「まさか……!? なんであいつがこの時代に?」
晃助は美女に平手打ちされ口喧嘩をする少年を見てただ驚いていた。
自分がタイムスリップする前に謎の失踪した少年が、何故この世界に?
彼もタイムスリップしたと考えるのが妥当だが、いったい何をしている?
美女に対する周りの兵の態度から彼女の身分が高いと予測できるが、そんな人物と口喧嘩だと?
いったい相良良晴がどのような立場なのか分らない
そして何を言い争っているかも分からない
「なんなんだよ……いったいどうなってんだよ!?」
「晃助さまが困っている……私はどうすればーーー!?」
晃助が混乱している横で長頼はワタワタと慌てだした。
だが慌てる彼女の姿を見て晃助は。
「右、左、右、左、……ハッ!? 胸見てる場合じゃねえ!」
「え、胸? ……はぁう!?」
揺れる長頼の胸を見ることで考えを原始的(欲求)に堕とすことで、頭を冷やすことに成功した。
長頼も自分の醜態に気づき顔を真っ赤にしたが落ち着いた。
晃助は状況を並べることにした。
相良良晴は斎藤道三と同じ筏に乗って、義龍の追撃軍から逃げていた。
織田軍が来て義龍軍を追い払い、良晴と道三を保護した。
織田軍の身分の高そうな美女と良晴が口喧嘩を始める。
全て推測だが
あの美女は織田信奈その人である、周りの兵の態度がそれを証明している。
そして良晴は織田家でそれなりの身分を持っている、そうでなければ主君と口喧嘩する無礼者を捕える者がいないのはありえないだろう。
良晴がそんな地位を得るには戦国時代に詳しい可能性がある、つまり先の展開が晃助と同様にわかるのだろう、現代の良晴は勉強も運動もパッとしない成績だった。ドッジボールの球避けがうまくても戦で役に立つはずがない、ならば戦国オタクというあまり周りに知られない特徴があったかもしれない、晃助自身も友人にあまり歴史好きなことを言っていなかった。
もしかしたら、自分と同じく実光のような理解ある人物に引き立てられた可能性もあるが、経緯はどうであれ織田家に仕えていることは間違いなさそうだ。
喧嘩の理由だがこればかりは近くで聞かないと分からない、道三を救うこと事態を怒られているのかもしれないし、もしくはその方法を怒られているのかもしれない、はたまた関係のないことを怒られているのかもしれない。
織田本陣に早馬が来てから、全軍が撤退し始めた。
晃助はとにかく追いかけることにした。
「行くぞ彦! いつまでもボケっとするな」
「は……はい!」
まだ頬が赤い長頼と共に清州へ向かった。
清州城下――――――――――
関所があったが門番に。
「斎藤道三の家臣です。通してください」
これだけで通過できた。
ザルだなと思ったが、考えてみれば織田信奈は斎藤道三を保護・救出したので、その家臣も保護するつもりなのだろう、案内役がいるが、万が一義龍の配下であった場合に取り押さえるつもりなのだろう。
「なぁ、相良良晴を知っているか?」
「知ってるみゃあ」
「どんな技を使ったか分からんが、三千貫の元手で三万石の米を買って来て姫様を驚かせたみゃあ」
「おかげで、近隣の米商人が米を高く買ってくれたとおっかあが言ってたみゃ」
その時の話は晃助は驚いた。
恐らく良晴は[太閤立志伝説]にあるような特産品の売買をしたのかもしれないが、よくそんな金が稼げたなと思い。
三万石も買ってしまったら、城下の人々の食べる分も取り上げかねないが、どうやら米屋が農民から追加であるが高い値段で米を買ったり、周辺の国に問い合わせたりして何とかしたらしい。
そんな話をしている内に慌ただしい清州城に着いた。
今川軍が上洛の軍を起こしたらしい、先ほどの早馬はそれを知らせたのだろう。
斎藤道三は負傷しているようだが、屋敷まで上げてもらえた。
そこには斎藤道三が布団の上で横たわっていた。
「うぅー……お、お主らが来たか?」
「道三殿!? 負傷したと聞きましたが、御加減は?」
「ぎっくり腰じゃ、おかげであまり知恵が回らん」
(あの激戦だから深手を負ったかと思いきや、ぎっくり腰かよ!? すげぇのか間抜けなのか分らんぞ)
晃助は呆れると同時に、安堵した。
ぎっくり腰でロクに動けないなら自分の手で道三を暗殺することができる、面会も簡単にできそうだから、これならば先に良晴と接触したほうがよいと判断した。
「何故この老いぼれを追って来た? 実光殿は?」
「我らは斎藤義龍と敵対しました」
「なんと!?」
晃助は道三に経緯を説明した。
長頼は気を利かせたのか黙っている。
いや、表情を見たところ話が難しくてついてこれないようだ。
一体どこまで馬鹿なのか?
