ってな訳で鈴ちゃん登場回でございます。
ぶっちゃけ冒頭の方は書かなくてもよかった気もしますが……。
それはさて置いときますか、書いちゃったモンは仕方が無いですし。
え?そんなことは無い……?お前がもっと話を練ればグダらないって?
…………そ、それでは!今回もよろしくお願いします!
「というわけで、織斑君。クラス代表就任おめでと~!」
「おめでと~!」
だれが言い出したが知らんが、織斑のクラス代表を祝うパーティーのようなものが開かれることになった。織斑自身ありがた迷惑だろうし、初めはパスしようと思ったんだが……。
『う~ん、流石に印象悪いと思うよ~?』
との本音の一言もあり、出席することに。出席っつっても形だけで、今も遠目で織斑を囲む集団を眺めれるくらいまで下がった位置にいる。
「これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」
「ほんとほんと」
「同じクラスになれてよかったねぇ」
「ほんとほんと」
「と、他クラスの者がおっしゃっております」
「まぁまぁ~」
眺めて見て知らねぇ奴がいると思ったら、本音曰く別のクラスからわざわざやって来たそうな。必死だねぇ……笑えるくらいによ。
「む、こっちのチョコバーはうめぇな」
「でしょ~?私もお気に入りだよ~」
俺の隣には安定の本音。パーティーの中心に混ざる気もねぇから本音が持ってきた菓子をさっきからボリボリ食っていた。
空き箱も増えてきたんだが、本音もよく食べるな……。普通の体型なのに栄養価は一体どこに消え去っているのか……。とか考えてると無意識的に本音の胸に視線がいってしまう。
しゃーないだろ、俺だって健全な男子高校生なわけだし、実際のとこ本音のソレは平均的な女子よりもデカイし。で、そんなにまじまじ見てたら視線に気づかれるわけで。
「どうかした~?」
「いや、なんでもない。ただ可愛いなって思っただけ」
「えへへ~、ありがと~」
……調子狂うなぁ……もう……。はぐらかすために冗談半分で言ったつもりなんだが、普通にそういう返しをされると対応に困るんだが。
俺は何を話し出して良いか分からず、無言で本音が用意してくれた菓子を貪りだす。ぬぉおおおぅ……何でらしくも無い発言をしたかね……?本音にそんなの効かないって分かってんじゃんよ。
「ああ、いたいた。えっと、加賀美 真君……で合ってるよね?」
「はぁ……?そうっすけど、アンタは?」
「新聞部の人だよ。俺達の話が聞きたいんだってさ」
人込みをかき分け一人の女子が俺に話しかけた。リボンの色からして上級生。訳が分からんで生返事をすると、織斑がフォローを入れてくれた。
「加賀美君にも挨拶ね!私の名前は黛 薫子。織斑君が言った通り、新聞部所属ね。ハイこれ名刺」
「あぁ、こいつはどうも。改めて、加賀美 真です。こちらこそよろしく」
「なんか……いつもと偉く態度が違うんだな」
「うっさいわ、相手がきちんと礼節をわきまえれば俺もそれには答えるっての。どっかの英国淑女みたいな対応になるケースは稀だ」
「むっ、昔の事を掘り返さないでください!」
名刺を受け取りつつ織斑の言葉に返事をする。俺に指さしながら大きい声を上げているオルコットはスルーで、別に前も言ったが怒ってる訳じゃないけどな。ただ、オルコットはしばらくこういうイジリ方をするつもりだ。
「あはは……仲がいいんだか悪いんだかだね。それより加賀美君。質問、いいかな?」
「まぁ、俺が答えれる範囲なら」
黛先輩は嬉しそうに「ありがとう」という。断られると思ってたんだろうな、日ごろの俺の態度なんてのは耳に入ってると思うし。
「早速……というかさ、多分みんな一番これが気になってると思うんだけど、加賀美君と本音ちゃんって付き合ってるの?」
いきなりブッコんで来たよこの人。というか、やっぱりそういう噂は立ってたのな。おいコラ女子達、露骨に盛り上がるんじゃありません。そういうのは下種の勘繰りって言うんだぞ?
