きっかけをどうしようかなあ、と思い、希を登場させて見ました。
さらに、タロット占いを書いてみたかったので、ちょっと凝ってみました。
なお、タロットでは、「アイドルになって通用しますか?」のような抽象的なものは無理ですが、まあそこはお目こぼしを。
ちなみに、「コラボイベントが成功するかどうか」なら占えると思います。
土曜日の昼下がり、○×生花店で。
〜〜〜渋谷凛 side in〜〜〜
私は、学校を午前中で終え、家に帰ってから家業の花屋の手伝いをしていた。
最近は仕事のない日くらいしか、学校に行ったり家での手伝いは行わないが、アイドルとして売れる前はこれが当たり前だった。
アイドルになったきっかけを作ったのは、2月の終わり、今通っている◎●高校の入試の合格発表を終わったちょっと後だった。
〜〜〜回想〜〜〜
あの日、私はペットである犬のハナコを連れ、渋谷をあてもなく歩いていた。
渋谷は私にとっては庭のようなものであったが、それでも人混みは少しウザかった。 渋谷の街を歩いていた理由は、ヒマだったから。
中学校は休みの状態だったし、私が入る◎●高校は大して宿題も出さない。
家の手伝いの予定もなかった。
また、私はこんな性格だから、春休みに遊ぶ友達もいなかったし、それでも困らなかった。
まあ、渋谷は若者向けの店が多く、ヒマ潰しにはもってこいの場所だから、退屈と言う訳ではない。
しかし、周囲の楽しそうな様子に比べれば自分が冷めて映るのは間違いない。特に私は、女性としては背が高いから余計に目立つだろう。
まあ、あまり気にせず歩いていると
「君、ちょっといいかな?」
私の前に地味なスーツを着た見知らぬ男が現れた。見た感じ、20代前半と言ったところだろうか?
「何ですか?」
「実は私、こういう者なんだ」
男は手慣れた様子で素早く名刺を出し、右手で私に差し出す。
「☆☆☆プロダクション……?」
聞いたことのないプロダクションだった。まあ、芸能界に疎い私が知っているのは765や961、876くらいだけ。
名刺には、『☆☆☆プロダクション プロデューサー 小泉英一』と書かれていた。
「うちはまだ知名度はそこまで高くないけど、アイドル育成に関しては充実しているよ」
どうやらアイドルをプロデュースする人みたいだ。
「良かったら、一度うちの事務所に遊びにこない?アイドルを見るいい機会だよ」
アイドルのスカウトか……。
目の前の男性を見た。
見た感じは悪くない。服装も華美なものではなく、地味ながらキチンとしているし、表情にも無理がなく、雰囲気も穏やかだ。
また、ハナコもこの男性を見ているが、大人しくしていることから、直感的に彼が悪い人物でないことを示している。
(ハナコって、結構人を見る目があるからなあ)
私が知らない男に雰囲気に騙されてついていきそうになった時も、ハナコはその相手の本質を見抜いていたかのように吠えていた。
ハナコが吠え続けるのをウザがったその相手がハナコを怒鳴りつけた後、私に淫らなことをする本音をウッカリもらしてしまったのだ。
(あの時、ハナコがいなかったら……)
思い出した私は身震いした。
そんなハナコが安心していることを考えると、この小泉英一と言う人物は信頼できるのかもしれない。
もちろん、それだけでついていくほど軽くはない。
「どうして、私をアイドルにスカウトしたいと思ったんですか?」
もし真剣にアイドルとしてスカウトしているのなら、キチンと答えられるはずの質問をぶつけてみた。
「そうだね……、まずはクールビューティーな第一印象だな」
「なるほど」
私はよく、冷めていると言われるし、それは外れていない。
「後は、君がその犬を見る時の優しい視線もだな」
「……」
気恥ずかしかった。顔の温度が上がっていくのがよくわかる。
「アイドルには容姿は言うまでもなく必要だが、それだけでは大して受け入れられない。意外性も求められる」
意外性があった方が面白いだろうね。
私にも、お気に入りの歌姫がいるが、クールな彼女がオヤジギャグで笑う一面を知り、ますます気に入ったもの。
「決め手はその犬かな?」
彼は、ハナコの方に目を向けた。
