戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

前回のあとがきでですね、リクエストの事に触れましたら……追加で何件か応募して下さった方が居ました。

番外編の順番とか、時間軸通りになるべく書いてるのですけどね……IFルートの募集がありましたので、先にそちらを書かせて頂きました。今回は久々に、注意事項からです。

・ソルがTS
・時間軸は本編の四章~五章にかけて
・簪と本音は、普通に友達
・再度警告、TS要素あり

……ってな感じです。本当……TSだけ、苦手な方……特にソルは男でないとという方にはオススメできない話になってます。私ですか?TS……大好物ですけど?

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


IFなお話・♀なアイツルート

「ソル、少し良い?」

 

「……何だ」

 

 真夏だと言うのに、オッズコートを着て高層マンションから外を眺める人影があった。彼女は亡国機業の構成員であり、コードネームをソルと名乗っている。

 

 そんなソルへと話しかけたのは、同じく亡国機業のメンバーであるスコールだった。ソルはコートのフードをグイッと引っ張りながら、スコールの方へ振り返る。

 

「ちょっと動いてほしいのだけれど……構わないわね」

 

「命令なら従う。それだけだ」

 

「そう。なら……少し彼と接触して貰えないかしら」

 

「何……?暗殺ではなく、接触か?」

 

 スコールの問いに短く答えたソルは、ふてぶてしい態度でポケットに手を突っ込む。そんな態度はいつもの事で、スコールは特に気にする様子も無い。

 

 そしてスコールも、手短にソルへと用件を伝える。『彼』……と言うのは、加賀美 真の事である。真はソルからすれば殺害対象であり、むしろそのためだけにソルは産まれてきたとも言っていい。

 

「殺れそうなら、それでも良いわよ。どのみち殺さなきゃだし」

 

「ならば何故、わざわざ接触せねばならん」

 

「貴女も女の子なんだから、接触した方がいろいろやりやすいと思うわよ?」

 

「色仕掛けでもしろと?生憎だが、私は自分の性別なんぞ……気にした事など無い」

 

 そう言うとソルは、コートの懐へとナイフを忍ばせ足早に部屋を後にする。その背中を見送ったスコールは、部屋で一人……ほんの小さく呟いた。

 

「あらあら……それは勿体ない。せっかく絶世ってくらいには美人なのに……」

**********

「あっつい……マジ死ねや太陽……」

 

 家から最も近い繁華街を練り歩く真は、ブツブツと無理難題を呟く。今の時分は夏休み……太陽の活動も、ピークと言ったところだろう。

 

 ちなみに真は、大きなデパートに調理器具を買いに行った帰りである。料理に対してそれなりにこだわりを持つ真は、調理器具が古くなるのを許せないのだ。

 

「はぁ……ダメだ。コンビニでも見て、アイスでも……」

 

「ってぇな!どこ見て歩いてんだ!」

 

「あん?」

 

「…………」

 

 暑さに耐えかねてコンビニを捜し始めた真は、背後で怒号が鳴り響いた事に気が付く。何かと思って振り返ってみると、どうやら……不良にぶつかってしまった者が居るらしい。

 

 その人物は、真夏なのにコートを着込んでいた。フードを被っていて顔は見えないが、女であると真は感じた。しかし……女性にしては非常に背が高い。目測でも、165cmほどはありそうだ。

 

「んな真夏にコートなんか被りやがって……頭おかしいんじゃねぇの?」

 

「…………」

 

「さっきから……調子乗ってんのか、あぁ!?顔くらい見せやがれ!」

 

「…………」

 

 何も答えようとはしない少女に、不良は苛立ちを募らせた。顔を見せない事が気に食わなかったのか、下から手を振り上げてフードを弾く。

 

 少女の顔を見た不良は、思わずコレは運がいい……とでも言いたそうな表情を見せる。なぜなら少女が、めったに出会えないような『上玉』だったからだ。遠巻きに見ていた真も、思わず見とれてしまうくらいに。

 

「よぉし……気が変わった。ちょっと俺と遊んで貰おうか?今回はそれだけで勘弁してやる……」

 

バチィ!

