そう言えばですけど、ISの10巻が発売されましたね~。もちろん買って読んだんですけど、謎が謎を呼ぶ展開ですな……。
っていうか、もうちょっとタイミングが合えばマドカのあれこれももう少し構想が練れた気がするんですけれど……。
まぁ……こればっかりはしょうがないですね。タグにも一応はオリジナル展開と入れてますし……私なりの考えで進めさせて下さい。
それでは皆さん、今回もよろしくお願いします。
「おらぁ!」
「くっ……!」
対亡国機業戦にて、アリーナに転移しなかった3人の内1人である簪は、オータムの猛攻を受けていた。しかし……解せない。確かに簪とオータムは交戦したが、前回の一度のみだ。
真とソルがほとんど同一人物である事と、二度も真に苦汁を飲まされた事を考慮すれば、オータムは真っ先に真を狙うはず。
「何で自分が狙われてるか……って言いたそうな顔だなぁ嬢ちゃん!」
「……私には……関係ない……!」
ガギン!
「まぁそう言うなって、お嬢ちゃん」
確かに気にはなっていた簪だが、どちらにせよ倒さねばならない相手なのだから関係のない話だ。キッパリと言い放ちながら夢現を突き入れると、それはアラクネの装甲脚に防がれる。
どちらかと言えば、挟まれているような感じだろうか。簪は夢現を押しても引いても手応えは得られなかった。このままではいけないと思った簪だったが、オータムは攻撃もせずに語りだす。
「あのガキを絶望させるには、こっちの方が早いって思った訳よ」
「…………?」
「よっぽど大事みてぇだったしなぁ……。お嬢ちゃんをぶっ殺しちまえば、あのガキはどんな顔をするだろうな?」
「…………っ!」
オータムの今回の目的は、直接的に真やソルの妨害には無かった。狙いは、真と愛し合う関係である簪……。前回の様に嬲るのではなく、サクッと殺害してしまうつもりなのだ。
簪の死体を真に見せつけた時……その時の事を想像するだけで、オータムは愉悦を覚える。そうすれば戦う気力も失われるだろうから、ついでにソルの邪魔も出来るという算段だ。
ソルが真との一騎打ちに執着している事を、オータムは知っていた。それで更にソルの想いを組んでスコールが組織を動かしたとなると、オータムが気に入るはずも無い。
今回の作戦だって、本当はついさっきまで来る気がなかった。しかし寸前の所で、今の思惑が沸き出る。そうなるとオータムは、むしろやる気満々といったところか。
「クソガキどものケリには時間がかかるだろうしな……さっさと死んでくれよ!」
「私は……ううん……私達は、誰も……死なない!」
ズガン!
簪は夢現から手を離すと、春雷にて至近距離からの射撃を行う。しかしアラクネの背中から伸びた装甲脚が、殻に閉じこもるようにオータムを包む。
多少の傷がついてはいるが、特に堪えている印象は受けない。とりあえず簪は、落ちていく夢現を追いかけ手中に戻した。オータムの方は装甲脚をバッ!と開いて、本格的に臨戦態勢へと入る。
「ハッハッハ!みすみす人質になっちまった奴が良く言うぜ!」
「…………」
「嬢ちゃんは結局……あのガキの枷でしかねぇんじゃねぇのか?!」
オータムは簪の精神的ダメージ狙いな言葉を放ちながら、装甲脚8門で射撃を開始する。簪はそれを円を描く軌道で回避しつつ反撃に春雷を撃った。
だが装甲脚のうち半数を防御に回され、本体へのダメージは通らない。オータムはこちらの方が効果的と感じたのか、そのまま射撃を続行した。
ズガガガガ!
「どうしたよ、反撃できねぇかい?」
「それなら……」
簪は打鉄弐式の代名詞ともいえる山嵐の発射準備を開始する。スフィア・キーボードを呼び出すと、簡易的なロックオンで対象を捉える。
数多くのロックオン警報に、オータムは焦るどころかほくそ笑んで見せた。なぜならば、アラクネは山嵐に対して絶対的な攻略法を備えているからだ。
「行って……!」
ドシュウ!
