戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

話すことが無いので近況報告をば……。先日アマゾンにて「電光超人 グリッドマン」のDVDボックスを購入……って今の子はグリッドマンとか知らないかぁ……?

円谷プロ発ウルトラマン系の特撮なんですが「十年早すぎた名作」と言われてます。つい最近、短編アニメ化されました。もう本当あまりの感動で泣くほど嬉しかったです。

いろいろ斬新な内容で、本当に面白い作品です。興味を持った方は、ぜひとも検索をかけてみてください。私の小説呼んでいる方の年齢層は一体どのあたりなのやら……。

まぁ関係ない話はこのくらいにしときましょう。いい加減しないと宣伝乙とか言われそうですし……。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


イチャイチャと暗雲と(不可解)ですが何か?

 福音の騒動が終わった後の俺達は、何食わぬ顔で夕食の席に参加した。その際複数の関係者たちが質問攻めにあうが、捕まりたいならどうぞ。といった感じのニュアンスの言葉で封殺し、以後は質問する輩もいなかった。

 

 食事が終わった俺は、花月荘の外に出ていた。少し風に当たりたくなったと言うのが主な理由で、他は……まぁ静かな場所でボーッとするのも悪くないと思い立ったと言うのもある。

 

 夜空を見上げると、そこにあるのは俺の心象世界で見たかのような満月。月は好きだ……おぼろげで、儚いながらも闇夜を照らしてくれる。目を細めながら月を眺めていると、妙に海の方が騒がしい。

 

 誘われるままそちらの方へ歩いて行くと、岩場付近で一夏が水着姿の篠ノ之を抱えて候補生達から逃げ回っている。はぁ~……元気だねぇ……俺なんて、ここに歩いてくるのさえキツイのに。

 

「ハハッ……何やってんだか」

 

 せっかくなので、追いかけっこの一部始終を見届ける事にした。俺はその場で胡坐をかきながら腰かけ、頬杖を突いて顔を緩ませる。

 

「あ~居た~。かがみ~ん、何見てるの~?」

 

「お、本音か。アレをちょっとな」

 

 どうやら俺を探していたらしい本音に、逃げ回る一夏の方向を指さす。すると本音も俺の隣に座って、表情を非常に緩いものにした。

 

「あはは~……おりむ~はモテモテだねぇ~」

 

「きっと、そういう星の元に生まれたんだろうな」

 

 女難、という奴だろうか?一夏を囲ってる五人は良い女であることに間違いはないのだが、一夏自身が自ら災難を起こすのだから仕方ない話だ。

 

「そう言えば本音……俺の事を探してたのか?」

 

「かがみんとね~お話がしたくて~」

 

 そうか……それは悪い事をした。俺がフラフラとどっかに行っちまうもんだから、本音も俺を追わなければならなくなってしまったらしい。

 

「俺に、話?」

 

「謝っておきたかったから~……。さっきはゴメンね~私たちを庇ったせいで~」

 

「ああ、そのことな……」

 

 帰ったら無断出撃したメンバーは共通で反省文や特別トレーニングが科せられるらしいのだが……俺は外出禁止令を破った二人の分までプラスで雑用を命じられていた。

 

「本音が気にする事じゃねぇよ。俺がしたくてやった事なんだし」

 

「でも~……」

 

「あ~……なんか前にもこういう事あったな……。本音、これ以上謝るなら怒るぞ?」

 

 確か女狐の件だっただろうか?ハッキリと警告しなかったせいで俺が襲われたと、本音は責任感を感じて謝ってきた。今は、それと酷似した状況だ。

 

「かがみ~ん……」

 

「こういう時はな、ありがとうで良いんだよ」

 

「……ありがと~う」

 

「ん、どういたしまして」

 

 本音はかなり納得のいかない表情で俺に礼の言葉を述べた。珍しい……いつもパッと明るい笑顔で返してくれると言うのに……。何かあったのだろうか?

