ちょっと遅刻してしまいまして申し訳ないです……。
別にいつ投稿すると予告しているわけではないですが、基本的に週一で投稿できていたのでまぁ遅刻でしょう。
ちょっち今月リアルの方が本気で忙しくてですね……しばらく投稿ペースが遅れてしまうと思います。
私なんぞの小説を待っていただけてる方、申し訳ないです。
とりあえずエタらない事を誓いますんで気長に待っていただけたら助かります。
こちらの都合で申し訳ないです。重ねて、お詫びいたします。
それでは、今回もよろしくお願いいたします。
(今日も特に成果なし……)
長い廊下を重い足取りで歩く。一向に完成の見えない「打鉄弐式」は私にとって大きな足かせ以外の何物でもなかった。
(それもこれも全部……)
そう、織斑一夏のせいだ。おかげで私は代表候補生でクラス代表であるにもかかわらず、こうして行事に参加できずにいる。
恨めしいのは確かだ。だけど、彼を責めたからといって何も変わる訳がない。むしろもう彼は関係ないくらいに思わなければ、そう……これは私一人の問題……だから、誰にも頼らない……誰にも甘えない。
だからしばらくは決別すると決めた。あの人はもちろん、虚さんや……私にとって数少ない友人である本音とも……。今私が胸に抱えているDVDはその訣別の証。
このDVDは「突撃戦士 チャージマン」といって、私の宝物の一つである。どんな時でも突撃一筋、どんな巨悪だろうと正面からぶつかるその様に、私はある種の憧れを抱いていた。
(私も……)
そうあれれば良いなと思うが、今の私には正直ムリ……。だからこその決別の証でもある。このDVDはもともと生徒会室に置いておいたものだ。
私はこれを今から封印するつもりでいる。そして、打鉄弐式が完成するまで決して触れない。それくらいの覚悟が無ければ、きっとあの人のようには上手くいかないはず。
あの人は一人で専用機を完成させて見せた。それならば妹である私に出来ないわけがない。ううん……やらなきゃダメ……。
優秀な姉と、出来の悪い妹。そうやってずっと比べられて生きてきた……ずっと苦しかった。だけど、私もあの人と同じく、誰の手も借りず専用機を完成させて見せる。そうすれば、何もかもしがらみから解放される。その一心で私なりの努力を続けてみてはいるものの……。
やっぱり上手くいかないのは苦しい。だけど、諦めるつもりも投げ出すつもりも毛頭ない。そうしなきゃ、ヒーローなんて助けに来てくれない……。
(ヒーローなんて……)
そう自分で否定しておきながら、私の記憶にしっかりと刻み込まれている人物が一人いた。……「彼」は困っている私を助けてくれて……まさに私が思い描くヒーロー……。
「彼」の事を思い出して耳まで赤くなるのが分かる。……初恋……なんだろうなぁ……。だって、「彼」以外の男性に対してこんな胸を締め付けられるような感覚を抱いたことが無いからだ。
(もう一度でいいから……「彼」に会いたいな……)
ドン!
俯き加減で歩いていた上に、考え事をしていたため、私は出合い頭に誰かとぶつかってしまった。その拍子に私はバランスを崩し、尻餅をつくような形で転ぶ。
DVDがバラバラと音を立てて地面に散らばるのを見て、私は謝るのよりも先にDVDを拾う作業に入ってしまう。そして、かけられた声を聴いて耳を疑った。
「ごめんな、良く前を見てなかった。手伝うぜ」
(っ!?)
この声は……高さこそ違うものの確かに……「彼」の!?いや、そんなはずはない……ここにいる男性は織斑 一夏ともう一人……本音が仲良くなったらしい加賀美 真という人物しかいないのだから。
でもちょっと待って……私は加賀美 真の容姿に関してまったくもって知らない。加賀美 真に興味が無かったのもあるし、加賀美 真の乗っているISが全身装甲なのもある。
(だけど……そんな偶然……)
そう、そんな偶然があって良いはずがない。だって、もし加賀美 真が「彼」なのだとすれば。この再会はまるで……その……運命の再会というか……。
……と、とにかく……確認しないことには始まらない。私は恐る恐る視線を恐らく加賀美 真であろう人物に向けた。
(!?!?!?)
