戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

いやはや……一話が長くなるのが続きますね。読み辛かったら申し訳がないです。ちょいちょい切って、ズルズル引きずるのもアレですからね……うん。

ってな訳でして、今回は本編中ではソルの最後の出番になるんじゃないでしょうか。いや……ぶっちゃけ簪以外のメインキャラもかも知れませんけど……。

まぁメインは簪と決まったからね、仕方ないね。そんなこんなで……今回は真&簪とソル&マドカの決戦後の様子って事で。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


全てが終わって(心機一転)ですが何か?

ガギン!

 

「むっ……?アーマーが、勝手の閉じた……」

 

「おっ……本当だ……。つーかう~わ~……何だこの脱力感……」

 

「……オレ達の第4フェーズは、特殊な条件下でしか発動できんらしいな」

 

 全てに一段落が付くとハイパーガタック&ハイパーカブトの装甲は、ひとりでに閉じた。それと同時に、とんでもない程の脱力感が真を襲う。

 

 第4フェーズは大したリスクは無い代わりに、真とソルが気持ちを1つに合わせる事が最低条件である。それだけに、終始テンションが上がりっぱなしだった反動でも来たのだろう。

 

『……!? マスター!』

 

『あ?どうした青子』

 

『ジョウントが……閉じます!』

 

『何ッ!?』

 

バチバチバチバチ……!

 

 青子に言われて、真下に広がる超巨大ジョウントへと目をやった。すると青子の言う通りに、ジョウントは徐々に輪を縮めている。

 

 そこで真はカエルム・スカラムこそが、ジョウントの発生源である事を思い出した。だがカエルム・スカラムは宇宙の塵……。そうなれば、2度とジョウントが開く事は無くなる。

 

「ソル!」

 

「……先ほどからハイパークロックアップを使おうとしている!」

 

「なんだそのちょっと引っかかる言い方は!?ええい……ハイパークロックアップ!」

 

『―ERROR―』

 

「ハァ!?エラーっておい!」

 

 ハイパーゼクターのクラップスイッチを叩いた真だったが、ハイパーセンサーにエラーの表示が。恐らくではあるが……第4フェーズとは、常時ハイパークロックアップの状態と同等だったのであろう。

 

 それにプラスして、真達自身がタキオンを自在に操作……。結果ハイパークロックアップを発動させるだけのタキオンが、もう残されていないのだろう。

 

「「…………」」

 

「マ、マジでどうすりゃ良いんだ!?」

 

「カブトもガタックも……宇宙空間では推進力が無ければ前にすらすすめんぞ」

 

 先ほどまでは、タキオンブースターのおかげで移動も自由自在だった。しかしハイパークロックアップが使えないとなると、タキオンブースターも同じく使えないのだ。

 

 この状況……完全に詰みである。そうして議論している間も、見る見るジョウントは閉じていく。もはや考えている暇も無かった……その時。

 

『マスター!エクステンダーがこちらに!』

 

「あっ!普通に忘れてた!?」

 

「急に大きな声を出すな……!驚くだろう……がっ!?」

 

 ソルやデウス・エクス・マキナと戦ったせいか、真はエクステンダーに乗ってここまで来たのを忘れていたのだった。カエルム・スカラムが爆破しても無事と言う事は、どうやら自力で脱出していたらしい。

 

 エクステンダーは話している最中だった真とソルを強靭な顎で挟み込むと、真っ逆さまにジョウント目がけて突っ込んで行く。

 

「おい……挟む力が強くないか……!?」

 

「あん!?こいつなりの配慮だよ!……多分だけど」

 

 2人が挟まれているのは、腰辺りだ。しかし……嫌にギリギリと音が立つ上に、微妙にだが火花も出ている。これにソルは苦言を呈したが、真は投げやりに答えた。

 

 そしてトップスピードのエクステンダーは、本当にギリギリでジョウントを通過した。そして2人を待っているのは、何処までも広がる青い空……ではなく、何故か地上であった。

 

「うそぉん!?ブッ!」

 

「…………無様な事だ……」

 

