戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

そんなこんなで、冬休み編1本目……簪とクリスマスな話です。何とか3話に纏めようと努力した結果……いろいろ詰め込みすぎましたけど。

でももうね、こうやってほのぼの出来るのも……本当に最後だと思うんですよね。だからこそ、長めでもやっておきたかった事の消化と言いますか。

まぁともかく、あまりクリスマスらしい話にはなって無いかもしれませんが、これを読んで壁不足になって頂ければ幸いです。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


簪との冬休み(聖夜)ですが何か?

「なぁ……簪。本当に良かったのか?」

 

「? 何が……?」

 

「いや、せっかくクリスマスデートなのに……俺の地元を回ったてよ」

 

 12月24日……待ちに待った簪とのクリスマスイブ当日であるが……。言葉通りに、なんてことは無い。俺達が今居るのは、超絶俺の地元である。

 

 これは、簪の希望だった。どっか行きたい場所があったら言ってくれっつったら……俺の地元が見たいと返された。何と言うか、やっぱり本当に良かったのかとは聞きたくなる。

 

「私は……真の普段が知りたくて……」

 

「俺の普段?」

 

「うん……結局……真の私生活は……謎だから……」

 

「お、俺ってそんなに謎かね?」

 

 あ~……まぁ……普段は何してるのか、想像し辛いと言われた事はあるような……。基本的に、ボッチだし……本気で特撮見てるか、家事してるか、バッティングセンター行ってるか何だが……。

 

 やべぇ、相当につまんねぇぞコレ。どうした物か……う~む、やっぱり却下するべきだったか?しかし……それだと簪の望みを叶えてあげられない訳で……。

 

「私は……真の事が……もっと知りたい……」

 

「簪?」

 

「こうやって……真と一緒に……真の育った場所を回ったら……もっと、真の事も知れるかなって……」

 

「…………」

 

 簪のこういうのさ、本当に破壊力高いよね。本当にもう……歓喜でどうにかなってしまいそうだ。男冥利に尽きるというか、こんな事を言われて嬉しくない訳が無い。

 

 嬉しさを噛みしめていたせいか、無言になってしまう。そのせいで、何やら簪は徐々に不安そうな表情へと変わっていく。ようやく俺は我に返って、自分の気持ちを伝えた。

 

「ありがとな、簪。それ……すっげぇ嬉しい」

 

「そ、そう……それなら……私も嬉しい……。けど……」

 

「けど?」

 

「場所は……選んで欲しいかなって……」

 

 俺は簪を撫でながらそう言っているが、はて?場所……場所か……?ハッ!?ここって、まだ最寄駅構内だ!迂闊……大勢の人間の視線を感じる……。

 

 俺は慌てて、簪の頭から手を引いた。イ、イカンな……簪の事になると、周りが見えなくなりがちだ。この癖をもう少し何とかせねばな、うん……。

 

「ま、まぁ……んじゃ、そろそろ行くか?」

 

「うん……」

 

 俺が腕を差し出すと、簪は嬉しそうに抱き着いた。俺達はそのまま歩き出すが、これくらいは……良いよな?まぁ……簪が何も言わないからセーフセーフ。

 

 さて……まずは何処へ連れて行けばいいのやら。適当にこの辺りをぶらついて、それから決める事にしよう。あくまで、昔の俺の休日を思い出しながら……だな。

**********

「いらっしゃ~い……って、真くんじゃないか!」

 

「ああ、久しぶり」

 

 とりあえず連れて来たのは、近くのバッティングセンターだ。ドアを通って店内に入ると、受付のおっちゃんが俺に話しかけてくる。

 

 まぁ……ガキん頃から通い詰めてたからな……する事無かったし。随分と久しぶりな入店なためか、おっちゃんには驚かれたようだ。

 

「また身長……伸びた?」

 

「そうだな……高校入ってからも止まらねぇんだよ」

 

