反省しない当たり実に私らしい……と開き直ってみる!あっ……ちょっ……待って……石を投げないで……。はっ、反省!反省します!
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
臨海学校目前(準備段階)ですが何か?
「もうすぐ臨海学校だね~!」
俺、簪、本音で昼食をとっていると、席に着くなり本音が目を輝かせながらそう言った。そういえば今朝のショートホームルームもそんな話だった気がする。
だが生憎だが俺は、そういう話は右耳(左耳でも可)から入っていって左耳(右耳でも可)から抜けていくように出来ている。かろうじて思い出せるのは、織斑先生がハメを外すなと釘を刺していた事くらいだろうか。
「そうだな、俺も海は嫌いじゃないし……一応、楽しみにはしてるが……」
爺ちゃんの話を聞く限りでは、ただ単に「泊りがけで遊びに行く」って訳でもなさそうだけどな……。もしかしてだけど、向こう行ってもガッツリ勉強させられるとかない?大丈夫?
「2人とも……楽しんできてね?」
「「えっ?」」
「えっ……?」
かなり寂しい発言をし始める簪に、俺と本音は思わず大げさに反応を示してしまう。いくら打鉄弐式の件があるとはいえ、流石に楽しむ時間があるのにもったいなさすぎやしないだろうか。
「だめだよ~!かんちゃんも一緒に行くの~!」
「まぁ……気持ちは分かるが、たまには気分転換も必要だと思うぞ?」
「で、でも……3日も打鉄弐式を触れないのは……ちょっと……」
とにかく一刻も早い打鉄弐式の完成を目指している簪は、2人して反対の意見を述べてると言うのに首を縦には振らない。
「簪、確かに打鉄弐式には触れないかもしれない。でも、向こうに行ってだってやれる事はあるんじゃないのか」
「そうそう~。今までの研究資料をまとめる~とかね~」
「…………」
追い打ちをかけてみるが、それでも簪はまだ悩んでいるようだった。しばらく俯きながら考え事をしているようだったが。決心が固まったのか、俺達の顔をしっかりと見て。
「……行く」
「ん、よしよし。それで良い」
「やっほ~。かんちゃんも一緒~」
「ちょっ……本音。抱き着かないで……」
簪が折れてくれたことが心の底から嬉しいのか、目の前でじゃれ付き始める本音。仲の良いものだ……きっと昔からずっとこのノリなんだろう。
「あっ……真」
「どうかしたか?」
「ううん……笑ってたから、珍しいなって……」
「そ、そうか……?」
2人があまりにも微笑ましかったからだろうか?知らないうちに笑みがこぼれてしまっていたらしい。俺は慌てて片手で口元を隠した。
「優しい笑顔で笑うかがみんはレアだね~」
「自覚はあるさ……顔が怖い自覚くらいな……」
「それならせめて……しかめ面をどうにかしたら?」
そこはほら、三つ子の魂百までとか言うじゃん?あれと同じ。もう俺の表情筋はしかめ面に見える状態で固定されているのだ。この間ためしに鏡の前で笑顔になってみたら自分でも恐ろしかったぞ。
「眉間の皺……どうにかならないのかな?」
ゴシゴシ……
「あ、あの~……簪さん?」
何を思い立ったのか、簪は俺の眉間へと手を伸ばすと汚れでもかき消すような仕草でゴシゴシと指を動かす。……かなり恥ずかしい……自分でも顔が赤くなってるのが分かる。
「あっ……!ご、ごめんなさい……」
「いや、謝るほどでも……」
ようやくして、自分が何をしているのか気が付いたのか、簪は慌てて俺の眉間から指を離した。俺だけでなく、簪も恥ずかしそうにしているようでかなり気まずい。
気を紛らわすために、本音に話を振って見ようと思うが……どうやらさっきから考え事をしているらしい。俺の表情をどうにかする方法だろうか?とにかく、話しかけてみることにする。
「ほ、本音。さっきから、何か考えてるみたいだが。どうかしたのか?」
「あのね~、また臨海学校の話に戻っちゃうんだけど~。いろいろ準備とかいるでしょ~?」
「そ、そう……だね。日用品とか……」
言われてみれば確かにそうだ。現在の学園生活で使っているものだけでは足りないものも出てきてしまうかもしれない。必要なものを確認し、無ければ補充するのは大切な事だ。
「だから~3人でお出かけしようよ~」
「それは……俺と本音と簪って事か?」
「もちろんだよ~」