 エクステンダーは急には止まらずに、顎の先端を地面へと突き刺す。その反動で顎から抜け落ちた2人は、ビタァン!と地面へ叩きつけられた。

 

 地上が現れた理由としては、束が座標を変えたからであった。その方が2人も帰って来やすいだろうと、主に親切心であったのだが……結果的に有難迷惑になってしまう。

 

「あ~あ~……俺ら型の窪みができちまったよ……。ってか、何処だここ?」

 

「どうやら……IS学園の様だな」

 

 突き刺さったエクステンダーは、後で引っこ抜いてやることにして……真とソルは、ノロノロと立ち上がった。激突のせいか視界が少しぼやけている真は、自分達の降り立った場所がいまいち把握できない。

 

 復帰の速さが売りのソルは、瞬時にここがIS学園であると理解した。そう言われてもう1度真が周囲を見渡すと、そこは皆と飛び去った地点だ。

 

「マジかよ……まぁた学園の敷地内を荒らしちまったぜ……」

 

「前回は、オレと戦った時だろう?」

 

「そうだよ、クソ野郎!派手にバウンドしてくれやがって!」

 

 かくいうキャノンボール・ファストの際に、2人が戦闘を行った時の事だ。真はソルにライダーキックの2連撃を喰らわせ……ソルは盛大に吹き飛び地面をバウンドしていった。

 

 その後すぐに真は失踪したのだが、学園に復帰すると……修繕費を要求されたとか。わざとそれを引き合いに出したソルに、真はウガーッと怒りをぶつける。

 

「オレを吹き飛ばした貴様が悪いのではないか」

 

「そもそも攻め込んで来たのはテメェらだろうが!」

 

「フッ……それもそうだったな。では……テロリストは消えるとしよう」

 

「……もう……行くんだな」

 

 ソルは少し楽しそうに笑うと、キュッと振り返って真に背を向けた。急に雰囲気をシリアスな物へと変えた真がそう呟くと、ソルは思わず足を止める。

 

 真に背中を見せたまま、しばらく口を開かない。真もそれを黙って見つめる。お互いに、言いたい事は山ほどあった。しかしここで言葉が出ないのは、間違いなく2人の性分であろう。

 

「お前らが望むんならよ……ここに残るのも選択肢の1つだろ」

 

「それはできんさ……。貴様らは光……そしてオレ達は、影だ。光と影は……相容れん」

 

「…………。なら、忘れんな。光と影は、切っても切り離せない関係だってな」

 

「…………ああ、覚えておこう」

 

 頭部にはカブトのアーマーがあるというのに、ソルはポリポリと頬を掻くような仕草を見せた。きっと真の言葉が嬉しいと同時に、なんだか照れ臭いのだろう。

 

 名残惜しくなるとでも思っているのか、ソルはそれだけ言うと決して振り返らずに歩を進める。それは何処か、影として生きる覚悟でも決まったとでも言いたげだ。

 

「またな、兄弟!」

 

「フッ、いずれまた……。兄弟!」

 

 少し遠く離れたソルに、真は『兄弟』と呼び掛けた。止まる事のなかったソルは、思わず今1度足を止める。そして今度はしっかりと真を正面で捉え、同じく真を『兄弟』と呼んだ。

 

 2人は短くはあるが、再会の誓いを交わす。もうこれ以上は、2人の間に言葉は必要ない。ソルは再び歩き出すと、身を屈めてその場で思いきりジャンプした。

 

 その勢いでカブトは宙へ浮き、飛行の体勢に入る。向かった先が校舎方面だったので、恐らくサイレント・ゼフィルスの反応がある方へ飛んだのだろう。真はソルの飛び立った方向を、穏やかな表情で見つめた。

**********

「…………遅いぞ」

 

「…………済まない」

 

 保健室の窓から、カブトを纏ったソルが顔を出した。マドカは、窓から飛び出してソルへと抱きつく。そんなマドカをしっかりと抱き止めたソルは、心底から済まなそうにマドカへ謝る。

 

 その済まないという言葉には、様々な意味が込められていた。しかし……謝るだけでは伝わらない。ソルはマドカを地面へと降ろすと、しっかりと言葉を紡いだ。

 