「彼」だ……。昔よりもかなり大人な顔つきにはなっているものの、私が見間違えるわけがない。加賀美 真=初恋である「彼」の方程式が出来上がってしまう。
あまりの衝撃に私はどうして良いのか分からなかった。頭の中をただただ混乱が支配し、もはや私は彼……もとい加賀美君を直視する事すらままならない。
「なぁ、好きなのか?チャージマン」
(~~~~~~っ!?)
混乱している私にとって、加賀美君のその一言はとどめ以外の何物でもなかった。加賀美君が彼ということは特撮が好きなのは知ってる。
せっかく声をかけてくれたのだから、これはチャンス!たどたどしくなるだろうけど、共通の話題を使ってとりあえず仲良くなるところから始めなくては。
言え……言うんだ私……。私は特撮が好きだと伝えるんだ……!意を決して、加賀美君の方に視線を合わせる。その瞬間、私の思惑は瓦解した。……かっこいい、目を合わせただけで胸の鼓動がうるさくて仕方が無い。つまるところ、声をかけるなんて……
(やっぱり無理…………!!!!)
気が付けば私はチャージマンのDVDを加賀美君の手から奪い去り、全力で逃げてしまっていた。あぁ……なんて事をしてしまったんだ私は……悪い印象を与えてしまったに違いない。
頭の中が真っ白になってしまい道中の事はあまり思い出せない。いつの間にか自室のベッド転がっていたほどだ。それだけさっきの加賀美君とのやり取りは、私にとってショックだったという事だ。
(加賀美君が……「彼」…)
もうこの言葉を何回リピートしたことか、それでもこの事実は変わらないし、ましてや変えられる訳がない。でも……まさか会いたいと思っていた時に目の前に現れるなんて……。
(やっぱり彼は私の……)
そうだ、そうに違いない。やっぱりこの再会は運命で、彼と私は会うべくしてこのIS学園にいる。なんて素敵な事だろうか、あれだけ会いたかった彼がこんなに近くにいるなんて。
(加賀美君は……私の事を……覚えてない……よね)
あの反応を見ると、そこに関してはそう考えるのが吉だ。きっと、加賀美君にとっては私を助けたことなど何気ない日常の一部なはず。記憶から消えていたって不思議な話ではない。
私は今でも鮮明に思い出せる。彼が助けてくれたあの日、あの時の事を。目蓋を閉じれば、より一層その光景は私の脳裏に蘇るのだった。
**********
三人称視点
季節は真がISを動かした時より2年前の春。桜が咲き誇り、穏やかな陽気に包まれ春真っ盛りと呼ぶにふさわしい。
そんな春の休日、更識 簪は特に行くあてもあるでなく、ふらふらと街に繰り出していた。目的としては気分転換等々、とりあえず一人になりたい気分でもある。
「はぁ……」
自らを追い込みがちな性格である彼女は、今日も今日とて溜息交じりに歩く。こうして何かと発散しなくては、それこそ自分を潰してしまうのだろう。
「あ……そういえば今日は……」
簪の目に入ったのはとある本屋だ。それを見て簪は今日が愛読書としている特撮情報誌の発売日であることを思い出す。とりあえず最初の目的地は決まったので、簪は迷わず本屋に入店する。
何度か立ち寄った事がある本屋だったため、何の問題も無く特撮情報誌が陳列している場所へとたどり着く。しかし、どうやら先客がいるらしい。
その先客は男性。簪がまず思ったのが、大きいという点だ。無駄にといっていいほどに身長は高いがその顔には若干のあどけなさが残っている印象を受けるあたり、簪は同い年くらいと推測する。
(14歳で……この身長……)
きっと学校では頭一つ抜きん出ていて目立つのだろうなぁ。なんて思いながら目の前の少年を見ていると、少年も簪の方に気が付いたらしい。
バッチリ目が合ってしまった簪は、まじまじと見ていたのがまずかったかもしれないと焦る。しかし、少年は特に何を言ってくるわけでなく、ペコリと会釈した後ズリズリと少し横にずれる。
どうやら簪が邪魔と思ってみていたものだと勘違いしたらしい。少年の会釈を見て簪は、こちらこそスミマセンという意味を込め会釈で返した。
そうして簪もとりあえず立ち読みを開始する。隣に立っている少年も元から立ち読みをしていたため、すでに視線は簪でなく雑誌の方に注がれていた。
