「ねぇ、聞いている?」
「わりぃ、考え事してた。何の話だったけ」
物思いにふけていた夜光に対し、星奈が不機嫌そうに頬を膨らます。夜光は星奈からアカデミアで起こった不思議話や事件をよく聞く。そのほとんどが根も葉もない噂話や購買部が5%割引するなど些細なことではあるが。
「最近、カイザーが実は貧血だったとか、吸血姫が出てデュエルで魂を抜き取るとか、地獄から甦った王が無念を晴らすためデュエルするとか、色んな噂で持ちきりって話」
「さすがにそれは嘘だろ」
「う~ん、私もそう思うんだけど、目撃者が多いんだよね。吸血姫」
「吸血姫ね~そんな奴が居たらサイン貰って、記念写真でも撮るかな」
「もう。全く信じていないでしょう」
「仕方がないだろ。そんな空想上の生き物が居るなんて思わないし。精々、うす暗いところで女性とあったから、吸血姫だと勘違いしたってのが関の山だろ」
「つまり、幽霊の正体見たり枯れ尾花ってこと?」
「そうそう。噂が噂を呼んで、尾ひれがどんどん付いていっただけさ。案外、正体はコスプレしたトメさんかもな」
「……嫌だなぁ、それ」
吸血姫のコスプレをしたトメさんを想像したのかげんなりした様子の星奈。吸血鬼ではなく吸血姫と呼ばれていることから、美しい女性を描いていた星奈にとって正体がトメさんは幻滅ものであろう。このまま女子寮に帰らせるのは悪いと思い、夜光は1枚のカードを星奈に渡す。
「何、このカード?」
「このカードには隠された能力あるのさ。俺が持っていてもその真価を発揮させることはできないから、星奈にやるよ」
「う~ん、どうみてもただのノーマルカードなんだけどなぁ……
でも、貰える分には貰っておくね」
カードを受け取った星奈はさっそくデッキにそのカードを入れておいた。そして、時計を見ると夜遅い時間になっていたので、女子寮に戻ろうとする。七星門の鍵とは何の関係もない彼女だが、セブンスターズが無関係の生徒を人質にとる可能性もあるので、夜光は女子寮まで送ろうかと提案する。
「大丈夫。近くで待ち合わせしている明日香と一緒に帰るから」
「それなら安心だな。まっすぐ帰れよ」
うんと頷いた星奈は一人でイエロー寮を去っていく。そして、自分の部屋で一人になった夜光は報告書を作成する。
題名:シンクロモンスターの出現と対応
要約:ダークネスにより、実験段階であるシンクロモンスターが召喚される事案が発生。自然災害に等しいダークネスの行動を事前に防ぐことは困難。そのため、歴史への影響を最小限にするよう努力する。
目撃していた生徒の記憶改竄及び記録媒体の処理はほぼ完了。なお、精霊の力を借りている生徒については記憶改竄は不可能。
長々しい本文を書き終えた夜光は所属している組織へ報告書を出す。そして、これからどうするかと考え、ふと窓を見ると森から鳥が何かから逃げるようにバサバサと飛んでいく。
(あの方角は女子寮の方……星奈と明日香が危ない!)
二人の危険を察知した夜光はたまたま近くで見回りをしていたクロノス先生と共に、女子寮へと向かった。
「吸血姫のトメさんって……面白いわね」
星奈は明日香に夜光と話していた吸血姫のことを話すと明日香はくすくすと笑う。吸血姫の話を聞いていた明日香もトメ吸血姫説という発想はなかった。また、その他にも話した色んなことをペラペラと喋る彼女を見て、心の中で『歩くスピーカー』と思ってしまう。
そんなとき、後ろから見知らぬ女性に声をかけられる。血のように真っ赤なドレスに緑色のロングの髪を持つ美しい女性なんて見たら、忘れるはずなどなかった。
「あなた、誰?」
「私はヴァンパイア、カミューラ。セブンスターズの一人よ」
「き、吸血姫!?」
「そこの娘に興味はないわ。貴女の首からかけている七星門の鍵を頂きに参りましたの」
「そうはさせないわ!相手がヴァンパイアであろうと私は負けるわけにはいかない!」
(亮が言っていた。セブンスターズの裏側には兄さんを操っていた人物がいるって。それが誰なのか、どうして兄さんが狙われたのか明らかにするにはセブンスターズと戦うしかない!)
