戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

もう一月も終わりですね、早ぇのなんの……。特に二次創作なんか書いてると時間の進みが早く感じます。

充実した毎日を遅れている証拠なのでしょうが……むしろ時間が足りねぇ!キーボード叩いてて、気が付いたら外が真っ暗ですわ!最近運動もしてないから体重も増えた!

はぁ……もっと筆を速くしたいものです……。そしたら外にも出られるのに……。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


四章 ~夏の幕開け~
長期休暇の前に(一仕事)ですが何か?


 臨海学校から戻ってきた俺達は、ごく普通の学生として勉学に励み、ごく普通に夏休みを迎える。……その前に忘れてならないのが期末テストだ。

 

 とは言ってもテストはとうの昔に終わり、現在はテスト返却の真っ最中と言った所か……。もう二、三日もすれば終業式……そして俺達は束の間の学園生活から解放される。

 

 まぁ俺は福音戦のペナルティが残っておりますけれども……夏休みに支障が出るほどでもないし……。最悪一日潰れる程度のモンだろう。

 

 さっきの時限に返却されたのは数学のテストだった。得意と苦手がハッキリと分かれる分野のせいか、思いの他点数が良く喜んでいる者が居れば、逆に暗い雰囲気を出している者も居る。

 

 で、俺の目の前に座る織斑 一夏は暗い雰囲気の方。答案用紙を眺めながら頭をガシガシ掻いている。別に勉強が出来ない方ではないのだが、苦手科目か?

 

「なぁ……真。どうだった?」

 

「別に、いつも通り」

 

「胸を張っていつも通りって言えるのは、羨ましいな……」

 

 サラリとそう答える俺に、一夏はますます肩の力を落した。テストの点なんて他人と比べても仕方のねぇ事だと思うんだが、得てして人間比べたがる生き物か。

 

「具体的に何点……って九十六点!?」

 

「俺的には四点分の凡ミスが許せん所だ」

 

「強者の言葉だな」

 

 理論的に考える事柄については大歓迎だね、ただし暗記科目テメーはダメだ。主に社会科とか歴史とかだな……年号とか一々覚えてられるかっての。苦手っつっても高得点はマークしてるけども。

 

「そう思うんなら、もっと努力するんだな」

 

「う……言い返せない」

 

 気持ちは分からんでもないがな……。俺達はテストって不利だもの。なぜなら、他の生徒よりIS関連の勉強に集中しなくてはならないからだ。俺も中間テストの手ごたえが少し悪くて、今回IS関連の方に力を入れ過ぎてしまった。

 

 そのおかげか、さっき言った俺の苦手科目に影響がモロに出てしまう結果に。どうにかバランスよくならないものか……俺は苦手と得意に差が激しいのかもな。

 

「かっがみ~ん!どうだった~?」

 

「いつも通り。本音はどうだ?」

 

「えへ~、ばっちしだよ~」

 

 元気にこちらに寄って来たのは本音だった。俺に見せつけるようにして答案用紙を突き出すが、自信があるだけに誰に見せても恥ずかしくない点数だ。

 

 ここで一夏は更に落ち込む。ここに居る連中は本音含めて全員エリートであることを今思い出したようだ。本音なんて特に出来る方だと記憶している。

 

「ががみんさっすが~。正解率が低かった問題も完璧~」

 

「ん……まぁな……。危うく引っかかりそうだったけど」

 

 数学のテストとかで、個人的にありがちだと思うのは「引っかけ問題」だ。式の解き方が他の問題よりも若干捻ってある感じのヤツな……俺が捻くれ物だから逆に解きやすいのかもしれない。

 

「かっ加賀美君!問四……正解してるんだよね?よ、よかったら……その……教えてほしいな~なんて」

 

 聞き耳を立てていたのか、突然話しかけているクラスメイトが一人。名前は確か久守だったかな……。本音情報によれば、いわゆる「俺派」らしい……。今まで話しかけられた事は無かったのだが、突然な事だ。

 

「ちょっと見せてみ」

 

「はっ、はい!」

 

「あ~……一番やりがちなミスだ……。ホラ、ここ……解き方のパターンは同じなんだけど、応用が必要でな……」

 

 久守の答案に直接書き込むのもなんだったので、ノートとペンを取出しそこで説明する。他人に説明するのは得意ではないので、出来るだけ解りやすいように努めて丁寧に解説をした。

 