「マドカ……オレが間違っていた。言葉にせずとも問題は無いと、そう……思っていた」

 

「ソル……」

 

「結果……オレがお前を壊した。マドカ……だからどうか、オレに償いをさせてくれ」

 

「償い……?私は…………お前が居てくれればそれで良い」

 

 マドカは随分と落ち着いたのか、いつもと変わらぬ様子でソルと会話を続ける。ひとまずソルは、その事に内心でホッと息をついていた。そしてマドカに、ずっと伝えたかった想いを口にする。

 

 マドカからすれば検討違いも甚だしいが、ソルはどうやら、そうでもしなければ収まりが付かない様だ。マドカの言葉に同調しつつも、更に続ける。

 

「そうだ……オレは、もうお前を離さない。何処へもやらないし……オレも何処へも行かない」

 

「…………」

 

「だからどうか……オレと一緒に生きて欲しい。オレには……マドカが必要だ」

 

 そう言いながらソルは、マドカへと手を差し伸べた。どうして良いか解らなかったマドカだったが、ソルの方へ恐る恐る手を近づける。マドカの手は、わずかに震えていた。

 

 それを察したソルは、自分からマドカの手を取り優しく引いた。そして今度は、壊れ物の様にマドカを抱き寄せる。ソルの腕の中でマドカは涙を流す。

 

「私が……これ程に幸せで良いのだろうか……?」

 

「勿論だ。オレ達の様な者でも……そのくらいの権利を求めて何が悪い」

 

「…………ソルの隣こそが、私の生きる道だ」

 

「そうか、ありがとう……マドカ」

 

 2人はようやくして、共に生きていく事を誓いあった。ソルは、自身の胸につかえていたわだかまりが消え失せるのを感じる。それと入れ替わるかの様に、胸一杯に温かみが芽生えた。

 

 ソルにとって初めて感じるであろう……『幸せ』という感覚だ。あの時にマドカを独占しようとした感覚とは、少し違って……どこか切ない。

 

「……とは言え、これからどうするべきか」

 

「旅でも出るか?」

 

「似たような事にはなるだろうな……」

 

 今の2人は亡国を抜けたも同然……言わば裏切り者だ。スコールが居なくなったとは言え、まだまだ残党はウジャウジャと居るだろう。

 

 その中の1人が、次なるリーダーになる可能性も考えられる。となれば……2人は、亡国に追われる立場となるはず。世界規模の組織を相手に、逃げ切れる望みは薄い。

 

「HEY!そこの若いお二人~。行き場にお困りかな?」

 

「……篠ノ之 束。オレ達に、何の用事だ?」

 

「ま~ま~、そんなに警戒しないで……。話だけでも聞く価値はあるはずだよ」

 

 突然2人の背後に、束が現れた。気配はソルですから感知が出来ずに、何者だと思わせるほどだ。もちろんソルは警戒を怠らずに、自分の背後にマドカを隠した。

 

 そんなソルに対して、束は少し距離を置いて見せる。自分達をどうこうする気は無いらしい……。そう判断したソルだが、マドカを背後に隠したままで束に問うた。

 

「何か……オレ達に提案でもあると言うのか」

 

「そうそう、率直に言うけどさ……君ら、私と一緒に来ない?」

 

「……オレは、貴様の正気を疑うぞ」

 

「アッハッハ!束さんが正気だったら、白式とか紅椿は造らないよ!」

 

 ソルの返しに、束は『やだな~も~』とか言いながらケタケタ笑う。束の台詞はごもっとも……。そもそも狂気が正常なのが、篠ノ之 束と言う女であった。

 

 だからと言って、ついさっきまで世界の敵だった2人を勧誘するだろうか?世界を救ったのもソルだが、やはり普通の流れからすれば違和感を感じる。

 

「まぁそれは別の話としてさ、君らにはメリットしかない話じゃないかな?」

 

「それは……言えているな。だが……見返りは何だ?」

 

「束さんのやるべき事を、手伝ってもらおうかと思って。私達みたいな日陰者に向いてる事だよ」

 

「……もう人は殺さんぞ、と言うよりは……殺せないだろうな」

 

