FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~ 作:えんとつそうじ
今回は前回でも出たあの御方の登場です。それでは暇つぶしにでもどうぞ。
エルザ・スカーレット。
ユーリとジェラールにより懲罰房より助け出された彼女は、ふらふらになりながらも普段寝床にしている房に戻ってきた。
戻ってきた彼女のあまりの惨状に、房内の奴隷たちの間でざわめきが広がる。
「エルザ!?」
「姉さん!!」
エルザのその姿にショウたちは彼女に次々と声をかけるが、その中の一人であるシモンはあることに気づく。
「エ、エルザ、ジェラールとユーリはどうしたんだ?あいつら……奴等の目を盗んでエルザを助けに行くって……」
「………」
だがシモンの言葉にエルザは体を震わせながらも答えることはない。
そんな彼女の様子に不思議に思いながらもシモンはもう一度彼女に問いかけようとするが、そんな彼を止める者がいた。
彼の名は『ロブ』。
この楽園の塔でおそらく最も高齢の奴隷で、元魔導師だがとある依頼を受けた際大怪我をおい、そのせいで魔力がなくなってしまったために故郷で隠居生活を送っていたのだが、その故郷を教団に襲われてしまい、なす術なく捕まってしまいこの楽園の塔につれてこられた老人だ。
エルザたち年少の奴隷たちにとって親代わりのような存在でもある。
「そっとしておいておやりよ。かわいそうに懲罰房でよほどヒドイ目にあったんだろうねえ」
それは彼女の状態を慮っての言葉だった。
脱走者に対しての神官たちの懲罰は普段のそれより苛烈を極めることで奴隷たちの間では有名だ。
そんな懲罰を受けて、まだ二桁の年齢になったばかりの彼女が無事ですむはずがないと確信していたのだ。
だがシモンは納得できないような顔で顔をしかめる。
確かに彼女の状態がひどい事は彼にもわかるが、彼にも聞かなければいけないことがあったからだ。
「けどユーリたちが……」
そう、彼女を助けに行ったはずのジェラールたちの姿が見えないのだ。彼はそれに嫌な予感を感じながらも彼女に彼らの所在を聞こうとしていたのだが、その彼の言葉にロブは静かに首を横に振る。
「残念だがきっと身代わりに捕まってしまったんだろうねえ」
「そんな……」
ロブの言葉に思わず悲嘆の声を上げるシモン。
自らの友人たちの危機に絶望の表情を浮かべていると、どこからか子供がすすり泣くような声が聞こえてきたのでそちらを向くと、そこには彼の仲間の一人であるショウが、その瞳からぼろぼろと大粒の涙を流し始めていた。
「ぐす…もうやだ……もうこんなトコやだぁああっ!!!」
ジェラールとユーリ。そしてエルザ。彼ら三人の存在は、彼にとって心のよりどころといっていい存在だった。
もちろん他の仲間たちも彼は大切だと思っているが、楽園の塔の過酷な環境にも負けず、自分にとっては絶対に適わない恐怖の象徴である教団の神官たち相手にも決して屈しない彼らは彼にとっては憧れでありヒーローだったのだ。
しかしそんな彼らの内の二人は教団に捕まってしまい、最後の一人であるエルザは神官たちの過酷な仕打ちにより満身創痍の状態。
捕まった二人もやったことがやったことであるために、無事で済むはずがない。
そんな三人の状況に今まで支えていた心の支えを失い、この環境への苦痛とこれから自分たちと仲間たちに起こる未来に恐怖が溢れ出てしまったゆえの慟哭だった。
そんな彼の叫び声を聞きつけてか、房の外で見張りをしていた二人の神官たちが房の中へとやってきた。
「これはいったいなんの騒ぎだーー!!!」
房の中に入ってきた神官たちはすぐに泣き叫んでいるショウの姿を見つけると、怒りの形相を浮かべながら彼に詰め寄った。
「おとなしくしねーかクソガキ!」
「黙らねえとその舌ひっこぬくぞ!!」
神官たちの恫喝に、しかしショウは泣き止むことはない。
その様子を見てさすがにまずいと思ったのか、ロブやシモンにウォーリーたちは必死でショウを泣き止まそうとするが、それでも彼の涙が枯れることはない。神官たちの罵倒の声の数々もまったく効果がなかった。
そんな騒ぎの中、エルザは目を瞑りながら必死で自分の耳をふさぐ。彼女はもう疲れてしまっていたのだ。
彼女の変わりに捕まったジェラールは、ショウと同じく、彼女にとって憧れの存在だった。
ジェラールは、その聡明な頭脳と、正義感溢れるリーダーシップで自分たちを引っ張ってくれるまるで太陽のような存在。
しかし、なにより彼女の心に深い闇を落としているのは、彼女の唯一の家族、ユーリ・クレナイの『死亡』。彼女は神官たちの拷問により朦朧とした意識の中、神官たちの暴虐により、瞳の中の光を失くしていくユーリの姿を目撃していた。
そして、そんな彼の姿を見た彼女は、そこで初めて気づいた。
―――自分が彼を家族としてだけではなく、一人の男性として愛していたことに。
だからこそ、彼女は自分の耳を塞いだ。自分のせいで彼が死んでしまったこと。その事実から逃げ出すかの如く。
次々と襲いかかる、あまりにも少女に優しくない現実に、彼女は、もう何もかも嫌になってしまったのだ。
延々と続く慟哭と罵声。そんな中で彼女は思う。
「(―――どうして!?どうして私たちがこんな目にあわなくちゃいけないの!!)」
もういっそ死んでしまいたい。そうすれば楽になれるかもしれないと、彼女はとうとうその場で蹲ってしまう。
―――その時だった。彼らの言葉を思い出したのは。
『『―――もう戦うしかない!!』』
「―――ッ!?」
そうだ、彼らは決死の覚悟で自分のことを助け出してくれた。
いつも彼らに頼りっぱなしだった、自分を、文字通り命がけで助けてくれたのだ!!