「で……これで解けますよっ……と。どうだ久守、理解できたか?」

 

「う、うん!すごく分かりやすかったよ!ありがとう、加賀美君!」

 

「ああ、基本的な部分はちゃんとできてるんだ。次からは落ち着いて頑張りな」

 

 それだけ言うと久守は非常に嬉しそうな様子で自分の席へと帰って行った。そこでようやく、俺は自分に注目が集まっていることに気が付く。

 

「な……なんだよ……?」

 

「「「……た」」」

 

「はい…………?」

 

「「「デレ期キターーー!!!!」」」

 

 あぁ……なるほど、理解した。俺の久守への対応を見ての事か……。…………うん……今までの俺だったら絶対「面倒くさいからパス」だったもんな……。

 

「ヤッバイ、今の聞いた!?」

 

「加賀美君の「頑張りな」……耳が幸せ……」

 

「今までの態度があるし、破壊力大きいかも……」

 

 頭が痛くなってきた……何ですか?何なんですか……この女子達のワーキャーとした騒ぎようは……。俺は現実逃避がしたくなり、机の上に突っ伏した。

 

「真ってさ、時々だけど墓穴掘るよな……それも特大の」

 

「うっさい……お前に言われたくない。人生墓穴だらけのクセに……」

 

「よしよ~し、元気出して~かがみ~ん」

 

「俺の味方は本音だけだよ……」

 

 余計な事を言ってきた一夏に、精一杯の反論で返す。一方の本音はと言うと、俺の頭を撫でて慰めてくれる。本当に癒しだ……癒され過ぎて浄化される勢いだよ。

 

「何を騒いでいるか、お前達!」

 

 俺の事でいつまでも騒いでいた連中は、次の教科担当が織斑先生だったことを忘れていたらしい。織斑先生は高速の出席簿捌き?で女子達に制裁を加えて行った。

 

 別に俺は悪くないからお咎めは特にない。そんな状況を見て少しばかりほくそ笑む俺は、やっぱりまだまだ嫌な奴なのだろう……。

**********

「なんの用事なのかねぇ……?」

 

 時は放課後となり、そこには携帯のディスプレイを難しい顔で眺める俺の姿があった。というのも、簪から整備室に来てほしいという趣旨のメールをもらったのだが……。

 

 本文の内容が「放課後 整備室へ」とだけしか書かれていない。呼ばれたからには出向くけど……これでは何のための呼び出しか、全く分からなかった。

 

「ま……それも行けば分かるさ、ってな」

 

 既に場所は整備室の前……簪と知り合ってからは頻繁に足を運んだ。俺は、なんとなく緊張の面持ちで整備室へと入って行った。そこに広がっていた光景は……。

 

「ちょっとー!七番の工具が無いんだけど!?」

 

「あぁ、ゴメン!ココにあるから使っていいよ!」

 

「のほほんさ~ん。少し数値見ててくれない?」

 

「おっけ~い」

 

 慌ただしそうに打鉄弐式を整備している本音や相川達の姿だった。これは一体……どういう事だ?簪は、自分で打鉄弐式を完成させるって……。

 

 入口の所で呆然と立ち尽くしていたせいか、相川は俺の事に気が付いたようだ。よほど手を離せないのか、顔だけこちらに向けて大声で俺に声をかける。

 

「あれー?加賀美君!のほほんさんに用事かなー?」

 

「お~かがみ~ん。いらっしゃ~い」

 

「ほ、本音!これはどういう……」

 

 いつもは俺の姿を見かけ次第チョコチョコと近づいてくる本音だが、今回はそれは無い。とりあえず状況だけでも把握しようと俺も入り口付近から大きな声で本音を呼んだ。

 

「私じゃなくてかんちゃんに会いに来たんでしょ~?今バックヤードに居るよ~」

 

 バックヤード……となると、部品のチェックでもしているのかもしれない。本音には感謝の言葉を述べておいて、足はバックヤードの方へと急ぐ。

 

 入って見るなり、簪の後ろ姿はすぐに確認ができた。俺は慌てて簪に駆け寄ると、肩を掴みながら振り返らせた。驚かさせたかもしれないが、一刻も早く状況の把握がしたかったのだ。

 

「簪!?」

 

「キャッ……!ま、真……来てくれたんだ?」

 

「来てくれたんだじゃ無くてだな……!いや、悪い……少し混乱してて……」

 

 慌てるな、俺。簪は目の前に居るんだ……聞けば絶対に答えてくれるし、何より俺をここに呼んだのは簪なのだから。なるほど、読めてきた……簪はつまり、この光景を見せたかったのだな。

 

「なんで本音たちが打鉄弐式を触ってるか、聞いても良いか?」

 

「私が、頼んだの……」

 

 そりゃあそうなのだろうけど……と言うか、何の躊躇いも無く簪が自身で頼んだって……。そうだとすれば大きな進歩だが、本当に動機はなんなのだろうか……?

