戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

さて……ついにやってまいりました。全126話……これにて、戦いの神(笑)ですが何かは、完結となります!

この二次創作の投稿を始めて、1年ちょっとでしょうか。多くの読者の方々の応援を頂きつつ……なんとかここまで成し遂げる事が出来ました。

最後の最後まで、私自身は未熟であると思っていますが……全力を持って書き上げた最終話です。どうか、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


果てなき未来へ(永劫)ですが何か?

 暗い暗い……何か研究施設の様な場所があった。ここはどうやら、元々は亡国の実験場だった様だ。カエルム・スカラム崩壊後は、組織全体が壊滅状態に追いやられた事が伺える。

 

 そんな研究施設跡を拠点とし、何か良からぬ事を企む女性が2人……亡国の構成員だ。その身にはラファールを纏っていて、これから作戦開始の様だ。2人は、何処か殺気立っていた。

 

「おい……解っているな?」

 

「勿論だ。憎きZECTへ、目にもの見せてやる……!」

 

 作戦内容としては、ZECTへ対するテロ行為らしい。片方の女性が、大事そうに爆弾を抱えている。この2人がZECTへ恨みを抱く原因としては、真が関係しているのだろう。

 

 亡国を壊滅させたのは真だ。さすれば、構成員が恨みを抱くのも解らなくも無い。そこに至るまでの経緯はとてつもなく複雑なのだが、それを末端の構成員だった2人が知る由も無い。

 

「時刻は……もうすぐだな」

 

「カウントダウンを開始する」

 

 作戦開始時刻が迫っている様で、片方の女性が秒読みを始めた。ハイパーセンサーにもタイマーが表示されて、2人はいよいよだという気分に駆られる。

 

「3……2……1……」

 

「作戦かい……」

 

ズドオオオオン!

 

「「!?」」

 

 勢い良く作戦開始と宣言しようとした途端の事だった。近場の壁の一部が吹き飛んで、埃が舞い上がる。何事かと2人が目をやると、そこには『いた』。

 

 重厚な鎧を纏った様なフォルムは、ISにしては小柄な体躯だが……それを補って余りある迫力が秘められている。そして埃の舞う中でもはっきりと解る紅い眼光は、思わず怯んでしまいそうだ。

 

 そう……戦いの神こと、ガタックである。そのパイロットは言わずと知れた加賀美 真だ。現在はマスクドフォームで、肩の武装はキャノン。それで壁を吹き飛ばしたのだろう。

 

「敵対勢力2名を発見……」

 

「貴様ぁ……加賀美 真だな!?」

 

「スコール様の敵を取らせて貰おう」

 

「速やかにISを解除して投降しろ。さもなくば、強制的に拘束させてもらう」

 

 2人はやれるものならやってみろ……とでも言いたげに、真に対して射撃を開始した。一方の真はシザーアンカーを展開して、盾として用いながら回避を続ける。

 

 そして少しばかり憂鬱そうに見える溜め息を吐くと、何処かへと通信を始めた。必要な手続きが一通り終わると、これまたボソリと呟く様に言葉を口にした。

 

「……敵対勢力2名に交戦の意志を確認。元時刻をもって、鎮圧を開始する」

 

 真はその言葉が終わると同時に、キャストオフしてライダーフォームへ移行した。そして肩からダブルカリバーを外して、ラファール2機へと肉薄して行くのだった。

**********

『それでは、報告を頼む……加賀美『隊長』』

 

「了解。テロ行為を模索していたとされる亡国の残党を2名拘束しました」

 

 ラボラトリ内に点在しているオフィスの一室で、真はとある人物へと報告を行っていた。ちなみに『隊長』と呼ばれた現在の真の年齢は、今年の8月15日で28歳となる。

 

 神との決戦から、既に10数年の月日が流れたのだ。真は学園卒業と同時にZECTへ入社して、ISを率いる部隊を任される運びとなった。

 

 とはいっても実際に隊が結成されたのは、真が23の時だ。その間は、隊長になるに際して学ぶべき事をこなし……今に至る。真がらしくもなく堅苦しいのは、自分の立場上の問題なのだろう。

