真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
過去最長の話となってるVS西方十勇士
長いと感想で指摘されたので、出来るだけ早く終わらせれるように早め早めの更新を頑張りたいと思います
そのせいか、少し急ぎすぎたかな?
楽しんでもらえたら、嬉しいです!!
その変化に悠介は軽く舌打ちを零しながらも、迫る人形たちを吹き飛ばしていく。最初に察知したのは聴覚。聞いたのは何かが落下する音と何かが空を裂く音。何かとは考えるまでもない。明らかな攻撃。何か手を打たんとしたいが、迫る人形たちがそれを許さない。
「クソッ」
悪態をつくと同時、小さな竹筒が地面に落下し、爆竹の様に破裂音を鳴り響かせる。その音により、聴覚が潰される。そしてその破裂音が合図の様に一部の人形が膨らみ、煙幕が場に放たれる。それによる視覚が潰される。
――――チィ。どこだ?
空を裂く音が炸裂音によりかき消され、視界は煙で見えない。対応が間に合わない。そうした瞬間、鋭い衝撃が体に走る。
「ッ!!」
ダメージはない。それよりも動きが一瞬静止したことが悔やまれる。その一瞬を突く様に人形たちが襲い来る。
――――人形の動きが精密すぎる…やっぱ操ってんのは、鉢屋じゃねぇな
ここにきて悠介は、己の考えが正解であると察する。種は簡単だった。悠介は、外に鉢屋中に尼子と考えていたが、実際は外に尼子、中に鉢屋の構図。鉢屋が作った人形だからこそ、操れるのは鉢屋しかいない。そういった思い込みと忍術を使えるのは忍者のみ。だが、尼子はある程度忍術を行使できるのか真似たのかはわからない。しかし確実に尼子は忍術を使える。
――――俺の思考すらも策に組み込むとか…まさに釈迦の手の平の孫悟空ってわけだ
自分では到底できないであろう戦術。不確定要素すらも、策のうち。そして他者の術を完全に操作する指揮力。自分の長所を生かした戦い方。
――――スゲェな……
純粋な称賛。そして…
――――たく…なんだよこの体たらくはッッッッッ!!!!!
湧き上がる。敵のいいように翻弄される自分への憤怒。なぜこうも後手に回っている。分かっている受けて立ったからだ。自分の不得意な面で。ならなぜ受けて立った…慢心したからだ。五人の敵を倒したから、無意識に慢心していた。それが本当に許せない。
その憤怒を敬意を悔しさを燃料に闘志を燃やし、高ぶらせる。
「いつまでも思惑通りに進めると思うなよ」
誰にも聞こえない、自分に告げる宣言。同時、外にいる二人はその闘志に身を僅かにこわめる。
「尼子」
「わかってる。数を増やす」
鉢屋が全てを言うまでもなく尼子は笛を鳴らし人形たちに指示を出す。十勇士においてただ一人舞台を持つ尼子の指揮力は並ではない。
それを見越しての数と策との合わせ技。肝心な策も完成した。ゆえに残すは勝利のみ。
――――なのになんだ…この悪寒は
それは隣の尼子も感じているだろう。悠介の情報は可能な限り集め、戦った
なのに、今になってその自信が揺れる。
そしてその揺れが、悪寒が現実となって目の前に現れる。
「鉢屋!!」
「ッ!?」
尼子の声と共に意識が煙幕へと向けられる。瞬間、おびただしい数の人形が宙へ舞う。それと同時に辺りに響く炸裂音。間違いなく自分が人形に仕込んだ罠が発動している。だが、なぜ人形が舞っている。
――――まさか…
あり得ない考えが脳裏に浮かぶ。そんな中でも尼子は人形たちに指揮を出している。自分だけが止まっているわけにはいかない。そう思い動き出そうとした刹那…
「だらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああッ!!!」
「「ッ!!??」」
咆哮。もはやそうとしか取れない雄叫び。その音量に肌がビリビリと震える。そして二人が臨戦態勢を整えようとした瞬間…
「みっけたぜッ!!」
