戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

久々にゆっくり小説をかける時間が出来て、気合が入ってました。それは良いんですが、気合が空回りした感じがあります。

おかげで夏のデート簪編……かなりグダグダしてます。簪ファンの方は大変申し訳がない……!未熟な私を許してくださいね……。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


簪とデート!(歓喜)ですが何か?

 東京都……日本における首都であり、総人口は約1300万人を誇る。それだけで無く、観光できる場所も多いため余所から来るものも多いだろう。

 

 ちなみにだが、ある年の外国人の来客は1300万人を超えているらしい。……人口と同じくらいの人が来るってどんなだよ……。その分、見て回る場所も多いと言う事の裏付けなのだが。

 

 ……さっきから何が言いたいかと聞かれると……人が多い!のらりくらりと躱して歩かなければ、不注意を起こして人とぶつかってしまうだろう。

 

 具体的に東京の何処かと言いますと……今俺が居るのは秋葉原だ。日本のサブカルチャー文化の中心となる場所として有名だろう。とりわけ、特撮もその一部……だよな。

 

 実はと言うか、意外と思われるかもしれないが……俺も良く秋葉原は利用する。大手のレンタルビデをショップや、玩具屋などでは古い特撮のDVDやグッズを取り扱っていなかったりする。

 

 どうしても「アレが見たい!」「アレが欲しい!」と思った時にはフラリと訪れ、行きつけの特撮専門店に買い物をしに来るのだ。

 

 では、今回もそうなのかと思う事だろう。今回は例外だ……俺が来たのは呼び出されたからだ。本音とのデートから2日後くらいだろうか?簪からメールが入って来た。

 

 「秋葉原に行きたいから、着いて来てくれないか」みたいな感じ、断る理由は全く見当たらないので快諾したが……どうも心に引っかかりがある。

 

(二股してる気分だ……)

 

 いやいや、分かってるって……本音も簪も俺の彼女じゃ無い。だがな、なんとなくそう思わざるを得ないんだよ……。それだったら、二人のうちどちらかに決めろって?それが出来ないから苦労してるんだろうが。

 

 簪に会う前から、軽く自己嫌悪に陥ってしまう。はぁ……ダメだな、こんな顔して簪に会う訳にはいかん。俺は表情を引き締め、待ち合わせ場所にいる簪を……捉え……?

 

「あの、私……男の人と待ち合わせで……」

 

「いいじゃん!こんな所で遊ぶより絶対楽しいぜ」

 

「それに、男って言ったてよ、どうせキモオタだろ?そんなのより俺らの方がオススメだよ?」

 

 簪が居るのは良しとしよう……だが、余計な屑が二匹ほど纏わり付いていやがる。……何だこれ?無性にイライラするや。普段こんな事は思わないんだが、屑二匹をぶっ飛ばしたくてたまらない。

 

 気が付けば、俺は駆け足で屑二匹の方に近づいていた。そのまま片方……一匹の方の肩を強く握りながら話しかけた。屑Aは、苦悶の表情を浮かべながら俺の方に振り返る。

 

「おう、キモオタで悪かったな」

 

「いっ!?ってぇなぁ!テメェ……今いい所なんだよ、邪魔すんな!」

 

「全くだぜ!ぶっ飛ばされてぇのか?!」

 

「……お前らの言い分を聞く気はないんだよ。一つだけ言わせてもらうぞ、その子に指一本触れてみろ……そん時はテメェら……ぶっ殺すよ?」

 

 ふむ……どうやら俺は怒っているらしい。こういうセリフは、割と冗談で済むレベルで使うようにしているのだが、屑二匹に対しては本気で殺そうと思える。

 

 今の俺がどんな表情をしているのかは知らんが、屑二人は見る見る顔を青くしていく。屑Aは俺の腕を強引に振り払うと、そそくさと逃げて行った。屑Bもそれに続き、逃げて行く。

 

「真……ありが「簪!」はっ、はい……!?」

 

「痛い事とかされなかったか!?怖かったよな……。スマン、俺がもっと早く来てれば……」

 

「だ、大丈夫……真が来てくれたから」

 

