遊戯王GX~Ritual Story   作:ゼクスユイ

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新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


第25話 大気を操りし王

「よ、良かったな、明日香。兄さんの記憶が戻って……」

「……それは良いけど」

 保健室で明日香と夜光が吹雪のことで話しているが、何故か歯切れが悪い。その原因を作ったカイザーは誰も見たこともないくらい汗をかいている。この場に普段の彼を知っている人が居れば、ありえない光景と言える。そして、ベッドの上で横たわっている吹雪をちらっと見た明日香は一息入れた後、怒鳴り散らす。

「なんでまっ黒焦げになっているのよ!」

「それはだな……」

 カイザーが明日香に順をおって説明する。

 

 アムナエルとの戦いが終わり、ボロボロになっていた夜光を十代たちが保健室に運んでから数日がたった。セブンスターズ全員を倒し、吹雪の記憶が戻ればめでたしめでたしとなるのだが、その記憶が一向に戻る気配が無い。そんな吹雪に対し何もできないカイザーはいらつきを隠せないでいた。そして、カイザーは吹雪の横のベッドにいる夜光に話しかける。

「何か記憶を取り戻す方法はないのか」

「よく聞くのは記憶を失ったときと同じショックを与えたら治るってやつだな」

「記憶を失った理由か……やはり闇のデュエルか」

「だろうな。誰かとデュエルして記憶を失ってダークネスになったと考えるのが筋だ。闇のデュエルはできないけど、ソリッドヴィジョンのレベルを上げてそれに近い状況を作り上げれば、あるいは……」

「そんなことしたら一発退学ものだな」

「だけど否定しないだろ。知っているぜ、誰も使わないデュエルリングがあるのは。今晩、たまたま監視システムがバグって、たまたまそこの管理システムの調子が悪くなったら事故だよな」

「ああ事故だ。感謝する」

「ん? 感謝されるようなこと言ったかな??」

 すっとぼける夜光にカイザーはフッと笑みを浮かべる。可愛い後輩が退学をかけてまで、自分のために尽くしてくれるのだ。ならば、このたった1度のチャンスで吹雪のそこに眠る記憶を呼び起こそうとカイザーは固く決心する。

 

 そして、皆が眠りについた頃、夜光とカイザーは吹雪を連れてデュエルリングに行く。そして、夜光がパソコンを操作した後、デュエルリングの電源を入れる。

「人件費削減でガードマンを減らして、監視システムで見張るようになったのが幸いしたな。ダミー映像を流したから、1時間くらいはここで何が起きても管理室にいるガードマンが気づくことはない。そして、ソリッドヴィジョンのレベルを解除して、人体に影響を及ぼすレベルまで上げた。これで疑似闇のデュエルの完成だ」

 色々と物騒な単語が出ているが、カイザーは気にも留めず、吹雪にデュエルディスクと大切に保管してあった吹雪のデッキを渡す。記憶を取り戻してなくても吹雪のデュエリストの本能がデュエルを覚えている。デュエルディスクをつけた吹雪は先までの自信なさげな表情から変わり、デュエリストの表情に変わる。

 

カイザーLP4000

吹雪LP4000

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!俺はサイバー・ドラゴン・コアを召喚。サイバー・ドラゴン・コアの効果により、デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンド」

 先行1ターン目と言うこともあり、大きく動くことはしないカイザー。もしくはつかみどこがありそうでない吹雪を警戒しているのかもしれない。

 

手札:5枚

場:コア

魔法・罠:伏せ1枚

 

-吹雪のターン-

「僕のターン、ドロー!僕は霞の谷の祭壇を発動。レスキュー・ラビットを召喚。レスキュー・ラビットを除外して、バードマン2体を特殊召喚する」

 吹雪の場に2体の人型の鳥が現れる。攻撃力も1800と下級モンスターにしては高い数値を持つ。2体のバードマンの攻撃を受ければ、カイザーは一気にライフを半分近くまで持っていかれる。