そのことを思い出した彼女の体には、再び力が宿り始める。
「(そうだ!今度は、私が彼らのために戦うべきだ!!)」
それが、自分がユーリのためにできる唯一のこと。
そう決意したエルザは、油断している神官の一人の武器を奪うと、そのまま二人まとめて吹き飛ばした。
「うぁあぁああぁあぁあああぁっ!!!!」
「「ッ!?」」
圧倒的弱者であるはずの奴隷、しかもまだ幼い少女の突然の凶行になす術なくやられる神官たち。
奴隷たちはそんな彼女の行動に思わず驚愕の声を上げる。
自分たちより圧倒的強者であるはずの神官たちに自分たちより幼い少女が手を上げたことに。
「反乱だーーー!!!!」
エルザの行動を見た神官が叫んで仲間たちに呼びかける姿を見てエルザは思う。
「(『もう後戻りはできない』…か。ジェラールのいうとおりになっちゃったな)」
彼女は一瞬苦笑するがすぐに表情を引き締めると、未だ呆然としている自分の奴隷なかまたちをゆっくりと見渡しながら口を開いた。
反撃の狼煙を上げるために。
「従っても逃げても自由は手に入らない」
―――緋色の戦乙女は語る。自由とはなんなのか。
「戦うしかない!!!」
―――隻眼の少女は叫ぶ。自由を勝ち取るためにはどうすればいいのかを。
「―――自由の為に立ち上がれぇぇ!!!!!」
―――そして彼らの反撃は始まった。
☆
☆
俺、ユーリ・クレナイは、気がついたら見たこともないあたり一面真っ白な空間に、一人ぽつんと立っていた。
「あれ?ここはいったい……」
俺はジェラールと一緒にエルザを助けにいったが、それが見つかって神官たちに袋叩きにあってそのまま気を失ってしまったはず。
そこでふと自分の体を見ると、俺はそこでちょっとした違和感を感じた。
「あれ?なんで傷が治ってんだ?」
そう、服装こそいつもの奴隷服と同じものだが、なぜか神官たちにあれほどの暴力を振るわれたのに、傷が一つもなく、それどころか今までの折檻や現場での事故によりついた古傷なんかもそれと一緒に治っていたのだ。
確かに、この世界に来てから彼の体は傷の治りが早くなっていたが、ここまでの早さではなかったはずだ。
「これはいったい?俺になにが起こったんだ?」
あまりに不可思議な出来事に、思わず首を傾げる俺。
だがしばらく考えた後、俺は意識を失う前の光景について思い出す。
神官たちの暴虐の嵐。それを受けて気を失う前に感じたその感覚が、前世で俺が最後に感じた「死の感覚」と同じであることに。
「(―――そうか、俺はもう死んでしまったのか……)」
自分が死んだことには意外とすんなり納得できた。というかいくら頑丈な体に転生したからって子供の身であれだけの暴力を受けたら死なない方がおかしい。
俺の場合神官の一人をつい殴り飛ばしちゃったし、容赦する理由もなかっただろうしな。
だがそうなると一つ疑問が沸く。
「結局ここはどこなんだ?見たことも、来たこともないぞこんなとこ」
そう、結局ここがどこなのかわからないということだ。
楽園の塔の中にはもちろん俺の知る限りではあるがこんな場所はないはずだし、前世でもここまで白い部屋など見たことがない。
病院の診察室もここまで病的な白さではなかったはずだ。
もしかしたらこれがあの世というやつなのかなと考え込んでいると、
『―――それは私が教えてあげよう』
「ッ!?誰だ!!」
突如背後から聞こえてきたその声に俺は咄嗟に背後を振り向くと、そこにはいつのまにか一人の青年が立っていて、穏やかに微笑みながらこちらを見ている。
「なッ!?」
俺はその人物の顔を見て思わず驚きの声を上げてしまう。
その男の顔が俺の知っている人物と全く同じ顔だからだ。
「な、なんだお前―――
―――なんで俺と全く同じ顔をしてるんだ!?」
そう、その青年は、髪こそ紅色と、違いはあるが、それ以外は今の俺の姿をそのまま成長させたような、つまり前世の俺と殆ど瓜二つの顔をしていたのだ!!
『まあ気持ちはわかるけどね、少し落ち着いたらどうだい?』
「いやいやいや!?落ち着けるわけないからね!逆になんであんたはそんなに落ち着いてんの?」
思わず興奮した俺のその言葉に、しかし青年は慌てず穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
『そりゃあ、私は君のことを前からずっと見ていたからね?』
「……は?どういうこと?」
ずっと見ていたって、俺この人に会ったのは初めてのはずなんだけど?
そんな俺の疑問が顔に出ていたのか、青年は苦笑する。
俺とそっくりな姿形をしているが、どうにも彼がやるといちいち優雅に見える。
『まあ、いろいろ疑問もあるだろうけどまずは自己紹介といこうか?』
そういうと青年は、まるで劇のように優雅に一礼すると口を開く。
『―――私の名前は『サーゼクス・ルシファー』。どこにでもいる、ただの悪魔さ』
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