雪舞う白銀の世界。
雪に煙る中、異形の影が一つ。
その影は四つ腕の阿修羅にも見えた。
頭は細長く、その中ほどから短い腕が二本、その後ろには六つの氷の結晶が浮かんでいる。
その首より下は普通の人間らしい形をしており、巨大な斧を両手に持ち、眼前の木に振りかざしている。
そして、その斧は……巨人の石斧は振るわれた。
一切の抵抗なく振るわれた斧は木の一部を消し飛ばし、達磨落としの如く切断面が切断面に着地した音だけが響く。
切断された分だけ背を縮めた木を、影は蹴り飛ばす。
バランスを崩した木は一瞬の間を以て、しなりながら倒れた。
おー、と細長い頭から声が漏れる。
「おっちゃんすげぇな!
ねえねえ、今度大ちゃんにも見せたいからまたやってな!」
斧を片手で持ち直し、頬を掻きながら影は……騎士はこの吹雪の中出会い、なし崩しに肩車している氷精、チルノを見上げる。
切り落とした木から枝を切り離し、皮を剥がして、一本の丸裸の丸太に仕立て、ソウルへとしまい込む。
すげー、と声を上げるチルノの声を聞き流しながら、ふむ、と顎へと手を当てる。
もう少し、薪を確保しておくべきか。
騎士は頷くと、歩き出す。
歩き、歩き、頭上のチルノの声を聞き流し。
歩き、歩き、香霖堂を通り過ぎ。
魔法の森へと入ろうとした時に、思い出してふと振り返る。
魔法の森の入り口、そのすぐ近くに生えている桜の木を。
その桜は、桜の花弁の代わりに雪を湛えていた。
暦はとうに立春を超えた頃。
だというのに、雪は未だうずたかく積もっている。
まごうことなく、異変だった。
暖炉の中の薪が弾ける。
「へへへ、自分自身のカリスマっぷりに恐怖すら覚えるぜ……。
風邪引いて布団で寝てたら世話する侍女が自分から来るんだからな!」
「は?
あんたの侍女になるくらいなら幻想郷の住民全員惨殺する方を選ぶわ。
……はい、お粥」
っくち、と。
ほぼド素人の癖して妹様とやりあった度胸だけは大妖怪級魔法使い(自称)の、存外可愛らしいくしゃみを聞きながら十六夜咲夜はお粥を差し出す。
「……えーと、その、なんだ。
一応風邪引いてる病人な訳よ、私。
だからこう……そのな、寝てる腹にお粥を置かれても食えないというかあっほんのり温かくなってきた熱い熱い熱いからヘルプ」
「あらそう、御免遊ばせ」
「そうそう私に食わせてくれればって止めろ止めろ匙で取ってくれそうそうそれで良くない頭上で傾けるなお粥が落ちてくる止めろ馬鹿」
っち、と。
煌びやかな外見と裏腹に凄まじく性格の悪い侍女が舌打ちをしながら匙に粥を掬い取って差し出す様を見て、安堵しながら魔理沙は粥を食べる。
「……有難うよ」
「気にする事はないわ、これも仕事をする上で必要な事ですもの」
「へぇ、私を看病する事がか?」
粥を食べ終わり、食事の後始末をしている咲夜の後ろ姿に魔理沙は話しかける。
「……私を看病した理由、当ててやろうか?
この異変を解決する為に私の協力が必要だから、だろ?」
「無能ここに極まれりね。
脳味噌茹ってるとは思ったけれど沸騰していたとは思ってもみなかったわ。
あなたの額に薬缶置いてもいいかしら?
すぐに沸かせると思うの」
「いくら何でも辛辣すぎない?」
「いいえ?
