FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~   作:えんとつそうじ

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どうも、えんとつそうじです。


今回から楽園の塔編。いろいろ前作とは違うところもありますが、話の展開的にはそう変わりませんので、どうか暇つぶしにでもお読みください。


奴隷時代編
第六話 楽園の塔


 その塔はアースランド、カ=エルム近海のとある孤島に、人目を忍ぶかのようにひっそりと建っていた。

 

 

 名は『楽園の塔』。正式名称はRリバイブシステムと呼ばれる、死者を蘇らせる禁忌の魔法であるこの塔は、歴史上最強最悪と名高い魔導師『ゼレフ』を信奉する魔法教団によって支配されており、またこの塔は政府も魔法評議会も非公認の建設だったために、ここでは彼らが各地からさらってきた人々が奴隷として働かされていた。

 

 

 教団の神官たちは、自分たちが崇拝する神の復活を少しでも早く行うため、奴隷たちに向かって、日々罵声を浴びせる。

 

 

「おらおら、チンタラしてんじゃねえぞ!」

「偉大なるゼレフ卿復活のために、働けることを、光栄に思うんだなあ!!」

 

 

 鞭を地面に打ち付け、脅しをかけながら、飽きもせず延々とそんなことを叫び続ける神官たちに怯えながら、奴隷たちは大人しく働いていたが、そんな彼らの中の一人。赤い瞳を持つ少年は、神官たちのそのような横暴な姿を見て、侮蔑の念を込めて、舌打ちをする。

 

 

「……あいかわらず、ピーピー、ピーピーうるせえなあ、あの豚どもは」

 

 

 そんな彼の言葉に、一緒にいた緋色の髪を持つ少女は、辺りを慌てて見渡しながらも、そんな彼の言葉を小声で窘める。

 

 

「シっ!そんなこといって、聞こえたらどうするの!?」

「そんなへまはしねえよ」

 

 

 少女の言葉に、少年はどこか拗ねたようにそう答えるが、少女が自分のことを心配してくれてそういったのを、理解したのだろう。それ以降、過激な発言をはせず、黙々と働き、少女はそんな少年の姿を見て、密かに安堵のため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 ―――この少年たちの名は「ユーリ・クレナイ」と「エルザ・スカーレット」。ローズマリー村より、この楽園の塔へと連れてこられた子供たちである。

 

 

 

 

 

 

 

 俺、ユーリ・クレナイは、今日の午後の部の労働を終え、奴隷のために用意された質の悪い食事の乗ったトレーを片手に、どかりとその場に胡坐をかきながら、深々とため息を吐く。

 

 

「はあー。やれやれ、今日も疲れたぜ」

 

 

 肩を揉みながら、思わずそう呟いた俺だったが、そんな俺に呆れたような視線を向けた者がいた。シモンだ。

 

 

「……気持ちはわかるが、オヤジ臭いぞお前」

「うるせえよ!?」

 

 

 シモンの言葉に、思わず咄嗟に大声でそう返す。

 

 

 前世ではもうすぐ40歳を迎える年齢だったので、オヤジには違いないのだが、実は気にしているので本当にやめてほしい。

 

 

 そんな俺たちのやりとりがおもしろかったのか、一緒にその場にいたエルザが、くすくすと含み笑いを浮かべながらも、俺たちを窘めるために、口を開く。

 

 

「ほらほら、二人ともそこまでにしておきなよ。早く食べないとご飯の時間が無くなるよ?」

「む」

「それもそうか」

 

 

 エルザのその尤もな言葉に納得した俺たちは、一時お互いに矛を収め、(まあ、この場合つっかかったのは、おもに俺の方なんだが)ここは、彼女の言に従い、食事に集中することにした。

 

 

「(楽園の塔(ここ)の食事は不味いが、食える時に食っておかねえと、ここの労働はきつすぎる。あの、神官(クソやろー)ども。こっちが逆らえないのをいいことに、徹底的にこき使ってくれるからな。―――あ、やべ。また、ムカついてきた)」

 

 

 沸々と湧き出てくる、黒いG以下の存在である神官(カス)どもへの怒りを抑えるために、ここは一つ、俺が気絶してしまってからのことを整理しようと思う。

 

 

