戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

今回……前置きが長げぇぇぇぇ……!私の固有スキルである『説明下手くそ』が見事に発動いたしまして、大半が説明回となっています。

つーか、説明で大部分持って行かれてるくせに解りにくいっていうね……。まぁ……なんとな~く、ぼんや~りと理解していただければ……。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


機械仕掛けの神(降臨)ですが何か?

 全てを無に。真の目の前に居る神は、余りにも無邪気な様子でそう言った。そう聞かされて、真の頭を過るのは……そんな事の為に、自分は今ここに居るのか?……だ。

 

 自分の背負った物の重さに耐えかねて、神を呪った事もあった。だが……それでも良き仲間に巡り合えたのも神のおかげだ。人間的に成長を実感すると共に、転生のチャンスを与えてくれた神に最終的には感謝した。それなのに……。

 

「全てって……どの辺の範疇までだ?」

 

「話せば長いのですが、簡単に言えば……生きとし生ける物ですかね」

 

「っ!?ふざけんな!なんでだよ……アンタがなんでそんな簡単に、そんな事を言い切れるんだよ!?」

 

「う~ん……そうですね。やはりこちらも、順を追って説明しましょう」

 

 生命を消滅させるのが目的である。そう語った途端に憤る真に、神は非常に困った様な表情を浮かべた。答えだけを言うから真は憤るのだと、とにかく自分の目的の全容を離そうと思ったらしい。

 

 とは言え、何処から話すべきか悩んでいるようだ。こめかみを指先でトントンと叩きつつ、神は考えを巡らせる。しばらく待つと、やがて神は口を開いた。

 

「仕事と言うのは嘘と言いましたが、元はと言えば私は……良かれと思って救われぬ魂を転生させていました」

 

「つまりは、慈善事業とでも言いたいのか?ハッ、泣かせるね」

 

「えぇ、かれこれどのくらいになるでしょうか……。私にとって時間と言う概念は、あって無い様なものですので」

 

 今度の神の言葉に、偽りはないという印象を真は受けた。語りだした神の表情は、どこか昔を懐かしむような表情をしていた。きっと、悠久の時を生きてきたのだろう。

 

 いや……生きてきたと言う概念も存在はしないのだろうが、この際それは置いておこう。しかし神のこの口ぶりは、何処か引っかかる。まるで最近は、別の理由があって転生をさせたかのような言い方だ。

 

「私はね……何も可哀想だなと思ってそんな事をしていた訳では無いんです。ただ……人と言う生き物の可能性を、そこで断つのは勿体ない……そう思っていました」

 

「……過去形なのが気になるんですけどね」

 

「フフフ……そうですね。転生させた後も多くの人を見守って来ましたが……失望の一言です」

 

「失望……だと?」

 

「近年は特にそうですね。やれハーレム……やれチート……全てが全てそうだとは言いませんが」

 

 そう言い始めた神は、腕を組んで眉間に皺を寄せている。まるでその様子は、思い出したくない物でも頭が過った感じに見える。

 

「いわゆる特典と言う奴なのですけどね……。とにかく異性にモテたいだとか、世界のパワーバランスを壊しかねない能力を得たいだとか……。多くの人間が、自身の我欲がための力を求めてきました」

 

「それで失望……?ちょっと待てよ!間違いなく善人だっていたはずだ!」

 

「確かにそれはそうですが、そう言った人間が……人類の何割に相当すると思いますか?」

 

「…………」

 

 神の言葉に、真は言い淀んでしまった。そしてその上でこう思ってしまったのだ……恐らく、5割を切ると。人類という大前提がある以上……それは最低でも過半数の人間が神の御眼鏡にかなわないと言う事になる。

 

 確かにその言葉には、否定できない所はある。人には完全な善人などは居ないだろう。誰しもが腹に一物を抱えて生きている。

 

「だ、けど……だからって!」

 

