真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
どうにかせねばと、初のスマホでの投稿です
二回戦、遠距離武器に悠介がどう挑むのか
楽しんでもらえたら、嬉しいです!
初めて彼を知ったのは噂だった。噂自体はモモちゃんと戦える存在が現れたという程度のものだった。そして次は実際に彼をその目で見た。決闘と呼ばれるシステムを使いモモちゃんの妹と戦う彼は、荒々しく怖くもあった。でもどこかで胸が高鳴る自分もいたのが不思議だった。その後も学校生活をしてゆく中で、彼の噂は否応なしに耳に入った。そしてふとした切っ掛けで彼と話す機会が来た。
いきなりの事態で驚き狼狽したことを覚えている。それでも話してみれば、どこまでも純粋で真っ直ぐなんだと理解できた。
そしてその日私に初めて『ライバル』ができた。そんな小説のような関係が私に出来るなんて、驚き。凄くワクワクしたのを覚えてる。
でもそれで私の日常が変わる事はなかった。普段と変わらない日常。その中で『本当にこれでいいの?』と思っている自分がいた。彼は私が迷っている最中にも、黙々と前へと進んでいるが、素人に近い私にも理解できた。その事実が余計に私に言い様の無い焦りを生んだ。
だから、与一君がヒュームさんからトーナメントに出ろと言われている場面に遭遇できたとき、私も一歩踏み出し追いかけないとと意を固めた。
『与一君。ペアが決まってないなら、一緒に出場しよう』
そんな事もあり与一君を説得し、トーナメントに出場した私の目の前に、今ライバルが立っている。
だからだろうか、こんなにも
『さぁ共に前評判を崩してきた強者たち同士の対決です』
大佐の言葉と共に悠介たち赤報隊と与一たち桜ブロッサムが姿を表し、観客たちのボルテージが上がって行く。
「まさか姉御に勝つとはな」
弓の調子を確かめながら与一は驚嘆の目で悠介をみる。弁慶の強さと恐ろしさは誰よりも知っているつもりだ。だからこそ、油断はしないと意を固める。
――――わかってはいたが、油断などは無いみたいだな
鋭く此方を見つめる瞳に天衣は、先の勝利の意味を再確認する。只でさえ厳しい戦いがより、苛烈さを増すはずなのに...
――――
自分の前に視線を向ければ、迎え撃つように立つ悠介の背。顔は見えない。それでも背を見ていれば、その表情ら容易に想像がつく。
その表情を思いを曇らせないためにと、天衣は意識を集中する。
初めて真正面から目にする悠介の勝負の顔。ヒリつくような感覚に否応なしに体が硬くなる。
「大丈夫ですか...」
「....うん。大丈夫だよ、与一君」
――――チィ。強がっちゃいるが、長期戦は厳しいか
清楚の反応をみた与一は自身たちの不利を悟り、僅かに舌打ちをこぼす。
嫌々に参加した大会だが、このまま負けるのは単純に嫌という思いがある。
――――姉御と戦えるほどの戦闘能力。接近されたら、俺に勝ち目はねぇ。だが、間合いをくれるような甘い敵でもない。なら、やったことはねぇが試してみるしかないな
矢を手に持つ。それは与一のルーティーン。鋭い瞳が更に鋭くなる。
『両者、準備万端のようだな』
『戦闘のスタイルが全く違うからな。それゆえに相手の出方がある程度想像もつくからな。どちらが先手を打てるかで、試合の流れが変わるな』
『とすれば、与一たちは不利だな。戦力が一つ。まして弓兵だ。とれる手段も限られるだろう』
全体を見ている石田と百代が試合の流れを予想する。 その解説が余計に観客の期待値を上げてゆく。
「ふむ。なぜだかわからんが、先程の試合以上に葉桜君の場違い感が凄いな。一人だけ空気が違う」
解説に耳を傾けながら、闘技場に視線を向ける京極はどこか詩的な声音で呟く。その声音には純粋な心配が含まれている。
「清楚ちゃん、マジ清楚!!でも大丈夫かな。相手女子相手でも容赦なかったし」
「清楚ちゃんに傷ついてほしくないよ~」
強い女子が多い中での数少ない文系美女を心配する清楚のクラスメイトたち。そのなかでふと、京極だけが清楚の表情をみて...