私ほど慈悲深い人間なんてそういないと自負しておりますわ。
なので答え合わせだけはしてあげましょう」
そういって洗い物を済ませた咲夜は、魔理沙に向き直る。
一つの地図を手に持ちながら。
彼女は、とても綺麗な微笑みを浮かべていた。
「あっ、てめぇそれ!」
「ええそうね、あなたの成果にして風邪を引いた原因でもある"異変の原因がどこにあるか虱潰しに探し回った情報が記載してある地図"ね。
まあ、当たりには辿り着けなかったようだけれど……間違いが分かっているだけ時間の短縮にはなるとは思わない?」
にっこり、と。
飛び去る咲夜の姿を見やりつつ。
やっぱ悪魔の従者なんだなぁ、と魔理沙はしみじみ思うのだった。
「返しやがれ、馬鹿野郎ぉー……」
銀の中に銀があった。
吹雪の中を、一つの影が飛んでいる。
白魚、というにはいささか寒さに火照らせた肢体を、青を基調とした侍女服で身を包み。
寒色で統一された中に一つだけ、真っ赤なマフラーをたなびかせる彼女こそは紅魔館メイド長、十六夜咲夜である。
ふぅ、と白い息を吐き。
彼女は懐から地図を取り出す。
その地図には幾つか×印が記されている。
「異変解決、とは言っても。
異変を起こしているのが誰だか解らない事には……どうしようもないわね」
咲夜は自らの主の命によって異変解決を余儀なくされていた。
侍女たるもの主の命に不満など言うはずも無いし、どんな無理難題であろうと命に代えても成し遂げても見せる。
だがそれはそれとして、この命に関しては不満ではあった。
そもそも、咲夜は侍女である。
であればその名に相応しく、傍に侍り身の回り一切の世話をする事こそが至上の幸福であった。
……まあ、そのお世話には主を温める暖炉が傍らにある、というのもその幸福の一片を担っていなくもないが。
吹雪く、吹雪く。
地図の×印の間を縫うように飛んでいく。
……ふと。
気が付けば、吹雪は止んでいた。
「……ここは?」
青々と地には草花が生える。
さあ、と音もなく風が吹き、そしてまた音もなく木々が揺れる。
その木々たちが指し示すかのように、風の吹く先には一軒の茅葺屋根をした家がある。
「へぇ……こんな所あったのね」
曲り家。
そう呼ばれる建築様式であるそれを、咲夜は知る由もない。
「……まあ、怪しい事には違いないわね」
その家に向かって咲夜は飛ぶ。
「……ん?」
……ゃあ。
……にゃあ。
「猫?」
風ですら音を立てないこの不可思議な場所で聞こえたその声の元へ、咲夜が飛ぶ。
L字型の曲り家の、丁度角になって居て見えなかった所だ。
「…………」
そこに、猫と狐がいた。
「…………」
正確には、猫耳と狐耳がいた。
猫耳の喉を狐耳がただひたすらに撫でている。
真顔で。
しかしてその手つきは精妙に尽きる。
猫耳の発する声の調子を正確に聞き分け、より心地よく、よりその奉仕の高みへ……。
「……八雲藍……?」
その動きは兎が跳ねるが如く。
狐なのに。
……いや、まあ、うん、そうね。
兎にも角にも大妖の式にして九尾の狐である八雲藍なのだ。異変についても何か知っているはず。
「あら、奇遇ねこんな所で会うなんて」
「……奇遇だな」
「藍様ー、この白毛の犬みたいな人間と知り合いなの?
橙が退治します?」
「……新しい式かしら?
流石幻想郷を管理する八雲、とてもよろしい教育をしているようね。
やはり秘訣は真顔で撫で回す事かしら?
私にはとても真似出来ませんわ、そんな熱心に撫でまわす趣味も不気味な仏頂面でそれをする勇気もありませんもの。
ええ、ええ、同じ従者仲間として尊敬しますわ。
とてもとてもそんな高度な従者としての領域まで辿り着けそうにありませんもの」
呪いに長けるのが九尾の狐と聞いていたが、それはどうやら間違いだったようだ。
もしそうならばこんな視線を浴びている私はもう10回は死んでいる。
「…………何が望みだ」
「いいえ、何も?
