真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
皆様が、納得するかはわかりませんが、一度確認して下さると嬉しいです
それともう一つ、何となく察しているかもしれませんが、暫く悠介は登場しません
川神市工場地帯。今は捨てられた工場地帯を戦場として、天神館と川神学園の生徒たちが、己の牙をぶつけ合う東西交流戦の舞台となっている。
「此度の戦、身内同士で争っていては勝てん!!」
東側、川神学園本陣。そこでは、川神学園の大将九鬼英雄が、集まった者達に向けて演説を行っている。
実際、今回二年生の主戦力となる、F組とS組は犬猿の仲で何かと争っている。その為、普通に考えて、その両者が協力し合うなど、難しい話である。
「一年生の敗北を見たであろう!!敵は、バラバラに戦って勝てるほど、甘くはない」
しかしバラバラに動いた結果がどうなったかを、一年生の試合が物語っている。だからこそ、誰もが英雄の言葉に誰もが耳を傾けている
「我らは敵同士だ!!しかし、此度は同じ敵を持つ同士である。学び舎の名を高めるか!辱めるか!選べ!お前達」
英雄の言葉を聞いた、生徒たちは静かに周りを見渡す。そこには普段から争い合う犬猿の仲といえる学友の姿。
「F組と組むのは嫌じゃが、敗けるのだけは、もっと嫌じゃ!!」
一番初めに、協力する事に賛成したのは、意外にも最もF組を嫌っている、不死川心だった。
誰よりもF組を嫌っている彼女の言葉だからこそ、その言葉が真実であると告げている。
「私達は力と体を合わせて、戦うとしましょう。ねえ、大和君」
次に話始めたのは、S組の智将とも言うべき、葵冬馬。
頭脳明晰なイケメンだ。因みに、両刀でもあり、大和が好みだとか。
「ああ、わかってる!!共同戦線だ」
冬馬の怪しい視線から、逃れながら大和は力強く頷く。
ここに、二年生たちが奇跡の団結が果たされた。
◆◇◆◇
西側、天神館本陣。こちら側は川神学園と違い、とても静かだった。
その中で石田は、静かに腰を下ろし集中している。鼓舞する必要などない。石田は、この工場地帯に入る前、メンバーを全員集めただ一言告げた。
「俺は、この戦いに誇りを掛ける」
その言葉の意味を理解できない者は、天神館にはいない。
静かに闘気を練る石田に呼応するように、周りの者も戦意を高めていく。特に西方十勇士のメンバーは、石田の闘気に触発され、無意識に自分達の闘気を練り上げ、放出している。
石田達天神館は、静かに戦が始まる時を待っていた。
◆◇◆◇
両陣営を見渡せる場所から鉄心は、両陣営を観察している。
「なかなかに、面白い戦いになりそうじゃな」
両軍の様を上から観察していた鉄心は、面白ろそうに呟く。
「おうとも、二年はつぶが多くいるからな」
そんな鉄心の言葉に、鍋島は嬉しそうに告げる自分が育ててきた者を師に評価されるのが、嬉しくてたまらないと言った表情をしている。
「それにお前さん処の大将の覚悟が、並の物ではないわい」
「まあ、石田達にとってみれば、何が何でも勝ちたい戦なんだよ」
「ふむ。ならば、西が有利と言ったところかの」
鍋島の言葉を聞いた鉄心は、冷静に自分の生徒たちが不利である事を悟る。
「俺らがこんな所で、予想を立ててもしょうがねえぜ、師よ」
「わあっとるわい」
鍋島のからかいの言葉に、鉄心は静かに開戦の狼煙を上げる。
満月が夜を照らすなか戦は始まりを告げた。
◆◇◆◇
開戦の狼煙が上がってから、すでに幾分か時が過ぎ去っている。
腕に覚えがある者達の激突。両軍負傷者が続出している。
しかし、明らかに押されているのは、東の川神学園だ。
理由としては、戦いに掛ける覚悟の差がもろに出ている。天神館の生徒たちは、石田の言葉を受けて、この戦いに並々ならぬ覚悟と決意で臨んでいるのだ。その覚悟が川神の生徒たちを圧倒する。
しかし、それでも決して倒せないわけでは無い。川神にも同じく武士の血を引く者が数多くいるのだから。
しかしそれでも押されている大きな要因はやはり、西方十勇士の存在だ。
「大友家秘伝・国崩しぃぃぃぃぃぃ!!」
大友の言葉と同時に、改造大筒が辺りに爆炎をまき散らす。その攻撃範囲に、何人もの川神学園の生徒は負傷を余儀なくされる。
「聞けい、東の軟弱ども!!此処に大友がおる限り、一歩も進めぬと知れ!!」
硝煙たなびくなか、西方十勇士の一人大友焔は、ハッキリと川神の生徒に宣言する。
大友がいる場所は、工場地帯のほぼ中央。鉄パイプが入り乱れる工場地帯において開けた場所であり、隠れる場所がない。
自分の武器と地形をうまく生かし、大友は向かってくる川神の生徒たちを沈めていく。
しかし、如何に広範囲を攻撃できるとはいえ、決して全てを護れるわけでは無い。
当然、大友の目の届かぬ場所で、何人もの生徒が先に進んでいく。
大友自身その事に気が付いているが、自分の仕事はあくまでも、広範囲の殲滅。
抜けた敵は、別の十勇士が相手どる事になっている。故に、大友は自分の仕事を全うするため、再び大筒に手をかける。
そんな大友の後方に...
「ふん。コソコソと美しくない。流石は東の蛮勇だ。せめて、美しいこの私の一撃で沈め」
西方十勇士の一人毛利元親が、国崩しの攻撃を逃れた川神の生徒に向かって、弓による攻撃を仕掛ける。
決して逃れられない三本の魔弾は、的確に敵を打ち抜いて行く。
西方十勇士の活躍により、川神学園は開始早々ピンチに陥っていた。
◆◇◆◇
「まずいな」
大和は、見晴らしの良い高台から、戦況を見てそう呟く。
「ええ、明らかに旗色が悪すぎます。このままでは、その勢いのまま敗北も在りえます」
大和の呟きに同意する様に、冬馬が現状の危険性を告げる。
「こっちも要所要所に、手練れの男達を配置してるから、どうにか攻め入られはしないが」
そう言いながら大和は、自身のファミリーのメンバーである、風間と島津の姿を思い起こす。
「やはり西方十勇士を、どうにかしない事には、こちらの勝利は見えませんね」
「ああ、仕方がない。先にカードを切るのは、参謀として情けないが」
「ええ、主戦力である彼女たちに、十勇士を任せるしかありませんね」
大和と冬馬の二人は、自分達の無力さを感じながら、本陣に控えていた、頼もしい武士娘達に連絡を入れる。
二人の判断は決して間違いではない。
しかし、武に精通していない二人には気が付けなかった。敵が一体どれほどの覚悟を持って、この戦に望んでいるかを。
その見落としは、彼ら二人の考えを狂わせていく事に、気が付かない。
祭りはまだ、始まったばかりだ。