真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
新生活になってから、なかなか忙しく思ったように執筆の時間がとれませんでしたが、どうにか戻ってこれました!!
でも文章作のすごく下手になってる気がする…辛い
そんな意味のない現状報告はおいといて、いよいよ二人の勝負も折り返し地点です
楽しんでもらえたらうれしいです!!
何だろう、この感覚。―――――葉桜清楚
拳から感じる確かな手応え。身体を常に襲い来る激痛が意識を奪わんと内側から襲い来るが、拳の手応えを糧に己の意思でねじ伏せる。
死地を超えて活路なった一撃は、完全に百代の不意を突いていた。故に防御する暇はなかった。己が積み上げてきた拳の威力は不完全な状態で受けきれる物ではない。
「ゴッ…ハッ!!」
事実、悠介の拳の直撃を受けた百代は堪えることが出来ず、肺の空気が全て強制的に吐き出され、体勢を大きく崩す。
――――――――手応えありだ!!
予感は確信に変わり、悠介の勝負勘が告げる。
しかし今は違う。僅かに感じる流れの停滞。進むなら今しかない。ここで流れを己のモノとする。否、しなければならない。
故に悠介は身体を襲い来る激痛を無視し拳を握り、己を鼓舞するように笑みを浮かべる。
「オオオっ!!」
薄氷の上を歩き続けてようやく得た
その意思を決意を進む原動力に、悠介は微かな
◆◇◆◇
完全に想定外の一撃。今まで誰一人として立ち上がることが出来なかった故に、己の中で絶対の自信となって組み上がった必殺のコンボ。結果として生んでしまった、強すぎるが故の明確な隙。
無防備で受けるには、目の前の
――――――――マ、マズイ…
酸素を強制的に吐き出されてしまった為、呼吸が出来ず酸素が脳に回らず、思考が霞む。ただそれでもこの状況がマズイ事は、本能的に察する。
無意識に対処をしようと身体を動かすが腰を穿たれ、重心が乱れているためどうしようも出来ない。そしてその隙を見逃すわけはない。
「ラァアっ!!」
崩れた体勢の百代を下から攻めるように悠介は腰を落とし、深く一歩踏み込み拳を放つ。胸元にたたき込まれた一撃は、体勢を崩していた百代に拍車をかける形で、さらに体勢を崩させる。
追撃で加わる
しかし…
「ハっ」
「っ――――――――!!?」
考える必要もなくその払い手をいなすそうとするが、その手と己の腕が触れた瞬間、まるで急激に温められた水が爆発するように、内包されていた気が膨れ上がりゼロ距離から破裂する。
「クソっ…」
ダメージはない。それでも間合いを作らされた。それはその距離がそのまま、百代の体制を整える時間。いなそうとしたのが功を奏し、そこまで距離はない。もしも無視をして攻撃していたら、今以上に距離が生まれて不利になっていただろう。
改めて目の前の理不尽さを痛感するが、そんな物は今更だと拳を握り駆ける。そう今は少しの時間すら惜しい。
駆け出す悠介の目の前では…
「ハハッ、ハハ!!」
喜びによる震えを声として無邪気に発する百代の姿。その表情は純粋無垢な歓喜に染められている。
「悠介!!やっぱりお前は最高だ!!もっとだ!!もっと…来い!!」
瞬間、悠介に向けて闘志が発せられる。ビリビリと肌を刺す感覚は重傷言うともいえるダメージを負っている悠介の身体には、それだけで負担となる。
それでも悠介は歯を食いしばり、拳を握る。子供が、まだ遊び足らないとその意思を向けてくるようにただ純粋に闘争を望む思いが闘志と共に自身に向けられる。
並みの相手ならば、問題はない。しかし目の前にいるのは、武神と呼ばれるほどの猛者。その闘志がただ一人のみ向けられる。それはもはや過度を超える重圧だ。
百代には自覚はない。ただ己の想定を超えてくれる相手に負けるかという純粋な思いから無意識に発している。子供が無邪気に悪意なく好奇心が故に行ってしまう行いと同じであるからこそ、その重圧には一切の加減がない。
ああ、身体が震える。どれだけ鍛えようが抗うことの出来ない生物としての生存本能が告げる。【逃げろ】と。
――――――――知ったことか!!「上等だ!!」
