真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
色々あって更新が遅れて申し訳ありません
上手くまとめられたか、若干不安もありますが楽しんでくれたら嬉しいです
果たして、クリスはどうなったのか?
聞く言葉全てが悠介の逆鱗を撫で上げる。
「そんな
ナニヲイッテンダ、コイツ?
「ああ、今からでも遅くない。そんな文字
瞬間、全ての思考が黒く染まる。本当にダメだ。自分の性格的に突っかかれる事が多い。その分そう言った事にたいする耐性も出来ていたつもりだった。
でもその侮辱だけは、未だに我慢する事が出来ない。何も知らないお前が、何でこの文字を侮辱する。
この文字を掲げたあの男の想いも覚悟も知らないくせに、何でお前はくだらないと斬り捨てる。
あの男が背負うと決めたこの文字の重さも何も知らないくせに。ああ、本当に無理だ。
お前がこの文字について語るな。あの男の人生を知らないお前が、偉そうに語るな。
悪一文字が生まれた理由を知らないお前が、悪一文字を否定するな。
考えた訳じゃなかった。ただ無意識に行動していた。考えるのは、目の前の
パアァン!と乾いた音が悠介の耳に届くと同時に、拳から感じる違和感を察する。違う!これは人を殴った時の感触では無い
これは…
「ギリギリじゃの~」
黒く染まった思考が徐々に戻って来ると悠介の視界に、自分とクリスの間にいつの間にか現れていた人物が入り込んだ。
「…ジジイ」
「はあ、今のは心臓に悪いわい」
鉄心の姿を確認した悠介は、突き出していた自分の拳を降ろす。よく周りを見てみると、唖然とするクラスメイトとクリスは驚いた故なのか、それとも恐怖からかはわからないが腰を抜かし地面に座っている。その表情は、未だに何が起きたか理解出来てない様だ。
「――――――――」
そんなクリスの姿を見た悠介は、静かに教室から出ていこうとする。
「待て」
だが、鉄心の覇気ある声がその足を止めさせる。
「悠介、お主…」
今の行為が何を意味するか分かっているか、そう言おうとした鉄心の言葉を遮って悠介が口を開く。
「ちょっと、頭を冷やしてくる」
「信じていいんじゃな?」
鉄心の問いに、悠介は間を開けて答える。
「……わかってる。全部わかってるから、頭を冷やしに行く」
悠介の言葉を聞いた鉄心は、それ以上の追及を止める。言葉の中に、鉄心が求める答えが含まれていたのだから。ならば、今は悠介の好きにさせよう。
それが、鉄心の下した決断だった。
それに自分には、他にもやらねばならない事がある。
そう思いながら鉄心は、地面に座り込むクリスと唖然とするクラスの面々に視線向ける。今は、教師として師として不出来な弟子の始末を取るとしよう。
「わりぃ」
教室からの去り際に聞こえた悠介の謝罪。何の謝罪だったかは、鉄心には何となくだが理解出来る。後悔や悔いではない。もっと別の感情から出た言葉。
十分な言葉だった。故に鉄心は自弟子の後始末をする為に動く。
悠介については、巣子心配だがあやつが居るから大丈夫だと判断する。あいつの、相楽悠介の師は自分だけではないのだから。
◆◇◆◇◆◇◆
教室室を後にした悠介は、屋上を目指して歩を進めていた。屋上の扉を開けると同時に夏場特有蒸し暑さと心地よい風が悠介を覆った。
「………」
悠介は屋上全体を見渡した後、貯水タンクがある場所に向かってゆっくりと歩いて行く。そしてそのまま、ドゴッン!と悠介は貯水タンクに頭を叩き付ける。
「ふぅー。ふぅー」
深く何度も息を吸う悠介の背後に突如として人影が現れる。現れた人影は、悠介の状態を見るとふーと呆れるように溜息を吐く。
「随分と荒れている様だな赤子よ。
物に当たるなどと言う事がどれだけ愚かで幼稚な事か知っているか?」
何処までも上から目線で見下すような言葉を悠介に向かって放つ。侮辱とも取れる言葉を聞いた悠介は、体勢を変えないまま、何処か投げ槍に言葉を返す。
「何の用だよ」
突如、背後に現れた人物に問う。いや、正体は判り切っている。自分を赤子と評すのは一人しかいない。
「なに、突然赤子の怒気を感じてな。
危険はないと思ったが、もしもがある。その為、俺が自ら確認しに来たのだ」
まるで未熟者の姿を確認しに来たとでも言うようにヒュームは悠介に告げる。普段の悠介なら喰ってかかる言葉であるが、今の悠介はそれどころではない為、噛みつかない。
