FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~   作:えんとつそうじ

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どうも、えんとつそうじです。


今回は原作キャラの二人が登場します。


第三話 妹思いの少年・シモンと兄思いの少女・カグラ

 俺、ユーリがこのローズマリー村に来て、既に一年が経ったのだが、それまでの間、いろいろなことがあった。

 

 

 店を繁盛させるために新メニューを考案したら、繁盛しすぎて店が忙しすぎて、あやうく忙しくなりすぎて店が回らなくなりそうになったり、ある日ゴロツキがこの村にやってきて、店で暴れだしたので、村の皆で袋叩きにしたり、大きな熊が村まで降りてきたので、なんとかしようと他の人がくるまで時間を稼ごうとしたら、思いのほか簡単に倒せて、一番俺がびっくりしたり。

 

 

 あ、そうそう。そういえば、エルザのことなんだが、彼女は新しくスカーレットという苗字を名乗ることになった。

 

 

 実はこの世界では、豊かなものと、貧しいもので、苗字、つまり家名があるものとないものがいるのだが、村長に詳しく聞いてみれば、これは別に身分で名乗っていい、名乗っちゃだめと決まっているわけではなく、血筋を残さなくてはいけない、身分の高い家柄の人間などが、構成にきちんとその名を残さないといけないために、家名を名乗る場合が多いのだとか。

 

 

 それを聞いた俺は、せっかく家族になったのだから、エルザも苗字があった方がいいかなーと思い、彼女に俺と同じ、「クレナイ」という苗字を名乗らせようと思ったのだが、よくよく考えてみれば「エルザ・クレナイ」ってなんか語呂悪いなーと思い、だったら、彼女にもっとぴったりな苗字をつけようと思い、いろいろ考えた結果、彼女に「スカーレット」という苗字を贈ったのだ。

 

 

 これは、彼女の綺麗な緋色の髪からつけた苗字で、最初は「流石に安直だったかなー」と思ったが、当のエルザは顔を赤くしながら「あ、ありがとう……」といってくれたので、まあ別にいいかなと思っている。

 

 

 そしてそんな日々を送っていた俺は、現在村付近にある森の中にある、とある開けた場所にやってきていた。

 

 

「それじゃあ、行くぞ」

「よし、来い」

 

 

 普段は、材料費節約、そして将来の冒険のために力をつけるため、この森で狩りを行っているのだが、最近では、俺と同じく強くなりたいという仲間を見つけたので、そいつと一緒に、ここで独学ではあるが、格闘術の訓練を行っているのだ。

 

 

 その仲間の名前は『シモン・ミカヅチ』。俺と同じく(俺の場合はあくまで肉体年齢だが)11歳ほどとなる少年だ。

 

 

「らあっ!!」

「シっ!」

 

 

 シモンがその年齢にしては恵まれた体格の良さを生かし、体重を乗せた突きを俺に向かって放ってくるが、俺はその突きを右手で押え、それを避けると、軽く左手でシモンの顔面に向けてジャブを放つ。

 

 

「ちっ!?」

 

 

 それにシモンは一つ舌打ちしながら、一旦俺から距離をとると、俺に向かって前蹴りを放つが、俺はそんな彼の行動に一つ笑みを浮かべると、俺に向かってくる彼の足を踏みつけ土台にすると、そのままシモンの顔面に向かって、飛び蹴りを仕掛ける。

 

 

「なっ!?ぐうう!!」

 

 

 さすがにこれは予測できなかったのか、シモンは驚きで瞠目し、咄嗟に両腕をクロスしながらその蹴りを防ぐ。

 

 

 しかし、流石に衝撃は防ぎきれなかったのか、シモンは呻き声を上げながら吹き飛ばされ尻もちをつく。

 

 

 シモンは、痛みに顔を歪めながらも、咄嗟に立ち上がろうとするが、俺が最後に彼の目の前に自身の拳を勢いよく突きつけると、彼は少しの間呆然としていたが、やがて何が起こったのか理解すると、小さくため息をついた。

 

 

「はあ……。降参だ」

 

 