ああ、でもこの頃ここら辺は暖かいですわね。
私の所などまだ寒くて、羨ましい限りですわ。
幻想郷に春が来るのは、一体何時になる事やら」
しばしの沈黙。
先ほどからのも含めて計2、30回は視線で殺されたくらいだろうか、ようやく八雲藍が口を開く。
「空の上だ。
……遺書でも書いておくんだな。
そうだな、"偉大なる従者としての大先輩である藍様に少しでもご鞭撻出来た事を生涯の幸福と思います"とでも記しておけ」
「ええ、ご忠告に感謝を。
暖炉の火付けも用意しておけとは、やはり見る目が違いますわね、流石ですわ」
そう言いながら私は空を飛ぶ。
「そのまま陽光に翼を焼かれてしまえ、イカロスのように」
「生憎ですが、すでに紅い月に焼き尽くされていますので。
もう燃えようがないですわ」
そして、背後に降りかかる悪態に小声で返事をした。
さくり、さくりと。
ただひたすらに木々が生える森を歩く。
頭上にいた氷精も、ついには飽きてどこかへ飛び去った。
雪含む風を浴びていてもなお過分に冷えた外套がようやく人肌により相応の温かさになろうか、と言う時。
突然視界が開けた。
騎士は、迷いの森のその個所についての地理には疎い。
そこは魔理沙の家を建てた場所とは違う、未知の領域でもあった。
というのも、既に己の知る迷いの森の領域で薪として使えそうな木は、既に切っている。
それだけ長い冬だった。
その開けた視界の先には、一軒の家があった。
ふむ、と。
一瞬騎士は考え、家に歩み寄りノックする。
幾らなんでも勝手に家の周囲の木々を切り倒す訳にもいくまい。
幾ばくかの時が経ち、開け放たれた扉の先に、人影はなかった。
丁度騎士の胸元、そのぐらいの高さにふよふよと二体の人形が浮かんでいる。
二つの人形は、騎士を迎え入れるように脇に退く。
人形が退いた先は廊下が続いており、突き当りに扉があった。
騎士は扉をノックし、扉を開ける。
そこにいたのは金髪の少女だった。
安楽椅子に腰かけ、眼鏡をかけた少女は、その手で縫っていた人形から目を外して騎士を見る。
「……!」
少女は信じられない、とでも言いたげな表情をし、眼鏡と人形を置き、騎士に走り寄る。
「……久しぶり、ね。
こんな所で逢うなんて思っていなかったわ」
……はて、何処かで会っただろうか。
確かに何処となく見覚えはあるが。
騎士が首を少し傾げると、それを見て少女は微笑む。
「ああ、私が誰だか分らないのかしら?
それもそうね、あれから結構成長したもの」
そう言うと、少女は片手で人形を操るように動かす。
すると奥の部屋が開き、一体の人形が一本の剣を携えてふわふわと飛んで来る。
その剣、"アストラの直剣"を携えた少女は……アリス・マーガトロイドは、成長した風貌にあの時と同じような微笑みを浮かべた。
天へ、天へ、天へ。
最早どちらが天なのか、地なのか、分からなくなりそうな頃合いになって……雲を抜けた。
――桜の香りがした。
日が落ちようとしている。
薄桃色の花びらに落陽の赤が差す。
思えば分厚い雪と雲で久しく見ていなかったな、と咲夜は目を細める。
「……?」
遠くから、音が聞こえた。
「音楽……?」
かすかに聞こえるその音に向けて、咲夜は飛ぶ。
……やがて、門が見えてきた。
空に浮かぶ門だ。
落陽と藍色の闇に照らされて妖しく照る門は奇妙な艶めかしさを放っている。
その艶めかしさに、咲夜は既視感を抱く。
そう、これはまるで……死蝋だ。
そして三人の人影が、その門に分け入ろうとしていた。
「……どうやって開けるんだっけ」
「もう、姉さんったら。
一度来たじゃない、入れないはずが……あら、あの時ってどうやって入ってたかしら」
「で、どうするの?
