真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
一体誰が出て来るのか、どうなるのかを楽しんでくれたら嬉しいです!!
土曜日の河川敷。ポカポカと温かい日差しが照らす中に、二人はいた。
「気持ちいいね~~~~」
「ああ、全くだ」
気持ち良さそうな声に悠介も気の抜けた声で答える。片目は閉じており、もう片方の目が満点の青空を見ている。
そしてその姿を、横方向に寝転がっている辰子が楽しそうに見ている。
何故二人がこうしているかと言われれば、川神山からの修行帰りの悠介を辰子が見つけ、一緒に昼寝をしようと誘ったのだ。悠介自身、疲れている事もあり頷き、今に至る訳である。
疲れを癒すように眠ろうとする悠介を辰子は楽しそうに見ている。何となく、その視線がムズ痒いように感じた悠介は身体を横に向けて、視線を逸らそうとするが辰子がそれを許さない。
「ダメ~~」
「‥‥‥」
気の抜ける声とは裏腹に、ガッチリと腰を掴まれて身動きが取れなくなる。辰子本人は、悠介の腰辺りに頬を付けて嬉しそうにしている。更に股関節辺りからは、彼女の母性の象徴ともいうべきモノが当たっている。自分の身体によって形を変えるそれは、とても柔らかい。男なら誰もが喜ぶであろう状況だが、悠介自身の性格と修行の疲れもあってか、反応しない。むしろ、人肌の温かさが悠介を眠りに誘う。
結果、悠介は完全に夢の世界に旅立った。
「すぅ」
「ふふ」
辰子は心地よさそうな寝息を立てる悠介を楽しそうに見ている。普段は目つきの悪い不良の様な外見の悠介だが、気持ち良さそうに眠る今の姿は、年相応の大人びた少年だ。
滅多に見れないであろうその表情を見れる事が嬉しいのか、辰子は悠介の頬を指でつつく。肝心の悠介は、疲れが溜まっているのか全く反応しない。しかし、それでも悠介に触れれる事が嬉しいのか、辰子は楽しそうな笑みを見せている。
「ふふふ~~~」
鼻歌を口づさみながら悠介の頬をつく辰子。しばし、悠介の顔を見ていた辰子だが、自身も彼の眠気に釣られたのか、ぎゅうと抱きしながらゆっくりと目をつぶる。
心地よい風とほんわりと照らす太陽の光が、二人を包む。そのまま二人は、深い夢の世界に入り込んだ。
ぶつかり合うのは力、睨み合う両者。
『常人離れしたお前の筋力は殺すには惜しい資質だ。御庭番衆に伝わる秘薬を使えば、この
告げられたのは、勧誘。誘惑の名は、更なる力。もしかしたら彼に出会う前ならば、その誘いに乗っていただろう、しかし知ったのだ。自分の憎しみを切り裂いてくれた、剣客の強さの秘密を…その秘密を。
だからこそ、男はその誘いを蹴って告げる。
『ふざけんじゃねえッ!!俺様俺様って、ただ力に酔ってるだけじゃねえか!!そんなモンは、本当の強さじゃねえッ!!』
『ほう。どうやら、もう一度痛い目を見ないとわからんらしいな』
『はっ、その余裕は手前の手を見てから言いやがれ』
『なっ…!!』
その言葉と共に式尉の両手が砕かれている。驚く式尉をしり目に、彼が駆ける。
そして、そのまま脳天に一撃。
『たっく…御庭番衆ってのは、あと何人残ってんだよ。流石に、これ以上は持たねえぞ…』
頭から血を流しながら、彼はふらっと倒れ込む。数少なく、彼が戦いののちに気絶した戦い。
権力ではなく、己が生き方を、本当の強さを叫んだ戦い。
「うあ‥?」
ゆっくりと夢から覚めた悠介。視界に映りこむのは、温かい太陽の光ではなく、朱色に傾く夕日だった。
ゆっくりと身体をほぐす様に伸ばそうとするが、腰に抱き付いている辰子の存在が、それを阻害する。
「辰子、起きろ」
「う~~~ん?」
気持ちよさ様に眠っている辰子を悠介がゆすって起こそうとする。ゆすられた辰子は、目を擦りながら腰を上げる。
「おはよう。悠介君」
「おう、おはよう」
互いに身体を伸ばす。
「さてっと、そろそろ帰るか」
