あとやばい、キャラクターの名前を間違える。
「陣払いじゃ!! 急げー!!」
「「おおおーーー」」
翌日、顎の痛みを堪えながら起きぬけると、忙しく兵士たちが動き回っていた。
「おい! 槍はそっちじゃねえ! あっちの荷台だ」
「はい!」
「陣幕はどちらに?」
「あの荷台だ!」
「ハッ!」
ここから撤収するのだろう、兵士たちが大声で荷物をまとめている中で、実光殿が帳簿を確認しながら、作業を監督していた。
「おはようございます」
「おお! 晃助殿、昨晩は楽しかったな」
「お楽しみ下さったようで恐悦至極に存じます」
「よく眠れたかの?」
「はい、野宿を覚悟していましたが、布団の上で眠れたおかげでよく寝ました」
この言葉に嘘はないのだがそれでも十分に眠れたとは言えなかった。
昨日は本当に疲れた、いきなり戦国時代にタイムスリップするや、戦に鉢合わせ逃げた先で奇襲目的の部隊と遭遇、しもちゃんが馬鹿でよかったがそれでも緊張による疲労は凄まじかった。
(それだけでもキツイのに)
実光の質問[お勉強会?]は疲労に拍車をかけた。
どうして空が青いか? どうして日が昇ったり降りたりするか? 水はどうして地面に零れるか?
それらをあまりよくない成績の晃助が説明しようというのだ酷である。
だが実光殿の信用を買えたのは大きかった。
晃助は実光の客将という立場を得た、晃助は[客]はともかく[将]までは恐れ多くて辞退しようとしたが、
「下田業兼を捕えた功績じゃ」
と聞き入れなかった、下田家は今は落ちぶれたが、かつてはそれなりの名家だったらしく特に業兼の父親は
飛騨でも指折りの勇将だったらしい、残念ながら以前あった戦で亡くなったらしいが、その〃息子〃を捕えた功績を示さねばならぬとのこと。
手柄をあげたものには褒美を与えねば家臣が不信に思うからだ。
(
信じられないが親の功績を子に期待してしまうのは、しょうがないか、自分にもそうゆう考えがあるのだから
(父上の働きは……)
自分の父親はどうだったか、晃助は考える、よくその有能ぶりを買われ会社から様々な支社に単身赴任するように辞令を出されあまり家にいないが、家にいる間は晃助と武将や戦・城について語ってくれた。
将棋や囲碁の相手もたくさんしてくれた、あまり勝てずムキになっても笑って付き合ってくれた、一度も手加減してくれなかったが。
母上とも仲が良く酒を飲みながらよく遅くまで語らっていた。
(会社という組織や家族に信頼され、愛し愛される…………俺はあの背中に追いつけるか? ……いや追いつく、尊敬する背中は眺めるものでなく並ぶための目標なんだ。 だからなんとかして帰るぞっ!)
晃助は元の時代に帰る決意を確認するや、この考えをはじめたのは、しもちゃんがきっかけだと気づき、
思わず苦笑した。
「晃助殿」
「……っ! はい!」
「どうした?ボケっとして?」
「はっ! 何でもありません失礼しました」
「そうかのう、では早速頼まれてくれるか?」
「はっ! 何なりとお申し付けを」
客将として一応の仕事があるため、荷運びや個数の確認などを手伝い、千早勢の撤収に従った。
戦は昨日の時点で岩谷勢が退却したので実光殿は自らの城に戻るらしい。
伝令が言うには、
「もう帰っていいよ、ごくろさん」
(なにそれ? 軽っ!?)
下田の手勢はかなりの無謀であったものの、本隊の退却支援をする奇襲隊だったらしい、あんな若い将にそれほどの大役をさせるとはよほど追い込まれていたのだろう。
だが追撃に出ていた、部隊は手痛い反撃にあい壊滅的な被害を受けたらしい。
「どれほど危険であっても下田家の栄誉と復興のためには命を張った、幸い本隊は無事に逃げおおせたようだが、お役目を果たせなかったことは無念だ」
縛られながらも馬上で下田業兼はそう悔やんでいた。
(馬鹿なくせに案外芯はあるようだな……少しだけ見直してやるか)
没落した力を回復させるのは相当困難である、こいつは自分とそう変わらない歳なのにそんな重責を背負おうとしている。
(まっ頑張れや、お前のおかげで俺はこの世界でひとまずの身分を得られたからな、いい迷惑だろうが感謝してるぜ)
―――――――――――
しばらく進むと実光が、
「あれがワシの城じゃ」
と指差すが、
(っっ!?砦の間違いじゃねえか?)
ここまで歩いてきていくつか関所をかねた砦や見張り櫓と兵の宿舎があるだけの中継地点を通ってきたが、
少しだけ高い丘のような場所に屋敷を囲うように柵と呼べるような塀があり、その周りを土堀と柵で防御している。
「ほっほっほっ驚いておるな」
「あっ、いえそんなことは……」
「よいよい、わが竹山城は貧相であるが、これでよいのだ」
千早家は美濃の東の端に領地を持っているそうだ、先の戦は飛騨の岩谷家が攻めて来たので美濃北東に土地を持つ斎藤家の家臣が自分の土地を守るため応戦、その内のある武将が、
「たぶん手は足りるけど、味方の士気上げたいから援軍ちょうだい」
と、美濃東の領主たちに要請したところ、
「「「 一番近いお前が行けよ 」」」
と、実光が出陣したのだ。
(妥当な判断だな、なんかむちゃくちゃだけど)
実光は千早家についてさらに話を進める。
「千早家は本家五千国、分家二千国の合計七千国のお家である」
美濃の石高は五十五万石だと教えられたので割合的には多いほうである。
本家と分家で分けた形ではあるものの、合計石高は美濃三人衆に肩を並べられる。
「ワシは分家でのぉ~、弟の
実光は長男として生まれたが、母親が側室のため、四年後に生まれた、善基が本家として認められた。
善基殿には今年二十二歳になる長男
本家と分家は少しだけ離れた土地に領地を持ち、それぞれ茂呂城と竹山城が中心に支配をしている。
東の端とはいえ茂呂城は南寄り、竹山城は北寄りに立地する。
その為表だって侵攻を受けるのは美濃の北東と南東なので強固な城を必要としないのだ。
そんなこんな話しているうちに竹山城に入城した。
大半の兵士は村? 城下町? のような集落に帰っていった。
解散を見届けると、
「お主に会わせたい者がおる」
と城の館に連れていかれるとそこには――――――――――
「ご無事の帰還お喜び申し上げます養父上」
美濃の石高五十五万石とありますが、たしか太閤検地のあとなのでこの時代ではもう少し少ないかも、でも作者のイメージで多いほう、少ないほうといった具合で決めます。 何でもいいから、兵数を適当に決めるため数字を決めておきたいのです。