FAIRY TAIL転生記~炎の魔王の冒険譚~ 作:えんとつそうじ
今回は、エルザ救出編。今回も前作とあまり変わっていませんが、そこのところよろしくお願いします。
ここは、楽園の塔第四セクターにある懲罰房。普段は神官たちが厳重に警備しているこのフロアに、現在二人の少年が侵入していた。
「てりゃあ!!」
「ぐべらっ!?」
「あらよっと!」
「ふるべば!?」
その少年たちの名は「ユーリ・クレナイ」と「ジェラール・フェルナンデス」の二人。彼らはとある目的のため、武器を持ち、このフロアに侵入していた。
見張りについていた神官たちはの侵入に驚き、迎撃しようとするが、いくら大人とはいえ所詮は彼ら奴隷たちとは違い、ぬるま湯につかった生活をしている神官ども。奴隷生活で鍛えた彼らの身体能力にかなうはずもなく、神官たちがなにかしてくる前に次々と制圧していく。
なぜ彼らがこのようなことをしているか。それはここに連れてこられたはずのエルザを救出するためだ。
前回神官たちにより、彼らの脱走計画は阻止され、彼らはそのまま処罰されるはずだったのだが、どうやらジェラールがいっていたように楽園の塔の建立が迫っていたらしく、下手に人手を減らすことができなかったためか、神官たちは、彼らに今回のことを見逃す代わりに一つの条件を持ちかけてきたのだ。
それは『脱走計画の立案者一人を差し出せ』というものだった。そいつ一人を懲罰房に行かせて、見せしめにしようという考えらしい。
本来ならこの計画の立案者はショウだったが、その時のショウは恐怖で震えていて名乗り出る様子が全くなかった。
だがそれも仕方ないだろう。ショウはまだ子供。それもおそらくこの楽園の塔で最も幼い。そんな彼が恐怖に心がとらわれても誰が責められようか。
そう考えたユーリとジェラールが、ショウの代わりに脱走計画の立案者として名乗り出たが、神官たちはそんな彼らの言葉を真に受けず、俺たちの代わりに脱走計画の立案者として懲罰房へと連れて行った。
おそらく自ら名乗り出た彼らより、彼らの横で震えていたエルザのほうが見せしめとして効果的だと考えたのだろう。
エルザの犠牲により一時的に助かった彼らであったが、脱走計画の首謀者として捕まったエルザが無事ですまないことは目に見えている。
そんなことをさせるわけにはいかないと考えた彼らは、こうして神官たちの武器を奪い、エルザを奪還しにやって来たのだ。
そして彼ら二人は、場を制圧しながら、辺りを捜索していると、懲罰房の牢屋の中の一つに、彼らと同い年くらいの見慣れた色の髪を持つ少女が倒れ伏しているのを見つけた。
「―――っエルザ!?」
「なにっ!?」
彼女を発見したユーリは、急いでエルザが入れられている牢屋の扉を開くと、倒れている彼女に近づいて必死でその体を揺り動かす。
「オ、オイ!!!しっかりしろエルザ!エル……っ!?」
そこでユーリは始めて気づく。いつも見慣れた彼女の横顔。それがいつも見ている彼女の顔とは違っていることに。
「どうした、ユーリ!エルザは無事なの……か?」
ジェラールはそういいながらユーリが抱きかかえているエルザの顔を覗き込むが、やがて言葉が尻すぼみになり、息を飲む。
彼女の容態が、自分が想像していたものとは遥かに違っていたからだ。
「なんてことだ」
ユーリはそのあまりの惨状に、思わず彼女から視線を反らしたくなる感覚に陥った。
―――エルザの片目が潰されていたのだ。
「…う…うわぁっ!?」
エルザのあまりに無残な様子に、ジェラールは思わずその場で尻もちをついてしまう。
その瞳には恐怖からか、それとも悔しさからか。 ジェラールはいつの間にかその瞳に涙を浮かべていた。
「なんで、なんでこんなひどいことを……オレたちがいったいなにをしたっていうんだぁッッッ!!!」
ジェラールは憤怒の形相で拳を振り上げると、その怒りを発散させるが如く、地面に拳を叩きつける。
拳から流れる赤い血から、彼がどれほど怒りを覚えているかが伺える。
―――そして、それは一見冷静に見えるユーリも同じことだった。
「(なぜやつらはこんなことができるっ!!こんなことができるのはもう人ではない!!)」
あまりの怒りに歯噛みした彼の口元から、一筋の赤い雫が垂れる。
だがこのままここにいても、いずれ神官どもがやってくることを思い出したユーリは、なんとか怒りを押さえ込むと、エルザをここから運び出そうと彼女の体に手をかけた、その時だった。
「…ジェ……ラー…ル……なの…?」
「エルザ!?」
ジェラールの叫び声が聞こえたのか、エルザがか細い声で反応したのが聞こえてきた。
ユーリは、エルザの意識を途切れさせないために、必死で彼女に呼びかける。
「エルザ、エルザ大丈夫か!!」
「ユー……リ…?」
「そうだ、ユーリだ!よかった、もう大丈夫だぞ!ジェラールと一緒に助けに来たんだ!!」
エルザが反応してくれたことに安堵しながらも、ユーリがそう語りかけると、エルザは息も絶え絶えになりながらも、自らの疑問を口にする。
「…ど……どうやって……?」
それも当然だろう。ここに来るには教団の警備網を突破する必要があるのだから。