 突如村を襲撃してきた、黒のローブを身に纏った男たちの魔法により気絶してしまった俺は、気がついた時には、今まで着ていた服とは違う、如何にもな汚れたズボンを穿かされ、手足をおそらくこの世界特有なのだろう、光の紐のようなもので繋がった錠で拘束されて、同じように汚れた服を着させられ、手足を拘束された人たちと共に、馬車のようなものに乗せられていた。

 

 

 おそらく、俺が気絶してからずっと様子を見てくれていたのだろう、同じく錠を課せられながらも傍にいたエルザから事情を聞いたところによると、なんでも俺が気絶してから、エルザはどうにか俺を助けながらも逃げようとしていてくれたらしいのだが、あの後他にも複数の男たちがやってきて、あっという間に拘束されてしまったんだそうだ。

 

 

 そして、そこで同時に村を襲撃したやつらの正体も聞いた。

 

 

 あの黒ローブの男たちは、黒魔導師ゼレフという、遥か昔、その絶大な魔力で世界を恐怖のどん底に突き落としたという、史上最凶最悪と称された魔導師を神と信奉する魔法教団で、この俺たちが現在いる楽園の塔(神官どもの何人かは、「R=システム」とも呼んでいたが)を完成させるために大陸各地で奴隷狩りを行っていたらしく、今回はその標的に、俺たちが住んでいたローズマリー村が選ばれたのだという。

 

 

 この楽園の塔は、なんでもゼレフの復活に必要らしく、やつらの当面の最優先事項らしいのだが、正直はた迷惑とかいうレベルではない。

 

 

「(まったく、そこまでゼレフとやらを復活させたいのなら、自分たちで勝手にやれってんだ。人を巻き込まないでもらいたいぜ)」

 

 

 幸い、シモンの妹のカグラだけは、エルザが咄嗟に隠したことで、神官どもの手からなんとか免れたらしいが。

 

 

 薄味のスープを一口含みながらそんなことを考えていると、

 

 

「―――もう、こんなところやだー!!」

「ん?」

 

 

 突然聞こえてきたその女の子らしき声に、そちらを振り向くと、兄弟だろうか?えぐえぐと泣いているカグラと同年代くらいの少女の姿と、それを必死で宥めようとおどおどしている一人の少年の姿があった。

 

 

 どうやら、日々続く奴隷生活に嫌気がさした少女の鬱憤が爆発したらしい。

 

 

 自然とそこにいた人々の視線は、彼女たちに集中したが、それが子供の癇癪だとわかると、あっという間に興味を亡くしたのか、すぐにその視線を戻した。子供が泣き叫ぶその光景は、この楽園の塔では珍しくもない光景だったからだ。

 

 

 だが、俺はそんな少女の姿が前世の妹と重なって見えてなんだか放っておけず、食べ始めたばかりの食事w持って、未だに泣きやまないその少女へと歩み寄る。

 

 

「お、おい……?」

 

 

 シモンの戸惑うような声を背に、俺はしゃくりあげるその少女へと近寄った。

 

 

「大丈夫か?」

「ふ、ふえ……?」

「え?」

 

 

 突然知らない人物の声を聞いたからだろう。二人は戸惑うような声を上げながら俺を見上げるが、俺はそれにかまわず、彼らの傍へと座り込むと、俺の分の食事が乗っているトレーを少女へ向かって差し出す。

 

 

「ほら、食え」

「え?」

「食べかけで悪いけど、少しでも腹が膨れればマシになるだろ」

 

 

 そして、少女が混乱から立ち直らないうちに、俺は少女と同じく、先ほどから状況が掴めず、困った顔をしている少年へと視線を向ける。

 

 

「俺の名前はユーリってんだ?お前らの名前は?」

「え?あ、俺はウォーリー。ウォーリー・ブギャナンっていうんだ」

「……ミリア―ナ」

「そっか、よろしくな。お前らはどこから来たんだ?仲がいいみたいだけど、ひょっとして兄弟かなんかなのか?」

「あ、え、違うよ。俺たちは……」

 

 

 そして俺は、少年『ウォーリー』と、少女『ミリアーナ』に、次々と質問を繰り返したり、俺のことについて話したりと、とにかく考える暇を与えぬよう、喋り続ける。

 

 

