俺の十六度目の誕生日となる。どうにも俺は、この日の親父の「おめでとう」を受け止めきれないでいた。だけど、今は違う。

 

「親父……俺さ、正直今までその言葉はいらないって思ってた」

 

「…………」

 

「生まれて来ない方が良かったって、そんな事を思った事は一度もねぇ。だけど、俺が生まれなかったら……お袋は生きてたんだなって思う時は……あったよ」

 

「…………」

 

「でもそれは違う。命を引き換えに俺を生んでくれたお袋に、すっげぇ失礼な事だ。だからこそ俺は今、生まれて来て良かったって、心から思えてる。同時に、お袋に生んでくれてありがとうってな」

 

「…………」

 

「親父も、ありがとう。いつでも俺の親父でいてくれて、本当にありがとう。俺は……二人の子に生まれて、最高に幸せだ」

 

「…………あぁ」

 

 そうだ……俺は他でもない……親父とお袋に祝福されて生まれたのだ。だから……胸を張らないといけないな。俺の事を見守ってくれている……お袋の為にも。

 

「…………親父」

 

「どうした?」

 

「溶けるぞ、かき氷」

 

「何ッ!?あ、本当だ!?」

 

 どうにも暗くなってしまった雰囲気を変えるため、ドロドロに溶け始めた宇治金時を指さす。すると親父は、慌てた様子でかき氷を食べ進める。

 

「ずぉぉぉぉぅ……!キーンと来た……!」

 

「ハハハッ……当然の結果だな」

 

 その親父の行動は、わざとだと言う事がすぐ分かる。俺がからかうように笑ってやると、親父も大笑いを始めた。うむ……これで良い、俺たち親子はいつでも馬鹿騒ぎをしていればそれで……。

 

(お袋……俺と親父は、元気でやってるぞ?)

 

 そんな事を思いながら、天井を仰いだ。俺がそうして上を見てる間に、親父はしめたと言わんばかりに俺の餡蜜を食べた。それもゴッソリとな…………切れて良い?

 

「ああああ!?何やってくれてんだクソ親父!ゆっくり食べようと思ってたのに!」

 

「悪い悪い。コレ、食うか?」

 

「いらんわ、そんな溶けかけのかき氷!だいたいな……」

 

 俺たち親子はリングを選ばない。この夏に入って何回目になるか分からないケンカ……もといじゃれ合いのゴングが鳴った。と言っても、口喧嘩で済ましてるけど。

 

 やんややんやと騒ぐ俺達は、さぞかし他の客に迷惑だったことだろう。ケンカの収まった俺達は、店の雰囲気に負けるような形で、店を後にする。……出禁じゃね?これ……。

 

 と、とにかく……加賀美家で一番のイベントは、五月蠅く幕を閉じる事になる。ハプニングはあったものの俺も親父も、満足した様子で家路につくのだった。

 

 

 




光葉さんがどんな人物であるか、というのはだいたい掴んでいただけたでしょうか?まぁいわゆるドジッ娘属性ですね、それとデスマス口調。

今回はあくまでどんな人物であるか、と言った所ですが……今後も光葉さんの話は定期的に出てくることになると思います。

光葉さんですが、超重要人物だったりします。だから例の如く、ゆっくり紐解いていきますので、どうかお付き合いください。

それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。

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