戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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タイトル通りZECT回です。原作キャラが一人も出てこないのは久しぶりですね。

同世代の人間が出て来ないせいか真がかなり大人しい……。

真に悪口を言わせたくて仕方ない私は毒されてるのでしょうか?

それでは、今回もよろしくお願いします。


ガタックの調査(ZECT回)ですが何か?

 乱入者騒ぎから数日がたち、今日は土曜日。久しぶりにゆっくりしようか、とでも思っていたのだが……そうはいかない。この間、爺ちゃんとの約束した「ガタックの調査」がある。

 

 休養を取るのも重要だが、今の俺にとってはこちらの方が優先される。なんて言ったって「発動するはずのない能力」をガタックゼクターが覚えたのだから、所持者の俺からすると気になって仕方が無い。

 

 今回の調査で少しでも謎が解ければと思うが……。まぁ大した成果は無いだろう。それでも、やらないよりはマシなら調査しておいた方が良いに決まってる。

 

 そんな訳で、今俺が居るのはIS学園から最寄駅(といってもかなり遠いが)だ。爺ちゃんの話では、迎えの人が来るらしい。駅の時計を見上げると、待ち合わせ時間には少し早いくらいだった。

 

(まだ来てないか……)

 

 そう思いながら駅の駐車場を見渡してみる。しかし、それらしい人も車も見当たらない。俺が少し早すぎたのかと溜息をついた瞬間、ふと気になる車が視界に移る。

 

 その車は、以前俺と親父がZECT本社に向かった時と同じく黒塗りの高級車だ。こんな所にそんな車が走ってたら嫌でも目立つ。多分……というよりはアレが迎えの車だろう。あっ……よく見たらZECTって書いてるじゃん。

 

 ZECTの車はピタリと俺の前に横付けする。すると運転席のドアがバタンと重苦しい音を立たせながら開いた。どうやら、運転手が出てきたらしい。ま……お互い挨拶は大事だよな、と俺が運転手に視線を向ける……んんぅ!?

 

「たどっ……!」

 

「ん?俺の名前を聞いてるのか?だったら話が早い。俺は田所 修一というものだ。よろしく頼む」

 

「はっ、はい……。よろしくお願いします……」

 

 なんでだよ!まさかの展開過ぎるよ!こんな使いっ走りみたいな仕事で田所さんが出てくると思わなかった……。その前に待て、どうしてまたこの世界に田所さんが居る?……って、親父や爺ちゃんが居るから不思議な話でも無いが……。

 

「ところで、なんで名前を呼びかけて止めたんだ?」

 

「あぁ……いや、ちょっと舌を噛んでしまって、ははは……」

 

 本当は思わず「田所さん!?」とかリアクションしちゃいそうになったのだけど、そこは適当に誤魔化しておく。我ながら苦しい良い訳とは思うが……。

 

「ハハッ!まぁ知らない大人に会うのは緊張するよな!」

 

 田所さんは特に気にする様子も無く、バンバンと強めに俺の背中を叩いた。そこには緊張を解す意味も込められているようで、かなり痛い。

 

「それじゃ、挨拶はこのくらいにしとくか」

 

「そうですね、今日はよろしくお願いします」

 

「……会長に聞いてたのとエライ違うが」

 

 車に乗り込む際、田所さんがそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。おい爺ちゃん、ZECTの人にいったい何を吹き込んでるんだ。あれか?「憎まれ口の一つや二つ覚悟しとけ」的な事でも伝えてんのか?

 

 言える訳ねーだろバッキャロー。普通に怖ぇよ、田所さんに悪口とか。だってこの人の見た目って一歩間違えたらヤク……ゲフンゲフン!あ~……強面だしな!そう、強面!