 

「私に気安く触れるな」

 

「なっ!?……っの!女だからって調子に乗りやがって!」

 

「あ~……はいはいお兄さん、そこまでにしとこうぜ」

 

 不良は少女の手を取ろうと思ったが、それは思い切り弾かれてしまう。ジンジンと痺れる手を抑えながら、本格的に不良は激昂したらしい。

 

 これは流石にまずいと思ったらしく、真は少女を庇うかのように不良の前へと出てきた。少女よりも前へ立った事で、真は……少女が懐へ手を入れている事に気付かない。

 

「あぁ!?ガキが、でしゃばってんじゃねぇぞ!」

 

「この子も悪かったかもだけどよ、女殴るとか……そんなだっせぇ事はさせねぇぜ」

 

「うっせぇ!ガキは引っ込んで……ろ!?」

 

「悪いね、お兄さん。俺……けっこう強いんだわ」

 

 不良は真を殴ろうと、手を振り上げたが……急に脳がグラつく様な感覚を覚える。真は不良が隙を見せた一瞬に、顎へと拳をヒットさせたのだ。

 

 結果的に不良は、軽い脳震盪を起こす。しばらくは、立ち上がる事すらままならないだろう。真はそれを確認すると、少女の手を取り走り出した。

 

「ふぅ……此処まで来たら、大丈夫だろ。……平気か?」

 

「余計な真似……いや、助かった……礼を言う」

 

「…………」

 

 しばらく走って、真は少女の手を離して振り返る。少女が何か言った気がしたが、残念ながら聞き逃した。しかし……感謝の方は、しっかりと聞こえる。

 

 いや……耳に届いていても、右から左へ流れてしまっているらしい。間近で少女を正面から捉えた真は、改めて少女の美貌に見とれてしまう。

 

「なぁ……名前、聞いても良いか?」

 

「ソ……違う。……天野 陽子」

 

「そうか、天野な。俺は加賀美 真ってんだ」

 

 真が恐る恐る名前を聞くと、少女は自身の名を答えた。ソ……と言いかけたのは、もうお分かりだろう。彼女は先ほどスコールから命令を受けていた……ソル。

 

 天野 陽子と言うのは、即興で考えたのだろう。多少のトラブルはあったものの……ソルからすれば大儲けである。ここからどうにか、真と深く接触するつもりだった。

 

「……何か、礼がしたい」

 

「あ?いや、良いよんなの。別に見返り求めてた訳じゃねぇし……」

 

「それでは、私の気が済まん」

 

「ん~……そんじゃ……」

**********

「なんか、悪いな。本当に、予定は無いのか?」

 

「無い」

 

「そうか、なら良いけど」

 

 真がソルに提示した条件は、今日1日付き合ってもらうと言う事だった。真も男……下心は有りけりだが、どちらかと言えば暇という事が勝っていた。

 

 夏休みとは言え、誰とも遊べない日なんてのもある。そんな日に、美人が付き合ってくれるとなると……真は内心小躍りするほどだった。

 

「ってか、何で顔隠してんだ?」

 

「私の勝手だ」

 

「…………。暑くねぇの?」

 

「無い」

 

 ソルは再び歩き出すと同時に、またしてもフードを被ってしまう。真としては、自身の顔が美人過ぎるからか……?なんて深読みする。なんてことは無い……単なるソルの趣味だ。

 

 淡々とした様子のソルに、真は無理矢理つき合わせているような感覚になる。まぁ……実際のところは、ソルからすれば好都合な訳だが。

 

「おっ、やっと見つけた……天野、ちょっち待っててくれ」

 

「了解した」

 

 真はコンビニを見つけると、小走りで中へと入っていく。そうしてしばらく待つと、真は2本のアイスバーを手に戻ってきた。真は両方を、ソルへと突き出す。

 

「ソーダとグレープ、どっちが良いよ?」

 

「…………どっちでも良い」

 

「そうか?なら俺はソーダで」

 

 ソルからすれば、どっちでも良い……では無く、どっちでも同じなのだ。ソルには味覚が存在しない。いや、味覚だけでなく……感覚神経の大半を持ち合わせていない。

 

 それ故に、真夏だろうと平気な顔してコートが着られるのだ。そんな事を真は知る由も無く、芯から身体を冷やしてゆく。食べないと不自然だと判断したのか、ソルも同じくアイスバーを食べ進める。

 

「天野ってさ、この辺じゃ見ねぇ顔だけど……」

 

「…………気まぐれに、足を運んでいただけだ」

 

「ふ~ん……ま、お互い学校がなけりゃ暇だよな」

 

「学校は通っていない。だが、それなりの教育は受けている」

 

「へぇ……そいつぁ。暇じゃねぇの?」

 

「持て余した時間は、寝て過ごす」

 

 実際は真を尾行していて、不良と肩がぶつかるという凡ミスを犯した訳だが……。そこは適当に誤魔化して、真の質問にも適当に答える。

 

