未来人の選択   作:ホワイト・フラッグ

14 / 48
本格的に登場させるのは先ですが、とりあえずの紹介を二話分ほどです。


14.第四の未来人勢力

それは晃助が竹山城に初めて訪れたぐらいの話である。

赤髪の少女、大村真喜(おおむら まき)は見知らぬ街にいた。

 

「どこ、ここ?」

 

自分は確か高校から家に帰る途中の電車で居眠りしていたはずだ。

電車から降りた覚えがないのに、街の椅子に座っている。

意味が分からないので隣の友人を起こす。

 

「透子! 透子! 起きて!」

「……うん……どうしたの? 真紀ちゃん?」

「周りを見て」

「う~ん……え? なにここ?」

 

頭のいい友人遠野宮透子(えんのみや とおこ)でもこの状況が分からないらしい。

 

「なんだか戦国時代の街並みに見えるけど、近所にこんなところあったかな?」

「いいやないよ、ウチらは電車で寝ていたけど、降りた覚えがないわ」

「……どうしよう」

「どうしようもないよね」

 

じっとしていても何も変わらないので、カバンを持ち上げ歩き回ることになった。

透子が言うには街並みや人々の服装が戦国時代の物に近いらしい、映画村のようなセットかと思ったが。

町民の声を聴くと。

 

 

「戦ばかりで大変やの」

「ホンマ困りますわ、満足に商いができまヘン」

「将軍家の権威も全然ありまへんからな」

「まぁ、戦があるから銭も回るのも事実でまんがな」

「せやな、そう考えてみたら悪いことばっかじゃないやん」

「「 ははは 」」

 

「あの人達の会話が本当なら、私たち戦国時代にいるよ……」

「本当ならね、でも戦が周りで起きてないから信憑性がな……」

「真喜ちゃん! それって戦を見たいってこと?」

「でも手っ取り早い証拠じゃん」

「そうだけど……」

 

そんな話をしていると、刀を差した侍に子供がぶつかった。 

侍は刀を抜き切り捨てようとするが、父親がやって来て許しを乞うていた。

 

「無礼者!」

「お侍さま申し訳ありません、どうかお許しをっ」

「許さん! 貴様も成敗してくれる!」

「ぎゃあああ!」

「父ちゃん!?」

「「 !? 」」

 

演技かと思いきや本当に切ったのだ。

腕を切られた男は、大量の血を流し苦悶の声を上げている。

子供は父親をかばうように立ちはだかるが、侍は笑いながら刀を振り上げる。

どうやら侍は酒に酔って暴れているようだ。

それを見た真喜は透子が止める間もなく飛び出した。

 

「あんた! 何やってんだ!!」

「なんじゃ? 南蛮人か? 引っ込んでろ!」

「誰だろうが関係ない! ただぶつかっただけじゃないか切ることないだろう!?」

「何を!? 女のくせにやかましい! 貴様も切ってやる!」

「真喜ちゃん!」

 

侍は真喜に向かって刀を振り下ろしたが、真喜はそれを大きく飛びのいて避けた。

そして近くにあった棒切れで侍に挑むが、棒切れは切られてしまった。

その後も、侍の攻撃を避けて避けて避けまくるが、壁際に追い込まれてしまった。

 

「ふん! すばしっこいがもう終わりだ! 死ね!」

「くっ!」

 

真喜は覚悟を決めた。

 

「おぉぉ!」

「ぬう!?」

 

刀が振り下ろされるより早く侍の懐に入り、そのまま腰に抱き付いて押し倒したのだ。

これなら刀は有効に使えない後は、クラスの男子と喧嘩するように殴り合って勝てばよいが。

 

「こっ、こしゃくな!」

「うぐっ!?」

 

クラスの男子と比べると体格や力が相手の方が上だ、もがき合っているうちにマウントを変えられた。

それでも諦めず真喜は相手を殴るが。

 

(ダメだ、力押しで負ける!)

