戦いの神(笑)ですが何か?   作:マスクドライダー

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どうも、マスクドライダーです。

今回で九章の最終話ですが、予想以上に長くなってしまいました……。ガタックがハイパー化した時ほどじゃないですが。

観念して、2話に分けるべきだったでしょうか?その辺のペース配分が、上手くいかない時がありますねぇ……。

それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。


亡国、真の目的(判明)ですが何か?

 ソルが口に出している名前である『スコール』は、一度オータムから聞いている。それ故ソルがパーフェクトゼクターを止めた理由は、スコールに起因すると……真もそこまでは理解できた。

 

 しかしだ……タイミングなどなど、明らかに不自然でしかない。真は、ボーッとソルの背を見守る事しか出来ないでいた。その間にもソルは、怒りを通信先のスコールへと撒き散らす。

 

「貴様……!『計画』は、加賀美を殺した後でも良いと言ったろう!」

 

『その前に私は言ったわよ?あくまで『ついで』ってね』

 

 確かにそう言われていたソルだが、悪気のあるタイミングとしか思えない。ギリリ……!と歯を食いしばり、自身に植え付けられたある『癖』を悔やんだ。

 

 その癖とは、スコールの『命令口調』に、たった一瞬逆らえないと言うものだ。例えば、オータムを殺害しかけた時……スコールはソルに『止めろ』と命令した。

 

 するとソルは、無意識のうちにでもピタリと止まってしまうのだ。幼いころより……主にスコールの命令『のみ』に従って生きてきたソルだ。それこそ、自分の意思が芽生え始めたのなどつい最近の話である。

 

 真を殺すと言う確固たる意志……それは、使命感などではなく間違いなくソルが望んだ事だ。しかし……やはり『躾』とも言って良いスコールの言葉には、逆らえなかった……。

 

 今行われた刹那のやり取り一つとってもそうだ。パーフェクトゼクターを振ろうとした瞬間に、スコールは通信でたった一言こういったのだ。『そこまでよ、ソル』……と。

 

「それはそうだが……なんなんだ!何の滞りがある!」

 

『『もう一つのお願い』の方よ、分かってるわね』

 

「ふざけるな、貴様がやればいい話だろう!?」

 

『貴方は、確かに了承したでしょう?』

 

 どうしようもない憤り……これを感じるのは、ソルにとって二度目だった。一度目は、真に『劣化コピー』と呼ばれた時の事だ。頭に血が上る感覚は、本当にやり場が無かった。

 

 だがやはり、『躾』が効いているのだ……。頭が分かっていても……どうしてもスコールの言葉に逆らえない。ソルは左手を握りしめると、虚空へ向けてパーフェクトゼクターを振った。

 

「ああああああああ!!!!」

 

「!? なんなんだ……?ソル!お前に、何が起こってるってんだよ!?」

 

「…………。この件に関して、オレは何も言い訳はしない……。……この戦い……此処までだ!」

 

「はぁ!?お前……話が違っ……」

 

バチバチバチバチ!

 

 真が話が違うと言い切る前に、ソルはジョウントにてどこかへと飛んだ。2つの意味で話が違う。1つは、亡国が決着を着けに来たと言う点。もう1つは、ラボラトリがジョウントを『ほぼ』無効化したと言う点に関してだ。

 

 これには真も、驚愕を隠せない。まるでバラエティー番組に出演する芸人の様に、おいおいおい!と叫ぶと、事実確認をするために通信を岬へと繋げる。

 

「岬さん!」

 

『岬さんは、現在手一杯です!代わりに自分が!』

 

「あぁ?くそっ……!ソルの居場所だけ、伝えて貰ったら満足っす!」

 

『了解です!少々お待ちを……!』

 

 どうやら状況は悪いらしく、岬の代わりにラボラトリの一員が通信に出た。この程度……岬さんなら数秒なのに!……と、真は割と八つ当たりに近い考えが頭を過る。

 

 そうしてイライラしながら結果を待つと、ハイパーセンサーにマップが表示される。これを見た真は、またしても様々な意味で驚愕を覚える。

 

 ハイパーセンサーに……ブルー・ティアーズ、リヴァイヴ、紅椿の反応が……見当たらない。それ以上に真を焦らせるのが、ソルの現在位置といったところか。

 

『カブトの反応……打鉄弐式と、アラクネの付近……と言うよりコレは……?』

 

「今すぐエクステンダーを寄越せ!グダグダ言ってっと、ぶっ殺すぞ!」

 

『りょ、了解しました!ライトニングモードへ換装済みなため、話している間にそちらへ着くかと……』

 

 真の怒号に、10つ近く年上である男性ラボラトリメンバーは圧倒される。換装の話をしている最中も、余計な事では無いよな?と、ビクビクしっぱなしだった。

 

 そして、本当に話している間に彼方からガタックエクステンダーがやって来る。報告通りに、高速移動形態なため異様なスピードだ。

 

ガシン!