 

「なぁ……本音、どうかしたのか?」

 

「え……?う~んそうだね~」

 

 本音は俺にキョトンとした表情を見せると、膝を抱えながら遠い海の彼方を眺める。今の言葉は肯定らしい……俺はただ神妙な顔つきで語り出す本音の声に耳を傾ける。

 

「私は……かがみんに何もしてあげられないんだな~って……」

 

「え……?」

 

「今回の事だって、クラス代表戦の時もそうだよ~。私は、かがみんを見送る事しかできなくて~……」

 

「…………」

 

「かがみんは~それで良いって言ってくれたけど~……やっぱり私は~……」

 

「そんな事ねぇよ」

 

 思い詰めている本音に、どう言えば良いのかは正直よく分からない……。だけど、こんな本音を俺は見ていられなかった。伝えるんだ、本音がどれだけ力を与えてくれたのかを。

 

「かがみ~ん?」

 

「本音……俺はな、ずっとお前に助けられてきたって本気で思ってるよ」

 

「で、でも~……」

 

「一緒に戦う事だけが、力になる事か?違うよな。いつだってそうだった……俺が戦えたのは、本音が居てくれたからだよ」

 

 俺の言葉に本音はあまり心当たりが無いらしく、困ったようにう~んと唸る。まぁ、自覚があったらこんなに本音が悩む事も無いだろうな。

 

「それこそ、福音や無人機の時だけじゃない。オルコットの時も一夏の時も……本音はいつだって俺の事を応援してくれた。俺は……本音の為に勝とうって、そう思いながら戦ってた」

 

「私の……ため~?」

 

 今回の件に関しては、本音と簪のためだが……今までの戦いは本当にずっとそうだ。俺の根幹にあったのは、それに尽きる。本音は少し顔を赤くしながら俺を見上げた。

 

 いつもと違いしおらしく、目に少しばかりの涙を溜めている本音は、どことなく色っぽい。心臓が口から飛び出してしまいそうな程に跳ね、言葉を詰まらせてしまうが、気を取り直して俺は続けた。

 

「ああ、俺みたいなつまらねぇ奴を応援してくれてるんだ。だからせめて、勝って本音に喜んでもらいたかった。勝った俺を出迎えてくれる本音が見たかった……」

 

 目を閉じると、今までの事が鮮明に浮かんでくる。オルコット戦は、油断で負けた俺を励ましてくれた。一夏の時は一緒に勝利を喜んでくれて、無人機やボーデヴィッヒの時は心配してくれて……。あぁ……本当、助けられてばかりだ。

 

「だから本音が俺の力になって無いなんてことはあり得ない。むしろ俺は、感謝しなきゃならないくらいだよ。本音……いつもありがとう。本音さえよければ、これからも俺の事を応援していてほしい。だってそれは……紛れも無く俺の力になるから」

 

「かっ、かがみ~ん……!」

 

 俺は真っ直ぐ本音を見据えてハッキリと言い切った。視線の先に居る本音は、さっき以上に顔を真っ赤に染めている。一つだけ違うのは、暗さが消え失せている点だ。

 

「うん……ず~っとず~っと応援してるからね~!」

 

「お、おお……サンキュー……」

 

 本音はガバッという風な感じで俺の胸に飛び込んでくる。俺はされるがままになっているが……やはり筋肉痛には効くなぁ……。もはや俺がクロックアップを使った後の恒例行事になりつつある気が……。

 

 けど、なんだろうか……いつもよりドキドキすると言うか……。そりゃいつもかなりドキドキはしてるけど、なんだこれ。呼吸が乱れてるし顔が熱くてやっていられない。今まではこんな事無かったのに……。

 

「ねぇ、かがみ~ん……。ぎゅってしてほしいな~……」

 

「…………」

 

ギュッ……

 

 へ?あれ?俺は何をやってるんだ!?本音の抱きしめて欲しいと言うお願いに、俺はいつの間にか答えていた。こんな事、気恥ずかしくて出来ないハズなのに……。

 

 だけど、心地よい……。この胸の高鳴りも、顔の熱さも、全てが。堪らない……もっと本音を感じていたい。そう思うと、俺は本音を強く抱きしめていた。

 

「えへへ~……かがみ~ん……」

 

 そうしてしばらくそのまま本音と抱き合う。静かに風の音と波の音だけが響くその空間は、まるで時が止まってしまっているかのようだ。

 

 しかし、いざ冷静になって見ると、俺は何をやっているんだと言う思いに駆られる。次の瞬間には本音を引き剥がしていて、立ち上がっていた。

 

「も、もう帰ろう……。長い事風に当たるのは、良くないし……」

 

「そうだね~明日も早いしね~」

 

 俺が手を差し伸べると、本音はそれを掴んで立ち上がる。その表情にさっきまでのシリアスさは感じられない。まぁ本音の元気が戻ったのなら、それで良しとしておこう……。

**********

「はぁ……」

 