 

 俺が田所さんの知らぬところで冷や汗バンバンかいてるうちに車はいよいよ目的地に向けて走り出したのだが……。

 

「…………」

 

「…………(くっ……空気が……空気が重てぇ……)」

 

 いやマジで勘弁してくださいよ、緊張するなって言ったの田所さんじゃないっすか。正直のところ田所さんは黙ってるだけで威圧感がハンパじゃない。

 

 本人にそのつもりは全くないのだろうが、気圧されてる俺にとっちゃ機嫌が悪いとかそういう風な顔つきにしか見えない。……運転中だし控えた方が良いのは分かるが、ここは話しかけることにしよう。さもなきゃ俺のメンタルが持たん。

 

「あの……田所さんの仕事って、運転手なんですか?」

 

「ん……?う~ん……そうだな、まぁ俺の場合ずっと運転手をやってる訳じゃないが……ま、いろいろだな」

 

「いろいろですか?」

 

「あぁ、いろいろだ。こうやって運転手をしてみたり、現場の指揮をしてみたり……建築の話じゃないぞ?」

 

 ってことはこっちの世界でも田所さんは指揮官をやってるのか?……なんの現場だよ?暴徒鎮圧の仕事とかもしてんのかな、ZECTって。

 

「最近は主に運転手ってとこか、なにぶんISが世に出てから俺達の出番もメッキリ減ったからな」

 

「なるほど……」

 

 警察やらなんやら、そういうのは男社会だったもんな……つい最近まではの話だけど。やっぱり暴徒とかと戦うのも男は不必要とされてるんだな……。でもISの方がより確実ってのもあるか。

 

「その点、加賀美は俺達男の希望の星だな」

 

「いや、そんな大層なモンじゃないっすよ」

 

「謙遜すんな、加賀美と代表候補生の試合は俺達も見た」

 

「だったら知ってるでしょ、俺は負けてます」

 

 本当に今でもあの時の油断が悔やまれる。しっかりライダーカッティングを決めていれば……と。別に引きずってるって事でもないが、俺の記憶からはいつまでも消えない事だろう。

 

「勝ち負けなんてどうでも良いんだよ、あの試合……代表候補生相手に必死に食らいつく加賀美の姿を見て、俺達は沸いた」

 

「沸いた……?」

 

「ああ、そりゃあもう大盛り上がりだ。男でもやれるんだってのを思い出させたんだよ、お前は。あの試合で俺達男にとって大事な何かを示してくれた。感謝してるよ……」

 

「……はい!」

 

 ここで「そんなことは無いです」と否定するのは簡単だ。だが、田所さんはこんな俺でも希望だと言ってくれたんだ。肯定しておこう……きっとそれが俺自身の力にもなる。

 

「お喋りが過ぎたな……。そら、見えてきたぞ!」

 

「また無駄にでけぇ……」

 

 ZECT本社ほどではないが……まぁそもそも本社が規格外なでかさなのはある。だが、それを差し引いても目の前に見えてきたZECTのIS開発・および研究所はかなりの大きさを誇っているようだ。

 

 ここがガタックゼクターの出来上がった場所……いったいどんな人たちが開発したのか今から不安で仕方ない。せめて変人ではない事だけを祈っておくことにしよう……。

**********

 研究所の案内もそのまま田所さんがしてくれるらしい。何でも知り合いが多くて足を運ぶ機会も多いのだとか。慣れた様子で歩く田所さんはとても頼りになる。

 

「この扉をくぐったら研究室だ。覚悟しとけよ、修羅場だからな」

 

「え?修羅場ってどういう……」

 

 田所さんは俺の言葉に応える前に扉の中に入っていった。見ればわかるという事だろうか?……いろいろ不安だが、とにかく入ってみない事には始まらないからな……。

 

「うわぁ……」

 

「な、言った通りだろ」

 

 入った瞬間、俺は思わずそんな事を呟く。だってさ……なんかマジで修羅場なんだもの。ある研究員たちはヒートアップした表情で何かを必死に話し合っているし、ある研究員は額に冷却シートを張って「フフフ……」とか呟きながら何かを書いてる。アンタは今すぐ休め、怖いわ。

