FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~   作:えんとつそうじ

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今回はエルザ視点の話になります。


この話のエルザは、居酒屋の娘というオリジナル設定が入りますが、話の展開的にはあまり関係ないので気にしないでください。



第二話 居酒屋の娘・エルザ

 私の名前はエルザ。

 

 

 このローズマリー村にある唯一の居酒屋、「はと屋」の一人娘として産まれ、今年で8歳になった。

 

 

 一年前、両親と一緒に大きな街に遊びに行ったんだけれど、その帰り道乗っていた馬車が事故で転落してしまって、そのせいで私一人残して、二人とも死んじゃったんだ。

 

 

病院のベットで初めてそのことを知った私は、急いで駆けつけてくれた村長さんたちを困らせるほど泣き叫んだのを、今でも覚えている。

 

 

 不幸中の幸いか、私の怪我はお父さんたちが護ってくれたのか、事故の割に大した怪我ではなく、すぐに病院を退院することができたのだが、村に帰った私を待っていたのは、温和だけれど明るい性格だった両親が忙しそうに働いている、いつもの騒がしい光景ではなく、誰もいない、シンと静まった、薄暗い我が家の姿だった。

 

 

 私は、この光景を見て改めて大好きだった私の両親はもういないんだと、実感することになった。

 

 

 その後、近所の人たちの助けで私はなんとか立ち直ることができたのだが、さすがに子供一人で居酒屋なんか経営できるわけもなく、店は廃業。

 

 

 ただ村長さんの御好意で、月に一度の村の集会ではここを会場として使ってもらい、その貸し出し料をいくらか払ってもらえることとなったので、薪拾いや木の実をとったりして、なんとか生活はできるようになった。

 

 

 中には面倒を見てくれるという人もいたが、両親が唯一残してくれたこの家を放ったらかしにするのは、私にはどうしてもできず、結局この家に一人で住むこととなった。

 

 

 だけど、自分でいったこととはいえ、一人っきりの家は予想以上に寂しく、また家の各所に残っている両親との思い出が、「両親がもう死んだ」こと、そして「もう私の家族はいない」んだということを、嫌でも私に突きつけてくるようで、村の人たちが様子を身に来てくれた時は、無理に明るくふるまったが、それでも誰も見ていない時だと、どうしても気持ちが暗くなるのを抑えきれなかった。

 

 

 そんな時だった。村長さんが一人の男の子を家に連れてきたのは。

 

 

 その男の子こそが、今私が作った朝ごはんを黙々と食べている黒髪紅眼の男の子、ユーリ・クレナイだった。

 

 

「………」

「ど、どうかな?」

 

 

 私は何も反応を示さないまま朝食を食べている彼の様子が気になり、そう尋ねると、ユーリは持っていたナイフとフォークを地面に置くと、先ほどの無表情とは打って変わって、その口元に満面の笑みを浮かべる。

 

 

「うん、大分上達してるな。これなら店に出しても大丈夫な出来だよ」

「ほんと!?よかった~」

 

 

 ユーリのその言葉に、私は思わず安堵の息を漏らす。

 

 

 実は私は今、このユーリに料理を教わっており、その練習も兼ねて、最近の朝ごはんは私が作らせてもらっているのだ。

 

 

 ちなみに店というのは、父さんたちが残した居酒屋「はと屋」のこと。実は彼が来たことにより、私は再びはと屋を再開させることができることになったのだ。

 

 

 なんでも、彼は森で倒れていたところを村長さんに保護されて、この村まで連れてこられたらしいのだが、村長さんの話によると、なんと彼は異世界の「チキュウ」の「ニホン」という場所から来たらしく、村長さんは彼を料理人に、はと屋を再開しないかと私に持ちかけてきたのだ。

 

 

 私は突然やってきていきなり異世界がどうとかいってきた村長さんに、失礼ながら、一瞬もう「お年」なのかな?と思ってしまったが、実は村長さんがいうには、極稀にこの世界には、異世界から来たという人間がおり、おそらく彼もその一人なのだという。

 

 

 なんでも、その「自称」異世界人の人たちは、「エドラス」という場所から来たといっているらしく、ユーリが来たという「チキュウ」とは違うらしいんだけど、村長さんは大した違いはないといっていた。

 

 

 でもそこはもっと気にしたほうがいいんじゃないかと思うのは、私だけなのかな?まあ、今となっては別にいいけれど。

 

 

 まあその時の私は、当然のことだけれど、彼が本当の異世界人だとかどうかわからなかったために(まあ、今でもわかるわけがないんだけどね)、そこは一旦流して、なんで彼を料理人にして、再び店をやれという村長さんに聞いてみたんだけれど、なんでも彼は、とある理由で(その理由というのは教えてもらえなかった)食材についての知識が豊富で、また、彼も私と同じく両親を亡くしており、残された妹を育てるためにいろいろ研究したため、かなりの料理の腕も持っているんだとか。

 

 

 だけど、そんなことをいわれても素直に信じられるわけがない。

 

 

 異世界人云々のことももちろんそうだし、なにより私より少し上くらいの男の子が凄腕の料理人だといわれても、そんなこと簡単にいわれてなにもいわず信じられる方がどうかしている。

 

 

 恩人である村長さんの前でいうのは嫌だったか、ここで嘘をいってもしょうがないので素直にそういうと、ならばと、村長さん以外の村の偉い人たちと一緒に、彼の料理の腕を試すための宴会が開かれ、私もそこに出席することになった。

 

 