 そのシモンの言葉と同時に、先ほどまで、俺たちの試合を心配そうに見ていた二人の少女の家の一人、エルザがどこかホッとしたかのような顔を浮かべながらも、片手を上げる。

 実は今回、この試合の審判を彼女に頼んでいたのだ。

 

 

「そこまで!勝者、ユーリ!!」

「兄さん!」

 

 

 俺の勝利を告げるエルザの声とともに、シモンへと急いで駆け寄るエルザよりさらに小柄な一人の少女の影。

 

 

 彼女の名前は『カグラ・ミカヅチ』。シモンの妹で、詳しくは聞いていないが、実は彼らもつい最近両親をなくし、現在は兄弟二人で、この村に住んでいるらしいのだ。……どうでもいいけど、この村の孤児率多いな。

 

 

 カグラは、自身の兄であるシモンの傍へと駆け寄ると、心配そうに声をかける。

 

 

「大丈夫、兄さん?怪我してない?」

「あ、ああ。大丈夫だ。大分手加減されたからな」

 

 

 シモンはカグラの言葉にそう答えると、その言葉通り、ダメージ自体はあまりないのか、すぐに「よいしょ」という掛け声と共に立ち上がる。

 

 

「ててて。しかし、あいかわらず強いな、ユーリは。俺も自分なりに時間のある時に練習してるはずなんだけど」

「そりゃあ、その格闘技教えたの俺だからな」

「ああ、確か「カラテ」っていったか」

「見よう見まねだけどな」

 

 

 そう、今練習しているのは「空手」。

 

 

 おそらく日本人が格闘技を習う場合、一番最初に思い浮かべる格闘技の名前がこれなのではないだろうか。

 

 

 実は、高校時代、友人の一人に「俺、空手始めようと思うんだけど、お前も一緒にやんない?」といわれ、その時から無趣味だった俺は、特にやることもなかったために、付き合いでそいつが入るという空手道場に入り、三週間ほどそこの門下生だった時があったのだ。(尤もその後すぐに両親が死んでしまったために、俺はすぐにここを辞めてしまったのだが)

 

 

 それで、そこで空手の基本は教わっていたため、せっかくだからとこうして度々練習しているのだ。もし、将来冒険に出る際、剣士になるか、もしくは魔導師になるかわからないが、最低限の体術は、必要だと感じていたからだ。

 

 

「でも、お前もかなり上達したよ。……初めて会った時に殴りかかってきた時とは、動きが雲泥の差だぜ?」

「ちょっ!?あ、あの時のことはいうんじゃねえよ!!」

「はははは」

 

 

 慌てるシモンの様を見て、笑い声を上げるエルザ。気づけば、先ほどまで心配そうに兄の様子を見ていたカグラも、俺たちのやり取りに、口元に笑みを浮かべている。

 

 

 そんな彼らと俺たちが初めて出会ったのは、俺が何時ものように森に狩りに出かけていた早朝。カグラがボロボロになりながらも、狼の群れに襲われているのを目撃したからだ。

 

 

 なんでも、彼ら兄弟は、俺が来るまでのエルザのように、森に山菜や木の実。それに薬草などを採りに行き、それを売って生計を立てているらしく、この時も、彼らはいつものように、山の幸を採りに森に入ったらしいのだが、この日は思ったより獲物が見つからなかったらしく、二手に別れて広範囲を探索していたらしいのだが、その時カグラが間違えて狼たちの住処に足を踏み入れてしまったらしく、そのせいで群れで襲われているところに、俺が遭遇したというわけである。

 

 

 それを見た俺は、以前話した通り、この世界に来てから自分の身体能力が格段に上がっていることを自覚しており、また、既に狩りをいくらか経験してため、獣の命をとることに躊躇することがなくなっていたために、手持ちのナイフで狼たちを追い払うことに成功し、無事に彼女を助け出すこともできたのだが、ちょうどその時に、彼女の悲鳴を聞きつけたのか、シモンがその場にやってきたのだが、その時の俺たちの光景を見て、彼にとある誤解をされてしまったのだ。

 

 

 服がボロボロ。後先考えず逃げてきたために肌も擦り傷だらけだらけの妹と、血だらけのナイフを持った見知らぬ同世代の男。

 

 

 ……そう、彼は俺が自分の妹を襲っていると勘違いしてしまったのだ。

 