 

「つか……うるせぇ……」

 

「ここの連中は自分たちの好き放題にやってるらしいからなぁ……」

 

 誰だ、このなんとなく危なそうな人たちに好きにさせてんのは。って……爺ちゃんだよなぁ……。その結果ガタックが生まれたとか、なんか知りたくなかった。

 

「さ、奥へ進むぞ」

 

「あっ、ハイ」

 

 そうだったな、俺はガタックを開発した主任みたいな人に会いに来たんだった。どうか……どうか主任っぽい人だけはマトモであってくれ……!

 

「おーいたいた。待たせたか?」

 

「いいえ、時間通りですよ田所さん。そちらが加賀美君かしら?初めまして、私は岬 佑月よ」

 

「ど……どうも(ミサキーーーーーーヌ!!!)」

 

 なんでだよ!あぁもう……このセリフ二回目だよ!なんでまた岬さんがISの研究者をやってんだ……。心の中で思いっきり叫ばなきゃやっとられんよ、さもなきゃ動揺が顔に出る。

 

「美人だろ~。でもこう見えても結構な年……」

 

「田所さん。余計なことは言わなくていいです」

 

「じょ……冗談だよ、冗談」

 

 まぁ言われなくても知ってるが……事実俺の親父である加賀美 新が良い年したオッサンなんだから、同じく岬さんも年喰ってる……ハズなんだけどなぁ……なんか原作とほぼ変わらないように見えるのは俺だけだろうか?

 

「それじゃ加賀美君。ガタックゼクターをここに呼んでもらえるかしら」

 

「了解っす。あっ、ちょっと扉を開けといてもらっていいですか?」

 

 さもないとまた扉を突き破って現れかねない。俺の指示無しで物は壊さないようにと教えはしたが、どうやらガタックゼクターはなるべく最短ルートを通りたがるようだ。

 

 だが今回は何の問題も無く開いた扉から侵入した。ただし、俺の手元に来るまで何人か研究員にぶつかりそうだったけど……。後で謝っとこ……

 

「久しぶりね、ガタックゼクター。加賀美君の所で良い子にしてたかしら?」

 

「今のを見たらとても良い子にしていたようには見えないが……」

 

「ハハハ……まぁ、はい……ご想像にお任せします」

 

 確実に良い子ではなかったね、ガラス突き破るは織斑先生に攻撃しようとするは俺の制服の襟を引き千切るは……。どれも俺を守ろうとしてたんだろうけどな。

 

「じゃ、少し預かるわね」

 

 そういって岬さんは俺の手元からガタックゼクターを取り上げる。ツカツカと靴を鳴らしながら少し奥へ行くと何やらよく分からないケーブルでガタックゼクターとPCを繋いだ。

 

 するとガタックゼクターのシステム部らしきデータが正面の大型モニターに映し出される。俺も田所さんもよくは分かっていないが、研究員たちはいつの間にかモニターに注目していた。どうやら興味をそそられているらしい。

 

 岬さんはというと真剣な眼差しで空間投影型のキーボードを黙々と叩いて行く。鬼気迫るとはこの事だろうか、話しかけることすら憚られるような感覚だ。とにかく岬さんの手が止まるまで待つことにしよう。

 

「……加賀美君。ちょっといいかしら?」

 

「はい、何でしょう」

 

「このクロックアップシステムは、突然ガタックが使用できるようになったのよね?」

 

「そうですね……。例の乱入者騒ぎの時、本当に突然でした。なんていうか……まるでガタックゼクター自身が使う事を推奨してる感じでしたね」

 

 俺の言葉を聞いて岬さんはまた考え込んだ。しばらく黙ったままだったが、今一度キーボードを叩く。すると、ガタックに搭載されているシステムが大きくピックアップされる。

 

「キャストオフにプットオン……それにクロックアップか……」

 

「あれ?でもおかしいですよね……。なんでさらっとガタックのシステム部に紛れ込んでるんですか?」

 

「そうなの、不思議なのはそれよ。このクロックアップシステムだけどまるで『初めからガタックゼクターに搭載されている』かのようにシステム部に登録されているの」

 

 つまりどういうことだってばよ?最初から使えるのと同等みたいな感じでしれっと紛れ込んでるって……いったいどういう事だ?