 

 加賀美隊の存在意義としては、平和維持活動を行う事である。今回の様にテロリストの確保をしたり、災害救助に参加したり……。平たく言えば、ISを用いた人助け集団の様な物だ。

 

『被害状況は?』

 

「それなりに暴れたので、施設は損傷しましたが……交戦したのは自分だけですから、問題ないかと」

 

 加賀美隊の正式メンバーは、真を含めて総員5名である。その他ラボラトリや田所隊から人員を拝借して、隊が成り立っているのだ。つまり真の直属の部下は、女性4名となる。

 

 曲者揃いなのだが、ここでは長くなるので割愛する。とにかく通信の相手が聞きたかったのは、今真が言った通りに部下達の被害状況だった。真の言葉に、通信相手は満足そうに頷く。

 

『その他の補足事項は?』

 

「1人が爆弾を所持、後始末をラボラトリに回しました。……自分達も立ち合った方がよろしかったでしょうか?」

 

『いや、そこは君の判断が正しい。餅は餅屋と言うだろう?』

 

 一応だが真は、爆弾処理の心得がある。それだけに、そんな質問をしたのだ。しかし通信相手の意見がもっともだろう。ラボラトリの方が、専門的な知識に優れているはず。

 

 流石に真も、頭ごなしに命令した覚えもない。本人も大丈夫だろうと思考を切り替えた。まだ何か報告するべき事があったかどうか、思い出している様だ。

 

『ところでだが……砕けた口調で構わんのだぞ。むしろそうしてくれると嬉しいのだがね』

 

「会長……お言葉ですが、自分は学生の頃と立場が違います。もう自分は完全にZECTの……」

 

『私と君が、友人であると言う事は……変わらんと思っているぞ』

 

「はぁ……アンタ、だんだん爺ちゃんに似て来たよ……三島さん」

 

 真が通信していた相手は、三島 正人だ。ただし……あの時とはお互いに立場が違う。陸は真がZECTへ就職して数年後に引退を表明した。今は自由気ままに余生を楽しんでいるんだそうな。

 

 そこで陸の後を継いだのが、他でも無い三島だった。三島は会長の座についてまだ数年だが、長年傍で陸の仕事ぶりを見ていたためか、その手腕を遺憾なく発揮している。

 

 2人しか聞いていない通信とは言え、会長と一職員の関わりだ。だからこそ昔の様な対応を渋ったのだが、まるで陸の様に言葉を躱される。どうやら真はそれで諦めたらしく、学生の時と変わらぬ対応を始めた。

 

「んで……報告は以上だと思うんすけど。他に何か気になるとことか、あります?」

 

『いや、無い。今回もご苦労だったな』

 

「了解です。じゃ、俺はまだ仕事が残ってるんで」

 

『む……少し待ちたまえ。残った仕事とは?』

 

 三島との通信を切り上げようとすると、引きとめられた。キョトンとした表情を浮かべながら、今回の件に関する報告書等を纏める仕事がある……と伝える。

 

 隊長である真にとっては、ごく当たり前の仕事だった。そのくらいは言わずとも、三島だって理解してるハズだ。だからこそ真は、引きとめられたことに違和感を覚える。

 

『真……世間が、どんな時期か知っているか?』

 

「はぁ……?春休み……ですよね。社会人には、あんま関係ねぇ話ですけど」

 

『よし、今すぐ帰れ。ついでに、君は春休み明けまで休みで良い』

 

「えぇ……?いや、自分……一応は隊長なんですけど……」

 

 唐突に、しかもZECTの総会長からそう言われ真は困惑する。27歳になっても、リアクションの仕方はあまり変わっていないらしい。

 

『無論、本当に緊急の場合は出動して貰うが……。今回も、何日家に帰っていない?』

 

「あ~……軽く3日は空けてますね」

 

『そうだろう。正直な話……定時退社したいのではないか?』

 

「…………帰りたいっす……」

 

 図星を突かれて、真は盛大に目を逸らしながら帰りたいと答えた。そんな真の様子に、三島は素直でよろしいと少しばかり表情を柔らかくする。

 

