今回は、なんとか前後編に纏める事が出来ました。ってな訳で、ゴースト編の後編です。色々とオリジナル要素がありまして……。
まずオリジナル眼魔ですね、特に偉人には関係しないですが。あと……オリジナル眼魂ですね。後者は……オリジナルのラップがこっ恥ずかしい……!
ええ、一応は私なりに色々と考えたつもりですけどね。やはり本家と比べると、コレジャナイ感がするかもしれませんが、あしからずです。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
『あ~……ったく、どうなってんだよ!』
大天空寺からワープしてしまった真は、先ほどから様々な場所への転移を繰り返していた。と言うよりは、今もめまぐるしく景色が変わっていると言っても良い。
訳の解からないこの状況に、真の精神状態はより不安定な物へと陥っていく。そうすると真の身体は、ぼやけるどころかノイズが走るかのように揺らぐ。これではまるで……消える前兆ではないか。
『クソッ、ふざけんな!消えたくねぇ……消える訳にはいかねぇ!』
『少年よ……心落ち着かせるのだぁ~』
『この声……仙人!?』
突如として頭の中には、仙人の声が響いた。混乱し、不安になり、消滅が加速する……。そんな悪循環を繰り返していた真の脳にとっては、良い気つけとなったのかもしれない。
真はそのまま目を閉じて、精神統一を始めた。深く息を吸い深く息を吐く。呼吸の乱れを直すと、次は脳内を空っぽにする。考える事を放棄すれば、ようやく気が落ち着いてきた。
『そーそー……やればできるじゃな~い』
(要は気の持ちよう……って事か?)
恐る恐る真が目を開いてみると、そこは人だかりもそれなりにある商業街付近らしい。場所の移動も無ければ、体に走るノイズも止まっている。とりあえず、消滅の危機は回避されたようだ。
『アンタ、何で俺にアドバイスを?』
『お前は、良いモノを持っている。ここで消すには、惜しい人材って事だ』
恐らく仙人の言うモノとは、魂の事だろう。仙人の言葉に喜べばいいのか、どうなのか……。ただ褒められた気はするので、真は小さく感謝の言葉を述べる。
そうすると、唐突にだがタケルらの事を思い出した。きっと心配させた事だろう。何とかして大天空寺に戻らなくてはと、足を動かそうとした……その時だった。
ズゴゴゴゴ!
「わ、わぁーっ!」
「地面が破裂したみたいに……キャアアアア!?」
『なっ、何だ!?』
『クワッ!クワッ!人間よ、逃げ惑うが良い!クワッ!クワッ!』
真から見てもほど近い位置から、轟音が鳴り響く。その数瞬後には、轟音に交じって人々の恐怖に怯える声も聞こえた。何かと思ってそちらへ目をやると、そこには……眼魔らしき物の姿が見える。
それは先ほど真が襲われた眼魔とは、明らかに違う。何か時代劇の農民が着ている着物を、パーカーの様に改造した衣服を纏っている。更には、手首から先が鍬のようになっているではないか。
『そらそらぁ!耕しちゃうぞ~?クワッ!クワッ!』
ズゴゴゴゴ!ズゴゴゴゴ!
眼魔が鍬になっている手を地面へ叩きつけると、真っ直ぐに衝撃波の様な物が走る。宣言通りに、まるで地面を耕すかのような動作だ。衝撃波は、固い地盤を容易に砕き破片を巻き込みながら進んで行く。
速度は比較的速くは無いため、直撃する人は見当たらない。しかし流れ弾が如く、巻き上げられた地面に当たって蹲っている人たちは大勢いた。
『くっ……!』
『行くのか?今のお前は無力だ。みすみす……消滅させられるだけかも知れんぞ』
『……タケルは言ったよ、似たような境遇な俺を放って生き返ったって意味ないって。俺も……それと同じ気持ちだ!ココで関係ねぇ人達を放ったら……それこそ『加賀美 真』はそこで死ぬ!』
『うむ……やはり見込み違いではない様だ』
戦う力を持っていない……ましてや、物にすら触れられない。そんな自分に出来る事は無いと思いながらも、真は眼魔の元へと駆け出そうとした。
仙人が本当に向かうのかと問いかけると、真はタケルの言葉を思い出して一気に両足へと力を込める。走り出した真には、仙人の声は届いていなかった。
『やめろおおおお!』
ガッ!