「そうかい。存外に、仕事熱心なのな」
「当然だ。この俺を誰だと思っている。
では、仕事ついでに聞いてやる。赤子よ、何があった?」
「……」
誇らしげなヒュームからの問いに悠介は答えない。しかし空気が発する,何も聞くなと。
常人ならばそっとするであろうが、生憎とヒュームは常人からはかけ離れた存在だ。
「何があった?」
二度目のヒュームの問い。今度はその声音に沈黙は許さないという圧と僅かな導く者としての優しさを交える。
故に悠介は折れた。
「俺の誇りが傷つけられた」
「ふむ。それでどうした?」
「そいつを壊そうとした」
ヒュームと悠介の二人は淡々と会話を続ける。その声音に先程まで乗っていた感情は無い。あくまでも事実だけを告げ、確認していく。
「何も語らずか?」
「ああ」
「愚かだな」
ああ、あんたに言われなくてもわかっているさ。自分がした行為がどんな物だったなんて、言われるまでも無い。
「それでは赤子、貴様は己の誇りを示す事を止めたのと同じだ。
誇りを背負うならば、決して忘れてはいけない筈だ。
それは、慢心が産んだ誇りを違わせる行為だ」
諭すようなヒュームの言葉に悠介は内心で同意する。
そうだ。俺は調子に乗っていたんだ。鍋島の言葉と百代と打ち合えたと言う事実が、俺を天狗にさせた。それが自分を見失わさせた。
あの怒りはある意味正しい物なんだろう。しかしそれは、憧れているのみ有効だ。
憧れを汚されて怒るのは当然だ。
だが…
「知ってるよ」
「なに?」
誇りとするなら、それでは不十分だ。その怒りを抑えこみ、誇りを語る。
怒るのは、誇りに触れた時のみが正しい行動だ。
「でも、わかんねえんだよ。どっちが正しかったなんてよ」
あの時クリスに感じた怒りは本物だ。そして、その怒りを抑えこむと言う選択肢が自分にはなかった。どちらもある意味正しいと言える行動。
だからこそ、悠介は迷う。
どちらが自分が進む中で正しいかを考えるために。
「そうか。それ故に迷うか」
悠介の表情から、その全てを察したヒュームは、静かに悠介に近づいて行く。
「なんだ?」
「なに今、貴様の様な赤子に必要な事を俺自ら行ってやろうと思ってな」
何処か期待するような声音でそう言ってヒュームは足に力を込めるが…
「ちげぇ」
「何だと?」
「その
悠介はその行動は違うと断言する。先程までとは、全く違うその声音を聞いたヒュームは足を下ろし背を向ける。
「ふっ」
そして小さな笑みを浮かべながらその場を去る。その去り際に悠介に向かって…
「いいだろう。なれば、赤子なりケジメを見せるがいい」
発破を掛けるような言葉を告げる
「言われるまでもねーよ」
誰も居なくなった屋上でヒュームの言葉に応えるように悠介は呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆
ヒュームが去って暫らくして悠介もまた屋上から姿を消した。向かう場所はもう決まっている。
静かに決意の瞳をしながら歩く悠介の後方から懐かしの声が届く。
「此処にいたかい悠介。久しぶりだネ」
声の主に覚えがある悠介は歩を止め、声がする方を振り返り、一礼する。
「お久しぶりです。ルーさん」
「ウン。元気そうで何よりダ」
悠介の言葉を聞いたルーは、久しく見た弟子の姿に喜びに似た感情を持つ。
――――随分と強くなったネ。立ってるだけで、君の努力が見て取れるまで二
昔を懐かしむルーの耳に悠介の言葉が届く。
「あの~何か用があったんじゃないんですか?」
「いや、別段何もないヨ。強いて言うなら、弟子の顔を見に来たかナ」
「そうすっか。それじゃあ俺、ちょっと急いでいるので失礼します」
ルーの目的も達したと感じた悠介が、その場から去ろうとした瞬間
「後悔や悔いはないんだネ」
ルーから発せられた言葉が、再び悠介の足を止める。
「大体の事情は知っていル。そのうえで問うヨ。
後悔や悔いはないんだネ?」
優しくも何処か厳しさを孕んで語られたその言葉に悠介は力強く答える。
「それだけは絶対にありません」
何処まで真っ直ぐな悠介の言葉を聞いたルーは小さく笑みを浮かべる。しかし次の瞬間には導く者、相楽悠介の師としての顔を見せる。
「そうか。でも、悠介、先程の行為は間違いなく
告げるのは悠介の行為が過ちだという言葉。悠介は、何の反応もせずただルーの言葉に耳を傾けている。
「感情に呑まれた状態で武を使うのは危険ダ。