「そっか~……やっぱりオジサンは、勿体ないと思うんだよな~。本気でプロ入り……って、後ろの子……」

 

「あっ、初めまして……更識 簪です……」

 

 少し遠慮気味に、俺の後ろに居た簪をおっちゃんが見つけた。おっちゃんは丁寧に挨拶する簪を持て、はは~んと顔を歪ませる。言っちゃあ悪いが、ウザいよな……こういう顔。

 

 とりあえずは、ガンガン打つことにしようか……と思っていたら、簪が何やらを見上げている。店内に掲げてあるボードと言えば、アレか……。

 

「真の名前……」

 

「君の彼氏さん、実はすごいんだよ?店内のレコード総なめでさ、全然破られないんだよね~」

 

「惚れ直した……」

 

「マジか?だったら、記録出した甲斐があるぜ」

 

 自慢じゃないが、やはりスポーツの中でも野球は得意分野だ。連続ホームラン記録とか、その辺りのトップは全て俺の名で埋め尽くされている。

 

 俺の事を知らない奴が、店内で『何者だよ……』とか呟くのは気持ちが良かったモンだ。それに、簪の一言も滅茶苦茶嬉しい。どんな賞賛の言葉よりも、俺の心に響く。

 

「あ、真くん。彼女さんの為に、頑張ってみないか?」

 

「ってのは、どういう事だ?」

 

「うん……今さ、クリスマスって事でウチもキャンペーン中なんだよ。ほら、アレアレ……」

 

 おっちゃんがチョイチョイっと指さした方向を見ると、これまた看板が。そこには『クリスマスチャレンジ!打てるもんなら打ってみな!』と書いてあるが……内容が、伝わってこんぞ?

 

 このおっちゃんの様子で察する事が出来たかも知れないが、結構アバウトな性格をしてたりする。というか、天然?むしろドジ?機械の修理とか自分でできるらしいけど、ミスって規格外な速度が出るようになったり……。

 

 今回も……何やらその類な気がするな。とにかく、おっちゃんに話を聞いてみない事には始まらない。俺はクリスマスチャレンジについて、詳しく問い掛けた。

 

「どういう挑戦なんだ?」

 

「この間さ、マシーンの修理をしたんだけどさ。そしたら200km出るようになっちゃって!アッハッハ!」

 

「ア、アッハッハって……。危なく……無いですか……?」

 

「うん、だからさ……この際打てたら豪華賞品でも出そうと思って」

 

 そう言いながら店長は、カウンターの後ろから何かチケットの様な物を取り出す。これは一体……?と、思いながら簪と二人してそれを見る。 

 

 なになに……豪華ペア旅行券・ヨーロッパの旅……とな!?予想外の豪華っぷりに、俺と簪は同時におっちゃんを見上げる。するとおっちゃんは、朗らかに仲良いね~君達……なんて言ってる。

 

「これ……本当にですか……?」

 

「たまたま福引で当たってさ。でも何を隠そうね、オジサン……嫁と別居中でさぁペア旅行券とかいらないんだよね」

 

「重いわ!そこはしっかり隠せよ!?ってか、旅行してヨリを戻せばい良いだろ!」

 

「もはやどう誘っていいかピンと来なくてさ、ハッハッハ!」

 

 あまりに清々しいおっちゃんの様子に、俺も簪も何と言って良いのやら……。今更かも知れないが、俺の知り合いってロクなのが居ない。それも……特に大人達。

 

 なんだろうね、この……急に訪れるガッカリ感は……。まぁ……変わり者だからこそ、昔の俺にも良くしてくれたのだろう。ってか、この人の場合はなんで仲良くなったのか覚えてねーや。

 

「で、どうする?やってみる?」

 

「とりあえず、挑戦してみるか。ルールは?」

 

「一発でもホームラン打てたら良いよ。あ、でも的に当てないと無効だからね」

 

