戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

前回に引き続いて、番外編1本目の続きとなっております。もし読んでない方がいらっしゃいましたら、全編の方からご覧ください。以下、注意事項です。

・時間軸は、125話から126話の間
・ISはほぼ関係なし
・カブトの世界の時間軸は曖昧
・クッソ寒いオリジナルのおばあちゃん語録←NEW!
・色々文字が五月蠅い←NEW!

以上の事項に注意してご覧ください。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


番外なお話・カブトの世界へ(後編)

「2人とも、騙されるな!俺が本物だ!」

 

「あっ、俺より先に……。違うぞ、俺が本物だ!」

 

 う~ん……特撮あるあるだよな、こういう状況って。特にカブトはそうなんだろうけど、何だかこうして実際に目の当たりにすると……結構笑えるかも知れない。

 

 2人の親父は、互いの胸ぐらを掴んでギャーギャーと言い争いを始めた。この調子なら、きっとその内に手が出始めるだろう。ま……それを待っていても良いのだが、もっといい方法がある。

 

「剣兄様……一応だけど確認しとく。どっちが兄貴か、解らないよな?」

 

「ああ……。まず俺が襲撃されてな、吹き飛ばされて目を離した隙に……」

 

「そうか、了解」

 

「待て、マイブラザー……何をする気だ!?」

 

 俺は剣に聞く事を聞いて、やはり自分の『手』でいくしかないと判断した。剣の制止を無視しつつ、2人の親父に向かって走り込む。

 

 ってか、カブト視聴中も思っていた事だ。頭数が揃っていて、なおかつ擬態された人間を含めて同数ならば……こういった手段を取ればいいのではないか?……とな。

 

「兄貴~。ま、世界平和の為だと思って……観念しやがれ!」

 

「「ぐげふっ!?」」

 

「カ・ガーミン!?」

 

 走り込んだ勢いそのままに、俺は両腕を真横に突き出す。そして親父の首元を狙って、ダブルのラリアートを喰らわせた。たまらず2人の親父は、バタリとその場に倒れる。

 

 ふむ……やるな、完全コピーだ。それこそ、年喰った加賀美 新……IS世界においての親父のリアクションと遜色ない。ゲホゲホとむせ返っていた親父は、ふらつきながらも立ち上がる。

 

「ま、真……」

 

「お前……なんで、同時に……」

 

「うっせー、なんかもう面倒くさいだろ。どっちかが本物で、どっちかが偽物なんだ。だから……大人しくボコられろや」

 

「「理不尽な!?」」

 

 2人の親父に向かって、指をボキボキと鳴らしながらそう告げた。よりによって、親父に擬態しおって……喧しい事この上無いぜ。正体暴いたら暴いたで、またセミって最悪に五月蠅いな。

 

「ってな訳で、剣兄様。アンタは左の親……じゃなくて、兄貴を頼む」

 

「ま、待てマイブラザー!考えを聞かせてくれないか?」

 

「うん?殺さない程度に殺す気で攻撃すりゃ、ワームなら正体を現す……って事だけど」

 

「…………。なるほど、妙案だ」

 

「「納得するな!俺を何だと思ってるんだ!?」」

 

「「変身!」」

 

「「聞けよ!」」

 

『『―HENSHIN―』』

 

 そうと決まれば……といった感じで、俺と剣はそれぞれのゼクターを集中へ呼び出す。そして親父の言葉は完全にスルーして、ガタックとサソードに変身した。

 

 剣が親父を親友認定している以上は、反対されると思っていたが……案外すんなりいったな。一応は効率的だと、そう思ってくれたのかもしれない。

 

(攻撃するにしても……流石にバルカンはやべぇか)

 

「「キャストオフ!」」

 

『『―CAST OFF―』』

 

『―CHANGE STAGBEETLE―』

 

『―CHANGE SCORPION―』

 

 あくまで『殺さない程度に、殺す気』でいかなければならん。本当に殺害……ってか、実のところは正体を現すまで、攻撃を当てる気は一切ない。

 

 だからこそ、とっととキャストオフだけはしておいた。向こうが正体を現した際に、すぐにクロックアップもかけられる。そしたらダブルカリバーを手に、いっちょやりますか。

 

「言っとくが、変に避けようとすんなよ?逆に危ないから」

 

ブン!ブン!