「え~~~~ッ!!帰るの?一緒にご飯食べようよッ!!」
「いや、流石にそれは…」
断ろうとした悠介だが、ふと若干頭の回らない状態でケータイのメールを見る。そこには「ごめーん。今日は燕ちゃん、納豆小町のお仕事で明日まで帰らないから、ご飯を任されたんだけど、九鬼家の技術部の人達と飲みに行く約束したから、勝手に食べておいてね」と言う、何とも責任感の無いメールが送られていた。
ゆっくりと、ケータイを閉じる悠介。そしてゆっくりと、今朝の事を思い出す。
確かに、燕は朝早くから忙しそうに出かけていったし、メールに近い事を言われた気がする‥‥修行内容を考えていて全く聞いていなかったが。
悠介は、二日連続して飲みに行く久信の事を燕にメールで伝える。一体どんな内容かは、想像に任せるとしよう。
そしてなぜか、メールの内容も見てもないはずの辰子が、何処か期待した様な目線を送っている。
一瞬、考えた。そして決断。
「わりぃ。ゴチになる」
「わあ~~~い!!」
悠介が頭を下げて申し出を受けると、辰子が満面の笑みでバンザイをする。板垣家で共に食べる事が決まった。
悠介が辰子の家に着いたのは、河川敷から数分後。
「お邪魔します」
「いらっしゃ~い」
玄関をくぐった悠介。辰子の歓迎の声に反応して、他の姉妹が悠介の来客に気がつく。
「なんだい、悠介じゃないか。どうしたんだい?」
「今日ね~、一緒にご飯食べるんだ~~」
「いや、晩飯の当てがなくてな。困ってたら、辰子がメシを食べさせてくれるって言われたから、邪魔したんだが…迷惑だったら帰るぜ」
「何言ってんだ。あんたには大きな借りがあるんだ。別に構いやしないよ」
悠介の言葉を亜巳は否定する。そのセリフに悠介は、彼女がどれだけ家族を大切にしているのかがよくわかった。
「じゃあ、リビングで待っててね~~」
「俺も手伝おうか?」
「大丈夫だから」
「ほら、客はさっさとリビングに行きな」
二人に押されるままにリビングに入った悠介。そこには天がのんびりとしている。
「あれ?
「兄貴‥?」
余りに自然に放たれた一言に反応する悠介。しかし、そんな悠介を放っておいて辰子が天に告げる。
「そうだよ~~。今日は悠介君も一緒に食べるの」
「おっしゃ!!兄貴と一緒に食えるぜ!!」
唖然とする悠介に亜巳が助け舟を出す。
「勘弁だね。竜と天の奴、あん時にアンタに助けられてから尊敬しだしてね。敬愛を込めて兄貴って呼んでんのさ」
「おいおい‥」
亜巳の発言に悠介が僅かに戸惑う。そんな悠介に亜巳が優しく告げる。
「あの二人には姉はいても、兄はいないからね。ずうずうしい頼みだと思うけど、あいつらの兄貴って奴になってくれるないかね?」
「…‥兄貴ってのはガラじゃねえし、どんなもんか判んねえけど‥‥まあ、呼ぶぐらいなら仇名って事で納得する」
「それで構わないさ」
悠介の言葉に亜巳は満足げに頷く。そして丁度、辰子たちの会話も終わったのか、天が悠介を呼ぶ。
「兄貴!!タツねえが晩飯作るまで、一緒にゲームしようぜ」
「おう」
そう言ってテレビの前に座りゲームをする二人。その背を亜巳が、微笑ましそうに見ている。
辰子の料理が完成するまで、二人はゲームを続けた。
「美味いな」
出された料理を口に運びながら、悠介はそうこぼす。少なくともいつも食べている燕と同じレベルに感じる。
「えへへ~~」
褒められたことが嬉しいのか辰子は笑み零す。
(それにしてもタツの奴‥‥いつもより美味いし豪華だね)
どれだけ想っているのかを察した亜巳は、苦笑をこぼす。
「‥‥そう言えばよ、竜と釈迦堂の野郎はいねえのか?」
ふと、疑問にも思っていた事を口にする悠介。
「竜の奴は、舎弟どもと会合に呼ばれてるのさ。師匠の方は、ここ最近ずっと遅いね。仕事終わってから、何処かで何をやってるやら」
「なるほどね(つか、ちゃんと仕事してんだな)」
