真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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最近、書きたいと思る小説が多い・・・トリコ,fate,レイヴンズ,テラフォーマー,ストブラ,ワートリ
いっその事、四月に心機一転でやってみるか?
・・・・と言う冗談?は置いといて、勝率ゼロの戦い果たして悠介はどう挑む?

今回は若干説明が多いかもしれません
例のごとく、違和感とかあったら教えて下さい


惡と礼 その2ー拳に刻みし誓いが故に―

強いと言うのは、判り切っていた。それでも理解しているのと実際に経験するでは、天と地ほどの差がある。だからこそ、知りたい。その世界の実力を。

 

 

「(だが、此処までとはな)」

 

 

単純に俺の想像の遥か上に在るって事か。と悠介は笑う。そして意識を再び黛の方に向ける。彼女は静かに佇み、此方を向いている。それは油断では無い。組み立てているのだろう。自分を倒すための算段を、相楽悠介が動きを見せない時間に。

 

これがマスタークラス

これが壁越えの世界

これが

 

「(天才たちの世界)」

 

自分では一生届かない場所の力。震える。それが何に対してなのかは解らない。恐怖かそれとも武者震いか‥もしくはその両方か。それでも悠介は震えた手で拳を作る。

恐怖がないと言えば嘘になる。だが、それ如きの理由で歩みを止める事は出来ない。

 

深く息を吐く。緊張で強張り狭まっている思考がゆっくりとだが、ほぐれていく。まだまだ通常通りとまではいが、戻りつつある。このままいけば、思考は正常に戻るだろう。

そう何も無ければ(・・・・・・)の話だが。

 

 

「‥行きます」

 

 

「チィ」

 

 

それはあくまでも悠介の事情だ。敵である黛には全くもって関係ない。鋭く地面を蹴り、突撃してくる。その姿を視界に納めた悠介は、あえて一歩前進する。

 

 

「(速さでは完全に負けてるなら、追いかけっこをする意味はねえ。その土台で戦う訳にはいかねえ)」

 

 

視ろ、しっかりと視ろ。それだけに集中すれば、見切れない事ない。

 

 

「はぁぁああああッ!!」

 

 

ほぼ自分の俄然で振るわれた刃。されど悠介は、何もできない。いや、出来る状態ではないと言うのが現状だ。悠介は視すぎた(・・・・)。それ以外を除外しして視すぎたのだ。それ故に身体が全く動かせない。動けと言う命令が脳から放たれるよりも早く刃は悠介に直撃するだろう。

 

だが、それこそが悠介の目的だった。

 

 

「(タイミングと来る場所が分かっているなら‥)」

 

 

直後、鋭き一閃が悠介に直撃する。攻撃の威力に悠介の膝が僅かに沈む。刀から伝わる感触は確かなモノだった。だが、彼女の培われてきた感は、それを否定する。

そしてその感が正しい事を示すように、悠介が行動を起こしていた。

 

 

「らあぁッ!!」

 

 

迫るのは、横腹目掛けて放たれた拳。絶対の自信を込められた一撃だが、その一撃は再び空を切る。

 

 

「(こいつ‥はじめっから、回避行動までを一連の動作に組み込んでやがるのか!!)」

 

 

「(危なかった。はじめから備えていなければ、完全に躱す事は不可能でした)」

 

 

二人は同時に敵に対する認識を新たにする。黛は単純に悠介の見せる技と度胸を。悠介は黛の持つ強さを。

実際、悠介は先ほどの攻撃を耐えきったのだ。膝を沈めたのは、拳を打ち込む為。その動作を受け切った後にすれば、必ず躱される事が分かっていたが故に、悠介はその動作を攻撃を受けたと同時に行ったのだ。

正に肉を切らせて骨を断つと言う戦法、自分のタフさに絶対の自信があるからこそ行える戦法‥だが、躱された。自分の攻撃は既に予期されていた。

 

 

「チィ」

 

 

悔しい。何処まで行っても抜けれない沼に嵌っている様で。しかし、即座に思考を戦闘に切り替える。

 

 

「(後悔も反省も全部終わってかだッ!!)」

 

 

その想いと共に悠介は再び拳を握る。

 

 

 

目の前の敵を前にして黛由紀江が感じたモノは、ただ単純な尊敬の念だった。先ほどの一撃にしてもそうだが、悠介の攻撃には鍛え磨き続けたが故の輝きがある。確かにそれは無骨としか言えないが、深く武を知る者達からすれば、その武骨さの中にどれだけの価値があるかを察する事が出来る。