「忘れたかよ、お嬢ちゃん!ミサイルの類は効かねぇぜ!」
山嵐から各一発ずつ、計6発のミサイルをアラクネに向けて撃った。するとオータムは、やはりエネルギーネットを張りそれを防ぐ。
蜘蛛の巣状のネットに絡まり、海に落ちるミサイル。一直線に伸びた糸が張り付き、それを引っ張り他のミサイルに叩きつける。……など、様々な方法を用いられて6発は全て撃墜された。
「ハハハハ……無駄無駄ぁ!残りのも一斉に撃ってみな、それでも今と大差はねぇぜ!」
「…………」
大した自信ではあるが、確かにそうなのかも知れない。残り42発を同時に撃った所で、あのエネルギーネットがある限りは苦しい。
しかし簪は、無言無表情を貫く。何を考えているのかが、全く想像がつかない。普通はもう少し悔しそうにしても良いはずだが、簪の表情にそう言った物は一切ないように見える。
(ケッ……!無表情の奴は……これだからよぉ……!)
オータムはもしかすると、自分は無表情な人間が好きでは無いのかも知れないと考える。ソルしかり、マドカしかり……そして、簪しかり。
漠然とした苛立ちを抱きながらも、オータムはまだ冷静であった。それこそ、この先に控えているだろう『お楽しみ』があるからだ。
「つー訳だ……嬢ちゃん。とっとと諦めちまいな!」
「御断り……します……」
諦めるとは、真の信条から遠くかけ離れた言葉である。簪は、何度も傍で見てきた。どんな困難にも立ち向かって、一握りの勝利を繋ぎとめてきた真を。
だからこそ、そんな真のパートナーである自分が……その選択肢を選んでいいはずも無い。オータムの一言は、むしろ簪の起爆剤となった。
「…………」
ドシュウ!
(あぁ……?どういうこった……この小娘……)
再び数発のミサイルが飛んできて、流石のオータムも意図が読めずにいた。訝しむような様子で簪を眺めたが、とにかくやる事は変わらないと、エネルギーネットを飛ばす。
何か仕掛けてくると警戒していたが、さっきとまるで同じような光景が繰り広げられた。策が無いなりの時間稼ぎかと、オータムは舌を打つ。
「チッ!嬢ちゃん!つまんねぇ小細工は……!」
「…………」
ドシュウ!
「はぁ!?どうなってやがる……?」
何度やっても無意味であるため飽きてきたオータムは、簪に再度の忠告を放つ。しかし……簪は、それを無視して山嵐からミサイルを撃った。
ここまで来ると、理解が及ばない。それに撃つならば、纏めて全てを撃った方がまだマシだろう。それなのに簪は、数発ずつのミサイルを小出しにして撃ってくる。
それも一度放ったミサイルが、全て撃ち落とされた後だ。その間は何もしてこないし、する様子も無い。打鉄弐式の持ち味を殺してしまっている。
普通は違和感を加速させるところだが、オータムはここにきて苛立ちが勝り始めてしまう。叫び散らしながら迫り来るミサイルを、難なく全て落としきる。
(この小娘が馬鹿とは思えねぇ……ぜってぇ何か目的があるはずだ)
イライラしながらも、そのくらいは理解できていた。だが……それだけに全く目的が見えてこない。そして、真意を考えれば考えるほどにイライラ……。
その悪循環のせいで、もはやオータムはいつもの状態と変わりない。きっと、それも目的の内の一つであることを視野に入れるべきだったろう。
しかし簪の狙いは、他にあった。そろそろ『仕込み』は十分と言った所か、簪は残ったミサイルを全て一斉に射出する。ここに来てのフルバースト……だが、オータムにもはや考える気などない。
「クソが!後悔するぜ、お嬢ちゃん!」
「それはきっと……貴女……」
「何!?」
ズドォン!
簪が放った残りのミサイルは、数にして約20発と言った所か。これまたオータムに接近して、エネルギーネットに捕えられる……と思いきや、簪は違う行動を見せた。
エネルギーネットに捕まったミサイルやそうでないミサイルを、自らの手で撃ち落とし始めたのだ。あまりにも予想外な行動なために、オータムは対処が遅れる。
これまで簪がそれを行わなかったのは、真の目的がオータムへの『刷り込み』にあったからだ。人間何度も何度もパターン化された行動を見ると、それはそう言う物だとある種の思い込みが出来上がる。
例えばゲームなどで敵キャラが、それまでと全く違う行動パターンを見せたらどうだ?ゲーム自体の難易度も関わるだろうが、初見なら少なからず驚くはず。
ゲームであれば、トライ&エラーでそのうち攻略してしまうだろう。しかし……これはあくまでも現実。一回の行動に全てを賭けると、攻略なんて不可能なのだ。
ズドドドド!!!!