煙の天井を突き破るように悠介が飛び上がり、上から二人の姿を視認する。その姿は人形たちに仕込まれた罠を受けたのかボロボロである。しかしその瞳に映る闘志は、体とは真逆の状態。
瞬間、尼子は笛を鳴らし人形たちを悠介に差し向ける。そして鉢屋もクナイを投擲。人形の鎖が悠介の動きを止めんとするが…
「何度も喰らうかよ!!」
裏拳と正拳の連続撃ち。回転も加わって徐々に威力が上がる拳撃の嵐に人形たちがクナイが様に弾かれる。
予想外の方法で攻撃をはじかれ二人の思考が僅かに止まる。その合間に悠介が上空より迫るが、その直前で動きが止まる。
「ワイヤーか!」
「備えていた。尼子!!」
「行け!!人形たち!!」
鉢屋が保険にと仕掛けていたワイヤーが悠介の動きを止める。その拘束の時間に尼子が人形たちを仕掛ける。一部の人形たちは膨らんでいる。鉢屋が仕掛けた罠人形。そのほとんどがその罠を発動しようとしている。
そして…
「「終わりだ!!」」
鉢屋の攻撃を含めた爆破がクナイがあらゆる武具が破裂した人形より悠介に迫る。動きが拘束されている悠介に躱せるはずもなく直撃する。
だが…
「なにっ!?」
「き、効いてないのか…」
悠介は変わらずに拘束をはがさんともがいている。まるで意に介していないような動作に二人は何度目かわからない驚愕を覚える。
「あ?効いてねぇ訳ねぇだろが!!痛てぇもんは痛てぇよ。ただ…」
尼子のセリフに悠介は反論する。
「バカみてぇに
宣言と共に身を縛っていたワイヤーから抜け出す悠介。だが、その背後には人形たちがせまっている。脅威が迫っている。にも関わらず悠介は、全く気にしない。ただ真っすぐに二人へと迫る。
その光景に二人の思考は一つに収束する。
――――なぜ躱さない、対処しない
「策も読み合いもねぇ。ド直球で勝負だ!!」
悠介の多数に対処力を大きく超える数。ならばそこで勝負しても負けるなら、初めから勝負しなければいい。たとえ幾多のダメージを受けようが、堪え自分の土俵で戦う。動きを止めようとする手は身体操作でその部分のみを動かし捌く。それ以外はすべて無視。
対処しようなどという最初の驕りは既にない。
ゆえに、迷いなきその動作は…
「速い!!」
混乱する思考の鉢屋たちよりも速く鋭い。
「オラアッ!!」
「ゴォ!!」
「鉢屋!!」
コンマの迷いの差が悠介の拳を届かせる。その手ごたえは確かであり身代わりはない。見方が攻撃を受けた瞬間、鉢屋と尼子の視線が重なる。
そして次の瞬間、悠介の視界に衝撃の存在が映り込む。
――――なんでテメェが其処にいる、尼子!?
僅かに視線をずらせば、先ほどの場に尼子の姿はない。だが、余りにも早すぎる。
――――俺に気づかれずに移動した?無理だろ…気配はちゃんと感じてた。なのに、こいつは気配も残しつつ俺の前に現れやがった
余りにも異質な状況に悠介の思考が僅かに乱れる。
「みたか。わたしのおうぎ『しゅんかんいどう』だ」
宣言と共に腕がブレる。そして襲い来る衝撃だが、悠介は止まらずに尼子に再び拳を打たんとするが、背に衝撃を受ける。
「な…に?」
鉢屋の攻撃だと思ったそれは何と…
「瞬間移動。そして
――――俺の意識の隙を突いた?いや、俺が尼子から意識を逸らしたのは、攻撃を受けてからだ。どうなっていやがる
そこからは連続して尼子の瞬間移動による連撃が襲う。しかし悠介はぶれずに謎を解かんと頭を動かす。
――――何かが何かがおかしい。なんだ?何が引っかかる
「まだ倒れないか」
「あきれたやつだ」
何度も何度も数えるのが馬鹿らしくなるほどに受けてなお悠介は頭を動かす。ダメージがないわけではない。今までのダメージもぶり返し、確かな鈍痛が襲う。
だが、その程度では悠介の集中力は崩れない。
痛みには慣れている。それよりももっともっと集中しろ。
「いいかげんにたおれろ」
「まだ倒れないか」
――――うん?なんだ声か?