明日香はカイザーから教えてもらった情報を思い出し、覚悟を決める。真実と言う名の虎児を得るには危険を顧みず、闇のデュエルと言う虎穴に入らなければならないのだ。
「いいわね、その怒りに満ち溢れた表情」
「私が勝ったら、あなたが知っているダークネスの情報すべて教えなさい」
「私に勝つ? そんなふざけた幻想をぶち壊してあげるわ。狩らせてもらおうかしら、貴女の七星門の鍵を!魂ごと!!」
「「デュエル!」」
明日香LP4000
カミューラLP4000
-明日香のターン-
「先行はもらうわ、ドロー!
私は氷結界の紋章を発動。氷結界の軍師を手札に加えるわ。氷結界の軍師を召喚」
笠をかぶった老人が明日香の場に現れる。手札交換と墓地肥しを一度にこなしてくれるこのカードは明日香にとって生命線と言えよう。
「氷結界の軍師の効果発動。手札の氷結界の伝道師を墓地に送り、1枚ドロー!
カードを1枚伏せてターンエンド」
手札:4枚
場:軍師
魔法・罠:伏せ1枚
-カミューラのターン-
「私のターン、ドロー!
手札からスカル・コンダクターの効果を発動するわ。手札から攻撃力2000になるようアンデット族モンスターを2体まで特殊召喚できる。私は攻撃力2000のヴァンパイア・ロードを特殊召喚」
骸骨の指揮者に導かれ、吸血鬼の主がカミューラの場に現れる。攻撃力2000と上級モンスターにしては低いが、恵まれた属性と種族により序盤から召喚することは容易い。そのうえ、下級モンスターでは太刀打ちできないにも関わらず、効果破壊されると自己再生することからサポートすれば中々厄介なモンスターである。
「さらにゴブリンゾンビを召喚。
ヴァンパイア・ロードで氷結界の軍師に攻撃!」
「罠発動、デモンズ・チェーン!ヴァンパイア・ロードの効果と攻撃を封じる」
ヴァンパイア・ロードが黒い鎖によって束縛され、身動きを封じられてしまう。自己再生までは防げないものの、戦闘さえさせなければどうと言うことはないカードだ。
「やるわね。カードを1枚伏せてターンエンドよ」
手札:2枚
場:ロード
ゴブゾン
魔法・罠:伏せ1枚
-明日香のターン-
「私のターン、ドロー!
私は氷結界の軍師の効果発動。手札の氷結界の虎将ライホウを捨てて、1枚ドロー!
浮上を発動。墓地の氷結界の伝道師を特殊召喚。そして氷結界の伝道師を生贄にささげて、ライホウを特殊召喚するわ。そして、氷結界の武士を召喚」
あっという間に3体の氷結界を並べる明日香。もし、この攻撃が通ればカミューラのライフを半分以下にすることができ、デュエルの流れは一気に明日香の方に傾く!
「氷結界の武士(ATK1800)でゴブリンゾンビ(ATK1100)に攻撃!」
鎧武者が気持ち悪いゾンビの首を斬り落とすと、うめき声をあげながら倒れる。
カミューラLP4000→3300
「ゴブリンゾンビが墓地に送られたことで私はデッキからゾンビ・マスターを手札に加える」
「それくらいは覚悟の上よ。ライホウでヴァンパイア・ロードに攻撃!」
「私は罠カード、ヴァンパイア・シフトを発動!
私のフィールドゾーンにカードが無く、場にアンデット族のみがいるとき、デッキからヴァンパイア帝国を発動する」
小高い丘に白い城がみえる薄気味悪い城下町へとフィールドが変わっていく。一見、ありふれた西洋の町並みだが、カード名からしてヴァンパイアが支配したかつての帝国なのだろうか。
「そしてヴァンパイア帝国はアンデット族の攻撃力をダメージ計算時のみ500ポイントアップする」
「なんですって!?」
束縛されているヴァンパイア・ロードを見てライホウは油断していたのか、ロードに隙を見せてしまい、噛みつかれ破壊される。
明日香LP4000→3600
まさかコンバットトリックされるとは思わなかった明日香は動揺する。だが、デモンズ・チェーンの効果はまだ有効であり、攻撃を封じているには変わりはない。その事実になんとか冷静さを取り戻した明日香は来るであろうカミューラの猛攻に対して伏せカードを用意する。
「カードを2枚セットしてターンエンド」
手札:1枚
場:軍師
武士
魔法・罠:伏せ2枚
デモチェ
-カミューラのターン-
「私のターン、ドロー!
