いきなりなんですけどね、今回のリクエスト……私の国語力のせいか、意味を取り違えている可能性があります。
と言うのも……『真と簪の夫婦喧嘩』と『結と晶の名前決め』との事なんですよ。恐らくは名前が原因で喧嘩……?と仰りたいのだと思うんですよ。
2人がその理由で喧嘩ってのが、難しかったんです。そこで上記の条件がクリアできる……。という訳で、今回は簪が結と晶を出産した時のエピソードになりました。
リクエストして下さった方、私の力不足のせいでこうなってしまって申し訳ない。非力な私を許してくれ……。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
「加賀美、居るか?」
「はい、自分はここに」
「よし。少し顔を貸してくれ、話がある」
「はい!」
現在俺はZECTに所属しているのだが、言ってしまえば田所隊に配属されている様な物だ。と言うのも、俺はいずれISの部隊を率いる事になる……らしい。
そんな訳で、隊長にとって必要な諸々を勉強中なのだ。今俺を呼んだ人は、まぁ……小隊長の様な人である。俺は副隊長ってか、補佐官ってか……そんな形で小隊のメンバーに入っている。
18で入社して今年で3年目となるが、まだゴーサインは貰えない。爺ちゃんが言うには、俺が25になるまでにはISの部隊を完成させたいらしい。ま……正直のところ、上手くいってないってこった。
「まぁ座れ」
「はい」
「本題に入る前に、聞いておこう。……調子はどうだ?」
「……良くは無いですね」
応接室の様な場所へ通されると、調子の良し悪しを問われる。きっと隊長も解って聞いているのだろうが、俺は主観的視点から答えた。
近頃は訓練の現場で、指揮を執らせてもらったりはする。だが……結果は良くない。言ってしまえば、怒られたい放題って感じか。理由は様々で、簡単に言ってしまえば俺の頭は固すぎるんだそうな。
ISでのサシの勝負であれば、俺の思慮深さは十分に発揮される。しかしだ……人を動かすとなると、全く勝手が違う。俺の判断ミスが、部隊すら危険に晒してしまう事もしばしば……。
「だろうな……」
「あ、あの~……もしかしてですけど……」
「いや、何……加賀美が努力しているのは解っている。俺もそこは責めようなんて気はない」
「はぁ……」
田所隊ってのは、やってる事は自衛隊の様なものだ。しかし……一応は特殊部隊的な役割も果たしている。そのため対人戦……もちろん殺しはしないが、それも珍しい話では無い。
しかし俺は、ぶっちゃけそれらしい事はしてない。もう何かとつけて勉強、勉強……そんな日々だ。それで成果が出ないもんだから、異動でもさせられるのではないかと……。
「成果が見えないで、苦しい時期だろう?」
「そう……ですね。こんなんで本当に、俺が誰かを率いられるのか……とか考えてしまいます」
「…………。こういう話はしたくないが、加賀美は……境遇が良くないってのもある。そっちの方は、どうだ」
「…………気にならないって言えば、嘘になります」
俺はIS学園に居た影響で、位の高い人たちと面識が多かった。その上……入った途端に副官クラスと来た。もちろん、俺が会長の孫なのは割れている。
これらの材料から、いらん勘繰りをする奴も少なくは無い。全員が全員そうでは無いし、むしろ割合とすればそっちの手合いの方が少ないだろう。しかしだ……やはりストレス以外の何物でもない。
「そうか、そうだろうな……」
「あの、隊長。これは……メンタルチェックか何かですか?」
「ん?それも兼ねているな。……まぁ、問題は無さそうか?何かあれば、言ってくれ」