本能を押し殺すは、己を今此処に立たせる勝利の結果・約束・自信今までの全てが、
拳を握る。『勝つ』ただそれだけを思い拳を放つ。
「ラァアっ!」
「ハァ!!」
拳と拳がぶつかり合う音があたりに響く。拮抗は一瞬、返す手でもう一方の拳を打ち込む。そこからはその繰り返し。完全に両者の間合いが重なる場所で足は止まり、拳が飛び交う。
「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」
『こ、これは…息つく暇のない殴り合いだ――――――――――!!』
観客としてみれば両者は拮抗しているように見えるだろう。しかし一部の猛者達は違う。場の空気に呑まれる事なく、冷静に状況を見極める。
互角ではない。押しているのは…
「ハハハっ!!」
「チィ…」
百代である。手数の多さと一撃の威力が悠介を上回っている。無論悠介もただやられているわけではない。自信が磨き上げた毒を打ち込むといえる拳を百代の拍子を外し、多角的に打ち込んでいる。が…
「ハァアッ!!」
武神と呼ばれる百代は、戦いの中で確実に対応し始める。打ち込まれた衝撃が毒のようにあるならば対処すればいい。自身の身体を振動させ、打ち込まれる衝撃を緩和させる。
ほぼ唯一と言っていい悠介の拳への対処法を本能的に実行して見せている。
それでも百代本人は、攻めきれなさを感じている。悠介の拳を衝撃を緩和できると言っても完全とは言いがたく、緩和されていようとも打ち込まれるたびに着実に身体の動きを阻害する。そして無意識かそれとも狙っているのか、悠介自身も多角的な攻撃により、攻撃の
しかもその精度は数をこなすごとに上がっている。最初は20回に1回だったのだ、今では10回に1回となっている。
普段ならば瞬間回復を使い治癒するのだが、目の前の相手にはそれをしてしまえば先ほどと同じ事となりかねない。
――――――――人間爆弾を使うか?…いや、今度こそ確実に悠介を倒せるという保証はない。もしも耐えきられてしまえば、さすがにヤバイか
見ている者たちが思うほど百代自身もそこまで余裕があるわけではない。そして瞬間回復が使えない以上、あの時のダメージは百代からして無視する事の出来ないダメージは、確実に百代の枷となっている。
手加減なく放たれる百代の拳。無造作に振るわれ、何発も入っている為、観客達は実感が湧きにくいがその威力は正しく必殺。だがそれは十全の状態で放たれればこそである。悠介からのダメージは、その威力を百代から奪ったはずだったが…
「ハアァ!!」
「っ――――――――!!」
百代の胸の内から湧き上がる歓喜と才能がそれを可能とする。しかしそれは諸刃の剣だ。
百代自身が必殺の一撃を繰り出すたびに、身体はその威力を受け止めきれずにダメージとなっている。しかしその
己をも傷つける愚行。しかしそのリスクを背負っているがゆえに効果は抜群。
事実…
「ハハッ!!」
「ぐっ———―!!」
観客たちの目から見ても悠介が、押し込まれ始める。それは百代自身も感じており、より勢いを己のものにせんとより強くこぶしを握った瞬間…
「うぉぉらぁっ!!」
「っ!!?」
攻め気を先読みしたかの如く繰り出される悠介の一撃。それは確実に百代よりも先にはなたれ攻撃の芽がつぶされる。
結果として百代は勝負に出ることができず、最早無意味としか言えない削りあい。
しかし百代の胸の内は…
◆◇◆◇
ヒリヒリと肌を突く緊張感。一手のミスがそのまま敗北に繋がりかねない攻防。正しく真剣勝負といえる。
———―ああ、楽しいな
自分と戦える相手は数えるほどしかいない。しかもその殆どの人間が、様々な理由で滅多なことがない限りは戦えない。
不満だった。どうしてだと世の中を恨んだこともある。ただ自分は、
ああ、だからこそ思う。やっぱり真剣勝負はいい。己に枷を化すことなく拳を振えるのがたまらない。相手の一撃からくるダメージさえ喜びが湧き上がる。
ああこれこそのが、真剣勝負。私が
———―なあ、お前もそう思うだろう。悠介…
満足げな表情を悠介に向ける………
あ゛あ?何、勝った気でいやがる!!