なんというか……IS学園だから仕方のない事なのかもしれないけど、女子2人を連れて買い物か……俺ってやってる事はほとんど織斑と変わらないのか?かといって、織斑と一緒に出掛けるのもアレだしなぁ……。
「俺は、まぁ2人がそれで構わないのなら」
「本音に賛成……」
「決まりだね~!」
本音はより一層目を輝かせ、両手をパンっと合わせる。袖が余ってるせいで擬音で表現するならポフンって感じだけど、この際それはどうでも良いか。
「それじゃ~いつにしようか~?」
「「日曜日」」
「あ~……そっか~。うん……そうだよね~」
今の「いつにするか」という質問は「土曜日にするか、日曜日にするか」という意味で本音は言ったハズ。それを察知して俺と簪は口をそろえて日曜日と答えた。
日曜日ならばスーパーヒーロータイムのおかげで早起きだし、どこかに出かけるのならば俺としては一石二鳥なのである。録画よりはリアルタイムで見たいし。
「んじゃ、10時ごろに駅で良いな?」
「おっけ~」
「分かった……」
こうして、成り行きとはいえ2人と出かけることになった。人生初となる女性との外出が2人きりではないと……夢にも思わなんだ。簪と本音が相手だったらそこまで緊張する事は無いだろうが……まぁ、それなりに身だしなみ等には気を付ける事にしておこう。
**********
「簪、短い間だったけど世話になったな」
「うん……」
時は流れ放課後となった。俺は大きなバッグを抱えて部屋の前で簪に感謝の言葉を述べる。何が起きてるのかというと、引っ越しである。
デュノアが正体を明かした影響によって、また大幅に部屋割りが変更したらしい。俺の新しい部屋は1025室……そう、織斑と同室だ。
なんだかんだ言ってこれが一番正しい形なんだろうが……つか、むしろ何で初めからこうではなかったんだよ。良いじゃん、俺と織斑が同室で……。
まぁ織斑と同室だといろいろウザッたいだろうが、女子と共同生活よりははるかに楽だ。でも、それを言うと簪と一緒なのは案外居心地が良かったものだ。
「…………」
なんだかんだで懐いてくれたし……今も俺が去るのを残念そうな顔をしてくれている。う~む、コレはなかなかに……去り辛いな……。
「その……な?今生の別れって事でも無いんだから、そんな顔すんなよ」
「うん……」
何とか元気を出させようとはしたが、作戦失敗でさぁ。最初は怖がられてたとは思えんな、打ち解けれたのがこんな所でネックになっている。
「……た、楽し……かった……ぜ?俺は、その……簪と一緒で」
「え……?」
「正直初めはどうなる事かと思ったけど……。俺がこの学園に来て、たぶん……簪といた時間が一番楽しかったと思う」
「~~~~!?」
俺の言葉に簪は顔を真っ赤に染める。止めてくれホント……俺だって恥ずかしいんだから、恥ずかしがられると余計に恥ずかしい。ってか、マジで何を口走っとんじゃ俺は!?ハッズ!マジでハズイ奴じゃん!
「これからもちゃんと顔も出すし、遊びにも行くからさ。そんな顔をせんでくれ、俺も……その……辛くなる……」
覆水盆に返らず。もう引き返せないと思ったのと、半ばヤケクソでそのまま俺の本心を簪に伝えた。あ~……イカン、イカンぞコレは……顔から火が出るとはこの事か。
「うん……!うん……!」
「お、おっしゃ!それじゃ、もう俺はいくからな!」
感激した様子で頷く簪の様子をもう見ていられず、俺はその場を一刻も早く離れたかった。地面に焼け跡が付くのではないかというほどの勢いでターンし、歩き始めたのだが……。
ヒシッ……
「真……」
「へ……?いや、あの……え……?」
……意味が分からない。何で簪はこんなことをしている?だって、普通はそういうの「特別」な相手にしかしないだろ。何で簪は……後ろから俺に抱き着いている?
「か、かかかかん……ざし……?」
頭がパニック状態なのと、羞恥のせいで上手く呂律が回らない。それに顔が熱いのと心臓がうるさいのでもう訳が分からない。混乱している俺は、とりあえず腰辺りにガッチリとつながっている簪の手を引き離そうと手を伸ばすが……。
(ちょっ……手……震えて……)
手にまでマトモに力が入らない。結果、俺は簪の手に自分の手を添えるような形に。すると、簪は腕に回す力をより一層強めた。
さらに密着する俺の背中と簪の胸部。一見細身そうに見えて、いったて平均的なサイズである「ソレ」は確かに俺の背中に柔らかい感触を残している。
(ヤバイ……!)