「いえ、自分は大丈夫です」
ストレスではあるが、嫌われるのなんて慣れたもんだ。イラッと来ているだけで、後は興味も沸かん。ケロッとした様子で言う俺に対して、隊長は少し面食らったように見えた。
この人は淡泊な所があって、それならそれでいいか……とボーッとしつつそう思ったのが見て取れた。一応は聞いてみただけ、といったところだろう。
「じゃあ、こっちが本題だ。この資料を見てくれ」
「えっと、大規模合同訓練……?これが、自分と何か関係が?」
「ウチと同じような事をしてる連中が集まるんだがな。加賀美、お前……指揮をやれ」
「は!?じ、自分がですか……?」
「成果が出ないなら、出るまでやるぞ」
ス、スパルタな……。しかも余所からも集まる合同訓練とか、俺で本当に大丈夫なのだろうか。聞けば他の小隊長や、総司令官……つまりは田所さんの許可も下りているそうな。
尻ごみはしたが、最初からやる気は十分。しかし……それだと俺に拒否権はあって無いようなものだ。ま、まぁそこは気にしないでおこう。さ~て、日付は……。
「!? マジか……」
「どうかしたか?」
「……いえ、なんでも無いです。その、精一杯……頑張らせて頂きます!」
「うん、その意気だ。お前は優秀な人材なんだ……気を楽にして行け」
立ち上がって敬礼をして見せた俺に、隊長は穏やかな表情で俺の肩を叩く。そして、片手を上げつつ応接室から出て行った。それを確認した俺は、椅子に座り直して思い切り項垂れる。
マジかよ……畜生……。訓練の日取りは長期で、1週間もある。しかも今から1週間ってなると、調度『あの日』と丸被りだ。だけど、流れからしてそれを理由に断れそうもないな……。
「約束、また破っちまうな……」
**********
定時で職場を後にさせてもらった真は、ある場所へと足を運ぶ。そこは、都内にある大きな病院だ。ここ数か月は、真にとっては日課になっている。
日課になっているせいか、患者や看護師との顔見知りが増えた。今日も互いに顔を見せると、軽く挨拶をしながらすれ違う。目指す病室への足取りは、今日は何処か重かった。
「ふぅ~……よしっ!」
真は病室の扉の前を往ったり来たりすると、決心するかの様にしてノックした。すると中からは、儚げでか細い返事が聞こえる。真はいつもと変わらぬ様子を意識して、病室へと入った。
「簪」
「あっ……真……」
「どうだ、調子は?」
「……悪い意味で……いつも通り……」
入院していたのは、真の妻である簪だった。その腹部は大きく膨らみ、何の為の入院かは一目瞭然だろう。簪の腹には、新しい命が宿っているのだ。
しかも……初の出産なのに双子を宿していた。双子の出産は、早産である場合が多い。そのため大事を取っての入院であり、出産予定日は『もうすぐ』であるというアバウトな事しか解らない。
「そうか……。まぁまぁ……8割の妊婦さんが体験するらしいからな」
「うん……」
「それに、迷惑かけてナンボだって。だから、感情のままに……な?」
「うん……」
簪の目元は、泣き腫らしているのが良く解る。いわゆるマタニティーブルー……情緒不安定な情態に、簪は陥ってしまっていたのだ。双子の出産という事が、余計に影響している。
しかも……往来の我慢する性格も悪影響だった。今まで溜め込んできたものが、ここで一気に爆発するかの様な……。産婦人科の医師が言うには、簪の症例は酷い方へ部類されるらしい。
「……お仕事……順調……?」
「あ、あぁ……いや、これがなかなかな……」
「……平気……?」
「ん……まぁ、大丈夫」
真は危うく出かけた簪ほどでは、という言葉を慌てて飲み込んだ。なるべく、そっちの話題には触れない方がお互いの為なのだ。しかし……今回ばかりは、そうはいかない。