「むぅ、命令の内容をもっと考えるべきじゃった」
「いいえ、蜂屋軍が出陣した時点でこうなることは必定だったかもしれません」
「そうじゃな、ワシも老いたわ、そこまで読み切れなんだ」
「ところで道三殿はなぜ徹底抗戦から亡命へと考えを変えたのですか?」
晃助は道三のとった行動の違和感を本人に尋ねた。
「おう、それは坊主に説得されてのう」
「坊主?」
「お主もそうらしいが、未来から来たと言う相良良晴のことよ」
(やはりか!)
「あの坊主は主君思いでのう、決死隊となってワシを救いに来たのじゃ。ワシは逃げる気はないと言うとあやつは、その場に座り込んだのじゃ。若い命を無為にできんからの」
「その相良良晴はどちらに?」
「会いに行くのか?」
「……はい」
「まぁ、当然気になるじゃろうな。あやつは信奈ちゃんに暇を出せれて今は自分の長屋におるかのう」
「暇を出せれたって解雇されたのですか? どうして?」
「それは信奈ちゃんの考えじゃ、ワシには分からん」
道三は意味ありげに笑っている、晃助には教える気は無いというらしいが、どうでもよかった。
晃助は道三に別れの挨拶を告げ、良晴が住む長屋を門番から聞きそちらに向かった。
うこぎ長屋――――――――――
おんぼろの長屋でなぜか生垣がない、いや、あるにはあるのだが、葉がない。
(病気か? いや違う、もともと葉があったのを人為的にむしった感じだ。何のために?)
ともかく晃助は声をかけた。
「ここか? おい誰かいないか?」
「なんだ、お客さん……や、山田!?」
「やはり見間違いじゃなかったようだな」
「どうしてここに!?」
「お互い様だ、とりあえず互いに経緯を話そう」
突然の訪問に良晴は驚いていたが、家に上げてもらいこの世界に来たお互いの経緯を話し合った。
長頼には申し訳ないが席を外して貰った。
晃助は自分の経緯から話し始めたが、晃助と同じく歴史好きだった良晴も千早家について知らなかった。
「なっ!? 豊臣秀吉が死んだだと!? それじゃすでに歴史が狂ってるじゃねえか!」
「ああ、だから藤吉郎のおっさんの役割を俺が担うのかもしれない」
「馬鹿か! お前にそんなことはできない!」
「そうかもしれないけど! 豊臣秀吉がいなきゃ信奈の天下統一の夢が叶わないだろうが!」
晃助が声を荒げたのは良晴がこの時代に来た時の話をされた時だ。
戦場をさまよう良晴を助け、そして流れ弾に当たり亡くなった足軽が木下藤吉郎と名乗ったことだ。
良晴の考えを聞いて疑問が浮かび、良晴の不可解な行動について質問した。
「……ならば斎藤道三を助けた理由はなんだ!?」
「それは信奈が『自分が好きになって頼りにした人は、みんな死ぬ』って俺に弱みを見せたからだ! あんな顔を俺は見たくなかったからだ!」
良晴の発言に晃助は激昂し良晴の胸倉を掴んだ。
「相良!! そんな理由で歴史を狂わせたのか!?」
「……っ、俺はお家騒動があった晩に信奈の夢を叶えてやるって誓ったんだ! だからあいつの望みを叶えようと……」
「ちょっと待て、お家騒動とは織田信勝の謀反か?」
「そうだ、けど信奈は弟を切らずに許した。今は改名して分家の津田信澄と名乗っている」
「はあああ!? おいおい、息子の名前じゃないか!? ……まさかそれもお前が?」
「そうだ! あのまま信澄を切らせていたら、信奈は親しい人物を切って切って切りまくる魔王人生一直線だ。この判断は間違ってねえ!」
良晴は晃助の腕を振りほどくと自分のとった行動を自信満々に宣言した。
晃助は。
(そんな!? 死ぬ必要のない秀吉が死に、死ぬべき信勝と道三が生き残るだと!? 計画に狂いが生じてしまうのでは?)