 

「一人に拘るのは、もう良いんだな?」

 

「うん……今になってみたら、すごく……つまらない事に拘ってた……」

 

「…………」

 

「私ね、あの時真と話せて……分かった事があったの……。私は私で、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだって……」

 

 そうだ……簪と女狐は違う。姉と妹だが、まるっきり違うんだ。今までの簪は、自分の中でそれを良しと出来ないで居た訳だが、俺と話せて気付けたってのは……。

 

「私の進む道は、私だけのものだから……お姉ちゃんと比べたって、初めから意味が無かった……」

 

「うん……」

 

「でも私は、お姉ちゃんと比較されるのが凄く……嫌だった。だからきっと、自分でもいつの間にか超えなきゃいけないって強迫観念に囚われてて……」

 

「それも、間違いだった……?」

 

 俺の言葉に簪は黙って頷き、数歩ほど歩み寄って来た。そしてそのまま俺の手を控えめに取り、臨海学校の時のように、指と指を絡める。

 

「誰かに頼る事は、諦める事……そうも思ってた。フフッ……私って、暗い考え方ばかりだね……」

 

「…………笑って言えるってんなら、吹っ切れてるんだよな?」

 

「うん……。私の進む道には、真が居て……本音が居て……今みたいに皆が居て……。私は……一人じゃない……真が一緒に歩いてくれるって、言ってくれたから」

 

「ああ、俺はそのつもりだよ」

 

「だからもう……怖くないの。歩いて行く事も、自分の弱さを認める事も……。沢山の人に支えられて、そこからもっと強くなれる。それがきっと……私、更識 簪だから」

 

 ハッキリとそう言い切る簪の表情には、いつもの後ろ暗さは微塵も見えない。俺は思わず目頭が熱くなってきていた。だってよ……あれだけ弱気だった簪が……こんな……。

 

「真……?」

 

「いや、なんでもないぞ?!大丈夫、大丈夫!」

 

 多分気付かれているのだろうが、俺は慌てて目を掻く仕草を取った。目を拭った指先は、やはり少し濡れている……。近頃は涙腺が緩くなったのだろうか……?

 

「でさ、完成の目途はどのくらいなんだ?」

 

「もう夏休みだし……それが明けてからにはなる……と思う」

 

 露骨に話題を反らすが、簪は特に突っ込む事はして来ない。本当にありがたい……感極まって泣くとか、かなり情けないというか……。

 

「俺も出来る限りの事は手伝うからな、何かあったら言ってくれ」

 

「うん……頼りにしてる」

 

 力強く胸をドンッと叩きながらそう言うと、簪は少しクスリと笑いながら答えた。俺もつられる形て静かに笑うと、バックヤードには笑い声が反響する。

 

「さて……俺はもう行くか、用事も出来た事だし……」

 

「あっ……ゴメンね?忙しかった……?」

 

「ん?そういう訳じゃないさ、たった今……用事が出来たんだよ」

 

 俺の意味深な発言に、簪は首を傾げた。うっ……可愛いな……そのまま問い掛けられたら思わず答えてしまいそうだ。だがこれは、簪には言う事は出来ない。

 

「とにかく、今日はもう行くよ。またな、簪。頑張れよ!」

 

「ありがとう……真」

 

 小さく手を振りながら、小走りでバックヤードを出て行く。新しく出来た用事を果たすためには、本音の協力が不可欠だ……。つっても、質問するだけだけど。

 

「本音、頼みがある」

 

「ん~?どったの~?かがみ~ん」

 

「女狐が放課後何処に居るか教えてくれ」

**********

「はぁ~あ……」

 

 IS学園生徒会執行部生徒会長は、専用のデスクの前に積み立てられている資料の山に辟易としていた。完全に自業自得である事は自覚しながらも、溜めこんだ仕事が終わらなさすぎる。

 