 

「危ないって、それもまず……危ないだろ!?止めろ、俺は本物だ!」

 

「さっさと、正体を、現せ、この、偽物め!」

 

シャキィン!

 

「俺がワームな前提で話すなってば!俺は本物だ!」

 

 流石にガタックとして戦ってきた勘が冴えるのか、どちらの親父も攻撃を巧みに回避する。しかし……ワームの方は、いつしか痺れを切らすはずだ。

 

 ま……俺の目的は単に『それだけ』ではないが……実行させるには、取りあえずワームの正体を暴いてからだ。さて……どちらの親父も疲れが見えるな。後は、時間の問題だろう。

 

「そこだ!」

 

「…………くっ!」

 

キィィィィ……!

 

『カロロロロ……』

 

「おっ、そっちだったか。ナ~イス兄様」

 

「……俺に、何か言う事があるんじゃないか?」

 

「おう、お疲れ」

 

 剣はヒートアップしたのか、避け切れないような速度で親父に切りかかる。そしてその親父は発光を始めて、ついに正体を現す。先ほど取り逃がしたシケイダワームだ。

 

 つまりは、俺が攻撃していた親父は本物だったって事だ。攻撃の手を止めた俺に、親父はどこか不満気な表情を見せる。それを適当にあしらうと、剣の援護に向かった。

 

「兄様、アンタに合わせるよ」

 

「そうか、ならば着いて来い!」

 

『カロロロロ……』

 

ガン!ギャギッ!ザンッ!

 

 俺は素早い連続斬りで、剣は力強い一撃で刃を振るう。やはりこのシケイダワームは、鳴き声以外に有効な攻撃を持ち合わせていないらしい。

 

 だが逆を言えば、一度鳴かれてしまうと反撃がし辛くなるだろう。なるべく距離を開ける事はせずに、このまま怯ませて必殺技に持ち込むのが理想だ。

 

「これでも喰らえ!」

 

ギャリィン!

 

『カロロロロ……!』

 

「あっ……待てって!そんなに吹き飛ばしたら……」

 

『ミ゛ーン!ミ゛ーン!ミ゛ーン!ミ゛ーン!』

 

 剣の一撃でシケイダワームは、かなり遠くへ吹き飛ばされた。この隙を逃さずに、シケイダワームは大音量の鳴き声で、俺達へと攻撃を仕掛ける。

 

 生身よりは断然マシだが、それでも親父の様に無理を通して突進は出来ない。そして鳴き声が止む頃には、シケイダワームの姿は無い。またしても逃げられたか……。

 

「くっ……2度も逃がすとは!」

 

「自分がさほど強く無いって、そういう自覚があるんだろ」

 

「大丈夫か、2人とも!」

 

「ああ、大丈夫」

 

 親父がピンピンしてるなら、遠くへ離れれば鳴き声も驚異では無いみたいだ。ただし、相当遠くじゃないとダメらしいが。しかしまぁ……奴を逃がしたのも、ある意味では計画通りだ。

 

 ここで仕留められれば越した事は無かったが、奴が親父に擬態した時点で次の行動は読みやすい。だからこそここで剣には、身を引いて貰わなければならん。

 

「剣兄様。悪いけど、ここからは俺と兄貴に任せてくれないか?」

 

「何か、策があるのだな。解った……従おう」

 

「剣よりも、戦えない俺の力が必要なのか?」

 

「あいつが、兄貴に擬態したからな」

 

 とりあえずはそれだけ言って、その場から歩き出す。俺の策は……親父に話すと失敗のリスクが生まれる。あくまで自然に、解らない様に事を進め無くては。

**********

「おっ、スポーツ専門店か……」

 

「兄貴。どうかしたのか?」

 

 2人はあの後、何事も無かったかのように散策を再開していた。当初は真が策の内容を話してくれないせいか、新はしばらく騒いでいた。

 