(落ち着かない……)
それもそのはず、年の近いであろう異性と肩を並べて似たような雑誌を読んでいるのだから、それでなくとも異性に対して苦手意識のある簪が落ち着かないのは当然だ。
対して隣の少年はそんな事を知るはずも無く、半ば流し読みのような勢いで次々と雑誌をとっかえひっかえしている。ペラペラ、バサバサと音が立ち、さらに落ち着かない。
こう落ち着かなくては雑誌の内容も頭に入らない。そう判断した簪は、とりあえず毎月買っている一冊だけを早々に会計してしまおうと、雑誌を手に取った。
足早に会計を済ませ本屋から出る。さて、次はどこへ向かおうかと思案していると、右手に持った本屋の袋が気になって仕方ない。
簪は先ほどしっかりと立ち読みができなかった反動で、買った本を読みたい衝動に駆られていた。本当は家に帰ってからゆっくり読むほうがいいのだろうが、結果読みたいという欲求の方が勝り、近場に見つけたベンチに簪は腰かける。
袋から雑誌を取出しいざ、読書タイム。今月の見出しは戦隊ものに出演中の俳優、女優陣のインタビュー記事だった。撮影の苦労などが事細かに分かるので、読んでいて楽しいものだ。
「あれれ~?お嬢ちゃん一人?」
「だったら俺らと遊ばない?いろいろ楽しい遊び知ってるよ~」
「ハハッ!なんだよお前、そのやらしい手つき!」
簪の楽しみは一瞬にして瓦解した。チャラ付いた男の三人組が簪に話しかけてきたのだ、いわゆるナンパという奴だろう。
女尊男卑の世の中になってもこういった輩はいなくならないものだ。むしろ、こういった外見だけは決して悪くない男たちは、一生かかってもこの態度は治らないだろう。
「…………」
簪は固まってしまう。男が声をかけてくるなんて初めてだし、ましてや不良だ。さっきの少年なんて比にならないほどのハッキリとした恐怖を感じていた。
一人で出かけたことを軽く後悔しながら、簪は何とかその場をしのごうと試みる。しかし、止めてくださいと言おうにも上手く声を出せない。
「所で何読んでんの?」
「っ!」
男の一人が簪の手から特撮情報誌を奪い去った。男は奪った本が特撮情報誌とわかるや否や、なぜか「あ~ハイハイ」と納得したような表情を見せる。
「お嬢ちゃんがこれ読んでるの、アレだろ?イケメン俳優ブームみたいな?」
「おっ、何それ。だったら俺ら当たりじゃん、見ての通りイケメンだし」
「ちっ、違っ……!」
そんな理由で自分が特撮情報誌を見るわけがないと、簪は否定の言葉を述べようとする。しかし、それでもやっぱり上手く声が出せず、どもった感じになってしまった。
「照れなくったっていいじゃん!イケメン好きならお互いハッピーだろ、お嬢ちゃん可愛いから声かけたんだしさ」
「ホラ、行こうぜ。いつまでもこんな子供っぽいの呼んでちゃ大人になれないよ~?」
男はその場に特撮情報誌を投げつけ、あまつさえ踏みつけた。グシャリと哀れにも変形してしまった特撮情報誌を見て、もう簪は今にも泣きだしてしまいそうな表情だった。
「…………!!」
「……なんでそんなに必死なんだよ、意味分かんねーし」
「んじゃ、とっとと行こうか」
「っ!離して!」
男の一人がついに強行手段に出て、簪の腕をつかみ強引に引いて行こうとする。それに対してようやく大きな声で否定の意思を見せた簪に、別の男が仲間達にこう告げる。
「……なぁ、あんま無理やりは止めた方がいいんじゃねぇ?今うるさいだろ、女の方が立場上だのどうのって……」
「はぁ?お前ビビってんのかよ。周り見ろって、助けようとしてる奴一人もいねぇだろ」
そう……野次馬が集まってきてはいるものの、みんな簪と男たちを眺めてヒソヒソと「可哀想」だのと呟くか、見て見ぬふりをするだけだ。
「…………」
簪は周りの人間に失望の感情を覚える。しょせんヒーローなんて空想で、現実はこうも非常なのだと。誰も助けてくれない、自分はこんなに困っているのに、どうして助けてくれないの?と簪は目で訴えるものの、簪と目があった人は露骨に視線を逸らす。
(ヒーローなんて……)
「ま……それなら大丈夫か。オラ、行くぞ嬢ちゃん」
(どこにも……居ない……!)