簪に、出産予定日に仕事が入った事を……伝えなければならない。いくら予測がつきにくいとはいえ、ある程度の予定日は決まっていた。恐らく一週間前後……それが、医師の下した診断だ。
真は出産に立ち合うつもりだったし、簪ともそう約束した。今の簪にそれを伝えるのは、一筋縄ではいかない。だが……言わないで嘘をつくよりは良いと判断した。
「それより簪……。1つ……謝らせてほしい」
「…………。聞きたくない……。どうせ……お仕事でしょう……?」
「……ああ。一週間弱……空ける事になると思う。約束したのに……本当にスマン」
「そうだよね……お仕事……大事だもんね……」
頭を下げて謝った真だったが、簪は嫌味っぽく返した。いつもの簪ならば、想像もつかないだろう。最も辛いのは、簪に決まっている。だから真は、簪の全てを受け入れる……そう誓った。
しかしだ……真も溜まったストレスが、限界近くまで来ていたのかも知れない。自分の気持ちをくみ取ってくれない簪に、多少の苛立ちを感じてしまう。
「……そんな言い方はないだろ。俺だって、好きで約束を破りてぇ訳じゃねぇよ」
「……これで……何回目か覚えてる……?覚えて……無いよね……。真にとっては……それくらいの事……」
「それくらい……?俺は一度も、それくらいだなんて思った事は!」
「……それなら……何回目か言ってみて……。…………早く……!」
仕事があるにしても、近頃は簪との約束なんて……真はろくに守れていない。約束を破った回数を、簪はしっかり数えていたのだ。回数を数える事で、少しストレスを和らげていた。
一方の真は……数えた事すらなかった。もちろんだが、申し訳無さや心苦しさは感じている。だが……パッと簪の問に答えられなかった。そのせいか、自分で自分を責める事しか出来ない。
「あぁ……そうかい。信じてくれねぇなら、もうそれで良い……」
「ち、違っ……私……。私は……そんなつもりじゃ……」
「こっちも仕事に集中できるってモンだ。……もう、帰るよ」
先ほども言ったが、簪は情緒不安定気味だ。真が自身に関心を示さないような態度を見せると、一気に表情は不安げな様子に変わった。
冷静で無い真は、簪のスイッチがコロッと切り替わった事に気付けない。これ以上ここに居れば、お互いの為にならないとそう思ったのだろう。真は足早に、簪の病室を去った。
「畜生が……!」
「う……ひっく……!」
真は病室から出るや扉の前に座り込み、そう呟く。もちろん……最低な行いをしてしまった自分への言葉だ。簪の方も、真に投げかけた言葉を後悔するかのように涙を流す。
2人共に原因があり、発生したすれ違いだった。せめて真に仕事の話がこなければ、こうはならなかったはず。それでも真には、もっとしてやれる事があったはず。
十分にそれを解っているせいか、真はしばらくその場から立ち上がれない。何とか歩き出すものの……簪の病室へと戻る事は無かった。
**********
「…………」
「おい……真……!」
「…………」
「おうコラァ!反応しろや、馬鹿弟子ぃ!」
「は……?うぉわ!?もっ、申し訳ありません……田所総司令官!」
簪とのすれ違いが発生して数日……時間は進み、もうすぐ合同演習場への出発時刻となっていた。大型の輸送車を背もたれにするようにして座っていた真は、まるで能面の様な表情だ。
そんな折に田所に呼ばれて、反応が鈍くなってしまう。誰が呼んだかと思ったら、自分の所属のトップなのだ……驚くなと言う方に無理がある。真は急いで立ち上がって、敬礼を見せた。
スパァン!