晃助は計画が揺らぎだしたことから、体から力が抜けた。
「……お前は未来に帰りたくないのか?」
「帰りたいよ、けど方法が分かるまで信奈の夢を手伝うことにしたんだ。山田……いや、晃助はどうしていくんだ?」
「俺だって帰りたいさ、だがお前と同じく帰る方法が分からん。とにかくこの時代をなんとか生き抜いてそれから……それからは考えてない、とにかく生き抜くために自分の知識を生かせるように史実の通りに時流をコントロールしようとした。だけど知らないうちにこうも狂っているとはな……」
晃助は力なく笑う。
「気持ちはなんとなくわかるよ境遇が同じだからな、俺はこの時代に本来いなかったから、死んでもともと、それなら信奈の夢を手伝いたいと思ったんだ。あいつの考えは先を行き過ぎて誰も理解して貰えない。だけど俺なら、未来人なら理解してやれる。なあ晃助も一緒に信奈を支えないか?」
良晴が晃助に手を差し伸べて来た。
晃助は揺れていた。
自分が先を読めるように史実の通りに歴史を進める自分の計画か、
良晴と共に織田信奈を支えていくか。
どの道、未来へ帰る方法が分からないからやることだ。
ならば良晴の提案に乗るのも悪くないが。
(
晃助は良晴・信澄・道三を殺し、自分の計画を進めようと考え刀に手をかけるが。
「―――――っ!?」
頭に何かが響いた。
一部の有名武将が性別逆転している、これは修正のしようの無い狂いでは?
死ぬべき時に死ななかった者をこの時に殺せば、それはそれで狂いでは?
良晴を殺したところで彼の言う通り、[本来いなかった者]つまり晃助の存在が歴史の流れに干渉してしまうのでは?
突然そんな考えが次々と浮かんできた。
まるで自分の中に自分の計画を
晃助はこれらの考えを数秒悩み回答を出した。
「今は織田に仕官できん。美濃には大事な
「じゃあ!?」
晃助は大きく頷くと、良晴の手を取り決意と共に今後の行動を良晴に告げた。
「恐らくこれから桶狭間だろう、信長公の有名な戦だがそれは危機的な状況からの勝利だからだ。見事生き抜け! いや、勝ち抜けよ! その後でお姫さん連れて美濃に来い。それまで義龍の気を逸らしてやる」
「おう! 頼むぜ晃助!」
(コイツは俺以上に馬鹿かもしれんが、大切な人の夢を叶えようと、悲しい顔を見たくないからと死地に踏み込める、ある意味大物だ。ならば俺もあらゆる手を使って家族を守ろう。フフッ、もしかして俺は誑し込まれたのか? だとしたら秀吉の才能があるかもな)
未来へ帰ることを諦めるつもりはないが、良晴は信奈の夢を叶えることを目標にするなら晃助はこの時代の家族を守ることを目標にした。
斎藤義龍の機嫌を窺うようなマネをしても美濃はいずれ織田家のモノになる。
史実に従うつもりでも長良川と桶狭間が同時期に起きてしまったのだから、織田家の美濃攻略を早めてもいいだろうと晃助は方針を改めた。
「そういや、いつの間にか名前で呼ばれていたな」
「ああ、だって今は千早晃助なんだろ? 紛らわしいから名前で呼ぶことにしたんだけど駄目か?」
「いいやそれでいい、こちらも良晴と名前で呼ばせてもらう」
「いいぜ! へへっ本当なら学校でやるべきなんだろうな」