 そんなソルの様子が機械的だと感じたのか、真はその後は様々な場所へと連れまわす。結果……手応えはあまり感じられなかった。時刻は夕暮れ時……そろそろ、お互いに帰らなくては。

 

「なんか、悪かったな……。あんま楽しめてなかったみたいで」

 

「……礼だ。問題は無い」

 

「そうか……?それなら……さ、今度は俺が礼をさせてくれ。その……今日付き合ってくれた礼?」

 

「……解かった。では、また明日……」

 

 今日中に真を暗殺する予定のソルだったが、運が悪く隙を見いだせなかった。それだけに、真の言葉はまたしても好都合だったのだ。

 

 真の方は呑気なもので、まさかの了承に1人よっしゃとガッツポーズ。その頃には既に、ソルの姿はそこには無い。それでも真は、上機嫌で帰路へと着くのだった。

**********

「よっ!」

 

「ああ、待っていた」

 

「……なぁ、天野。その服、昨日も同じ奴を着て無かったか?」

 

「同じものでは無い。同じものを何着も持っているんだ」

 

 翌日となって真が待ち合わせ場所へ着くと、既にソルはそこで待っていた。そして真は、どうしてもソルの服装が気になる。……今日も今日とて、暑苦しいモッズコートだ。

 

 ソルとしては、着回ししていると思われたのが心外らしい。ちゃんと着替えている……と言いたいらしいが、その発言自体が少しズレているのだ。

 

「……決めた!服、買いに行くぞ」

 

「お、おい待て……引っ張るな」

 

 ソルの発言で、真の向かうべき場所のビジョンは見えた。力強くソルの手を引くと、服屋を捜して歩き出す。ここは繁華街であるため、すぐに見つかった。

 

 拒絶反応を見せるソルを無理にでも押し込むと、近くの店員を呼ぶ。自分のセンスでは心配らしく、ソルに服を見繕って貰うように頼んだ。そうしてソルは、しばらく店員に着せ替え人形にされるのであった。

 

「こちらでどうでしょう?お客様!」

 

「いや、どうでしょうと言われてもだな……。私は……」

 

「おー!夏らしくワンピースか、可愛く仕上がったな」

 

「か、かわ……?わ、私が……可愛い?」

 

 着るしかないと思って着たらしいが、ソルは個人的な感想など持ち合わせてはいない。困惑していると、様子を見に来た真は感心したような声を上げる。

 

 ソルは真に可愛いと言われて、不思議な感覚が胸に宿るのを覚えた。自分には到底当てはまらない……と思っているのか、真から視線を外してしまう。

 

「店員さん、値札……外しといて下さい。一式買いますんで」

 

「はい、まいどありがとうございます!」

 

「おい……待て、私は……」

 

「良いんだって、バイトで結構稼いでっから。それに、美人さんなんだからそれなりの格好しなきゃ損だぜ?」

 

「び……じん……」

 

 ソルが困惑している間に、真はせっせと会計を済ませてしまう。そこでソルは、ようやく面倒な事になっていると気がついた。それは……紙袋に仕舞われたオッズコートだ。

 

 あれにはナイフが忍ばせてある。素手でも真を殺せない事も無いが、やはり刃物の方が確実だ。どうしたものかとソルが考えていると、真が自分の元へと戻ってくる。

 

「大丈夫だって、似合ってっから」

 

「ち、違う……私が言いたいのは……」

 

「ん~……よしっ!次はアクセサリーでも見にいくか」

 

「貴様……人の話を……!」

 

 ソルが反論をし終える前に、真はその手を引いて歩き出した。グイグイと引っ張られるが、ソルがその手を振りほどく事は無かった。その事に最も困惑しているのは、他でもないソル本人に見える。

 

 その後もソル的に言わせれば、何度か暗殺のチャンスはあった。しかし……そのチャンスは、ナイフがあればの話しだ。結果は今日も暗殺失敗……。取り敢えずソルは、また会う約束だけは取り付けておいた。

**********

「お帰りなさ……何、その格好?」

 

「奴に着させられた」

 

「ふぅ~ん?いいセンスしてるわね、彼……」

 

 突っ込まれるとは思っていたが、この女のニヤけた視線は……時々だが殺したくなる。私はすぐさま服を脱ぐと、脱衣場へと放り投げた。そのまま下着も脱いで、シャワー室へと直行する。

 

 乱暴にノズルを捻ると、勢い良く水が出始めた。温度などは、私にとって確認する必要の無い事……。しかし……最悪の気分だ。この私が、二度も奴ごとき殺せんとは。

 

「クソ……」

 