 そんな訳で、加賀美隊はこれより春休みへと入った。真は携帯で事の顛末を部下4人へ知らせると、手早く着替えて会社を後にする。そしてもう1人……誰かに電話をかけた。

 

「あっ、もしもし?なんか……俺、今日から春休みみたいだわ」

**********

 いやぁ~……三島さんも粋な人だねぇ、思わず目ん玉飛び出るかと思ったぜ。そこは20代後半の面子ってもんがあるし我慢したけど。

 

 さて、約3日ぶりの我が家だ……。『あいつら』は良い子にしてたろうかね。ま、問題ないだろう。それにそれは、家の戸を開けてみれば解る事だ。

 

「ただいま~」

 

「おかえり~。ゆい~!おとーさんかえって来たよ」

 

「……おかえり」

 

「おう、ただいま……結、晶」

 

 玄関で俺の事を待ち受けていたのは……可愛い我が子である。双子の姉弟で、姉の方が結。弟の方には晶と名付けた。2人の愛の結晶である……という安直な考えでそう名付けたのだが……。

 

 それが前世で見てきた仮面ライダーで、割と不幸な女の子2人とモロ被り……という事に気付いたのは、役所に出生届を提出してからの事だった。

 

「ねぇ、おとーさん」

 

「ん……どうかしたか、晶?」

 

「ゆいがね、おとーさんがいなくてさみしかったって」

 

「い、言ってないもん!あきら、へんなこと言わないで!」

 

「だって、ゆいすなおじゃないもん。ぼくが代わりにいっただけだよ」

 

 見ての通り……結と晶は俺と嫁の遺伝子を見事に引き継いでいる。まず結だが、髪の色は水色で……似なくて良いモノを、目つきと性格が完全に俺の遺伝だ。

 

 子供にしては、その目つきは鋭く……基本的に素直では無い。晶は俺を見るなり跳び付いて来たが、結は一歩退いていた。つまりは……抱き着きたかったが恥ずかしかったんだろう。

 

 一方で晶の方はと言うと、髪は黒で、目はどちらかと言えば垂れ目。そして……この年にしてみれば落ち着いていると言うか、淡々としていると言うか……。良い子なのだが、たまにどこまで本気なのか分からない時があったりする。

 

「はいはい、喧嘩はダメだぞ。結、お父さんは結に会えなくて寂しかったけどな~」

 

「……ほんと?」

 

「ああ、勿論。だから結、抱っこさせてくれ」

 

「……いいよ」

 

「あっ、ゆいだけズルい。ぼくもぼくも」

 

 結はこうやっていうと、しょうがないなとでも言いたそうに素直になる。しかしこうすれば、必ず晶もおねだりしてくるのだ。

 

 俺は駆け寄ってきた2人を、片手ずつに抱えて持ち上げた。こういう時ばっかりは、鍛えてて良かったと思う瞬間だ。肩車とかも同時にねだられんのはザラだし……。

 

「結も……晶も……。お父さんを困らせちゃダメよ……?」

 

「大丈夫大丈夫。俺がしたいって言ったんだよ……な~?」

 

「「な~」」

 

「もう……。お帰りなさい……あなた……」

 

「ああ、ただいま……母さん」

 

 リビングの方からエプロン姿で現れた女性こそ、まさに俺の嫁……俺の嫁!旧姓は更識……今や加賀美 簪!今でこそ普通にしていられるが、同居を始めた頃の『お帰りなさい』の威力たるや……。

 

 あぁ……幸せだなぁ……。嫁に娘に息子……この光景を、学園の頃からずっと待ち続けていた。それだけに、リビドー的なモノが抑えられず……簪も出産が早かったんだけども。

 

「ご飯出来てるけど……先にお風呂……?」

 

「ダメ。おとーさんとあとでいっしょに入るもん」

 

「ハハハ……それなら先に飯だな。結、晶……ご飯の準備!」

 

「「は~い」」

 