 簪の言葉を遮り、俺は問い掛けた。俺のあまりに必死な様子に、簪は面食らっている。自分でもらしくないとは思う、だけど……こうしないと居ても立ってもいられない。

 

「それに……う、嬉しかった……よ?私の事、そんなに大切に想ってくれて……」

 

「あ、あぁ……そりゃ、簪は大切だ……」

 

 顔を盛大に赤くし、モジモジとしながら簪は俺にそう言った。俺も俺で、とんでもない事を言ってるが……本心だ……否定はしない。例の如く敬語が飛び出そうになるが……何とかこらえた。

 

 二人して顔を赤くしながら、なんとなく気まずい雰囲気を周囲にふりまく。その様子を察知したのか、周りから爆発しろとか聞こえる……秋葉原に居るなぁと実感する瞬間だ。

 

「も、もう行こう。時間は有限なんだ……出鼻を挫かれた分を取り返さなきゃな!」

 

「そうだね……今日は一緒に楽しもう?」

 

 俺は簪に手を差し伸べると、笑顔を浮かべながらそれを握ってくれた。本音の時は腕ごとだったが……なんとなく、簪とはこっちの方が落ち着く。

 

 それでも、簪の手は絵に書いたような「女の子の手」と言った感じで……握っているとドキドキする事には変わりないんだけど……。……敬語だけには注意しなくては。

 

「やっぱり貴方は……私のヒーロー……」

 

「ん……?悪い、簪。何か言ったか?」

 

「な、なんでもない……から……!」

 

 今確かに、簪が何かを呟いたのだが……聞き返すと何も言っていないと返される。……こういう時は、しつこく聞かない方が良い。一夏を観察している限りは、そうだ。

 

 いったい何を呟いたのか……顔を赤くして俯いたままの簪を少し引っ張りながら歩き出す。さて、秋葉原散策を始めるとしようか……。

**********

「所でだけどよ、何処か行きたい所でもあったのか?」

 

「ううん……。ただね、真と……一緒に歩きたくて。私は、良く秋葉原には来るから……」

 

「そうか、じゃあ歩きながら目的地を探るか」

 

 予定は未定……うん、それも悪くない。目についた場所に立ち寄るもよし、フラフラと人の流れに沿って行くのもよし……。目的を探るのをしばらくは目的としよう。

 

(それにしても……)

 

 なんか、簪の雰囲気がいつもと違う気がする……。そう思い、よくよく簪を観察してみると……どうやら簪はメイクをしているようだった。

 

 メイク、と言っても非常に控えめなものだ。だがそれが逆に、簪の良さ、と言うか可愛さを引き立てている。……いつもより大人っぽいな……うん……全然アリ、むしろ可愛い。

 

「真……私の顔、何か付いてる……?」

 

「んぁ!?あ~……その~……簪……今日は一段と……一段と……良い天気だな!」

 

「…………真のバカ」

 

 盛大に誤魔化すと、そっぽを向かれた。簪は、俺が簪がメイクをしている事に気付いてる事に気付いてるらしい……ややこしい言い方しかできん。それで期待を持ってわざわざ顔に何か付いてるか、と聞いて来たのだろう。

 

 ……俺も俺だよ、どんだけヘタレだ……いい加減にせい。気恥ずかしいセリフでも、サラッと言える男になりたい……いや、今なってしまえばいい。絞りだぜ、もうそこまで来ているのだから。

 

「綺麗だぞ……」

 

「え……?」

 

「いつもより、綺麗だ。簪らしくて、いいメイク……だと思います……」

 

 だぁ!だから敬語は止めろよ、俺!?なんで最後の最後で「ですます」が付くんだ!いろいろ台無しな事山の如し。それでも簪は、嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「あり……がと…ぅ……」

 

「いや……嘘言っても仕方ないし……」

 

 簪は、より力強く俺の手を握った。俺もそれに答えるかのように、簪の手を握り返した。……ハズイし気まずい……簪が黙るから余計……。あ~……何か気の紛れる物は……。ん?アレは……?