 

その最たるものが、彼の拳の拳打だろう。外ではなく(うち)にダメージを与える拳、それは格上の相手を戦う事を前提としている。内への攻撃は、いくら内気功で防御力を固めても、ダメージを完全に殺すと事は出来ない。しかも内側のダメージとは残るのだ。そんな一撃を何度も喰らえば、どんな人間だって軸はブレ動きの質は落ちる。

そうなれば、彼の拳を躱すと事はさらに難しくなると言う悪循環だ。

 

全ては引き摺り下ろし、自分の土俵で戦うためのモノ。故に彼は迷わない。

 

 

(やはり、深追いは危険ですね。一撃の後の回避に重点を置かなければ、相楽先輩のタフさは私の想像よりもはるかに上です。一撃でも直撃すれば、流れを持っていかれる)

 

 

だからこそ、勝ちたいと願う。そうすれば、自分も更に上に上れると信じているから。

 

 

(凄い…だからこそ全力で戦うべき相手)

 

 

 

刀を握る手に力が籠る。その瞳は、何時ものおどおどした瞳では無い。意思を持つ戦士の瞳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に動いたのは、意外にも悠介だった。拳を握りながら黛に迫る。

 

 

「(カウンターも完全に警戒されてる…ならあの戦法の意味はほとんどねえ。攻めるしかねえか)

 

 

迫る悠介の拳を前に黛は、足を大きく開き静かに刀を横に構える。それが指すのは、真っ向勝負。

 

 

「オラァッ!」

 

「はっ!!」

 

 

ぶつかり合う拳と刃。それどその結果は、観客の誰もが想像していた結果と異なっている。確かにぶつかり合ってはいる、しかし黛は刀をほぼ振り切っているのに対し、悠介の拳はほとんど前に出ていない。しかし、悠介自身もそれが分かっていたのか、即座に次の行動を起こす。対して黛も動き出す。

 

悠介は冷静にもう片方の拳を打ち出す。狙いは、手。悠介の動作が始まると同時に動いていた黛は、後ろ脚で地面を蹴りその体勢のままに後退する。

しかし、彼女の視界に映る悠介の姿を見た瞬間、それが悪手出ると悟る。

悠介は、既に追う体勢を整えている、彼が片方の拳を打ち出す素振りを見せたのは、僅かな時間。だが、彼女は反応出来てしまう。

 

 

「(警戒を意識しすぎた‥まずい!!)」

 

 

それが悠介の狙い。先ほどのやり取りで黛は、自分の動作に過敏に反応している事を察していた。今の様なシチュエーションならば、間合いも取れかつ自分の動きを監視できる後方に下がるだろうと予測していた。

此処までは悠介のシナリオ通り、しかし問題は此処からだ。黛の下がる速度に自分が追い付けるか?

 

 

「(深く落ちる)」

 

 

悠介はその場で素早く地面に向かって体を落下させる。その行為に黛は何故そのような行為をと言う表情を見せる。ただ、何か言いようの無いモノが黛を包み込む。

 

此処でネタをばらせば、悠介は自分の速度を二つに分けている。一つは「重心による速度」と「重力による速度」 前者は近距離で使い、今回の様な場合は後者が当てはまる。

重力による落下と言うのは、存外に速い。特に力を抜いた状態ならば尚更である。その速度のままで落下すれば、大怪我とまではいかないがかなりの痛みを伴う。その為、そうなった場合、人は無意識に重心を下げたりして身体を持ちなおすが、悠介はそれをしない。

迫っていく地面、そこで更なる力を上乗せする。全筋力を使い一歩前に進む。そうすると下に向いていたベクトルを無理やり前のベクトルに変換させる。

その速度は、ほんの二メートルほどの距離ならば人の目では追う事は出来ない程に速いのだ。

 

 

「シィッ!!」

 

 

前方に倒れる様に前に進んだ悠介は、下から打ち上げる様に拳を打ち出す。速度を乗せた拳。それは恐らく威力は絶大、内面には響かなないとは言え、大ダメージは必至の一撃。

予想以上の速度で迫る攻撃を前に黛は、己の刀を自分と悠介の拳の間に差し込む。そして刀から伝わる力をうまく使い、その場を離れる。

 

 