 俺が結と晶を降ろして背中をポンと叩くと、2人はキャッキャッとリビングの方へ戻って行った。それを見届けた俺は、玄関に腰掛けて靴を脱ぎ始める。

 

 うむ……やはり玄関だけでも、3日ぶりの我が家は落ち着くものだ。しかし本当……皆に迷惑をかけるな……。出来れば結と晶が小さいうちは、毎日帰ってやりたいんだが。

 

「あなた……大丈夫だった……?」

 

「ん、部下が駆け付ける前に終わっちまった。無茶した訳じゃないんだけどな」

 

「そう……良かった……。あなたが居ない間は……心配だったから……」

 

 そこに関しても、非常に申し訳がない。簪だって、俺の事を信じてくれているだろうが……学生の頃とはまた話が違うからな。

 

 何時までも現役でいられ無いのは、解ってる。それでも……俺は少しでも自分の力を、他人の命を守る事に使いたい。それが……家族を守る事に繋がるだろうから。

 

「簪……」

 

「んっ……」

 

 俺は未だに、2人きりの時は『簪』と名前で呼び続けていた。俺は簪の頬へ手を添えると、そっと近くに引き寄せる。そして軽くだが、簪へと唇を重ねる。

 

 あまり長いのをしてると、子供達に目撃される恐れがあるし……。うん、2人にはまだ早い。特に結なんかは……顔を真っ赤にして卒倒してしまいそうな気さえする。

 

「……飯にするか」

 

「うん……」

 

 唇をそっと離してそう言うと、簪は微笑みながらそう答えた。俺達はその場から立ち上がって、リビングの方へと歩く。でもやはりと言うか……子供達には遅かったと問いつめられるのだった。

**********

「おとーさん、あしたからお休みなの?」

 

「そうだぞ、偉い人がいっぱいお休みをくれたんだ」

 

 食事中、晶にふとそんな事を聞かれた。俺が長い間休める事を伝えると、晶は結に耳打ちした後ヒソヒソと相談するかの様に話し始めた。

 

 父親として内容が気になるが……多分だけど何かしら俺に頼みがあるのだろう。晶は妙に賢いから、前フリとして俺の休日に関して聞いてきたのだと思う。

 

「あっ、あのね!」

 

「うん?」

 

「ど……どこかにつれて行ってほしぃ……」

 

 結が顔を赤くしながら、そんな事を言い出した。この感じを見るに、晶に言わされたのだろう。だって、我が息子は凄まじくシラーッとしていらっしゃるもの。

 

 消え入りそうな声で言う結は、俺の返答をモジモジしながら待っている。なかなか素直に物を言えないこの子だ……恐らく心底から思った事なんだろう。それが例え、言わされたのだとしてもだ。

 

「お父さんもな、2人を何処かに連れて行こうって思ってたところだ」

 

「ほんと!?」

 

「ああ、勿論」

 

「……約束、破らない?」

 

 うごぉ……精神的ダメージを、娘からモロに喰らった。今回も約束を破ったしな……。卒園式には必ず行くって言ったのに、今回の仕事が入ったせいで反故にしてしまった。

 

 2人はこの春から小学生だ。入学式は今度こそ、って思ってる。しかし残念な事に、俺の仕事の都合上……100%で行けると言ってやれないんだよな……。

 

「うん……2人とも、この間は本当に悪かったな」

 

「それはちがうよ」

 

「晶……?」

 

「おとーさんはやくそくをやぶるけど、ウソつきとはちがう。ぼく、おとーさんがたいへんなの……知ってるよ?」

 

 この子はまた……ずいぶんと大人びた事を……。あっヤバイ……なんか泣けてきた。最近は涙腺が大分緩んで来てるしな。いかんかいん……なんとか耐えねばなるまい。

 

「おとーさん?」

 

「いやいや……なんでもないぞ!ところで、行きたい場所でもあるのか?」

 

「……おとうさんといっしょなら、べつに……」

 

「ぼくもー」

 

 グハッ!?簪とは違った意味で、破壊力抜群な言葉だ。特に結……今日はどうした?いつもは決してそんな事を言ってくれないのに。なんか……学園の時に俺がツンデレ言われてたの……理解できるな。