 あぁ……本当にクソだ。よりによって、自身の素体となった男に引っ張り回されるなどと……。そう思うと私は胸部にある脂肪の塊が、異様に鬱陶しく感じられた。

 

 何故私は、男として造られなかった?いや……理由など解っている。ほんの少しでもIS適正を底上げする……ただそれだけの事だ。男だったらば、変なしがらみもなかったろう。

 

「…………」

 

 だとすれば私は、なぜ女らしさをある程度は留めているのだろうな……。この長い髪1つとってもそうだ。無意識に、私は女であろうと?フンッ……下らない。

 

 私はソル……亡国機業のソルだ。加賀美 真を殺し、唯一の存在となるために造られた……それだけの存在。それ意外は、余計な事を考えなくても良い。

 

「フーッ……」

 

 私はシャワーを止めると、バスタオルで身体を拭きつつシャワー室を出た。あらかじめ用意してある私用の下着を身につけていると、ある事に気がつく。

 

 脱衣場へと脱いでいたワンピースが、ズタボロに引き裂かれているではないか。それを見た私は、何故か冷静でいられない。犯人に目星はついている。私は、脱衣場を飛び出た。

 

「オータム!」

 

「あぁ?どうした~ソルぅ?」

 

「貴様……」

 

「ハッ!お前……もしかして怒ってんのか?意外だねぇ……んな大事なモンとはよぉ」

 

バキッ!

 

 本当に……自分でも良く解らない。私は何故……怒っている?何に対して怒っている?解らない……解らないが、オータムに殺意を覚えているのは確かだった。

 

 私はオータムを殴り飛ばした後に、マウントポジションをとって拳を叩きつけ続けた。そうしていなければ、どうにも腹の虫が治まりそうにも無い。

 

「そこまでよ、ソル」

 

ズダン!

 

「ぐっ……!」

 

「……貴女、オータムを殺す気?」

 

「そんな女……死んでしまえば良い!」

 

 スコールのゴールデン・ドーンに捕まれて、壁に向かって投げられた。その影響で少しむせたが、心からの言葉でスコールに答える。すると、どうにも頭の痛そうな仕種を見せた。

 

 私の態度が気にいらんのは解る。だが……こうも毎回くってかかられると、いい加減に我慢の限界なのだ。そう……そうだ。私の憤りは、そこからきたのだ。……そうに決まっている。

 

「はぁ……良いわ。貴女はもう寝なさい」

 

「……処分は良いのか?」

 

「どうせこの子が仕掛けたんでしょ?不問とは言わないけど……次が無ければそれで良いわ」

 

「……了解した」

 

 その言い方からするに、二度目は知らんと言いたいらしい。スコールは気絶したオータムを、ヒョイっと撮んで寝室へと消えていった。……オータムを殴って苛立ちは晴れた……ハズなのに。

 

 引き裂かれたワンピースの事を思い出すと、何故か心に『しこり』が残った様な感覚だ。……奴と接触してから、私の中で何かが起こっている……。私の胸中は、マドカや……スコールやオータムなら理解が及ぶのだろうか?

 

「…………」

 

 もう良い……考えないでおく事にしよう。さもないと、頭がおかしくなりそうだ。クソッ……早急に、加賀美 真を始末しなくては。次こそは……そう考えながら、私も自室へと戻った。

**********

 今日は奴と約束を取り付けた日……。今日だ……必ず殺してやる。そう意気込んでいるハズなのに……何故私の気はこんなにも重い。

 

「はぁ……」

 

 いや……だから、余計な事は考えるな。奴を殺せば全ては丸く収まる……それだけの事。もう見かけた瞬間にサクッと刺す……そのくらいの心構えで……。

 

「おっす、いつも早いな」

 

「…………」

 

「んな驚いて飛び退くなよ……」

 

 しまった……考え事が過ぎて、もはや近づいた事にすら気が付けなかった。歯痒い……こうも上手くいかんのは人生で初めてだ。次なるプランを考えねばならん……。

 

「ってか、この間の服……着て来なかったんだな」

 

「…………」

 

 加賀美は私を眺めると、何処か残念そうにそう言う。その途端に、またしても胸中へとモヤモヤを感じる。もしかして私は、後ろめたく思っているのだろうか。

 

 サラリと理由を言おうと思っていたのに、上手く声が出せない。それどころか落ち着きが無くなり、勝手に体がソワソワと動き出す。クソッ!なんなんだいったい!?