「別に付き合ってるわけじゃ……」
「付き合ってないですよ~」
俺が否定しきる前に本音が否定しおった。いや……間違ってないよ、俺と本音は付き合ってなんかないよ、だけど本音に否定されるとなんか悲しい。
「え~、本当に~?尾行してたけどそうにしか……っと今のナシね」
「尾行っつったよね?今聞き捨てならないこと言いましたよね?」
「じゃあ次の質問ね」
「はぐらかしかた雑すぎんだろ!」
うっかり口を滑らしたらしいが、俺のツッコミは完全に無視して次の質問にいこうとする。何を言っても無駄そうなのでとりあえず気にしないことにする。今後はガタックゼクターに不審人物がいないか警戒してもらわないとダメだな。
「加賀美君とZECTの関係って、どんななの?」
「爺ちゃんがZECT会長ですけど」
ビシッ!と一気に空間が凍りつく、キョトンとしているのは織斑のみ。なんか似たような状況をこの間も見たような気がする。ま、爆弾発言だとは自分でも思うけど。
「え、えーっと……ZECT会長が加賀美って苗字なのは私でも知ってるよ?でもそれだけじゃちょっと……」
「はぁ……そんなに信じらんねぇんなら良いっすよ、証拠があるんで」
俺はポケットから携帯電話を取り出す。そんで電話帳登録されてある「爺ちゃん」の項目を選ぶ。さて、爺ちゃん忙しくねぇと良いが……。
『真。何かあったのか?』
「いや、滅茶苦茶つまんねぇ用事なんだけどさ、忙しいか?」
『今は資料に目を通しているところだ。別段忙しくもなんともない』
それは良かった。流石にこんな用事でZECT会長の仕事の邪魔とかできるわけないだろ?確認が取れた俺は、話を切り出す。
「いやさ、俺と爺ちゃんが血縁なの誰も信じてくれなくて。こうなったら本人出したろかいと思って」
『無理もない。そもそも私たちが出会ったのが最近なのだからな』
「それもそうだ」
『事情は分かった。テレビ電話をすれば信じてもらえるだろう、掛け直すからいったん切りなさい』
「サンキュー爺ちゃん。悪いね、こんなのにつき合わせて」
爺ちゃんは構わないと口にして電話を切った。それに合わせて俺も一度電話を切り、爺ちゃんの着信を待った。そして数十秒後、携帯電話が震えだす。
「どうぞ」
「え?わ、私?」
電話を取らないままの状態で携帯を黛先輩に差し出す。おずおずと携帯電話を受け取った黛先輩。その後ろには携帯の小さなディスプレイをのぞこうと、多くの女子が群がる。
「で、出るよ……」
ピッ
『これはこれはどうも、IS学園の生徒の皆さん。私が加賀美 真の祖父、加賀美 陸です』
「「「「「「ほ、ほんものぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!???」」」」」」
ディスプレイの前に現れた爺ちゃんを見て、ドゴン!と地響きが発生するほどの声が上がる。爺ちゃんのほう音割れが酷いだろうに、耳大丈夫かな?
「え!?お爺さん!?加賀美会長……実のお爺ちゃん!?」
「だからそう言ったじゃないっすか」
「それじゃあ加賀美君ってセレブ!?」
「玉の輿!?」
「わ、わたくしはとんでもない方に暴言を言っておりましたのね……?」
「なぁ箒。真の爺さんってすごい人なのか?」
「……お前はそれを本気で言っているんだな!?そうなんだな!?だったら教えてやろうこのバカ!」
なんつーか、カオスだな。返してもらった携帯を見てみると、何とも楽しそうな顔で爺ちゃんは笑っていた。っていうか、本当にこのZECTの影響力はなんなんだ?イギリス貴族のオルコットですら表情が硬いんだが?