「ソル……」

 

 束の含みを持たせたいい方に、ソルは思わず『そっち』方面へと思考回路を働かせた。人はもう殺せない……と言うのは、大切な物が出来たからだろう。

 

 ソルは、後ろへと隠しているマドカの手を取った。それはソルの不安の表れだ。マドカは何も言わずに、ソルの手を両手で包み込む。

 

「うん?別に殺さなくても良いよ。って言うか、殺さずに捕獲してほしいし」

 

「捕獲……?お前は私達に、何をさせるつもりなんだ?」

 

「亡霊狩り……。つまり、亡国の残党を壊滅させたいんだよ。それに君らの力を借りたい……ってこと」

 

 束の言葉に、ソルはピクリと反応を示した。確かにそれならば、ソル達に得はあっても損は無い。追われる立場であるが、束について行けばその問題は解決される。

 

 その上で、自らの力で亡国を壊滅へと導けるのだから。しかし……それでもソルは、慎重派だ。二つ返事でイエスとは言えない。

 

「亡霊狩り……大いに結構。しかしだ……何のつもりで貴様はそれをする?」

 

「別に?私はいつも正しいと思った事をやってるだけだよ、それだけ」

 

「……なるほど。……少しマドカと話させてくれ」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

 あっけらかんと、自信満々にそう言い切る束に、ソルは数瞬だけ思考がフリーズした。冷静になって束の言葉を脳内で復唱すると、今度は何故か笑えてくる。

 

 この時点で、ソルの腹は決まっていた。しかし……自分1人が答えを出すのは違うのだろう。ソルはマドカの方へと振り返ると、相談を始める。

 

「マドカ、オレはこの話に乗るべきだと思う。しかし……お前を、戦わせたくないと思うオレも居る」

 

「…………貴様、弱くなったか?何年戦い続けた人生だと思っている。それが少しばかり、伸びるだけの話だ」

 

「……永遠に、安寧なんぞは無いかもしれんぞ?」

 

「ソルが隣に居れば……私にとってそれは安寧だ。……ソルは、違うのか?」

 

「いや……違わない。そうだな……マドカの言う通りだ」

 

 マドカの覚悟なんてものは、もうとっくに決まっていた。自身の考えは、それを否定していたような物だとソルは間違いに気づかされる。

 

 そうしてマドカの頭を撫でると、束の方へとズンズンと歩を進める。待つとは言ったが、束はそろそろ飽きてきたころだった。そうしてソルは、束に頭を下げる。

 

「貴様の厚意に、甘えさせてもらおう」

 

「貴様の使いどころ間違ってない?別にいいけど……。ま!交渉成立って事で……その座標に来てね、後で迎えに行ってあげる」

 

「了解した」

 

「ん。それじゃ……ま~たね~!」

 

 まるで子供番組の様なノリで、束はどこかへと歩き去っていった。その背を眺め終わったソルは、カブトのハイパーセンサーへ表示されている座標に目をやる。

 

 そこは富士の樹海の真っただ中だった。確かにそこであれば、人に悟られることは無いだろうが……。年間に何人もの行方不明者が出る場所を指定するとは……流石束である。

 

「マドカ、行くぞ」

 

「サイレント・ゼフィルスは、零落白夜を喰らったんだぞ。誰かさんのせいでな」

 

「……そうだったな。では……こうしよう」

 

「むっ……!ま、まぁ……なら……許す……」

 

 皮肉たっぷりにソルへそう言うマドカは、どこかいたずらっぽい。恐らくわざとそう言っているのだろうが、些かソルには気まずい言葉だ。

 

 するとソルには、いい案が浮かんだ。それは……いつものように強硬手段だ。ソルはマドカをお姫様抱っこで抱え上げると、そのまま飛行を開始した。たいていマドカは暴れるのだが、今回は借りてきた猫の様な感じだ。

 

「マドカ」

 

「な、何だ……?」

 

「愛している」

 

「~~~~っ!?」

 

「おい……待て馬鹿!そこで蹴る奴があるか!?」

 

「だっ、黙れ!お前が……急にそんな……そんな……!」

 