 もう夏休みに入るのに、コレはなんだ……。頭の上がらないお手伝いがそう言いだしたことが切っ掛けだった……生徒会長は、立場がアベコベなのではないかと言うくらいに逆らえない。

 

「私、更識 楯無は元気……無理ね、無理だわ……」

 

 楯無は常日頃から持ち歩いている扇をスパッ!と気持ち良い音を鳴らしながら開く。するとそこに書かれていたのは「疲労」の二文字……無駄に達筆なのはお約束である。

 

「虚ちゃんが来たら一息入れましょう……」

 

 流石にここいらで一息入れない事には、仕事もこれ以上も進みそうもない。そう言えば頭の固い部下もお茶くらい淹れてくれると楯無は背を伸ばす。

 

ガラッ

 

 我ながらタイミングの良いものだと、楯無は無意味に得意げであった。生徒会室に入ってきたのが誰かも確認せずに、いつもの通りの対応を下したのだが……。

 

「虚ちゃ~ん……お茶~」

 

「そのくらい自分でやりな」

 

ガタタッ!

 

 響く重低音……憎たらしいニュアンスで発せられる憎たらしいセリフ……。楯無は思わず椅子から転げ落ちた。なぜなら、この声は個人的に天敵と認識している……。

 

「加賀美 真!?」

 

「よう、久しぶりだな女狐」

 

 指を刺し、そう叫ぶ楯無を真はニヤリニヤリと顔を歪めながら答えた。真は適当なキャスター付きの椅子に乱暴に腰掛ける。それを見た楯無は、警戒しながら椅子に座り直した。

 

「どういうつもりかしら……?あの時の報復でもしに来たの?」

 

「おいおい、そう言うなって。というより、あの件に関しては俺に非は無いと記憶してるぞ?」

 

「うっ……!それは……」

 

「ま、その事は寛大な心で水に流してやるよ。だから、アンタも俺が言った事は忘れろ。……俺も、少し言い過ぎた所はあるしな……」

 

 尊大な態度で言う真に楯無は一瞬だけ睨むが、真の言葉が後半に差し掛かるに連れて視線は緩い物になっていく。よくよく見てみれば、真の雰囲気が少しばかり違う事に気が付いた。

 

「……了解したわ。……ありがとう……それと、ゴメンなさい……」

 

「殊勝にしてたら可愛いもんだな、女狐」

 

「あのね……その女狐って言うの止めてくれないかしら?」

 

「だって、俺。アンタの名前知らないし」

 

 そう言われてみれば名乗っていなかったと楯無は思い出す。そうと分かれば、さっさと自己紹介を済ませようと立ち上がった。

 

「私はIS学園生徒会長の更識 楯無よ。よろしくね、加賀美君」

 

「ああ、よろしくな。女狐」

 

「ちょっと、直ってないじゃない!」

 

「名前を聞きはしたが、女狐と呼ばないとは言ってない」

 

 真は腕を組みながら得意げにそう返した。この無駄にイラッとくる感じ……もちろん真はわざとそういう態度を取っている。真は楯無をおちょくってやる気が満々……少しばかりの仕返しと言った所だろう。

 

「もう!そんな態度だから簪ちゃんが心配になったのよ!?」

 

「おお……本来の目的を忘れる所だった……。ちょっと簪の件で話があってな……」

 

「え……簪ちゃんの事で?」

 

 さっきまでとは違い真面目度100%で真は頷いた。楯無も真の真剣さを察すると、再び椅子に座り直して真が口を開くのを待った。

 

「実は……」

 

ガラッ

 

「会長、仕事の方は……。あら?お客様ですか」

 

 真が話し始めようとした所に、眼鏡を掛けた仕事の出来そうな女性が現れた。眼鏡の女性は真の方に視線をやる。同じく真も眼鏡の女性に視線を向けた。

 

「始めましてね、加賀美君。いつも妹がお世話になってます」

 

「いも……うと?妹……んぅ……?妹ぉ~……?」

 

 眼鏡の女性にそう言われるが、彼女の妹と言われピンとくる人物が真の脳内に現れない。頭を悩ませる真を見て、眼鏡の女性は楽しそうに告げた。

 

「フフッ、妹は会うたびに貴方の事を話してくれますよ?「かがみんが~」って」

 

「かっ、かがみん……?もしかして本音のお姉さん!?いやいや!世話になってんのはこっちの方ですから!」

 

