真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
いよいよ、最初の衝突です
とりあえず、九月中に更新できてよかった・・・

楽しんでもらえたら、嬉しいです


悠介と若獅子タッグマッチトーナメント 一回戦VSデス・ミッショネルズ その1

大佐が宣言すると同時に、悠介と天衣そして弁慶と辰子の四人が闘技場に現れる。登場と同時に場のボルテージがさらに上がってゆく。武神が注目だの試合だと告げたのだから、仕方がないのかもしれない。

しかし闘技場に立つ四人は、そんな声など関係ないといわんばかりに平常を保っている。

 

「それにしても…まさか私たちに当たりに来る(・・・・・・・)とはね――――」

 

「うんだよ、文句でもあるか?」

 

「ううん。別に文句はないよ」

 

川神水を口に含みながら、弁慶はあきれた口調で告げるが、その顔はどこか嬉しいそうに楽しそうな顔をする。

そんな弁慶の言葉と顔に悠介はわずかに首を傾げる。そんなどこか場違いな二人のやり取り。それが面白くないと思う者が、その場に二人。その一方が我慢の限界だと口を挟む。

 

「う~~。弁慶だけずるい。私もいるんだよ~~!!」

 

「わかってるが…なんか怒ってるのか」

 

「私のこと無視するからなのだ~~」

 

子供の駄々のような言葉に悠介はなんと反応していいか、困ったように頭をかく。

 

「う~ん。これ以上は、チームにやばい亀裂を生みそうだし、ここまでにするか」

 

辰子の反応を見て弁慶は、川神水を一口口に含むと、その瓶を闘技場のわきに置く。瓶を置いた瞬間、めんどくさそうにしながらも弁慶の雰囲気が変わる。

 

「真の真剣勝負とは、一瞬で勝負がつくからこそ真剣勝負。そうだね………………一分未満(・・・・)決着(・・)つけようか」

 

その言葉に悠介の眉がピクリと反応する。そして鋭い目つきを弁慶に向ける。

 

「それは俺を知っての言葉(・・・・・・・・)か?」

 

「そうだよ」

 

悠介の代名詞ともいえる『タフさ』。それは例え、壁越えであろうともやすやすと倒せるわけはないのだが…弁慶はそれを踏まえて言った答える。『一分未満で決着をつける』と。弁慶のその返答に悠介は薄く笑みを浮かべる。

 

「ならいい。その予想を超えるだけだ」

 

宣戦布告。もはやかわす言葉は不要とばかりに構えをとる悠介。それに触発されるように――――

 

「いくよ、辰子」

 

「悠介君とは戦いたくないから…天衣って女一人にする」

 

「アハハ…それは辛いな」

 

三人も構えをとる。

 

『互いに気迫十分。武神大注目の第一試合『赤報隊」VS『デス・ミッショネルズ』試合開始!!』

 

大佐が火ぶたを切ると同時、弁慶と辰子は地面を蹴る。

 

「辰子、打ち合わせ(・・・・・)通りにいくよ」

 

「うん!!!」

 

『お―――っと!!!これは意外!!弁慶選手と板垣選手の二名は、相楽選手を無視して天衣選手を狙う――――っ!!!!』

 

開幕速攻。悠介を完全に無視して、二人は天衣を狙う。挟み込む形で天衣に向かう。

 

『お―――!!これは予選から見せた、必勝のパターン!!来るぞ!!』

 

その位置は予選で、一撃の元に強者たちを沈めてきた技の構え。これをもって彼女たち『デス・ミッショネルズ』は優勝候補の最有力にまで上り詰めた。

仲間の危機にもかかわらず、悠介は動かない。その姿を視界の端に納め、弁慶は自分たちの作戦が成功してると認識する。

 

――――よし!!このまま一気に仕留める!!