 不意打ち気味に放たれたソルの言葉に、マドカは顔を真っ赤にしながらガンガンとソルの頭部を蹴る。まさか蹴られるとは思ってもみなかったソルは、声を大にして抗議した。

 

 しかしマドカはズビシ!とソルを指差して、反論しようとする……。だが『愛してるなんて言うから』と言い切れないのだろう。マドカは顔を両手で隠しながら、やはりガンガンとソルの顔を蹴り続けた。

 

 この2人は、きっとこれで良いのだろう。今の2人には、テロリストであった影などは微塵も感じられない。そうして新たな一歩を踏み出した2人の人生は、こうして幕を上げた……。

**********

「行ったか……」

 

 真の前から飛び去ったソルは、もう見えなくなってしまった。なんとなく真は、これまでの事を思い出す。右手を貫かれた相手と、良くあれほど仲良くできたものだと自分でも感心していた。

 

 ふと真は、ガタックを解除して右手の手袋を外す。そこには一生消える事の無い生々しい傷痕が……。この事に関しては、やはりソルは許せない。それでも……真の全てはこの傷から始まったのだ。

 

「約束……守れよバカヤロー」

 

「おーい!」

 

「ん?おう!帰って来たぜ!」

 

 感傷に浸っていると、遠くから声が聞こえた。上空を見上げると、そこで飛んでいるのは一夏達だ。束にここに居る事を教えてもらって、文字通り飛んで来たのだろう。

 

 真は空の皆に向かって、ブンブンと両腕を振った。最後の脱出もどこかギリギリだったせいか、皆は一安心したかの様な表情を浮かべた。

 

「よしっ……皆!急ごうぜ!」

 

「ちょっと待たんか、嫁よ……」

 

「う、うぉ!?う……動かない……」

 

「まず簪を行かせてあげようよ……」

 

 スピードを上げようとした一夏を、ラウラがシュバルツェア・レーゲンのAICで止めた。気持ちは解るが、誰よりも真を待っていたのは簪だ。

 

 どちらにせよ簪は、もうとっくに真の元へと向かっている。一夏達は、数メートル退いた所に降り立って2人の様子を見守る事にした。一方の簪はと言うと……。

 

「真……!」

 

「ちょっ……待て待て!落ち着け簪!じゃないと俺が死……ギャアアアア!?」

 

 よほど真の無事が嬉しかったのか、簪は真に飛び付く寸前まで打鉄弐式を展開したままだった。生身の状態でISが迫って来るのは、恐怖しか覚えない。

 

 一応は理性が働いているのか、寸前で解除はしたのだ……。しかし既にスピードのおかげで、簪は人間ロケットに等しい。いくら真でも受け止め切れず……簪を受け止めつつ吹き飛ばされた。

 

「簪……大丈夫……んむっ!?」

 

「あらあら、簪ちゃん……大胆になっちゃって♪」

 

「み、見て良いものなのでしょうか……?」

 

「別に良いじゃん。真をからかうネタが出来たわ」

 

 真が簪の安否を確認しようとしたが、その言葉は簪の唇に塞がれて喋れない。その他のメンバーが見守っている最中の……かなりディープなやつである。

 

 しばらくは焦っていた真だったが、なんかもうどうでもいいや……と、その内に自分からリードを始める。そのまま長い間そのままだったが、満足したのか簪は真から離れた。

 

「…………おかえりなさい」

 

「ああ……ただいま」

 

 簪は、目に涙を浮かべながら……ただ一言で真を迎える。他にも色々と、言いたい事はあっただろう。でも……それでも良い。ただ……真が帰って来たのだから。

 

 真も簪の言葉に一言で返すと、その場から立ち上がった。このタイミングならと、残った7人も真へと駆け寄る。いつもの通りに騒がしく、真へと称賛を送った。

 

「一時はどうなるかと思ったが……良くやったな、真」

 

「ヘヘッ、俺は信じてたぞ……相棒!」

 

「学園のツンデレ王子から、世界を救った英雄だね!」

 

「何それ、初めて呼ばれたけど!?シャルロット、お前本当は悪気でも……」

 