「手こずらせおって! 死ねぇ!」

(っ!? やられる!?)

 

侍は刀を拾い上げ真喜に振り下ろそうとするが、その腕にしがみつく者がいた。

 

「……っ! やめてぇ!」

「透子!?」

「やめろー!」

 

透子が腕に、ぶつかった子供が胴にそれぞれしがみつかれ、侍は刀を振り下ろすことができないでいた。

だがやはり、体格の問題で二人も振りほどかれそうだ。

そこへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダーン!

 

 

 

「「「 !? 」」」

「ぎゃあああ! 腕がっ腕がぁぁぁ!」

 

侍の左腕から大量の血がまき散らされた。

今のは鉄砲の音だがその方向を見ると。

 

テンガロンハットをかぶった男が鉄砲から出る煙を吹きながら近づいてきた。

距離にして五十間(90メートル)ほど、鉄砲の有効射程距離は通常八十三間(150メートル)なので距離は問題ないだろうが、組み合って暴れている四人(真喜は寝ていたが)の内一人をしかも殺さないように狙うなど相当な腕である。

 

「俺達の縄張りで狼藉しやがって、おい立てるか?」

「あ……はい」

「おい! この野郎を連れていけ! それからあの男にすぐ手当てを」

「「「 了解! 」」」

 

テンガロンハットの男が後ろに連れていた、三人の部下に指示を出す。

部下の二人は腕を撃たれた侍を引きずるように連れて行った。

もう一人は切られた父親の腕に手早く薬草を塗ると布で止血し始めた。

心配そうに父親を見る子供に男は。

 

「大丈夫だ、あのくらいの怪我なら死ぬことはない、今後の治療費は俺が払ってやるから安心しな」

「……それ本当?」

「ああ、坊主の勇気ある行動に対価を払ってやる」

「ありがとう、おにいちゃん」

 

男は子供の頭をなでながらそう言った。

応急処置が済んだところで、父親と子供はお礼を言いながら去って行った。

 

「さて、お嬢さんたちも大変だったな」

「あ……いえ」

「た、助けてくれてありがとうございます」

「南蛮から来たのかい? しかし堺や京ならわかるが何故紀州に?」

「ここは、紀州なのですか?」

「そうだが、まさか道に迷ったのか?」

「ええと……」

 

透子がどう説明したものかと言葉を選んでいると。

 

「道どころか時代を迷っている」

「真喜ちゃん!?」

 

真喜は正直すぎるほど、自分たちの状況を言った。

戦国時代の人に 『時代に迷いました』 なんて言っても通じるはずがないのに。

 

「さっきのリアルな血を見たでしょう? それにこの人の火縄銃も、ここは戦国時代だよ」

「そうかもしれないけど……」

「込み入った話みたいだな、よかったら俺の屋敷に来て話してみないか? 狼藉物を捕えた礼もかねて休んで行けよ」

 

男の提案に真喜と透子は彼の好意に甘えることにした。

 

「そういえば名乗っていなかったな俺は土橋守重(つちはし もりしげ)って名だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

土橋の屋敷に着くと一人の女が門の前で待っていた。

 

「こんなところで何をしている重治?」

「お待ちしておりました大佐!」

「おい今は仕事をしていないぞ、楽にしろよ」

「……すいません兄上、つい」

 

歴史に詳しい透子が教えてくれたが、戦国時代で紀州は雑賀衆と呼ばれる複数の豪族が協同体として土地を治めていたので、戦国大名はいないという。

土橋家はその中でも鈴木家の次に有力な豪族らしい。

土橋守重は石山合戦・紀州征伐で最後まで織田信長に抵抗した人物で、目の前にいる土橋重治(つちはし しげはる)はその弟で彼も最後まで信長・秀吉に抗ったそうだ。

 

「だけど女の子だよ?」

「うん、なんでだろうね?」

 

土橋重治は頭にバンダナを巻いた女の子だった。

二人はこの問題を保留とした。

 

「兄上、母上が呼んでいる」

「わかった後で行くと伝えてくれ」

「いや、客人と一緒に今来てくれとさ」

「「「 !? 」」」

 

真喜と透子は困惑した、なぜ自分たちも? なによりなぜ自分たちがいることを知っている?