 

「つまり、ワンオフアビリティーではないと?」

 

「ええ……そのはずだけれど……。どうもしっくりこないのよね……。もしクロックアップがワンオフアビリティーではないとすれば……無茶苦茶すぎるわ」

 

「ガタックゼクターを開発したのは岬たちなんだろう?もっと何か分からないのか」

 

「開発したからこそ混乱してるんですよ……。それこそこんなシステムを入れた覚えはないですし、いったいどういう原理なのかもまだよく分かってないんですから」

 

 口ぶりからするに映像はしっかり岬さんも見たようだ。分からなくて当然だろう。クロックアップ中の世界は俺にしか体感できない。口で説明してどうこうなる問題でもないだろう。

 

「ある程度の仮説は立ててますけど……。やっぱり直接実験する方が早いわね。……加賀美君」

 

「はい」

 

「今からクロックアップを見せてくれないかしら?」

 

「はい?」

**********

 研究室から少し場所を移して、俺は実験室に一人立たされていた。学園のアリーナとよく似ているが、一面壁のうえに天井もある閉鎖空間のため少し狭く感じる。

 

『加賀美君。いつでもいいわよ』

 

「了解っす」

 

 岬さんたちはさっきの研究室でここをモニタリングしているらしい。アナウンスが聞こえたのでとりあえず俺はさっさと変身する。

 

「変身」

 

『HENSHIN』

 

「キャストオフ」

 

『CASTOFF CHANGE STAGBEETLE』

 

『キャストオフ……?する必要はあるの?』

 

「あぁ……はい。ライダーフォームじゃなきゃ使えないみたいなんで」

 

 なんとなく俺の頭の中では「クロックアップ=ライダーフォーム」みたいな所があるからつい説明なしで続けてキャストオフを使ってしまった。しかし、クロックアップを知らない岬さんや田所さんってのも今となっては新鮮だな。

 

『そうなの、分かったわ。それじゃ、今からターゲットを出すから、それをクロックアップを使って全部落としてちょうだい』

 

 岬さんの言葉と同時位に「ENEMY」と書かれた球体のようなものがあたりに浮かぶ。数は数十個と言ったところか……。一撃当てればいいだけのようだからクロックアップすれば間に合うだろうな。

 

『加賀美君の準備ができ次第始めて。こっちはいつでも大丈夫だから』

 

「はい」

 

 俺は実験室の調度中央くらいの位置まで上昇した。クロックアップか……なるべく使いたくはないんだけど……言ってる場合じゃないか、あの筋肉痛にも慣れなきゃだし……始めよう。

 

「クロックアップ!」

 

『CLOCK UP』

 

 ベルトのクラップスイッチを押した途端に、前回と同様の感覚を覚える。今回も正常に作動しているようだ。そうと決まればいくらクロックアップ中とはいえ急がなくては。

 

「ガタックゼクター、近い奴から数珠つなぎにターゲットをロックしてくれ」

 

 するとハイパーセンサーが一つの攻撃対象をとらえた。俺はダブルカリバーで攻撃対象を斬る。するとまるでガラスが飛び散るような演出と共に攻撃対象は消え始める。

 

 スローモーションだからこの演出が終わるまで待っていたら相当時間がかかりそうだ。そんなわけで、次々と攻撃対象を破壊していく。

 

「コイツで最後!」

 

 最後の攻撃対象の破壊を確認した。クロックアップの限界時間はまだ余裕が残っているようだが、このまま続けていても仕方が無い。でもどうやって解除すりゃいいんだろ。

 

(えっと……解除!)