 

決意を固め、敵を迫る。あと五メートルで射程距離に入るといった瞬間――――

 

「なっ!!??」

 

天衣の姿が消えわずかな間の後、背に衝撃が走り、吹き飛ばされる。

 

「くぅ!!」

 

「わぁっ!!??」

 

対角線上にいたことが災いし、吹き飛ばされた弁慶は勢いを殺せずに、辰子と激突してしまう。

 

「悠介を倒すのは時間がかかる。だから、相方の私に狙いを絞る。確かに合理的な手だが…」

 

まさに一瞬の早業。それは彼女の二つ名(・・・)に恥じない動き。

 

「確かに私は二度負け、四天王の座を降り…その肩書を下した。しかし、もう一つの名を下したつもりは一度もないぞ」

 

『スピードクイーン』。最速の武人と謳われた橘天衣の名は伊達ではない。そしてそれは、ある意味ですでに天衣のものではない(・・・・・・・・・)。それでも捨てないのは、橘天衣決意の表れ。

 

「いたた…これは少し甘く見てたね」

 

「うぅ~~痛い」

 

――――と言ってはみたが、実際は結構ぎりぎりなんだが…

 

表面では平静を装いつつも、内心ではわずかに汗を流す。相手の動きが直線的だったからこそ、間合いに入る前に回避し仕掛けることができたのだが、もしも二人が気を僅かでも緩めていなければ避けれていたかは半々だっただろう。それほどまでの突進力だった。

その突進力ゆえに軌道修正が利かないのだろう。

 

「悪いが…私はある意味で悠介以上に(・・・・・)、倒されないぞ」

 

恐怖心や焦りを微塵も感じさせない声音で、天衣は断言する。それは己の役割(・・・・)を果たす。その言葉とその表情が、弁慶の顔をより真剣にさせる。

 

「こりゃあ、甘く見てたね…」

 

自分とは全く違う強さを持つ男が認めたタッグ。甘く見ていたわけではないが、これは予想以上だというほかない。

確かにこれは倒すとなると悠介以上に骨がいるかもしれない。

 

――――なら、手っ取り早く倒すには…「辰子…悠介を狙うよ」

 

「う~いやだな…悠介君を攻撃するの」

 

「まあ、そういわずにさ。私ら二人で悠介を挟んであげようよ」

 

「わぁ!!それいいね~!!!」

 

「纏まったか?」

 

弁慶の言葉で今まで以上に闘志を燃やす辰子。闘志とやる気を見せた辰子に満足げに見据える弁慶。そして二人の意思が自分に向いたことを察して問う悠介。天衣はすでに間合いを大きく離した場所にいる。

 

「ほんと顔に似合わずにまじめだよね。待っててくれたんだ」

 

「当然だ。真正面から勝たなきゃ、意味がねぇ」

 

「そっか。じゃあ行くよ、辰子」

 

「うん!」

 

瞬間、二人は同時に地面を蹴り悠介へと迫るが、同時に悠介もまた肉薄せんと地面を蹴っている。

 

『これは――――ッ!!三人が激突するか―――?』

 

三人の動作に誰もが大佐の言う光景を想像するが――――

 

「オラァ!!」

 

「そいっ」

 

激突するよりも早く悠介の拳と弁慶の錫杖の一撃がぶつかり合う。ギチギチと二つが凌ぎあう中で、辰子が悠介を無視してさらに先に駆ける。

 

――――チィ、やっぱそう来るよな

 

その動きの意図を察した悠介は無意識に舌打ちをこぼす。初撃で錫杖をはじき、弁慶の体勢を大きく崩し、そのあとに辰子に攻撃を仕掛けるつもりだったが、ものの見事に外された。その事実に改めて敵の強さを悟る。

 

「よし、準備完了っ!!」

 

「――――チィ!!?」

 

辰子が悠介の後方にいった瞬間、拮抗していた力が強まり、悠介は一気に後方に吹き飛ばされる。

大きく体勢を崩され、後方へと吹き飛ぶ。急いで体勢を立て直そうとした瞬間――――

 

