真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
二人の戦いを楽しんでくれたら嬉しいです。
燕が百代に手合せを願い出たのと同じ時間 二年F組。
悠介の登場にクラスメイト達は、興味、驚愕、怒り、無関心と言った様々な感情を悠介に向けている。
しかし、悠介はそんな視線を気にせずにクラス全体を見渡す。すると目的の人物を見つけたのか、その席の前まで歩んで話しかける。
「お前が、川神一子で間違いねえか」
「えっ!そうだけど…どうして私の名前を?」
突然自分の名前を呼ばれた一子は、自然と疑問の言葉を口する。一子の言葉を聞いた悠介は、合間入れずに一子の疑問に答える。
「ああ、よく知ってるぜ。お前の姉貴に、耳にタコが出来るほど聞かされたからな。自分の自慢の妹の話をな」
問いに答えながら思い出すは、百代とのメールや電話でのやり取り。
妹が出来たと言う報告をメールで受けて以来、メールの内容には必ずと言っていいほどに、妹の内容が添えられていた。
電話でも、自分を見つめる目が可愛いとか、私を目標にしてくれているだとか、とにかく自慢話が多かった。
それのせいで悠介は、会ってもない川神一子の事を結構な確率で理解出来ていたのだ。
「早速でわりぃが、俺と戦ってはくれねえか?」
悠介は静かに一子の机に自分のワッペンを置いた。初めて興味が湧いたのは、百代から彼女の夢を聞いた時だった。その夢はある意味自分と似てる。だからこそ、この目でこの力で確かめたい。
「俺は、お前と戦いてぇ。戦ってくれるか?」
再度問う悠介の言葉に、さっきまで止まっていた一子の時間が動き出す。次第に悠介の言葉を理解し始める。
理解して最初に沸き立った感情は、歓喜だ。自身が憧れる存在である百代と戦えるだけの存在が、自分を敵として見ている。
これほど、武術家として嬉しい事はない。一子は言葉を出すよりも早く、自分のワッペンを悠介のワッペンに重ねた。
「勿論よっ!!断る理由がないわ。
むしろこっちから、お願いしたいくらいだもの!!」
ワッペンを重ねながら一子は真っ直ぐ悠介を見ながら断言する。その目を見た悠介は、顔を上に上げながら手で顔を隠しながら笑い始める。
「な、え!どうしたの相楽君!!」
急に笑い始めた悠介にクラス全体が戸惑う中、悠介は笑い涙を拭いながら言葉を述べた。
「わりぃ、わりぃ。けど、お前は本当に百代の妹だよ」
「え?」
悠介の言葉に誰もが疑問を抱く中、悠介はさっきまでの川神一子の瞳を思い出す。
似ていた。いや、瓜二つだと言っていいだろう。
あの目は、間違いなく百代の目だ。それも戦いを我慢できない時の目だ。
血の繋がりは全くない。しかし、その魂はその意思は、確実に姉から受け継いでいる。
――――良い妹を持ったじゃねえか
百代の話が決して嘘でないと確信した悠介は、一子の目の前に手を差し出す。
「よろしくな。手加減は出来ねえから、その心算でな」
「ッ!。上等よっ!!」
何処か挑発な言葉を発しながら差し出された悠介の手を一子は、闘士の満ちた言葉と共に握り握手を交わす。
それを確認した悠介は、誰もいない空間に話しかけた。
「と言う訳だ。止めるなんて事は、言わねえよな?」
「勿論その心算じゃ」
「学園長」
悠介が話しかけた瞬間、誰もいなかった場所に鉄心が現れる。そして告げられた言葉は、悠介と一子の決闘が受理されたと言うこと。
「じゃが、朝はもう予定がある。
それ故に二人の試合は、放課後とする。双方異論はないな」
「ねえな」
「ありません」
「あい、わかった。二人の決闘を認める」
二人の急なやり取りに止まっていたF組だが、そこは楽しい事が大好きな風間を筆頭に次第に熱気を帯びていく。
クラス全体が一子と悠介に注目し盛り上がる中、大和は冷静に悠介を観察していく。
更にクリスはただ一人、睨み付けるように微かに怒りをのせながら悠介を射ぬいていた。いや正確には、鋭い目つきと逆立った黒髪から悪人面とされる悠介ではない。
睨み付けるのは、彼が川神学園の制服の上に着ている、真っ白の羽織に刺繍された「惡」の文字だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして時は進み放課後グラウンド。チラホラと帰宅しようとする生徒達が、悠介と一子の姿を見て足を止めて、二人の決闘を見守る。
「これより、川神学園決闘の儀を行う。双方前に」
「おう」
「はい」
鉄心の言葉に続くように二人が前に出る。その周りを多くのギャラリーが埋め尽くしている。
その中には、風間ファミリーの姿もクローン組もなど、多くの学園の有名人たちも見に来ている。
「うおおぉ――――!!負けんじゃねえぞ、わんこ!!」
「その糞羨ましい男に目に物見せてやれ―――!!」
「義経も応援しているぞ!!」
「一子殿――――!!。我は、貴方の勝利を信じています」