『う~ん?なんだぁ……ガキ。俺様が見えてるのかぁ?』
『いっつ~……。ああ、そうだよクソ野郎が!おら……テメェの欲しいのはこれだろ!?』
『む……お前はもしや、報告にあった眼魂を持ったガキだな!クワッ!クワッ!そちらから出て来るとは、馬鹿なガキめ!』
真は走った勢いを利用しつつ、眼魔の顔面を殴った。しかし眼魔の顔面はビクともせずに、逆に真の拳がどうにかなってしまいそうだ。真は痛みを堪えながら、涙目になりつつポケットから眼魂を取り出す。
雑魚っぽい眼魔はタケルが全滅させたが、話は通っているらしい。眼魔は、特徴的な笑い声で真を馬鹿と称する。馬鹿は重々承知……今の真にとっては、むしろ褒め言葉だ。
『これが欲しけりゃ、俺を殺してからにするんだな!』
『クワッ!クワッ!良いだろう……この鍬眼魔様の鍬の錆となれ!』
ズゴゴゴゴ!
『おわっと!うしっ……十分に避けれるな。これなら!』
真はあえて、鍬眼魔の得意技を出しやすい間合いを保った。命がけではあるが、試しに攻撃の回避を試みる。真っ直ぐ飛んで来た衝撃波を、真は横方向へ飛び込み前回り受け身する事で華麗に回避。
反射神経と動体視力の優れた真には、速度も遅いし直線的で稚拙な攻撃だと感じられる。ただしっかりと油断はせずに、真は鍬眼魔の攻撃を回避しながら人気の少ない方向へ駆ける。
ズゴゴゴゴ!ズゴゴゴゴ!
『はぁ!はぁ!よいしょっと!』
『ええい……ちょこまかとすばしっこいガキだ!むぅ……?』
「うぇ~ん……お母さ~ん、どこ~?」
『クワッ!クワッ!これならどうだ!?』
ズゴゴゴゴ!
『しまっ……!?』
なるべく人通りの少ない方向に逃げているとは言え、完全に誰も居ない……と言うのはどだい無理な話だ。しかも衝撃波を撃ちつつ追走されているので、その最中……親とはぐれた子供がいてもおかしくはない。
鍬眼魔は、真が人混みを避けての行動だなんて事は解っていた。それだけに、子供へと向けて衝撃波を撃つ。真は摩擦で足裏が火傷するのではというくらいの勢いで、ブレーキをかける。
(間に合え……例え、触れなくたって!)
もちろん真は、子供を助けようと全力で走る。しかしその脳内には、1つの疑念が沸いてしまう。本当に、意味のある行動なのか……と。
(いや、違う……気の持ちようだ。さっきだって、何とかなった!成せばなる、成さねばならぬ何事もってね!)
否定的な考えを浮かべたって、何も始まらない。真は触れると信じ、自分を奮い立たせる。そうすると、不思議な事に……透けていた身体が、不透過に戻ったではないか。
『よっしゃあ!』
ドンッ!
「わぁ!?」
『クワッ!クワッ!やはり助けに入ったか……。そのまま石つぶての嵐を喰らえぃ!』
真は子供を突き飛ばす事に成功するが、鍬眼魔の目論見も大成功だ。それでも真は直撃を避けるが、巨大な石塊が衝撃波に煽られ、真の脇腹にめり込んだ。
メリメリッ……!
『カハッ!?』
『ぶぁかめぇ!今のは効いたのではないか~?んぅ~?クワッ!クワッ!』
『どう……ってこたぁねぇよ……こんくらい!』
物に障れるようになった良し悪しが、瞬時に真へと降りかかる。子供を突き飛ばせて、助ける事は出来た。しかし……それは眼魔の直接的ではない攻撃も、真に通じると言う事だ。
真の脇腹に激痛が走るが、無事に母親が見つかりその腕に抱かれる子供を見て、真は非常に安心した表情を見せた。そうすると、精一杯の強がりを見せて立ち上がる。
『本当に馬鹿な奴だ。どうだ?眼魂をこちらに渡せば、お前の命は助けてやらん事も無いぞ』
『これが何のためのモノかは知りませんけど?どうせテメェら……よからぬ事をしようってんだろ?それならコイツは、渡す訳にはいかん!』
『クワッ!クワッ!交渉決裂だな。ならば死ねぇい!』
ズゴゴゴゴ!