 真の事を「かがみん」なんて呼ぶ変わり者はこの学園に一人だけだ。そう……布仏本音ただ一人……。真は本音の姉だと分かると慌てて立ち上がり頭を下げた。

 

「ちょっと……?この態度の違いは何かしら?」

 

「あっ、知ってると思いますけど……加賀美 真です。よろしくお願いします……布仏先輩……?」

 

「無視……?皮肉を言われるよりも辛いんだけど……」

 

「虚と呼んでも大丈夫ですよ。本音と同じ苗字を先輩呼ばわりは変だもの」

 

「まさかの虚ちゃんも無視!?」

 

「はい、それじゃ遠慮なく。よろしくお願いします、虚先輩」

 

「もうヤダ、この二人!」

 

 華麗なスルーを決め込む二人に、楯無はドダン!と大きな音を立てながら机に突っ伏す。おいおいと鳴き声を上げる主人を見て、虚は露骨に溜息をついた。

 

「会長、嘘泣きは止めてください……。お客様が居るのにみっともないですよ」

 

「テヘッ、ばれちゃった?」

 

 パッと顔を上げた楯無は、からかうような笑みを浮かべている。イタズラ大成功☆的なノリなのだろうが、真と虚のジト目を超える形容しがたい視線に表情をこわばらせた。

 

 なぜこの二人を前に、ふざける方向に走ったのか……自分で大いに反省しながら居心地の悪さを吹き飛ばすように咳払い。脱線してしまった真の話に話題を戻した。

 

「は、話が途中だったわね。それで、簪ちゃんがどうしたの?」

 

「あ~……うん……なんつーか……」

 

「会長、仕事を思い出しましたのでまた出てきます」

 

 歯切れが悪い喋り方と、チラチラ送られる視線に虚は自分が居ると話し辛い内容だと言う事を察した。真が申し訳なさそうな表情をすると、虚は素知らぬ顔で生徒会室を後にする。

 

「……良い人を傍に置いてるな」

 

「ええ……有能過ぎて時々怖いくらいよ」

 

 真は虚が出て行く最後の瞬間まで扉の方を眺めていた。虚が出て行った後の扉に向かって深く一礼すると、椅子には座らず元の位置に戻す。そして、楯無の机の前まで歩み寄った。

 

「……今から話すことは、例によって説教臭かったり……分かったような口をきく事になる。それでもどうか……俺の話を聞いてくれるとありがたい」

 

「……貴方が真面目話してくれるのなら、聞きましょう」

 

「スマンな……まず何処から話すべきか」

 

 真は顎に手を当て、考えるような仕草を見せる。それも当然だろう……真は半分勢いに身を任せてここに来ているのだから。頭の中で状況を整理し、口を開いた。

 

「簪が、一人でISを完成させようとしてたのは知ってるよな?」

 

「勿論よ、知ってるに決まってるじゃない」

 

「そうか、それなら簪が……それを止めたのはどうだ?」

 

「え……?それは……どういう事かしら?」

 

「簪は……アンタを追うのは止めたよ。これからは、自分の道を進むんだと」

 

 真はゆっくり落ち着いて今まで簪と話して来た事や、さっき整備室でのやり取りを楯無に伝えた。聞いていた楯無の方は先ほどから顔を伏せている。それでも真は、構わず続けた。

 

「……とまぁ簪は、もうアンタが心配するほど弱くは無い。むしろ簪は、ずっと前から強い子だったけどな」

 

「フフフ……当たり前でしょう?だって、私の妹……なのよ」

 

 声を震わせる楯無を前に、真は黙って目を閉じる。楯無は泣いていた……大粒の涙をボロボロと零し、机に広げられている資料のインクを滲ませた。

 

「そうだな……その通りだよ……。だけど悪いが、ここからが本題なんだ」

 

「グズッ!ごめんなさいね、続けて頂戴」

 

「今言った通り簪は、自分の道を前に進み始めた。だから次は……アンタが踏み出す番じゃないか?」

 

「ッ!?」

 

 アンタの番……真の言葉にどんな意味が込められているのか、楯無は理解できてしまう。それでこその反応だった……楯無は怯えたような表情を真に向ける。

 

「分かるよ、アンタだって怖いのは……。否定されることは、怖い事だよな。自分の妹なんてなおさらだ……アンタが抱えている恐怖は、俺が想像してる以上だろ……」

 