 

「……もしかして、なんかあったか?良ければ、聞かせてくれよ」

 

「やぶ……られた……」

 

「はぁ……?誰に?」

 

「同居人……。4人で住んでるが、その内の1人だ……」

 

 理由を問いかけてきた加賀美に対して、私は視線を外しながら答えた。今の私が覚えている感情は、恐怖……なのかも知れない。せっかく買って貰った服を、台無しにしてしまった。

 

 だから加賀美の反応を見るのが怖い……。断っておくが、何故私がそんな感情を抱いているかは理解が及ばない。だからこそ、早くコイツを殺したいのに……!

 

「よしっ、服を買いに行くぞ」

 

「な、何故そうなる……。私は、貴様に貰った物を……」

 

「そう思ってくれてんなら、天野は悪かねぇよ。今度は破られても良いように、大量に買おうぜ」

 

「…………」

 

 加賀美は私の手を取ると、いつもの様に力強く引いて行く。私はヨタヨタと着いて歩きながら、オズオズと加賀美に告げる。すると加賀美は、笑顔交じりにそう言う。

 

 クソッ……クソッ!鬱陶しいハズなのに、加賀美と繋がれているこの手を……離したくないと思っているのは何故だ!?それどころか私は……加賀美の手を一層強く握ってしまっている……。

 

 そんな精神状態では、暗殺なんぞままならない……。いっその事……コイツとはこれ以上の接触は避けた方が……。などと考えていた……そのハズだ……。

 

「夏だし、今度一緒にプール行かねぇ?」

 

「……解かった」

 

 ……と、そんな調子で……いつの間にか了承する私が居た。いつしか私は、暗殺なんぞ加賀美と会うための大義名分に変わり果てているのではないか……そう考える様になっていた。

 

 奴も奴で……私を飽きさせないつもりなのか、様々な場所へと連れて歩いた。水族館や夏祭りなど、俗世間に触れない私からすれば……物珍しい。そしていつの間にか、夏休みは終わる頃になってしまう。

 

「ソル……貴女、綺麗になったわね」

 

「……からかっているのか?」

 

「知らないの?女は恋をすると綺麗になるのよ」

 

「……私が、奴を好いているとでも言いたいのか!?」

 

「あら~?別に私は、彼なんて一言も言ってないわよ」

 

 クッ……この女、終いには本当に殺してやろうか。私がテーブルを叩きながらそう言うと、スコールは飄々とした様子で私を見据える。

 

 確かに私の失言だったかもだが、絶対に誘導された言葉だ。ありえん……私が、奴を好きなどと。奴に限らず性別に限らず……私が誰かを好きになるなんて事は、断じてない。

 

「上手くいけば、彼をこちらに引き込めるんじゃないか……そう思っただけよ」

 

「殺さずにか?」

 

「ええ、貴方達2人が揃ったら言う事無しだもの。だから……裏切るなんて、考えないでね?」

 

「いらん心配だ」

 

 何かと思えば、私に釘を刺したかっただけらしい。ならば本当に、いらん心配でしかない。今までは、そう……状況が悪かったのだ。今回のプランで、全て終わらせる……。

 

 マンションから出た私は、とある住所へ向けて歩く。私が向かっている場所は、加賀美の自宅だ。奴の自宅ならば、チャンスは格段に増える。私が狙っているのは、奴の寝込み……。

 

 こうなればプライドもクソも無い……色仕掛けだろうと、何だろうとやってやる。加賀美の家に泊まるという体だ……きっと上手くいくハズ。

 

「よ、よう……来たか」

 

「無理を言って済まない」

 

「いや、もうすぐしばらくは会えなくなるし……。良い思い出になるさ」

 

 私は貴様にさっさと思い出になって貰いたいのだが。まぁ良い……加賀美宅のインターホンを鳴らした私は、何の警戒心も無く通された。いや……今となっては当たり前なのかも知れない。

 

 とにかくして、夜まではじっくり待たねばならない。日が暮れるまでは地元を紹介されて回ったが、私にとってはどうでも良い。私は夜が、待ち遠しくてならなかった。

 

 そうして時間は過ぎ去り、深夜となった。別の服を着ていた私だが、いつものスタイルに着替えると加賀美の部屋に忍び込む。……何の滞りもなく、熟睡しているな。

 

「すぅー……すぅー……」

 

(長かった……)

 

 ああ、本当に長かった。だがそれも、今日で終わりだ。このナイフを、加賀美の胸へと突き立てれば……全てにケリが着く。私も変な事で頭を悩ます日々も……おさらばだ。

 

(死ね!)