(チ……クショウ!動け……ねぇ……!)
真は足に力を入れようとするが、脇腹の怪我のせいでロクな動きが出来ない。いくら鍬眼魔の攻撃速度が遅いとはいえ、避ける事が出来るのは真が全開状態なのが前提条件である。
『エレキ!閃き!発明王!』
バリリリリ!
『クワワワワッ!?』
「真……大丈夫か!?」
真がダメージを覚悟した途端に、何処かから電撃が轟く。黄色い電撃は鍬眼魔へと命中し、その体を痺れさせる。鍬眼魔が感電している間に、颯爽と真を衝撃波から救出した人物は……ゴーストに変身したタケルだった。
暴れる鍬眼魔を引き連れて、真が逃げ回ったおかげだ。ナリタとハネダがしっかりと不可解な現象の目撃証言を聞き、それを御成に伝えた。更に御成は、それをタケルへと伝えたのだ。
『発明王……?あぁ、エジソンな……。ハハッ、何……?17作品目は、偉人にフォームチェンジか……?』
「おい……しっかりしろって!なんで、そんな無茶を……!」
『なんでって、同じさ……アンタが、俺を助けようとしてくれたのと……!』
痛みで意識がしっかりしない真は、いわゆるメタ的な発言をする。言葉の意味が解らないタケルは、真がおかしくなってしまったのではと、真を抱き起す。
すると真は、タケルを振り払うかのように立ち上がった。自分が死んでいるだけに、タケルは他者が命を粗末にするのを嫌う。しかし真のそれは、何か……別の事に思える。
『ってかさぁ……俺の親父が、そうなんだ。自分の事を後回しにして、他人の事ばっかり気にしてる……そんな、お人好しでよ。俺は……他人の為に、自分が苦しむなんて……馬鹿がやる事だって、ずっとそう思ってた……』
「真……」
『だけどよぉ……そんな馬鹿みてぇな事を、自分でやり始めて解ったんだ。親父は……すげぇ人なんだって!誇れる人なんだって!今だって、すっげぇ痛ぇ……。今すぐ倒れたいくらいだ。けど……親父は立つ、誰かのために!』
「親父……」
親父と言うワードに、タケルは引っかかる節がある。眼魔によって殺害された自分の父親と、父が最後に遺してくれた遺言を、頭の中で復唱する。英雄の心を学び、心の目を開け……。タケルは心の眼を開き、真を見る。
『あぁ……やっぱすげぇなぁ……親父は。俺以上に辛いときだってあったろうに。だから俺は……そんなすげぇ親父を超えたいんだ!だからこそ、こんな所で……おネンネしてやるつもりはねぇ!』
コォォォォッ……!
「これ……英雄の眼魂の反応!?真、ポケット……ポケットの中を見せてくれ!」
『え……?あ、あぁ……おう』
「はぁ……?野球ボールぅ?本当にこんなのが、英雄に関する物かよ!?」
「うるさいぞ、ユルセン!とにかく……やってみるしかないだろ!」
『カイガン!オレ!』
『レッツゴー覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』
ポケットの中身と急に言われて、真は左右どちらの事を言っているのか解からない。とりあえず両方取り出してみると、約束ボールと仙人にもらった眼魂がオレンジ色に発光した。
それを見たタケルは、慌ててオレ魂へとフォームチェンジする。そのまま真の両の掌の中心辺りで、楕円を描くように指をスイッと動かす。更に中心で印を結ぶと、ボールと眼魂は発光を強めた。
コオオオオッ!