私達騒霊演奏隊、日暮れまでにお呼ばれ、だったはずでしょ?」
「……どうしようか」
「どうしましょうかー」
「……ルナサ姉さんもメルラン姉さんも、使えない……ん?」
三人のうち、赤い衣装を身に纏った人影が、こちらを向いた。
「あら、人間」
「ええ、人間ですけれど。
その門は開けないのかしら?」
「いやー、開け方忘れちゃってさ」
「いいえ、ちょっと待ちなさいリリカ。
えっと、こうしてたような……あ」
「開いたね、メルラン……」
「開いた……開くならもっと早く開けなさいよ……」
銀髪をした少女……メルランが何某か門を弄ると、大きな門が音もなく開いた。
「あら、お見事。
では邪魔者は退いてもらおうかしら」
「「「えっ?」」」
直後、三人の周囲にナイフが出現する。
撃ち落され、雲海へと消える三人を一瞥し、咲夜は門の奥へと飛んで行った。
「それでは御機嫌よう、チンドン屋さんがた。
……あれってチンドン屋で良いのかしら?」
騎士はアリスの家を出てから、神社へと歩みを進めていた。
腿まで足が沈み込むほどの深い雪を、一歩一歩踏み固めるように歩く。
一歩、一歩。
一歩、一歩。
吹雪く雪に顔を伏せながら歩いていた騎士は、ふと顔を上げた。
そこには、蕾があった。
桜の蕾だ。
この寒さの中でも、芽吹こうとしているのか。
思わず手を伸ばす。
「……失礼」
そして、その言葉に振り向いた。
吹雪の中、銀髪の髪が見える。
その瞳が真っ直ぐとこちらを見つめている。
「……人にしては"春"を多く持っている。
……理由は申せませぬが。
何、命までは取りません。
大人しく切られてくださいませ」
そう言うと、彼女は腰に差した"見覚えのある"二振りの刀を抜き放ち、騎士へと切り掛かってきた。
博麗霊夢はこたつの中にいた。
こたつの天板に頬を当てて、うとうとと瞼を開け閉めしている。
くぅ、と腹が鳴った。
首を動かさず、目だけできょろきょろと辺りを見渡す。
誰も居ない。
その理由は、このいつまでも終わらない冬だ。
……はぁ、と。
霊夢は一息ため息をついてこたつから抜け出し、起き上がる。
そして札を一枚取り出して足元に投げつけた。
瞬間。
霊夢は瞬時に博麗神社から八雲紫の居る異界へと転移する。
そして異界の家の縁側へと座り込み、自らの傍らをぱんぱんと叩く。
聞こえるはため息一つ。
直後、霊夢の傍らに入れたての緑茶とお茶請け、そして紫が縁側に腰かけた姿で現れた。
「……簡単に来れる場所では無いのだけれどね。
それで? 何用かしら、霊夢」
「とっとと解決して」
「……何を?」
「この異変」
「あら、それはあなたの役割のはず。
そして、私がこのような異変を解決できるとお思いでして?
私、ただのしがないスキマ妖怪でしてよ」
「あんたなら未然に防げた。
そしてあんたなら今もすぐに終わらせようとすれば終わらせられるから」
「……何を、根拠に?」
「勘よ」
「……全く」
怖ろしい、という言葉を紫は呑み込む。
「なんで解決しないの?
"あんた、いつ解決してもおかしくなさそうなのに"」
「…………」
「そ。
分かったわ、巫女らしく私が解決する。
ただ……あれね。
あんたみたいなのをへたれっていうのかしらね」
「……なんとでも言いなさい。
あの子が……彼女がそうすると決めたのなら……私が邪魔をする権利など、無いのだから」
「ふーん。
友達、って奴?」
「……ええ」
「そ。
……私が聞いた友達っていうのは、間違ってたら蹴り飛ばしてでも正すものだって聞いてたけど」
そう言うと、霊夢は食い尽くし、飲み切った緑茶を一瞥し札を床に叩き付け、消え去った。
「……私は……」
八雲紫は、眼を伏せる。
両手にそれぞれ刀を持ち切り掛かってきた少女に、騎士は穂先がオレンジ色の奇妙な槍を突き出して対応する。
足元を狙ったのであろうその槍は、"当然のように少女の手前で地面に突き刺さる"。
「未熟な……なぁっ!?」
そして、槍が突き刺さった個所が爆発した。
火吹き槍。
その名の通り、火を吹くその槍が放った炎は雪へと着弾し瞬時に蒸発。
一帯に霧を漂わせる。
「ッ……小細工をッ!」
しかし、何の業か、少女は霧の中の騎士を見つけ出し、切り掛かる。
その位置、槍を投げる前の時より数歩後ろ。
なるほど、記憶を頼りに切り掛かれば間合いを外し、そしてその隙を見逃してはいなかったろう、と少女は納得する。
一歩踏み込み、切ろうとした瞬間。
何か霧のような物に突っ込んだ、しっとりとした感覚があった。
手に持つ刃にも、それがまとわりついているように感じる。
「……酸か!」
"酸の噴射"。
故も知られぬ異端の呪術は、人を傷つけず武具のみを傷つける。
その奇妙な術は、何の怨恨の果てに生まれた物か。
だが、使い手の騎士ですら知らぬような事など、少女は知る由もない。
酸だ。どのような手段か知らないが、あらかじめ酸を吹き出し、こちらが飛び込むようにしたのだ。
それも、この酸は人肌を焼くなどの類ではない、とその奇妙な感覚から少女は察する。
金属を腐らせる……この手にある刀を、容易に手折るための酸だ!