「だからと言って、全てを無に帰すのは間違っている……ですか?それは、単なる道徳心がそう思わせるだけですよ」

 

「…………!」

 

「それこそ貴方の何万倍もの年月を生きて来たのですから、私の言う事の方が信憑性があると思いますけどね」

 

 実際は、何万倍では済まされないのだろう……。神はそれだけの年月に、それだけの人間を見て来たのだ。つまりはその大半が、既に己が我欲に走る人間……だったのかもしれない。

 

 そう考えると、神が人間に失望するのも一概に否定できない。人の心から湧き出る欲望は、それほどにまで醜かったのだろうか?

 

「だから……どうせ消すならもう全て、それが手っ取り早いでしょう?」

 

「クッソ……んな事させるか!この世界を、消させたりなんか絶対にしねぇ!」

 

「『この世界』……ですか。私の計画は、そこまでスケールの小さい話ではないのですがね」

 

 真は道徳心がどうのこうのと、難しい事は考えるのは止めた。とにかく、自分が許せないと思ったなら止めなければならない!

 

 そうやってまたしても、全身に力を入れてコードを引きちぎろうとする。しかし……神はこの世界という言葉に反応して、何処か楽しそうな表情を見せる。

 

「私が消そうとしてるのは、貴方が元々生きていた世界です」

 

「俺の前世の……?そんなの消して、一体何に……」

 

「では質問です。貴方の今生きている『此処』は、何の世界でしょうか?」

 

「……インフィニット・ストラトス」

 

「はい正解です。良くできました」

 

 真の前世と言えば、ごく当たり前で……現実の蔓延る地球である。神は、そこのみを消す事が目的であると言った。困惑する真に対して、神は意図が良く解からない質問をする。

 

 ここは間違いなく、インフィニット・ストラトスの世界である。真がそう答えると、神はまるで子供でも褒めるかのような口調で言った。

 

「つまりこの世界を構成している物は、大きく元を辿れば創作物であります」

 

「だから……それとこれに何の関係があるんだよ」

 

「創作物であると言う事は、創造主が存在すると言う事……とまで言えば解って頂けますかね?」

 

「…………。まさか……!?創造主の住んでる世界を消せば、自動的に創造物の世界も……!」

 

「はいその通り、またまた正解……お見事です」

 

 真の生きている今は、確かに真の現実だ。しかし……その元となった『インフィニット・ストラトス』というライトノベルが存在し、それを書いている人物がいる。

 

 この人物が消滅した場合……その人物に『創造』された物事は、存在していられなくなる。つまり全てを無に帰すとは……現実世界を消滅させる事により、ありとあらゆる次元の世界おも消してしまおうという魂胆らしい。

 

「くっ……じゃあなんで俺や他の奴に転生をさせた!?」

 

「良い質問ですね。私は現実世界を消そうと画策しましたが、大きな問題がありました」

 

「大きな問題……?」

 

「それは、私が現実世界へ干渉できないという点です」

 

 真にとって、そこは疑問であった。なぜ現実世界消滅を思い立った時点で、転生させる行為を止めなかったのか……。そして神は語る……現実世界への干渉は不可であると。

 

 どうやら神は、こうして創作物の世界にしか干渉する事ができないらしい。もし現実世界へ直接手を下す事が出来るとすれば、確かにすぐに実行すれば良い話だ。しかしまだ、転生させた疑問は残る。

 

「私は、私の器を探していました。次元の壁を突き破り、現実世界へと干渉できるような……そんな大器を」

 

「器……って事は、憑依対称を……?」

 

「その通りです。しかしこれが主に2つの訳で大変でしたよ」

 

 1つ目の理由としては、神が自分にふさわしいと思った人物が現れない事。神が人間に失望した要因と、単純に神の元へと辿り着けない場合があるらしい。

 

 つまり他の転生者は、様々な要因で死亡しているという事らしい。例えば、最強を願って自分ごと世界を滅ぼした者……ハーレムを願って女性に刺された者など理由は多岐に渡るようだ。