「なぁ爺ちゃん。アンタ何物?」
『ハッハッハ……。ただの意地悪なお年寄りだ』
激しく同意しとく、なんていうか俺にも本質を見せようとしていない気がするぜ。血縁だとは言え、まだ信頼されてないとかかな?いつか腹を割って話せればいいが……。
「あっ、そうそう爺ちゃんに聞きたいことがあったんだが……どうするかね、これ?」
『収拾がつかんな。まるで天敵に襲われた動物の群れだ、ははっ』
いや、ははっじゃないよ。身近にセレブってIS学園じゃ別に珍しい事じゃないんじゃねぇの?何もそこまで騒がなくても良いだろうに。
「かがみん~席を外しても大丈夫だよ~。私が話しておくから~」
「おっ、そうか?悪いな、本音。それじゃ、俺は離脱するよ」
「うん~。またね~かがみん~」
「ああ、また。菓子、うまかったぜ。ありがとな」
いまだ阿鼻叫喚が収まらない面子を背に、俺は静かな場所を目指して走り出す。適当な場所になるとすると、やっぱ外がいいか。
そんな訳で外までくれば、すっかり夜も更け人の気配も無い。ここなら誰かに聞かれる心配もなさそうだ。
『今の子は、お友達かね?』
「ん?あぁ……一応な」
『そうか、大事にすることだな。さて、聞きたいこととはなんだ?』
爺ちゃんも俺が静かな場所に出ているのを悟ったのか、話を切り出してくれた。俺は、疑問に思っていたことを単刀直入に口にする。
「ガタックゼクターが記録した映像、見たよな?」
『あぁ、もちろん。それが、どうかしたかね?』
「織斑 一夏の専用機……白式なんだけどさ、アレ第三世代型じゃないよな?」
『…………』
俺の問いかけに対し、爺ちゃんはとりあえず無言で返す。俺はそこにマシンがトークで言葉を畳み掛ける。
「白式の雪片が光ってたけど、後から聞いたらバリアー無効化攻撃らしい。原理としては白式のシールドエネルギーを雪片の出力に変換……。どう考えたって雪片の能力じゃなくて白式の能力だ」
『…………』
「つまり、あれは唯一仕様と見て間違いないよな?だから疑問なんだよ、唯一仕様が発現するのは二次移行が起きてから、しかも必ずしも発現するとは限らない」
『…………』
「だけど知っての通り白式は一次移行したばかり、ここから導き出される答えは白式は第四世代型の……」
『真』
ようやく口を開いた爺ちゃんは、ただ一言俺の名を呼ぶ。それだけで理解できた、爺ちゃんは俺の事を制しているんだと。
「……何さ?」
『藪をつつけば蛇……と言うが。世界の裏側をつつけば、何が出てくると思うかね?』
いきなり何を言い出すかと思えば、訳の分からん質問をされる。動物とかに例えて質問を投げかけてくるのは爺ちゃんの専売特許だが、本当に訳が分からん。恐ろしいものでも答えとけばいいのか?
「知らね、鬼とかそんなん?」
『兎……だろうなぁ……』
「はぁ?兎……?」
『あぁ、そうだ……兎さ。それも月に魅せられ狂った哀れな兎だ』
電話越しに爺ちゃんは怪しい笑い声を聞かせる。あぁ……今分かった、これは警告だ。兎のどこが危険かは分からないが、とにかく爺ちゃんが「この件にはかかわるな」と言っている。
「触らぬ神に祟りなしってか?」
『そういう事だ。命が惜しければな』
そんなに大事なんっすね?命を脅かしかねない兎って……いったいどんなだよ。想像するだけでかなりシュールだけど。
「分かった。まだ死にたくないから黙っとく」
『それが良い。では、もう切るぞ』
「うん。手間かけさせて悪かった」
『構わんさ。それと、クラス代表決定戦……だったか?よく戦ってくれた。今後も、真なりのペースで頼む』
「……ああ!」
爺ちゃんから労いの言葉を貰えたのが嬉しくて、俺は大きく頷きながら返事をする。そのままワンテンポ置いて通信を切断する。
携帯電話をしまったところで思い出す。あの阿鼻叫喚のパーティー……どうするか、今から戻ったってまた質問攻めな気もするし、今日は大人しく帰ることにしよう。
「ちょっと、なんで「アイツ」以外の男がここにいるの?」
「あん?」