学年制別問わず多くの声援が一子に向けられてる。
「随分人気あんな」
「そうかしら?」
悠介の言葉に一子は若干照れながらも嬉しそうに答える。
「それでは、そろそろ始めるかの。双方名乗れい」
「二年F組川神一子!!」
「今日から二年F組で世話になる、相楽悠介!!」
二人が名乗り終えたと同時に…
「それでは始め!!」
鉄心が戦いの合図を告げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
鉄心が開幕を告げると同時、一子が駆け出す。
「先手必勝。はぁああ!」
長刀を構え、一気に攻勢に出る。そのまま流れを自分に引き寄せるつもりだ。
だが…
「えっ?」
「はっ!」
悠介は一子が地面を蹴るよりも僅かに速く一子に向かって突っ込んでいる。一子の武器である薙刀は長物の武器だ。その性能をフルに生かすには、どうしてもある程度の空間が必要になってくる。
しかしお互いに前に突っ込んだことで、間合いが完全に潰れてしまった。現状の間合いは一子の物でなく紛れもなく悠介の間合いだ。
「いくぜ?」
一度確認するような言葉を発すると同時に悠介は拳を振り抜く。先手を取るつもりが逆に先手を取られた一子は。
「!!。くぅううう!!」
「おっ!」
薙刀を地面につけて、棒高跳びの要領で上に回避してみせる。悠介は一子の取った軽業師顔負けな回避行動に驚きながらも攻め手を緩めない。
軸足を中心に身体を回転させその勢いを利用して次手を放つ。
「おらぁ!!」
上空にいる一子に向かって正拳突きを放つ。しかし、その拳が届くよりも早く一子も行動を起こしている。
「はあっ!」
空中で体勢を整え薙刀を悠介にぶつける事で、その勢いを利用して距離を取る。
「やるじゃねか」
距離にして三メートルほど前に落下した一子を見据えながら悠介は、簡単な賞賛の声を上げる。
対する一子には、悠介言葉に反応する余裕すらない。相手は、自分よりも遙か格上の百代と戦える実力者だ。自分がこうして立っている事自体、悠介が手を緩めてくれているからなのだろうと考えていた。
しかし、その考えはある意味正解であり、不正解だ。
「来ねえなら、こっちから行くぜ」
ある程度様子を見ていた悠介は、一子が動かない事に焦れたように彼女の元に駆けだす。ダン!と地面を強く蹴り、猛スピードで一子の元に迫る。
自分に迫る悠介の姿を確認した一子は、膝を曲げ腰を落とし薙刀を大きく振りかぶる構えを取る。完全に迎え撃つ構え。だが、悠介が攻撃を変更してもいい様に、ある程度は動けるようにしている。
一子の構えを見ても悠介は止まらない。むしろ更に地面を強く蹴真っ向から挑んで来る。
「はっ!」
「らあぁ!」
同時に一子の鋭い一振りと悠介の暴拳が放たれる。誰もが、二人の攻撃が激突すると思ったが、二人の攻撃がぶつかる直前…
「ッ!!!」
ゾクッ!と一子の身体に言いようの無い悪寒が奔る。
「え?」
それは考えた訳ではなかった。ただ身体が勝手に動いた。
重心の乗った足を基準に大きく身体を回転させ、悠介の拳との激突を回避する。
ギャラリーの誰も誰もが、一子の行為に疑問の声を上げている。
一子自身も自分の取った行動が理解出来ていない。
しかし悠介は冷静に頭を働かせる。
――――俺の拳の
ただ答えを言うならば、百代や燕と言った悠介の拳の秘密を知る者達からすれば、一子の動きは正しかったと言える。
悠介の拳と真っ向から挑める武道家は、ある意味そうはいないだろう。それが彼女たちの見解だった。
「はっ」
小さく息を吐く様な笑い。悠介から零れたそれは、場の雰囲気を一変させるに十分すぎた。その笑いは、何を意味したか判らない。確かな事は一つ。悠介のナニカを一子が刺激したのだ。
笑いの声を聞いた一子は、慌てて疑問を振り払い敵である悠介に視線を向ける。
戦いの最中に敵から視線を外すとなどもってのほかだ。
しかし、一子の思考は再び止まった。
「あっ」
似ていた。さっきまでは全然似ていなかった筈なのに、今はハッキリと重なる。
纏う雰囲気が、自分の憧れであり尊敬する人物と重なり始める。
「なに、気を抜いてやがる」
「!。ぐぅっ!!」
二度目の思考の放棄。その隙に悠介に接近され、ドン!と腹部に重い一撃を受ける。
一子は両手両足を使いどうにか勢いを止める。
ダメージに顔を歪めながら前方を向いた一子の俄然に。
「いくぞ」
拳を構えた悠介の姿が映りこむ。
その構える姿が一子の脳裏で被ってしまう。誰よりも近くで見てきたあの姿に。構えも打ち方も全く違う筈なのに、その姿は正しく…
――――
一子が防御も回避も忘れただ悠介の姿を見たと同時に、ドゴッ!と鈍い音を立てながら悠介の拳が一子に直撃する。
鋭く深く
「これが、俺の
自信満々に世界に宣言するように呟く悠介の声が確かに聞こえた。
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