重治の案内のもと謁見の間に向かう途中で守重がおしえてくれた。

 

「ババアは歳のせいで動き回ることは出来ないが、配下に屋敷の周辺を見張らせているんだよ」

「それでウチらが来たことがわかったのね?」

「でもどうして私達まで呼ばれたのかな?」

「ババアには不思議な力がある」

「「 不思議な力!? 」」

 

二人とも驚くが特に透子は真喜より驚いていた。

 

「俺もよく分からん天の声がどうこうな、耄碌してるのかもな?」

「兄上、滅多なことを……」

「ははは、耄碌は冗談だけどよ、妖怪なのは確かだろう?」

「……」

「とにかく呼ばれたとしたらソレ関連かもな? 他に声をかけるとしたら、家業のことだからな」

 

二人はよく分からないが、謁見の間に連れてこられた。

 

「みな、座られよ」

 

(すだれ)が邪魔で姿がよく分からないが、小柄な影から老婆の声が聞こえた。

 

土橋重隆(つちはし しげたか)じゃ、よくぞ参られた未来人よ」

「「 !? 」」

 

この時代に来てから驚きっぱなしだが、自分たちの正体を言い当てられるとは思わなかった。

 

「未来人とは何です母上?」

「そのままの意味よ、未来から来た者じゃ」

「ババア、わかるように説明してくれよ」

「本人たちの口から語られる方がよかろう」

 

真喜はあまり博識でないので透子が主に話してくれた。

自分たちが暮らしていた時代を、そこで学んだ知識を、透子はあるゲームにはまって船や大砲の設計図を調べていたこともあり、カバンの中の資料を使いながら土橋兄妹に未来の知識について説明した。

一刻(二時間)ほど時間をかけたが、兄妹はあまり理解できなかったが。

 

「どうしてやって来たかなどがわからないんじゃ、ちょっと信用ならないな」

「だが重治、この設計図を使って船や大砲を作る価値はあるぞ」

「そうですね、透子殿この資料を借りてもよいか?」

「はい、どうぞ」

 

透子は趣味の延長線で調べていたので構わなかった。なによりアレを作ることができたら嫌でも未来の技術を認めるだろうから。

それまで黙ってた、重隆が口を開いた。

 

「大村真喜は私の養子とし土橋の性を許す、同時に傭兵をする為に少佐の階級を与える。遠野宮透子には真喜の部隊で曹長を名乗れ」

「はぁ!? ババアなに言ってやがる」

「兄上!? 落ち着いてください」

「確かに左官が増えれば、傭兵稼業も幅広くできるが、そのための人事管理が大変なんだぞ! その苦労を俺がするんだぞ! 分かっていて言ってんのか!?」

 

さすがにこの宣言は兄妹も驚いたようで、守重は(すだれ)蹴破る(けやぶる)勢いだ、それをなんとか重治が抑えているが

 

「これで[五色]が揃った。私が二人にしてやれることはここまでだろう、後は己の手で道を切り開き生き抜くのじゃ」

「なにを訳のわからんこと並べてやがる! 俺の質問に答えろこのババアぁぁぁ!!」

「兄上落ち着いてぇぇぇ」

 

重治の絶叫を最後に謁見はお開きとなった。

 

 




ということで二人は雑賀衆:土橋家にご厄介になります。
傭兵なので登場させる戦場は土地に縛られませんね(笑)

オリジナル未来人はこれまでの四人だけです、もう増やしませんのでご安心を、えっ? もうすでに多い? 作者も僅かに感じてることですが、[奴ら]にはこれだけ必要なのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。