 200kmのボールを、的に当てないとダメか……。まぁそう簡単にやられちゃ、おっちゃんも商売あがったりだろうしな。キャンペーンって、結局は店側も儲からないとだし。

 

 と言うか、今まで挑戦者はいるのだろうか?例のキャンペーンゾーンは、閑古鳥が鳴いているし……。まぁいいや、今回も……新しい記録を作らせてもらう事にしよう。

 

「簪、喜べ。俺と簪のヨーロッパ旅行が待ってるぞ」

 

「フフ……それは……楽しみ……。頑張ってね……」

 

「いくら真くんと言えど、ヘルメットは必須だから……あれを殺人マシーンにしないでおくれ」

 

「いや……十分に殺人的だと思うが。まぁいいや……いくぜ!」

 

 この店内には、俺用のヘルメットや、バット、バッティンググローブなどを置かせてもらっている。それくらいの頻度で、此処には足を運んでいたと言う事だ。

 

 その一式をおっちゃんから受け取ると、ダウンジャケットを脱ぎ捨てて簪に預かってもらう。そうしてバッターボックスに入れば、コインを投入してボールを待ち構える。

 

(さぁ……かかって来いや!)

 

 ここの店は割と最新式で、実際のピッチャーが映像でスクリーンに出るタイプだ。映像の野球選手は、大きく振りかぶって……投げた!

 

シュゥン!

 

「うぇぇ!?速っ……!」

 

ズダーン!

 

「…………」

 

 投げたと思ったら、既に手元に来ている。俺は、不恰好なほどにバットが振り遅れた。少し前によろけるようにして、躓くと……ある事に気が付く。

 

 これ……もしかすると200kmじゃ済まないかもしれない。おっちゃんは……嘘はつかん。そもそもあの人は、嘘を吐くという行動を知らない……となれば。

 

「おっちゃん……またなんか弄った?」

 

「ああ、なんか200kmよりかなり遅いって言われてさ」

 

「それだ!アンタ絶対それ余計な事を……!」

 

「ボーッとしてたら危ないよ~」

 

ズダーン!

 

 ……確かに、余計な事をしてたら危ないな。今の……完全に余所見をしていたから、デッドボールでもおかしく無かったかもしれない。

 

 前の客め……余計な事を言わなくても良い物を。これホームラン打ったら、おっちゃんからの商品は旅行券では足りんな。何を要求してやろうか……。

 

「あ、あの……真……無理そうなら別に……」

 

「何を言うか簪……旅行だぞ、旅行。俺は簪と一緒に行きたいから頑張る!」

 

「本当……?えっと……それじゃあ……頑張って……!」

 

「おう、頑張る!」

 

 そうだ……打ちさえすれば、簪と旅行……簪と旅行……。フハハハハ!そう考えるとやる気出てきたぜ!たまにおかしくなる俺のテンション……これを保ってりゃ、何とかなる気がしなくもなかったりする!

**********

「うがぁ……まだ手が痛ぇ……」

 

「大丈夫……?」

 

 あれから4、5回は挑戦して、何とかホームランを叩きだす事は成功したが、その代償も大きかった。まぐれ当たりとか、惜しい辺りはあっても……的に当たらないんだなこれが。

 

 とにかくバットに当たったら、手がジンジンする訳よ。そのうちに、空振りしても痛かったし。まぁ簪を心配させまいと、表には出さなかったけどな。

 

 かなり時間はたったのに、まだ痛いとなると……コレは数日は続くかもしれないな。家に帰ったら、応急処置をしておかないと……。

 

「んで、なんでラストが俺ん家?」

 

「え、えっと……その……」

 

「ああ、慌てんなって……俺の手料理を食べたいってのは知ってるよ。だけど、それだったら弁当とか作るし……」

 

 そうなのだ。なんでも……実際に俺の料理を食べてみたいってのは、随分前から聞いていた。それで、簪曰く今日が良いとの事。それも事前に聞いてたから、クリスマスっぽいメニューは考えておいた。

 