連続攻撃による疲れが出てきたのだろう。息切れによる呼吸音が言葉と共に聞こえる。それが
――――なんで呼吸音とタイミングが
刹那、悠介の脳裏に今までの記憶が流れ込む。そしてほどなくして、その回答を得る。
――――成程、だから
全ての点と点がつながる。そして尼子の
「倒れろ!!」
尼子の攻撃。そして瞬間移動による回避。それが今までの流れだったが…
「捕まえたぜ」
「なっ!?」
発動するよりも早く悠介の手が尼子の腕をつかむ。
「タネは分かった。仕掛けて来いよ、
「ッ!!?」
何気なく発せられた言葉。されど、その真の
タネが割れた手品は通じない。それと同じ、もしも本当に謎が解かれたのなら。
――――まずい!!
「飛べ」
悠介は思いっきり尼子を投げ飛ばす。勢いをもって吹き飛ばされる尼子。地面に落下する直前、影が悠介に迫るのを尼子は確かに見る。
「だ…ダメだ」
既に悠介にそれは通じない。それが故の声。しかしそれは届かない。
尼子を投げ飛ばすと同時に悠介は、背へと振り向く。そこには…
「よう、尼子で…いいのか?」
「ッ!??」
「なっんで…」
「毎回、移動先は対角線にあるであろう死角が多かった。だから、仕掛けてくるのは此処だと思ったぜ」
悠介の言葉と同時に動きを止めんとするが、余りにも遅い。
「捕まえた」
悠介の手が容易に手を掴み、そして尼子を投げ飛ばした方へと再び投げ飛ばす。そして悠介は、その場所へと一気に駆けだす。
距離にして約30メートルを詰めるとそこには…
「やっぱ、双子だったか」
二人の尼子の姿。そう尼子の必殺である瞬間移動のタネは開けてみれば単純なもの。一人が隠れ、隠れた方が攻撃すると同時に隠れていなかった方が身を隠す。姿が同じである二人だからこそ可能な芸当。
しかし息が切れ疲れが見え始めた頃から、呼吸の音やタイミングがぶれ始めてしまう。それは明らかな個の証であり、二人いることの証明。
「さて、名前は?」
悠介が距離を詰めながら問う。少しの動きも見逃さんとする鋭い瞳に、二人の動きが止まる。
「あ、あまごはる」
「なんだ、字が違うだけで同じ名前か…そりゃ余計にひかっかるな」
鋭い瞳と燃え盛るような闘志。それとは真逆の飄々とした言葉。それが余計に恐怖心を煽る。
「時が続く限りだ。それまで抗え、勝つためによ」
最早戦闘の意思を狩られた二人に悠介は告げる。
「たとえ怖かろうが震えようが、自分の足で立って向かって見せろ。それが
熱い言葉に二人は何も言えない。そうありたいとすら思ってしまう。だからこそ、もう戦えない。
「「…まいった」」
二人は負けを宣言する。その言葉を聞いた悠介は息を吐き、ゆっくりと構えを解く。
刹那、悠介の背に影が走る。
「はちっ…」
晴が息をのむとほぼ同時、悠介が背へと振り向くが、それよりも早く
「爆」
爆破が直撃する。
「ハァハァ…勝利を確信した時、敵は最も隙を見せる。仕留めさせてもらったぞ」
一撃。されど一撃。速度を乗せた悠介の一撃は、防御力の低い鉢屋には異常に重い。
「危なかったが、任務完りょ「おい」ッ!?」
任務完了。そう判断した瞬間、爆炎の中を悠介が突っ切って迫る。
「なっ!?」
「確かに勝利を確信した相手は隙だからけだな」
回避も間に合わない。その拳が…
「オラァ!!」
「ガァ!!」
鉢屋を貫く。数バウンドののち鉢屋は地面に大の字で横たわる。
「なぜ…気が付いた」
「あん?別に何でもねぇよ、お前だったらあのまま終わる訳ねぇと思っただけだ。それでも防ぐまでにはいかなかったがな」
鉢屋の言葉に悠介は何でもないと告げる。
「でもまあ、厄介だったぜ。結局、一度も真正面からは戦えなかったからな」
「フン。それがしは忍び。真っ向からは挑まぬ。貴様らは侮蔑するだろうがな…それが生き方だ」
悠介の言葉に鉢屋は悲哀を込めた言葉と次に来るであろう言葉を予想して顔を
「何言ってんだ?どんな手でも、てめぇが後悔してないならば、それはそいつの誇りだろ。認める事はあれど、貶める理由が見当たらねぇよ」