 

「あんな所に、店があったっけか……?」

 

「ホントだ……見覚え、無いね」

 

 俺が指差した方向には、ピカピカの新築みたいな店舗が一軒建っていた。よく見ると、新装開店の幟が出ているな……。アニメ、特撮、なんでも取り扱っています……か、興味をそそられる。

 

「入ってみる……?」

 

「ん……良いのか?」

 

「目的を見つけようって言ったのは、真だし……」

 

 それもそうだが、デート中に俺の趣味全開な行動をとって良いものなのかね……?だけど思ってみたら、簪と一緒だからこそこういう場所に来られるのも事実……。

 

 ここは羽を伸ばすつもりで、簪と共通の趣味を楽しむ事にしよう。俺は少し胸が躍っているのか、強めに簪の手を引き店に入って行った。

**********

「て、天国だ……!」

 

「そこまで……?」

 

 俺と簪の足は、すぐさま特撮のコーナー……と言うよりはフロア丸々でジャンル分けされており、一気に三階まで駆け上がった。俺はついて早々、小刻みに震えながらこのフロアを天国と比喩する。

 

 フッフッフ……甘いな、簪よ……ここを天国と思えないのならば勉強不足と言わざるを得ない。だって……70年代から近代作品までビッシリ置いてあるんだもの!

 

「ヤッベ、テンション上がる!ひゃっほう!行こう、簪!」

 

「え……ちょっ、ちょっと、真……?」

 

 簪は俺の豹変っぷりに面喰っているようだが、それにすら気づけないくらいに俺のテンションはダダ上がりだった。というか、特撮関連の時は俺のテンションはこんなもん。別に見せる機会が無かっただけの事よ。

 

「んぉ!?「幻獣戦隊 レジェンジャー」が!今じゃ入手困難な作品を良く……何!?「銀河探偵シリーズ」もずらりと並んでやがる!」

 

「真……」

 

 ハッ!?しまった……興奮のあまり簪をスルーしてしまった感がある。ま、まずいか……?俺は恐る恐る簪の方を眺めた。すると簪は、クスクスと笑いを堪えているらしい。

 

「か、簪……?」

 

「ご、ゴメンね……?フフッ……まさか、真にそんな一面があるなんて思わなくて……」

 

 簪は口元と腹を押さえながら、プルプルと震えている。馬鹿にしているつもりは一切ないのだろう……単純に、俺の高低差が激しいギャップに思わず……みたいな?

 

「ん~……まぁ簪の前だしなぁ……」

 

「え……?」

 

「多分、簪の前だから、こうやってガキっぽくいられるんだと思う。他の奴らに、この面を見せる気にはならねぇし……」

 

「そ、そう……」

 

 すると簪は、笑うのを止め俺の方を向きながらモジモジ……。……あ~……何気に恥ずかしいこと言ってたか、無自覚だな今の。でも取りようによっちゃあ「俺が俺らしくいられるのは、簪の前だけ」と取られかねない。

 

 いや、別に俺もそういうつもりで言ったんだけども……。な、なんかハズイな……俺も顔を赤くしながら簪から目をそらす。簪といると、こういう雰囲気になる事が多いな……こう、二人して照れるって言うか……。

 

 傍から見ると、俺達は「初々しい二人」にでも見えるのだろうか?……悪い気はしない……いや、そう見られても構わない。何だろうか、やはり簪といると……落ち着くなぁ。

 

「とは言え……節度は持たないとな。あっ、今のは内密に頼むぞ?」

 

「フフフ……うん。私だけが知ってる真の秘密だね……」

 

 俺の言葉に、簪は何か嬉しそうな表情で答えた。その仕草を見て、俺はまた照れる。あ~……もぅ、いつまでたっても慣れんな、俺は。

 

「真……私、古い特撮とか詳しくないから……教えてくれると嬉しい……」

 

「おっ、それなら任せろ。なんつったって、そう言うのは全部ココに詰まってっからな」

 

 俺は得意げにこめかみを人差し指で、トントンと叩いて見せる。暗記するのは苦手な俺だが、趣味となると話は別だ。ありとあらゆる特撮の知識については、不必要な部分まで記憶している。

 

 こうして、俺の特撮解説のコーナーが始まった。ペラペラとマシンガントークで話す俺に、簪も楽しそうな表情で聞いてくれた。簪の質問に、俺は長々と話し続ける……。

**********

「スマン、簪……流石に度が過ぎた……」

 