「バードマンでサイバー・ドラゴン・コアに攻撃」

「罠発動、サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー(アニメ効果)を発動。サイバー・ドラゴン・コアを墓地に送ることで、バードマンを破壊し、バトルフェイズを終了させる」

 

サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー(アニメ効果)

自分フィールド上の「サイバー」と名のついた機械族モンスター1体を墓地へ送り、相手の攻撃モンスター1体を破壊する。この効果を使用したターンのバトルフェイズを終了する。このカードと「サイバー」と名のついた機械族モンスター1体を墓地へ送る。相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。

 

 だが、カイザーはそんな単調な攻撃を受けるはずがなかった。バードマンを破壊しつつ攻撃を止める。

「仕方がない。霞の谷の祭壇の効果でデッキからトランスフォーム・スフィアを守備表示で特殊召喚する。凡骨の骨の対価を発動。バードマンを墓地に送って2枚ドロー」

 一方、吹雪も負けていない。壁モンスターを残しつつも、次ターン出の反撃のために手札増強する。記憶を失ってもフブキングの異名は健在といったところか。

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:4枚

場:トランスフォーム・スフィア

伏せ:祭壇

   1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!サイバー・リペア・プラントを発動。デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加える。墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外し、デッキからサイバー・ドラゴン・ツヴァイを特殊召喚する。手札の融合を見せて、ツヴァイをサイバー・ドラゴン扱いにする。サイバー・ドラゴン・コアを召喚。サイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴン・ツヴァイを融合!出でよ、サイバー・ツイン・ドラゴン!サイバー・ツイン・ドラゴンでトランスフォーム・スフィアに攻撃!」

 2つ首の機械竜がトランスフォーム・スフィアにビームを放ち、粉砕する。

「サイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「ピンポイントガードを発動。墓地のトランスフォーム・スフィアを守備表示で特殊召喚する。このターン、トランスフォーム・スフィアは破壊されない」

 墓地から復活したトランスフォーム・スフィアが主人である吹雪の身を守る。カイザーの激しい攻撃をいとも簡単にかわすあたり、吹雪の腕の高さを表している。

「強欲なカケラを発動し、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:ツイン

魔法・罠:ヒドゥン・テクノロジー

     カケラ

     伏せ1枚

 

-吹雪のターン-

「僕のターン、ドロー!トランスフォーム・スフィアの効果発動」

「チェーンしてサイバネティック・ヒドゥン・テクノロジーとサイバー・ツイン・ドラゴンを墓地に送り、トランスフォーム・スフィアを破壊する」

「祭壇の効果でデッキから効果を無効にしてEMスパイク・イーグルを特殊召喚。シンセサイズ・スフィアを召喚」

 

シンセサイズ・スフィア(漫画オリカ)

効果モンスター

星4/風属性/鳥獣族/攻1000/守1000

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、

自分の墓地に存在するレベル4以下の「スフィア」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。

 

「シンセサイズ・スフィアが召喚に成功したとき、墓地のレベル4以下のスフィアを特殊召喚する。トランスフォーム・スフィアを特殊召喚する」

 シンセサイズ・スフィアが足で墓地からトランスフォーム・スフィアを引っ張り出し、吹雪の場に召喚させる。たとえ一体一体の攻撃力が低くとも数がそろえば、大ダメージを与えることができるのがデュエルモンスターズだ。

「全モンスターでダイレクトアタック!」

 

カイザーLP4000→3000→2900→2000

 

「闇のデュエルほどの痛みはないが、これは中々のダメージだ」

 ソリッドヴィジョンはリアル感を与えるために軽い衝撃を与えるようになっている。そのため、普通のデュエルでも人は吹っ飛び、けがもする。そのために体育の時間は欠かせないのだ。その衝撃が最大となれば、体へのダメージは計り知れない。

「トランスフォーム・スフィアは攻撃した後、守備表示になる。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札:3枚

場:トランスフォーム・スフィア

  シンセサイズ・スフィア

  EMスパイク・イーグル

伏せ:祭壇

   1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!