「犬?……ハナコのことですか?」
これは本当に予想外だった。犬まで見ているとは。
「ハナコって言うんだ。随分古典的な名前だね」
「家が花屋をやっているので」
安易なネーミングだとは思う。まあ、変に凝るのは趣味じゃないしね。
「そう言えばあのハナコと言う犬、君に寄り添っていたね。あれは、本当に良い犬だよね」
この人は犬のことまでよく見ている。スカウトする人って、スカウトする人の周囲にまで気を使っているんだなあ。
「君の外見が素晴らしいのは言うまでもないけど、ああ言う風にペットに慕われるように飼えるのなら、性格的にもアイドルとして大成できる可能性は十分にある」
「えっ、そうなんですか……、私、ぶっきらぼうで、笑顔とか得意じゃないんですけど……」
「それはアイドルになってから心がけてくれればいいよ。まずは、君がアイドルに興味を持ってくれればいい」
そう言って、彼は私に地図を渡した。☆☆☆プロダクションの位置が書いてあるのだろう。
「良かったら、一度来てみてよ」
そんなやり取りの後、彼はあいさつ代わりに家の花を数本買っていった。
〜〜〜回想終了〜〜〜
私と小泉プロデューサーとの、あの出会いは新鮮だったな。
その後、私は☆☆☆プロダクションのレッスンの様子を見たりしてアイドルになろうと思った。
理由は、ここでならやりたいことが見つかるような気がしたから。
私の才能を拾い、アイドルとしての道標である小泉プロデューサー、事務面と精神面で支えてくれる千川ちひろさん、経営や特訓のバックアップを任せられる社長、初心者から上級者まで器用に訓練をしてくれる青木トレーナー、そして、私の所属する『トライアドプリムス』の神谷奈緒と北条加蓮。
みんな私の今の人生には欠かせない大切な仲間達だ。
こうして家の仕事を手伝っていても、彼らのことは大切に思っていきたい。
……おっと、仕事仕事。
こうして、私の花屋での時間は順調にすぎていく……はずだった。
「あ……」
騒動のタネが来た。
彼女らは、先週と同じく3人組だった。
アイドルに詳しい厚淵メガネをかけた緑色の髪の少女に、オレンジ色のショートヘアの頭のゆるそうな少女。
騒動のタネになりそうな二人は、今日もいる。
ただ、3人目の女性は違う。あの2人よりは年長で、豊満な胸とどちらかと言うとふくよかな紫色の髪をした女性だ。
どこかに母性を感じるような雰囲気があった。
〜〜〜渋谷凛 side out〜〜〜
〜〜〜花陽 side in〜〜〜
練習後、私と凛ちゃん、そして希ちゃんの3人で渋谷さんのご両親が経営している○×生花店まで、来た。目的は、渋谷凛さんに会って改めてあいさつをするためにだ。
占いを信じて来たけど、大丈夫かなあ……。
〜〜〜回想開始〜〜〜
私の目の前に並んだ四枚のカードは、アイドルへの道を示していた。
希ちゃんは、四枚あるタロットカードの一番左をオープンした。
「太陽の逆位置か……」
希ちゃんの表情から、あまり良い内容ではないとわかる。
「次は……星の正位置か……」
「凛と何か関係があったりするの?」
凛ちゃんの名字は星空だから、それ関係にも興味があるみたいだね。
「ここの意味を説明する時に、一緒に説明するわ」
「3枚目は、愚者の正位置やね。面白そうなカードが出てきたわ」
希ちゃんが、ニヤニヤと笑っている。ちょっと怖い……。
「最後は、月の逆位置か……、と言うことはここ最近が勝負みたいやね」
どうやら、結果が出たみたい。
「では、説明していくからきいてや」
希ちゃんがいつもの柔らかな表情で説明を始める。
「まず、一番左のカードは過去について示してあるんや」
つまり、私が昔、アイドルと言う夢に対してどういう状況だったかと言うことだ。
「太陽のカードは、正位置なら輝く未来、満足を示すええ内容やけど、逆位置だから延期、失敗を示す」
「かよちんが過去にアイドルを目指す時に失敗してきたと言うことなの?」
「あるいは、過去に先延ばしにしてきた内容があるから、今こうしていると言うことや」
それは、兄から過去にUTX学院に行ってスクールアイドルをやると言う誘いを断ったことだろうか?