 

「彼らは勘違いしていたのでしょう……自分が特別であると」

 

「…………」

 

「ですが、世の中そう旨い話は無いという事です」

 

 どうやら神が介入せずとも、世界はある程度のパワーバランスを保とうとする様にできているらしい。真のクロックアップを発動させた際のリスクが、これにあたるのかも知れない。

 

 その他の転生者等も、それ相応のリスクや得た力に対応するレベルの敵。その敵に倒されて死亡する者もいたとか……。そうして神は、再び続けた。

 

「私が意図的に試練を与えたりもしましたけどね」

 

「試練……。今まで起きた事件か?」

 

「原作で起きる事件等は、余程の事がない限りは当たり前に発生します。貴方に与えた試練は……そこで寝ている彼です」

 

「ソルと戦って……勝つこと?」

 

 神は倒れたままのソルを指差して、真にそう告げた。ソルが試練となれば、勝つ事の他に無いだろう。真はなぜ神がソルをぞんざいに扱うかが、理解できてしまった。

 

 それは既に、ソルが用済みであると言いたいに違いない。真の読みは正解だ。神はソルの事を、真の踏み台程度にしか考えていなかった。それもこれも真が成長するため……。

 

「貴方は素晴らしい!あの絶望の最中に光を見出だし、進化を迎え……そして彼を打ち倒しました」

 

「それは、俺1人の力じゃねぇ!」

 

「ん~……確かにそうかも知れません。ですがあくまで必要なのは、貴方の力のみですので」

 

(クソが、全然話が通じねぇ……!)

 

 真は神の『それはそれ、これはこれ』的な割り切った考え方に、どうしようもなさを感じた。これでは聞き耳を持っていないのと同じなのだから、真がそう感じるのも当たり前だ。

 

 やはり神は、倒さなくてはならない。だが拘束されたままでは、戦闘どころの話では無いだろう。だからこそ真は、じっと耐えつつ神と会話をしてチャンスを待つ事にした。

 

「なんで、俺でないとダメなんだよ……!?」

 

「それが問題点その2です。いざ器にふさわしい人間が現れたとして、次元へ干渉する力を持っていなければなりません」

 

「次元へ……ジョウント……は、違うな。それならクロックアップ?」

 

「ええ、もっと言えば……タキオンを操作する力でしょうか」

 

 次元への干渉と言われて、真がピンと来たのはジョウントだった。しかしジョウントは、あくまで『この世界』を自由に行き来するワープ能力である。

 

 となれば、残っているのはクロックアップのみ。クロックアップとは、タキオン粒子を操作する事により時間流を遅くすることにある。

 

「俺の身体を使えば、タキオンが自在に操れるってか?」

 

「正確に言えば、あと一歩及ばずですけどね。貴方が最終フェーズへ入ってくれれば、話は速かったのですが」

 

「あぁ……?俺達の最終フェーズ?……まさか、完全なるタキオン操作とか言わないよな?」

 

「おや、良く解かりましたねぇ」

 

 神の口ぶりから推測はしたものの……真は半ば不正解であろうと思ってそう言った。しかし……神はそれを肯定した。それも随分と楽しそうに見える。

 

「ここを決戦の場として、彼と戦えば……扉は開かれると思ったのですけれど、何が悪かったのでしょうか?」

 

「……期待外れで悪ぅござんしたねぇ」

 

「ああ、いえいえ……決してそう言いたい訳ではありませんよ?言葉の綾です」

 

「ケッ!」

 

 困った様に何が悪かったのか……と、言いだす神に対して真は拗ねたような口調で返した。神にとっては素朴な疑問であって、何も真を責めようなんていう気はない。

 

 まるで唾でも吐いてきそうな真の態度に、神はあはは……と頬を掻く。こればっかりは流石に悪いと思ったらしい。そして神は、咳払いをしてから話を戻した。

 