「悠介!!!」

 

届く天衣の声。考えるまでもなく、後方への力に無理やり右側へと体を流す。刹那、悠介が通ったであろう場所に――――

 

「おりゃ~~!!」

 

気の抜けた声とは裏腹にゴウッ!という轟音とともに、辰子の腕が通り過ぎる。

 

「あぶっ」

 

視界の端に辰子の行動を映し、悠介は思わず呟く。あの勢いの状態で辰子の一撃などもらえば、冗談抜きでヤバイ。そう感じるほどだ。

 

「ありゃりゃ。避けられちゃった~~」

 

「まあ、気にしなくていいよ。それも予定通り」

 

前方と後方から届く声。それだけで今の自分の状況が最悪か察する。

 

『これは―――!!あまたの猛者を沈めたデス・ミッショネルズの必勝の型だ――――!!』

 

大佐の言葉が発せられた瞬間、会場のボルテージが跳ね上がる。それはある二種の期待(・・・・・)を込めモノ。

 

「「「「………………………」」」」

 

会場の熱意とは反比例して闘技場の四人の空気は張り詰めるような沈黙へと変わっている。張り詰める空気と意識。弁慶はわずかに視線を辰子に向ける。辰子自身も武人としての本能がその意図を察しさせる。

悠介の張りつめた意識の中で、無策に突っ込んでも先ほどと同じようにカウンターを食うだけだと。

 

『これは、凄まじい緊張感が伝わってきます』

 

大佐の言葉に観客たちも気が付いたのか視線が集まり、熱が別のもへと変化してゆく。

 

――――これは…すでに始まってやがる

 

――――高次元に己の実力をぶつけ合っていル

 

――――まさか初っ端からこれ(・・)が見れるとはな

 

――――感じるのぉ。ぶつかり合う、三人が

 

沈黙の闘技場。はた目から見れば、動かないことに疑問を感じるだろう。しかし警護をしている四人を筆頭に猛者たちは気が付いている。今、行われているのは意識の侵略または高次元での駆け引き。

それは、細かなフェイクなど一定の相手の実力を手を読み切ったうえのみ可能な、限りなくリアルなシュミレーション。

 

―――――ほんの僅かでも意識で押されれば、それがそのまま隙になる。もはや実践と何ら違いもないもの…一切甘く見てはもらえていないな

 

何秒経過しただろう。

 

「「「「……………………」」」」

 

張り詰める意識のぶつけ合い。いつこと切れてもおかしくない目に見えない戦い。最初に崩れたは――――

 

「………っ!!」

 

二人の猛者とぶつかっていた悠介。その隙を二人は逃さない。読み間違えか駆け引きの中での敗北かはわからないが、一瞬悠介の挙動が遅れる。

そしてその遅れはあまりにも致命的。

 

「「ダブル――――」」

 

迫るは必殺のコンビネーション。対応しようにも完全に間合いに入られている。

 

――――喰らうのは不味い

 

()を考える。ゆえに選択肢は一つ(・・・・・・)

 

「クソっ!!」

 

その二対の牙がぶつかる直前、悠介は地面を蹴り空へと回避せんとするが…

 

「ガハッ―――っ!!?」

 

跳び上がり体が無防備になったその瞬間、鋭い蹴りが悠介をより高く蹴り上げる。

 

「まずい!!」――――ダブルラリアットは釣り。本命はこっち…っ!!

 

第三者として弁慶に蹴り上げられた悠介を見た瞬間、天衣は敵の真意を察する。

 

「辰子、行くよ!!」

 

「うん!!」

 

弁慶の声とともに辰子と弁慶もまた空へと跳び上がる。

 

『相良選手を追って二人が空へ猛襲!!』

 

その光景を見た大佐の言葉で観客の意思が空へとむけられる。

 

「チィ…」――――体勢を…戻さねぇと…まじぃ

 

蹴りの衝撃でわずかに意識が朦朧とする中でも悠介は必死に体勢を戻そうとするが、衝撃が強くうまく体を動かせない。

 

「悪いけど、させないよ」

 

動かそうともがく悠介の体を弁慶と辰子の二人が拘束する。同年代ではトップクラスのパワーを持つ二人の拘束。体勢も悪く拘束を外せない。

 

――――やベぇ!!