「こ、これは……?」
『約束ボールと眼魂が、融合してるのか……?』
「し、信じらんねー……。こんなの、初めてだぜ!」
どうやら物知りなユルセンでも、知らない現象の様だ。真の掌にあるボールと眼魂は、光の渦となって1つに融合した。そうすると、1つの眼魂が現れる。
「凄い……凄い!きっとこれだ……真の欠けた魂って!そうか、誰かの為に傷つくのを厭わない……。真、お前は英雄だったんだよ!」
『い、いや……俺はそんな大したもんじゃ……。つーか、それ言ったら……タケルだって英雄だろ』
『クワアアアアッ!よ~く~も~……やってくれたな~!』
ようやく感電から復帰できたのか、鍬眼魔が両腕をブンブン振り回しながら立ち上がる。それを見たタケルは、自信たっぷりな表情で前へと出た。
「真……お前の魂、しっかり燃やして見せるからな!」
『バッチリミナー!バッチリミナー!』
『カイガン!ガタック!』
『ゴォー・ゴォー!ファイト・オォー!ゴッド・オブ・ウォォォォー!』
タケルがオレ魂ゴースト眼魂を、真から生まれた新たな眼魂へと入れ替える。そしてフォームチェンジに必要な動作を取ると、ラップと言うかメタルでデスボイス調の電子音が流れる。
今度の飛び出てきたパーカーは、青色で縁となる部分には赤のカラーリングがしてある。特徴的なのは、フードの部分に角のように生えているクワガタの顎だ。
いや、それだけでは無い。背中には達筆な文字で戦神と書かれているし、見る限りパーカーはボロボロだ。そこらに穴が開いているが、真には……ガタックと言う存在が、苦しくても立って来た証に思えた。
そうしてタケルは、意気揚々とパーカーに袖を通す。するとゴーストの顔面には、おなじみのガタックのエンブレムが刻まれる。こうしてゴーストは、ガタック魂へとフォームチェンジしたのだ。
「うおおおおっ、何だコレ!体に力が漲ってきたああああ!」
「あ~……お前さ、アレが何なのか知ってんなら……代わりに解説してやってくれよ」
『お、おう……解かった。タケル!深く考えなくて良いんだ。思う通りに、溢れる力をぶつけてやれ!』
「ああ、任せろおおおお!」
「大丈夫かよあいつ……」
ユルセンもタケルとは長い付き合いではないが、解る……今のタケルはらしくないと。自身の中で膨らむ力を感じるのか、それを抑えきれずに雄叫びを上げる。
なんとなくではあるが、真はそれがガタックの影響なのではと内心で悪い事をしているような気分になる。そして本当に考えなしに鍬眼魔に向かって行ったタケルを、ジト目で見守った。
『クワッ!クワッ!正面からとは愚の骨頂!喰らえぃ!』
ズゴゴゴゴ!
『タケル!』
「ぐああああ!」
「うそぉ!?な~にやってんだタケル!せめて避けろよ……」
鍬眼魔の出した衝撃波を、タケルは避けもせずむしろクリーンヒットといった感じでダウンする。これにユルセンは毒づいて、真に至っては言葉すら出て来ない。
「痛てててて……。痛い……けど、立てる!力が沸き上がるんだ!」
結構なダメージだっただろうに、タケルはガバッと立ち上がった。ユルセンと真の2人はおおっ!っと歓声を上げるが、その後もタケルは先ほどと同じ光景を何度も何度も繰り返す。
ダウンして立っては、ダウンして立っては……。ユルセンは最大級の罵倒をタケルへとぶつけるが、真はタケルがそこまで頭が悪いとは思えなかった。きっとタケルには、何か狙いがあると。
『クワッ!クワッ!なんだぁ?威勢がいい割に、大したことは無いなぁ!』
「ヘ……ヘヘヘヘ……。そろそろ、良いかな……。フ~ッ……うおおおおっ!」
「こ、これは……すげぇパワーを感じるぜ!」
『もしかしてだが……ガタック魂?の能力って……ダウンして立つ度に、力が増す……とか?』
真の予想は正解であった。タケルは最初にダウンから復帰した時に気が付いたのだ。内なる力が、少しだけ増していたことに。試しにもう1度攻撃を受けて、ダウンし……立つと、やはり力が増すではないか。
3回目以降は、わざと攻撃を喰らっていたのだ。タケルが気合を入れる動作を見せると、赤いオーラがゴーストの身体から放たれた。それは良いのだが、なんともドM仕様のフォームである。
『だ、だからなんだと言うのだ!貴様はもう虫の息……トドメをさしてやろう!』
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!