だが……だが、この刀は、妖怪の鍛えし楼観剣に白楼剣。
「この程度で、手折れると思うなァッ!」
少女はなおも踏み込む。
騎士は慌てた"ように"、"地面を蹴りつけて"離脱しようとする。
だが甘い、"ちょうど一歩"余計に踏み込むだけで切り捨てられる。
「――貰ったァッ!」
渾身の踏み込み。
――そして、足がぬかるんだ地面に捕らわれて、前につんのめる。
足を取られ、宙に投げ出される少女は……魂魄 妖夢は、その類稀なる眼によって見た。
足を取られた場所だけ、雪が解け、その水を吸った地面が泥になっている事。
眼前の男の片足に、かすかに炎が纏わりついている事。
そして、その男の拳が己の顎へと向かってきている事に。
騎士は気絶させた少女を抱き留め、使用した武器を回収しつつため息を吐く。
彼女は剣士としては己よりも上だった。それは確かだ。
一撃の鋭さが違う、眼の良さが違う、機転が違う。
だが、それ即ち戦で生き残れるという訳ではない。
それも必要不可欠ではあるが、それとは別の物が必要になってくる。
一言でいえば経験。
特に彼女はそれの欠如が目立っていた……未熟、と言っても良いだろう。
とっさに装備したその指輪を見やる。
"黒焦げた橙の指輪"。
生まれながらにして溶岩に苛まれ、爛れ続ける彼に魔女達が送った指輪。
それは溶岩を歩く足を焼かれぬようにする効果が主ではあるが、蹴りに火を纏わせる効果も持っている。
瞬時に溶かされた雪は土と交わり泥濘となり、彼女の踏み込みを完全に殺した。
しかし、何故に彼女は切り掛かってきたのだろうか。
はて……と思いを巡らせながら、彼女の刀を手に取り見る。
そこには、見覚えのある家紋があった。
そうか、彼女が。
「あ、れ……?
私は何で、こんな所で……!!
返して!返して下さ……い……?」
目を覚まし、こちらを睨みつけた彼女に対して、刀の家紋を指差す。
「え、家紋……?
魂魄家の家紋がどうかしましたか……あれ?
すみません、魂魄妖忌、と言う名に心当たりはありませんか?」
騎士はその問いに頷く。
その様を見て、彼女はぱあ、と顔をほころばせる。
「では、あなたがあの!
あなたの話は祖父より聞いております。
私は魂魄妖夢、魂魄妖忌の孫娘です」
騎士はその言葉を聞き、彼女に……妖夢に刀を返す。
「あ、ありがとうございます。
……その、切り掛かってしまい、すみません。
いや、その、悪い事とは分かってはいたのですが、主の命を鑑みるに致し方なく……ですね。
命までは取るつもりは無かったのですが……」
話せば話すほどに声が小さくなっていく。
……やはり、彼女はまだ未熟らしい。
少なくとも妖忌であれば一切謝る事などしなかったろう。……それが良いとは言わないが。
彼女の頭に積もり始めた雪を払い、頭を撫でる。
「あ……えへへ、ありがとうございます。
あ、そうだ!」
こそばゆそうに礼を言う妖夢は、そこで思い立ったように声を上げる。
「お詫びついでに、今の白玉楼へお越しいただく、というのは如何でしょう。
今は幽々子様の考案した催し物も準備が整いそうですので、丁度よいかと思われます。
実の所、春を集めるのもその催し物を開くために必要な作業の一環でして……」
その問いかけに、騎士は頷いた。
そして、騎士は妖夢と共に白玉楼へと赴いた。
桜、桜、桜。
唇に紅差すような鮮やかな桜の花びらが、音もなくはらはらと宙を漂っている。
その紅色の花びらを引き裂く銀の花が、一人。
十六夜咲夜は、無限に続くかと思うような階段を一飛びに飛び上っていく。
その果てに見えた大門。それを、速度のまま蹴り開ける。
そこには、ぽつぽつと、ほの薄く闇を照らす灯篭が伸びている。
桜色をこびりつかせている闇の果てに、儚く灯っている灯篭の火が、こちらに来い、と呼んでいるように咲夜には思えた。
灯篭を追うように。
闇へ、闇へ。
闇の奥を追うように。
灯へ、灯へ。
「"花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ"」
――その果てに在ったのは、黒々とした桜の大木。
「春を集めていたら、人も集まってくるとはね」
その桜の木の下には屍体が立っていた。
確かにそこにいて、立ち、話しているというのに、屍なのだと咲夜はすぐに悟った。
それは、彼女の短く切られた薄桃色の髪が、彼女に降りかかる桜の花びらによって長髪であるように幻視し。……そして、その姿が血を流し続けて、色が薄くなった血がなおも流れ落ちているように見えたからか。
それとも、その薄青い色合いの服が、桜が照り返す灯篭の光に当てられ、白く……死装束のように見えたからか。
否。そんな場の空気に呑まれたような判断故ではない。
時を操る咲夜だからこそ、その決定的な部分を理解出来た。
彼女の時は、止まっていた。
「ご心配なさらず、その集めていた春を返して頂ければ立ち去りますわ」
「生憎だけれど、そういう訳にもいかないの。
――この桜に、」
そう言って、彼女は桜の大木を撫でる。
「――西行妖に花を付けるには、春を集めなければならないのだから」
「春、ねぇ。
……なぜ、花を咲かせるのかしら?」
「あら、花を咲かせることに理由なんてあって?