私はゾンビマスターを召喚。手札を1枚捨てて、墓地のヴァンパイア・デュークを特殊召喚するわ」
Vampire Duke(海外先行カード)
効果モンスター
星5/闇属性/アンデット族/攻2000/守 0
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地の「ヴァンパイア」と名のついた闇属性モンスター1体を選択し、
表側守備表示で特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚に成功した時、
カードの種類(モンスター・魔法・罠)を宣言して発動できる。
相手は宣言された種類のカード1枚をデッキから墓地へ送る。
「Vampire Duke」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、このカードをエクシーズ召喚の素材とする場合、
闇属性モンスターのエクシーズ召喚にしか使用できない。
「ヴァンパイア・デュークが特殊召喚に成功したことで、私はカードの種類を宣言し、貴女はその種類のカードを墓地に送らなければならない。私が宣言するのは罠カード」
「私はアイスバーンを墓地に送るわ」
わざわざミラーフォースのような強力な罠カードを墓地に送る必要はないと考えた明日香は比較的弱いカードから墓地に送ろうとする。そして、明日香が墓地にカードを送った瞬間、カミューラはケタケタと笑う。
「この瞬間、ヴァンパイア帝国のもう一つの効果発動!相手がデッキから墓地にカードを送ったとき、私は手札・デッキからヴァンパイアを墓地に送り、フィールドのカードを1枚破壊する!私はデッキからヴァンパイア・ソーサラーを墓地に送り、伏せカードを破壊する」
「私の次元幽閉が……」
攻撃反応型罠でも再利用が難しい除外でモンスターを除去できる強力な罠である次元幽閉が破壊される。上級モンスターを使われても、このカードがあれば大丈夫だと思っていた明日香は精神的にも追い詰められていく。
「ゾンビマスター(ATK1800→2300)で氷結界の武士(ATK1800)に攻撃!」
ゾンビマスターが先ほど墓地に送られた首なしのゴブリンゾンビを操り、その恨みを晴らすかのように武士の頭を握りつぶす。
明日香LP3600→3100
「ヴァンパイア・デューク(ATK2000→2500)で氷結界の軍師(ATK1600)に攻撃!」
「罠発動、激流蘇生!このカードの効果で破壊された氷結界の軍師を特殊召喚して、500ポイントのダメージを与えるわ」
明日香LP3100→2200
カミューラLP3300→2800
必死に後れを取り戻そうとわずかばかりの反撃を見せる明日香。だが、カミューラはそんな明日香に対し、薄笑いを浮かべながらカードをセットする。
「カードを1枚伏せてターンエンドよ」
手札:1枚
場:デューク
ロード
ゾンマス
魔法・罠:伏せ1枚
フィールド:帝国
-明日香のターン-
「私のターン、ドロー!
軍師の効果発動。手札の氷結界の虎将ガンターラを墓地に送り、1枚ドロー!