 

 そんな誤解をしてしまった彼は、激昂し、そのまま顔を真っ赤にし、声を上げて俺に襲いかかってきた。

 

 

 最初は、突然の事態に俺も呆然としてしまっていたのだが、彼の叫び声に我に返り、急いで彼を取り押さえ、彼女の妹のカグヤにシモンの説得をしてもらい、なんとか無事に誤解を解くことができたのだ。

 

 

 その後、彼らといろいろ話をし、彼らも既に両親を亡くしているということで、不謹慎だが親近感なものがわき、エルザにも彼らを紹介し、(エルザを初めて見たシモンはなぜか顔を赤くし、カグラがそれを呆れたように見ていたけれど、どうしたんだ、あいつら?)それから俺とエルザは、こうして彼らとつるみようになったのだが、ある日、シモンが俺に向かって、自分に修業をつけてくれないかといってきたのだ。

 

 

 なんでも、彼は年齢の割にがっちりとした、恵まれた肉体をしており、俺と出会うまでは同年代では喧嘩で負けたことなかったらしく、誤解とはいえ、俺に全力で襲いかかり、それなのにあっさりと返り討ちにあったことが、予想以上にショックだったようで、俺たちとつるみはじめてからも、俺はこのまま妹を護っていけるのかとずっと悩んでいたらしい。

 

 

 特に俺との出会いの時は、彼の誤解だったからよかったとして、もし誤解ではなかったら、カグラが酷い目にあっていたことは確実なので、彼女が狼の群れに襲われている場面に間に合わなかったことに、かなり落ち込んでいた。

 

 

 まあ、そういうこともあり、彼は彼なりにいろいろ考えた結果、じゃあ護れるように強くなればいいと判断し、ならば自分をあっさりと取り押さえた彼にいろいろ教えてもらえれば、問題なく強くなれると考えたようだ。

 

 

 俺は、そんな彼の前向きな、また言い方は悪いが単純な彼の考え方に若干呆れながらも、妹を護りたいという彼の思いを、かつて、同じく妹がいた身としては彼の思いを無碍にはできず、また、俺自身も特訓の相手がそろそろ欲しいなあと考えていたので、それからはシモンとこうして、度々空手の特訓をしているというわけである。

 

 

「(しかし、まさかここまで上達するとはなー。早すぎだろう)」

 

 

 実は、シモンが空手を始めてまだ一週間ほどしか経っておらず、この程度の期間では、普通は精々正拳突きなどの基本技の形だけの習得が限界のはずなのだが、彼の場合は、そんな段階を飛び越えて、既にそれらの技を実戦で使いこなす程度のレベルにまで上達していた。

 

 

 俺の場合は、まだ基本技の修練に時間を費やしていたことを考えると、おそらく彼は空手に関して、俺などよりよっぽど才能があるのかもしれない。

 

 

「(こりゃあ、うかうかしてたら、あっという間に抜かれるかもなあ)」

 

 

 そう思うと、少し悔しくなってしまう。

 

 

 前世では、時期が悪かったこともあり、それほど熱心ではなかった空手だったが、この世界にやって来て、将来冒険の日々に身を置こうと決意してからは、毎日、かなり真面目に修練を積んでいたからだ。

 

 

 流石に、今はまだ空手にかけた時間が違うので、まだまだシモンが俺に勝つのは、大分先だと思うが、おそらくこの調子では、すぐに追い付かれてしまうだろう。

 

 

「(……とりあえず、明日から、空手の特訓メニューを倍にすっかなあ)」

 

 

 エルザに声をかけられ、なにやらわたわたしているシモンを横目に、俺は自らの数少ないプライドを守るため、明日からの特訓内容をどうするか、真剣に悩み込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は、シモン・ミカヅチ。このローズマリー村に、妹であるカグラ・ミカヅチ。そして母親と三人で住んでいたのだが、つい最近その母を亡くしてしまったために、今では兄弟二人で細々と暮らしている。

 

 

 俺の父親は、以前は王都でそれなりの規模の商会を経営する商人をしており、そのため自分でいうのもなんだが、俺たち家族はかなり裕福な生活をしていた。

 

 