「何故ッ!?」
「アホか、つまんねぇ態度を取ってんじゃねぇぞ。昔みてぇに田所さんで良いんだよ」
「は、はぁ……?だからって、ビンタしなくても……」
「その顔もつまんねぇよ。もっとシャキッとしやがれ、シャキッと!」
一応は部下であるために、それらしい態度を取ったのだが……それが逆効果だったらしい。田所は異様にスナップの効いたビンタを、真の頬へとお見舞いする。
ビンタされた理由を問うと、1つ目はともかく2つ目には自覚のあった事だ。そうして真は、あの出来事を思い出して再び座り込む。これはよほど重傷だと思ったのか、田所は真の隣に座った。
「おいおいどうした?らしくねぇじゃねぇか」
「まぁ……はい……自己嫌悪中なんで……」
「……嬢ちゃんと、なんかあったか?」
「……解かります?ハハッ……もしかして、聞いて下さいみたいな顔してました?」
すぐさま簪関連だとバレて、真は何か自嘲する様な笑みを浮かべる。知らず知らずの内に、かまってちゃんの様な状態になっていたのかも知れない。
それはそれで、真には溜息を吐かせる要因となりえた。真は大きく息を吐くと、まるで1人事みたいに語り始める。それを聞く田所の表情は、何処か難しそうだ。
「まぁ……つまるところ、俺は男として旦那として……最低って話ですよ」
「こんな所でウジウジしてりゃ、それはいつまでも変わんねぇぞ」
「……でしょうね。でも……仕事を放棄する訳にもいかんでしょ。もちろん、それを盾にするつもりなんて毛頭ないです。だけど俺は、やらなきゃダメな立場なんで」
「ああ、そうだな……それも間違っちゃいねぇんだよなぁ……。真の教育は、ZECTの今後に関わる一大プロジェクトだからな」
これがしょうもない理由ならば、田所は真を殴り飛ばしているはずだ。しかし……ISを用いた新たな試みを進めようとするZECTにとって、真は要の様な存在なのだ。
それを解っているからこそ、真は一概に止まる事が出来ない。仕事か簪かと聞かれれば、もちろん後者が真にとっては大事だ。しかし……伴侶が出来たからこそ解るのだ。
ZECTには自分と同じ様に、伴侶や子供を守っている男が数えきれないほど居る事を。自分1人が妻の事を気に掛けたせいで、その人たちを路頭に迷わす事は真にはできない。
「どっちにせよ、どんな顔して会えば良いか……見当がつかないんですけどね」
「ん~……そうさなぁ。そうだ……ガキの名前とか、決めたのか?」
「いえ……そう言う話は全然してないです。なにぶん……簪が不安定なもんで……」
「だったら、ガキの名前を餌に話しを振ってみりゃ良いんじゃねぇか。帰って来る頃には、産まれちまってるかもしんねぇけどな」
タブーと言うほどでもないが、簪とは子供の話題は出ない。逆を言えば、全くという事も無いのだ。簪の精神が安定している時には、むしろ向こうの方から子供の話題が出てくる。
しかし……調子がいい時は稀で、子供の名前なんてものは真の頭から抜け落ちていた。そうすると、田所の言葉はいい案なのかも知れない。
「どうせ向こうに行っても退屈な時間くらいはあらぁな。その間に、飛び切り良い名前を考えてやれ!」
バチン!
「ヘブッ!?は、はい……そうですね、そうします……」
今度の田所は、笑顔交じりに真の頬を叩く。恐らくは余計なビンタであると、解っていてやったのだろう。流石の真も最高司令官へ反撃する訳にはいかず、頬を抑えながら不満気に眉をピクピクと動かした。
しかし田所のおかげか、真の調子はいつもの状態へと戻りかけていた。表情こそ暗いが、能面の様に何も感じられないよりはマシだろう。
「かっ、加賀美特別補佐……って、田所総司令官!?あわわわわ……」
「ああ、俺の事は気にすんな。真に用事だろ?」
「あっ、はい!その……隊の事務所の方へ連絡があったそうなのですが、えっと……奥様が……」
「……は?簪……?おい……簪に何かあったのか!?すぐ言え、今すぐだ!」
「おい、落ち着け真!そんな食ってかかったら、話せるもんも話せねぇだろうが!」
真の元へ現れたのは、近年に入隊した下っ端隊員だ。真は後輩には非常に慕われる性質で、この隊員もその内の1人である。隊員は、非常に申しあげにくい様に口を開く。