 

『CLOCK OVER』

 

ガシャアアアアアアン!!!

 

 俺が頭の中で「解除」と呟くと、クロックアップは終了された。……と同時に攻撃対象が一斉に等速となり、ほぼ同時に破壊される。

 

「づぅ!?っ~~~~……!!!!」

 

 そして俺を襲ってくる筋肉痛。今回は何とか気絶せずに済んだが、かなり痛いことには違いが無い。とにかくゆっくり降りて、変身を解除しよう。

 

「はぁ……痛ぇ……」

 

 俺のベルトから離れたガタックゼクターは、いつもはどこかへ飛んでいくのだが出口が見当たらないためか俺の周りを旋回し始める。物は壊すなと命令していなかったら壁を突き破っていたのだろうか?

 

「おっと……岬さーん!俺はどうすればいいですか?」

 

『…………』

 

「……岬さん?」

 

『あっ……ごめんなさい。申し訳ないのだけれど、こっちに戻ってきてくれるかしら』

 

 マジか……この筋肉痛でまた元の場所に戻るとか、キツイな。でも岬さんにそう言われちゃしょうがない。大人しく研究室に帰るとしよう。

**********

「ただ今戻りまし……た?」

 

 研究室に入ったとたん視線が集中するのを感じる。見れば研究員たちは一様に俺の事を見ていた。言いたいことは分かるけど勘弁してくれよ、俺も分からない事の方が多いんだぜ?

 

「お疲れ様、加賀美君」

 

「あっ、どうもっす岬さん」

 

 俺に労いの言葉をかける岬さんの表情は、どこか曇りがちに見える。クロックアップを目の当たりにして、同リアクションをしていいのか分からないようだ。

 

「あの、岬さんたちからはどう見えました」

 

「どうって……そうね、加賀美君が消えたと思ったら、すぐまた現れて、それと同時に攻撃対象が一気に破壊された……ようにしか見えなかったわ」

 

「どういうものかは話には聞いてたが……実際目の当たりにするとすさまじいもんだな」

 

 そういう田所さんの表情も若干青い。フィクションに等しいことが目の前で繰り広げられれば誰でもそうなるか……いや、織斑先生は眉一つ動かしてなかったな……なんだあの人。

 

「それで、これがリプレイなんだけど」

 

 岬さんがキーボードのエンターキーを押すと、さっきの映像が再生される。やっぱり俺の目から見てもさっき岬さんが説明してくれたようにしか見えない。

 

「傍から見るとホントとんでもねぇっすね……」

 

「逆に、加賀美君の視点ではどんな感じなのかしら?」

 

「……そうっすね。スローモーションの映像とかあるじゃないですか、アレの中を俺だけ等速で動いてるみたいな?そんな感覚ですかね」

 

「でも確か筋肉痛になるんだよな?だったら単純に加賀美が早すぎて逆に周りが遅く見えてるだけじゃないのか」

 

 俺も田所さんの考えに近かった。これは初めてクロックアップを使った後にいろいろ考えて出した結論だが、本来のクロックアップならばまず筋肉痛は起こるはずがない。だから田所さんの言った通り高速移動だという判断なのだが……。

 

「それだと、こっちの説明がつかなくなるんですよ」

 

 そういって再びキーボードをいじる岬さん。今度はスローモーションで映像を流し始めた。それこそスーパースローの映像くらいのスピードか?