 

 スピードを全く緩めていないエクステンダーに、真はエクステンダーの足底を無理矢理にでも接続させた。そしてそのまま吐血しながらも……簪とオータム、そしてソルの居る空域へと急いだ。

 

「ゴハッ!ガハッ……ゴホッ!!」

 

『マスター!少しは自分の身も案じて……』

 

『黙ってろ!俺の事なんか、どうだって良い!』

 

『おとーさん……』

 

 いくらIS……それも全身装甲のガタックと言えど、超高速の移動は身に響くだろう。それでも真は、エクステンダーのスピードを緩める事は無い。

 

 それは言葉通りに、自分の身よりも簪の方がよほど大事だからだ。ソルがスコールの命令に従った理由も……全貌は見えて来た。

 

 オータムがピンチで、それと敵対している簪を倒し撤退する……これが、最も想定できるシナリオだ。それが見えてしまっただけに、真はもはや泣きそうな表情になっている。

 

(頼む頼む頼む!なんでも良い……間に合ってくれ!)

 

 まさに真は、神にもすがるつもりで祈り続ける。それは真が実際に神と会った事があるはどうか、定かではないが……とにかく真は、エクステンダーのブースターを吹かす。

 

 ただ真っ直ぐ飛べばいいだけに、スピードだけ言えばキャノンボール・ファストの時を超えているかもしれない。とにかく真は、最愛の人の元へ急ぐ……。

**********

「……!?これは……!」

 

 一方……アリーナ各所では、不自然な現象が起きていた。シャルロットとラウラに、今にも止めを刺そうそしていたザビーが、居ない……。ザビーが従えていたワームも同様だ。

 

 これは、ソルがハイパークロックアップの最中に各ゼクターを呼び寄せたせいだ。このパッと、まるでシーンが切り変わったような感覚……ラウラには覚えがある。

 

「まさか、クロックアップか……?」

 

 真が模擬戦では使わなくなったが、一度タッグを組んだラウラに限っては身近なものだった。あの時の真とガタックも、パッと消えてパッと現れ……それと同時に一夏が吹き飛ばされたのだ。

 

 しかし……真やソル、ザビー……いずれがクロックアップを使ったとしても辻褄が合わない。何故……自分たちの前から姿を消す必要があったのか?

 

「う……ん……?ラ、ラウラ……?」

 

「シャルロット!無事だったか……」

 

「…………。ゴメン、僕……」

 

「何も言うな、助かっ……」

 

 ラウラは、助かったのだから大丈夫……という言葉を、寸前で飲みこんだ。ラウラは軍人である……そもそも『二度目』や『次』などとは、許されない世界で生きている……。

 

 それでも、ザビーと交戦して2人とも『生きていた』と言う安心感が勝っていた。それがラウラにとっては、屈辱だったのだ。何が学年トップだ……単体戦最強だ……と。

 

「クソッ……!私は……結局何も……変われてやいやしない!『あの時』の私と、何も!」

 

「そんな事……ないよ……」

 

「シャルロット……?」

 

「ラウラの声……僕を、呼ぶ声……聞こえたよ。ラウラが、僕を庇ってくれたのも……。だから、ラウラは『あの時』のラウラとは……違うから……だから……!」

 

 ラウラに抱き起されているシャルロットは、必死に……涙を流しながらそう訴えた。そこにはこうして、ラウラと重ねた様々な想いが込められていた。

 

 これにはラウラも……涙が止まらない。済まないと、様々な事に謝りつつ……シャルロットを抱きしめる。……と、同時に決意した。ザビーに……『次』は無い!。

**********

「セシリア!生きてるなら、返事しなさい!」

 

 こちらも既にアリーナ内にドレイクはいない。それ故鈴、はいまだ砂埃冷めやらない中で命を賭けて自分を守った恩人を捜しまわっていた。

 

 ハイパーセンサーに、ブルー・ティアーズの反応が無いのだから仕方が無い。ライダーシューティングが着弾した付近を捜し回ると……人影が見えた。

 