しかし真は、奥様という単語が聞こえた時点で焦った様子で隊員の胸ぐらを掴み前後へ揺らす。慌てて田所がストップをかけると、隊員は観念したかのように叫ぶ。
「お、奥様の出産が始まり……少々、危うい状況との事です!」
「ッ……!?!?!?!?」
「……行け、馬鹿弟子っ!この俺が許可する……っつーか命令だ!今すぐに病院へ迎え……じゃねぇとクビにすっぞ!」
「はい!ありがとうございます!」
隊員の言葉を聞くと同時に、真は膝から崩れ落ちそうになった。しかし田所が、それを許してはくれない。鬼のような表情を見せると、オーバーリアクション気味に明後日の方向を指差す。
その頃にはもう既に、真も走り出していた。もちろん通勤用の車やバイクを停める駐車場の方へだ。言うまでもないが、真はバイク通勤である。
「畜生……畜生が!そんなのって、無いだろ……!」
後悔先に立たずと言うが、真は盛大に後悔していた。簪と夫婦喧嘩をしてしまった事……簪に酷い事を言ってしまった事……。この間に起きた、全ての事に関してだ。
真は常備しているキーを取り出すと、バイクに飛び乗りエンジンをかけつつメットを被る。そして真は、ただただ簪とこれから産まれる娘と息子の無事を祈り……病院へと急ぐ。
**********
「親父っ!簪……簪は!?」
「真……気持ちは解るけど、少し落ち着くんだ。簪ちゃんなら大丈夫」
病院へと辿り着いた真は、構わず大声で先に到着していた新に聞いた。どうやら……まだ無事ではあるようだ。しかしそれでも、真の表情が安心に変わる事は無い。
新も新で、内心は焦っていた。悪夢再来……。まさか自分の嫁に続いて、息子の嫁まで……。光葉が死亡した原因は知っているが、それでもこの状況はデジャヴにしか感じられない。
「俺の……せいだ!俺……俺が、簪に酷い事を言ったから……」
バキィ!
「ぐぅっ!?」
「何があったかは知らないけど……?貴方、それでも簪ちゃんの旦那!?もっと他に、やるべき事があるでしょう!」
「姉貴……」
すがる様に新へ告げる真の表情は、見た事が無い程に情けない。そんな腑抜けた真を、殴り飛ばした人物がいた。本格的に真の義姉となった楯無だ。
妹のピンチと聞いて、シスコンな楯無が来ていないハズがなかった。楯無の全力であろう拳は、真の魂の芯まで届く。真は目に光を宿して、すぐさま立ち上がった。
「……そうだな、姉貴の言う通りだ」
「解ったら、さっさと行く!」
「了解!」
真は簪が出産を行っている分別室の扉を叩く。それに気づいた看護師の1人が、真が室内へと入る為の準備を整える。目にも止まらぬ速さで準備を終えると、真は急いで分別室へと足を踏み入れる。
するとそこは、想像を遥かに越える修羅場であった。真はここまで叫ぶ簪を知らないし、ましてやこういった特殊な状況でなければお目にかかれないハズだ。
「簪!俺が解るか?俺は……ここにいるぞ!」
逃げ出したかった……目を背けたかった。それでも真は自分に出来る事を、簪にしてやれる精一杯の行動を起こす。真は簪の手を取ると、固く両手で包み込む。
簪がそれを真の手か解っているのかどうかは、正直なところ謎だ。しかし……本能的な物がそうさせるのか、簪も真の手を力強く握る。もちろん……何かと力んでいなければ、という理由もあるだろうが。
「ゴメンな……簪!簪の苦労に比べたら、俺のなんてちっぽけなのに……!」
「先生、患者さんの容体が……」
「……徐々に良くなってるわね。愛の力かしら……?」
真は、心からの懺悔を簪へと送る。しっかりしようとは思っていたが、今の簪の姿を見ると涙が止まらない。これも情けないかも知れないが、笑えるはずがなかった。
痛みのあまりに返事はままならないが、真の声はしっかりと簪に届いている。真は手に込められた力が、より一層に強くなるのを感じた。真もそれで、言葉が届いていると確信した。
「簪……!頼む……俺を1人にしないでくれ!」
「良いですよ、旦那さん!そのまま声をかけてあげて下さい!」
「頑張れ……頑張れ!簪!」