「チィ」

 

 

今のでも届かねえのか。存外にそう告げる様な舌打ちと共に体勢を立て直す。追撃は出来ない(・・・・)。しないのではなく出来ないのだ。重力を使った速さの弱点として単発でしか使えないのと言うのと隙が大きいと言うのがある。落下を前提とする為、もう一度行うには立ち上がる必要がるし、前方のみの加速の為、それ以外が無防備になると言う欠点があるのだ‥故に連続での使用は出来ない。

 

悠介が体勢を立て直すと同じく、黛も地面に着地する。と同時、僅かに重心を倒して地面を蹴る、ダッと猛スピードで迫る。対する悠介も再び拳を握る。

横凪一閃の斬撃を横腹に直撃した悠介は、その直後に拳を放つ。どれだけ考えても彼に取れる手段は、己のタフさに任せたカウンターが一番に理想的なのだが、直後悠介の身体に再び斬撃が襲った。

 

 

「(あ?)」

 

 

更に続ける様に三撃四撃五撃‥‥合計にして十二撃の斬撃が、ほぼ一呼吸の合間に繰り出された神速の連撃。全身に襲いくる痛みをこらえ、今度こと拳を放とうとするが、既に己の視界に敵の姿はない。

 

 

「(こいつ、俺に攻めに移させない気か)」

 

 

攻撃は最強の防御と言う言葉がある。自分が攻め続ける限り、相手は防御や回避に集中して攻めに移れないと言う意味だ。そして彼女はそれを実行した。

目を凝らし、相手も動きを予測して拳を放つが、その時には彼女はいない。と思えば、別の角度から斬撃が襲いくる。

 

一撃一撃は決して耐えきれないモノではないが、受けた数が多すぎる。着々とそれは悠介から意識を奪おうとする。

 

 

「な、めんじゃねえッ!!」

 

 

咆哮に近い叫びと共に、その場から一歩前に進む。全方位からの攻撃ならば、ある程度軌道を限定するしかない。一歩前に出た事によって僅かに的が前に大きく広がった。

直後、大きな的となった脇腹に斬撃が直撃、一瞬呼吸が止まる。しかしあえて刀の方に歩を進めた、いや倒れ込むと言う表現に近い。ギチィと刃が腹に食い込む音が聞こえる、それでも止まらない。悠介の体重が刀から黛に伝わり、堪える様に彼女の足が止まる。両手で柄を握りしめ刀を壊さない様に堪える。

それは僅かな静止、だが倒れ込むように彼女に近づいている悠介には十分な時間で隙だった。

 

 

「ぉぉぉぉおおおおおおおおおッ!!」

 

 

雄叫びと共に悠介の拳が初めて黛に直撃する。ザザザッと地面に線を作りながら黛が後退する。漸く攻撃が当たったと言うのに、悠介の顔は優れない。

 

 

「(後ろに下がって威力を躱しやがった)」

 

 

拳から伝わった感触がその事実を明確に伝えている。届かないと言う想いが悠介の内から湧き上がろうとするのを無理やりに抑え込んで、もう一度拳を構えなおす。

 

 

「(あと少し‥少しなんだがな)」

 

 

対する黛は、脇腹に襲う鈍痛に僅かに顔を顰めた。完全に躱しきれなかった、内側からの痛みを堪えながら、黛はゆっくりと息を吐く。

 

 

「(まさかあんな体勢からでも内側に響かせるなんて…)」

 

 

凄い。一体どれだけ鍛錬を積んできたのだろ。尊敬の念が湧き上がる。だからこそ、黛は気がつかない。それは既に見ている視点が違う事に。

 

 

そこから先は、悠介が一方的に攻められる。彼の拳は当たらず、彼女の斬撃がだけがダメージを与えている。既に気で強化された一撃を数えるのもめんどくさくなるほどに受けている悠介だが、それでも彼は決して膝もつかず引かずに、その足で立っていた。

しかし、それも限度がある。タフとは裏を返せば、ただの我慢だ。だからこそ、限界は必ず訪れる。

 

 

「やべっ!!」

 

 

後ろから伝わった斬撃に元に裏拳を放とうとしたが、今までのダメージが膝にきたのか、転ぶ。僅かな浮遊感、その中で悠介の視界には、大きく上段の構えに近い状態で刀を構える黛の姿。不味い、あれは今のままでは受け切れない…その事を瞬時に察した悠介だが、足が宙に浮いている状態では何もできない。

