凛と凛   作:イオリス

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 久しぶりの投稿です。なかなか時間が取れなくて進まず、申し訳ありません。


第12話

星空凛と渋谷凛が正式に顔合わせをした2日後、渋谷凛達……神谷奈緒、北条加蓮、そして小泉英一の4人はUTX学院に来ていた。

 

 

「ここがUTX学院か……」

渋谷は、いつもと変わらぬ表情であるが、声色は若干の驚きが見て取れる。

 

「バカでかい建物だな……」

奈緒は首を振りながら周りを見回していた。

 

「ちょっと奈緒、あまりキョロキョロしないで……」

加蓮が奈緒を注意するが、加蓮自身もその大きさには唖然としていた。

 

「ここが僕の母校でね……。」

 UTX学院に中等部、高等部と通い続けた英一だったが、どこか冷めた表情をしていたけ。

 

「プロデューサー、ここに6年も通ってたんだね」

渋谷も辺りを見回しながら言った。表現は淡々としていたが、内心は驚いていた。

 

「あの頃はアイドル関係と自分の学習に追われていたなあ」

  英一は学生気分が甦ったのか、いつもはそんなに見せない柔らかい表情をした。

 

 

「この大きな十字路を右に行くと、理科室とかがある。ここは……」

 しかし英一はすぐに表情を戻すと、三人に案内しながら進む。やがてエレベーターで上がって目的の部屋に到着しようとすると

 

「小泉先輩、ようこそ」

声をかけたのは綺羅ツバサだが、優木あんじゅ、統堂英玲奈も立っていた。

 

「こんにちは、綺羅さん。優木さんも統堂さんも久しぶりだね」

英一は、彼女達も苗字で呼んでいた。

 

「立ち話も何ですから、お入り下さい」

ツバサがドアを開ける。

 

A-RISEが先に入り、続いて英一、トライアドプリムスの3人が入る。

 

最後に凛が入ったのを確認して、ドアの脇にいたもう1人の女性がドアを閉めて去る。

 

 

「どうぞ」

ツバサが席につくように促すと、来客側である英一達が会釈して先に座り、それからA-RISEの3人が座った。

 

〜〜〜渋谷凛 side in〜〜〜

 

 UTX学院高校って、すごいなあ。広いし、何よりも高層ビルだと言う点が。うちの学校なんか三階しかないから、十階まである学校なんて想像もつかなかったよ。

 

「さっそく、話に入ろうか…」

 プロデューサーは、久しぶりの母校を懐かしむでもない様子だ。

 

 プロデューサーは、私達★★★プロダクションのアイドルとスクールアイドルのコラボ企画について話を進める。

 

「なるほど、それで小泉プロデューサーからの強い働きかけで、私達に話が来た、と言う訳ですね」

 A-RISEの中で最も背が高く、大人びた統堂さんが納得したようにうなづいた。

 

「そりゃそうだよ、最高のスクールアイドルと言ったらUTX学院高校のA-RISEだからね」

 プロデューサーがやや興奮気味に言った。さっきのUTX学院高校の校舎内を見て回った時のやや冷めた感じとはエラい違いだ。

 

「ちょっと、プロデューサー。興奮しすぎ」

 加蓮がなだめるように注意した。この人はやっぱり、母校かどうかよりもアイドルに深い興味を示すようだ。

 

「そんなに母校のスクールアイドルにお熱なのか?」

 奈緒がからかうように言う。

 

「何言ってるんだ、母校なんかどうでもいい。特に高校なんか就職試験の履歴書に書くくらいだ」

 プロデューサー、ちょっと母校に対して思い入れが無さ過ぎるんじゃないの?

 

「大事なのは、A-RISEが最高のスクールアイドルだと言うことだけだ。A-RISEがあれば、学校はDQNが大量発生するド底辺高校でも構わない!」

 スクールアイドルなのに、学校はおまけかい!