 

 私は逆さに構えたナイフを、勢いよく加賀美の左胸へと振り下ろす。しかし……その切っ先は、奴に触れるか触れないかの位置で止まってしまう。

 

 何故だ!まるで見えない壁でもあるかのように、刃が前へと進まない!片手だけでなく、両手で押し込んでいるのに……。そして……私はどうして、泣いているんだ……!?

 

ガキン!

 

『キュイイイイ……』

 

「しまっ……!」

 

「ん~……?」

 

「くっ……!」

 

 不可解な行動が長かったせいか、ガタックゼクターに探知されてしまう。私の手元のナイフは弾かれ、ゴトリと大きな音を立てて床へと落ちる。

 

 その拍子に加賀美が目を覚ましたようで、私は手早く窓からの脱出を謀る。その後の私は、一心不乱に走り続けた。あまり覚えてはいないが、いつの間にか公園に辿り着いている。

 

「はぁ……!最悪だ!」

 

 最大のチャンスを逃したうえに、ナイフを奴の部屋に落としてきた。こうなった以上は、生身での暗殺は望めない。これまでの苦労を、全て棒に振ってしまったのだ。

 

 呆然自失となった私は、公園のベンチに座り込んだ。コレからどうするべきだ……。こうなれば、当初から予定されていたカブトでの真向勝負しかないのか……?

 

「よう、捜したぜ」

 

「!? 馬鹿な……!」

 

「ほら、落し物」

 

「…………」

 

 急に話しかけられて、誰かと思えば……私の暗殺対象であった。困惑した表情で加賀美を見つめていると、奴はあろう事かナイフを私に手渡す。ご丁寧に、グリップをこちらへ向けてだ。

 

「よしっ、帰るぞ。眠いしな……」

 

「貴様……私を舐めているのか!?何故こんな事をする!」

 

「何故って、まぁ……解かってたしな、天野が俺を殺そうとしてんの」

 

「何……!?」

 

 コイツは馬鹿なのだろうか?確か、思慮深い性格だと聞いていたが。私が激昂しながら問い詰めると、加賀美はまるで当たり前の事の様に言った。

 

 私が殺そうとしていたのを解っていた上で、私と会う約束を取り付けていたのか?……理解が及ばない。普通ならば、罠にでもかけて私を捕えるべきだ。

 

「焦ってたのか知らんけど、後半は解りやすかったぜ?」

 

「…………。それを知った上で、何故私と行動を共にした!」

 

「理由?んなモンは、単純だ。……少しでも、天野と一緒に居たかった……それだけ」

 

「フッ……ハハハハ!貴様……私に惚れたか?ならば教えてやろう……私が何者なのかを!」

 

 きっと私は混乱していたのだろう……。亡国機業の存在や、私が加賀美のクローンである事……大半を捲し立てる様に加賀美へ語った。それを聞く加賀美の表情は、何を考えているのか良く解からない。

 

 ただ……真剣そのものではあった。全てを語り終えた私は、粗い呼吸を落ち着けさせる。その間の加賀美は、頭を掻いたり……軽くつま先を地面へトントンさせたり……とにかく挙動不審だ。

 

「解ったろう……私は、貴様そのものだ!」

 

「うん……そりゃ、遺伝子学上はな。けど……天野は俺じゃ無いだろ。育った環境が違うんだ……もう別人の域だと思うけど」

 

「なっ……何故、冷静でいられる!?」

 

「ん~……かなりショックだし、多少なりには動揺してるぜ。でも……そんなの気にならないくらいには、俺は天野の事が好きなんだと思う」

 

 加賀美がそんな事を言った途端に、胸がキリリと締め付けられる様な感覚が過る。止めろ……止めてくれ、これ以上……私の中に入って来るな!私は思わず、奴に向かってナイフを構えた。

 

「……自覚があるのかは解からないけどさ、天野……時々だけど笑ってた」

 

「……めろ……近づくな……!」

 

「天野の笑った顔……好きだぜ。俺は、天野よりも綺麗に笑う女は知らないな」

 

「近づくなと言っている!」

 

 私はナイフを構えていると言うのに、加賀美はグングンと私の方へ近づいて来る。凶器を持っている私が、情況的には有利なハズ……。だが私は、着実に後ずさりをしていた。

 

 背後には私の座っていたベンチがあり……これ以上は下がれない。加賀美は、私の正面ギリギリの所に立っている。これではまるで、自分から刺されにきている様なものだ。

 

「天野は、俺を殺せなかったんだよな?自分で言うのは、ちょっとアレだけど……。それって俺が、天野の深くまで入り込んじまってる証拠だろ」

 