それはもういろいろとヤバイのを歯を食いしばって懸命に抑える。ようやく落ち着いてきたので、俺は若干震え声ながらも簪に問いかけた。
「な……んで……だ?」
「え……?」
「その、なんで……こんな?」
「真は……嫌?」
「ア、アホゥ!今はそういう事を聞いてる訳じゃ……」
一瞬デカイ声で反論しそうになるが、ここで大きいボリュームはマズイ。だってここ寮の廊下だし、何事かと人が来て、こんな所を見られる訳にもいくまい。
「じゃあ……何で、私が抱き着いてるんだと思う?」
「何でって……?」
そう言われて、しばらく考えを巡らせてみるが……なんというか自惚れた考えしか浮かんでこない。例えば、簪は俺に去られるのが嫌だとか、例えば……簪は俺の事が……とか。
「分から……ねぇ」
「……そう」
スルリと俺の腰から簪の腕が離れた。慌てて一歩前に踏み出し、振り返って簪の表情を確認すると……。残念そうな表情をしていた。ついでに言うなれば、これまで以上に顔が赤い。
「か、簪……」
「いつか必ず……伝えるから……」
「いや……おい!ちょっと待てって!」
声をかけて理由を問おうと思ったら、簪は俺が話しかける間もなく部屋の中へと入って行った。俺はそれを呆然と立ち尽くしてみている事しかできない。
「なんだってんだよ……!」
俺は織斑とは違う。簪が俺に抱き着いたのはつまり「そういう類」の事なはずだ。本当は分かってはいるつもりだが……肯定的になれない。
俺が分からないのは簪がなんで「俺」に「そういう類」の感情を抱いているのかという部分。俺は簪に特別な行為をしたつもりはないし、何より怖がられてた……ハズだろ?
別れが辛かったから?だから抱き着いた?違う……よなぁ……。普通はそんな理由で女の子がただの友達と思ってる男に抱き着いたりするわけがない。だとすれば、やはり簪は……?
「……止めよう…………」
これ以上はダメだ、考えてはいけない。俺は、それより先が怖い。もし簪の行動が「そういう事」なのなら、俺は逃げているだけなのだろう。
だけど……それでも。今はまだそういう事はどうしたら良いのかよくわからない。だからこそ怖いんだ、未知への恐怖といったところだろうか?
「スマン……簪」
聞こえてはいないだろうが、俺は無意識に謝罪の言葉を述べてしまう。そうでもしなくては、簪に対して申し訳なく感じてしまったからだ。
「…………行くか」
まだ思考回路がポンコツな状態だが、いつまでもここにいても仕方が無い。とりあえず1025室に向かう事にする。ボーッと、歩いていたせいか何度か躓きかけてしまった。
ようやく1025室までたどり着き、部屋をノックすると出迎えてきたのは織斑の能天気な表情。いつもと変わらぬ織斑の様子に少しばかり安心してしまったのか、緊張の糸が切れたらしい。
それが原因か、俺は終始上の空だったようだ。織斑が話しかけて来ていたような気がするが、きっと曖昧な返事しかできなかったことだろう。
あまりにも唐突で、サプライズな簪の行動……。俺はなるべくそれを思いださないようにしていたのだが、どうにも頭の隅に簪がチラついてしまう。
俺は、とりあえず寝る事にした。今さっきの事は全部夢だと自分に言い聞かせながら……。それでもやはり落ち着かず、俺は寝苦しいまま一夜を明かしてしまうのだった……。
どうしても挟みたかったのは真の引っ越しの描写です。まぁメインは簪が抱き着くシーンですけど。
真が言葉を濁している部分がありますが、あれは「簪が自分の事を好きかもしれない」とか考えてます。なぜ真が言葉を濁すのかは単純に「自分で言うのはちょっとアレ」だから。真はそういうのを気にするタイプ、根が真面目な子?なので。
さて、次回は本当に簪と本音とお買い物ですよ!これで、本気で言い逃れができなくなった!どうしよう、私!
それでは皆さん、次回もまたよろしくお願いします。