悠介が発した言葉は肯定。今まで否定の言葉だけを聞いていたからこそ信じれない。僅かに呆けていた鉢屋だが、次の瞬間にはうっすらと笑みを浮かべる。
「おかしな男だなお前は…」
「そうか?」
「それがしの敗北だ。もう裏でも動かん」
「そっか」
互いにそれだけ告げると悠介はその場を離れる。
――――西方十勇士残り、
今までに経験のない鉢屋と尼子達との戦いからおよそ一週間後。その中で悠介は確実に傷を癒していた。そして傷が完全に治癒した悠介は、いつもの様に学校に通っている。既に西方十勇士の半数以上を打倒している悠介は、学年中で噂になっている。触るな危険の札を付けられているが、悠介は全く動じない。
教室に入るとクラスの空気が張り詰める。それを感じ、申し訳ないように思いながら悠介は席に着く。
その数分後、再びクラスの扉が開かれる。現れた存在にクラスが騒めく。しかし、その存在は動じることなく悠介の元まで歩み寄る。
「相楽殿」
「うん?誰だ、お前」
「それがしも西方十勇士の一人である
その宣言に悠介の気配が変わり、その存在に意識を向ける。何というか凄く同学年とは思えない顔つきだ。
「それで今から始めるか」
獰猛な目つきと言葉。されど島は容易く受け流しながら、用件を告げる。
「今日の放課後、グラウンドにてそれがしと一騎打ちで決闘をお願いいたします。無論、邪魔や横やりの心配はございません」
「信じていいんだな」
「それがしの十勇士の名に懸けて、約束しましょう」
「……わかった」
しばしの沈黙の後、悠介は同意する。
「それと斬佐と呼ばれる斬馬刀もお持ち下され。……それでは、それがしはこれで」
それだけ告げて島は教室を後にする。それを見届けた悠介は面白そうに笑みを浮かべる。
「長曾我部みたいなタイプの奴が他にもいたんだな」
その時を楽しみにしながら、悠介は授業を受けた。
放課後、グラウンドの中央。そこに槍を携えた島が佇んでいる。そこへ巨大な斬馬刀・斬佐を肩に背負った悠介が現れる。
「待たせたか?」
「いえ。それがしも先ほど来たばかりなので、お気遣いなく」
「そうか」
他愛もない会話をしながらも島は槍を構え、悠介は背負っていた斬佐に纏っていた包帯を取り外す。
そして二人が武器を構え合う。
「それがしは、十勇士が一人島右近」
「相楽悠介だ」
「御大将の命令で倒させていただく、お覚悟を」
「はっ!やってみろよ!!!」
瞬間、二人は同時に地を蹴り、互いの武器がぶつかり合った。
悠介と島がぶつかり合ったのと時を同じく、その空き教室に石田はいた。携帯を耳に当ててるため誰かと通話しているのだろう。
『どういう事だ!!既に半数以上が倒されているではないか!!話が違う!!!』
電話の相手は悠介に殴られた教師。彼の考えでは自分を殴った生意気で無礼なガキは早々に敗れ、自分に許しを請うはずだった…しかし蓋を開けてみれば、刺客たちは倒されて、未だに想像通りにはならない。
唯一の救いは、悪評が流れ悠介の評価が下がっている事だが、その裏では逆の評価が流れている事を知っている。
『これ以上俺を失望させるなよ!!これ以上失態を犯せば、援助の話はなかったことにさせてもらうぞ!!』
荒げる教師を前に僅かに石田の表情が崩れるが、即座に持ち直す。
「いらぬ心配だ、先生。今までの十勇士よりも残す十勇士は圧倒的な実力の差が存在している。如何に相楽と言えど、勝てぬであろう。ゆえにしばし待たれよ」
『…………わかった。暫く待つ。だが、それ以上俺の信用を裏切るなよ!!俺は館長に釘を刺されて動けないからな』
「必ず、期待に応えて見せよう」
それだけ告げ携帯を切る石田。その表情は先ほどの冷静な表情とは違い、悔しさを秘めた表情を見せている。
「頼むぞ、島よ」
自身の側近の姿を思い浮かべる石田。
「見事俺に、勝利を献上して見せよ」
その表情は疑いのない感情を見せていた。
如何でしたでしょうか?
違和感とかあったら、教えてください
一応発端だし、少しは登場させないとだめだよね?
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