誰もいないし誰も来ないと思っていたら、突然話しかけられる。目を向ければ、当たり前だが女子。顔はアジア系だが日本人ではなさそうだ。小柄でスレンダーな体躯、綺麗にまとめられたツインテール。特徴を上げるとすればこんなもんだろう。
「俺の事は報道規制されてるからな。外人ならなおさら知らねぇだろ」
「ふ~ん……それじゃ、アンタが二人目なのね。私は鳳 鈴音。中国の代表候補生よ」
え?こんなちんちくりんが?っへ~代表候補生にもいろいろいるもんだなぁ……。ってことは転校して来たって事で良いのか、俺には関係ない話だけど。
「俺は加賀美 真。文字通りZECT背負ってる」
「げぇ!?ZECT!?」
その場でクルリとまわって背中のZECTマークを見せながらそう言ってやると。なんかやっぱりビビった感じのリアクションが帰ってくる。
「アンタ……いったいどんなコネ使ったの?」
「爺ちゃんがZECT会長」
「はぁ!?ちょっ……嘘ぉ!?」
「あぁ、良い良いそういうリアクション。もうお腹いっぱいだから」
「何よその態度は!」
俺の言葉に鳳はグルルと歯をむき出しに……。いや、こいつの場合はネコ科の表現が近そうだ。改めて、フシャーッ!と全身の毛を逆立てた。
「俺はいつでもこんな態度だから気にすんな」
「そ、いい性格してんのね」
「それ、俺にとっちゃあ褒め言葉にしかなんねぇぜ?」
鳳は皮肉を言ったつもりだろうが、そんなセリフはとっくに聞き飽きた。ニヤリと凶悪な笑みを浮かべてやると、鳳はうわぁ……と小さく呟く。
「ま……この際いいわ、話しかけたのも道が聞きたかっただけだし」
「へぇ?迷子か」
「うっさいわね!いちいち茶化すの止めなさいよ!」
沸点低いな、ちょっと煽ってやっただけで噛みつき具合が半端じゃない。分かっててやってんだけどね、これはこれで面白いし。
ブツブツ言いながら鳳が取り出したのは、この学園の案内図のようなものらしい。慣れてない人間がここを歩けるかと言われれば無理だろうしな……。
「ここ、本校舎一階総合事務受付ってとこに行きたいんだけど」
「ふぅん……?」
鳳から案内図を受け取り、総合事務受付なる場所を見る。で、思った……この学園にんな場所あったっけ?と。興味のある場所というか、行く用事のある場所しか頭に入れてないしな……うん、知らん。
「分からん、他を当たれ」
「はぁ!?ちょっと待ちなさい!」
「グェ!?」
分からない物は分からないと割り切り、とっとと去ろうとする。しかし、鳳は振り返った俺の制服の襟を思いっきりつかんだ。
俺と鳳ではかなりの身長差があるために、首は相当な勢いで閉まる。かなり苦しいさ、だがそんな事を言っている場合ではない。早く鳳を止めなくては、彼女の身のほうが危険だ。
「困ってる女の子がいるのに「分からん」の一言で済ませる気!?そうはさせないわよ……!」
「ちょっ……待て、鳳!今すぐに手を離せ……!でないと……」
「気絶しそうです~!っての?そうねぇ、本気で案内する気になったら離してあげる」
「下手すりゃ死ぬぞ!」
「はぁ?あんた何言って……」
ブォン!!
瞬間。ご存知俺の相棒であるガタックゼクターが、流星も裸足で逃げだすくらいのスピードで鳳目がけて突っ込んでくる。イカンよ!外国の代表候補生に怪我させたとか、軽く国際問題だよ!?
「直接攻撃禁止ー!!!!」
『キュイィィィィィ……』
俺がとっさに捻り出した言葉に、ガタックゼクターはしっかり反応した。鳳に向かって飛んできていたが、カクンと方向転換して俺の制服の襟を貫く。
「キャッ!」
襟が千切られた影響で、さっきまで襟に力を込めていた鳳は、支点を失い反動でその場に尻餅をつく。ってか……制服が……なんか襟の後ろの部分だけロックな感じに……。
「とはいえ、間一髪だったな……」
「ちょ、ちょっとぉ!なんなのよソイツ!?」
「あぁ、コレは俺の専用機。今は待機形態……みたいなモンだ、正確に言えば少し違うがな」
『キュイイイイイ』
ガタックゼクターはいまだに鳳を警戒の眼差しで見ていた。なんかイキイキしてないか?まるで獲物を見つけた肉食動物のような……。織斑先生に攻撃できないで鬱憤がたまってたとかそんなん?