そんな悠介が、釈迦堂の仕事先を知り、ひと騒動起きるのは先の話。四人は、賑やかに話し合いながら晩飯を食べていった。
「それじゃあ、邪魔したわ」
晩飯も食べ終えた悠介は、帰る為に玄関にいた。
「また来な。あんたなら、何時だって歓迎だよ」
「そうだぜ!!また来てくれよ、兄貴!!」
「む~~、泊まっていってくれても良かったのに」
「流石にそれはな…またな」
軽く手を振りながら板垣家を後にする悠介。
薄暗い路地を歩き、帰宅を目指す悠介。昼間に結構な時間寝てしまったためか、何時もよりも疲労感が少ない。その為、少し汗を流してから家に帰るかなどと考える。
―――両手打ちは、完成まであと一歩って所だしな。一週間前までには、完全な形にしときてえ。だとしたら、時間は無駄に出来ねえか
決断すれば早く、早速川神山に向けて行こうとする。ふと、少し先に不良達がたむろってるのが見える。九鬼家によって粛清されて行っているが、根本的には消える事がないだろ彼らの存在。光があれば、必ずどこかで影が生まれるのだから。
悠介自身喧嘩っ早いが、決して戦闘狂と言う訳ではない。むしろ確固たるルールを敷いており、そのルールに触れた時のみ拳を振るうと決めている。
今回は、それに触れないし時間も惜しいとのことで、少し回り道になるが迂回して厄介事を交わそうと考えていた。
そう、見知った声が聞こえなければ、そうするつもりだった。
「…‥」
聞こえた。不良達の声にかき消された様にだったが、確かに聞こえた。
それは、悠介の敷いたルールに触れる行為。ゆっくりと悠介は、不良達の元に歩を進めた。
不良達に囲まれリンチに近い事をされたゲンは、舌打ちをこぼす。宇佐美巨人に養子として拾われたゲンは、巨人の本業でもある仕事の跡継ぎだ。今日も、軽い見回りのつもりだった。しかし、知らない間に囲まれて今に至る。
九鬼家によってストレスの発散が出来なくなったが故の行動だとすれば、八つ当たりよりも質が悪い。
「オラアッ!!」
「があ!!」
バットやらで殴られ意識がかすむ。耳には、不良達の嘲笑う声が聞こえる。
―――此処までか
そんな考えが頭に浮かび、諦めが感情を占める。そして不良が大きくバッドを構える。走馬灯のように思い浮かんだのは、何時も笑みを絶やさず夢に向かって進む幼馴染の姿
「死ねぇ!!」
ではなく、最近よくつるむクラスメイトの姿。
覚悟していた痛みが来ない?ゆっくりと目を向けるゲン。
そこに映りこんだのは
「よう、ゲン。大丈夫か?」
振りかぶられたバットを掴み、その不良の後ろに立つ悠介の姿。
「て、てめえ!!一体何…」
「うるせえ」
「ぐぇ」
突然の来訪者に驚く不良を一撃で沈め、ゲンの元に歩く悠介。
「相楽。何で」
「あん?いや、知り合いの家で飯食っての帰りだよ。そんな事よりも大丈夫か?」
「あ、ああ。どうにかな」
「そっか。ならちょっと休んでな。直ぐ片づけるからよ」
そう告げて悠介は、周りを囲う不良達に視線を向ける。最初は驚いていた彼らも数の暴力を思い出し、ニヤニヤと笑っている。
「おい、相楽!!俺のことはいいから、逃げろ。お前には、夢があるんだろ!!」
そんな不良達の考えを察したゲンが声を掛ける。別段、敗けるとは思っていない。しかし、今回の戦いが悠介に悪影響を及ぼすかもしれない。タガの外れた奴らは、そう言う意味で危険なのだ。それを良く知るからこその言葉。
だが、それでは悠介は止まらない。
「だったら、尚更だ。こんな事じゃねえよ、今にもヤバイダチを見捨てたらよ…」
悠介がゲンに何かを言うとしているその時に、右前方からバットの一撃が頭に直撃する。やったと笑みをこぼす不良だが、次の瞬間その顔に悠介の一撃が叩き込まれる。
「俺は一生モモに勝てねえし、この文字を背負えねえよ」
地面に倒れる不良から拳を離しながら、ゲンにそう告げる悠介。
そしてもう一度辺りを見渡して告げる。
「来いよ。この喧嘩は…俺が売ってやる。買いてえ奴は、かかって来いよ」