 

 しかし……別に希望があって言った訳では無いんだな。う~む……それなら俺が決めるべきなんだろう。だけど、緊急の事があると遠出は無理だ。かといって、近場には何も無いし……。

 

「あなた……お花見とか……どう?」

 

「おかーさん、お花見って?」

 

「う~ん……桜のお花を見にハイキングへ行く事……かな……」

 

「そういや今は真っ盛りか……社会人になってから、あんまし季節感が沸かねぇ」

 

「あなたは……昔からそう……」

 

 俺の呟きに、簪は素早くツッコミを入れた。そうだっけなぁ?割と日本の移りゆく四季とか、好きな方だと思うんだけど。だとすれば、簪と付き合ってる時に……そう言うのを気にしなかったって事だろう。

 

 そう言われてみりゃ……クリスマスとか、日本的に見てよほど大事なイベントしか目に入って無かった様な……。それは、もう今更か……。それなら、2人を連れて行くと同時にその埋め合わせもしよう。

 

「おとーさんのお弁当!」

 

「あきら……くいつきすぎじゃない?」

 

「だって、おとーさんのお弁当だよ!?めったに食べられないんだよ!?」

 

「良く食うのは、しっかり俺の遺伝だな……。わかったよ、晶……楽しみにしときな」

 

 晶は滅多にテンションなんて上がらないんだが、俺の手料理が食べれると聞いた途端のコレは……嬉しいもんだ。しかし本当……2人とも似なくて良い所ばっかり似てなぁ……。

 

 でも、晶がそう言ってるんなら張り切らなければ。結も晶を嗜めつつチラッチラッと俺を見てるしな……。それこそ、食いたければ言えば良いモン何だが。

 

「で……いつ行くんだ?」

 

「明日……?」

 

「母さんや、お父さんはお疲れですぜ」

 

「でも……子供達が……」

 

 ……見た事も無いくらいに輝いた瞳で俺を見てらぁ。そうだよなぁ~……今まで長い休みなんざ、ロクにとれた事なんて無いんだし。ま……子供達の為だしな、一肌も二肌も脱いでやるぜ。

 

 となると、場所取りとかもしないとだし……明日は相当に早起きしないとダメそうだ。米炊くのとかも忘れないようにしないと……。

 

「おとうさん、おじいちゃんとひぃおじいちゃん……」

 

「あ、あぁ……そうだな、結の言う通り……一応は誘っとかないとだな」

 

「でもおとーさん。ひぃじいちゃん……なんかまたよくわかんないところにいるみたいだよ?」

 

 この2人が言う『爺ちゃん』は俺にとっての父……加賀美 新で、『ひぃ爺ちゃん』は加賀美 陸の事である。ちなみにこの家に、現在親父は住んでいない。と言うのも……自発的に出て行ったのである。

 

 簡単に言えば、俺と簪に気を使ったって事だ。同居に際して、この家を使わないのは勿体なかった。だがほら……男女間の営みとかあるじゃん?親父は、その辺りに気を使ったのだ。

 

 実際は、出て行ってもらって正解だったと言っておこう。この子らが産まれても……まだ俺らも若い。する事はキチンとしているもので、親父が居たら気兼ねなく出来なかったろう。

 

 今はZECTが管理してる近くのマンションに住んでいる。子供達が大きくなり次第に、こちらの家に戻ってくるという流れである。

 

 んで……爺ちゃんの方は、世界各国を旅してる。もっとポピュラーな所を回れば良いモノを、届く絵葉書に写っているのは、本当に何処だ?とツッコミたくなるような場所ばかり……。

 

 さらに言えば土地ものなのか知らんが、何か怪しい魔よけの仮面的なモノを送りつけて来るし……。爺ちゃんの場合は、悪気があるのか無いのか良く解からんのだ。

 

「とにかく2人とも……今日は早めにお休みしましょうね……?」

 

「「は~い」」

 

 最後は簪が母親らしく締めて、明日の予定が整った。後は……2人は俺が不在だった間の話をしてくれる。俺はそれに真剣に耳を傾けて、しっかりと相槌を打つのだった。

**********

「御馳走さん!」

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

「おう、お粗末」

 