 本音と別れた俺は、真っ直ぐ部屋を目指していた。その道中に、なんであの場で本音を抱きしめたのかをずっと考えていたが、答えは見つからない。

 

(俺は……本音の事が……)

 

 好き……なのだろうか?あの感覚は、そうとしか言いようがない気がするが、生憎自身は無い。俺は、女に惚れることは一生無いだろうと思いながら過ごしてきた。そのため、きっと人並以上に恋心という物がどういう物か分からない。

 

 ……分からない。……答えを焦っても、仕方が無い事なのだろうか?それなら……ここは相手の気持ちに気付きもしない一夏よりはマシという結論で落ち着いておこう……。

 

 俯きながら歩いていたが、顔を上げるともう少しで俺の部屋である教員室だ。しかし、その前には見覚えのある人物が立ち往生している。俺は、小さな声でその名前を呼んだ。

 

「簪」

 

「あっ……真……」

 

「どうかしたか?もしかして、俺に用事とか?」

 

「うん……少し話がしたくて……」

 

 簪の場合、織斑先生に用事がある訳でもなさそうだし、一夏にはもっと用事が無い事だろう。立ち往生していたのは、二人が居る可能性を考慮しての事かも。

 

「だったら丁度いいや、織斑姉弟はいないから、ゆっくり部屋で話そう」

 

「そっか……」

 

 襖をあけて簪を部屋へと通すと、暗いので電気を付けようとするが簪に止められた。理由は、月明かりが綺麗だからという事らしい。見れば、一面窓になっている壁の正面あたりに月が顔を出していた。

 

 これには俺も大賛成。窓の目の前に座布団を置いて、風情を楽しみながらの談話となりそうだ。なるほど、コレはなかなかのシチュエーションだ事。

 

「で、話って?」

 

「うん……真に謝りたくて」

 

 それを聞いた途端に、俺はやっぱりかと思ってしまった。きっと簪も責任を感じているのは分かっていた事だし。俺は、本音の時に言った事をそっくりそのまま伝える。

 

 簪は本音とは違い一応は納得したようだ。これで話は済んだ、と思っていたのだがまだ何かあるらしい。

 

「どうしても……真に答えてほしい質問があるの……」

 

「俺にか……」

 

「私は、前に進めてるのかな……?」

 

「……スマン。もう少し詳しく話してくれないか?」

 

 簪の質問とやらは、その一言では答える事が出来なさそうだった。しっかりと簪の意図を理解し、回答してあげなくては。わざわざ俺を訪ねて来てくれたのに、ロクに相談に乗ってやれないのは忍びない。

 

「打鉄弐式が完成してれば……私も真を助けられた。それなのに……私は意地になって誰にも頼らないから……。そのせいで打鉄弐式の完成は……どんどん遅れて……」

 

 ……どうやら、簪も本音と似たような事で悩んでいたらしい。だが簪と本音では勝手が違う。本音は始めから戦いには不向きだ、だからこそ俺は本音にああ言った。

 

 だけど、簪は代表候補生だ。その肩書きが、いかに簪が実力者であるかを物語る。それ故専用機が無く、今回の戦いに参加できなかったのを気にしているのだろう。

 

 だからこその、前に進めているかどうか……と言う質問だったんだな。そんなもの、俺にとっては愚問でしかない。俺の答えは始めから決まったも同然だ。

 

「進んでるよ、簪は俺なんかよりよっぽど……」

 

「…………」

 

「俺はついさっき、ようやく歩き出したとこだ。だけど、簪はすげぇよな、どんなにゆっくりでも……着実に前に前に踏み出しててさ」

 

「私……が?だって、私は……」

 

 最近はマシになってきたと思っていたが、やはり簪の奥底に眠るネガティブ思考は消えていないらしい。どうにか簪の背中を押してやりたいものだが……。

 

「世の中には、ビビッてそこから踏み出せない奴だってたくさんいる。……と言うよりは、俺がそうだったからな……」

 

「真が……?」

 

「ああ、俺は……怖かったんだと思う。アイツらが俺に歩み寄ってくるのが」

 

 無遠慮に、手放しに、俺の事を仲間だと信じて疑わない一夏達が怖かった。俺はぶっきらぼうで捻くれた言動しか取れないのに、いったい俺に何を期待しているんだって……。

 

 どうせ俺は、アイツらの期待を裏切るだけなのに……だから逃げていた。興味のないフリをして、拒絶し逃げていた。だってそうすれば、怖くなくて済むだろう?