ユーリとジェラールは、しかしエルザのその疑問には答えず、ユーリとジェラールは頷きあいながら自分たちの意思を確認すると、視線をエルザへと向ける。
―――自分たちの意思を彼女に伝えるために。
「安心しろ、来るべき時が来ただけだ」
「そう、もう後戻りはできない」
そこでユーリたちは思い出す。ここに来るまでにその手にかけた神官どもの顔を。そして彼らを虐げてきた神官どもの顔を。
「「―――もう戦うしかない!!」」
それはやつらへの宣戦布告。今度こそ自分たちの自由を掴むため、明日を手に入れるための戦いの狼煙だった。
「たたか…?」
エルザがユーリの言葉に、さらなる疑問を口にしようとした―――
―――その時だった。
「いぎいっ!?」
「―――ジェラールっ!?」
いつの間にか背後に忍び寄っていた神官たちの一人がジェラールの頭を後ろから思いっきり殴りつけた。
「てめえっ!!」
ユーリはジェラールを助けようと、その男に殴りかかるが、それは他の神官たちに防がれてしまう。しかし転生してから並はずれた力を手に入れた彼は、その程度で止まることはなく、そのままその神官を殴り飛ばした。
「ぐあっ!?」
「なにっ!?」
他の神官たちはその光景に驚愕の声を上げる。それも仕方ないだろう、ただの子供が大の大人を吹き飛ばしたのだから。
彼はその隙にジェラールを助け出そうとするが、いつの間にか背後に回っていた神官にそのまま殴り飛ばされる。
「がっ!?」
「今だ!!」
「かこんじまえ!」
「フクロにしろ!!」
思わずその場に倒れ込むユーリにチャンスと思ったのか、神官たちは痛みに呻き声をあげる彼を急いで取り囲み、各々手に持っている武器でユーリを一斉に殴りつける。
「このクソガキどもが!!」
「六人もやりやがって」
「殺しちまえ!!」
「みせしめにしろ!!」
ユーリとジェラールにふりそそぐ悪意に満ちた暴力の雨。いくら前世と比べて頑強になっているとはいえ、大の大人のそれを子供の体で耐えられるものではなく、彼は、徐々に自分の意識が遠くなっていくのを感じる。
「(―――ちくしょう、しくじった!!)」
遠くなる意識の中、ユーリは遠くなる意識の中、自らの不注意に内心舌を打つ。ジェラールと彼の打ち合わせどおりなら、神官たちが騒ぎを嗅ぎつける前に、エルザを連れてここを脱出する手はずだったのだが、彼女のあまりの惨状に、呆気にとられ、時間を取られ過ぎていたのだ。
「オラッ!!」
「ぐはッ!?」
彼がそんなことを考えている最中でも、神官たちは容赦なくユーリたちをその手に持つ凶器で痛めつけてくる。特に仲間に手を出したユーリに対しては、執拗に攻撃を加えていた。
身じ通り、絶体絶命の状況の中、ユーリはなぜか冷静にこの後のことを考えていた。
「(これが俺の最後か……)」
神官たちはユーリたちのことを決して生かしてはおかないだろう。
見せしめにするといっていたのが聞こえたからすぐには殺さないだろうが、脱走に懲罰房への無断侵入。そして、六人の神官の殺害。
おそらく奴等に気の済むまま嬲られ続けて、最終的に始末されるだろう。なによりここまでされて無駄に自尊心の高い
そこまで考えたところで、彼の視界に一人の少女の姿が目に入る。―――エルザだ。
「あ……う……」
エルザは神官どもに暴行を受け続けているユーリたちを見て、涙を流しながら何かをいおうとしているが、恐怖からか、それとも痛みからか。
おそらくやめさせようとしているのだろうが、口を閉口させるだけでその口からなにも言葉が出ることがなかった。
ユーリは、そんな彼女の様子を見て、思わず口角がつり上がるのを感じる。
「(あいかわらず、優しいやつだなぁ……)」
ユーリは思う。ローズマリー村で初めて会ったときから、彼女はなにも変わっていなかったと。
率先して何かをするわけでもない、特別な何かがあるわけでもない。
だが誰よりも優しい心を持ち、類いまれなるリーダーシップで皆を引っ張るジェラールとはまた違った形で皆に慕われている、綺麗な笑顔の少女。
そして、ユーリも、そんな彼女の笑顔に支えられていた一人だった。
だがこのままではその笑顔は永遠に失われてしまうだろう。そう考えた俺は祈った。今まで会ったこともなく、そして信じたこともなかった神という存在に。
「(―――神よ!もし本当にあなたがいるのなら俺の願いを叶えて欲しい。皆を守る力をくれ!!世界中の理不尽から皆を守れる絶対的な力を!!頼む神よッッ!!)」
―――だが物語の世界ならともかくこれは現実の世界。もちろん神などいるはずもなく、急に力など手に入るわけもない。
最後に止めとばかりに神官の一人が持つ大きな杖で、ユーリの頭が地面に叩きつけられる。
「―――がッ!?」
そしてそこで限界が来てしまったのだろう。その最後の一撃でユーリの視界はあっという間に真っ暗になっていき、意識がだんだんと薄れていく。
「(あ…あ……ここまで…か……)」
そしてそこで彼の意識は途絶えた。
こうして少年の第二の人生は終わりを告げた。
―――はずだった。
『―――やれやれ。どうやら、間に合ったようだな』
どうでしたでしょうか。主人公いきなり死んでしまいましたね(笑)すみません。
それでは、いつものように、感想や誤字脱字の報告。そしてアドバイスなどよろしくお願いします。