 

「小泉プロデューサーは、スクールアイドルと言うジャンルの開拓に苦心した人ですからね」

「そうなの!?プロデューサー」 

 綺羅さんがさらりと衝撃的なことを言ったので、私も声をあげてしまった。

 

「まあ、スクールアイドル立ち上げに向けて動いていた1人ではあるね」 

 プロデューサーは、何か歯切れの悪い言い方をしていたようだ。

 

「UTX学院を卒業して大学生になってからも、度々スクールアイドルの確立のために、学院に来ていたそうですから」

 統堂さんが苦笑しながら話していることからも、よほど入り込んでいることがうかがえた。

 

「そのくらい入れ込んだから、プロデューサーになったんだね」

 私は思わずプロデューサーに圧倒された。

 

「まあ、残った選択肢がプロデューサーかな?それしかやれない状況に追い詰められていただけさ」

 プロデューサーは苦笑いをするが、行動はどう考えてもアイドル関連にとりつかれたとしか思えない。

 

 それからは、私達トライアドプリムスとA-RISEとのコラボ企画の打ち合わせだった。

 と言っても、話しているのはプロデューサーだけで、私達トライアドプリムス3人は、資料を見ながら時折うなずくだけだった。

 短い時間で打ち合わせは終わった。

 

「前もって、UTX学院のスクールアイドル部の事務打ち合わせは終わらせてあるからね。今日のメインはアイドル同士の顔合わせ」

 小泉プロデューサーが、内情を説明する。

 

「何だ、学校見学じゃないのか」

 奈緒がボヤくと

「別にこんな建物の中見たって面白くないだろ」

 シラケた顔でプロデューサーが答える。

 

「えー、でも、この部屋、見晴らしいいよ。スゴいじゃない、街がこんなに小さく見えるよ」

 加蓮がプロデューサーを窓からの景色に向けようとする。

 

「そんなもの、君は小さい頃から窓で見ているだろ。北条君や神谷君をみている方が楽しいよ」

 プロデューサーが笑いながら言う。

 

「病院の窓から見える風景と全然違うのに」

 加蓮は不機嫌な顔でそっぽを向いた。顔を赤らめながら。

「…バ、バカかアンタは!」

 奈緒も顔を赤らめながら抗議する。

 

「そんなことないよ、…もちろん渋谷君も面白いぞ」

 …、そ、そういうことを真顔で顔を見ながら言うものじゃないでしょ。

 

「本当にアイドルに対する情熱は物凄いですね」

 優木さんが呆れたように言う。

 

「高校時代は、アイドルと学習しか関心を示さなかったな」

 ドヤ顔で言う必要はないんじゃないの、プロデューサー。

 

「大学にはいってからも、しょっちゅう顔を出していたおかげで、進振りで行きたくもない専攻に行く羽目になったよ。理一入っておけば就職は大丈夫と踏んだのになあ」

 何か、変な言葉を言っているよ。と言うか、『しんふり』って何よ。

 

「あはは…。そう言えば、小泉プロデューサー」

 綺羅さんも、呆れていたが、何かを思い出したようだ。

 

「どうした、綺羅さん」

「小泉プロデューサーの妹さん、花陽さんもスクールアイドルなんですよね」

 綺羅さんには、音ノ木坂学院の情報も入っているようだ。

 

「ああ、潰れかけの学校でね。……君が気にすることじゃないと思うよ」

 ちょっと、プロデューサー。今の結構キツい発言だよ。

 

「小泉プロデューサー、厳しいですね。私は結構評価しましたけどね」

 優木さんも、驚きを隠しきれていない。

 

「優木さんが甘く評価しているだけじゃないか。あんなところでガンバっても、先が知れてるよ」

 音ノ木坂学院に何か恨みでもあるのかな?