「ぐおっ!?がっ!」
オータムは、直撃は全くなくともミサイルの爆風へと巻き込まれる。360度全体に渡り煙に巻かれ、まるで急に時間が夜になってしまった感覚だ。
そして、突然に煙の中から簪が現れる。攻撃を予測したが、簪の狙いはそれでは無い。目につくのは2つ1組になっている4基の山嵐。見ればそれは、エネルギーネットでつながっていた。
「なっ……まさか!?」
「そのまさか……」
山嵐は、アラクネの背部の装甲脚をエネルギーネットでグルグル巻きとする。煙に紛れて、こっそりと回収していたのだ。装甲脚がギチギチに巻かれると、簪は夢現で山嵐に付着しているエネルギーネットを切断した。
こんな事もあろうかと、ラボラトリに少し改造して貰っていた。夢現には、エネルギーネットの切断能力が加わっている。これも再戦を見越しての事だ。
「装甲脚……無効化完了……」
「テメェ……馬鹿か!?ミサイル全弾使ってやるような事じゃ……」
「貴女たち相手には……普通のやりかたじゃ勝てない……」
それでも相当にイレギュラーな作戦であった。常識を逸脱したと言うか、斜め上の選択肢と言うか……。だがまぁ……結果オーライと言った所だろう。
装甲脚を封じられたアラクネは、もはや単なる量産型ISに等しい。圧倒的に自身の有利が確定した所で、油断……とは少し違うが、簪は語り始めた。
「私が……真にとって枷……それは多分……間違ってない……」
「あぁ?」
「この間だってそう……。私のせいで……真が傷ついて……」
簪は思い出す……どれだけオータムに嬲られようと、自分の為に立ち続ける真を。その事を悔やむと同時に、簪は真がどれだけ自分の事を想ってくれているかを再確認するに至る。
「でも……悔やむのは、いつだって出来るから……。私は……前に進む……真の隣が……私の居場所……!」
「それが……足手まといだっつってんだろうがああああ!」
オータムは、激昂した様子で両手にカタールを呼び寄せる。対いて簪も夢現を構え直して、オータムへと接近していった。
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(小賢しい……。随分と避けてくれる)
ドン!
「なんの!」
ビームBT6基にて、マドカは一夏に対して射撃を行っていた。が、良い当たりは一度たりともない。それもそのはず、一夏は相変わらず『なんとなく』で避けているのだから。
サイレント・ゼフィルスの特性である偏光制御射撃……つまるところ操縦者の意思で曲がるビームを最大限生かしてはいるが、それも特に意味を成していないようだ。
「うおおお!」
「ふんっ……」
ガギイ!
(くそっ、攻守が堅実で……押し切れない!)
一方で一夏の方も決め手を見いだせないでいる。回避から反転し攻めに転じ、マドカへと斬りかかった……のは良い物のシールドBTである『エネルギーアンブレラ』に防がれる。
こうして防がれなくても蝶の羽を模した大型のスラスターによって、離脱を許してしまう事もしばしば……。お互いに、一撃離脱と言った所か。
(こんな事をしてる暇じゃ……!)
そう……一夏は、どうしても確認せねばならなかったのだ。今目の前にいる少女が、自身を織斑 マドカと名乗るこの少女が何者なのかを。
一夏は迷っていた。この戦闘中に声をかけるべきか、それともしっかりマドカを倒してからにするべきなのか……。この場に真が居てくれれば、上手い事やってくれていただろうに……。
(いや……何も真に頼ってばっかりじゃ、ダメだよな)
真は、一夏に対して『考えるのは俺がやる』と言った。その事が一夏は、とても嬉しかったのだ。自分は、ハッキリ言って馬鹿だ。その弱所を埋めてくれると、『あの』真がそう言った。
嬉しくないはずが無い……。ようやく分かり合えた男が、もはやそんな事をすっ飛ばして……こんな馬鹿な自分を親友だと言ってくれる。だから一夏は……考えない。
「お前は、一体なんなんだ?俺達姉弟にとって、どんな存在なんだよ?」
「…………」
一夏は、それが正解でも不正解でも……自身が最も自分らしいと思える選択肢を選んだ。そのために、戦闘中でもマドカに何者かと問いかける。
優しく語りかけるような声色だが、マドカの反応は鈍い。しかし……一夏には『姉弟』という部分に何か感じる部分があるのではないかと考える。あくまで、なんとなくだが。
「千冬姉は言った……血の繋がりだけが、家族じゃないって」
「…………」
「俺もそう思う。だから、千冬姉と似てる理由を聞かせてくれよ」
「…………」
「俺や千冬姉は、お前が何者だって構わない。だから、マドカ……!」
「……だ……まれ……!」
バイザーで顔は隠れているが、その表情は恐ろしい物だと一夏は感じた。なにより……錯覚だろうが、殺気が視認できるような気さえする。
一夏は悟った。この憎悪は『俺だけ』に向けられている物だと。そうなれば、それこそ考えている暇など無い。戦わなければ……殺される。
「私を、その名で呼ぶな!呼んでいいのは……姉さんと『アイツ』だけだ!」
「姉さん!?姉さんって、やっぱりお前は……!」
「死ね!消えろ!貴様の存在は不快だ!」
「くそっ!」
一夏がマドカを名で呼んだことが、よほど気に入らなかったらしい。先ほどまでの動きが嘘のように、フル稼働となったビームBTが一夏を襲う。
原動力が怒りであるせいか、どこかムラのある射撃だ。しかしそれを抜きにしても手数が違い過ぎる。ビームは白式の各所を擦れるが、クリーンヒットは未だ無し。
だがマドカは、ビームBTの射撃を回避する一夏を見ているだけでは無い。瞬時加速で距離を詰めると、至近距離でメインウェポンであるライフル『スターブレイカー』を当ててやろうと言う魂胆らしい。
「吹き飛べ!」
(避けれない!)