 しかし、父親がある商売に失敗し多額の借金を負い、一気に破産に追い込まれてしまった。

 

 

 それは、無理な働き方をしてなんとか返すことができたのだが、そのせいで、父親が過労で死んでしまい、一気に生活が苦しくなってしまい、今まで住んでいた街を離れて母親の遠縁の親戚が住んでいるという、このローズマリー村に親子三人で引っ越してきたのだ。

 

 

 生活は苦しかったが、幸い親戚の人が親切な人で、何かと俺たちの面倒を見てくれたが、借金時代の心労が祟ってしまったのか、母親が重い病にかかってしまい、つい最近そのまま死んでしまった。とうとう俺たちの家族は、お互いに兄弟二人きりになってしまったのだ。

 

 

 母さんは、その死に際に俺にこう言葉を残した。「お前はお兄ちゃんなんだから、ちゃんと妹を守らなきゃだめよ?」と。

 

 

 だから俺は誓ったのだ。俺がどうなろうと、カグラだけは、俺がこの手で守ると。

 

 

 

 ―――そんな時だった。あいつに初めて出会ったのは。

 

 

『きゃああああ!?』

「カグラ!?」

 

 

 それは、俺たち兄弟が、いつものように木の実や薬草などを採りに、森の中に入っていた時のこと。

 

 

 親戚の援助により、貧しいながらも、なんとか細々と暮らしていた俺たちであったが、さすがに親戚に頼りすぎるのも悪いし、また、その親戚に何かあった場合援助が無くなり、生活が立ち行かなくなってしまう可能性があるため、そんな時に備えてある程度の大きな金が必要と、俺たちは毎日こうして森に入り、食料や売れそうな薬草などを採集し、日々の生活費を節約しながら、将来に備えて少しずつ貯金するという日々を送っていたのだが、この日は、なぜかいつもより成果が悪く、探索場所が悪いのかと、二手に分かれて広範囲を探索していたのだが、それが悪かった。カグラが狼の巣に間違えて足を踏み入れ、そこに住んでいた狼たちに追い立てられるはめになってしまったのだ。

 

 

「カグラ!どこだカグラー!!」

 

 

 俺は必死にカグラの姿を探したが、広い森の中、一度はぐれれば簡単に合流できるはずがない。

 

 

 しかし、俺の場合は運がよかったのか、俺は途中でカグラや狼たちの足跡のようなものを見つけ、それを辿っていくと、その現場へと到着した。

 

 

 そう、「全身ボロボロの妹」が、俺と同年代くらいの「血塗れのナイフを持った」男に襲われかけているその現場に。

 

 

 ……いや、すまん。実はこれ、俺の完全な勘違いだったんだけどな。

 

 

 本当は、この時こいつはナイフで狼たちを追い払って、妹を助けてくれてたんだ。

 

 

 ナイフに付着した血はその狼のもので、この時冷静に周りを見れば、何匹か狼の死体を確認できたはずなんだけど、でもこの時、てっきり妹が襲われているのだと思い込んでいた俺は、そのようなことに気づくことはなく、妹を助け出すために、呆然とこちらを見ていたその男に向かって、全力で殴りかかったのだ。

 

 

 ナイフを持っていた相手に無謀だと思われるかもしれないが、俺は自分でいうのもなんだが同年代に比べて体格がよく、街にいた時は同い年との喧嘩では負けたことはなかった。酔っ払いではあるが、大人のチンピラも伸したことがあるほどだ。

 

 

 だから、ナイフを持っていたとしても、このぐらいの年齢の相手なら、問題なく制圧できると、俺は激昂した頭で、どこか冷静にそう考えていたのだが、それはすぐに完全な間違いだと気づかされる。

 

 

 初めは、突然の俺の襲撃に、そいつは呆然としていたが、俺の拳がそいつに届く直前、目を細めると、俺の片手を冷静に絡めとり、俺をあっという間に組み伏せたのだ。

 

 

 俺もこれには驚いた。まさか、同年代の人間にここまで一方的にやられるとは思っていなかったからだ。

 

 

 

 

 ―――そして、これが、俺とこいつ、ユーリ・クレナイの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 ユーリっていう男は不思議なやつだった。

