未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

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会話文が多いと字数が増えるな、なにか気になる点がございましたら、
ご意見ください。


4.駆け引き

「なっ何者だ!!」

 

(この戦場で聞くかなんだよな)

 

足軽風の格好をした男たちが森の中に僅かにあった背の高い草の茂みから出てきた。

 

(三人いや、五人!?)

 

人数が多いため晃助は迂闊な行動がとれない、すると男たちは晃助の服装を見るや、

 

「貴様、斎藤方の忍びか!?」

 

(ああ学ランは黒いから忍者だと思ったか、……オイオイいかにも怪しい[モノ]を見る目だな実際怪しいけどな)

 

足軽達は晃助の素性は勿論だが、晃助の制服を怪しんでいるような目つきだ。

中には純粋な好奇心から晃助を見ている者もいる。

 

(斎藤方?ということはここは美濃なのか?)

 

現代の岐阜県の大半は美濃と呼ばれた土地だ、ちなみに北東ちょっとは飛騨と呼ばれていた。

 

(情報を引き出すためにもはったりをカマスか、どうせこの人数を目の前にしてる時点で博打だ)

「そうさ蝮のおっさんに用か?」

 

戦国時代で一番有名な斎藤とは斎藤道三(さいとう どうさん)だろう、彼は商人の身分から美濃を治めていた土岐氏に仕えその後、主君を貶め美濃を乗っ取った[日本三大梟雄]に数えられる謀略家にして周りから付けられた異名は「蝮」である。

晃助はそれを堂々と宣言したが内心びくびくしている、斎藤と言われたので一番有名で忍者をよく使っていそうな人物の名を挙げたが、斎藤という武将は他にもいるし、歴史に名を残せなかった斎藤もいるだろうからだ。

だがそれは杞憂だった。

 

「やはりか! 我らの動きが読まれていたか!?」

 

最初の博打は当たったようで、男たちは動揺するが、その背後から馬に乗った武士が出てきた。

 

「うろたえるな、そのものを亡き者にすれば我らの奇襲は露見しない」

 

そう言うや手を挙げた、するとさらに背後から足軽が出てきた。

 

(マズイなざっと見た感じ二十・三十はいるな付け入るスキはハッタリは!?)

 

焦りがこみ上げてくるが、それが表に出ないように堂々と周りを見渡す。

 

(見つけた!)

 

この一団の指揮官は顔付きがにまだ幼さがある、恐らく初陣で功に逸って独断で兵を動かしているのだろう。

コイツが言う通り奇襲なら敵に気づかれてはいけないので少数で行動しなければならない、少数で敵に当たらなければならないので武術に優れていなければならない、将も、配下もである。

 

(なんだこの兵士は) 

 

大半の兵士は胴鎧以外まともな防具を着けていない恐らく農兵だ。

 

(そんな奴らじゃ奇襲が成功しても全滅するぞ)

 

そして何より奇襲ができるかできないかを見極めて無理なら中止する、冷静さが必要だ。

その為、奇襲部隊は戦慣れした将が指揮する。

こんな忍び一人に見つかったからと言って、鼻息を荒くしているコイツが歴戦の将とは思えなかった。

 

「オイオイ物見が俺一人な訳ねえだろ、小僧」

 

俺は相手を小ばかにしたように若い将に言ってやった。

すると案の定――――

 

「小僧ではないわ!!」

 

怒り出した、何も考えずに攻撃命令を出すかと、びくびくさせられるくらいに、本当に攻撃命令を出されたら俺の博打は終わるのでやめてほしいが、どうやら向こうもキョロキョロしているのでハッタリガ効いたのだろう。

 

「ほぉ、俺はお前の名を知らんゆえ小僧としか呼ばんぞ」

「わが名は下田業兼(しもだ なりかね)!!」

「下田ァな~りかね~? 知らんなぁお前の親父や主君の名、支配地を言えばちょっとはわかるかもな~」

「っ……父上は先の戦で討ち死にした、主君は飛騨南西部を治める岩谷業木(いわや なりもく)なり!!」

 

(いちいち怒鳴るなようるせえ、まあこの馬鹿がべらべらしゃべってくれたおかげで、状況がなんとなく分かったぞ)

 

俺はしもちゃん(下田 業兼)を煽ることにより情報を得た。

今は美濃・斎藤家と飛騨の弱小勢力の戦だということ、だがどちらが攻めているのかは不明だ。

その時―――

 

 

ガサガサ

 

 

「!?」

(!?)

 

「なっ岩谷か!?」

 

晃助の背後の茂みから兵士が出てきた。

 

(敵か……イヤ)

 

五、六人の兵士の内一人はしっかり鎧を着ている、オマケに斎藤家の旗を指している。

 

(勝負をかける!)

「よお、遅かったじゃないか」

「何者だ?」

「道三殿直参の忍びさ、お前たちがここに来たということは包囲はほぼ完成しているんだな、大将を呼んできてくれ」

「なにを言っている??」

 

斎藤の兵士は混乱しているが、下田の兵は大慌てだ。

 

「包囲だと!?、そんな馬鹿なっ!?」

「それが本当なら、わしらはここで……」

 

しもちゃん自身も配下の動揺に呑み込まれている。

 

(この通りだ大将と兵を連れてくればこいつらを捕縛できるぞ)

(なっ何を言って……)

 

晃助は旗差しの兵士に小声で援軍を促すが、この兵士は状況を理解できていない。

晃助が苛立ってきたとき一人の足軽が、

 

「わかりました」

 

と言って後方へ走って行った。

援軍が来ると確信するや―――

 

「お前たち! 大将が来るまでに武器を捨てろ! そうすれば助命をかけあってやる、うまくいけば生きて国に帰れるぞ」

 

芝居の仕上げにかかった。

[助命]、[国に帰る]、この二つを大声で強調すると足軽達はこぞって武器を捨てた。

この手の徴兵された兵士は勝ち戦なら恐怖を押し殺して大将の下知に従うが、敗色濃厚となると、

自分の命を優先させる。

そして一人が降伏や敗走に傾くと集団心理で全員が保身に走る、晃助はそこを突いたのだ。

 

(ふぅ……とりあえず命がつながったな、あとは)

 

後方から聞こえる大勢の足音を聞きながら―――

 

(どうやって斎藤に取り入るかだな)

 

 

 

 

 

 




岩谷だの下田だのオリキャラが出ました。
でも登場回数少ないかも、山田晃助は弓道部員なので刀の扱いは完全素人です。
残念なお知らせ女キャラは七話に登場します。

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