「ううん……私は楽しかったよ……」

 

 結局俺は二時間近く話し続けてしまう……節度を持つとは一体なんだったのか。もうそろそろ昼時だ……どこか飲食店に入る事でも考えなければ。

 

「簪、そろそろ飯にしないか?」

 

「あっ……う、うん……そうだね……」

 

 ?何だろうか……微妙な反応が返ってきた。別に食事自体に反対しているわけではなさそうだが、俯いて少し元気が無さそうになってしまう。……聞くべきか、止めておくべきか……。

 

 一夏の野郎は地雷を踏み抜いて行くスタイルだが、奴を見習うのは良くない……。ここは簪が自分で話してくれるのを待つべきだろう。

 

「……の前に、少し休憩するか。立ちっぱなしで疲れちまって……」

 

「わ、分かった……」

 

 まぁ簪の事だから、俺の意図なんてお見通しなんだろう。その辺りは、本音も簪も異様なほどに鋭いと言うか……。俺はわざとらしさをごまかすように、強めに簪の手を引いた。

 

 俺が前を歩き、簪を引っ張っていく。チラチラと簪の様子をうかがってみるが、同じく簪も俺の様子を見ているらしい。…………飯の話が出てからこんな感じだな。

 

 少し人ごみから外れた所に、ベンチを見つけた。俺と簪はそこに腰掛ける……。休憩だと言うのに、簪は緊張しているような様子で強張ったままだ。

 

「ま、真……あのね。お昼の話だけど……その……コレ……」

 

「コレは、弁当箱?もしかして、作ってきてくれたのか」

 

 意を決したように、簪は持参していた手提げかばんから大きな箱を取り出した。俺の言葉に簪は、あまり自信が無さそうに頷く。

 

「その……真とは、お料理が出来るって聞いたから……自信とかなくて……。で、でも……真には、私の手料理を食べてほしくて……」

 

「…………」

 

「真……?」

 

 何も答えない俺に、簪は更に不安そうな表情になる。俺と言うと、あまりの嬉しさに言葉が出ないだけであった。店を除くと他人の手料理を食べるなんてのは初めてだ。

 

 それに簪がわざわざ俺のために作ってきてくれた……その事実が嬉しくて堪らない。だけど……いくら嬉しいとはいえ、何か答えてやらないと、簪は今にも泣きだしそうだ。

 

「いくら俺でも、作って来てくれたのに文句は言わねぇって。それにさ、顔に出さないだけですげぇ嬉しいんだぞ?ありがとうな、簪」

 

「う、うん……!」

 

 簪はようやく表情を明るい物にして、今度は大きく頷いた。しかし……親父の言っていたことが、まさかこうも早くやってくるとは思わなんだ……。

 

 とにかく、簪から受け取った弁当箱を開くことにしよう。弁当箱は二段重ねの結構大きめなサイズで、上段にはバラエティ豊かなおかずが、下段にはお握りが入っている。

 

 しかも、おかずの方は色取り取りで、栄養のバランスもしっかり考えられているようだ。……もしかして、俺が栄養についてクドクド言ったからか……?

 

 そんな事より……自信が無いとは言っていたが、別に心配をするような要素は見当たらない。簪はもう少し自分に自信を持つべきだろう。

 

「美味そうだな」

 

「そっか……良かった」

 

「んじゃ、早速……いただきま……」

 

「あっ……待って。真は……どれが食べたい?」

 

 両手を合わせ、いただきますを言おうとすると、簪に止められる。どれが食べたいか聞かれたので、俺は「じゃあ……」と言った感じで厚焼き卵を指さした。

 

 簪は箸をワンセット取り出すと、俺が指定した厚焼き卵を丁寧に挟み取る。そしてそのまま、俺の方に差し出す。これは所謂「あ~ん」という奴だろうか。

 

「あ~ん……」

 

 どうやら大正解らしい。ご丁寧に簪は、しっかり「あ~ん」と言って俺を期待の眼差しで見ている。ズズイと差し出される卵を、気恥ずかしいながらも口に入れた。

 

「ど、どう……かな……?」

 