「つまりは、タキオンを用いて時間流を突き破り……」

 

「後はジョウントと同じ要領で俺の前世へ……だろ?企画倒れで残念だったな!」

 

「今でも別に不可能では無いですけどね。貴方の身体さえあればの話ですけど」

 

(マジかよ……)

 

 てっきり自分が最終フェーズに入っていないために、神の計画は台無し……と真は思っていた。だからこそ自信たっぷりに、厭味ったらしく言ったのだが台無しである。

 

「それで、本題に入りましょうか。先ほども言いましたが、貴方は素晴らしいお人だ」

 

「…………」

 

「力に溺れず、努力を惜しまず、無力と向き合い……人間的にも大きな成長を遂げたと私は思います」

 

「…………」

 

「だからこそ私は、貴方に手荒な真似はしたくありません。ですから……私に協力するか、素直に体を明け渡して頂きたい」

 

 そう言う神の表情は、いつになく真剣なものとなった。この言い方はつまり……抵抗するならば、真を殺害して無理矢理にでも身体を奪いたくはない……そう言いたいのだろう。

 

 しかしどちらを選んでも、待っているのは消滅だ。半分一択であるこの質問に、真は思わず苦笑いを浮かべる。当然真の決断は……否定だ。

 

「……確かにアンタの言う通り、人間ってのは……救いようはねぇって思う時もあるよ。けどな……俺が変われたのは、救いようのない馬鹿共のおかげなんだよ……」

 

「…………」

 

「俺は……やっぱり簡単に滅ぼして良いモンだとは思えねぇよ。なんせ、こんなクソッタレが変われたんだぜ?」

 

「…………」

 

「チャンスなんて、何度でも与えりゃ良いだろ……。アンタがやってる事は、ただの諦めだ」

 

「…………」

 

「でも俺は、アンタが間違ってるとは言わねぇ。ただ俺は、俺の大切な人達を消させねぇ……。アンタブッ倒して、大切な人達を守りたい!アンタと戦う理由は、それだけあれば十分だ!」

 

「…………。そうですか、残念です」

 

ギリリリリリリ!

 

「ぐっ……おおおお!?」

 

 真に絡みついていたコードが、急激に締まりはじめた。ガタックの装甲越しとは言え、全身を締め付けられた真は苦しそうな呻き声を上げる。

 

 緩かった状態でもビクともしなかったのだ……今更真に、何が出来るはずも無い。このまま抵抗も出来ずに死ぬのか……?真が、そう思った時の事である。

 

「はあっ!」

 

ズバアッ!

 

「おや、もう動きますか」

 

 それまで倒れていたソルが、バッと起き上がったかと思ったらパーフェクトゼクターでコードを切り裂いた。コードから解放された真は、ゲホゲホとせき込みながらまじまじとソルを見る。

 

 そんな真に、ソルはじっと見ていないで立て……と言わんばかりに手を貸しつつ無理矢理立たせる。真は呼吸が落ち着いたのか、ソルに怒鳴るようにして質問した。

 

「お前、体は!?」

 

「少し寝て回復した。奴が貴様に攻撃の意思を見せた時点で、こちらも仕掛けようとタイミングを計っていたんだ」

 

「……どこから話しを聞いてたよ?」

 

「安心しろ、大半は全く理解が及ばん。とにかくだ……奴が良からぬ事をしようとしているのは伝わった」

 

 実のところソルは、かなり前から気絶から復帰していた。しかし前出の通りに、体力回復も兼ねてそのままになっていたのである。

 

 真は自身の異質性を悟られたのではないかと、心配そうな様子でソルに聞く。ソルは理解できないと言ったが、実際は真が何者であろうと関係ない……そう思っていた。だからこそ、スコールにパーフェクトゼクターを突きつける。

 

「貴方の目的は、彼の殺害ではありませんでしたか?」

 