ゾクッ!!。百代の
拮抗した勝負において、精神状態は勝敗を大きく分ける。現状、
———―俺が
何より百代は知らない。勝ち続けて来たが故に、敗北を知らないからこそ知らない。敗北の恐怖を知るがゆえの勝利への渇望を
生まれて初めて肌で感じる純度の高い狂気。刹那、武神川神百代の身体は、まるで勝負の決着を急ぐかのように、必殺を放とうとするが…
「隙だらけだあぁっ!!」
乱打戦において相手の大勢も崩さずに放とうとする大技など、明確な隙でしかない。百代が大きく拳を引いた瞬間、悠介の素早く放たれる拳の連撃が貫き、百代は大きく大勢を崩してしまう。
———―な、なにをやっている私は…
己が起こした失態に百代は唇をかむ。その後悔すら今は明確な隙になってしまう。後悔がゆえに動けぬ僅かな時間。その時間は、悠介の更なる活路となる。
「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
悠介の拳の回転数はさらに上がる。しかも我武者羅に放たれているのではなく、確実に百代の次手を潰し、己にダメージを与えている。今この状態では瞬間回復を使えない。今すべきことは、この拳の乱れ打ちから脱出することであるが…
———―ダ、ダメだ…抜けれない
無防備な状態から受けてしまったがために、全てが後手の行動となっている。そして悠介は、行動の
いつもなら力ずくで突破するのだが、それ以前に受けたダメージと現在進行形で受ける拳の衝撃による毒とダメージが、それを許さない。
今まで圧倒的な強さで勝利してきたが故の弊害。極限の状態化で、戦い方を武神は知らないのだ。傷をダメージを負うことがあっても瞬間回復というチート技で癒してきたがゆえに、天より愛された才能が此処にきて百代の枷となっている。
『こ、これは!!??あの武神が、押し込まれている———―!!』
一瞬の状況の変化に観客たちは、現実を受け入れれずにいた。あの絶対的な力の権化といえる武神が押し込まれる。ありえない。今までの常識が目の前の光景を否定するが、大佐の興奮した実況を受けて、徐々に理解が追い付いてくる。
理解が追い付いてきた観客たちに湧き上がるのは、
その光景に見る者たちに様々な思いを抱かせる。ある者たちには興奮を、またある者たちには驚愕を…困惑、怒りなど、あらゆる感情を巻き込み熱気となる。
いつしか会場は、悠介が勝利することを望むまでに変化していた。
◆◇◆◇
止まることのない拳の嵐の中、百代とてただやられてばかりではない。防御に集中し、少しでも受けるダメージを減らす。
しかし今まで攻撃に重きを置いていた弊害か、悠介から見てもその防御はまだまだ甘いとしか言いようがなく隙も多い。だが、防御は防御。悠介は手ごたえの変化から、先ほどまでより与えているダメージが少ないことをすぐに察する。
しかし今は手を止めない。その瞬間を
そして悠介がそう考えているのと同時に百代もまた、状況を打破するためにその機会を狙っている。
それは悠介の一呼吸の間に起きる僅かな空白。当初はの瞬きほどの時間だったが、時間を追うごとにその時間は長くなっている。
現状明確な隙。それを逃すわけにはいかない。
――――行ける!!
拳の嵐の僅かな合間。そこから嵐を乗り越えようと、地面を蹴ろうとした瞬間
「なっ!!??」
「あめぇよ!!」
それは正に先の先。百代が加速しようとしたときには、既に悠介が間合いを潰しに来ている。百代の行動は完全に潰されてしまっている。反応と呼ぶには明らかに速すぎる。故に猛者達は悟る。全ては悠介の読みの範囲だと…
多くの猛者達との死闘と鍛錬を経て磨かれた戦術眼と読みの深さ。それもまた天性の天才を才を上回る経験の力。天才であり続けたが故に武神が持たない力。
――――いや、落ち着け!!いくら悠介でも、此処からの攻撃は至難のはず…!!??
先手を潰され先に指された事に対する焦り。その焦りを取り払おうとしている間に、悠介は動く。
隙だらけの百代の脇に右腕を差し込み、加速した勢いと共に右へと腕を振るう。相撲におけるすくい投げ。考えもしなかった攻撃に百代は、ズザァァ!と地面と足を滑らせながらどうにか堪える。しかしその対価として、百代の両足は肩幅以上に開いてしまい、頭は悠介の胸元あたりまで下がっている。
百代の視界の端に黒い影。それが何かと判断するよりも速く…
「シィッ!!」
ドガ!と鋭く速く放たれた悠介の左拳が的確に百代の顎を打ち抜く。あまたの武術を吸収し確立した拳があるが故の豊富な手数と磨き上げた技の練度が、あらゆる状況で悠介に選択肢を与える。
的確に顎を打ち抜かれた百代の意識は朦朧とする。速度を重視したためそれほど威力はなかったが、場所が悪すぎる。顎から受けた衝撃は的確に脳を揺らす。今までの積み重なったダメージも相乗し百代の意識を沈める。
意識が霞に包まれる中百代は――――
――――強いな、悠介…。今まで戦った誰よりも才能はないはずなのに……今は誰よりもお前が強いと感じるぞ…
おしみのない悠介への賞賛があふれ出た。
――――ああ、今のお前になら…
その言葉を発しようとした瞬間
『…戦えただけで、本当に満足か?』
そんな声がどこからともなく聞こえた。
これは…まさか!!。――――九鬼揚羽
次回ももしかしたら、大分遅くなるかもしれません
できるだけ早く更新したいのですが、厳しそうです…
――――次回【当たり前の現実】