 しかし真が話すと失敗するといえ旨を伝えると、大人しくなった。町中を散策していると、新が足を止める。そこは新の呟いた通りに、スポーツ用品のショップだ。

 

「なぁ、真。お前って、野球は出来るのか?」

 

「まぁ……一応。アンタに教えて貰ったからな」

 

「そうか、じゃあ……少し待ってろ」

 

 真が新の質問に答えると、新は店の奥に消えて行く。質問の流れからだいたい何を買うのか、真には丸わかりだった。店の前でしばらく待つと、新が手に袋を持って戻って来る。

 

 やはりというか、なんというか、新が購入したのはグローブとボールだ。片方のグローブを真に手渡すと、意気揚々な様子で告げる。

 

「キャッチボールしよう!」

 

「……んな事をしてる暇があると思うか?」

 

「まぁそう言うなって。もしかすると、油断して攻撃してくるかもだぞ」

 

「はぁ……解ったよ」

 

 呆れた様子の真も気にせずに、新は嬉しそうに歩き出す。真にとっては慣れっこな光景だが、新の見た目が相当に若いせいか、少しばかり友達な感覚を覚えた。

 

 とはいえ新も21歳なのだが、気にしない方が良いかも知れない。そして真が案内された場所は、至極想像通りだ。真と新が幾度となくキャッチボールをした河川敷……に似た河川敷である。

 

「なぁ」

 

「なんだよ」

 

「真はさ、俺の弟の話って……知ってるのか?」

 

「…………。ああ……知ってるよ」

 

 自分の居た世界には存在しなかったが、やはり真は新の弟の事は良く知っている。加賀美 亮……ワームに擬態され、殺害されるという不運な死を遂げた。

 

 新がワームへ憎悪を抱き、ZECTへ入隊するきっかけを作った存在だ。陸と不仲であった新にとっては、唯一の心のありどころだったのだろう。

 

「こうしてるとな、亮とキャッチボールをしてた時の事を思い出すんだ」

 

「…………」

 

「俺は、真と亮を重ねて見てるのかもな」

 

「…………止めてくれよ」

 

 会話しながらキャッチボールを続けていたが、新の言葉を聞いて真の手は止まった。遠くにいる新には、真が何かを呟いた事しか解らない。

 

 だから急いで真に近づいた。接近すれば、全ては一目瞭然だ。真の表情はどこか悲しげで、それでいて怒りも感じられる。何の地雷を踏んだか解らない新は、酷く困惑した。

 

「アンタにとっては……俺は弟みたいに感じるかも知れねぇよ。けど、俺にとってアンタは!唯一無二の父親なんだ!」

 

「!?」

 

「勝手に思い出に浸られて、弟と比べられて……!俺には……アンタしかいないのに!」

 

「真……」

 

 真を見ていて、新は無茶苦茶な奴だと思っていた。自分の扱いだけ嫌にぞんざいだし、挙げ句の果てには親も容赦無く囮に使う始末だ。

 

 だがそれは全て、真が新を信頼している証なのだ。新は……忘れてしまっていた。未来の息子が自分を見捨てずに、戦ってくれた事を。ようやく新は、自分がとんでもない事を言ってしまったと理解する。

 

「…………。悪い……頭冷やして来る……」

 

「待ってくれ、俺は……」

 

「頼むから……着いて来んな……」

 

「……………………」

 

 背を向けて去る真の背中を、新はすぐに追う事が出来なかった。ただ自分に対しての苛立ちのみが、新の胸中を襲う。再び新が顔を上げた頃には、もう真の背は見えなくなっていた。

 

「クソッ!」

**********

「ふぅ……」

 

 しばらく歩いた真は、埠頭へと辿り着いた。作り上げられた入り江には風情など無いが、都会らしくはある。今もせわしなく船が出入りしているところだ。

 

 真は1度背伸びをすると、堤防の縁へと腰かけた。しばらくボーッと雲を眺めていたが、どうやら手持無沙汰らしい。手の届く範囲の平らな石を拾うと、サイドスローで放り投げて水切りを始めた。

 