やりたいと言う気持ちと無理だと言う気持ち、そして凛ちゃんとの間で板挟みになっていた苦い思い出だった。
「次は、花陽ちゃんから見て左から2枚目は、現在の状況や。」
「星の正位置は、希望、憧れの意味があるんや」
「じゃあ、いい意味だと思っていいかにゃ?」
「まあ、悪い意味ではあらへんね」
これだと、まだ憧れているだけとも取れなくもない。私、甘いのかな……。
「花陽ちゃん、そう厳しい顔はせんといて。これは決して悪いカードやないし、あと2枚あるんやから」
「うん……」
「そして凛ちゃん、アンタ何か憧れていることはないんか?」
希ちゃんがカードを振りながら、凛ちゃんをからかうように声をかける。
「何もないよ♪」
(ホントは女の子らしく……)
凛ちゃんが顔を曇らせているのを見てしまった私は、次に行くように頼んだ。
「の、希ちゃん。つ、次のカードを」
「……わかったわ。3枚目は、問題に対しての障害や対応策を示すんや」
「で、愚者の正位置。これは冒険、無知を表す」
「ここで2人とも、誰かを思い出さへん?」
……冒険、無知……そう言えば、この言葉は
「「あ……穂乃果ちゃん!」」
私と凛ちゃんはお互いの方を向き合い、同じ答えを出した。
「今のこと、穂乃果ちゃんに言うたろ〜♪」
「希ちゃんが振ってきたんじゃない!!て言うか、希ちゃんも同じことを考えていたでしょ」
「愚者のカードで穂乃果ちゃんを思い出すとは、凛ちゃんも花陽ちゃんも黒いわあ」
うう……。言い返せない。
「希ちゃんはどうなのよ?」
凛ちゃんは抵抗を止めていなかった。
「ウチは誰かとは言うたけど、名前はあげとらんよ。μ'sの中のとも言うとらんし」
希ちゃんは私達より一枚上手だった。
「ちなみに、カードの意味は、対応策として冒険することが必要と言うことなんや」
冒険か……、私が一番苦手なことだね……。
「問題に対しての障害が無知と言うのは、花陽ちゃんでなくても誰かが無知と言うことを示すんや」
「ふーん、……ねえ、凛にいい考えがあるんだけど……」
凛ちゃんが提案した内容は驚くべきものだった。
「渋谷凛に会いに行く?」
希ちゃんが目を丸くする。
「実はね、凛達、渋谷さんの家が経営している花屋さんを知ってるんだにゃ♪」
先週の土曜日にお邪魔した○×生花店で、渋谷凛さんがお手伝いしている所に出くわした。
「でね、かよちんったら、スイッチが入ってね……」
「……り、……凛ちゃん……」
うう、恥ずかしいよう……。
「ええやん」
「「え?」」
希ちゃんが突然ひらめいたのに、私も凛ちゃんもついていくのがせいいっぱいだった。
「今度の土曜日、そのお店にいこ」
希ちゃんが凛ちゃんの提案に乗ってしまった。
「決まりだね!」
結局2人に押しきられてしまった。
〜〜〜回想 end〜〜〜
こうして流されるままに、お店に来ることに……。
「いらっしゃいませ……」
渋谷さんは、いつもと変わらない表情で私達をみていたが、内心は穏やかじゃなかったと思う。
「……こ、こんにちは……」
緊張からか、私は声が小さくなる。
「この間の件なら気にしなくて構いませんよ」
渋谷さんが、私の様子を気にかけてくれたようだ。よし……
「じ、……実は今日は、スクールアイドルとして、あなたにあいさつするためにきました……」
緊張しながらも、何とか要件を伝えた。
「え?あなたスクールアイドルなの?」
渋谷さんが、不思議そうな顔をする。
やっぱり、私じゃアイドルとしてみてもらえないのかな……。
「……待って、もしかしてあなたは音ノ木坂学院の生徒さん?」
「え?……は、はい」
「やっぱり」
……え、どうして音ノ木坂学院の生徒だとわかったの?
〜〜〜花陽side out〜〜〜
次の話で、星空凛と渋谷凛が再会する内容は終わりです。
後は、2期第3話の予選四組に残るまでの話です。
しかし、UTX学院もステージを貸してやるとはね。