「ふざけるな!私は……」

 

「よっしゃ、なら……今すぐ俺を殺してみろ。惚れた女に、命を差し出すんなら本望だ」

 

「……よかろう。今度こそ、殺してやる!」

 

 加賀美は私に向かって、大きく両手を広げた。それを見た私の動揺はふっきれ、構えたナイフを前に突き出す。……が、やはり切っ先は寸前で止まって、それ以上は体が動かない。

 

 クソッ……クソックソックソッ!なんでも良い……動け、刺せ、殺せ!私は……コイツを殺すために……。動けなくなった私は、またしても涙を流す……。

 

「……な?殺せねぇじゃん」

 

「あっ……!?」

 

「天野の境遇とか、そんなモンは俺は知らん。全部まるっと包み込んでさ、愛してやるよ」

 

「んっ……」

 

 私の腕を上から押さえて下げさせた加賀美は、すかさず私を抱きしめた。私は人の体温なんて、感じないハズなのに……加賀美の腕の中は、妙に暖かかった。

 

 そして加賀美は、歯が浮く様な台詞の後に……私の唇を奪った。私の頭はボーッとし始めて、何か……満たされる様な……。っ!?何を流されている……!私は加賀美を突き飛ばす。

 

 その後はまた……とにかく走り続けた。その後は加賀美が追いかけて来る事も無さそうだ……。ここは、河川敷?確か……加賀美に紹介された。

 

「…………」

 

 死に場所にしては、悪くない。奴の言葉通りに、もう……私には加賀美を殺せないらしい。ならば、私が生きていても仕方が無い。亡国も……私を不要と判断するはずだ。私が首元へ、ナイフを向けた時の事だ。

 

「自殺ショーはさ、もっと別の場所でやりなよ」

 

「篠ノ之 束か……」

 

「おやぁ……つまんないね。もっと驚いてくれないと」

 

 私の前に現れたのは、ふざけた兎耳を生やした女……篠ノ之 束だった。そうか……この女は、加賀美を殺そうとしていたのだったな。だとすれば、私が接触を仕掛けたのを監視していたに違いない。

 

 私が死ぬならば、この女にとっては好都合のハズだ。だったらどうして、私の前に現れた……?篠ノ之 束は、斜面を滑り私の近くまで来る。

 

「君さ、彼の事……好き?」

 

「解からない……」

 

「彼の隣に居たい?」

 

「解からない……」

 

「彼と一緒に生きたい?」

 

「私にはもう……何も解からない!」

 

 何を聞くかと思えば、私が最も回答に困る質問だった。しつこく聞いてくる篠ノ之 束に対して、行き場の無い怒りの様な物が噴き出た。

 

 いったい……何の質問だと言うのだ。特に最後の……もう私には、生きる価値すら無い。この女の場合は、解って聞いている可能性もあるが。

 

「もう彼を殺さないって、誓えるんだったらさ……助けてあげなくも無いよ?」

 

「……私に、どうしろと……?」

 

「うん、それにはさ……少しだけ狸爺の説得が必要かな?」

**********

「は~い皆さ~ん。2学期ですよ~?2学期と言う事でですね、新しいお友達のご紹介です!」

 

(新しいお友達……か、爺ちゃんが言ってた奴だろうな)

 

 時間は過ぎ去り、結局は2学期になってしまった。あれから真は、ソルとは遭遇していない。まるで真は抜け殻のような……そんな精神状態だった。

 

 それだけ、ソルとの日々は楽しかったのだろう。2学期初めのホームルーム……真耶が言う新しいお友達に関して、真は興味を持たないながらに知っていた。

 

『ZECTに縁のある者が、編入してくるだろう。お前が、責任をもって世話してやれ』

 

 朝に陸から電話が来て、そんな事を言われていた。正直なところ……やる気なんて微塵も出ない。しかし他でも無い祖父からの頼みだ……真が断れるはずも無い。

 

 道案内くらいをして、後は一夏に丸投げよう……。そう思いながら、グデ~ッと机に身体を預ける。しかし例の編入生が入って来た途端……真の背筋はピンと伸びた。

 

「わ~……すっごい綺麗……」

 

「思わず嫉妬したくなるな~」

 

「静かにしろ、お前達。手短に自己紹介を」

 

「了解。私の名は、天野 陽子……。諸事情により、入学の時期が合わなかった。それ故……こうして編入という形となる」

 

 入って来たのは、他でも無い……ソルだった。ソルがあの日の偽名を名乗って、IS学園の制服を着ている。混乱の最中の真は、呆然とソルを見つめるしか出来ない。

 