 そして、そこで彼の料理を食べたのだが、彼の料理は予想以上に美味しく、宴会が終わること彼がうちの料理人をすることに初めは反対だった人たちも、私も含めて自然と全員賛成に回っていたのはいうまでもない。……ちなみに、料理自体はとてもおいしかったけれど、そのせいでかなり落ち込んだのを覚えている。これでも結構自身があったんだけどなあ。

 

 

 ……ま、まあ、そんなわけで。私は彼、ユーリと一緒に、一年ぶりにお店を再開することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして、村長さんから紹介された、二人のお手伝いさんを加え、私たちは実際にお店を再開させてみたのだが、予想以上の忙しさに、思わず目を回しそうになったのは記憶に新しい。

 

 

 一応、私はこれでも居酒屋の娘でもあるし、お父さんたちが生きていたころは、その手伝いとして給仕の真似事もしていたので、大丈夫だと思ったんだけど、所詮手伝いは手伝いだったようで、本格的に働くとなったら、子供の身である私では、かなりきつかった。しばらくは、仕事が終わると、すぐにそのままベッドに倒れこんで、死んだように眠る日々を送っていたほどだ。

 

 

 だけどそんな中、ユーリは私と同じくらいの年齢なのに、寝る間も惜しんで働き、また新製品の開発や作業の効率化など、お店をもっと盛り上げる努力も率先してやってくれた。

 

 

 そのおかげか、お客様は途絶えることもなく、しかし私たちは彼の行った効率化のおかげで、しばらくしたら、問題なくそれらに対処できるようになった。

 

 

 それからさらにしばらく経つと、客足も落ち着いて、さすがにもう翻弄されるということもなくなったが、それでも常連さんが多くできたということもあり、お店はかつて私が大好きだった、賑やかな姿を取り戻していた。

 

 

 また、この姿を取り戻すことに協力してくれたユーリに、私は当然のように深く感謝し、そしていたらぬ所をいつも助けてくれる彼の存在は、私にとって、いつの間にか家族と同じくらい大切なものとなっていった。

 

 

 これは仕方ないと思う。

 

 

 確かに最初はどこともしれない男の子と一緒にお店の経営なんて、できるのかとても不安だったのだけれど、彼はいかに自分の生活もかかっているとはいえ、本来関係ないであろうこの店の再建に全力を尽くしてくれ、私がなにかミスしても率先してフォローしてくれる優しさを持つ。

 

 

 村の人たちがいろいろ助けてくれていたとはいえ、ずっと一人ぼっちで生活していた私にとって、誰かが常に私のことを気にかけてくれているというのは、私にとってとても嬉しいことだったからだ。

 

 

 だけれど、私はそれと同時に、彼にどこか引け目を感じていた。それは彼に面倒をかけっぱなしだったということもあるが、なにより私は彼より恵まれすぎているという自覚があったからだ。

 

 

 彼は私と同じで両親を亡くし、妹を育てるためにいろいろ料理を研究していたということは前述していたと思うが、後で話を詳しく聞いてみたら、彼はあの年齢で仕事もしていたらしく、(ユーリの本当の年齢を知らない)食材の知識はその仕事から得たらしい。子供にはきつい居酒屋の仕事をあれほどこなせたのも、その時の仕事の経験があったからなのだとか。

 

 

 それは今の仕事より大分きつい仕事だったらしく、本人曰く過労で死にそうになるほど(死にそうというか実際一度死んでいるのだが)らしいのだが、彼の場合は私のように周り頼れる人もほとんどいなかったために、その仕事をやるしかなかったんだそうだ。

 

 

 それを聞いた私は自分が恥ずかしくなった。同じ両親を亡くした同類でも、一人鬱屈とし、他人の好意に甘えながら生きてきた私とは違い、彼は自分の力のみを頼りに、妹のため、明日を生きるために前向きに行動していたのだから。

 

 

 だからこそ、彼に対し、私はもう一歩踏み込めない日々を送っていたのだけれど、それを解決してくれたのもなにを隠そう、彼、ユーリ・クレナイだった。

 

 

 彼は、私にこういった。

 

 

「エルザは嫌かもしれないが、同じ家に住むことになったからには、俺はエルザのことは家族同然だと思ってる。だからなにかあるならなんでも俺にいってくれないか?エルザに遠慮されると俺が寂しいからさ」

 

 

 

 ……おそらくこの時の私の嬉しさは私にしかわからないだろう。もう、私には本当の意味で家族と呼べる存在はできないと思っていたからだ。

 

 

 私はその時のことを思い出し、思わず自分の口元に笑みが浮かぶのを感じるが、それを見られたのか、ユーリは不思議そうに首を傾げる。

 

 

「?どした?」

「へ?あ、ううん。なんでもないよ」

「そうか?それならいいんだが……っと、そういえばもうそろそろ仕込みの時間だな」

「え?あ、本当だ」

 

 

 彼に釣られて、時計を見れば、時間はもう午前8時。基本うちの店は午前10時から開店するため、もうそろそろ仕込みを始めなければならない。

 

 

 それを確認した私たちは、急いで食器を片付けて、準備を始めようと各々の部屋へと戻ろうとしたのだが、私はその途中、あることを思いついて、ユーリに話しかける。

 

 

「ねえ、ユーリ」

「ん?なんだ?」

「今までありがとう。これからもよろしくね?」

「……へ?」

 

 

 急にそんなことをいわれたせいか、ユーリはどこか呆けたような表情を浮かべるが、私はそれに構わず、「じゃあ、またお店でね」と言い残し、自分の部屋へと歩みを進める。

 

 

「さーって!今日もがんばるぞー!!」

 

 

 天国のお父さん、お母さん。エルザは新しい家族と元気にやっています。




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