……なんて、ね」
うふふ、と。
彼女は微笑し、言の葉を紡ぐ。
「"桜の樹の下には屍体が埋まっている"……なんて言うけれど。
この樹の下には、本当に屍体が眠っているらしいの。
封印……という形で、らしいけれども、ね」
「私は、見てみたいのよ。
この桜が満開になるのを。
この桜の下に眠るモノを」
「……そうね、あなたからとれる少しの春でも、もしかしたら咲くかもしれない」
「生憎だけれど、私から取れる春なんて無いと思うわ」
「あら、生きとし生けるもの、誰しも少しくらいなら春は持っている物よ」
「だって、私はあなたを倒して春を取り戻すもの」
「それは無理よ、だってあなたはここにいる。
ここにいる時点で、あなたは死んだも同然。
だって、ここは生きている者の来る所では無いのだから」
「なら屍らしく桜の元に還るがいい、姫の亡骸!」
「なけなしの春をいただくわ、殺人鬼!」
亡郷【亡我郷】
幻符【インディスクリミメイト】
十六夜咲夜は桜花舞う夜闇の中舌打ちする。
元よりこの規模の異変を起こすような相手だ、油断は無かった。
しかし、それにしても……。
「厄介な……!」
彼女はスペルカードルールに従いはする。
だが……強い。純粋に強い。
空間を揺蕩うような軌道の光弾が世界を埋め尽くして向かってくる。
そしてその光弾を、幾本もの光線で空間ごと薙ぎ払ってくる。
私の能力は、時を止めるもの。
故にいつもならば時を止めてスペルカードを使う本人を狙う。
だが、近寄れない。
……純粋に弾幕が濃すぎて、人一人の体をねじ込む隙間が無いのだ。
故に、こうしてスペルカードでスペルカードを相殺しなければならない。
「もうちょっとまともな練習でもしていれば良かったかしら……ねっ!」
「あら、お上手お上手。
うちの子ってば、そういう品の良さって無いのよねぇ、それよりも必死さのほうが目立つっていうか……」
「あら、っ、そうっ!」
いけしゃあしゃあとどうでもいい事を抜かす。実に腹立たしい。
こうした空っとぼけた物言いはレミリア様に似ていなくもないが、レミリア様は故意だが彼女は天然だろう。もっと質が悪い。
「あら、本当にしのぎ切るなんてね。
じゃあ……ちょっと本気出しちゃおうかしら」
亡舞【生者必滅の理】
――そして、扇が開かれた。
彼女の背後に、桜を思わせる淡色の扇が現れる。
そして、前にも増して密度の濃い弾幕がばらまかれ始める。
これもまた、時を止めて潜り込む余地はない。
どうするべきか。
額に汗が浮かぶのを煩わしく思いつつ、懐のスペルカードを触る。
残りは三枚。
相手は後何枚だ?