 親父が手を合わせてそう言うなり、結と晶も元気に御馳走様と口にする。天気も良いし、桜のポジションも最高だし……子供達も喜んでくれた。

 

 俺としては言う事無しだが、今度は何処へ連れて行こうかと考えていたり。春休みはまだまだあるし……相手してやれた事が無かったからな……。世のお父さんは、偉い事だよ。

 

「それにしても、真の手料理を食うのはいつ振りだろうな?」

 

「ん~?ま……出来の良い嫁さんを貰ったしな。する必要が無くなっただけさ」

 

「そうだな~……簪ちゃん、いつも真が世話になってるよ」

 

「あっ……その……お義父さん……。そんな……頭を下げられると……」

 

 親父はピクニックシート拳をついて、深々と簪に頭を下げた。さては酔いが入ってるな……?まぁ簪に対する感謝は、間違いなく本物のはずだ。

 

 ただし……頭を下げられてる本人は、とてつもなくオロオロしているが。そんな親父には、俺の子供2人がキャッキャッと絡みに行く。何かの遊びと勘違いしたのだろうか……?

 

「じーちゃんじーちゃん、あそぼ~……ってゆいが言ってるよ」

 

「い、言ってないもん!」

 

「ハハハ!よぉし……お爺ちゃんと遊ぶか!ハッハッハ!」

 

「爺ちゃ~ん……ほどほどにな~」

 

 晶にそうやって声をかけられた親父は、2人を両の小脇に抱えて遠くへ走り去って行く。どうにも親父は、俺がガキの頃にそっけない態度を取っていた反動が出ている様だ。

 

 事あるごとにこうやってハッスルするわ、会うたびにプレゼントを買って来るわ……。2人も喜んでいるのだが、何のモンでも節度が大事だし……難しいところだよな。

 

「…………」

 

「簪……どうかしたか?」

 

「フフッ……眉間の皺……消えちゃったね……」

 

「ん……まぁな。あの子らを見てると、自然に表情も柔らかくなるんだよ」

 

 簪が微笑みながら俺を見ていると思ったら、俺の眉間を指で擦りながらそう言った。確か……学生の頃にもこんなやり取りをしたのを覚えている。

 

 表情はともかく、この眉間の皺さえどうにかなれば……みたいな話だったはず。そっか……消えたか。そりゃ……良い事だな。眉間の皺だけで、俺がどれだけ怖がられてきたか……。

 

「あの子らに、感謝しねぇとな……」

 

「そうだね……。後は……目つき……」

 

「いや、こればっかりはもうどうしようも無いと思うんだが?」

 

「そうだね……」

 

「肯定するんかい」

 

 俺はまるでお笑い芸人の様に『なんでやねん』と簪にツッコミを入れる。すると俺と簪は同時に、クスリと笑みをこぼした。そうすると自然に、俺達2人は寄り添う。

 

 そうして、風に舞う桜へと目をやった。……綺麗なもんだ。花見を俺達加賀美家の恒例行事にするのも……悪くないかも知れん。あぁ……しかし本当に……。

 

「幸せだなぁ……」

 

「あなた……?」

 

「あ、あれ?俺……今の口に出してたか?」

 

「思いっきり……」

 

 マジか……。アレだ……本格的に、年を食った証拠なのかもしれん。もう2年もすれば、30代だもんな。いや……この年単位のスパンを短く感じてるのが、相当にマズイ。

 

 ……まぁいいか。人間は、年を取る生き物なのだから。もっと気楽にいこう……気楽に。実際のところは、いつまで現役でいられるかの目安になるけども。

 

「俺さぁ……簪。あの子達や、他の次の世代に……何をしてやれるかとか、生意気にもそんな事を考える時があるんだよ」

 

「未来を……繋ぐ……?」

 

「それもだけど、現在進行形な上に……やっぱり永遠にゴールは見えない事だ」

 

 もちろん、あの日の事を諦めたって事では無い。誰かのために俺の力を使いたいって思ったのは、これが俺の夢だったから。だから俺は、この道を選んだのだ。

 