「……この男は、生きる事がオレの罰だと言った。貴様が世界を無にすれば、それが実行できんだろう。……それだけの事だ」

 

「素直じゃないねぇ……」

 

「……貴様に言われたくはない」

 

 真はカエルム・スカラムの床に刺さりっぱなしだったロングカリバーを引き抜くと、ソルを少しばかり茶化しながら片手でバトンの様にブンブンと振り回す。

 

 そうしてソルの隣に並び立つと、同じくロングカリバーを神に向かって突きつけた。正面から見た構図を考えてか、利き手でもないのにわざわざ左手に持ってだ。

 

「つーわけで俺ら……」

 

「貴様と……徹底抗戦だ」

 

「…………。フッ……フフフフ……!了解しました。それなら私も……全力でお相手いたします」

 

 神は静かに笑うと、ISを展開して見せた。それはスコールの専用機でもある『ゴールデン・ドーン』だ。金色の輝き放つその機体は、まるで日輪を思わせる。

 

 ゴールデン・ドーンの恐ろしさは、ソルが良く知っている。真もソルも満身創痍……ガタックとカブトもほぼエネルギーが尽きている。この状況でどうすれば勝てるか……ソルが考察していると……。

 

ギャルルルル!!!!

 

「何ッ!?」

 

「カエルム・スカラムが、ゴールデン・ドーンへ融合している……のか?」

 

 神が機体をふわりと上昇させて、後ろの壁まで下がっていったと思ったら……またしてもカエルム・スカラムが、液体の様に流動し始めた。

 

 その流動した壁や床などは、まるでゴールデン・ドーンを包み込むかの様な動きを見せる。そしてやがて、それは何かの形を象りはじめた。

 

『……このカエルム・スカラムは特殊な金属で造られています。そして……それと同時に大量のISのコアが各所へと埋め込まれているのです』

 

「ソル!これは……」

 

「知らん!初耳だ!」

 

『つまり……イメージ次第で自由自在に操る事も可能。それが何を意味するか、解りますか?』

 

 やがてゴールデン・ドーンは、決戦場内の壁と完全に一体化した。そこから神の居る部分を起点として、胴体が壁からせり出すように現れる。

 

 そしてさらには、決戦場内の左右の壁から機械的な手が形成され……この光景はまるで、決戦場内そのものが、巨大なISにでもなったかのような感じだ。

 

『あえて言うなれば、私の専用機名は『カエルム・スカラム』という訳です。そしてついでに、私も名という物を名乗ってみましょうか』

 

「……やべぇな」

 

「喧嘩を売ったのはこちらだ、やるしかあるまい」

 

『そうですね、では……『デウス・エクス・マキナ』とでも名乗らせていただきましょう』

 

 デウス・エクス・マキナ……それは、機械仕掛けの神と言う事。この状態の神には、なんともふさわしい名だろう。あまり機械とは、形容しがたい見た目をしているが。

 

 普通のISならまだしも……真としてはコレは予想外。流石に頬をひきつらせながら、ロングカリバーを両肩に乗せデウス・エクス・マキナを見上げる。

 

 しかしソルの冷静な言葉で、目が覚めた。フッと息を吹くようにして吐くと、ロングカリバーを再度しっかりと構え直す。そして……覚悟を決めた様に目を見開く。

 

「よっしゃあ、行くぜソル!」

 

「ああ、くれぐれも足を引っ張る……」

 

ズドォン!