「待機形態で自立行動するISとか……やっぱ規格外だわ、ZECTって……」
「そんな腫物を見るような目は止めとけ、さもないと……」
『キュイイイイ……』
「わ、分かったわよ……」
「さもないと」の続きはあえて語らず、無言でガタックゼクターを突いてやると、鳳は俺が何を言いたいのか分かったらしく、埃を払いながら立ち上がった。
「あっ!良いことを思いついたぞ、鳳」
「何よ突然?」
「ガタックゼクターに案内をさせる。こいつは便利で、そのくらいなら簡単にできるからな」
「その間アンタはどうする気よ?」
「へ?帰るけど?」
「アンタ正気じゃないでしょ!?ついさっきアタシに危害を加えようとしたヤツに道案内させるとか!」
ツッコミが鋭いのは分かったが、長く聞いてるとうるさいなコイツ。このままギャーギャー騒がれても困るし、俺も付いて行く事にしよう。
「分かった分かった。俺も付いて行くから、それなら文句ないな?」
「まぁ……それなら良いけど……本当に大丈夫なの、ガタックゼクター……だっけ?」
「鳳が余計なことをしない限りはな。ガタックゼクター、本校舎一階総合事務受付って所まで案内を頼む」
『キュイイイイ……』
「あっ!……ちょっと待ちなさいよ!」
面倒なので鳳の言葉には適当な返事をしておく。ガタックゼクターは俺が命令すると同時に行動を開始し、俺もそれをすぐに追いかけた。少し躊躇ったのち鳳も付いて来る。
先頭をガタックゼクター、そのすぐ後ろを俺、距離を置いて鳳と傍から見たら良く分からん一列は、目的地目指して向かってゆく。
鳳はガタックゼクターにビビっているため、会話すらままならない。むしろ俺が足を止めて後ろを振り向こうものなら……。
「なっ、何よ?」
「……別に」
と、こんな感じに警戒心を隠そうともしない視線が俺を指す。そんなに警戒しなくたってガタックゼクターをけしかけたりはしないっての……。
そのまま一列で歩くこと数分。ガタックゼクターが少し遠くにある校舎をツンツンと顎で突くようなジェスチャーを見せる。どうやらアレがそうらしい。
「ほら、アレがそうだってよ」
「あ……結構近くにあったんだ」
そう呟くと鳳は小走りで俺とガタックゼクターを追い抜く。俺の位置から背中全体が見えるあたりまで来ると、鳳は少しモジモジするような仕草を見せると、俺達の方へ向き直った。
「そ、その……一応感謝しとくわ。あ、ありがとう」
「ハッ、礼ならガタックゼクターにな。俺は何もしてねぇよ」
「そうね……。さっきはゴメン。それと、ありがとう!」
『…………』
まさかの無反応である。声をかければ必ず何かしら反応はあるはずなんだが、許してないって事か?この先の鳳が心配だ。
「それじゃ、またね!」
なんだかしんみりしていたが、鳳は元気に手を振りながら走り去っていった。あっという間に鳳の後ろ姿は小さくなって行く。はぁ……それじゃあ俺も帰りますかね。
とにかくこのロックな襟の制服をどうにかしたい。部屋に帰るまで誰にも遭遇しなきゃいいがなぁ……。俺は千切れた襟をいじくりながら歩き出した。
**********
「くは……眠ぃ~……」
などと呟きながらの登校。一組の教室へと入ると、いつもと教室の雰囲気が違うのを感じる。耳を傾けることはしないが、どうやら噂話のようだ。
なんだろうと俺には関係のない話だ。教室に入ったことにより、何人かの視線を感じるが、とりあえず無視して自分の席に座った。
……噂話とは別で、俺を囲ってる女子が数人……か、遠巻きに俺を見てヒソヒソと何かを相談しているようにも見える。恐らく昨日の件だろう、俺がZECT会長の実の孫と知って話しかけたい連中って感じ?