「ふむ。どうやら覚悟は決まったらしいな。ならば、見届けるとしよう」
静かにそう呟いた。
そしてその時が遂に訪れる。
『互いに言葉は不要。二回戦第一試合〈赤報隊〉vs〈桜ブロッサム〉試合開始!!』
大佐が開幕を告げると同時に悠介は地面を蹴り一気に間合いを詰めんとする。が...
「なっにぃ―――っ!!??」
「なっ!?」
駆け出した悠介と天衣が同時に驚愕をこぼす。ほぼ同時に二人に弓の狙撃が襲いくる。
「チィ」
「はっ!!」
驚愕は一瞬。即座に意識を切り替え、弓を打ち落とす二人だが...
「まだ来んのかよ!!!」
まるで雨のように留めなく矢が迫ってくる。
―――野郎...速射と連射も出来んのかよ
降り注ぐ矢を捌きながら悠介は目の前の敵の存在に対する意識を切り替える。
『これは凄まじい連射―――!!相楽選手と橘選手は防戦一方で行動に移せていない!!』
『速射故に一撃一撃の速度と威力は第一試合の時には遠く及ばんな。だが...』
『当たれば足が止まりいい的だな。畳み掛けるように攻撃が来て削られるだろうな。悠介と橘さんもそれがわかっているから、回避しているが...』
『狭い闘技場の中だ。何か手を打たねば、いずれ捕まるぞ』
「悪いがそういうことだ!このままお前たちを倒させて貰うぜ」
解説の言葉を肯定する与一。その連撃は更に激しさを増す。逃げ場を無くすような矢の攻撃に悠介は、舌打ちをこぼす。視線を向ければ、天衣も回避に専念している。
「一応言うが、そのまま避け続けていいのか」
「「―――っ!!」」
与一の言葉と同時、悠介と天衣は自分たちの距離が近づいていることに気がつく。
――――しまっ、位置取りをミスっ....いや、
弓などの遠距離の武器の強み。それは味方の援護は勿論のこと、敵の位置や戦況を操作することも出来る。
弓という武器と弓兵の実力が合わさることで、生まれる拳や刀剣とは違う驚異を知識として知っていた悠介は、その恐怖を身をもって理解する。
まずい。と思考するが、打てる手がない。そう考える悠介の耳に...
「悠介!!!」
「っ――――!!」
背を押すような声音で天衣が悠介の名前を叫ぶ。名前を呼んだだけ。それだけだがその言葉に込められた意味を即座に察した悠介は、一瞬天衣も視線を向ける。
「「―――――」」
交差する視線。天衣の意思の固さを悟った悠介は、視線を反らし与一を見つめる。迫る矢の雨。しかし悠介は全く意に介さない。諦めたかと一瞬誰もが思うが、即座に否定する。
その矢が悠介に当たる直前...
「はぁ―――っ!!」
「なにぃ!!??」
風を纏うように悠介の前に天衣が現れる。放たれる風圧の壁が矢を悠介へと近づかさせない。風がきれると同時、悠介は思いっきり地面を蹴る。
「行け、悠介」
背を押す言葉と共に天衣が膝をつく。よく見れば脂汗を流している。
――――やはり身体に負担が大きいな
息を切らせながらも、天衣は真っ直ぐに駆ける悠介を見つめる。
「まじかよっ!!」
驚愕故に射るタイミングを失った与一は即座に回避行動をとる。
「オラォ!!!」
「あっぶ...」
顔面に向けて放たれた右拳を普段から弁慶により鍛えられた回避能力をもって顔を反らし紙一重で回避する。が...
「あめぇ!!」
顔の横にある拳。そこから悠介は、軸足を回転させ思いっきり回転し裏拳を打ち込む。
「うおぉ―――っ!!??」
が、その攻撃も与一は転がりながら回避する。同時に清楚と与一の二人を分断する。
「逃がすかぁ!!」
天衣がくれたチャンス。逃すかと、悠介は更に距離を詰める。
「はっ!そう簡単にいくかよ」
転がりながらも弓を構えた与一は、一発矢を射る。その矢は悠介を素通りする。
なんの意味も持たない行為。そう誰もが思うが...