「邪魔」
簪があきらめかけたその時、何者かのドスの利いた声が響いた。どこの誰が聞いても機嫌が悪いのが分かる。そんな声の主の正体は……。
「あっ……」
さっき本屋で見かけた少年その人だった。背後から来た突然の「邪魔」の一言に、男たちは青筋を立てて少年を睨む。
「あん?なんだガキ、俺達は見ての通り忙しいんだよ通りたいならよそを……」
「邪魔だってのがわかんねぇか?黙ってそこどけ」
少年は臆すどころか、むしろ挑発じみた言葉を交えつつ男共を押しのけ通る。そして、投げつけられた本を拾うとかぶさった砂を服で拭い取り、簪に差し出した。
「ほら」
「あ、ありがとう……」
「ん」
簪の言葉に少年は多少表情を柔らかくして答えた。面白くないのは男たちだ。思わず知らず道を開けてしまったが、少年に挑発されたのをしっかりと耳にしている。
「てめぇ……クソガキ!どうなるか分かってんだろうなぁ!」
「さぁ?分からんな、教えてくれよお兄さんがた」
目の前の少年はなぜこんなに余裕そうなんだろうかと簪は思う。今のセリフはかなり大げさに手をすくめるようなジェスチャーと共に放たれたものだ。たぶん大多数の人間が軽くイラッと来るだろう。
「はっ、良いじゃん。教えてやろうぜ、こういう調子乗ったガキをビビらせんのが……楽しいんだよなぁ!」
「危ない……!」
男のうちの一人が、大きく拳を振り上げ少年の顔面目がけて打たれた。それを見ても悠然と立つ少年から、簪は思わず視線を外す。
数瞬後にガッと痛そうな音が聞こえる。ある程度は想像通りではあった簪だが、その後なんの音もしないのに違和感を覚えた。そうして恐る恐る少年の方に目を向けると……。
「うん……で?終わり?」
「なぁっ!?き、効いてねぇのか!?」
少年は顔面へのパンチをモロに食らっていた。しかし、ビクともしないと言った様子であっけらかんとしている。パンチを打った男は予想外の展開に後ずさりをして少年との距離を置いた。
「効かねぇだろうなぁ……アンタらの拳なんざ」
「ふっふざけんな!痛くねぇわけないだろうが!」
「うん痛いよ。だけど効かねぇつってんの。分かる?」
「はぁ!?言ってる事メチャクチャじゃねーか!」
確かに少年の言っていることは支離滅裂で、何が言いたいのか理解できない。戸惑っている男達に対して、少年は「ふぅ……」とため息をつきながら歩み寄る。
「その辺が分からねぇんなら一生俺には勝てんだろうな。ま、特別に教えてやるよ、アンタらが俺に勝てない理由をさ」
「なっ……!クソッ、離せガキ!」
「そういって、さっきアンタはその子の手を放したかよ?」
少年は歩み寄ったときの勢いのまま、男の胸ぐらをつかむ。当然男は抵抗するが、これがまた驚くほどにビクともしなかった。
「アンタらが俺に勝てない理由ひと~つ」
「ひっ……ひぃ!」
「魂、および信念のこもってない拳なんざ、何百発もらったところで……効かぁぁあああああん!!!!」
ゴッ!メリメリメリ……!