「…………」

 

「だけどどうかアンタも一歩踏み出して、簪に歩み寄ってあげてくれ。そうしないと、アンタの道と簪の道は……交わらないと思うんだ……」

 

 それが出来れば苦労はしない。そんな事は真だって承知の上で言っている。しかし真が簪と話した限りでは、どう見ても楯無の話題をなるべく避けていた。つまりは、完全に姉と向き合う覚悟は出来ていないと言う事だろう。

 

 だが楯無は、「完全に」どころか「まるで」簪と向き合う心の準備なんて出来ていない。なぜなら楯無は、簪から逃げていたから……。妹に否定され、傷つく事に恐怖する。楯無が踏み出せないでいる要因は、それ以外の何物でもない。

 

「無責任な事で悪いが……今の簪がアンタをどう思っているかは分からない。だから当然強制もしないし無理強いもしない。これはただのお願いだ……頭の片隅に留めておく程度で構わない」

 

「…………」

 

「だけど最後にこれだけは言わせてくれ。アンタと簪の関係性は、アンタ次第で大きく変わる……って事をな」

 

 もとより言いたいことだけ言うつもりだったのか、真は楯無に背を向け生徒会室を出ようとする。真は勝手だと思われようが楯無に火さえ付けば何でも良かった。

 

 手応えとしては、不発も良い所だろう。楯無はさっきから一向に口を開こうとしない。だがこれ以上は真が何を言おうと無駄なのだ。

 

「……待ちなさい」

 

「…………」

 

「……貴方のおかげで、少しは気が楽になったわ……ありがとう。ほんのちょっとだけ、加賀美君の事を見直したかも」

 

「……ハッ、そいつは光栄だな女狐」

 

「前言撤回……本ッ当に可愛くないんだから」

 

 二人の声色に刺々しさは全くなく、むしろお互いに笑みを浮かべているほどだ。とりあえず、この二人の関係性はもう心配する事は無いだろう。

 

「次は簪も一緒に会えるのを期待してる」

 

「ええ……私も……って!だからと言って貴方と簪ちゃんの交際を認めた訳じゃないわよ!」

 

「あぁ……もう。なんでそんな話になるんだよ、耳が痛いわ!もう行くかんな!」

 

 真は少し頬を赤く染めて、楯無の言葉に逃げるような形で生徒会室を飛び出た。……ったく、と大いにウンザリしながら後ろ頭を掻いた。

 

「ま……本当にこれで、俺に出来る事は最後だ……」

 

 真としてはこんなじれったい事はせず、楯無を簪の所に突き出してやりたい気分なのだが……。無理強いやそれに近い事は余計に事態が悪化しそうなので避けている。

 

 もう少しで終業式……夏休みが明けるころには、仲の良い姉妹の姿が見られるだろうか?そんな事を考えながら真は歩き出す。

 

「自分と向き合う……か」

 

 真も真で、一夏達との関係性以外で向き合うべき事が一つあった。人に言うくらいなのだから、自分もキッチリけじめを付けなくてはと、真はこの瞬間に決心した。それは、自信に起こっている異常な現象……ISの声が聞こえる事についてだ。

 

 ISの声らしきものが聞こえると、そんな事を誰に話せるだろうか?真が一番に思い浮かべた人物は、自らの父親である加賀美 新その人だった。

 

 新に話すにしても、怖くはある。頭がおかしいと思われたって、仕方の無いような話だ。それでも真は、新には……父親だけには打ち明けられる気がしていた。

 

 親父はどんな反応をするだろうか、そう考えると足が次第に重くなるのを真は感じた。それでも、前に進むしか道は無い。真は強い決心を胸に、一歩一歩廊下を力強く踏みしめていく……。

 

 

 




唐突に名前が出てきたキャラ「久守さん」はたぶん使い捨てのキャラ。なので特に覚えておく必要は、ないです。名前は二秒で思いついたものを採用。

ちなみに私は数学が大の苦手。今回の真のセリフは私が「学生時代にこんなこと言えたらな~」って思ってたセリフです。

逆に得意なのは暗記科目、暗記は好きですよ、だって覚えるだけで点が取れるんだもん。友人からは変だとよく言われてましたが……。

次回からは夏休み編に入ります。流れからして一発目は真と新のシリアスな会話になると思われます……。早くデート回が書きたい(切実)

それでは皆さん、また次回もよろしくお願いします。

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