『ダメだタケル……避けろ!』
「必要ないさ!真の魂が、俺には宿っているんだからな!」
『クワッ!?な、なにぃ!?』
鍬眼魔は、両手の鍬を同時に地面へ叩きつける。今までは2本の直線が伸びる形で、衝撃波が迫っていた。だがこれは違う。2本の衝撃波が1本へ融合して、特大の衝撃波となったのだ。
これを喰らえば、能力がどうのと言っていられない。真は懇願するような声色で言うが、タケルは問題ないと返す。そうすると、腕を交差させて衝撃波へと突っ込んで行くではないか。
『す……げぇ……!』
「ウオオオオッ!」
思わず目を逸らした真だったが、鍬眼魔の焦るような声を聴いて視線を戻した。するとどうだ……タケルが、巨石やら何やらをかき分けて進んでいるではないか。
これには真も、呆れを通り越して感心を覚えた。そしてもう1つ……自分の力が、タケルを助けているという喜びも。真は口元をニヤつかせると、タケルを指差し指示を送った。
『うっしゃあ!タケル!そのムカつく顔面……俺の分まで殴ってやれ!』
「任せろ!どりゃああああ!」
『クワブヘッ!?』
衝撃波を突破して見せたタケルは、数ステップ踏んで勢いをつけつつ鍬眼魔の顔面を殴りぬいた。予想外のパワーに、鍬眼魔は地面をスライドして吹き飛ばされる。
『反撃のチャンスを与えるな!起き上がろうとする顔面に、思いっきり膝だ!』
「お前……結構えげつねぇんだな」
「おらっ!」
『クワワッ!?』
ダーティ気味な指示を出す真に、ユルセンは若干引きながら意外そうな声を出す。しかしタケルはしっかり指示に従って、鍬眼魔の顔面に膝を入れる。
『腕十の字固め……解かるか!?こう……その鍬、使い物にならなくしてやれ!』
「こうだな!」
『クワーッ!?俺様の自慢の鍬が!』
真はジェスチャーでタケルにプロレス技を教えて、タケルはそれを実行した。もちろん腕を折る……と言う事では無く、あくまで腕を押さえつけたうえで鍬を捻じ曲げる。
鍬眼魔の鍬は、ギギギギと鉄が出す特有の嫌な音を立てて外側に曲がってしまう。これで片腕の鍬は、もう使用する事は不可能だろう。自身の長所を潰されてか、鍬眼魔は怒り心頭といった様子だ。
『貴様ああああ!もう許さんぞ!』
「ウワッ!し、しまった!?」
『焦るこたぁねぇよ!あの剣……2刀流でいけ!俺ってか、ガタックも……双剣使いなんだ!』
「オッケー!」
腕十の字固めから無理矢理にでも脱出した鍬眼魔に、タケルは投げ飛ばされる。体勢を立て直すと、またしても真の指示が通る。タケルはガンガンセイバーを出現させ、2刀流へと変形させる。
『クワアアアア!』
『良いか、余計な事は考えんな!綺麗な太刀筋じゃ無くて良いから、思い切り振り回すくらいのつもりでいけ!』
「うおおおおおおおお!」
『クワッ!?クワッ!?クワッ!?クワアアアアッ!?』
真から言葉で教えて貰っただけなのに、タケルのガンガンセイバーの振り方は、完全にガタックそのものだ。ムサシ魂ほどの綺麗さは無いが、荒々しさが倍増の太刀筋である。
頭に血が上ったのか、鍬眼魔はヤケクソ気味に突っ込んでくる。それを確実に捉えたタケルは、ガタック流の荒々しい太刀筋で、鍬眼魔の身を切り刻む。フィニッシュにタケルが大きくガンガンセイバーを振るうと、鍬眼魔は吹き飛ばされる。
『さぁ……トドメと行こうぜ!』
「ああ!」
『ダイカイガン!ガタック!オメガキック!』
ダメージが大きいのか、鍬眼魔はフラフラだ。その隙にトドメだと、真は指示を出す。タケルがゴーストドライバーのレバーを操作すると、オメガキックなる必殺技が発動する。
ゴーストの背後に瞳の紋様が浮かぶ。その瞳の中には、ガタックのエンブレムが収められていた。そしてその紋様は、ゴーストの右足へと集約される。
『キックのフォームはボレーキックだ!ジャンプして、こう!』
「解った!うおおおおおおっ!」
『クワァ!?』
「うぉらっ!」
ガギィッ!