それは、昔から何度も言ってる言葉だヨ」
もしもこれが鉄心や釈迦堂の言葉なら、悠介はきっと聞く耳持たずに去っただろう。
しかし、ルーと鍋島なら話は別だ。
「武人として、まだまだ精神が未熟な証拠ダ。これからも精進しなさイ」
いつも優しく自分を見てくれる師に悠介は無意識にその言葉を口にする。
「何度も失敗して、迷惑かけるかもしれないっすよ?」
存外、これから先も自分は失敗を繰り返すと告げる。それでもいいのかと。
「構わないヨ。
君はまだ若イ。失敗も多くするだろろうからネ。今は僕らが護る時期ダ」
悠介の言葉にルーは間を置かず、当然の様に構わないと告げる。それこそが師である己の役目だと告げるのだ。
その言葉を聞いた悠介の胸の内に沸き上がるのは感謝の念のみ。
「やっぱ敵わねえな」
同時に改めて、己の師の大きさを再確認する。故にその弟子として恥じない行動をと、動き始める。
「すみませんが、俺はそろそろ
「!!。ああ、行ってきなさイ」
悠介の目を見たルーは笑顔で送り出す。ルーの言葉と共に悠介の止まっていた足を動き出す。
ルーに見送られながら悠介は目的の場所に向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆
悠介がF組の扉を開けるのとクリスが扉の前に立ったのは、ほぼ同時だった。
その為、クリスからしてみれば、急に開いた扉から悠介が現れたのだ。
「おっ!?」
「!!」
不意打ちに等しい形で改めて悠介と対面したクリスは思わず息を呑んでしまう。
「ちょうどよかったわ」
驚きで身を引いたクリスに悠介は笑みを浮かべながら近づいく。教室が再び緊張で包まれる中、悠介は静かにワッペンをクリスの目線に示す。
「何の真似だ?」
今のクリスにさっきまでの態度はない。恐らく鉄心のお蔭であろう。
その事に感謝しながら、悠介は改めてクリスを真っ直ぐ見つめて話し始める。
「俺は口下手だからな。たぶん、どう言っても俺の誇りである『悪一文字」をお前に認めさせることは出来ないだろう。
それにお前にも引けない
先程見せた怒りを感じさせず、悠介は淡々と告げていく。余りの変化に、周りは驚愕を隠せない。如何に鉄心がフォローを入れていたとしてもこの変わり様にはクリスを含めて驚きを隠せない。
しかし悠介はそんな驚愕など知らないとばかりに話を続けている。
「だから、戦おうぜ。それが一番手っ取り早いと俺は思う。
互いに譲れない誇りがぶつかった時点で、話し合いは無駄なのかもしれねえ。
引くと事出来ねえから誇り何だしよ」
「決闘で決着をつけると?」
「それが一番だろ?俺ら武人にとってはよ。まあ、決着とは違う気がするがな」
「では、何のために決闘を?」
「たぶん、
かつて一人の武人はこう評した『武人の一撃は千の言葉に勝る』。普通ならば物事の解決に力を使うのは過ちかもしれない。しかし、幸か不幸か二人は武人である。
武人が力を使う事は、何ら問題も間違いもない。
悠介の言葉を聞いたクリスの脳裏によみがえるは鉄心の言葉。『あやつ、悠介とは上からでも下から出もなく真正面からぶつかってはくれぬか。そうすればきっと悠介の全てが分かる筈じゃ』。
クリスには未だにその言葉の意味は分からない。しかし、今の悠介の目から感じるモノは決して自分が思う惡ではない。むしろ自分の信じるモノに近い気がしてならない。ならば、自分は逃げる訳にはいかない。
「いいだろう。お前の考えが間違っていると証明してやる」
クリスの言葉に教室は驚きで包まれる。その言葉で先ほど悠介はキレたのだ。緊張がクラスに奔る。先程の光景が繰り返されると思われたが…
「そうかい。なら俺は示してやるよ!
この文字の全てを俺が伝えれる限りなッ!!」
先程の姿が幻影の様に悠介は好戦的な笑みを浮かべながらクリスの言葉に応じる。180度違う悠介の対応にクリスを除いた一部以外は困惑の表情を示す。
周りを置き去りに為る形で、悠介とクリスの二人は、同時に教室の床にワッペンを重ねた。
と言う訳で、クリスを助けたのは鉄心でした。
感想では、百代や燕の意見が多かったのですが、今回の様な場合だと鉄心たちの様な大人の方が良いかなと思いました。
それとお報告なのですが、もうしばらくしたらテスト週間に入るので、次の更新も遅くなるかもしれません。
楽しみにしている皆様には申し訳ないのですがご了承下さい
良かったら、感想をお願います。