(ダルッ……話しかけるならそうしろよ)
話しかけてくる内容はどうだっていい。ただ単に興味本位でもいいし、何か策略があってでもだ。こうやって距離を置かれて敬遠されている状況が堪らない。
ホームルームまでもう少し、それまでこの状況はストレスでしかない。俺は時間まで居眠りでも決め込もうとするが、俺に話しかけてくる女子が一人。
「おはよう~かがみん~!」
「よぅ、本音。機嫌がよさそうだな?」
「うん~、それがね~。中国から転校生が来るんだって~。それで私もどんな子かな~って楽しみなの~」
「中国?あぁ……昨日の……」
本音の「中国」「転校生」のワードを聞き、俺の脳内の検索項目に引っかかる女生徒がいた。確か名は「鳳 鈴音」だったか。
俺は思い出しついでにそう呟いた事を軽く後悔する。なぜかって、一組にいる生徒という生徒の視線が俺に集中してるからだ。
噂の転校生に先んじて出会っているとなると、それはもう話を聞きたくなるのも当然だろう。結果、俺の周りには女子が集まるハメになる。
「加賀美君、会ってるの!?」
「あぁ、まぁな。昨日道に迷ってたから……」
「どんな子だった?」
「どんな子って……。チビッこい奴だった、女子にしても小さいんじゃねぇの?」
「キャー!妹系かな?きっと可愛いんだろうな~」
なんて妄想を膨らませる女子達。可愛いねぇ……鳳が可愛いのは認めるが……「可愛げ」はなかったな。なんか俺と同じ匂いを感じるんだよ、こう……皮肉言わなきゃ済まないみたいな?
「なぁ、真。その女子の髪型ってツインテールじゃなかったか?」
「あ?うん……確かにそうだったが、なんで知ってんだ?織斑」
以外にも食いつきが良い織斑は、俺に質問を投げかけてきた。織斑は俺の返答には答えず「やっぱりか……」とか呟きながら顎に手を当てていた。
「お前に他の女子を気にしている余裕があるのか?」
「そうですわ一夏さん!」
織斑が女子の話題に食いついたとなると、面白くないのはこの二人である。そんな態度だから気付いて貰えないと思うんだが……知ったこっちゃないな、観察対象が減るのも面白くないし。
「ま、やれるだけやってみるか」
「それでは困りますわ!一夏さんには勝っていただかないと!」
「そうだぞ、男たるものそんな弱気でどうする」
「おりむ~が勝つとみんな幸せだよ~」
「ん?本音、なんで幸せだ?」
「えっとね~、一位のクラスには~、学食デザート半年フリーパスがもらえるんだよ~」
「ふ~ん……そいつは初耳だ」
例によって俺が聞いてなかったって可能性が大だろうが、実質デザート食い放題みたいなもんだな。そいつは本音をはじめ女子には嬉しい限りだろう。
こいつも俺には関係ないな、本音とよく甘いものを食べている俺だが、別に執着があっての事じゃない。好きでもなければ嫌いでもない程度のものだし、半年分あっても持て余すだけだ。
(ん?待てよ……)
もし織斑が優勝でもすれば、一組の生徒だけがフリーパスをもらえるわけじゃん?ほかのクラスの奴らは残念なわけじゃん?その残念な奴らに適当な値段でふっかけりゃ無駄にならなくて済むじゃん?
チーン!俺の頭の中のレジスターが音を立てて開いた。
「織斑。勝て、俺はお前ならやれるって信じてる」
「ど、どうした真……?今日はやけに熱いっていうか……。気持ちが熱いのと裏腹に、なんか目が濁ってるのは気のせいだよな?」
「目が濁ってる?馬鹿を言うな、俺はお前を信じてるって言ったろ。お前を信じる俺を信じろ!」
「ま……真……!」
俺の言葉に織斑は感動している様子だ。ちょろい(確信)爺ちゃんがいくらセレブとはいえ俺自身は小市民以外の何物でもない。甘いものはどうでも良いが、金はあっても困らない!ケケケ……さぁて他クラスの連中にいったいいくらでふっかけてやろうか?