 

「…………。…………は?」

 

「ぐ……ぁ……!」

 

 全く持って、不可解な現象が起きた。話している最中に、ソルが『いつの間にか』巨大な手に遥か後方の壁へと押し付けられているのだ。

 

 ソルも全く同じ認識だった。『いつの間にか』自分が壁へと押さえつけられている。いくら腕の速度が速かったとしても……いつの間にかと言うには物理的に無理な距離だ。

 

 まるで映像をスキップしたかの様なこの感じ……2人には、嫌でも思い当たる節があった。数瞬だけだろうが、確実に今のはクロックアップだ。真はバッ!と振り返ってデウス・エクス・マキナを見る。

 

『貴方たち達の能力……第1から第3フェーズは、不完全ながらコピーさせて頂きました。そして、その先も再現しています』

 

「何だって!?」

 

『私も全知全能ではありませんが、その程度なら可能ですよ』

 

 確かに大量のコアを制御するとなれば、2人の第3フェーズであるコアシンクロは持ってこいの能力だろう。だとすると、流動したコードの束それぞれに対して1コアといったところか。

 

 しかもそれだけには留まらず……最終フェーズであるタキオン操作も不完全とは言え習得しているらしい。となれば、非常に不味い事だ。2人には、神に触れる事すらままならない。

 

『まあそれを抜きにしても……私には手が届かないでしょうけど』

 

ギュルルルル!

 

「これは……スターライトMk―Ⅲ!?」

 

「スターブレイカーもか……」

 

 カエルム・スカラムの床から無数のコードの束が伸びてきた。それらのコードは、形を変えて先端部當が2人の良く知っているレーザーライフルとなる。

 

 どうやらカエルム・スカラムは、ISであればコピーや再現が自由自在の様だ。驚く暇もなく、高火力レーザーの段幕という世にも恐ろしい攻撃が開始される。

 

ドガガガガガガ!!

 

「加賀美!」

 

「解ってるっての!」

 

 レーザーの雨を何とか掻い潜りつつ、真はロングカリバーへイオンブレードを纏わせる。有無もいわさず床スレスレで、平行にイオンエネルギーの斬撃を飛ばす。

 

 それはカエルム・スカラムのコードを根元から切り裂きいてゆく。これでコードは元の状態に戻った……が、やはり真とソルはいつの間にかレーザーを喰らっていた。

 

ズドォン!

 

「か……はっ!?」

 

「ぬお……おぉ……!」

 

 デウス・エクス・マキナが時間流を遅くし、2人がスローモーションの間に攻撃……。理屈は理解できても、攻撃されている間が認識できない。それ故に、全く防ぎようは無いのだ。

 

さっきまで取っていた行動がキャンセルされ、気づけば地に伏せている……。2人が味わっている感覚は、こんなところだ。もはや絶望的と言っても良い……しかし。

 

「ソ~ル~……まだ……やれるよな?」

 

「……誰に物を言っている。貴様よりは戦えるに決まっているだろうが」

 

『…………。諦めてはくれませんか?』

 

「「誰が!!」」

 

『……そうですか。では……もう容赦は無しです。私の目的の為に死んで下さい』

**********

 一夏達の見ていた映像は、真のハイパーキックによって吹き飛ばされたソルの衝撃のせいか途絶えてしまっていた。もっとも2人はクロックアップを使っていたので、認識は出来なかっただろうが。

 

 それこそ映像が突然に途絶えた様に見えるので、大慌てで束に復旧の催促を促した。いくら束が天才とは言え、ハッキングしていたカメラの調子が悪ければどうしようもない。

 

「まだなのか、束さん!」

 

『ちょっといっくん焦り過ぎ!もう少し……。よぉし!直ったよ!』

 

「!? 真とソルが……共闘しているのか?」

 

「だとすれば……『アレ』は、なんなのですか!?」

 

 再び映し出されたモニターには、デウス・エクス・マキナと戦う真とソルの姿だった。一部始終を見ていなければ、カエルム・スカラムを操っているなどと気づけるはずも無いだろう。

 

「ってか……一方的じゃないの……!」

 

「戦いなんて呼べないよ……」

 

 2人は終止デウス・エクス・マキナにいたぶられっぱなしだ。反撃なんて出来るハズもないのだ……。クロックアップだけならまだしも、圧倒的物量の差で更にそのチャンスは減っていく。

 