「ぐげぇ!」
少年の繰り出した拳は早く重い。拳は男の顔面に深くめり込み、盛大に男は吹き飛んだ。ゴロゴロと転がっていった後はピクリとも動かない。どうやら、今の一撃で失神したらしい。
「ふた~つ」
「えっ!?ちょっ、ちょっとタンマ……」
「男ってのはな、強くなきゃなんねぇんだよ。女を守ってる時には特に……なぁっ!!!!」
「プゲラ!?」
一人目を殴った後は、同じようにして近場にいた2人目の男を同じようにして殴り飛ばす。これまた派手に吹き飛んでいき、また失神したようだ。
「み~っつ」
「ま……待て!いや、待って下さい!今すぐいなくなるから助け……」
「やだね♪」
ビックリするほどの満面の笑みでそう返す少年を見て、最後に残った男は諦めが頭をよぎる。どのみち止める気が無かった少年は、何も気にせず最後の理由を述べた。
「何より、女の子怖がらせてるような輩に……負ける訳ねぇだろうがああああああ!!!!」
「アギッ!」
最後の男もゴッ!ゴロゴロ……チーンと言った風に、気絶していった。もはやテンプレ化されてるといってもおかしくない。少年は全員を気絶させると、手をブンブンと振って一言。
「以上、俺が特撮から学んだことでした。アンタらが汚した特撮も馬鹿になんねぇだろ?」
「そういえば……」
どこか少年の言葉に聞き覚えがあるなと思ったら、今のは「突撃戦士 チャージマン」にて主人公が言った事のあるセリフだ。
「ん?アンタ……まだ居たのかよ、こういう時はとっとと逃げちまうのが吉だぜ?」
「あっ、それは……その……」
簪は少年に急に話しかけられ、これまたどもってしまう。だが、さっきとは違う恐怖からくるものではなく、照れであることを簪は感じていた。
「……まぁいいや、ああいう馬鹿には気を付けろよ。んじゃ」
「まっ、待って……!」
自分でも知らず知らずのうちに少年を引き留めてしまった簪。既に向けられていた背中を翻し、少年は「まだ何か?」とでも言いたげな表情を向ける。
「どうして……助けてくれたの?」
「あ~……いや……なんつーか……」
う~ん……と少年は歯切れの悪い様子を見せる。ボリボリと頭をかいてみたり、その場でグルグル回って見たり。しばらく迷う仕草をした後、ようやく言葉を続けた。
「俺は自分でも思うけど性格よくねぇんだよ。こういうの本当はガラじゃねぇし、面倒臭ぇし。だけどよ、いっつも口ではどうのこうの言いつつ、やっぱ……ほっとけねぇんだよなぁ……」
「…………」
「なんつーの?ほっといたらさ、自分が自分で無くなっちまうような……そんな気がするんだ」
「…………」
「結局のとこ、自己満足なんだろうけどよ。それで誰かが助かるんだったらぜってーそっちの方が良いだろうし……それにさ」
「…………?」
「ヒーローなんて、待ってたって来ねぇって思ってる奴の方が大半だろうし。だったらせめて、そういう奴らのヒーローにはなんなきゃな……って何言ってんだ俺……!!!」
そこまで言って少年は自嘲するようにして顔を真っ赤に染めた。ガーッと両手で豪快に頭を掻き、息を荒げて方で呼吸をしている。
少年は照れているようだが、まさに簪にはその通りの状態だった。ヒーローなんていないと思ったとたんにこの少年が助けてくれたのだから。簪にとってこの少年は、まさにヒーローだ。
「これも自己満足だな……」
「そ、そんな事……ない……」
「うん?」
「助けてくれて……すごく、嬉しかった……。それに……その……すごく格好良くて……私には……ちゃんとあなたが、ヒーローに見えた……から……」
「……そっか、それなら俺も助けたかいがあるぜ。サンキューな」
「あっ……」
さっきまでの気迫が嘘のように優しい口調と、雰囲気を纏って、少年は優しく簪の頭をポンポンと叩く。簪は頭を叩かれたと同時にボッという風に顔が燃え上がるかのように熱を帯びた感覚を覚えた。
「それじゃ、俺は本当にもう行くから」
「うん……」
名残惜しい……本当はもっと話していたいと簪は思っていたが、何も言えなかった。このまま引きとめると、この少年に迷惑なのではないか、そう考えると声がまた出せなくなる。
そうこうしているうちに、どんどん小さくなっていく少年の背中。このままではいけないと、簪は意を決して自分に出せる最大限の声を出す。
「あのっ……本当に……ありがとう!」
