凛と凛   作:イオリス

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プロデューサーの呼び方までやって終わりにしたいと思います。更新が遅れて申し訳ありません。


第10話 名前

 花陽達3人と渋谷凛が再会する場所となった喫茶店。会話をしている時に、二人の人物が現れた。

 一人はメガネをかけたスーツ姿の男で身長は170cmほどのやや小柄な男性、もう一人は赤毛の巻き髪で、サングラスをかけた短パンの少女だ。

 

 

「え、英一お兄ちゃん!?何でこんなところにいるの!?」

スーツ姿の男は英一だった。

 

「あれ?もしかして、凛ちゃん!?」

英一も凛に気づいた。

 

「うん、そうだよ」

 

「久しぶりだね。……ところで、渋谷君とは知り合い?」

 

「そうだにゃ」

 こちらは和やかな雰囲気だった。

 

一方、渋谷凛は

 

「…………」

 英一と距離が近い赤毛の少女を軽くにらんでいた。

 赤毛の少女は、凛の方を見てニヤリと笑っていた。あまり、和やかとは言い難い空気が流れていた。

 

「ま、真姫ちゃん?」

 凛にとって、赤毛、セミロング、巻き毛の少女と言えば真っ先に思い付くのが西木野真姫だ。彼女はサングラスをつけることもあるから、特徴としてあてはまっている。

 

(でも、何か違うなあ。)

 凛は何となく違和感を感じていた。

 

(いや、違う。真姫ちゃんにしては胸が一回り大きい)

 希はメンバーによくワシワシするだけあって、胸のサイズ当てには自信があるのだ。

 

一方凛も

(真姫ちゃん、もうちょっと背が高かった気がするなあ。あれだと凛達とあまり変わらないもん)

 

どうやら二人は、赤毛の少女が真姫ではないと気づいたようだ。

 

 

「とりあえず座ろうか」

 英一が赤毛の少女を先に座らせようとすると

 

グイッ

 

「おわっ」

 凛が英一の左腕を引っ張り、先に座らせた。

 

「知らない子を私の隣に座らせないで」

 凛がムキになって抗議する様は、真姫と口調がにていた。

 

「クッ……ククッ……」

 

「何ですか?」

 

「フフフ……アハハハハ」

 赤毛の少女が笑い出した。

 

「何なのよ!?」

 赤毛の少女の笑いにキレかける渋谷凛。

 

「その声……、もしかして、北条加蓮さんでは?」

 アイドルオタクの花陽が赤毛の少女の声に反応した。

 

「え?」

 戸惑う赤毛の少女。

 

「やっぱり……、確信が持てました」

 何と花陽は笑い声だけでアイドルを見抜いたのだ。

 

(えっ、加蓮なの?)

 凛は先ほどからにらみ続けた少女に対して、初めてそれ以外の表情を向けた。

 

「あなたすごいね」

 赤毛の少女は、赤毛を取りだした。実はこれはウィッグだったのだ。

 

「そう、私は北条加蓮です」

 サングラスも取ると、テレビで良く見かける北条加蓮の姿があった。髪型などはさすがに変えてあるが。

 

 座席の状況はμ'sの3人と、渋谷凛達3人がテーブルを挟んで向かい合っている状況だ。

 μ's側は、奥から花陽、凛、希と座っており、渋谷凛側は、奥から渋谷、英一、加蓮が座っている。

 

「北条君、俺達も何か頼むか」

 英一はメニューを加蓮に渡す。

 

「そうだね」

 加蓮がメニューを受けとった。

 

 

〜〜〜凛 side in〜〜〜

 

北条さんか。てっきり真姫ちゃんかと思ったよ。雰囲気もまあまあ似ていたし。知り合いかな?

 

「そう言えば凛、この人達誰?プロデューサーと知りあいの子もいるみたいだけど」

 ……おっと、北条さんがたずねているのは渋谷さんの方だね。北条さんは凛の名前はまだ知らないはずだし。

 

「じゃあ、そちらの3人には改めて自己紹介してもらうとしましょう」

 渋谷さんが凛達の方を見る。それがいい。

 

「渋谷君、俺を呼んだのはこのため?」

 英一お兄ちゃんが少し不満そうに言う。どうしたんだろう?