「織斑君、頑張ってね!」
「今のところ専用機持ちは一組と四組しかいないから、楽勝だよ」
「その情報、古いよ?」
時代劇なら「何奴!?」とか言いながら振り返りたくなるようなセリフが一組のドア付近で聞こえた。ドアのほうを見てみると、件の転校生である鳳がドアにもたれかかりながら片膝立てて立っていた。
……痛ててててててて、鳳よ現実でそんな立ち方してもタダの痛い人か中二病だ。お前の事は俺以外が初見なんだから颯爽と登場したところで全員ポカンだぜ?
「なんだ。やっぱり鈴だったのか」
「そうよ。中国代表候補生。鳳 鈴音……今日は宣戦布告に来たわ」
「何恰好つけてんだ?すっげぇ似合わないぞ?」
「なっ、なんてこというのよアンタは!」
やっぱりか、とか言ってたからもしやとは思ったが知り合いらしい。さっきまでクールに決めていたのが、知り合いの前では形無しだな。
「おい」
「なによ!」
スパァン!
急に話しかけられたせいだろうが、織斑先生を前に言い訳は無用。鳳は例にもれず出席簿で思いっきり頭を叩かれる。
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。それともう時間だ、さっさと自分の教室に戻れ」
「はっ、はい!」
強気っぽくても流石に織斑先生にはかなわないらしい。鳳は逃げるようにして自分の教室に帰って行った。織斑と知り合いって事は織斑先生とも知り合い……この人と昔からの知り合いとか、やってられんな。
スパァン!
「何か言ったか?加賀美」
「……「口では」何も言ってないっすね」
「貴様はいい加減その減らず口を何とかしろ」
スパァン!
痛すぎる。もう本当にサンズリバーが見えてきた。織斑先生はついでと言わんばかりに織斑に鳳との関係を問い詰めていた女子達に出席簿を浴びさせる。
(って本音の奴は大丈夫か?)
心配になって本音の席に視線を向けると、いたってケロッとした様子で手を振っている。……叩かれる前にさっさと自分の席に戻りやがったな、布仏 本音……やりおるわ。
スパァン!
「貴様はアレだな。私の授業だと高確率でニヤけているが、そんなに私の指導が嬉しいか?ん?」
「学校にいながら、まるで軍隊にいるかのような指導が受けれるぞ~。わ~い嬉しいな~」
スパァン!
「それが最後の警告だ。次は知らんぞ?」
「…………はい」
ここで「う~す」とか「はいはい」とか生返事をしたら殺られる。そう悟った俺は二度と織斑先生に皮肉は言わないと誓う。
俺は織斑先生の出席簿四コンボという空前絶後の指導を受け、グワングワンと揺れる脳みそで授業を受けるハメに、自業自得なのは自分でも分かってるって。
だからこそ後悔している途中なのだ。重ねて誓う……織斑先生には二度と皮肉は言わない、ふざけない、良い子でいる。俺の人生に「一年一組で賢く生きるためのコツ三信」が刻まれた瞬間であった。
鈴ちゃんと真……仲良くなりさえすれば最強の漫才コンビな気がします!
配役はもちろんボケが真で、ツッコミが鈴ちゃんでしょうな。
鈴ちゃんの登場の時間軸が原作とかなりずれてますが、しっかりと一夏&箒が仲良さそうにしてたシーンは目撃してます。
原作と違って鈴ちゃんは目的地が見つけられず長い間ウロチョロしていたって事で。
目的地が見つからないで涙目になりながらも、ようやく見つかった人に「やっと道が聞ける!」という喜びを隠しつつ強気で真に話しかける鈴ちゃん……可愛い。
次回はどこまで書けるでしょうか?予定としては一夏と鈴ちゃんのケンカくらいまでかな~と思ってます。
それでは皆さん、また次回でお会いしましょう。