「うん、美味い……世事とか全然抜きで。簪らしくて優しい味だ」

 

「…………」

 

 俺が率直な感想を述べると、簪は顔を真っ赤にして押し黙る。照れてる簪は可愛いなぁ……保護欲を駆りたてられるというか、何と言うか……。

 

「つ、次は……?」

 

「次……!?え……っとそれじゃあ……」

 

 ここでおしまいと思っていたが、予想外の二度目だ。と言うより……二度三度の話では無かった。一つ食べ終わっては、また「次は?」と聞かれ……それが長い事続いた気がする。

 

 流石に俺は中止を提案した。俺としては役得でしかないのだが、これでは簪が食べられないし、いつまでたっても食事が終わら無い。

 

 提案を出した時には、簪にすっげぇ残念そうな顔をされて心苦しかったが……ここは一つ心を鬼にして……な。簪はもうワンセット箸を取りだし、料理に手を付け始める。

 

 うん……どう見ても量的に二人分だもんな……。俺も男だし、良く食う方だが流石にこの量は無理だ。その後簪とは、取り留めも他愛も無い話をしながら、食事を進めた。

**********

飯を食い終わると、俺達は再び歩き出す。どこに行くかは迷ったが、簪を俺の行きつけの店に連れて行ってみる事にした。簪曰く、俺の私生活を知れるのは良い事なんだそうな……。

 

 俺の足が進む方向は、どちらかと言えば寂れている方だろう。だからこそ見つけた穴場スポットと言うか、むしろ多くの人に知られるのは逆に勿体ない店だ。

 

「よし、着いたぞ簪」

 

「…………ここ?」

 

 簪は不思議そうに首を傾げた。それもそのはず……明らかに開店している様子が見られないからだ。だがこの店はこれが当たり前……そんなやる気のない店の名は「英雄館」。

 

 どちらかと言えば、ホビーやグッズ等々を取り扱っている店で、店主の口癖は「ウチは業務提携してっから」なのだが……どこまで本気なのか分からない。

 

「まぁ……とにかく入ろう」

 

「うん……」

 

 ハイテクのご時世だと言うのに、いまだに手動ドアを押す。ドアの隅にはベルが設置していて、カランカランと言う音が店主に俺達の来店を告げるのだが……。

 

「らっしゃいやせ~……」

 

「相変わらずやる気ねぇな……」

 

「ん?よぉ、坊主か久しいじゃねぇか、くたばったのかと思ってたぜ」

 

 いかんせんやる気のないこの店の店主は、新聞から目を離さずに俺達を出迎えた。声をかけると、ようやく俺だと気付いたらしい。

 

 新聞をその辺にポイッと投げ捨て、カウンターにドンと肘を置きニヤニヤと笑みを浮かべる。この人は……通称「店長」。本名や年齢は共に不詳……聞いても教えてくれないのだ。

 

 それと、こんな口調だがれっきとした女性だ。鋭い目つきと、手入れの行き届いていない黒のストレートヘアが特徴で、一部からは店長のほかに「姉御」と呼ばれているらしい。

 

「まぁな、全寮制の学校に通ってっから」

 

「カッカッカ!そりゃぁ来られねぇな。で?今日はどうしたんだ?美人のお姉さんに会いたくなったか?」

 

 店長が超絶美人である事は認めるが、流石に冗談で言ってるのは丸分かりなのでスルー。店長はつまらなさそうにこちらを見ると、ようやく簪の存在に気付いたらしい。

 

「坊主、お前……女とデートしてんのに、んな店連れて来るとかどういう神経してんだ。これだから童貞は……男だったらホテルなりなんなり連れ込んで一発ヤッちまえよ」

 

「もはや女の発言じゃねぇ!?つーか、童貞関係ないだろうが!いい加減にしろ!」

 

 店長は俺にゴミを見るような視線を向ける。遠慮のかけらも見られない下ネタトークに、簪は顔を真っ赤に染め、グルグルと目を回してパニックを起こしているようだ。

 

「簪も特撮好きなんだよ!だから連れて来たの!客減らすような発言は止めろ!」

 

「あーあー……き~こ~え~な~い~。……ったく相変わらず口五月蠅ぇなぁ、坊主はアレか、オレのお母さんか?」

 