そもそもスペルカード一枚に対してこちらの一枚で相殺できるとも限らない。
状況は手詰まり、に近い。
「ったく、もう!」
時符【プライベートスクウェア】
後、二枚。
「あらら、本当に困ったわね……負けて終わり、なんて興醒めな結末は嫌なのだけれど」
華霊【ディープルーティドバタフライ】
――これまでは手を抜いていたのだ。そのスペルカードで気が付いた。
なおも濃くなる弾幕、その間からそれこそ霊魂のように白い光の筋が迫ってくる。
試しにナイフを投げても何事もなかったかのように迫り続ける。
とっさに飛び退くと、その光の筋はちょうど自身のいた地点で止まり……炸裂した。
炸裂した光の筋は無数の光弾を生み……なおも何事もなかったかのように咲夜を追い続ける。
「これは、また……っ!」
回避する、回避する、回避する。
まるで犬にでも追い立てられるように、彼女から放たれる光弾へと追い込まれていく。
夢符【封魔陣】
「珍しいわね、犬が犬みたいに追い立てられてるなんて」
「……ええ、巫女が異変を何時まで経っても解決しなかったり、珍しい事が起こる冬ですわね」
転移だろうか。
気が付けば傍らには博麗の巫女が居て、結界を張っていた。
「元凶はあの女。
なんでも"春"を集めてあの桜を咲かせようとしてるとか」
「ぶちのめせばいいんでしょ?」
「消耗してるので私が後衛を」
「……なるほどね、あなたが博麗の巫女さん?
質問なのだけど、弾幕ごっこって1対2って大丈夫だったのかしら?」
「覚えてない。
けど、どっちだろうと結果は同じよ」
「それはまた……紫が苦労してそうねぇ。
まあいいわ、それぐらいの横紙破りを呑み込まないのも狭量ですもの」
「でも」
幽曲【リポジトリ・オブ・ヒロカワ -神霊-】
「それならそれなりに、ペナルティは与えられるべきよね」
――あれが、本気だろう。
それこそこの桜吹雪の如く弾幕が放たれる。
私は後ろに、巫女は前に。
後はもう、残った二枚のスペルカードで適当に援護でもしていればいいだろう。
それで充分だ。……なにせ、アレの実力は身をもって知っている。
しかし、後ろから見ればこの巫女がどう動いているのか分かるか、とも思ったが……今一、良く分からない。
当たってはいない、だが避けているようにも見えない。
独りでに弾が巫女を逸れていくように見える。
「本当に謎、ねっ!」
時符【パーフェクトスクウェア】
とっととスペルカードを撃ち尽くして帰ろう、とスペルカードを発動させる。
スペルカードによって光弾の時間を止め、無効化する。
そうして阻む物が無くなった巫女は、彼女の元へと飛び寄る。
そして、直前で止まった。
「何故――?」
「あら残念」
桜符【完全なる墨染の桜 -開花-】
華が、咲いた。
彼女から、弾けるように大粒の光弾が放たれる。
「それが紫の言っていた巫女の勘、って奴かしら?
ずるいものねぇ」
ふふふ、と扇子を口に当て、彼女は笑む。
「どれぐらいの物が分かるのかしら、その勘は?
試しに何か言ってみなさいな」
「言う必要がある?」
「言わない必要もないと思わない?」
「……それが最後のスペルカードっぽい、とかかしら」
「……怖い怖い」
――それは、本当に人だろうか。
桜吹雪を纏いながら、紅白の巫女はまぶしいほどの光弾の中を揺蕩っている。
あれが本当にラストスペルなら、もう終わったも同然だ。
もう帰ろうか、と後ろを向き。
「あ、っ」
あの亡者の声が聞こえた。
……そう、後ろを向いた。
だから、あの亡者が何故ああなったのか、決定的な理由を見逃した。
いずれにしても。
あの男が、妙な刀を持った女と共にここへと辿り着き。
それと同時にあの亡者が桜に取り込まれた。
それだけは、事実だった。
【反魂蝶】
桜だ。
桜が、咲いていた。
月光は無く、ただその黒々とした樹についた花が、妖しく燐光を帯びていた。
それはあたかも、墨染めの桜が紅色のなにかを啜ったように。
騎士は一目で気づいていた。
封印が、解けようとしているのだ。
解けてしまえば、彼女は……幽々子は今度こそ死ぬだろう。
止める必要、が。
騎士は一歩踏み出し、そして立ち止まった。
……止める必要が、あるのだろうか。
そもそも、何故彼女はあの桜を咲かせようと……封印を解こうとしたのだ。
それは、彼女がそうしようと決めたからではないのか。
そして、彼女が決めた事であるならば……それを否定する権利は、己には無いだろう。
「ゆ、幽々子様ー!?
え、え、どうなってるんですかこれ!?」
騎士は傍らの妖夢を見やる。
……これは、想定の範囲内では無かったのか?