 

「うん、スクールアイドルとのコラボイベントがあるから、お互いを知っておくのも手かなあって」

 

「それにしても、どこで彼女らと知り合ったの?」

 わわっ、それは聞かれたくなかったにゃ。お店で騒いだなんて知られたら、恥ずかしいにゃ。

 

「そこの子……星空さんがお姉さんらしき人と一緒にたまたまお花を買いに来たのが、そもそもの始まりだよ」

 凛と恋お姉ちゃんで買い物に来た日のことだ。かよちんも一緒だったけど。

 

「凛ちゃん、恋さんと一緒だったのか?」

 英一お兄ちゃんの質問に頷くと

 

「恋さんか……、久しくあってないなあ」

 英一お兄ちゃんがなつかしんでいる横で、北条さんがお兄ちゃんをジト目でみている。

 

「続けるよ!……それで、星空さんがスクールアイドルのチラシを落としていったんだ」

 え?そうだったっけ?

 

「そのチラシを良く見たら、『星空凛』の名前を大きな赤丸で囲ってあったの」

 どうやら渋谷さんは、凛達を気づかって事実とは違う説明をしてくれているようだ。

 

「私は慌ててチラシを拾って渡すと、お姉さんが、星空さんのことを『凛ちゃん』と呼んでいるのを聞いたの」

 きっとこれは準備してきたんだろうな。渋谷さんがどうやって凛と知り合ったのかは確実に聞かれるだろうから。

 

「私は、星空さんに、星空凛さんかどうかと聞いたら、『な、何で凛の本名を知っているの?』と言われたんで、スクールアイドルのチラシのことについて話したんだ」

 本当ならすごい推理力だにゃ。渋谷さんの推理力は高いのは本当だけど。

 

「それで今日、お友達の子と一緒に会いましょうと言うことになったんだ」

 

「なるほど」

 英一お兄ちゃんは、渋谷さんの話の中身に納得したみたいだった。うまいなあ、渋谷さん。

 

「どうせイベントで一緒になるんだろうから、プロデューサーにも紹介した方がいいだろうってことで、サプライズで連れてきたんだ」

 

「そうだったんだ……、本当に驚かされたよ」

 お兄ちゃんの苦笑は久しぶりに見るな。

 

「凛ちゃんのスクールアイドル姿か……、ちょっと楽しみだな」

 

「お、お兄ちゃん!心にもないこと言わないで!」

 

「いや、ウソじゃないよ」

 

「そうやって、何人の女の子をたぶらかしてきたの?」

 

「……たぶらかしてはヒドイな。そんなに疑うことないじゃないか」

 

 だって、凛にそんなこと言う男の人に会ったことないんだもん。しょうがないじゃない。

 

「あ、それより自己紹介しないと。北条さんがおいてけぼりになっちゃうよ」

 とりあえず、話題をそらした。

それから、凛、かよちん、希ちゃんの順番で紹介していった。

 

「それにしても、小泉さんってスゴいね。アイドルのことをそこまで知っているって」

 

「い、いえ……ただ好きだから知っているだけであって……」

 かよちんは謙遜するけど、実際このクラスのファンはそうはいないよ。

 

「この子、小泉プロデューサーの妹さんなんじゃないの?」

 渋谷さんが英一お兄ちゃんを見る。それにしても、渋谷さんは冴えているな。

 

「……ああ、その通りだよ。名字も一緒だしな」

(凛ちゃんもいるし、隠し通すのは無理だな)

 

 英一お兄ちゃんは、凛の方をチラッと見てからそう言った。あんまり表情が明るくないけど、どうしたのかなあ?

あれ?そう言えばかよちんも表情が暗いよ。

 

「そう言えば、小泉プロデューサーの妹さんも、アイドルに詳しいけど、一家みんなそうなの?」

 

英一お兄ちゃんが北条さんの問いに、『まあね』と軽く返した。あまり触れられたくないと言った表情をしていたね。

 

「そう言えば凛ちゃん」

 

「何、お兄ちゃん?」

 

「確か、音ノ木坂のスクールアイドルって、μ'sとか言わなかった?」

 

「うん、そうだよ」

 何でかよちんじゃなくて凛に聞くの?