「ここに居たか」

 

「天道……。アンタ、俺達を付けてたのか?」

 

「おばあちゃんが言っていた……探し物をするときは、行きたい場所へ向かえば良いってな」

 

「じゃあ偶然って訳ね。アンタらしいちゃらしいけど……」

 

 遠くから声がしたので振り返ってみれば、真の方に近づいているのは天道だった。生でおばあちゃん語録を聞けたはいいが、やはり言っている事が滅茶苦茶だ。

 

 恐らくは、探し物は探そうとしても見つからない。だから風の吹くまま……自分の行きたい場所に足を運べ。そうすれば案外、探していた物が見つかる……と言う事なのだろう。

 

「あいつは、放っておいて良いのか?」

 

「? 見てたんじゃないんだよな?」

 

「何があったかは知らんぞ。ただ……俺はお前とすれ違ったのだがな」

 

「……そうか、それは悪かったな」

 

 天道は呼び止めこそしなかったものの……ここに来る前に真とすれ違っていた。その表情から察するに、何かあったと想像するのは易い。

 

 しかし天道は、無理に呼び止める事はしなかった。なぜなら真の表情に、危うさは感じられなかったからだ。むしろ何か、目的があるような……そんな印象を受けた。

 

「まぁ良い……。1つだけ、お前に聞きたい事がある」

 

「ああ、応えられる範囲なら問題ねぇ」

 

「今の時代を……『この世界』と表現した。その真意を、聞かせて貰おう」

 

(うっわ~……流石としか言いようがねぇな……)

 

 真は新と出かける前に、この世界を案内してくれと言った。天道は、どうもその発言に違和感を感じたのだ。真が思慮深い性格である事を考慮すると、この『時代』と表現するのがふさわしい。

 

 これは完全に、真のミスリードであった。誰も気に留めないだろうと、そう思っていたが……やはり天道は一筋縄ではいかなかった。本来は話すべきでは無いのだろうが、真は観念するしかない。

 

「話せば長くなるけど……」

 

 自身が多次元の存在である事などなど、洗いざらい全てを語った。カブトの世界でこれから起こりうる出来事に関しては、当然避けてはある。

 

 順を追う事が難しいために、建設的な内容にはならなかった。それでも天道は悠然と立ち続けて、真の言葉へと耳を傾ける。そして話が終わると、ようやく口を開いた。

 

「女にしか扱えん機械か……興味深いな」

 

「だけどなんか、アンタなら動かしちゃいそうで怖いよ」

 

「フッ……。俺に動かせんはずが無いだろうな」

 

 天道がそう言うと、異様に説得力があると真は思う。苦笑いで天道の横顔を見てみれば、やはり冗談で言っている顔では無かった。それに対して、感心と呆れが混ざった様な溜息を吐く。

 

 まぁ……選ばれし者と言う事だろう。真も一夏もある意味ではそうなのだが、天道を前には自分がちっぽけに感じられる。そう思うと真は、自然に立ち上がっていた。

 

「おーい、真!」

 

「あぁ……やっと来てくれたか」

 

「何?」

 

「いんや、こっちの話」

 

 先ほどよりもボリュームの大きい声……判別するまでも無く新の声だ。喧嘩別れをしたはずの真が、意味深な事を呟きつつ新の方へ歩き出す。

 

 天道はその様子を、遠くから見守った。真に何か思惑があると、そう思ったのだろう。走って来た新は息を切らしながら、真に謝罪の言葉を述べる。

 

「さっきは……ゴメン!俺は……」

 

「黙ってろクソ野郎……!」

 

ゴッ!