言われるまでも無かったが、真は心からの応援を送る。むしろ……こうやって応援する事しか出来ないのだ。だからこそ真は、腹から声を出す。真は……応援が力になる事を知っているから。
真が現れたおかげか、簪の状態は安定した。出産のペースも、非常に調子が良いものへと変わった。そして……格闘する事しばらく、ようやく簪の努力が報われる。
「オギャア!オギャア!」
「1人目……出ました!女の子です!」
「良いぞ、簪!もうちょっとの辛抱だからな!」
看護師達の動きが慌ただしくなると同時に、ついに1人目が顔を出した。心配する必要がない程に、元気な産声を上げた。だがまだ安心は出来ない。簪の腹には、もう1人残っているのだから。
だがそれも時間の問題であった。双子という事で、真は先に産まれた女の子を気にしつつも簪の応援を続ける。すんなり……とまではいかないが、先ほどよりも早いペースで簪の腹から出てきた。
「オギャア!オギャア!」
「2人目……問題ありません!良く頑張りましたね!」
「本当に……頑張ったな、簪!ほら……俺達の子だぞ」
「うん……良かった……。産まれて来てくれて……ありがとう……!」
真は簪へ女の子を抱かせると、自身の腕には男の子を抱えた。簪は息も絶え絶えな様子だったが、取り敢えず話す余裕はあるらしい。2人は涙ながらに、腕の中にいる小さな命へ感謝した。
その後はいわゆる母子共に健康で、簪も双子の赤ん坊も特に問題は無かった。ただ簪は疲れ果ててしまったらしく、まるで気絶するように眠る。
その様子を見た真は、慌ててしばらくはギャーギャーと騒がしかった。真は新や楯無に取り押さえられると、ようやく大人しくなり……病室へ戻される簪を見守った。
**********
「ん……うん……?」
「ああ、お早う……簪」
「え……あれ……?もう……次の日……?」
「おう、ほとんど丸1日になるな」
その日は病院に泊まった真は、朝の調度良い時間に簪の病室を訪れていた。真がカーテンを開くと、眩い光が病室へと差し込む。簪は、それで目を覚ましたのだろう。
真は簪のベッドの側にある椅子へ座ると、学園の時と逆だな……なんて言う。IS学園では、眠る真を簪が見守るのがデフォルトだった。逆のパターンが来るとは、2人共想像しなかったろう。
「そんで、まぁ……謝らせてくれ。この間は、本当に悪かった」
「ううん……こっちこそ……ごめんなさい……」
「いや、簪が謝る事は……。あ~止めよう。いつまでも終わらなくなるから……」
「んっ……」
真は黙って、簪の唇を塞いだ。恐らくは、仲直りのキスだとでも言いたいのだろう。最近はご無沙汰だったせいもあるのか、割に激しいキスだ。
雨降って地固まると言うが、この2人は所詮こんな物だろう。唇を離した真は、簪の頭を撫でつつ何度も何度も労いの言葉を送った。
「う゛~……あ~……」
「おっと、ゴメンな~……。これからは、ラブラブばっかしてちゃダメだよな~」
「ぶうぅぅ……!」
「…………。何故なんだ……」
真が簪を褒めていると、女の子の方が愚図り始めた。すかさず真が抱きかかえて、女の子をあやすのだが……何故か真の顔を見て顔をしかめるばかり。
そこで試しに簪にあやしてもらうと、ビックリするほどに大人しくなる。コレを見た真は、相当なショックを受けているようで……暗いオーラを放ちつつ項垂れた。
「真……そう言えば……お仕事は……?」
「うん?あぁ……育児休暇って奴?昨日の内に受理されてっから、気にしなくても良いさ」
「え……?でも……」
「良く考えて見りゃ、指揮の勉強は現場じゃ無くても出来るもんな」
それはもちろん現場に居た方が色々と効率的ではあるが、父親となった今……真が選択したのは出来るだけ多くの時間を家族の為に割く事だった。
例の小隊長に相談したところ、快諾してくれた。今後は育児の空き時間等に、通信で連絡を取り合い指揮系統の力を付けてゆく予定となった。
「見てろよ簪。俺が23になる頃には、直属の部下が出来てるぜ」
「でも……部下の人……女性だよね……」
「んがっ!?ま、まぁ……そうなるな。いや、でも……今からそれ言っても……」
「フフッ……冗談……。でも……家には必ず……招待してね……」