「あ……あぁ……!」

 

「ゴホッ!ゴホッ!ひ、酷い砂埃ですわ……髪が傷んでしまいます……」

 

「この……馬鹿ぁ!アンタの髪なんかどうでも良いわ!」

 

「お、落ち次いで下さいませ!ISでビンタなどと、それこそ死んでしまいますわ!?」

 

 そこには、大破したブルー・ティアーズの傍に女の子膝で座るセシリアが居た。各所に傷は見られるものの……どうやら完全なる直撃には、ならなかったらしい。

 

 冗談なのか、どうなのか。砂埃が目に染みて、涙を滲ませながらキューティクルの心配をしている。それを見た鈴は、自分の心配はなんなのか!と、甲龍の手を振り上げる。慌てて待てをかける辺り、どうやら冗談だったらしい。

 

「……かったぁ……」

 

「り、鈴さん……?」

 

「よかったぁぁぁぁ……生きてたぁぁぁぁ……。アタシ、アタシ……!ホントに……死んじゃったかと思ってぇ……!」

 

「……鈴さん」

 

 鈴は緊張が解れたせいか、甲龍を解除しながらその場にぺたりと座り込む。うわああああん!と大泣きしながらだ。これを見たセシリアは、守れて良かったと思うと同時に……一抹の申し訳なさを感じた。

 

 自分を守ってくれたから、セシリアはそれを返したつもりだった……。しかしそれは、間違いだったと気づかされる。『勝たなければ』……なんの意味もなさない。

 

「申し訳ありませんでした……。今度は勝ちましょう……『2人で』……ね?」

 

「あ、当たり前しょう!?あんな蜻蛉……次は一発よ!」

 

 セシリアに頭を撫でられ、そう言われ鈴はハッ!?となる。急いで涙を拭い去ると、いつもの強気な女の子へと戻っていた。セシリアはクスリと笑うと、やはり思う……彼女を守れてよかった……と。

**********

(クソッ……!クソぉ……!)

 

 箒は、ISが解除され1人残されたこの場で悟った。自分は……生かされたのだと。理由などは、明確には分かっていない。しかし……サソードがこの場に居ない時点で、箒はそう考えたのだ。

 

 地面を手でギュッと握りしめても、悔しさはまぎれない。舐めていたわけでは無い……しかし箒は、『剣士』と相対して負けた……。悔しさも、ひとしきり大きかった。

 

(毒など、関係ない……!私は……!)

 

 そう……サソードは、毒使いの剣士でもある。だが、だからどうした?そんな物は、全く持って言い訳にならない。毒を盾にするのは、恥の上塗りでしかない。

 

 何も出来やしない……自分は、紅椿を与えられただけだと……無力さを呪った。同じように、突発的にISを与えらえた2人が思い出される。

 

 一夏も真も、それぞれ自分の個性を生かした成長を遂げている。しかし自分はどうだ?姉にISを与えられ、篠ノ之流をISで行っているのみ。

 

 それ以外の成長と言えば、『紅椿』に備わっていた可能性の1つである穿千くらいだろう。……堕落だ。一夏を危険に晒した日から、まるで成長していない。

 

 あまつさえ、真の剣の道を語らないサソードにすら遅れを取った。それすなわち、篠ノ之流を地に落としたも同然である……それほどまでに、箒は今回の敗北を悔やむ。

 

「私には……それしか、ない!」

 

 それでも……箒は立ち上がる。父に託された技術……姉に託されたIS……頼っていると言われればそれまでだが、この2つは確かに箒にとって『誇り』だった。

 

 だから……戦う。あくまで、紅椿で。あくまで、篠ノ之流で。あくまで……篠ノ之 箒のままで。自分をぶつけてサソードに勝つ事こそが、誇りを取り戻す唯一の手段だと、心に刻んで……。

**********

『『――――――――』』

 

「さぁ……来なさい!」

 

 最後の1人である楯無だが、こちらの状況は他と少し違った。パーフェクトゼクターの強化に用いられないホッパーズは、未だそこに健在である。

 

 楯無は当然に、ハイパークロックアップが発動したことは露ほども知らない。常人からすれば、1秒にも満たないほんの一瞬……いくら楯無とも言えど、流石にそれは無理だ。

 

 だが……それとは別に、何かが起きたであろう轟音が鳴り響く。空を見れば、目に見えるほどの衝撃波が駆け巡っていた。もちろんマキシマムサイクロンと、マキシマムテンペストのぶつかり合いによるものだ。