 でもやっぱり、タイミングが変な気がするんだよなぁ。だからどうしたって感じなんだけど。簪の顔が妙に紅いのも気になる所だ。

 

「それは……だから……」

 

「うん……まぁいいや、なんか理由があるんだろ?もうそれ以上は聞かねぇ事にしとく」

 

 なんだか本当に言えなさそうなので、やはりこれ以上の追及は止めておこう。とにかく、もうすぐ俺の家だ……。これでようやく、親父に簪を紹介できそうだ。

 

 そうやって歩くことしばらく、俺の家の前に着いたのだが……なんで明かりが付いてないんだ?もしやと思って戸を開こうとすると、鍵がかかっていた……。

 

「ちょっとスマン、簪」

 

「うん……」

 

プルルルル……

 

『真か、どうした?』

 

「どうしたもこうしたもねぇよ、なんで家を空けてんだ?」

 

 どういう事か確認をしようと、親父に電話を繋げるが案外早く通話に出た。しかし……台詞はマトモだが、声色で分かる。どうやら親父は、酔っているらしい。

 

 時間帯的には、飯を食っててもおかしくない訳だが……親父はそうそう早くに酒は飲まねぇハズなんだけどな。よくよく聞いたら、周りが騒がしい気がする。

 

『ああ、その事か。親父に誘われてな、ZECTのパーティに参加してるんだ』

 

「はぁ……?別にかまわんが、パーティって……」

 

『いや~親父に、簪ちゃんと二人にしてやれって言われてな。その通りだと思ったよ、うん』

 

(爺ちゃん……俺と簪をいったいどうしたいんです!?)

 

 やけに周りが騒がしいかと思ったら……そういう事か。大人にとって、クリスマスは酒を飲む口実でしかないらしい。しかし……原作を知る身としては、親父と爺ちゃんの仲が良いのは感慨深いかもな。

 

 それだったら……もう何も言わないでおこう。気が済むまで楽しめばいいさ……。とりあえず親父には、仕事に支障をきたすような事は止めろと忠告を入れて、通話を切った。

 

「なんか、親父は居ないんだってよ」

 

「…………よしっ」

 

「今……なんて言った?」

 

「う、ううん……何でも無いよ……?」

 

 なんだか小さくガッツポーズをしたような気もするが、気のせいだろうか?ふむ……簪に喜ぶ理由も無いし、やっぱり気のせいだろうな。

 

 そしたら……さっさと家に上がって暖房をつけねぇと、寒くてやっとられん。簪は……炬燵で待ってもらう事にするか。俺達の上着をハンガーへ引っかけると、俺は腕まくりをしつつエプロンを装備した。

 

「…………」

 

「……どうかしたか、簪?」

 

「あ……えっと……エプロンの真……カッコイイと思って……」

 

「ハハ、まぁ着慣れてるからな。自然に似合うのかもしれねぇ」

 

 簪がこちらを見ているようで、質問をすれば賞賛の言葉をいただいた。俺は所謂……エプロン男子だからな。これって、かなり前の流行だっけ?

 

 とにかく、簪に褒められたのだから何でもいいや。よっしゃ、更に気合が入って来た。それはもう……腕によりをかけた料理を披露しなくてはな!

 

「手伝おうか……?」

 

「いや、簪は座っててくれ。実はさ……親父以外に料理振る舞うのは初めてでな。俺だけでやってみたいってのはあるんだよ」

 

「私が……初めて……?」

 

「ああ。……初めてが、簪で良かったって……心からそう思う」

 

 簪は初めてという言葉に反応して、嬉しそうな表情を見せた。更に俺が続けた言葉を聞くと、顔を真っ赤にしてオロオロとし始める。

 

 なるほど、なんとなく読めてきた。簪は、どうやら俺が本気で言っているかどうかがわかるらしい。本気だと察した時には、どう反応して良いか困る訳だ。

 