「…………!我々の武装をコピーしているのか……?」

 

「悪趣味ね。わざわざ弟くんの良く知っている武装で攻撃なんて……」

 

 カエルム・スカラムから伸びている武装は、先ほどからここにいる8人の専用機の物となっている。これを見ている一夏達からすれば、まるで自分が真を追い詰めている様な錯覚を感じた。

 

「なぁ……それもだけど、さっきから映像が飛び飛びじゃないか?」

 

『あ~……あんまり言いたく無いけど、多分それクロックアップだよ』

 

「ね、姉さん……今なんと!?」

 

『あの『IS』操縦者が、クロックアップを使ってる……んだと思う』

 

 一夏の疑問に、束は忌々しそうに答えた。それもそうだろう……この絶望的な映像を見ている皆に、追い討ちをかける様な言葉なのだから。

 

 見ている事しか出来ないこの状況を、誰しもが歯がゆく思った。しかし……そう考えている間にも真はデウス・エクス・マキナに追い詰められてゆく……。

 

「っ……!」

 

「!? 簪ちゃん、行っちゃダメ!」

 

「でも……!真が……殺されちゃう……!」

 

 流石にこの光景は見るに耐えなかったのか、簪はその場から飛び立とうとした。簪がピクリと動き始めた瞬間に、楯無が止めたおかげで未遂に終わる。

 

 しかし簪の言うことも、決して的を外してはいない。デウス・エクス・マキナは、間違いなく真を殺す気だ。どちらにせよこの場に留まるのならば、その瞬間を目撃する事になるだろう。

 

「私達が行っても……力になってあげられないわ」

 

「そうだ簪……むしろ戦友の枷になるハズだ」

 

「私は……見殺しになんか……!」

 

 もし簪がカエルム・スカラム内にたどり着けたとしよう……。恐らく真は、自分の事など省みずに簪のを守るだろう。それでは、状況は悪くなるだけだ。

 

 簪が取り乱しているのは解る……解るが、ここに居る全員は同じ気持ちなのである。たが……真を助けられないジレンマに、皆の雰囲気は最悪となってしまう。

 

『それでは、そろそろサヨウナラです』

 

『!? このコアシンクロとエネルギー反応は……!まさか……!?』

 

『フッ……これは……不味いな。ハハハ……逆に笑えて来たぞ……』

 

『マキシマムハイパーサイクロン♪』

 

ズドオオオオオオオオ!!!!

 

 簪の耳には、嫌に映像の音声が鮮明に聞こえた。そしてその目に映るのは、デウス・エクス・マキナの真達の身の丈ほどある両の掌から……マキシマムハイパーサイクロンが放たれる光景だった。

 

 もちろん2人は、擬似クロックアップのおかげでロクに反応出来ない。カブトのそれよりも威力の高い紅きエネルギー波は、真とソルを飲み込んだ……。

 

「あ……あぁ……!」

 

 やがて紅い光が終息し、更に皆の目へと飛び込んできた光景は……幾分か、耐え難い物であった……。それは、ガタックとカブトが解除された状態で……無造作に転がる真とソル……。次の瞬間……簪の悲鳴が木霊した。

 

「い……や……。嫌ああああ!!!!」

 

 

 




ソルと共闘!しかし……。

はい……という訳で始まりました。この小説における最後の戦闘……VSデウス・エクスマキナです!巨大な敵……ライダー的には近作の劇場版にはよく見られますね。

それを言うと、デウス・エクス・マキナは『メガヘクス』に近かったり?まぁ……似たようなモンですね。やろうとしてる事とかも……。

我ながら壮大にし過ぎた気もしますけどね……。だって真が負けちゃうと、私の命も危ない!と言うよりは、世界人口約72億7819万3800人の命が危機にさらされていたり……。

そんな訳で、現実世界、IS世界、多次元の世界……そこに住む全ての生命を賭けた戦いの行方は……?次回をお待ちください!

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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