 

 この衝撃波は、楯無だけでなく残されたメンバー全員が目撃した。それと同時に、真の身を案じる者もいる。楯無としては、ハイパー同士の戦いに絶句している……といったところか。

 

『『――――――――』』

 

「あっ……」

 

 楯無がボーッとしている間に、ホッパーズはノロリと振り返りジョウントの中へと消えて行った。スコールの命令か、それとも自己判断かは定かでない。

 

 それでもやはり楯無も逃がされたのだろう。……あの楯無でさえもだ。悔しい思いが溢れて来るが、状況把握を優先すべきだと、楯無は岬へと通信を繋げる。

 

「岬さん。例の……普通に逃げられちゃったけど?」

 

『それが……変なの!もの凄く膨大な時空の歪みが……。これはもしかして、会長が言っていた……?』

 

「岬さん?」

 

『……ゴメンなさい。それで、用件は何かしら』

 

 岬が真の通信に出られなかったのは、先に楯無が用事があったからのようだ。岬は謎のエネルギー反応に警戒しつつも楯無の要件に耳を傾ける。

 

 用件は真と同じく状況確認で、後輩たちの戦況を知りたかった。ザビー、ドレイク、サソードはソルの元へ向かいホッパーズは撤退。こちらは、ブルー・ティアーズ、リヴァイブ、紅椿が反応なし。

 

 だが操縦者全員が生きているのは、確認が取れていた。その事に楯無は、安堵の息を漏らす。しかしそれは、すぐに焦りへと変貌する。

 

『!? カブトの反応が……簪ちゃんの近く!?』

 

「そんな……!」

 

『……?えぇ、了解。楯無ちゃん、簪ちゃんの所には加賀美くんが向かってるわ』

 

「そう……ですか。……岬さん。3人の回収作業を手伝って欲しいのだけれど」

 

 楯無は、今すぐにでも簪の元へ行きたかったが……それは真に任せる。自分がやるべきことは、負傷者の回収作業だと、自分に言い聞かせ。

 

 そう言われれば、岬としては従わざるを得ない。田所隊の人間と連携しつつ、速やかに回収作業へと移る。その間も楯無は、不安そうな表情を隠せないでいた……。

**********

ゴオッ!

 

「「!?」」

 

 例の衝撃波は、一夏とマドカの戦闘空域にも届いた。何事かと衝撃波が来た方向を見たマドカは、ソルの身に何か起きたのではないかと表情を強張らせる。

 

 もし今の衝撃波が、ソルに何かしらの攻撃が直撃した物だとすれば……?そう考えるとマドカの表情は、絶望を絵に描いたような物へと変わる。

 

「……だ」

 

「?」

 

「嫌だ……ソル!私を……一人にしないでくれ!」

 

「あっ……おい!」

 

 冷静さを失ったマドカは、残されたエネルギーをウィング・スラスターへと回す。一夏に一瞥もくれる事無くソルの居るであろう空域へと飛び立った。

 

 一夏は何が起きているか分からないにしても、とにかくマドカを追う事にした。白式も高軌道型とは言え、エネルギーを使えば使うだけトップスピードの持続が難しくなる。

 

 とは言えマドカのあの様子を見れば、妨害するのはなんだか気が引けた。憎いはずの自分に目もくれず……ソルの心配をするほどなのだから。

 

(もし本当に、真がソルを倒したんなら……良い事だ。だけど……)

 

 一夏は、知ってしまった。マドカにとってソルが、掛け替えのない存在だと言う事を。そう思うと、素直に喜べないでいる自分が居た。

 

 いや……どちらにせよこの目で確かめなければと、いつになく冷静な判断を一夏は下した。とにかく今は、エネルギー切れしない程度のスピードでマドカの背を追い続ける。

**********

「はぁ……はぁ……クソが……!」

 

(あと……もう少し……!)

 

 アラクネの装甲脚を無効化した簪は、オータムを追い詰めていた。打鉄弐式もミサイルは打ち止めだが、近距離戦闘しか行えない今のアラクネを相手取るには申し分ない。

 

 簪は知らないが、専用機持ち9名合わせても唯一の善戦である。そうして、止めを刺そうと夢現にて斬りかかろうとした瞬間に、こちらにも衝撃波が到来した。

 

ゴオッ!