「ま……とにかく、簪はテレビでも見ながら待っててくれ。なんなら、特撮のDVDもそこの棚に入ってから」

 

「分かった……。楽しみに待ってるね……」

 

 俺がそう言うと、簪は早速指定した棚へ一直線。まぁ……クリスマスって、どこも似たような番組だしな。そう言うのに興味が無ければ、そちらの方が正しい判断だろう。

 

 さて……手ぇ洗って……っと。冷蔵庫を御開帳~っつっても、買い出しはしたから中身が何かは知ってるが。んで、何を作る予定なんだったかね……。

**********

「ほれ、パイ蓋シチューな。突いて崩しながら食べてくれ」

 

「…………」

 

「んで、ローストビーフのサラダ。和風と洋風のソースを2種類作ったから、それはお好みで」

 

「…………」

 

「後……こっちがオニオンスープで、それはサーモンのカルパッチョ……って簪……苦手な食い物でもあったか?なんか反応薄いが……」

 

「……自信……無くす……。女の子としての……尊厳が……」

 

 うぉう……簪が項垂れてしまった!?テーブルに並べられた料理を見てか……?割と本気でやったからかねぇ……いつも以上にクオリティが高い物にはなってっけど。

 

 何もそんなに落ち込まなくったって……。何度も言うが、俺のは単に慣れなのであってだな、決して簪が劣っているとか……そう言う次元の話では無いんだぞ……?

 

「こうなったら……」

 

「こ、こうなったら?」

 

「食べる……。いただきます……」

 

「おう、食え食え。簪の為に作ったんだからな」

 

 簪は可愛らしく頬を膨らませながら、手を合わせていただきますを言った。簪がスプーンを手に、サクサクとパイ蓋を砕いていく、その間に俺は傍観だ。

 

 これは単なる俺の流儀である。作った料理は、まず初めに相手に食べてもらうという物だ。下らん流儀かとは思うかもしれないが、ま……作り手になりゃ少しは分かるんじゃないかね。

 

「美味しい……!けど……ますます自信が……」

 

「だぁ!?は、ほら……そんな顔で食われても嬉しくねぇからさ、な?笑って笑って!」

 

「ま、まふぉと……いふぁい……」

 

(あ、これ可愛いかもしんねー……)

 

 またしても落ち込む簪の頬を、少し強めに上へあげた。無理矢理に笑顔を作らされた簪は、ペチペチと俺の手を叩いてギブアップを宣言する。

 

 しかしその様が可愛くてつい……しばらくギブアップを無視してしまった。我に返って手を離すと、簪はまたしても可愛い様子で頬をさする。

 

 その後は簪も落ち込むことなく、次々と料理を口へと運んでいく。あっという間に減って行き、食事は終了……簪も満足してくれたようで、俺も嬉しい。

 

 後の片づけは、二人で一緒に行う事に。その際にまるで夫婦みたいだね、と言われるが……その内『みたい』は取れると言って、カウンター?に成功。

 

 ビックリした簪が、手を滑らしそうになって危なかったけども。まぁ何とか片付けは落ち着いて、後は腹が落ち着くまで談笑ってところか……。

 

 いや……しかしだぞ、プレゼント渡さねぇと……。こういうのって、どんなタイミングで渡すべきなんだろうか……?話の流れとかって、無視して構わないのかねぇ。

 

「どうかした……?」

 

「……まぁいいか、簪……ちょっと待ってろよ」

 

 プレゼント自体は、既に買っておいた。あれこれ悩んだけど、とりあえず手作りは止めておくことに。かと言って気持ちがこもって無い訳ないし、値段が全てと思ってるわけは無いぞ。

 

 簪だって、きっと喜んでくれるはず。俺は階段を上り自室に入りって、プレゼント用にラッピングされた縦長の箱を引っつかまえた。そして急いで簪の元へ舞い戻る。

 

「簪……これ、クリスマスプレゼント」

 

「え……でも……これって……」

 