 

「ぐあっ!な、何するんだよ……人がせっかく」

 

「あ゛~うっせぇ……。とっとと正体現せっつってんだ……クソワーム!」

 

「!? 何言ってんだよ、俺は本物だ!」

 

 謝る新に対して、真は思い切りその拳を見舞った。当然どういったつもりかと聞きたくもなるだろう。すると真は、衝撃的な言葉を放つ。

 

「アホか、親父とワームの見分けくらい……俺がつかねぇと思ってんの?」

 

「!?」

 

 本人も多少の自覚はあるが、真はファザコンの気がある。もっと言えば、新至上主義といったところか。故に感覚的ながらも、本物と偽物の差がハッキリと解る。

 

 ちなみに先ほどシケイダワームを逃がしてしまっても良いと言っていたのは、此処に起因するのだ。真の目的は、シケイダワーム自分は新の見分けがつかないと誤認させる事。

 

 そして、新に反発する様子を見せたのも……全て演技だった。自分が単独行動に出れば、シケイダワームは新の姿で接近を試みるハズ……そう呼んでいたのだ。

 

 どこかで2人の事を見張っていたのか、見事にこうして釣られてくれた。新を狙わなかったのは、頭の回る真が、これ以上ガタックゼクターの有資格者である事を恐れていたからだ。

 

「ワーム……お前には解からんだろうけどな。親と子ってのは、その言葉だけで簡単に片づけられるモンじゃねぇんだよ」

 

「…………」

 

「だから俺に、小細工は通用しない。解ったら観念して、擬態を解け!」

 

キィィィィィィ……!

 

『カロロロロ……!』

 

 真の言葉通りに観念したらしく、シケイダワームは正体を晒した。2度目の遭遇時には仕留められなかったが、真はここで確実に倒すつもりだった。

 

 力強くベルトを腰に巻いて、ガタックゼクターを手元に呼ぶ。するとその横に、同じ様にして天道が立っている。真は思わず、ぽかんとした顔で天道を見た。

 

「アンタ……」

 

「全てのワームは俺の敵……それだけの事だ」

 

「……解かった。そんじゃ……」

 

「「変身!」」

 

『『―HENSHIN―』』

 

ババババババババ!

 

 まさかの天道との共闘に、真は密かに胸を躍らせる。今まで誰かと立ち並んで戦ってきたが、ある意味で最も頼りになるであろう相手だ。

 

 既に真の耳には、カブトの挿入歌が幻聴で聞こえ始めていた。さすればお次の行動は、もはや決まったも同然だ。真は、勢いよくガタックゼクターの顎に手をかけた。

 

「「キャストオフ!」」

 

『『―CAST OFF―』』

 

『―CHANGE STAGBEETLE―』

 

『―CHANGE BEETLE―』

 

 カブトとガタックのマスクドアーマーが弾け飛び、それぞれ角と顎がせり上がる。コンパウンドアーマーが発光を終えると、ライダーフォームへフォームチェンジが完了した。

 

『ミ゛ーン!ミ゛ーン!ミ゛ーン!ミ゛ーン!』

 

「ぐ……おっ!?い、いきなりこれか……!」

 

「男たるもの……そう簡単に弱みを見せない事だ」

 

「!? アンタ本当に何モンだよ!」

 

 生きていれば誰しもが耳をふさぎたくなる雑音を、天道は全く気にする様子も無く真っ直ぐ歩く。もちろんいくら天道とは言えど、平気な訳では無い。

 

 それでも怯まない事こそ、天道が天道たる証なのかもしれない。シケイダワームは怯まない天道を前に焦ったのか、近づかれても鳴き続ける。

 

「フッ!」

 

ギャリィ!

 

『ミミミミッ!?」

 

「音が……弱くなった?」

 

「セミの鳴く原理が解るか?」

 

「あっ、なるほど……なら後は!」

 

 セミの鳴く原理としては、腹の内部に存在する鼓膜と呼ばれる器官と羽を震わせる共振で音を発している。天道は組織の造りは同じだと読んで、腹部にクナイガンを突き刺し横一閃に斬り裂いた。

 

 恐らくそれで、腹部にある鼓膜が断裂したのだろう。多少は五月蠅いが、頭痛を引き起こす程の音量では無くなった。動けるようになった真は、素早くシケイダワームの背後に回り込む。

 

「ライダーカッティング!」

 

『―RIDER CUTTING―』

 

バチィ!