 だけど亡国の残党とかは、後を絶えない。俺のやってる事が、人の為になっているのか……正直なとこ疑問に思うときだってある。だけれど、あの子達が産まれてきてくれて……気付かされたんだ。

 

「目の前の……大切な人達を守る事って、きっと……大きな物を守る事に繋がるんじゃねぇかな」

 

「あの時……みたいに……?」

 

「そうそう。Think Globally Act Locally……地球規模で考え、足元から行動せよってな」

 

 あの時……つまりは、神との決戦の事だ。俺が戦ったのは、皆を消させたくなかったから。それは結果的に、多くの命を救う事に繋がったのだ。

 

 そうやって、もっと目の前の問題へと真摯にぶつかれば……いつの間にか大きな問題さえブッ飛ばしてしまっているはず。そうやってコツコツコツコツ……前に進んで、いつしか……。

 

「次の世代へ、安心して未来を託せるように……とりあえず俺は、守るよ」

 

「あなた……」

 

「簪や晶や結……それと、親父。爺ちゃん、ZECTの人達。そして俺の……大事な仲間を」

 

「うん……。あなたなら……きっと出来る……。なんたってあなたは……戦いの神だもの……」

 

 戦いの神……か。当初こそ困惑したもんだが、その称号も悪くない……。あぁ……悪くない。だからもっと胸を張って、その称号に恥じぬよう戦い抜かなければ。

 

 それもタダの戦いでは無く、守るための戦いだ。俺はいつだって、守るためならどんだけズタボロになっても立ち続けて来たんだ。自分の身よりも大切な物が2つ増えた暁には、もはや俺に立てない道理など……。

 

「おとーさん、おとーさん」

 

「ん?どうした晶。お父さんも混ざった方が良いか?」

 

「ん~ん。アレ、アレ」

 

「アレ……?アレって……」

 

 晶が俺の元へ駆け寄って来たかと思ったら、俺の上着をグイグイと引っ張る。そしてツンツンとするように、何処かへ指を差す。その先に俺が見たものは……。

 

「ハッハッハ!そぅら結~!楽しいだろ~?」

 

「うぇぇぇぇん!お゛どう゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!」

 

「いや違ぇだろおおおお!良く見ろ親父ぃぃぃぃ!それアレだから、結……マジ泣きな奴だから!」

 

 結が親父に天高くかかえ上げられて、全力疾走されている光景だった。畜生め!やっぱり酔ってらっしゃったよ、あの親父殿!子供にとっちゃ軽く絶叫マシーンだよ……親父と言う名の!

 

 酔っているせいか、結が楽しんでるのかそうでないかの判別がつかないのだろう。結が素直でないせいか、実の親である俺でさえ解りづらい時があるんだ……。今の親父には、絶対無理……っつーか手遅れ!

 

「ゆいをたすけないと、おとーさん」

 

「クールだね晶くん!?ええい……母さん、晶を見ててくれ!結いいいい!お父さんが今助けるぞおおおお!」

 

「フフ……いってらっしゃい……あなた……」

 

「おとーさん、がんばれ~!」

 

 簪と晶に見送られながら、俺は親父に向かって全力疾走!おおう……愛する娘がパタパタと手を振っておる!とりあえず有言実行といこう……俺は、俺の家族を守る!ヘヘッ……なんたって俺は……。

 

「戦いの神だからな!」

 

 

 

 




完結うううううううううう!!!!

はい!そんな訳でして、最終話でした!どうにも……やり切った感が襲ってきましたねぇ。燃え尽き症候群にならなければ良いですけど……。

さてさて……最後まで呼んで下さった方、または途中で読むのを止めてしまった方などなど……沢山いらっしゃると思います。

ですが、私を支えて下さったと言う事には変わりありません!1話でも目を通してくださった全ての読者の皆様……本当に、ありがとうございました!

という訳でして……これで本編は終了!後は……。まぁ詳しい事は、今日中に活動報告を更新しますので……ぜひ目を通して頂きたい。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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