「まぁ値段は気にしねぇで、黙って受け取ってくれよ」

 

「う……うん……。えっと……開けても良い……?」

 

 どうやら簪は、箱の感じからして『それなり』の高級品だと思ったらしい。はぐらかしはしたが、確かに『それなり』の値はしたさ。

 

 だが、簪の笑顔を買ったと思えば安いもんだ。……ちと、クサかったかね?まぁ良いや。簪の確認に勿論と答えると、せっせと箱を開けた。

 

「これ……クリスタルのペンダント……?」

 

「簪を連想させると思ってさ、それにしたんだけど……。ハハ……少し安直だったかな」

 

「そんな事ない……凄く嬉しいよ……」

 

 簪は手元のペンダントを、頬を紅く染めて見詰めた。ふぃ~……良かったぜ、気に入られるかどうか心配だったんだよ。なにはともあれって所だな。

 

 俺が一人で安心していると、簪は早速首に着けてくれている。そんで、小さなクリスタルの飾りをぎゅっと大事そうに握りしめる。そしてしばらくすると、何か我に返った様子で手提げかばんを漁りはじめた。

 

「真……これは、私から……」

 

「おお、手編みのマフラーか!サンキュー」

 

「真みたく……高価じゃないけど……」

 

「良いんだよ、そんなの。簪の愛情が詰まってっからな」

 

 簪が差し出して来たのは、群青の手編みのマフラーだった。ガタックのテーマカラーと合わせてくれたのだろうか?こらそこ、ブルー・ティアーズと被るとか言わない。

 

 いやぁ……嬉しいもんだな。まさか彼女からもらうプレゼントが、こんなに嬉しい物だとは思いもしなかった。俺は簪に倣って、早速首に巻いてみる事に。

 

「似合ってる……」

 

「お、そうか?これなら、どんな寒さもへっちゃらだな。主に簪の愛のおかげで」

 

「も、もう……」

 

 うむ……?そうこうしてる内に、良い時間になって来たかもな……。あ、ヤバ!ケーキ焼くの忘れてやんの!……簪を送りに行くついでに、どこか開いてやいないだろうか?

 

 とにかく、これ以上は暗くなるのは良くないな……。急いでとは言わないが、そろそろお開きにしなくてはならないらしい。俺は簪に、思い出すように告げた。

 

「簪、そろそろ帰らなくても大丈夫か?」

 

「あ……えっと……えっと……その……。い、言いだせ……なかった……けど……」

 

「うん?」

 

「今日は……帰って来るなって……言われてて……」

**********

「んじゃ、寝るか……」

 

「う、うん……」

 

 どうやら簪は、半ば家を追い出される形だったらしい。だから俺の家に泊まる準備とかを勝手にされて、現在に至るそうな。簪を返そうとはしたが、それならまた別の話だった。

 

 簪が未視聴の仮面ライダーとか、戦隊のDVDをそれぞれ長い事見て……流石に眠い。俺も簪も風呂に入って、今日はもう寝ようっつー流れである。

 

 当たり前ではあるが、添い寝する形……と言うか、二人の意見が合致したと言うか。まぁ良いや……とにかく眠い。俺は倒れ込むようにベッドへ潜り込んで、簪の入れるスペースを作る。

 

「大丈夫そうか?」

 

「平気……。むしろ……狭いくらいが良い……」

 

 そう言いながら簪は、俺の方へと擦り寄ってくる。密着状態となったが、冬だし問題ないな。物理的にも心理的にも温かい。

 

 俺も俺で簪の方へ寄って、簪との密着度を高める。……いい匂いがするな。なんなんだろうね、この……女子のフローラルな香りって。うごぉ……簪の香りのせいか、さらに眠く……。

 

「旅行……楽しみだね……」

 

「ん、おお……そうだな。いつ行ったら良いもんか……」

 

「世界が……平和になったら……?」

 

「ハハ……そう言うと、死亡フラグっぽく聴こえるから止めとこうぜ」

 