 真を取り囲む皆は、いつしかとことんに真をからかい始めた。ボケよりもツッコミの傾向が強い真は、大量の冗談を1人で捌いてゆく。

 

 口ではギャーギャー言いながらも、真は嬉しかったのだ。当たり前の様に、こうしていられる事が……。それは皆も同じで、だからこそいつも以上に真をからかう。しかしその騒がしさは、一瞬にして静まり返る事となる。

 

『楽しそうだな、お前達……?』

 

「ち、千冬姉!?」

 

『良くやった……と、言いたい所だか……それはそれ、これはこれだ。全員1分以内に私の元へ来い……以上』

 

「…………急げええええっ!」

 

 千冬からの通信が終わると、9人は別の何かが終わったかの様な表情を見せる。そして全員が全員しばらく無言になると、真が腹から声を出して移動を促す。

 

 すると他の8人も、慌てて自身の専用機を学園の方へ向けて飛ばす。真なんかは、エクステンダーを刺さったまま放置している。それほどに、千冬が恐ろしい存在だという事なのだろう……。

**********

「はぁ……ようやく放課後か……」

 

 あれからと言うもの……命令違反に関して、こっぴとく俺達は叱られた。まぁ……国際会議の結果に違反した訳で、当然と言えば当然だ。

 

 でもこちとら、世界を救った英雄ですぜ?ちょっとくらい容赦してくれても良いじゃない。そりゃ誉められたりもしたけどさ……ほんの爪の甘皮程度みたいもんだ。

 

 それで、俺達の処遇はって?それがな……ほぼ不問になりそうだ。なんでも拘束中のオータムが、いわゆる司法取引みたいなのに応じたらしい。

 

 亡国が不利になる証言をしてもらう肩代わりに、それ相応の対応をオータムに取る事で合意したそうな。これで俺達に、責任が向けられる事はなくなるだろう……って織斑先生が言ってた。

 

 まぁ委員会からの事情聴取は免れない……とも言っていたが、下手な発言さえしなければ問題ないはず。若干だけど一夏あたりは心配だけどな……口を滑らせなければ良いが。

 

「真……」

 

「簪……?俺の居場所、誰かに聞いたのか?」

 

「真は……何かある度に……屋上に居るから……」

 

「そ、そうだっけか……?」

 

 放課後の屋上で黄昏ていると、簪が現れた。誰にも何も言わずにここまで来たのだが、どうやら簪は俺の習性を見抜いていたようだ。割りと単純なルーチンをしているな、俺……。

 

 とにかく、簪がわざわざ訪ねて来てくれたのだ……もっと真剣にしなくては。俺は片手で軽く手招きをすると、簪は俺の隣までやって来る。そして俺は、しっかりと簪の手を取った。

 

「どうかしたのか?」

 

「うん……少し……心配で……」

 

「心配って……なんかあったかな」

 

「皆の……真を見る目が……違うから……」

 

 な、なるほど……そういう事だったか。確かに俺自身も、皆の視線に苦労した1日だった。なんかこう……尊敬の眼差しと言うか……。あれだけ盛り上げたしなぁ……。

 

 今となっては、少し調子に乗っていたかも知れん。でも皆の声が力になったのは、また確かだし……。あ、そういや……なんか告白もされた様な気もする。

 

「大丈夫だよ。周りの視線が変わった所で……俺の視界が変わらねぇから」

 

「…………?どういう意味……?」

 

「俺の目には、簪しか映らないって事だよ」

 

「え……えへへへ……。嬉しい……」

 

 簪はそう言いながら、顔を紅くして俺を見上げる。その様が可愛らし過ぎて我慢出来なくなった俺は、簪の唇を奪う。さっきのお返しも含めてはいるけど……。

 

 それでも……やはりこうしていると、帰って来たんだなって改めて思い知らされる。……簪が居てくれて、本当に良かった。いつも……俺の居場所でいてくれて。

 

「全部……終わったんだよね……」

 

「ん……それもそうだけど、まだまだこれから……だとも思うぞ」

 

「矛盾……してる……」

 

「ハハハ……本当にな。ん~……何て言ったら良いんだろうか」

 