 

「どうやってその名前にしたの?」

 

 質問したのはお兄ちゃんだけど、渋谷さんや北条さんも注目しているにゃ。

 

「あ、それはそこにいる希ちゃんが……」

 凛の左となりに座っている希ちゃんの方を見た。

 

「東條さんが考えたのか?」

 (高垣さんなら、『東條さんが登場』とかいいそうだな)

 

「ええ、ウチが名付け親です」

 希ちゃんがいつものように柔らかい微笑みを浮かべる。

ちょっとふっくらした顔だけに調和が取れていた。

 

 

「なるほど、渋谷君、北条君。名前の由来を当ててみようじゃないか。当たった人にオゴると言うことで」

 

「それならいいよ、加蓮はどうする?」

 

「じゃあ、私も」

 

この人達、名前をあてられるかな?

 

 

〜〜〜凛side out〜〜〜

 

 

 

〜〜〜渋谷凛side in〜〜〜

 

 

 μ'sの名前の由来か……。セッケンな訳はないけど。もちろん、動摩擦係数なんてものじゃないよね。

 

 プロデューサーのおかげで、この言葉は頭に入った。本質的な意味はわかっていないけど。

 

「私からいくね。アメリカとかの有名な楽器」

 何か、そんな名前の楽器があったような気がした。

 

「凛はそう来たか……、私は外国の有名なアイドルのデビューソングだと思うな」

 

加蓮の解答はアイドルと関連性を持たせたものだった。

 

 

「東條さん、二人の解答って当たってる?」

 

 プロデューサーは自信満々にあの解答を言うために、確認を取っている。

 

「うーん、残念ながら2人とも外れやね」

 

 残念。これでオゴってもらえなくなったか。

 

「安心しろ、俺が当ててやるから」

 

 摩擦の話で安心しろと?どこからそんな自信が来るのだろう?

 

「東條さん、μ'sって、物理の動摩擦係数が由来だろ?」

 

 プロデューサーは『μ'』と書いて東條さんに示した。

 

「えと……」

 

東條さんが戸惑っている。そりゃそうだろう、こんな解答は想定外だろうから。

 

「……そうだ、そう言えば凛ちゃんは物理基礎をやっているよね。この記号を見たことはあるかな?」

 

 『μ'』を星空さんに見せる。高校時代によっぽど物理が好きだったのかなあ?

 

「かよちん、こんなのやったっけ?」

 

「確か、この間の授業で……」

 

 まあ、いきなりこんな話されれば戸惑うよね。

 

「ねえ東條さん、μ'sの名前の由来の正解はなんなの?」

 この話は早く切り上げたかった。物理がそこまで嫌いな訳ではないけど、明らかに話が脱線しそうだったから。

 今度の定期試験の時に勉強手伝ってね、プロデューサー。

 

「そうやね、言った方がええなあ」

(ウチは理科苦手やし、中でも物理なんて二度とやりたくないわ)

 

「プロデューサー、話を聞こう」

 一生懸命紙に何かを書こうとしているプロデューサーを止めないと。

 

「あれ、μ'sの由来って物理の摩擦関連じゃないの?世間の摩擦に負けずに突き進もうと言う」

 

「もちろん、違いますよ」

 

東條さんが、『もちろん』の部分を少し強調する。

 

「小泉さんは、物理が得意なんですなあ」

 

東條さんが少し呆れたような表情をする。

 

「結構理数系は強いよ」

 

「なるほど……」

(ちょっとえりちに似ているな)

 

「μ'sと言うのは、英語読みであって、もとはギリシャ神話のムーサと言う、9人の音楽の女神から取った名前や」

 

ムーサ……、聞いたことないな。

 

「初めて知った、プロデューサーは?」

 

 加蓮も知らなかったみたい。

 

「人がゴミのようだ……?」

 

 どうやら、プロデューサーの頭の中がゴミだったようだ。

 

「それ、何だっけ?……えーと……」

 

 星空さん、そんなボケにまともに突っ込まなくていいよ。

 

「それ、ム○カやん」

 

 東條さんが突っ込みを入れる。

 

「ムーサと言うのはな……」

 

ギリシャ神話の9人音楽の女神のことらしい。

 

「知っていたのは、μ'sメンバーでは海未ちゃん、真姫ちゃんの2人やったな」

 

 失礼だとは思うが、こんなことを知っている子が廃校寸前の高校に3人もいるなんて思わなかった。

 