俺は融合回収を発動。墓地の融合とサイバー・ドラゴン・コアを手札に加える。手札断札を発動。互いに手札を2枚捨て、2枚ドローする」

 ドローしたカードを見て、笑みをこぼす。吹雪の記憶を取り戻すには自身のエースモンスターの攻撃こそがふさわしい。

「墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外し、デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚する。パワー・ボンドを発動。手札のサイバー・ドラゴン2体と場のサイバー・ドラゴンを融合!サイバー・エンド・ドラゴン」

「サイバー・エンド・ドラゴン……うっ、なんだろう。この懐かしい感じは……」

「パワー・ボンドの効果により、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は倍となる!(ATK4000→8000)」

「攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴン……何回もこの光景を見た気がする……」

 記憶を取り戻しつつある吹雪にカイザーは期待を込めて攻撃宣言を行う。手加減なしの一撃をくらえば、記憶を取り戻せるはずだと!決して先の攻撃の仕返しは考えていない。たぶん。

「サイバー・エンド・ドラゴンでトランスフォーム・スフィアに攻撃!」

「罠発動、ダメージ・ダイエット。受けるダメージを半分にする」

 

吹雪LP4000→50

 

「亮、ひどいじゃないか~。記憶失っているときにパワー・ボンドを使ったサイバー・エンド・ドラゴンで攻撃するなんて。おかげで服もボロボロだし」

「思い出したか、吹雪!」

 カイザーが嬉しそうに頭を押さえながら文句を言っている吹雪の元に駆け寄る。吹雪が記憶の糸をたどり、自分が何をしていたのか思い出そうとするが、そこの部分だけ霧がかかっているかのようにぼんやりとしている。

「う~ん。まだどうしてダークネスになっていたのか肝心のところが思い出せないんだ。悪いけど、もう少し付き合ってくれるかな? 尤もパワー・ボンドで自滅するつもりなら仕方がないけどね」

「俺がそんなヘマをすると思うか。俺はサイバー・ジラフを召喚。このカードを生贄にささげることでこのターン、受ける効果ダメージを0にする。ターンエンドだ」

 

手札:0枚

場:サイエン

魔法・罠:カケラ(1)

     伏せ1枚

 

-吹雪のターン-

「僕のターン、ドロー!僕はシンセサイズ・スフィアとEMスパイク・イーグル、墓地のバードマンを除外しTheアトモスフィア爆☆誕!!」

 先と違って飄々とした様子で切り札であるTheアトモスフィアを召喚する。これからがフブキングの本領発揮だ。

「アトモスフィアの効果でサイバー・エンド・ドラゴンを吸収。そして、アトモスフィアの攻撃力は吸収したモンスターの攻撃力分アップする」

 アトモスフィアが握っていた大気の球体にサイバー・エンド・ドラゴンが吸い込まれ、その攻撃力を大幅にアップさせる。

「そして、思い出のブランコを発動。墓地のバードマンを特殊召喚する。行くよ、アトモスフィアでダイレクトアタック!テンペスト・サンクションズ!」

「ガードブロックを発動。戦闘ダメージを0にし、1枚ドローする」

「それなら、バードマンでダイレクトアタック!」

 

カイザーLP2000→200

 

 カイザーがギリギリのところで踏みとどまる。ここまでライフが減れば、200も50も大差はない。次のカイザーのターンがこのデュエルの勝敗を決めることになる。それは吹雪も承知である。

「エアー・スフィアを守備表示で召喚」

 

エアー・スフィア(漫画オリカ)

効果モンスター

星2/風属性/鳥獣族/攻400/守300

このカード以外のスフィアモンスターが存在する場合、相手は攻撃宣言できない

 