そして軍師を生贄にささげて、ブリザード・プリンセスを召喚する。ブリザード・プリンセスが召喚に成功したとき、相手は魔法・罠を発動できない」
「なんですって!」
カミューラの伏せカードが凍り付き、発動が不可能な状態になる。仮にカミューラの伏せカードがミラフォのような逆転の罠であったとしても発動しなければ意味がない。
「マジック・プランターを発動。デモンズ・チェーンを墓地に送って、2枚ドロー!ウォーターワールドを発動」
フィールドが西洋の街並みから、イルカが飛び跳ねる海へと変わっていく。流水が苦手なヴァンパイアにとって苦手なフィールドと言えよう。その一方で、明日香の水属性モンスターは水の力を得て、生き生きとし攻撃力が500ポイントアップする。
「死者蘇生を発動。氷結界の虎将ガンターラを特殊召喚する。氷結界のガンターラ(ATK2700→3200)でゾンビマスター(ATK1800)に攻撃!」
ガンターラが冷気を纏った手刀でゾンマスを破壊する。
カミューラLP2800→1400
「ブリザード・プリンセス(ATK3300)でヴァンパイア・ロード(ATK2000)に攻撃!」
ブリザード・プリンセスが氷の鉄球を振り回し、身動きができないヴァンパイア・ロードを押しつぶす。
カミューラLP1400→100
明日香の猛攻によりカミューラのモンスターを削り、一気にライフをわずか100まで削りきる。カミューラの場に残ったのは、召喚・特殊召喚時以外には効果を持たないヴァンパイア・デュークのみである。
「ターンエンドよ。そしてガンターラの効果で墓地のライホウを攻撃表示で特殊召喚する」
そして、明日香は攻撃力3000オーバーのモンスターにモンスター効果を封じるライホウという鉄壁の布陣を敷いている。しかも、ライフは半分以上残っており1ターンで削りきるのは至難の技だろう。そういうこともあり、明日香はもちろん応援していた星奈も勝利を疑わなかった。
「私の勝ちは決まったも同然ね」
「くっ……小娘ごときにこの私がここまで追い詰められるなんて」
「大人しく負けを認めたらどう?」
「誇り高きヴァンパイアである私が人間にひれ伏せですって!そんなの死んでもお断りよ!」
明日香はカミューラにサレンダーを促すが、物凄い剣幕でそれを拒否する。そしてカミューラのラストターン、ドローしたカードをを見て高笑いする。
「残念ね。このデュエル、私の価値よ。リビングデッドの呼び声を発動。ヴァンパイア・ロードを特殊召喚する。そして、ヴァンパイア・ロードを除外して、ヴァンパイアジェネシスを特殊召喚!
威圧する魔眼を発動。ヴァンパイア・デュークに対して発動するわ。
そして、ヴァンパイアジェネシスでライホウに攻撃!ヘルビシャス・ブラッド!」
始祖の名を持つ巨大なヴァンパイアがライホウを粉砕する。
明日香LP2200→1800
「そして威圧する魔眼の効果でヴァンパイア・デュークはダイレクトアタックできる」
「えっ……?」
明日香は何が起こっているのか理解できなかった。先ほどまで勝利を確信するほどの布陣が1ターン、いや、1枚のドローカードで逆転され、明日香のモンスターが地にひれ伏し、デュークに道を譲ったのだ。
「冥土の土産に1つ教えてあげるわ。私、ダークネスのこと全く知らないの」
「そ、そんな……」
「良かったわね、ダークネスの情報得られて。私のファンサービスしっかり受け取りなさい。デュークでダイレクトアタック!」
眼前に迫ったデュークが明日香の首元を噛み付き、ライフを0にする。
明日香LP1800→0
デュエルが終わると明日香の身体が光り輝き、人形になっていく。
「あ、明日香が……人形になっちゃった。どうして…………」
非日常な光景を受け入れることができない星奈はガタガタと震えだし、逃げ出すどころか立ち上がることさえできない。そんな星奈に一瞥したカミューラは人形になった明日香を握りしめ、踵を返そうとすると何者かが放ったカード手裏剣(ガーゴイル・パワード)が彼女を止める。
「大丈夫か、星奈」
「う、うん。私は大丈夫だけど、明日香が……」
今にも泣きだしそうな表情で、夜光とクロノス先生に今まであったことを途切れ途切れになりながらも要点だけ話す。
「カミューラ、女の子を泣かすようなやつは許さないぜ。俺とデュエルしろ!」
「待つノーネ」
「クロノス先生、止めても無駄だぜ」
「今のシニョール夜光は冷静さを欠いているノーネ。今、デュエルしたらシニョーラ天上院の二の舞なノーネ」
図星であるために夜光は黙らざるを得なかった。そして、クロノス先生が生徒たちの前に立つ。
「腸が煮え返っているのは私も同じなノーネ。だけーど、怒りや憎しみを抱いたままのデュエルを認めるわけにはいかないノーネ。本来、デュエルとは楽しんでするものなノーネ。それゆえに、それを否定し、ましてや人を傷つけるような闇のデュエルはデュエルと認めるわけにはいかないノーネ!」
「最期の講義はいいかしら?」
「最期じゃないノーネ。ヴァンパイア、カミューラ。生徒を泣かせた罪、どれほど重いか教えてあげるノーネ」
「人間風情が良い気に乗るんじゃないわよ!」
互いにデュエルディスクにデッキをセットし、デュエルが開始される。
「「デュエル!」」
クロノスLP4000
カミューラLP4000
明けましておめでとうございます。
今年初の小説を投稿します。
今年もよろしくお願いいたします。