接近を許した一夏は、とっさに雪羅をエネルギー無効化シールドへと変形させる。見事に防御は成功な物の絶対防御の発動とどちらがマシか、くらいの差だ。
一夏は白式の燃費の悪さにウンザリしながらも、雪片をマドカ目がけて振るう。サイレント・ゼフィルスはBT二号機なだけあって、機動力も高めだ。まるで蝶の様にヒラリと躱されてしまう。
「ったく、なんだってんだ……?」
一夏は思わず、そう呟かずにはいられない。『マドカ』と、名前で呼んだ……それだけの事だ。だがあの起こりようは、マドカにとって『それだけ』では済まされないのだろう。
逆を言えば、千冬とマドカの言う『アイツ』……この両者は、マドカと呼んでもなんの問題も無いと言う裏返しのハズだ。これについて追及する事は、地雷である事くらい流石の一夏でも理解できている……。だが……。
「なぁ、アイツって……ソルの事だろう?!」
「……だとしたら、何だ?」
「いや、マド……お前にとって、大事な奴なのかなって」
「…………」
一夏は思う……マドカが復讐心のみで生きていないのだとすれば、それはきっとソルが居るからだと。その事を、少しでも聞き出しておかなければならない。
なぜなら、もしマドカにとってソルが大事な人間であったとしてだ。もしものことがあれば、一夏は真を止めにいく可能性だって考えられる。この少女にとって掛け替えが無いのなら……。
「……アイツは、世界だ」
「世界……?」
「私にとっては、奴が世界……奴が全て……奴と共にある事が……私の……」
ドン!ドン!
「!? くっ……!?」
「……存在意義だ。貴様を殺す次くらいにな……」
全くのノーモーションからの射撃を受けて、一夏はギリギリのところで回避に成功する。それにしても、この少女にそこまで言わせるとなると、やはりソルとマドカは……?
大体は、一夏の想像する通りである。と言うより今の発言は、半分は惚気に近い。だが……ソルとマドカの関係は、そこまで単純ではないのだ。
「お喋りはここまでだ」
「っ!待ってくれ、俺は……!」
随分と落ち着きを取り戻したのか、マドカは6基のビームBTによる射撃を再開した。例え怒らせようともまだ話がしたかった一夏だが、状況が振出しに戻ってしまう。
これが続けば、ボロが出てしまうのは明らかに自分の方だ。だが一夏は、決して焦らずに明鏡止水を継続させる。それが、この少女に勝つ唯一の方法だろう。
(結局……聞きたい事は聞けなかったけど。なんとなく……なんとなく見えて来た気がするんだ……!)
鍵となるのは、自分に向けられている憎悪……。あとそこだけ解ってしまえば、残りはイモ蔓式で分かってくると一夏は感じた。自分がいるせいで、この少女が苦しむ結果になったのかもしれない。
それでも自分は、千冬の弟なのだ。千冬の信じた自分なら……きっとこの子とも分かり合える。そうやって自分に言い聞かせると、姉の刃へ想いを乗せて自身へ向けられる憎悪へと立ち向かう。
知らない所で、自分の嫁が惚気る真とソル。
ソルとマドカの間柄は……最重要では無くて、どうでしょう……本編中で明かしきれない可能性もあります。その場合は、最終回後にキチンと補完しときますね。
まぁ現状は、お互いに好意は抱いているけど……お互い自分の目的を優先しているために、煮え切らない関係ってとこでしょうか。
まぁ……その辺りは別に良しとしておきましょう。次回から真VSソルのシーンに入っていこうかと思います。
それでは皆さん、次回もよろしくお願いします。