 

 

「はあっ!!」

 

 

気迫と共に放たれた斬撃。悠介に避ける術も受け止めようにも防御よりも早い。つまるところ、何もできない。

 

 

「があっ!!」

 

 

ズンと重い斬撃が直撃した悠介の意識がゆっくりと沈んでいく。ドサッと地面に叩き付けられる。

いくら不屈の悠介であろうが、肝心なその意識が奪われれば起き上がる事は出来ない。

僅かな静寂が場を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈みゆく意識の中で悠介は意味の無い足掻きを行っていた。動かせるはずもない手足を必死に動かそうとしているのもそれにあたる。

 

 

(まだ、まだ終われるか‥)

 

 

あと少し、あと少しなのだ。なのにどうして足は動かない拳は握れない、なぜ意識が眠る様に霞んでいく?自問自答…それすら不可能になっていくほどに悠介の意識は霞んでいく。

薄れゆく理性、故にその声がよく聞こえ始める。

 

 

――もう十分やっただろ?

 

(‥何がだ?)

 

――天才と言う化け物に俺はよくやったよ。だからもいいだろう?

 

(‥‥‥‥‥)

 

――もう楽なっても、誰も攻めないだろ?俺はもう敗けたんだ。

 

(敗け)

 

誰だって持ってる、楽な方に逃げようとする人間らしい本能。それが悠介の理性をより沈ませる。抗う力もない悠介はゆっくりとそれに呑まれて行く。

 

(仕方‥ねえのか?)

 

僅かに漏れたのは、悠介の最後の抵抗。しかしその問いに答える者がいなければ、意味の無い抵抗だった。

そう回答者がいなければ

 

『だから貴様もおれたちに敗けるまで、誰にも敗けるな(・・・・・・・)!!たとえそれが、武神であってもだ!!』

 

(ッ!!)

 

突如脳裏に過ったのは、この地に来る前に交わした戦友(とも)達との誓い。…そうだ自分は何妥協していたんだ。敗けて仕方がない?違う、俺は何を誓った!!あの時、自分の拳に何を誓った!!

ああホント、自分の事しか見ていない…大切な誓いを忘れて妥協するなど、恥ずかしすぎるし、あいつらに顔見世できない。

 

あの誓いは、決して軽んじていい物ではない。それは自分が奴らの好敵手で居続ける為に己に掛けた誓い。その背に背負うと決めた文字とは違った意味で、自分を立たせているのだから。

 

(どうする?)

 

決まっている勝つしかない‥あの天才に。新たな核が見つかった、それ故の理由も見つかった、そして目的と手段は目の前に在る。

薄れゆく意識が完全に目覚め始めると同時、再び身体を激痛が襲う。

痛いが身体はまだ

 

――動くッ!!

 

拳を握る。それが自分の唯一の手段、そしてその果てに在るが目的なのだ。

 

――行くぜ

 

相楽悠介の意識は完全に光に浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場を包み込んだ静寂。今までの戦いを静観していた鉄心は、ゆったりと勝敗が決したことを告げるために手を上げる。それを視界に納めた黛は、刀を鞘に戻し、一度頭を小さく下げ、悠介に背を向ける。

しかし、同時に違和感を感じる。なぜ、鉄心さんは言葉を発さない?ふと視線を向ければ、何か驚いたような表情をしている。

 

(一体何が‥!!)

 

直後聞こえたのは、何かが起き上がる音。この場で起き上がる動作が必要なのは、一人しかいない。

だが、ありえない。それだけのダメージを与えてのだから。

ある意味狼狽えている黛の耳に、追撃とばかりに声が届く。

 

 

「おい、まだ終わってねえぞ」

 

 

聞こえたのは、さっきまで完全に意識を失っていたはずの敵の声。

 

 

「どうして?」

 

 

そう尋ねたのは、どうしてそこまで無理を通すのかと言う意味合いが強いだろう。その問いに悠介は迷う事無く答える。

 

 

「別に、敗けられない理由を思い出した…ただそれだけの話だ」

 

 

その拳に刻みし誓いが故に敗けられない。だからこそ、此処からは反撃の時間。

 




結構な王道パターンにしたつもりですが、いかがでしたでしょうか?
立ち上がった悠介、それど圧倒的な不利は変わらない・・それでも勝つと決めた彼の手とは?

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