 

「μ’sに対する評価も厳しそうですね」

「彼女らは大した存在じゃない。花陽も伸びないだろう」

 プロデューサーはキッパリ言った。

 

「なあ、妹に対して厳しすぎないか?」 

 たまらず奈緒が言った。

 

「妹だからって甘やかす気はない。アイツは環境を選ばなかった時点で素質ナシだ」

 キッパリと言うプロデューサー。こう言う雰囲気は良くないなあ。話を変えなくちゃ。

  

「…そう言えば、『μ‘s』の名前の由来って皆さんはご存じですか?」

 私は、とっさにμ‘sの名前の由来を出してしまった。

 

「…」

 奈緒と加蓮がジト目で私を見る。他に良い話題が出てこなかったんだから、しょうがないじゃない。

 

「確か、『音楽の女神』が由来でしたよね」

 綺羅さんが笑顔で答えてくれた。

 

「最初に動画をアップした時には面白そうな子達が出たなあって思ったわ」

 優木さんがクスリと微笑んだ。絵になる表情だな。

 

「正直、私は物理の摩擦関係かなあとも考えた」

「実に素晴らしい視点だ」

 統堂さんが摩擦関係と言った瞬間、プロデューサーが嬉しそうに感想を語る。仲間ができて良かったね。

 

「統堂君、今年度で卒業だったよね。来年ウチに来てくれ!」

 物理の摩擦ネタが合ったのがよほど嬉しかったみたい。私も、物理を一生懸命にやろうかな。

 

「やっぱりUTX学院は良い。凛ちゃんには悪いけど、音ノ木坂の連中どもにはわからんだろうな」

 だから、何でそういうこと言うかなあ。何か音ノ木坂学院に恨みでもあるの?

 

「り、凛ちゃん!?凛、お前プロデューサーといつからそんな仲に!?」

 凛ちゃんって、私じゃないよ。星空さんの方。

 

「ああ、神谷君は知らなかったな。妹が小さい頃から仲良くしてもらっている星空凛ちゃんって言う子のこと。俺が渋谷君を凛ちゃんって言ったら違和感あるだろ」

 いや、別にいいよ。私達3人は名前呼びなんだし。

 

「どうせだったら、花陽と2人でUTX学院に来れば良かったのにな。花陽は無理でも凛ちゃんはダンスで成功できそうなのにな。…あ、花陽って言うのは俺の妹でこの野暮ったい娘のこと」

 そう言ってプロデューサーは奈緒に写真を見せる。

 

(こ、この子は…、この間会ったアイドルオタク…)

 奈緒は、驚いた表情をする。

 

「おいおい神谷君、そんなに驚くことはないじゃないか。こんな変な顔のアイドルがいるなんて…とか思ったのか?」

「あ、いや…、そういうわけじゃない…」

 奈緒は、小泉さんがプロデューサーの妹だとは知らなかったようだ。

 

「アイツが音ノ木坂に行ったのは、君達みたいな素晴らしいアイドルを見て自分には無理だと悟ったからかもな」

 プロデューサーは妹さんにアイドルをやってみてほしかったんだ。

 

「どうせダメならやってみて失敗すればスッキリ諦められるのに。若いんだから、やり直しは利くのに」

 

「…プ、プロデューサー?」

 

「どうした、渋谷君?」

 

「妹さん…花陽さんはアイドルとしては無理なのかな」

 

「いやあ、無理だろ。顔からしてアイドルの水準に届いていないじゃない。ハハハ」

 

「でも…」

 

「気遣ってくれるのは嬉しいけど、石ころは磨いても石ころだよ。君達とは違う」

 プロデューサーは、花陽さんの可能性をキッパリと否定した。

 

〜〜〜渋谷凛 side out〜〜〜

 

 トライアドプリムスの3人が去った後、UTX学院で

 

「小泉さん、何か妹に対して複雑な感情がありそうね」

 あんじゅが、首を傾げながら言った。

 

「おそらく、妹さんをUTX学院に入れたかったんだろうな」

 英玲奈が腕を組みながら返事をすると

 

「確かに、環境という面ではウチの方がいいわね」

 つばさが微笑みながら返事した。


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