「誰がお母さんか!」

 

 この人ばかりには一生敵う気がしない……。こうやって飄々としてて、俺が反撃しようとしても軽く躱され逆に俺が騒ぎ出す羽目になるのだ。

 

「んで、お嬢ちゃん。名前は?」

 

「あっ……更識 簪です……。どうぞよろしく……」

 

「ふ~ん……。お嬢ちゃんよぉ、隣のツンデレ野郎の何処が好きになったんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「簪、答えなくても良いからな」

 

 店長は、興味津々といった感じでカウンターから身を乗り出している。年齢は不詳な訳だが……どうにも子供っぽい。見た目は異様に若いからな、見た目は完全に二十代のソレで……あっ、今思えば織斑先生に似てるかもしれない。

 

「んだよ、彼女の評価は気になんねぇのか」

 

「……彼女じゃねぇよ」

 

「へぇ~、んな可愛い子を飼い殺しかよ。しばらく見ねぇ内に下種になったな、童貞」

 

「その童貞言うの止めろや!つか、相手は選べ……簪が困ってるだろ」

 

 さっきから続く店長の言葉に、簪は顔を赤くして困り顔だ。これには店長も悪いと思ったのか、気まずそうな表情を浮かべる。

 

「おっといけねぇ……。悪ぃな嬢ちゃん、ちょっとふざけ過ぎちまって」

 

「いえ……その、大丈夫ですから……」

 

 別に店長もいつもはここまでふざけないんだけど、俺が女の子を連れて来たのがよほど珍しいのか……?まぁもっと小さな時からの間柄だしなぁ、それこそ俺の姉的な気分なのかもしれない。

 

「ほぉ~お嬢ちゃんはチャージマンが好きか、いい趣味してんな。あの男臭さがたまらんよな」

 

「分かります……!まさにヒーローって感じで……」

 

 いつの間にやら店長と簪は、特撮トークで盛り上がっているらしい。多分簪にとっては、初めて同じ趣味を持つ同性なのだろう。自然と意気投合できたようでよかった。

 

「ああ、そうそう……お嬢ちゃんに良い物をやろう。どこに仕舞ったっけか……」

 

 そう言って店長は突然奥の方へと消えていく、あの口ぶりからして探し物があるのだろうが……良い物ねぇ?秘蔵のお宝なんて持ってたのか、俺でも知らんぞ。

 

「んなっ!?もしかして、ソレは……店長!それだけは勘弁してくれよ!?」

 

「良いだろ別によ、古き良き思い出じゃねぇか」

 

「……?」

 

 店長が取り出してきた簿は、一冊のアルバムだった。ソレを簪に上げるつもりか……?そんなんで簪が喜ぶとは思えんが……。

 

「あの……それは……?」

 

「坊主の成長記録って所か」

 

 よっと、と呟きながらカウンターでアルバムを開く店長……俺はその姿を諦め加減で眺める。そう……店長が言った通り、アレに収まってるのは俺の写真だ。

 

 しかも無駄にテンションが高いときの……な。そのため、俺にしては笑顔の写真は多く、中には変身ポーズを決めてるのもある。俺からすれば、黒歴史アルバムでしかないのだ。

 

「ガキん頃はもう少し可愛げがあったがな、最近は恩人にも冷てーのなんの……」

 

「……ま、真……可愛い……」

 

「だろ?こん時なんかよぉ……」

 

「あ゛ー!連れて来た俺が間違いだったああああ!」

 

 本気で選択ミスだった……店長に会いに来たら、なんとなくこうなる事は予想が出来たはずだ。今度は俺の思い出話に花が咲く、俺は今すぐにでもここから逃げ出したい気分だ……。

**********

「そんなに嬉しいか、ソレ……?」

 

「とっても……!」

 

 簪は俺の黒歴史アルバムを大事そうに抱え、ニコニコと微笑んでいる。それも今日で一番と言うくらいの笑みだ……俺としては、何だか複雑な気分だよ……。

 

 しかし、随分と長い事話し込んだものだ……せっかく簪とデートしに来たってのに……。もっとそれらしい場所に連れて行くべきだったよな。簪が特撮好きだからって、流石にこれは無い。