「しまっ」
その攻撃の意味を理解した悠介は即座に背を翻す。
「天衣っ!!!」
「っ!!」
撃ち込まれた矢が天衣に当たる遥か前に悠介が弓を打ち落とす。
だが、それにより再び間合いが開く。
「す、すまない。悠介」
自分が足を引っ張ったという事実に天衣は気を落とす。折角先ほど、任せると言われたのに。そんな天衣の頭に悠介の手が置かれる。
「えっ?」
「謝んな。お前のお陰で一度は接近できたんだ。ありがとな」
少し乱暴に頭を撫でながら悠介は感謝を告げる。
「それにお陰で一区切りみてぇだ」
前に視線を向ければ、距離を取り立ち直った与一が鋭い瞳で悠介を見つめながら、矢を構えている。
「どうやら、一撃で決めに来るみてぇだな」
纏う雰囲気が明らかに鋭く覇気を増している。そしてそれに呼応するように悠介も意識を与一に集中する。
『これは、張り積めた空気が場を覆っています。観ているだけで、その冷たさが感じられます』
『これの一撃で勝負が決まるな』
『ああ、互いに次を考えてはいないな』
解説の説明に観客たちも固唾を飲んで見守っている。時間が圧縮された様な沈黙が場を支配している。
――――さぁ来いよ。今度のは今までの遊びとは訳がちげぇぞ
――――...こういった勝負はあいつの土俵だ。普通にやっても不利。なら、どうする?
隙を見せないなかで無言の駆け引き。視線を合わせつつ、互いに有利に働くように意識を向けて行く。
何秒か経過したか、わからない。ただ、悠介は天衣を背に微動だにせずにいる。
――――行くか
決意は一瞬。決まれば、一気に駆け出す。
「悠介!!」
不用意すぎる。そんな思いを言葉が込め天衣は悠介の名前を呼ぶ。
「はっ!俺を甘くみたな!!」
悠介の行動に与一は怒りを覚えた様な声音で吼える。与一が更に深く力をこめる。引き付けかなり距離を見定める。二人を別つ距離が半分に縮まった辺りで、悠介の何かに躓いた様に体勢が前のめりになる。
絶好のチャンス。与一はチャンスに胸を高鳴らせながらも、静かに心を鎮めるという矛盾をなしてみせる。
「我放つ雷神の一撃に慈悲はなく、汝を貫く光とならん!!」
口上と共に矢に込められる気は更に激しさをます。そして悠介の頭が地面とすれすれになった瞬間―――
「
雷気を纏い放たれるのは、一直線に駆けるのは軌跡をみせる閃光。
凄まじい速度で迫り、悠介の頭に当たる。誰もがそう判断した刹那...
「っ――――!!」
悠介は迫る矢を頭を反らして回避してみせる。
「バカなっ!?」
――――チィ、かすった
ヒリつく額。完全に回避することは出来なかった事を感覚で悟る悠介。攻撃をかわした悠介は..
「シィイッ!!」
―――なっ!加速しやがったっ!!
ここに来て与一は自分が嵌められた事に気がつく。
――――前のめりになって、攻撃の
あとはタイミングさえあれば、かわす事は可能だろう。
――――一度しか見せなかった俺の
驚愕と異端な才に与一は背筋が寒くなる。更に悠介はそれで終わらない。
前のめりが意図的ならば、その行動には意味が必ずある。黛の時に見せた、重力を利用した急加速。全力で勝つつもりで放った一撃。必殺を込めた技の代償故に与一は動けない。
―――まずいっ。体が硬直して動けねぇ
作戦勝ち。その場にいた誰もが悠介の攻撃の成功を悟る。その一撃が与一に叩きつけられようとした瞬間、動ける者は誰もいない―――――
「やあぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!!」
――――はずだった。
「ごッ――――!!??」
清楚の横からの命一杯の押しが、悠介の胸元に直撃する。完全に不意をつかれ、呼吸が一瞬止まりその勢いのままに吹き飛ばされる。
「く、そ――――っ」
息を整えつつ、勢いを四肢で殺した悠介は、視線を与一たちに向ける。
そこには顔をうつむかせ表情の読めない清楚と驚いた表情をしている与一がいる。
「
僅かに切れ始める息を整えながら悠介は、清楚を睨めつけながら呟いた。
如何でしたでしょうか?
スマホなのでうまくいけてるか心配です
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