 

「いくよ、辰子!!」

 

「うん!!」

 

身動きを封じられたまま猛スピードで地面へと落下してゆく。無意味と分かっているがあがくのをやめない悠介。

されど非情にも地面は迫り…一瞬、もがく悠介の視線が百代と交差する。それがきっかけ(・・・・)

 

「っ――――!!」

 

「はぁっ!!」

 

「おりゃ~!!」

 

『決まった―――!!強烈なツープラトンだ!!』

 

「悠介っ!!」

 

凄まじい轟音とともに悠介は地面に叩き付けられる。舞う土埃から弁慶と辰子が現れる。その威力を察して天衣が声を上げるが、土煙には変化がない。

観客の誰もが終わったと判断する。確かに悠介のタフさは知っているが、それすら耐えれないではないかと思える威力を予選で見せてきたが故の判断。それは大佐も同じであり、ゆっくりと手を上にあげる。その中で数名は、静かに土煙を見つめている。

 

『それまで――――っ!!勝者デス・――――』

 

終わりを告げ、次へと進めようとした瞬間、何かが立ち上がる音が響く。それは決して大きくない音にも関わらず、ひどくあたりに響く。

その音に弁慶は冷や汗を流し、辰子は驚いた表情を見せ、天衣は安堵に近い息をこぼす。

 

『なななんと―――!!何事もなかったかのように立っている!!』

 

「ほぅ」

 

その光景に大佐は驚きをあらわにし、ヒュームは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「流石に効いたが……まだあめぇ(・・・)な」

 

「そのセリフ…。ほかの奴なら虚言だって断言できるのにね、あんただと真剣(マジ)に聞こえるからヤダね」

 

土埃の汚れを払いながら告げる悠介の言葉に、弁慶は呆れたと驚きの声で答える。ふと、視線を横に見れば辰子も衝撃といった表情を見せている。そして天衣は自分の心配が杞憂であり、改めて悠介の意思の強さ(・・・・・)に感動する。そして一瞬、悠介と天衣の視線が合う。

 

――――心配しなくても、負けねぇよ

 

――――ああ、もう心配しない

 

それだけで伝わった意思。その事を察した弁慶と辰子は僅かに眉を上げる。

 

「甘かった…どうやら、浮ついてたみてぇだわ」

 

「?。どういう…」

 

「百代と戦える舞台のスタートラインに立てただけ(・・)で、どっかで百代に意識がいってたみたいだわ」

 

「悠介君?」

 

その言葉はどこか謝罪を含んだ言葉。

 

「目の前の相手さえ(・・)見てない奴が、その先にいるあいつ(・・・)に挑んで、勝てる(・・・)かよ………なあ、そうだろう」

 

瞳を閉じわずかに首を鳴らす悠介。瞬間、弁慶たちの意識が否応なしに引き付けられる。今までだって決して見ていなかったわけではないが、僅かな浮ついていた部分が自分たちに向けられた。それが否応なしにわかってしまう。

 

「お前ら相手にダメージを極力減らして勝とうなんて考えが、そもそもの間違いだった。来いよ、ダブルラリアット。俺のやり方(・・・・・)で破らせてもらう」

 

閑に閑に相良悠介は天に浮かぶ星に吠えた。さあ、ここからが本番だ。




如何でしたでしょうか?
認めたライバルへの勝利、目指す山頂の影が見えてきた
さすがにここまで来れば、浮つかないわけはないかなと思いまして、ああなりました
視るだけで知ってはいないので、そこらへんはまだまだ未熟かなと思いまして

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