 

「キャッ……!」

 

「んだぁ……?あのクソガキども……随分派手にやりやがる」

 

「……!?どういう……事……?」

 

「あぁ?ヘッ……もしかすると、加賀美 真の方は生きてねぇかもなぁ」

 

 オータムは、パーフェクトゼクター試運転のデータを目にしていた。マキシマムハイパーサイクロンの威力には、唖然とするしかなかったほどだ。

 

 恐らく今の衝撃はそれで、真は対抗する手段はない……。つまりは、真の死亡を意味するとオータムは説明した。もちろん不確定要素だが、簪の動揺を誘うためだ。

 

 簪も真の身がどうなっているかは、皆目見当もつかない。しかし……手の震えが止められなかった。それでもその切っ先を、オータムへと向ける。

 

「おやおやお嬢ちゃん……さっきまでの威勢はどうした?えぇ?!」

 

「…………」

 

「ヘッ!震えて声が出ねぇか……ま、なんだ……私の所にソルがくりゃぁそいつは……」

 

バチバチバチバチ!

 

「加賀美 真は、死んだって思った方が良いぜ?」

 

「そん……な……。嘘……嘘……!」

 

「…………」

 

 オータムが話している間に、そこへはソルが現れた。簪の手は震えるどころか、夢現を握っていられなくなる。つるりと滑り落ちた夢現は、虚しくも海へと消えて行った。

 

 そうしてソルは、パーフェクトゼクターを空へと掲げた。今回はガンモードで無く、ソードモードのまま何かをするらしい。またしてもザビー、ドレイク、サソードゼクターが現れて、パーフェクトゼクターと合体する。

 

 これを見たオータムは、口元を歪めた。この状況は、望んでいたのとは逆だが……絶望の淵にある簪の死にざまを見れるのだから……。そしてソルは、スイッチを押していく。

 

『―KABUTO THE―BEE DRAKE SASWORD POWER―』

 

『―All ZECTER COMBINE―』

 

バリバリバリバリ!!!!

 

 パーフェクトゼクターの刃に、赤い電流が走りはじめる。刀身やゼクターも徐々に赤色へ染まっていく、そうして真紅になった刃は……まるで大気を震わせているような感覚だ。

 

 簪は……もはや避ける気力を失っていた。目の前でパーフェクトゼクターを構えるソルを、ただ虚ろな目で見届ける。しかし……予想だにしない出来事が起こった。

 

「……オータム」

 

「あぁ?んだよ、クソガキ」

 

「……恨めよ。これには俺の……八つ当たりも含まれている」

 

「テメェ、何が言いた……」

 

「マキシマムハイパータイフーン!!!!」

 

『―MAXIMUM HYPER TYPHOON―』

 

 ソルがパーフェクトゼクターのトリガーを引くと同時に、カブトムシの角を模したような巨大なエネルギー刀が現れる。それをソルは簪目がけて振るう……と思いきや……。

 

ギャギィ!バチチチチチチチチ!!!!

 

「な……に……?」

 

「…………」

 

 いきなりその場で振り返ったソルは、アラクネの上半身辺りにV字を描くように切り下げと切り上げをくらわした。すさまじい力の刃はアラクネの装甲を簡単に切り裂くが、まだ終わりでは無い。

 

 V字の調度交わる地点に、更に思い切りパーフェクトゼクターを振り下げる。そうしてV字は、Y字へ変わった。これもカブトムシの角を模した剣撃だ。

 

ズバアッ!!!!!!!!

 

「何故……だ……?『スコール』……!?」

 

 一応は味方に斬られたこの状況……オータムの頭は、逆に冷静になっていた。ソルが、単独でこんな行動をとるはずが無い。だとすれば、スコールの命令だ……。

 

 推察通りに、コレはスコールがソルに下した『もう一つのお願い』である。その全貌は、次オータムが役に立たないようならば……そこで見限るという内容だった。

 

 だからこそあの時のスコールは、らしくないとソルは思ったのだ。とは言え、命令は命令だ。結果的に、こうして実行されるに至る。アラクネが強制解除されたオータムは、気絶しながら海へ真っ逆さまに落ちていく。

 

「危ない……!?」

 

「余計な事はするな、貴様も斬るぞ……更識 簪」

 

 オータムを助けようとした簪だったが、ソルに切っ先を向けられ動きが止まる。もはやこれまでか、そう思った時の事だ。何か、高速で接近する機体が……。

 

 それは、ガタックエクステンダーだった。それを確認した簪は、生きていてくれたと表情を緩ませる。とりあえず真は、空中でオータムをキャッチすると簪の近くへ着いた。

 

「真……!」

 