 

『ミ゛ミ゛ィッ!』

 

 真はダブルカリバーを鋏に連結させると、シケイダワームの羽を根元から挟み込んだ。タキオンのエネルギーを送られた羽の根元は、エネルギーを抑え込める事が出来ずに小さな爆発と共に千切れた。

 

 これにてシケイダワームは、完全に音を発する手段を失った。それどころか、飛行すらもままならない。だが相手は侵略者……情けは無用だ。真はシケイダワームの背中を、ドロップキックで蹴とばした。

 

「パァス!」

 

「……存外、お前もなかなか騒がしいな」

 

ギャン!

 

『ミ゛ーッ!』

 

 真はヒートアップすると騒がしくなるが、天道からすればそれなりに意外なのだろう。真のドロップキックを受けて、よろけて向かって来るシケイダワームを、すれ違い様に斬りつける。

 

 シケイダワームは振り返ると、天道目掛けて針状の口を伸ばす。どうやら口で突き刺す攻撃らしいが、真が割って入りその口をガッチリと掴む。

 

『カロロロロ……!』

 

「ふんっ……ぬぅううう!」

 

『ミィー!』

 

 正面から掴んでいた真だったが、振り返って背負い込む様な体制へ変わった。するとそのまま力任せにシケイダワームを宙へと浮かせた。ガタックらしいパワープレーだ。

 

 天道は真の肩をジャンプ台代りに使うと、シケイダワームを追う様に跳ぶ。羽の無くなったシケイダワームには、対抗の手段がなかった。天道はグルリと1回転すると、強烈な踵落としを見舞う。

 

「ハッ!」

 

『ミッ!』

 

「なんか一言あると有り難かったんだけど?」

 

「固いことを言うな。おかげでアッサリ決まったのだからな」

 

 地面に叩きつけられたシケイダワームと、華麗に着地してみせた天道。その様は誰が見ても対極で、2人が優勢である事を伺わせる。劣勢の方からすれば、たまった物では無いだろう。

 

『カロロロロ……』

 

ドシュン!

 

「!? そう何度も逃がすか!クロックアップ!」

 

「クロックアップ!」

 

『『―CLOCK UP―』』

 

 ある程度は予測が出来たが、真の想像通りだった。シケイダワームは自身の劣勢を悟るや否や、クロックアップを使用して逃走を図る。しかしここで逃すと、今度は本当に新が危うい。

 

 すぐさま真と天道は、左腰部分のクラップスイッチを叩く。すると消えて見えたシケイダワームを、視認する事が出来る。今までは飛んで逃走していたが、今回は走って逃げている。

 

「天道、少し譲ってくれ!」

 

「好きにすると良い」

 

「ん、サンキュー!」

 

 手柄がどうのと言うほど、天道の器は小さくない。真の気持ちを尊重する……のともまた違うが、先に仕掛ける事を了承した。すると真は、シケイダワームを追走する。

 

 あっと言う間に追いついた真は、走った勢いそのままにラーニングネックブリーカードロップを繰り出す。本来は正面からかける技なために、シケイダワームは顔面をモロに潰される形となる。

 

「まだ……まだぁぁぁぁっ!」

 

 真はうつ伏せになったシケイダワームを、無理矢理にでも引き起こす。そして今度は腰へ抱きつき、倒れる勢いを利用してバックドロップを喰らわせる。

 

 まだまだといえ言葉通りに、真はまだ止まらない。腰のホールドを解除すると、次は足をホールド。そのままシケイダワームを持ち上げて、思い切り降り下ろす。パワーボムというプロレス技だ。

 

「ふんっ……ぬどらああああああ!」

 

『カロロロロ……!?』

 

 足のホールドの形を少し変更して、シケイダワームの両足は真の脇に捕まっている。真はその場でグルグルと回転を始めた。ジャイアントスイング、これもプロレス技である。

 

 ISでは存分に発揮出来ない真のプロレス技術は、こうして実際のガタックにはマッチしていた。真はグルグルと振り回していたシケイダワームを、山なりに天道の方向へ投げ飛ばす。

 

「天道おおおお!」

 

「良いだろう」

『『―ONE TWO THREE―』』

 

 放り投げられたシケイダワームは、ジャスト天道の付近で落下を開始した。天道はその場で、真は走り込みながらマキシマムスイッチを入力する。

 

 それぞれのゼクターの逆位置になっている部分を、正位置へと戻す。これで両者……いつでもライダーキックを撃つ準備が完了した。後は、ぶちかますのみ。

 

「ライダーキック!」

 

「ライダー……キック!」

 

『『―RIDER KICK―』』

 

「うぉらっ!」

 

「ハアッ!」

 

ガギィッッッッ!!!!