 

「アイツらが俺を引っ張って行こうとしてくれてんのによ……俺は、たった一歩もアイツらの方に踏み出す事を恐れてた。でも、簪はそうじゃない。打鉄弐式を完成させようって頑張ってて……それで成果があまり出てなくても、それは前に進んでる事だって俺は思うぞ」

 

「そんな……!私だって同じだよ!」

 

「簪……?」

 

 俺の言葉が気に障ったのか、簪は俺に詰め寄って来た。同じ……とは、なんの事だろう?俺から見れば、簪は強い……それは本心だし、ましてや簪が俺と同じなんて……。

 

「私も、怖いの……!お姉ちゃんの事が……怖い……。きっとお姉ちゃんは、私の事を心配してくれてるのに……私は……一方的にお姉ちゃんを遠ざける事しかできなくて……!」

 

「…………そうか、それなら同じ……かもな」

 

 あの女狐が簪の事を溺愛してるには違いないしな……俺を襲ってくるくらいだし。でも、女狐もきっと怖いんだろう……簪に拒絶されることが。

 

 なんとかこの姉妹の橋渡しの役目を果たせないだろうか。こんな顔の簪で無く、姉と二人で笑っている簪を見てみたいものだ。それならば、与えられるだけじゃない……俺も誰かに何かを与えられるようにならなくては。

 

 とりあえずは、今目の前でどうしようもなくなっている簪に。本音と同じくいつも俺を支えてくれる簪に、俺の想いをぶつける。

 

「簪……俺とお前が同じなのなら、一緒に進もう」

 

「え……?」

 

「俺は、ここに居るぞ。簪の近くで、歩いてる。もし簪が、怖くてそれ以上進めなくなったなら……俺が簪の手を引いて見せる」

 

「あ……ま、真……」

 

 俺は言いながら簪の手を握った。細くて、しなやかで、綺麗な手だ。すると、簪は滑り込ませるようにして手を絡ませた。切なく、俺を求めるような手の動き……。

 

「だから……簪も俺の隣を歩いていてくれ。俺も……まだまだ踏み出せなくなる事もあると思う。その時は、簪が俺の手を引いてくれ。進むんだ、さっきも言ったがゆっくりだって良いさ、何より大切なのは、前に進もうとする意志だよ……」

 

「…………」

 

 簪は黙って俺の事を見上げている。何を思っているのかは読み取れないが、目が蕩けているというか……。しばらく見つめ合っていた俺と簪。やがて簪は、俯きながら呟いた。

 

「嫌だって言っても……離さないよ……?」

 

「そ、そうか……」

 

 それって普通は男のセリフなのではないだろうか?だけど……素直に嬉しい。というか、なんだこの感じは?俺は本音の時と全く同じ感覚を覚えていた。

 

 胸が締め付けられ、顔が熱い……同じだ……全く同じである。それどころかどうだ、むしろこの繋がれている手を引き込んで、簪を抱きしめたい欲求すら芽生えているではないか。

 

(落ち着け……平常心だ……)

 

 そう……アレは始めから本音と抱き合った状態だったからであって……今それをやったら俺はいろいろとヤバイ奴だ。社会的に死にたくない……これ以上は本当に危険だ……。俺は大人しく手を放すことに。

 

「あっ……」

 

「その、元気……出たか?」

 

「う、うん……ごめんね、真。もう大丈夫だから……」

 

「そうか……それならよかった」

 

 向き合っていた俺達だが、どちらとも無く月を眺め始めた。黙ってしばらくそうやっていたが、簪は立ち上がった。どうかしたか?と視線をやると、簪は笑顔でこう言う。

 

「私、もう戻るね……。先生が見回ってたら大変だし……」

 

「ん……あ、あぁ……そうだな、見つからないうちに戻った方が良いぞ」

 

 簪が帰ると言うので、出入り口まで見送るために立ち上がる。名残惜しいが仕方ない……本当に見つかると大変だろう。

 

「それじゃ、またね……」

 

「ああ、また」

 

 それだけ言うと、簪は振り返って歩き出してしまう。……何か、物足りない。一体どうしたんだ、俺は……自分でも自分が思っていることが理解できない。

 

「かっ、簪」

 

「……?」

 

「あ、いや……えっと、お……お休み……」

 

「うん……お休み」

 

 知らぬ内に簪を呼びとめてしまった俺は、とっさにお休みの言葉を絞り出すことに成功。簪もお休みと答えると、今度こそ戻って行った。

 

 部屋に取り残された俺は、置いてある座布団にドカッと乱暴に腰掛けた。本音と似た感情を簪にも覚えて……俺はもしかして、同時に二人を好きになってしまったのか!?