「いいじゃないか、友達になるのに場所は関係ないだろ?」
「それもそうだな」
二人は同じ高校の同級生から友達になった。
晃助は肝心なことを思い出し聞いてみた。
「そういえばお前さっき信奈のためにとか言っていたけど、クビにされたんじゃないか?」
そうだ、良晴が織田家から放逐されていると美濃侵攻の際に援軍が期待できない。
これではさっきカッコよく? キメたことが台無しになる。
「関係ない、俺は一人になってもあいつのために戦う、そしてこの戦で手柄を立てて帰参するんだ」
晃助は良晴の信念を感じとった、考えているならそれでいいと思ったが、良晴は続けた。
「信奈の奴は素直じゃなくてな、勝ち目の薄いこの戦に俺を逃がそうとクビにしたんだよ」
「へぇ、可愛いな」
「だろ! あっでも、惚れてる訳じゃないからな!」
晃助は信奈の考えと良晴の反応をからかうよう笑うと良晴が抗議してきた。
「わかったよ、そういうことにしておくよ」
「なんだよ、そういうことって」
「いやなに、それにしても現代で彼女ができなかったから、せめてこの世界では欲しいよな」
「へっへっへっ、俺には野望があるぜ、手柄をあげまくってモテモテハーレムになるんだ!」
「いいなそれ! 俺も目指そうかな!」
「「 ははは 」」
二人は笑いあった後、良晴は桶狭間へ今川軍本隊の所在を確認しに、晃助は義龍の討伐軍が迫るであろう竹山城にそれぞれ出立した。
今までずっと蚊帳の外にされていた長頼が頬を膨らませて晃助に尋ねる。
「晃助さま! 結局尾張には何のために来たのですか?」
「道三殿の無事を確かめるためと、これからの方針を決めるためだ」
「方針とは?」
「プランD 所謂危機だ」
「夫乱? 危機? わああぁ!? どうしたらいいんですか!?」
「落ち着け! 何とかするから!」
「うー、信じてますからね晃助さま!」
(プランD 道三を救い織田の美濃侵攻を手助けする。史実では織田による美濃攻略は長い時をかけた。 それまで耐えきれるかは正直自信がないが、ここまで来たんだやるさ!)
夜空を仰ぎながら尾張の関所を越え竹山城に馬を走らせた。
美濃動乱において千早家を守る四つのプラン
プランA 道三を攻撃する
これから美濃の国主になる義龍のもとで平穏に生きるなら最善策
プランB 中立を保つ
実光の事を考えると無難な策、姉小路との同盟窓口になったのも動乱後の斎藤家の立場を安泰にする為の手段
(姉小路は小さくとも隣国なので軍事・政治の両面で付き合いは必要。 交渉ごとはお互いに同一人物同士で行う方が両勢力の意見の食い違いを防げる)
プランC 道三を一度救出するが暗殺
もし実光を諌められず出陣された場合の策、道三の首を直接取らないと義龍に信用されないので戦闘力の低い晃助にとって最も困難な博打プラン。
(成功しても最初から参陣した訳ではないので、忠誠心を疑われる)
プランD 道三を救い織田家に味方する
上記三つのプランが失敗した場合の最後の策、歴史に大きく干渉するプランなので晃助は何としても回避したいが、千早家を守ることを考えると必要なプラン。
晃助は自分を拾ってくれた千早家という家族に深く入れ込んでいます。
次回は竹山城にて