 

『ミ゛ィーッ!?』

 

ドゴォン!

 

『『―CRLOC OVER―』』

 

 2人は真っ逆さまに落ちてくるシケイダワームの頭部に、ボレーキックと上段回し蹴りを喰らわせた。その威力のせいか、シケイダワームは地面に着く事なく茶色い爆炎を上げて四散した。

 

 固有の色の爆炎を上げるのは、ワームが息の根を止めた合図に等しい。真小さくガッツポーズを見せて、天道の方へ振り返る。すると天道は、ゆっくりと右手の人差し指を天へと掲げる。

 

「フッ……。親子揃って、面白い奴らだ]

 

「今の戦いの何処でそう思ったよ……」

 

「おーい、真!」

 

「おっ、本物が来たか……」

 

 全てが片付いたと同時に、本物の新がやって来た。真はガタックへの変身を解除しながら、新へ近づいていく。するとどうした事か、ガタックゼクターは新の手元へ戻って行くではないか。

 

 どうやら真の思った通りに、限定的に力を貸してくれていた様だ。資格が新へと戻ってひと安心だが、真は何処か寂しさを感じる。だが喜ぶ新を見て、そんな考えはすぐに消え失せた。

 

「さっきは悪かった!俺……」

 

「いやいや、良いんだよ。謝るのは俺の方だ」

 

 真は非常に朗かや様子で、全ては作戦だった事を伝えた。新はまさか演技だとは思わず、騙されたとでも言いたげな表情へと変わる。

 

 とにかくこの場は、互いに謝罪すると言う事で落ち着いた。すると真は腰に巻かれたベルトを外して、こちらもしっかり新へと返却する。

 

「さて、後は……俺の帰る方法を見つけねぇと」

 

「ん……?真、お前……光って……ないか?」

 

「へ?うぉっ、本当だ!?」

 

 これからどうするかを思案していると、新は真の身体が薄ぼんやりと金色に輝いているように見えた。慌てて真は自分の身体を確認すると、指摘通りに発光している。

 

 真は身に宿る感覚からして、この光はタキオンだと察する。推察からするに自分で発生させたイレギュラーを、自分で片づけたから……。つまり真は、この世界でやるべき事は終えたのだ。

 

「なんか、お別れっぽいな……」

 

「え……?もう……行っちゃうのか……」

 

「あ~……色々と言いたい事が……。親父、俺はやっぱり……アンタの弟にはなれない。けど、俺はアンタの息子だ。俺にとって、それは何より誇りだし……誉れだよ」

 

「真……」

 

「いつも俺は、親父に守られてばかりで……。だから今回は、親父を守れてうれしかった!図々しかもしれないけど、やっとアンタに恩返しできた気がする」

 

「…………!」

 

 真の身体の光は徐々に強まっていき、それは時間が迫っている事を示していた。だから真は、若く自分とはまた違う次元の存在ではあるが……新へと感謝の気持ちを述べる。

 

 そんな真に、新は無言でヒシッと抱き着いた。ギリギリと締め付けられる力強さだったが、真は新の背中を優しく何度も叩いた。

 

「天道……親父の事、よろしく頼む」

 

「心配せずとも……ソイツはソイツらしくやっていくさ。お前の……父親なのだからな」

 

「ハハッ……それもそうか。……アンタの隣に立てて、すっげー光栄だったよ」

 

「……お前との出会いは、いい刺激となった……とだけ言っておこう」

 

 これで別れとなると、幾分か天道の口も軽くなっていた。真からすればとてつもなく嬉しい言葉を貰って、思わずはにかむ。頬をポリポリと掻いてから、少しばかり新を突き放す。