『クワアアアアアアアア!?』
真がその場でボレーキックのお手本を見せると、タケルは鍬眼魔に向かって突っ込む。一方の鍬眼魔は、今しがた立ち上がった所だ。立ち上がった鍬眼魔の顔面目がけて、タケルは高くジャンプした。
そしてお手本通りのボレーキックで、思い切り鍬眼魔の顔面を蹴る。ゆっくりと後ろへと倒れ込んだ鍬眼魔は、その身が地面へ着く前に大爆破を起こして散った。
「お~……すっげぇ威力。お前もなかなか侮れねぇのかもな」
『ん~……どうだろうな。まぁ……倒せたならそれで良いや』
「真!見てたか、しっかり力を遣わせてもらったからな!」
『ああ、良いファイティングだったぜ』
ゴーストへの変身を解除したタケルは、嬉しそうな様子で真へと近づいた。そして真の手を握ると、ピョンピョンと跳ねて見せる。そんなタケルを見ていると、真もなんだか嬉しくなった。
「あ、そうだ……ほら、真に返すよ」
「はぁ!?お前ばっかじゃねぇ!?せっかく手に入れた英雄の眼魂を……」
「手に入れたんじゃない。これは、もともと真のだ。だから返すよ、これで……生き返れると良いな!」
『本当に……良いのか?』
タケルだって、本当は喉から手が出るほど欲しいはずだ。それでもタケルは、全く気にする様子も無く真に譲ると言う。半ば強引に手渡された眼魂を、真は強く握りしめた。
『絶対……絶対に、生き返れよ。俺……タケルの事は忘れない!』
「ああ、そう言ってくれると嬉しいな。さぁ、俺達の事は良いからさ……早く仲間の所へいってやれよ」
『……そうだ。御成さんと、アカリさんにも……ありがとうって伝えといてくれねぇか』
「ん?うん、任せろ。2人も喜ぶと思う」
あの2人にも、随分と迷惑をかけてしまった。しっかり本人達を目の前に感謝と謝罪をしたかったが、生憎な事に時間があまりある訳では無い。
真は受け取った眼魂を、自らの心臓部付近へ近づける。まるで……初めからその位置が正しかったのように、真の身体へと眼魂が入り込んでいく。そうすると、真の身体が強く発光を始めた。
「…………俺さ、真に会えて本当に良かった。なんか、男として大事な物を学べた気分だよ」
『そりゃこっちの台詞さ。本当に何度言っても言い切れない……ありがとな』
「真」
「タケル」
「『またな!』」
真とタケルが同時に別れの挨拶を言うと、目もあけていられないほどの光が周囲を包んだ。タケルが再び目を開いた頃には、もう既に真の姿は無かった。
**********
「!? ブハーッ!」
「加賀美!起きたか……!」
目が覚めると、そこはカエルム・スカラムの内部だった。なるほど、俺はどうにか戻って来れたらしいな。しかし……時間は、そんなに経過していない様だ。
むしろ、それの方が助かるけども……。ソルの野郎は俺の復活に驚いている。それは、俺がどれだけヤバイ状態だったかを物語っていた。
『おやおや……。そのまま死んで頂ければ、苦しまずに済むというのに』
「あん……そういう訳にも、いかんだろうが!」
起きてもまだこの状況が絶望的な事には変わりないけど、コイツは……全てを消し去ろうとしているんだ。もちろんこの世界もだが、タケル達の居る世界も消そうなんて……許せるはずも無い!
「やっぱり、アンタは間違っている!人間てのは、やっぱりワガママな生き物だよ。だけど……やっぱり誰かのために、何かをしてやろうって奴は居るんだ。それが多かろうと少なかろうと関係ねぇ!命は命……どれも重さは同じだ!アンタにこの素晴らしい世界を、消させてたまるか!」
「……オレは、加賀美ほど世界を知らん。だが……これから多くを知るつもりだ。だからこそ、オレも貴様を否定する」
『あくまで私と、戦う……そういう事ですか。良いでしょう!今度こそ殺して差し上げますよ!』
気の持ちよう……それが全てだ。俺達が倒せると思えば、神なんてちょろいもんさ。見てろよタケル……。お前が俺に教えてくれたことだ。俺は誰かのために、命を燃やす!さぁ……こっからが、本当の闘いだ!
あのままの勢いだと、自力で最終フェーズまで行きそうですね……。
そんなこんなで、ゴースト編でした。う~む……もっと御成を登場させたかったんですが。尺が足りず……。良いキャラしてますからね、御成。
巷では御成がヒロイン的なノリですものねぇ……。あっ、でもロビン魂の件で囚われの身に……うん、御成がヒロインで間違いないですね!
……って、何を御成に関して熱く語っとるんでしょうね。え~っと、まぁ……もしかすると、こんな事もありえたかも……なお話でした。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。