 うつらうつらとしながらも、簪の言葉に返す。どうやらチケットは、かなり先まで期限が持つから大丈夫……。ヨーロッパの旅だし……セシリア、シャルロット、ラウラに助言を賜るのも良いかもしれない。

 

 それからという物……簪には珍しく、長いあいだ話しかけられた。嫌とかそう言うのではなく、何か……まるで何かを待っているような……。

 

 そこまで考えて、俺の意識は一気に覚醒した。もしかしてこの状況って、『チャンス』なんじゃね?……いや、此処しかないだろうが、俺は馬鹿か!?

 

 二人きりで、簪泊りで、一緒に寝ようの時点で気づけや!完全に、こう……そう言った方向への思考が頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていた……。

 

 だ、だが……どうする?どう切り出すものなんだ?前回は一応だが、それなりの流れを掴んだからすんなり踏み込めたものの……。今はもうなんとなく、寝る体勢に……。

 

 いや、ここで今度で良いやって思うから俺はヘタレなんだ。今度って、いつだよ……いや、今度って今さ!俺は意を決して、声を震わせつつ簪の名を呼ぼうとした。

 

「かんっ……んむっ!?」

 

 そう……呼ぼうとしたんだよ。声に出したところで、簪にいきなりキスされた。タイミングとか、不意打ち気味だったから驚いたが……。

 

 と、とりあえず好都合だ。ベッドの中でモゾモゾと動いて、簪を下にする。そのまま舌を動かして、俺の方からリードすれば……。

 

 しばらくの間は、とにかくキスに集中した。と言うよりは……次に行こうにも、なかなか簪が離してくれなかったってのもある。そしてようやく簪は、俺を解放してくれた。

 

「どう……して……?」

 

「か、簪……?」

 

「どうして……何もしてくれないの……?」

 

「!?」

 

 簪は……泣いていた。やはり簪は、俺が手を出すのを待っていて……。いや、下らん芝居はよそう。ああ、知ってたさ……解かってたよ、そんなもん……!

 

 何がしたいんだよ、俺は……!結局のとこ簪を悲しませて、何が……!自分を殺したくなるような悔しさに苛まれ、俺は唇をかみしめた。

 

「私……魅力……無い……?」

 

「それは違う!全部……俺がヘタレなせいだ。頼むから、そんな事は言わないでくれ……」

 

「真……」

 

「口で謝るよりは、行動で示す。簪……俺は、全力でお前を愛してみせる」

 

 これで、何とか俺がしたいと思っている事は伝わっただろうか。良くは分からんが、そんな物はもはやどうでも良い。だって俺はこれから……実際に簪とするのだから。

 

 今度は俺から、簪の唇を奪う。それはもう遠慮の欠片も無い……貪るような激しい奴だ。簪から離れつつ一度身を引くと、簪は俺に向かって両腕を広げている。

 

「真……来て……。私の全部を……真に……」

 

「かん……ざし……。簪っ……!!」

 

 簪の言葉は、俺の理性を簡単に崩壊させた。それから先の事は、まぁ割愛しておく。だって……俺と簪の大切な時間だからな。俺は……幸福者だよ、本当。

 

 これからも真摯に俺の事を想ってくれる簪を……守っていかないとな……。でもとりあえず今は、難しい事を考えず……ただ、この幸福を噛み締めていよう……。

 

 

 




R指定無警告とは、どこまで許されるのでしょう……?

前回と今回とで、真剣に悩んだりしてます。直接的表現は避けているつもりですけど……やはり保険でもR15タグくらいは付けといたほうがいいのかなぁ……?

まぁ……気にするほどでは無いと思っておきましょう。それはさておいて……次回予告でもしましょう。

次回は、ちょびっと時間が進んで正月になるかと。新年の挨拶って事で、陸と共に更識家へ赴く事になった真……。しかし!更識家では予想だにしない困難が!ってな感じです。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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