それが合図。辺りから襲いくる不良達を悠介は、一撃のもとに沈めていく。
しかし
(ダメだ。数が多すぎる。路地の地形から動きが制限されるし、何より俺を庇って動きが鈍くなっている)
第三者として状況を見ていたゲンは、悠介の不利を悟る。助けたいと思っても身体が動かない。
どうすると思ったその時
「何だ。兄貴じゃねえか」
「竜か」
会合帰りの板垣竜兵が、その場に現れた。そして即座に場を見渡し、状況を理解すると深く笑みを浮かべる。
「ウラァッ!!兄貴の手を煩わせるまでもねえ。この俺が壊してやるよ」
竜兵自身、溜まっていたうっぷんを晴らすように。そして悠介を敬愛するが故に、暴れ始める。
コツンと二人の背がぶつかり合う。
「水臭いぜ兄貴。こういうのは、何時でも誘ってくれよ!!」
襲いくる不良をねじ伏せながら竜兵が吠える。そこには何時もの男を狙う目はなく、心からの尊敬が映りこむ。
「悪かったな…じゃあ、手伝ってくれ」
「喜んで!!」
二人の拳が不良を沈める。二人に護られる形となったゲン。二人の戦いを見据えながら何かが湧き上がる。
それは東西交流戦の時にも感じたモノ。あいつらは戦っている、なのになぜ自分は地面に膝をついている。
―――ふざけんなッ!!
ゆっくりと立ちあがったゲン。
そして
「オラァッ!!」
手ごろな不良を気迫の元に沈める。
「ゲン?」
「お!何だ、リタイヤしてたんじゃねえのか」
ガツンと二人と背中合わせになるゲン。
「うるせえ。元々は、俺の不甲斐なさが引き起こした事態だ。その原因の俺が何もしないなんて、俺が許せねえだけだ」
「そっか」
「いいじゃねえか」
ゲンの言葉に二人は、納得した様な表情を見せる。
「さてと、本当は俺の喧嘩だったんだが…まあ、偶にならこういうのもいいか」
「へへ」
「ふん」
「…行くぞ」
「「おう!!」」
最早結果は、語るまでもないだろう。
「はあはあ…」
「大丈夫か?」
「おう。何とかな」
「たっく、根性がねえ奴らだぜ」
数分後、辺りには不良の山が築かれていた。地面に横になるゲン。手ごろなゴミ箱に腰を下ろしている悠介。不良達を見渡しながら不満をぶつける竜兵。
「ちょっと、歩くか。竜、お前はどうする?」
「勿論、ついて行くぜ」
「そうか」
そう言って二人は、倒れているゲンに肩を貸し、広場の様な場所まで辿り着く。
そして、何を思ったか悠介はゲンを地面に下ろし、自らも地面に横になる。
「兄貴?」
いきなりの行為に竜兵は疑問の声を漏らす。
「竜…お前も横になって見な」
「おう」
若干戸惑いながらも悠介の言う通り、横になり上を見上げる竜。そこで映りこむのは、夏の夜空を彩る星たち。
「綺麗だな」
「ああ…そうだな」
「おう、俺も何かそう思う」
悠介の言葉に二人も同意する。そう言ったモノに疎いはずの竜兵ですら何かを感じている。
「今日の喧嘩…相手はダメダメだったが、楽しかったぜ。お前らはどうだ」
「何もねえよ…まあ、ちょっと楽だったけどよ」
「言われてみればって感じだな」
「そっか」
「たりめえだ」
「へへへ」
何かが起きた訳でもなく、三人は笑う。
「俺は、あの星を倒す。絶対にッ!!」
宣言。なぜしたのかは、悠介自身わかっていない。それでも確かに聞いた者が二人いる。
「兄貴ならやれるさ。んっでもって、兄貴がいるなら俺は何処までもついて行くぜ!!」
「たっく、無謀って言葉を知らねえのかよ。‥‥でもまあ、お前は危なっかしいからな、偶にならフォローしてやるよ」
二人の言葉に悠介は、石田達と同じ物を感じ
「ありがとな」
ただ一言告げた。
光る灯る街の裏で起きた、少し変わった男の友情。新たな友が、少年を強く強く前へと挑ませる。
―――祭りの開催まで、後九日
と言う訳で、悠介の友情はいかがでしたでしょうか?
後、一人ぐらいは加えたいなと思っています
良かったら、感想をお願いします