 すぐさま簪に指摘を受けて、俺は思わず苦笑いをしてしまう。自分でも説明が難しいんだよな……。とりあえず一言二言では済まないだろうから、俺はゆっくりと語り出す。

 

「ほら……亡国とのいざこざは、ほぼ終わったと思うんだよ」

 

「じゃあ……何がこれから……?」

 

「俺達の世界……ってとこか」

 

「…………?」

 

 簪達は、神の言葉を聞いていなかったらしい。でも聞いた俺からすれば、やはり完全に否定出来ない部分だってあった。それを受け入れる気はないが、真剣に考えるべきだとは思う。

 

 だから少しだけ、考えて……俺なりに辿り着いた答えがある。それが……俺達人間も、俺達の世界も……まだまだこれから……だ。俺は、その考えを簪に伝える。

 

「私達も……世界も……?」

 

「ああ、やっぱさ……人間って簡単に諦めたりしたらだめだと思うし、周りも諦めた奴を放っておいたらいけねぇんじゃねぇかなって」

 

「うん……何となくだけど……解るよ」

 

「そうか?まぁだからって……世界人類全てが仲良く、なんて大それた事を言う気もないんだけどな」

 

 やっぱり人種が違えば、主義主張も異なる。それこそ日本人同士だって、意見の食い違いなんて当たり前なのだから……。でもそれで良いじゃん、それこそが人間って生き物だ。

 

「だからさ……少しでも良いんだ。俺達が遠い誰かに手を差し伸べるんじゃなくて……その人の周りの連中が、手を引っ張って……応援してやれる」

 

「…………真……」

 

「そういう世界へ近付けて行けるように……俺は未来を繋いで行きたい!だってこの世界はさ、そういう可能性で溢れ返っているんだからよ!」

 

 それこそアレだよ、俺が変われたのとかも……可能性の1つだ。皆が手を引っ張ってくれたから、今の俺はここにある。ほら、俺の言った通りにじゃね?

 

 諦めるよりは、賭けてみる方がよっぽど良い。人の可能性を信じる……この想いを未来へ繋いで行ければ、少しはマシな世界に出来るんじゃないかって……。それを、神との戦いで思った。

 

「……だからな、簪……改めて言わせて欲しい」

 

「どうかしたの……?」

 

「俺の繋いで行く未来を……一緒に見てくれ。勿論、俺の隣で……ずっとな」

 

「…………っ!うん……うん……!私の未来も……真と一緒に……」

 

「ああ、何処までも連れていく。簪と一緒なら……何処までも行けるから」

 

 俺が真剣な眼差しでそう言うと、簪は俺の胸へと飛び込んで来た。そして俺は、簪を痛いくらいに抱き締める。あぁ……本当に、何処までも行けるって気がしてくるよ……。

 

 どうやら……俺の繋いで行きたい未来を形にするには、簪の力が必要不可欠のようだ。事実……今日も簪の声が、一番俺の力となったしな。

 

「簪……大好きだ」

 

「私も……大好きだよ……真……」

 

 今度の俺と簪は、どちらでもなく唇を重ねた。少し早いかも知れないが、俺はこのキスに誓う。簪を愛し……守り……簪の隣に居る事を。

 

 俺はまだ見えぬが、明るく光輝いているであろう……簪との未来へ想いを馳せる。そう……俺の未来は、何時までも何処までも……簪と共に……。

 

 

 




もうちょっとだけ続くんじゃ。

今回は基本的に、カップルがイチャイチャするだけの簡単な内容になっちまいました。まぁ……なんだ、真になんか良い事を言わせたかったのもありますけど。

成長を1つのテーマとしてお送りしてきましたが、真の出した結論は人間の可能性に終わりはない……ですね。

私としても、一章付近の真が……こんな事を言うふうになって、テーマに添えた作品にはなったかなと、自己満足しております。

ですが、そこは真を見習いまして……これからも精進してまいりたいと思っています。人生これ、全て修行なり……です!

……と、いう訳でして。次回の126話を持ちまして、この『戦いの神(笑)ですが何か?』は……堂々の最・終・回!でございます!

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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