簪がこんなに大きい声を出すと思ってなかったのか、少年は顔だけ振り返らして驚いたような表情を見せる。大きく手を振って感謝を述べる簪に、言葉は発さずは満面の笑みで答えた。
「っ~~~~~!!!!」
少年の満面の笑みを見て、簪はまた顔を真っ赤に染める。それと同時に胸が締め付けられるかのような感覚も襲ってきた。顔を隠すくらいに照れていた簪は、最後にもう一度だけ少年の姿を見届けようと顔を上げた。しかし、すでにそこには少年の姿は無かった。
「私の……ヒーロー……」
簪はそう呟きながら少年から受け取った特撮情報誌をギュウゥゥゥゥ……と両腕で締め付けるように抱えた。その顔はやっぱり赤い。元の肌の色が白めな簪は際立って赤く見えた。
「あっ……名前……」
そこまでしてようやく簪は名前を聞いておくのを忘れていたことに気づく。しかし、肝心の少年はもうどこかに行ってしまった。
「…………」
これではもう二度と会う事が出来ないかもしれない。もっと話もしたかったし、もっと仲良くなりたかったと後悔の念が簪を襲う。
だけれどクヨクヨしていたって始まらない。とりあえず簪には次なる目的地が明確になっていた。
「チャージマン……見直そう……」
チャージマンのセリフを持ってきたところから、少年はチャージマンが好きなのだろうと簪は推測した。レンタルビデオショップへ向かう簪の足取りは自分でも驚くほどに軽かったとか……。
**********
「あっ……寝ちゃってたんだ……」
加賀美君の事を思い出していると、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ベッドの上でうつぶせになっていた私はひっくり返って天井を見上げた。
「これからはいつだって……会いに行けるんだ……」
あれ以降、彼を探す目的を含めて積極的に外出をしたが、会えることは無かった。2年間ずっとずっと会えなくて……名前を聞けなかった後悔は募るばかりだった。
それでも、どれだけ辛いことがあっても加賀美君の事を思い出すだけで頑張れた。そんな私の心の支えと、これからはいつだって会える。
「…………」
だけど、ひとつ気になる事がある。それは加賀美君と本音が付き合っているという噂であった。4組に友人らしい友人はいないが、嫌でも耳に入ってきた。
私は加賀美君があの時の彼だとは思っていなかったから、全然興味はなかったし……本音の口から「かがみん」の話を聞かされても、興味はわかなかった。
しかし、加賀美君と彼が同一人物とわかった途端に、本音と加賀美君の関係を考えると胸の奥底からどす黒い何かが溢れてくる。
なんて私は嫌な子なんだろう……本音は私にとって親友だ。それなのに加賀美君とこれまでを過ごしてきた本音が羨ましくて仕方が無い。
本音は……何も悪くない。悪いのは加賀美君に何の興味もわかなかった私だ。うん……よし……かなり気も落ちが落ち着いてきた……。
「とりあえず……話しかけるところから……だよね」
まずは今日の事のお礼と、謝罪をしなくては。そうすれば自然に話しかけれる……「この間はありがとう。それと、逃げちゃってごめんなさい」こういえば完璧な……ハズ……。
あ……それだったら手作りのお菓子も持っていこう。加賀美君はよく本音と甘いものを食べているところを目撃されているみたいだし。
(よ、喜んでくれるかな……?口に合わなかったらどうしよう……)
期待と不安が入り混じる中、私は気付けば加賀美君が喜ぶ姿なんかを妄想しちゃったりして、そのまま夜が更けていってしまうのだった……。
という訳で、簪はすでに真に惚れていたという事です。
お気づきの方はいるかもしれませんが、簪は真の事をかなり美化して見ちゃってます。
個人的に簪は思い込みが激しい部分があると思うんですよね、だから真の事も「自分のヒーロー」だって事を疑わないし、本気で運命の再会だとも思ってるでしょう。
それと、真がえらく素直に話してますが、あれは「もう二度と会わない奴ならこのくらい話してもいいかな」って感じです。
故に、アレが真の隠している部分であり、本当はそう思っているという事です。……書けば書くほど真がツンデレになってゆく……こんなつもりでは……
次回はもう一話だけ本編と離れて、ZECTにてガタックの調査の話を予定しております。あの人やあの人が登場予定なので乞うご期待!
それでは皆さん、また次回でお会いしましょう!