 

 すると真の身体は、足元から粒子の様に消え去っていく。本来であれば恐怖を覚えるのだろうが、新と天道が見守っていてくれているおかげか不安は無い。真が最後になんと言うべきか迷っていると、先に新が口を開く。

 

「真!また……未来で会おうな!」

 

「…………。ああ、未来で!」

 

 やはり何処だって父は父だ……。真は新の言葉を聞いて、そう思った。笑顔の別れなど似合わない……底抜けの熱血バカ。真はそんな父親が、大好きなのだ。

 

 真は満面の笑みで新に返すと、完全にカブトの世界から消え失せた。その際に一陣の風が吹き、まるで真を風が運んで行った様に見える。

 

「行っちまったな……」

 

「何がだ?」

 

「は?天道……お前、何言ってんだよ。さっきまでそこで、真が……」

 

「マコト?誰だか知らんが、夢でも見ていたのではないか」

 

「あっ、おい……天道!」

 

 おかしな事に、真の帰還を見守った天道と会話がかみ合わない。それもそのはず……天道の記憶は、真という名のイレギュラーが消え去った事によって書き換えられてしまったのだ。

 

 具体的に言えば、真に関する全てを……。だから今も、新とともにシケイダワームを倒した……天道はそう思っている。本来であれば、新の記憶も書き換えられるハズ……なのだが、2人の絆がそうさせたのかも知れない。

 

「……おーい……真おおおお!俺は、お前の事を忘れないからなああああ!」

 

 とてつもない寂しさが襲ってきて、それを紛らわすために新は海に向かって叫んだ。その言葉では無く、想いは……しっかりと真に届いたであろう……。

**********

バチバチバチバチ!

 

『岬主任!』

 

『もしかして、真くん!?』

 

「おおっ、戻って来れた!」

 

『ごめんね、おと-さん……。私のせいで……』

 

『いや、気にすんな。おかげで、貴重な体験が出来た』

 

 真の視界がハッキリすると、いつの間にやらラボラトリの実験施設内に戻って来ていた。真が消えて大騒ぎだったラボラトリは、帰還したら帰還したで大騒ぎである。

 

 姿がハイパーガタックのままなので、頭に月子の声が響く。焦りはしたが、怒る必要は何処にも無い。真はその場に腰掛けながら、月子に優しい言葉を投げかける。

 

「…………」

 

『マスター、どうかなさいましたか?』

 

『いやな、人を守るのって……なんか、大変だけど……悪くないと思ってな』

 

 今までは漠然とながらも、真は多くの人を守ってきた。しかし……しっかりと1人の人間を守ったのは、簪を除けば新が初めてだったのだ。

 

 真はそこに、とてつもないやりがいを感じていた。今まで目標も無くIS学園に通っていた真だったが、たった今……やりたい事、つまりは夢が生まれる。

 

『俺さ、ISを使って誰かの命を守れるような……そんな仕事がしてみてぇ』

 

『マスター……』

 

『よしっ、決めた!いつかISの部隊を率いて、単なる戦いじゃない……守るための戦いが出来るようになってやる!』

 

『うん!おとーさんならきっと出来るよ』

 

 ガバッと立ち上がった真は、力強く拳を握る。その拳は何処か熱く……目標が出来る事は、こうも良い事かと真に思わせた。とりあえず真は……もっと親孝行しようと、自分の世界の親を頭に思い浮かべる……。

 

 

 




カブト&ガタックは様になります。

なぜこの話がIFではないかと聞かれますと、真に夢が出来るきっかけとなった出来事だったからです。

まぁ最終話でチラッと触れましたけれど、しっかり未来の真は夢を叶えたって事ですね。うむ……夢って良いもんですね、私には特にありませんから。

さてさて、ようやく次回から……皆様のリクエストして下さった内容のお話が書けそうです。一発目は、どうしようかな……?

皆様に解りやすい様に、IFを除けば時間軸順に並べ替えてお送りしたいと思っています。ですので、リクエストして下さった方は……首を長くして順番をお待ち頂ければ大変助かります。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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