 

 イカン!それだけは絶対にダメだろう!男として!いや、でも二人に覚えたのは恋愛感情的な物なのは間違いないだろうし……ってそれがダメだって言ってんだろうが!

 

 落ち着け、マジで落ち着け俺……。冷静で無い俺は、壁の方に軽く額を何度も打ち付ける。頭の中でグルグルと本音と簪の事が渦巻いて離れようとしない。

 

「……知らん!寝る!」

 

 本当に脳がパンクしそうなので、現実逃避の意味合いを込めて寝る事に。乱暴に布団を敷いて、その中に頭から潜り込んだ。だが、こんな状態で当然寝れるはずも無く……翌朝の俺が酷い顔をしていたのは言うまでもないだろう。

**********

 月明かりの元に揺れる兎の耳。篠ノ之 束は今回の戦闘における紅椿のデータを眺めていた。稼働率がどうのこうのと呟いていると、とある人物が束を呼ぶ。

 

「束」

 

「やぁやぁ、ちーちゃん。わざわざ会いに来てくれたのかな?」

 

 束はそんな理由ではないと分かっていても、あくまでこう言った態度は崩さない。それこそが、篠ノ之 束であるという一つの設計図のようなものだ。

 

 千冬もそんな彼女との付き合いは長い。そんな事はもとより承知しているため、扱い慣れている。こう言った場合は無視するのが一番。千冬は迷いなしに切り出した。

 

「聞きたいことがある」

 

「ちーちゃんのお願いなら!白式の事かな?紅椿の事かな?あっ、それともそれとも一連の事件について?」

 

「その全て……と言いたいところだが、その辺りは知れた話だ」

 

 言った通りに千冬は、だいたい予想はついていた。白式のコアが白騎士のコアと同一であることや、福音の件が束による自演である可能性が高い事……。

 

 後者に関しては、もし本当にそうでもはぐらかされるのがオチだろう。というよりまず束に尋ねてもまず間違いなく明確な回答は帰ってこないものだと、千冬はそう思っていた。それでも千冬は、どうしても束に答えてもらわなくてはならない事があった。

 

「私が聞きたいのは、加賀美についてだ」

 

「あ~誰得ツンデレ無駄ノッポの事?」

 

「加賀美と呼んだ方が早いだろうに……まぁいい。束、アイツにISに乗るなと言った本当の意味……それを教えてもらおうか」

 

 千冬は今回の束の行動で、どうしてもそれだけが解せなかった。違和感を感じた点は多々ある。付き合いの長い千冬からしては不可解極まりない。

 

「まず、私がVTシステムの件でお前に連絡を取った時言ったな。「加賀美をこれ以上ISに乗らせない方が良い」と、それだけならまだ良い」

 

「…………」

 

「だがお前はこの臨海学校に現れ、わざわざ本人に忠告をした。一度忠告をした私が目の前に居ると言うのにだ。更にお前はこう言った「まだ確証はないが」……とな」

 

 そこが千冬が感じた最大の違和感であり、束らしくない言動だった。完璧主義者である束が不確定事項であるにも関わらず忠告をした。もし真がISに乗ってならない正当な理由があるのなら、束はお構い無しに指摘をするはずだ。

 

「らしくないじゃ無いか?加賀美に気を使った……のは違うのだろう。だったら、あんな大勢の前で話す訳が無い。束……確証が無いとは嘘だな?お前は加賀美の何かを知っていて、わざと不安を煽るような行動に出た……違うか」

 

「……珍しいねぇ、ちーちゃんがいっくんの事以外で必死になって。そっちの方がらしくないんじゃ無い?」

 

 束は千冬の方を向かず、投げ出した足をプーラプーラとブランコのように揺らす。話題を反らしてきたと言う事は、やはり答える気はあまりないのだろう。

 

「否定はしないさ、だがな……前も言ったがアレが私の教え子であることも確かだ。……これ以上思い詰めた表情をされると、私の気分が悪い」

 

 千冬は簪や本音でも気が付かない真の微かな変化を見抜いていた。まるで、誰にも話せないで苦しんでいるかのような表情……真は隠しているつもりだったらしいが、千冬の前では無意味だったようだ。

 