ISの部隊である以上は、真の部下は女性である事が確定だ。簪は真をジト目で見るが、どうやら冗談だったらしい。しかし……後者に関しては目が笑っていなかった。
真が何で招待?と聞くと、簪は少し話があると答える。そこで真は、これ以上の詮索は無用と判断。真の判断は、きっと良い判断に違いない……。
「……あっ、そうだ……簪。少し、相談があるんだが」
「どうかしたの……?」
「うん……この子らの名前の事なんだけどな」
「考えがあるの……?解った……聞かせて……」
真は、思い出したかのように簪にそう告げた。そして簪の了承が得られると、あらかじめ用意してあった習字セットを取り出した。そして来客用の机を動かして、せっせと準備を始める。
本来ならば命名書という物が有るが、簡易的な状態であるためか真が文字を書いているのは半紙である。2枚の半紙の上部に命名と書くと、下半分に2人の名前をそれぞれ書き始める。
「まずお姉ちゃんの方なんだけど……ほいっ!こう書いて『結』な」
「結……」
「ああ、この字には……結びつけるって意味を込めて、多くの物や人をさ、繋ぎとめられる様な子になってくれればなって」
真が話している言葉は、本心である。しかし既に、個人的なこだわりが見え隠れしていた。それは……加賀美家は下の名前は漢字1文字と言う事である。
何の因果か、簪も漢字1文字だ。だからついでに、一族全部そうしてしまえという気だったのだ。ここまで来ると、そうした方が良いような気がしなくもないが。
「で、弟の方は……こうだ」
「『晶』……」
「この字ってさ、良い字だと思わないか?『日』って字が3つ集まって、1つの字になってる。まぁ意味としちゃ……俺と違って爽やかな子になってくれたらなって」
晶という字単体には、澄み切って輝いている様……という意味がある。腹黒い自分とは正反対に位置するような、そんな意味を真は込めたのだ。
そして最後に、もう解っているだろうけど……とそう呟きながら、2枚の半紙を簪に向かって突きつけた。そうすると2つの感じは並んで、結晶という単語になる。
「双子だからな、関連性を持たせてあげたくて。2人合わせて、俺と簪の愛の『結晶』だ……」
「…………」
「び、微妙か……?」
「ううん……素敵な名前……」
少し間があって、真は恐る恐る簪に感想を述べた。すると簪は、かなりその名を気に入ったようだ。抱きかかえたままの女の子へ向かって、結と呼びかける。
すると、まるで自分が呼ばれた事を理解しているかのように『あ~……』と唸った。真もそれにならって男の子を抱きかかえると、晶と呼びかける。
「う~……」
「おお、反応が……。……何だろうな、親になったんだな……俺達……」
「そうだね……。……楽しい……明るい家庭に……なれば良いね……」
「なれば良い……じゃなくてさ、必ずしよう。俺と簪と……いや、俺と簪と結と晶でさ」
「うん……!これからもよろしく……あなた……?」
「ああ、母さん。これからも3人を、愛し続けるよ」
簪は照れくさそうに真を『あなた』と呼んだ。それに真も、少しはにかみながら答えた。気を紛らわすために晶を眺めると、ほっこりした気分になる。
真は思う……。新の様に、子と正面から向き合える様な……そんな父親になろうと。そして子と同じくらいに、これからも簪を愛し続けると……。そう誓う真の表情は、既に父親そのものであった……。
いやぁ……未だかつてない程に、イメージが沸きませんでした!
恐らくそれは、私が男だからでしょうねぇ……。こればっかりは、本当に解ってあげられない事だと思います。
話しを聞く限りでは、男がもし産んだらショック死とかしちゃうとか言いますよね?なんでも痛みに耐えられないのだとか……。
いやぁ……女性ってのは、偉大な物ですよ……。ISの世界観的には、ちと微妙な話ではありますけれど、そこは置いておきましょう。
さて……これでリクエストは半分くらいは潰しましたかねぇ?あっ、別に締切とかありませんので、何かありましたら活動報告にて随時募集中ですので。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。