その後、外した私達が彼女ら3人におごる形になる。

 

「まさか外すハメになるとは。すまない、2人とも」

 

「気にしないで、プロデューサー」

 当たるなんて思ってなかったから。

 

「お金は持ってきているからね、ホラ」

 

 加蓮は、プロデューサーに財布の中身を見せる。

 

「すごいなお前、給料前だから俺なんて、諭吉様は一枚でこれだぜ」

 

 薄っ!何でこんなに持ってないのよ。しかも一万円一枚なんて。

 

「大丈夫なの、プロデューサー」

 

「おろせばまだあるから大丈夫」

 

「ならいいけど」

 

 加蓮が心配する表情をしているけど、同感だよ。

 

「とりあえず花陽の分は俺が出すから、凛ちゃんや東條さんの分は、渋谷君と北条君でやってくれ」

(あいつは食べるから、彼女らに担当させる訳にはいかないな)

 

プロデューサーが妹さんの分を出すんだ。

 

 

そして、みんなで注文した後で東條さんが

 

「そう言えば、小泉プロデューサーさんって、アイドルの子達を名前で呼ばないんですね」

 

確かに私は名前で呼ばれたことがない。加蓮や奈緒もプロデューサーから名前で呼ばれているのは聞いたことがない。

 

「基本的に家族以外を名前で呼ぶことはしないんだ。例外は凛ちゃんくらいかな」

プロデューサーは意識的に呼び分けているようだ。

 

「そうなの、お兄ちゃん?」

 

星空さんが不思議そうに聞いてくる。

 

「適切な距離感を大切にしたいからね。アイドルとプロデューサーって、距離の取り方が大変なんだ」

 

プロデューサーがいつも言っていることだ。

 

「近づきすぎるとどうしても大人数の面倒は見づらいし、しがらみに縛られる」

 

「かと言って離れすぎると仕事に支障をきたす。さっきのちょっとしたやり取りができるくらいがちょうどいい」

 

ちょっとしたやり取りとは、μ'sの名前の由来当てクイズのことなんだろうな。誰も当たらなかったけどね。

「え、じゃああの摩擦はネタなの?つまんなかったけど……」

 

星空さん、正直すぎ!気持ちはわかるけど。

 

「……いや、動摩擦係数は本気で当てに来たんだよ。そう言われるとショックだ……」

 

プロデューサーは本気なんだよね。星空さんと東條さんは驚いて、小泉さんはあきれているけど。

 

「小泉プロデューサーは、こういう人だから。……でも、仕事はすごくできる人なんだ。」

 

加蓮が苦笑しながらフォローする。物理の話は彼女も好きじゃないからね。

 

「何か、君も変な人扱いしてない?」

 

「そ、そんなことないよ」

(そうだけど、そうは言えないよ)

プロデューサー、加蓮の優しさを素直に受けるべきだよ。

 

「プロデューサー、話を戻そうよ」

 

これ以上物理の話はいらない。

 

「わかった……。……、確か、適度に距離を保つことが大事だと言う所だったかな」

 

私がうなずくと、プロデューサーは続けて

 

「だから、正直、アイドルを名前で呼ぶのは距離が近すぎるように感じる」

 

確かに、相手を名前で呼ぶのは、それなりに心理的な距離が近いことになる。

特に、プロデューサーからすれば、担当アイドルである女の子を名前で呼ぶには抵抗があるのだろう。「プロデューサー全員がそういう発想と言う訳ではないけど、少なくとも僕は一歩ひいて全体の様子をみながら担当アイドルの子を最大限活躍させるのが自分の役割だと思う」

 

 

 

私達とはあくまで仕事関係でしかないと言うスタンスなのだろう。

私はそれでいいと思う。必要以上に馴れ合うのは嫌いだし、何よりも私をアイドルとしての喜びを教えてくれたプロデューサーのやり方を尊重したいから。

 

 

「そうでしたか……」

(渋谷さんも北条さんも、納得した様子だったな)

 

 

「お待たせしました」

 

注文したものが到着し、後は歓談で終わった。

 

 

〜〜〜渋谷凛side out〜〜〜

 




やっと、初顔合わせ終わりました。

後はこの一次予選の「ユメノトビラ」を舞わせて、「ユメノトビラ」編は終了ですね。

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