「エアー・スフィアと他のスフィアが居る限り、相手は攻撃できない。さらにエンドフェイズにバードマンが破壊され、祭壇の効果が発動。デッキからトランスフォーム・スフィアを特殊召喚する。カードを1枚伏せてターンエンド」

 カイザーの攻撃をシャットアウトした上で壁モンスターを召喚し、鉄壁の布陣を敷く。この布陣を突破するのはカイザーでも容易に破れるものではない。

 

手札:0枚

場:エアー・スフィア

  トランスフォーム・スフィア

  Theアトモスフィア

魔法・罠:祭壇

     伏せ1枚

 

-カイザーのターン-

「俺のターン、ドロー!強欲なカケラを墓地に送り、2枚ドロー!サイバネティック・フュージョン・サポートを発動。ライフを半分払うことで、墓地のカードを融合素材にすることができる」

 

カイザーLP200→100

 

「融合を発動。墓地のサイバー・ドラゴン3体を融合!サイバー・エンド・ドラゴン!」

「2体目は出すとは、さすがだね。でもエアー・スフィアの効果で……」

「甘いな。俺にそんな小細工は通用しない。禁じられた聖杯を発動。エアー・スフィアの効果を無効にする。これで攻撃が可能となった。俺はサイバー・エンド・ドラゴンで……」

(サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は4000。そして、僕の伏せカード、シフトチェンジを発動させて攻撃力5000のTheアトモスフィアに攻撃を移せば、亮のライフは0となる)

 吹雪の信条は自分のエースで相手のエースを倒すことだ。アトモスフィアで除去してから勝負を決めるのは面白くない。そこでシフトチェンジを使って迎え撃つ罠を仕掛けることにした。吹雪が勝利を確信しているときカイザーが衝撃の言葉を放つ。

「Theアトモスフィアに攻撃!」

「なんだって!?」

「ダメージステップ時にオネストの効果発動。Theアトモスフィアの攻撃力分サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力をアップさせる(ATK4000→9000)」

「オネスト……藤原、ダークネス……そうだ、あの時、僕は彼が……って、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 サイバー・エンド・ドラゴンが天使の羽を広げ、極太のビームを放ち、アトモスフィアごと吹雪を焼き尽くす。

 

吹雪LP50→0

 

「やべ。ソリッドヴィジョンの衝撃でガードマンがこの騒ぎに気付いた。そのコゲキングを保健室に運ぶんだ」

 真っ黒焦げになった吹雪を背負ったカイザーと夜光が監視システムが完全に落ちた学園内を走り、保健室へと逃げ込むのであった。その後、めちゃくちゃになっていたデュエルリングを見たガードマンによって大事になったのは言うまでもない。なお、犯人は目撃者がいないことから、いまだに不明だ。

 

 一部始終を聞いた明日香が溜息を吐き、カイザーに一言を放つ。

「つまり、亮の一撃が強烈すぎてこうなったってわけね」

「すまない。こうなるとは思わなかったんだ」

「それでどうして兄さんが失踪したのかわかったんでしょうね」

「それがだな……」

 目を覚ました吹雪がカイザーを見るや否や顔が青ざめ、すぐさま気を失う。なにが起こったのかわからない明日香はカイザーに問い質す。

「どうやら俺たち2人がトラウマになったみたいで中々聞き出せないんだ」

「はあ、あきれた。まあ、兄さんのことだから2、3日したら立ち直っていると思うけど」

 そう言い残すと明日香は保健室から出ていく。しかし、あの場にいた二人は吹雪の最後の言葉を聞き、確信していた。ダークネスの正体が藤原であると。そして、カイザーは闇に堕ちてしまった友人の身を案じながらも、彼を必ず救うと決意するのであった。




吹雪のメインデッキは漫画版吹雪デッキです。
いやあ、アニメであった「思い出のブランコを使用していた」という設定を【スフィア】に組み込むのに苦労しました。
おかげで1時間遅れてしまった…

今年1年、のんびりと更新します。

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