「それに、奴がISに乗り続けることで他の生徒に危害が加わるようなら、それは未然に防がないとならん。私は、教師だからな」

 

「立派だねぇちーちゃん。私は感動したよ」

 

 立ち上がり、ぴょいんと飛び跳ね千冬の前まで躍り出た束は、感動したなどと微塵も感じさせない表情をしていた。そして、まるで開き直ったかのような態度で告げる。

 

「そうだよ、私は彼の秘密をぜ~んぶ知ってる。それを見抜くなんて、流石ちーちゃんだね!いよっ、名探偵!」

 

「やはりか……分かったら全部話せ」

 

「むふふ~それはねぇ――――――――」

 

 周りに人はいないが、束は千冬にだけ聞こえるように耳打ちをする。ゴニョゴニョと耳元で囁かれる言葉を聞いた千冬は、酷く驚いた様子で目を見開く。

 

「……って事だよ。どう?驚いた?」

 

「ふざけるな……そんな突飛な話、信じられる訳が無いだろう!」

 

「ん~まぁ普通そう言う反応だよねぇ。でもホントだよ、証拠は見せられないけど」

 

 きっと誰しもが、こんなに取り乱した千冬を見た事が無いだろう。それこそ弟である一夏さえも……それほどに今の千冬は動揺し、混乱していた。

 

「それではまるで……」

 

「……そうだね。世界の命運は彼が握っているって言っても過言じゃない。でもそれは彼がISに乗らなければ防げるんだよ。ちーちゃんは、それでも彼をまだISに乗せる?」

 

「くっ……!」

 

 千冬の心に一点の曇りが陰った。どんな事があろうと、自分の生徒は立派に育てるのが千冬のポリシーであるが、世界……その一言が千冬に迷いを生ませている。

 

「加賀美の身内は……この事を……」

 

「どうだろうねぇ?父親はともかく、ジジイの方は100%黒だと思っても良いんじゃない?ZECTの幹部も知ってる人は知ってるかも。ま、言わぬが華だよね……これを知ったら彼がどう出るか分からないし」

 

 彼は意外とナイーブみたいだからね、と束は少しうんざりしたような表情で言う。溜息をつきながら振り返ると、背中を見せたまま千冬に告げた。

 

「……彼はさぁ、重い物を背負ってるよ……彼の知らないところでね。だけどISに乗りさえしなければ、その荷物を背負わなくて済む……。ねぇ……ちーちゃん」

 

「……何だ」

 

「荷物を降ろしてあげるのも、教師の役割なんじゃないのかな?」

 

「…………」

 

「それじゃ、そういう事だから。彼にはよろしく言っておいてよ」

 

「ッ!?待て、束!まだ話は……」

 

 突然千冬と束の間に一陣の風が吹く、その風が止む頃にはもうそこに束の姿は無い。まるで、風になったかのように忽然と消えてしまった。

 

「……ッ!クソッ!」

 

 やり場のない怒りや焦りを、千冬は近場にあった木に叩きつけるしかなかった。殴られた木は、無残にも凹んでしまっている。

 

「加賀美……お前は……」

 

 こんな事になるなら聞かなければ良かったと、千冬は軽く後悔していた。そして、素直でないながらどこか憎めない。そんな教え子を思い浮かべてまた混乱してしまう。

 

「私は……どうすれば良い……」

 

 力の籠っていない声色でそう呟く千冬の言葉に、返答をしてくれる者など居る訳が無い。しばらく空を眺めて何かを考えているようだったが、やがて千冬は動き出した。

 

「とりあえずは……責務を全うしなくてはな……」

 

 先ほどからギャーギャーと騒いで、追いかけっこをしている連中の方に向かって歩き出す。その途中に千冬は両頬をバシン!と叩くと、もういつもの千冬に戻っていた。

 

 そして一夏達六人をひっ捕まえて説教をくらわせてやる訳だが、その表情に何処か覇気が感じられないのを読み取る事が出来たのは、弟である一夏しかいなかった……。

 

 

 




真は滅びれば良い。

今回の話は真が簪と本音に恋愛感情を抱き始めるって話と、謎が加速するって話ですね。

前者は真が二人の板挟みに悩んでもらう展開の布石で、後者は千冬には真の秘密を知っていただく必要があったので。

本っっっ当、真の秘密に関しては焦らすようで申し訳ない!まだどうしても話せないんです!でも真が秘密を知る回もかなり近づいてきています。もうしばらくお付き合いください。

それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。

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