 

 それでもさっきのリプレイ映像に俺の姿は映らない。俺はこの映像がおかしい事に気が付く。

 

「これは……!」

 

「どこかおかしいところがあったか?」

 

「田所さん、考えても見てください。クロックアップが高速移動能力だとすれば、撮った映像をスローモーションにすれば、俺の姿は映るはずなんです」

 

「加賀美君の言う通り。ここまで再生速度をスローにしても、加賀美君の姿は残像すら映らない……。結論から言えば、クロックアップは高速移動能力ではないわ」

 

 な、なんだってー!いや、でもおかしいじゃん。それだったらなんで俺は筋肉痛になるんだ?それを先に聞いておきたいが、岬さんは「仮説は立ててる」みたいなことは言っていたのを聞いた。そっちについて質問してみよう。

 

「岬さんは、クロックアップについてどういう仮説を?」

 

「そうね……時間操作能力じゃないかって思ってるわ」

 

「は、はい?」

 

 それだったら原作と同様の能力だが……そんなことあり得るのか?って言うかそれこそ俺が筋肉痛になる理由がますます分からなくなるんだけど。

 

「岬……それはいくらなんでも話が突飛すぎるんじゃないか?」

 

「えぇ……私もそう思ってますよ、だけれどそうとしか言いようがないんです」

 

「結局岬さんの仮説ってのは……」

 

「かなりSF的な話になるけど一応話しておくわ。加賀美君……タキオン粒子って知ってるかしら?」

 

「タッ、タキオン粒子!?」

 

 いやいやいや……待て待て待て……話が本当に原作カブトに近づいてるんだが……。もちろん知ってるとも、超光速で動くと「仮定」されている粒子の事だ。

 

 クロックアップはこのタキオン粒子を操作することで、時間の流れをゆっくりに変える。そのゆっくり流れる時間流を自由に移動できるライダーたちは消えて見えるというわけだ。

 

 だが肝心なのは「仮定」されているという部分だ。さまざまな理論家や研究家がタキオン粒子の検出を試みるも、21世紀になった現在もその存在はあくまで理論上のものとされている。

 

「タキオン粒子で時間流を変化させている……って岬さんは言いたいんですよね?」

 

「クロックアップ発動時、もしタキオン粒子を操っているのだとすれば加賀美君は別の時間流に存在することになるはずよ、それなら映像に映らなかったことも説明がつくわ」

 

「でもそれだと筋肉痛の方が説明つかなくなりますよ?」

 

「う~ん……そうね、時間流を遅くしているのに反比例して加賀美君の筋線維は高速で断裂してるとか?」

 

「はぁ!?んな訳ないでしょ!」

 

「まぁそうでしょうね。でもホラ、男の子が読むバトル漫画って言うのかしら?ああいうのでも何か能力にリスクが付くときあるじゃない。あれと同じって考えればいいんじゃないかしら?」

 

 なんか急にアバウトになった気がする。でも岬さんの言いたいことは分からないでもない。あまりにもチート過ぎるから俺も少しは覚悟をしろやって言う意味での筋肉痛なのかもしれないが……。

 

 結局のとこ俺が筋肉痛になる原理は不明なままだが、岬さんの考え方が最も正解に近いのかもしれない。そういう風に考えた方が自然だし、何より原理がどうとか言ってたら永遠にこの話題にケリはつかないだろう。

 

「細かいことは気にすんな……ってとこですかね?」

 

「研究者として情けない限りだけど……今はそういう結論のほかないわね。今後も研究は続けていくつもりだけど……この調子でいくとガタックゼクターにはまだまだ謎が多そうね」

 

「話から察するに、これが解明できたらノーベル賞もんじゃねぇのか?」

 

 ノーベル賞どころか……名声だけで一生喰っていけるだろうな……。タキオン粒子が実在することを証明できるなんて事はあり得ない事に等しいし。

 

「ま!難しい話はこの辺にしとこうぜ!」

 

「田所さんの言う通りね、一応はタキオン粒子を操っているであろうという結論も出たし、これ以上は今考えても仕方なさそうだわ」

 

「そうですか……」

 

 やっぱり完全には解決しなかったか……分かった事といえばタキオン粒子を操っているであろうという事だけ。しかもあくまで「かもしれない」ってのが分かっただけだし……。

 