 

「どうしたの、真……?」

 

「なんか、ゴメンな……あまりデートっぽい事が出来なくて」

 

 俺は自嘲じみた表情を浮かべながら、ポリポリと頬を掻いた。すると簪はパラパラとアルバムを捲り、一枚の写真を取り出すと残りは手提げかばんに仕舞った。

 

「この写真……俺が中学くらいの時だな。これが、どうかしたのか?」

 

「実はね……私、この頃の真と一回会ってるんだよ……」

 

 それは……簪と俺は初対面では無かった……と言う事だろうか。だが……俺は簪に会った時の出来事を全く思い出せない。どういう状況だったんだ?

 

「怖い人に絡まれてる時に……真が助けてくれた……」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「うん……あの日から、真はずっと私のヒーロー……。真の事を思い出したら……どんなに辛くても頑張れて……」

 

 簪は俺の右手を取ると、自らの頬にそっと密着させた。簪の肌は少しひんやりしているものの、確かな温かみを感じる。俺は思わず簪の頬を撫でた……簪はくすぐったそうにするが、構わず言葉を紡いでいく。

 

「貴方を……貴方の事をずっと想ってた……。そんな人と再会できて、今貴方は私の隣にいてくれる……。それだけで私は、凄く幸せ……。だから謝らないで……?貴方の傍に居られるだけで……私は……」

 

「…………」

 

 簪の言葉に、俺は脳がグワングワンと揺れるような感覚を覚えた。臨海学校の時と同様に、簪を抱きしめたい衝動に駆られる。前回はなんとか耐えたが、今回は無理だ。俺はいつの間にか、簪を抱きしめていた。

 

「簪……スマン、俺は……」

 

「大丈夫……いつまでも、待ってるから……」

 

 俺が謝った理由を、簪は察してくれたらしい。今のは……混じり気の無い俺に対する簪の想い……。本当だったら、今にでも受け入れたいくらいなのに……。

 

 だが俺は、ここでそれがどうしても出来ない。……俺としては、簪と本音との事を……簡単に決着をつけるのは無理だ。例えそれが、二人を苦しめる事になったとしても……。

 

「もっと……ギュッてして……?」

 

「……あぁ」

 

 簪のおねだりに、俺は更に強く抱き寄せた。心臓が五月蠅くて仕方ない……だが簪は、そんな俺の鼓動に耳を傾けているようだ。それが俺の心臓をまた早める要因となる。

 

 俺は簪が自分から離れるまで、ずっとその手に力を込めるのを止めない。だって……今の俺には、これくらいしかしてやれる事が無いのだから。

 

「……帰ろうか……?」

 

「そう……だな……」

 

 店頭と話し込んだおかげで、時刻はもうすぐ夕暮れだ。ここから帰る事になると、本音の時とは違い完全に日は沈んでしまう事だろう。今回は、無理を押してでも簪を送り届ける必要がありそうだ。

 

 なんというか、常に二人とも照れっぱなしだったな……。うん、次は俺から誘ってみる事にしよう。俺って誘われてばっかりだし、何処ならば簪は喜ぶだろうか?

 

 そんな事を考えながら歩く俺だったが……やっぱり心の奥底がモヤモヤとした感じ……。こういう時に頼りになるのが親父である。今日も帰ったら、プロレスに付き合ってもらう事にしよう。

 

 

 




という訳で、真と簪の秋葉原散策でした。感想で思いっきり的中されてしまい、かなり焦りましたがね……なぜか悪い事をしたのがばれたみたいな気分でした。

話は突然変わりますが、個人的にEDで踊る戦隊は面白い作品が多いと思う。一番初めはアバレンジャーでしょうか?

何でこんな話をするのかと言うと、トッキュウジャー終わっちゃいましたからねぇ……次回作のニンニンジャーのEDが躍るかどうか、楽しみでならない今日この頃です。

だからと言って、踊らないから面白くない!……って言ってる訳じゃないですよ?ニンニンジャーの放送は2月22日から……皆さん!必ず見ましょうね!

次回は、真の母親について触れてみたいと思います。また原作のキャラは出て来なさそうだ……。

それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。

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