 

 

 見た目は俺と同じくらいの年齢なのは間違いないはずなのだが、どこか大人びた雰囲気をその身に纏っており、また、やっていることもまるで子供とは思えないことばかり。

 

 

 それは居酒屋の料理人だったり、大物を狩る狩人だったり。―――そして、「カラテ」という謎の武術を使う格闘家であったり。

 

 

 実は以前、初対面の時にあまりにあっさり押さえ込まれたことに納得できず、なにか武術でもやっているのか?と試しに聴いてみたら、このカラテという武術の訓練をしているという話を聞きだすことに成功したのだ。

 

 

 カラテというのは、ユーリの故郷に伝わる、最もポピュラーな伝統武術のひとつらしく、極めれば手刀で相手の体を貫いたり、建物ひとつを崩壊させることができるという(※全て漫画の話。ユーリがふざけて吹き込んだ)恐ろしい武術なのだそうだ。

 

 

 俺はこの話を聞いた時に、思わず納得した。本人はまだまだ自分は未熟だといっていたが、それほど恐ろしい格闘技を習っているなら、この年齢で、あれだけの強さを持っているのも不思議ではないからだ。

 

 

 そして俺は気づいた時にはユーリに頭を下げていた。その格闘技を俺にも教えてくれと。

 

 

 実はユーリと初めて出会った時以来、ずっと悩んでいた。

 

 

 あの時は、俺の誤解だからよかったが、もしもユーリに悪意があれば、簡単にカグラに害をなすことができた。それどころか、俺ももう生きてはいないだろう。

 

 

 それではだめなのだ。母さんが死んでから、俺はカグラを守っていくことを心に決めていたのだから。

 

 

 だからこそ、俺は力が欲しかった。大切な妹を守ることができる力を。

 

 

 幸い、ユーリもかつて妹がいたらしく、俺の気持ちをわかってくれたのか、快く俺の頼みを聞いてくれ、度々こうして稽古をつけてくれるようになったのだ。

 

 

 稽古は俺の想像以上に厳しいものだったが、それでも俺は徐々に強くなっていく自分を感じ、俺は夢中になって訓練に励んだ。

 

 

 それに兄弟二人で過ごしていた日々は、幸せでもあったが、それでも正直、他の人と殆ど関わらない日々に、どこか寂しいものを感じていた。

 

 

 だからこそ、ユーリとエルザ。この新しい二人の友人と過ごす毎日は、それまでとも違う、騒がしくも、充実した、かけがいのない日々へと変わっていったのだ。

 

 

 頼りになる大人びたユーリと、優しい女の子のエルザ。これからもこの二人と共に過ごして生きたいと思うのだが、しかし最近、そんな彼らに、俺は一つだけ文句をいいたいと思うようになった。

 

 

「おい、エルザ。口元にご飯粒ついてるぞ」

「え、どこ?」

「ちょっと、待ってろ。……よし、とれた」

「あ、ありが……!?ちょ、ちょっとユーリ!」

「ん?(とったご飯粒を口に含みながら)どうかしたか?」

「……な、なんでもない」

 

 

 

 ……俺の前であまりナチュラにイチャつかないで欲しいんですがねえ(怒)!!

 

 

 実はこいつらとつるむようになってから、度々こいつらと飯を一緒に食ったりするんだが、故意か天然なのか、こいつら俺の目の前で今みたいにまるで恋人みたいな行動をしたりするんだ。

 

 

 まあ、二人とも鈍感なのか、(特にユーリ)イチャついているという自覚がないようなのだが、見ているこっちは、疎外感が半端ではないので、本当にやめて欲しい。

 

 

 いつもの、その鬱憤が溜まる光景を見て、俺はひっそりとため息をつく。

 

 

 実は、俺はエルザのことを、初めて会ったときから、少しいいなと思っていたからだ。

 

 

「(……でも、あの調子じゃあ、俺に望みはなさそうだなしなあ)」

 

 

 俺はそして、もう一つため息を吐く。

 

 

「(まあでも、いいか。―――こいつらと一緒にいるのはなんだかんだで楽しいしな」

 

 

 そして、俺は口元に小さく笑みを浮かべるのだった。




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