 やがて、そんないつもと違う俺の姿をいぶかしく思ったのか、シモンとエルザの二人が俺たちの方に近寄ってくる。

 

 

「どうしたの、ユーリ突然?」

「いったい、なんなんだ……」

「お、ちょうどいい所に来たな!」

 

 

 そういうと、俺はエルザとシモンへと近づくと、いきなり二人の肩を抱き寄せる。

 

 

「お、おい!?」

「え、な、なに!?」

 

 

 突然の俺の行動に戸惑う二人の様子をあえて無視して、俺は呆然とこちらを見ているウォーリーたちに笑いかける。

 

 

「こいつらは、シモンとエルザ。ここに来る前から一緒にいる俺の仲間だ。よろしくしてやってくれ」

 

 

 そういうと、俺はウォーリーたちに気づかれように、シモンたちに小声で話しかける。

 

 

「(適当に話に付き合ってくれ。考える暇を与えなきゃ、あの女の子も泣くことはねえだろ)」

「(は?)」

「(……ああ、なるほど)」

 

 

 俺の言葉にシモンは不思議そうな顔をするが、エルザはさすがに付き合いが長いだけあって(シモンとも長いっちゃ長いが、エルザほどではない)俺の考えがわかったみたいで、納得したような声を上げる。

 

 

 そう、俺は別に考えなしで、先ほどからべらべらと喋っているわけではなく、ミリアーナを泣き止ませるためにこうして、何も考えさせないように話し続けているのだ。

 

 

 おそらく、彼女が癇癪を起こしてしまうのは、これからのことを考え、嫌な考えが、つぎつぎと浮かび、それに囚われてしまっているからだろう。ならばそれを考えさせなければいいということだ。

 

 

 本当は、慰めるなりして泣き止ませた方がいいのだろうが、それだと時間がかかるし、彼女のことを何も知らない俺では、下手に慰めれば、何か地雷を踏んで、状況を悪化させるかもしれないからな。

 

 

 そして、シモンたちも会話に参加してくれたこともあり、俺の努力は実り、見事ミリアーナを泣き止ませることに成功した。

 

 

「(やれやれ、これで一安心か)」

 

 

 先ほどまでの泣き顔から一転、今は笑顔でエルザと談笑しているミリアーナの姿に、俺がホッと安堵の息をついていると、

 

 

 

 

 

「―――やさしいんだな、君は」

 

 

 

 

 

「あん?」

 

 

 突然聞こえてきたその全く知らない声に、俺は不思議に思いながらも後ろを振り向くと、そこにはエルザと同じくらいの年齢であろう少年が、穏やかな笑みを浮かべながらそこに立っていた。

 

 

 空のように蒼い髪に、おそらくこの世界特有の風習なのだろう、右目付近に書かれた刺青のようなもの。そして下手なアイドル顔負けの整ったその顔立ちは、おそらく大人の女性が見れば、この少年の将来にかなりの期待を持つだろう。

 

 

 だがなにより俺の印象に残ったのは、その黒曜石のような、黒く輝くその瞳。

 

 

 澄んだその力強く光るその瞳からは、この少年に宿る強靭な意志が感じ取れる。

 

 

 普段なら、同年代の少年とはいえ、俺は初対面の相手は多少なりとも警戒するのだが、不思議とその少年からは、こちらを警戒させるものを一切感じることはできなかった。

 

 

 いや、それどころか、いつの間にか自然とその少年に惹かれ始めている自分がいることに気づいた。

 

 

「……誰だ、お前?」

 

 

 そんな自分の心境に、自分で驚きながらも、俺がなんとか声を絞り出し、その少年にそう尋ねると、少年はさらに笑みを深める。

 

 

「ああ、そういえば自己紹介をしていなかったな」

 

 

 そういうと、少年は片手を俺に向けて差し出しながら、俺の質問に答えるために口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「―――俺の名前は、ジェラール。ジェラール・フェルナンデスだ。よろしくな」

 

 

 そういって、その蒼髪の少年、『ジェラール・フェルナンデス』は微笑んだ。

 

 

 

 これが俺、ユーリ・クレナイと、そんな俺の敵、そして生涯の親友(とも)となるジェラール・フェルナンデスの初めての出会いだった。

 




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