 なぜこの能力に目覚めたのかって点に関しては完全に謎のまま。最初から搭載されてたと同然とか言う訳のわからん状態だ。想像していた以上に分からないことが多すぎる。

 

「そんな顔すんなって、いずれこのお姉さんが全部解決してくれる」

 

「ちょっと田所さん……いい加減にしないと怒りますよ?」

 

「ハハハ……」

 

 お姉さんの部分を無駄に強調して言う田所さんに岬さんは睨みを利かせる。……なんか妙な感じだ、この2人の間に親父でなく俺が立ってるってのは……。

 

 妙というか、寂しい。田所さんと岬さんは俺の親父の事を知らないんだ。原作で見たバランスの良い三人組「田所班」は存在しないどころか、知り合いですらないんだって思うとどうしてもやるせなさを感じる。

 

「そんな辛気臭い顔してっと幸せが逃げちまうぞ。そうだ、美味い蕎麦でも食いに行こう。こう見えても結構食い物にはうるさいんだぞ?」

 

「そば!?田所さん、最高っす!」

 

 俺の表情を考え過ぎと感じたのか、田所さんは飯の提案をする。俺はすぐに飛びついた。原作で実家が蕎麦屋である田所さんが美味いという店だ、きっと絶品に違いない!

 

「現金だなお前……まぁ良いか」

 

「蕎麦……私も……」

 

「主任!逃げないで下さいよ?仕事はかなり残ってるんですから!」

 

 岬さんは俺達についてこようと思ったのか、部下の研究員に切羽詰った表情で止められる。これには岬さんも観念するしかないようだ。

 

「田所さん、加賀美君……行ってらっしゃい……」

 

「あ、あぁ……仕事、頑張れよ。じゃあな」

 

「えっと、今日はありがとうございました。またいつか」

 

 なんか負のオーラがすごい岬さんを前に、俺も田所さんもそそくさとその場を去り、研究室を後にする。扉の前に立った瞬間、俺達は同時にふぅっ……と溜息をついた。

 

「女は怖いな……本当に」

 

「そうですね……」

 

「「…………」」

 

「気を取り直して、飯にするか」

 

「はい!」

 

 田所さんの言葉に大きく返事を返し、俺達は歩き出す。ここにきても分からないことは多かったが、それはそれで仕方ないと割り切ろう。

 

 考え過ぎは良くない。本当にこの一言に尽きる。とりあえずは俺にとってクロックアップはプラスの要素なんだから、覚醒したならそれはそれで俺が上手に使えれば良い。今は、そういう結論にしておこう。

 

 余談だが、田所さんに連れられてきた蕎麦屋は予想通りに美味かった。値段もごく普通の蕎麦と何ら変わらない。うん、これはいい店を教えてもらった。今度は本音とでも一緒に来てみるのもいいかもしれない。

 

 

 




いろいろ言いたいことはあるでしょうが、まずは私の話を聞いてください。

まずはクロックアップについて、これは原作カブト同様にタキオン粒子の操作による時間流の変化という事になります。以前感想で「高速移動」的な事を書きましたが、こちらに変更で、話が二転三転して申し訳ない……。

ではなぜ筋肉痛が起こるか、という点は「制限に伴うリスク」と考えて下さい。何か制限を付けなきゃ連発すればそれで勝っちゃいますからね。あくまで「一試合に一回程度」の能力にしたいので……。

田所さんと岬さんについてはどうしても出したかったら出してしまいました。全然キャラが違かったかもしれないですけど。

ISの世界におけるカブトの登場人物の年齢は「原作プラス20歳」とお考えください。だから新もオッサンですし、岬さんもオバ……おっとっと……お姉さんですし、田所さんもナイスミドルです。

さて、次回は原作に戻って主要登場人物である2人の登場ですかね。簪が登場した影響であの2人にそんな出番はないかもしれませんけど……。

それでは皆さん、また次回でお会いしましょう。

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