「簪……無事でよかった。だけど悪い……アイツとの話が先だ」

 

「…………」

 

「おいソル……。一つ聞くが、んな下らねぇ事を優先させた……なんて言わねぇよな?」

 

 簪が斬られないで良かったが、また話がややこしい事となる。なぜならソルは、味方を斬るために真との戦闘を放棄したのだから。

 

 半ギレな様子でソルに問いかける真だが、ソルはどう説明していいか迷っていた。そして、包み隠すのを止める事にしたらしい。ソルはゆっくりと、口を開く。

 

「ウチの上司は、どうやら決着を着ける気は無かったらしい」

 

「ふざけんな……本当に怒るぞ、コラァ……!」

 

「怒りたいのは、オレも同じだ。貴様との誓いを違える事となる……!貴様との決闘が、単なる時間稼ぎでしかなかったなどと!」

 

 ソルは苛立ちがまた立ち込めて来たのか、ガン!とパーフェクトゼクターの刀身を殴りつけた。真もイライラはしているが、分析は止めない。

 

 つまりこの戦い事態が、何か他の作戦の隠れ蓑と言う事になる。だとすればそれは……?自分に非があると思っている今のソルならば、答えてくれるかもしれない。

 

「敵を騙すなら……味方からってか。で……結局スコールってのは、何がしたかったんだ?」

 

「…………。上を見ると良い。そろそろ時間のはずだ……」

 

バチバチバチバチバチバチバチバチ!

 

「なっ……これは!?」

 

「真が言ってた……ジョウント……!?」

 

 そう……真があの日見た映像と、同じ現象が起きている。辺り一帯を覆い尽くすような、巨大なジョウントが上空へと表れる。奥をよくよく覗いてみれば、繋がっている先は……宇宙のようだ。

 

 その先には、何か巨大な……空中要塞の様な物も存在している。まさかあれを、地球へ寄越すつもりなのだろうか?上を見上げていた真は、視線をソルへと戻す。

 

「何だってんだよ、アレは!?」

 

「カエルム・スカラム……と言う名らしい。アレで何をするつもりかは、知らん」

 

「つまりは、このレベルのジョウントを造るための……」

 

「そう……エネルギーをチャージさせるまでの時間稼ぎだったと言う事だ」

 

 岬が感知していた空間の乱れは、超巨大ジョウントが出現しかけていたことを表していた。今ごろラボラトリの面子は、大騒ぎになっている事だろう。

 

 いや……ラボラトリの人間だけでは無い。IS学園の生徒たちや……遠くから眺める一般人もみな一様に何事かと空を見上げた。

 

「ソル!無事だったか……」

 

「良いタイミングだエム。帰るぞ」

 

「真、簪!どういう状況だよこれは!?」

 

「俺に聞くな!こちとら混乱中だっての!」

 

 一夏とマドカが、それぞれの味方と合流を果たした。真と半ば言い争いをする一夏と、ソルの健在に安堵するマドカ……かなり対照的だ。

 

 興が削がれていたソルだったが、ますます戦う気を無くしたらしい。ただし……スコールへ対する憤りは残したままに、ジョウントの中へと消えていく。それにマドカも続こうとしたが……。

 

「ちょっ、ちょっと待て!マドカ!」

 

「貴様……その名で呼ぶなと言ったハズだ!」

 

「いいや、俺は何度だって呼ぶぜ。マドカ……俺達は、いつでもお前の事を待ってるからな!」

 

「ッ!?……クソッ!」

 

 一夏がそう言うと、マドカは悪態をつきつつ振り返った。そうしてソルと同様に、ジョウントでどこかへと消えた。しかし……上空の超巨大ジョウントは、決して閉じる事は無い。

 

 カエルム・スカラムと名付けられた空中要塞……あれが何なのかは、本当に解らない。だが、一つだけ解る事がある。今回の戦闘……ほぼIS学園側の敗北だと言う事だ……

 

 

 




これが九章って時点でお察しでしょうが、決着……つきません!

半ば『終わる終わる詐欺』とか『死ぬ死ぬ詐欺』みたいになってるかもしれませんが、ご勘弁のほど……。九章はまぁ……こんな感じで終了です。

あ、ちなみにですが……『カエラム・スカラム』はとある日本語をラテン語に直せば、これになります。まんま直訳ですけど。

カエラム・スカラムをどうしたいのだとかは、次回で明かすかも……?ってな感じで、次回の冒頭は、その後の亡国の様子からお送りします。

それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。

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