「一応は、ZECT2番機のテストパイロットとなる」

 

「え?だったら加賀美くん……知り合い?」

 

「ほほう……怪しいですねぇ」

 

 ソルのZECTとの発言に、女生徒の視線は真へと集中した。そんな視線を送られても、一番困惑しているのは真なのだ。真は苦笑いを浮かべて、脂汗を額に浮かべた。

 

 そしてソル……こと陽子の自己紹介も終わり、何事も無かった様にホームルームは進む。そしてそれが終了次第、真は陽子の手を引き教室を飛び出る。

 

「何……もしかしてマジでアレな関係!?」

 

「お~加賀美くんもやるじゃーん」

 

 質問しようとしていた生徒を押し退けたために、1組の連中はそんな話題で盛り上がる。そして真は、人気の無い場所へと陽子を連れて歩く。久々に陽子と対面した真は……。

 

 ……中々言葉が出て来ない。走った際の呼吸の乱れを整えつつも、何と言い出すか考えているようだ。じれったく感じたのか、陽子の方から口を開く。

 

「あの後……篠ノ之 束と出会った」

 

「博士と!?……大丈夫だったのか?」

 

「ああ。私がお前を殺せないと解ってか、むしろ協力的だった」

 

 束は陸へと連絡をとって、陽子が普通の人間として生きられる様に協力しろと頼んだ。陸は半信半疑な様子だったが、事の経緯を説明するとなんとか聞き入れて貰えた。

 

 そして陽子は、束の手により人間らしさを得た。主に感覚神経や味覚など、そこら辺りのものだ。そして束は言った。中身に関しては、真の隣で学べ……と。

 

「正直、私は……ここへ来るべきでは無かったのだろう。私のせいで、お前の仲間を巻き込む事もあるはずた……」

 

「関係ねぇ!陽子も俺のダチも……全部まとめて守ってみせる!だから……陽子はここに居て良い……ってか居てくれよ!」

 

「…………。お前なら、そう言うと思っていた。だから私も守る。お前や……お前が大事に思う人々を」

 

「ああ……。ありがとう……」

 

 真は胸に宿る歓喜を抑えながら、陽子を思い切り抱き締める。陽子はとてつもなく困惑した表情を見せるが、恐る恐る腕を動かして、同じ様に真へと抱き着いた。

 

 今回は物理的な温度も感じているが、やはり真の腕の中はそれとは違う暖かみもある。それを受け入れる姿勢ができてしまった陽子は、堪らない様な表情だ。

 

「……この胸の高鳴りが、ときめき……なのか?」

 

「さぁな、それは陽子が判断しなよ」

 

「そうか……。私はやはり好きだのといった感情は解らない。解らないが……真と、いつまでもこうしていたいと……そう思う」

 

「……やっと、名前で呼んでくれたな」

 

 真と陽子はしばらく見詰め合うと、まるで互いが磁石かの様に引き寄せあった。2人は唇を重ねて、愛を伝えあう。とはいっても、陽子はあくまでそういう行為であるという認識しかないが。

 

 それでも陽子は、前と同じで満たされる感覚が胸を過る。唇を離した後に、なるほど……これがキスか、と1人で納得している様子だ。まだまだ陽子は、学ぶべき事が多いらしい。

 

「そろそろ時間が無さそうだな。急いで戻ろう!」

 

「待て……引っ張るな。これからは、真の隣を歩きたい」

 

「……そうか、そうだな。2人で、歩いていこう」

 

「あぁ……何処までも」

 

 真が陽子を引っ張り回すのが通例だったが、陽子はそれを良しとしない。繋がれた手をより強く握ると、小走りで真の隣を歩く。肩を並べた2人の姿は、何処か初々しい。

 

 この2人が歩む道は、修羅の道に違いない。それはどちらもが、心の中でそう思っていた。だが辛かろうと、歩いて行けるに違いない。そう……君と一緒なら。2人は、そうも思っていた……。

 

 

 




クッソ長ぇ……。

本当はいわゆる『殺し愛』で進めてたんですけど、その拍子でTSソルが死んじゃったので、急いで書き直す事に……。

その結果、揺れる乙女心みたいな展開にしたのですが、思いのほか長くなってしまいまして……。まぁ……私の中でソルは男だって、そうイメージされてしまっているので……。

女の子だと……バイオレンスですが、けっこう可愛くなるんじゃないでしょうか?あっ、ちなみにですが……女性になると絶世の美女ってのは、皆さんの中の美女にお任せします。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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