いや、判別を付けるにはまだ足りない。
幽々子が、妖夢には……親しい者には何も告げずに単独で練っていた可能性もある。
――幽霊のような蝶が、無数に舞い始めた。
ゆらり、ゆらりと揺蕩いながら、こちらへと……人に向かって飛んで来る。
そして、己と妖夢に留まりそうになり……。
「それは駄目」
その霊夢の声に反応して血の盾で叩き潰す。
血の盾。
古き伝承に語られる盾であり、装備者の毒や裂傷、呪いの類の耐性を高める盾。
それをすぐに取り出せるよう備えていたのは、一重にかの少女が魂魄妖夢であったからに他ならない。
その主である、亡霊となった彼女に会うならば、呪いの類の耐性を高めておいた方が良い、と。
……それがまさか、こんな形で役に立つとは。
盾で潰した時、確かに感じた。
"死が、背中を撫でつけているような寒気"。
……この蝶は、呪いを持っている。
こちらがその事に気が付いた事を察したように、直後蝶が羽ばたき始めた。
その密度、速さはそれこそ弾幕ごっこの弾幕にも匹敵……否、凌駕する。
その様に、騎士は何時か本で見た蝗害を思い出した。
蝗害は大量発生したイナゴによる群生行動であり、その道中にあった草木は文字通り草一つ残らず食い尽くされる。
絵にあったその様は、空すら黒々と染め尽くす勢いであり……。
この蝶も、視界を埋め尽くすほどの数が居た。
西行妖の真中に磔にされたように浮かぶ幽々子に、その黒々とした幹に似合う、桜色の燐光を放った蝶が、それこそ満開の桜のように浮かんでいた。
……あれは、駄目だ。
あれは死ぬ。人妖問わず、呑み込まれた者は誰であろうと死ぬ。
そういうものだ。
……殺すか?
彼女が、また人を殺す前に。
彼女が、また死に直す前に。
『あなたは、篝火のような人ね』
普通、霊は殺せない。
だが騎士は霊を殺す手段を持っている。
『あら、今日初めて会った人に指輪を贈るだなんて、大胆ね』
だが、だが……。
『それに、私、凄く嬉しかったのよ』
……紫は何をしているのだ。
こんな事、あの子ならば先んじて止める事も出来たろうに。
『髪は女性の命なのだから、どれだけ丁寧に扱っても足りないのよ……』
……否。
紫も、己と同じ事を考えたのかもしれない。
これが、彼女の望んだ事ならば。
それを否定する権利は、ないと。
空を飛ぶ、霊夢と目が合った。
霊夢はこの嵐のような蝶の中でも、悠然とそこに浮かんでいた。
蝶が寄るでもなく、蝶を交わしているでもなく。
ただ、己を見つめていた。
じっと……見つめていた。
己を待つように。
『独りぼっちで、屋敷の外すら見た事が無くて、それで死を選んだ!?』
『そんなの、選んだなんて認めないわ!』
『……何で、止めようとしたの?』
騎士は樹に向かって走り出した。
それは唐突で、妖夢も咲夜も反応出来なかった。
ただ、霊夢だけがその動きに呼応するようにスペルカードを発動させる。
夢符【二重結界】
騎士は駆け出しながら守護の聖鈴を取り出し、二度鳴らす。
蝶の嵐は騎士へと意志を持つように殺到するが、結界がそれを食い止める。
歩を進めるほどに結界は軋みを上げ……そして砕けた。
桜の樹の下まで後、十歩。
騎士は一つの指輪と大盾を取り出した。
指輪は装備すると同時に、騎士の背中にしがみつくように霊魂が現れる。
ゴダの守護指輪。
幾多の王や神官を手にかけた暗殺者ゴダの指輪である。
暗殺者は常に死地にいる。故、背後の護りは必要不可欠であった。
騎士は霊魂を背負い、そして大盾を眼前に構え、吶喊する。
その盾は、かの騎士の盾だった。
深く傷ついた彼が、その盾を友を守る結界の糧として手放したその盾。
霊魂の記憶により復元された、その万全たる姿は加護の力を備えており、持ち主にあらゆる異常に耐える力を与える。
アルトリウスの大盾。
そして先に唱えたるは、大いなる抵抗。
これもまた、異常に耐える力を唱えた者に与える。
また殺到する蝶を、大盾で押し込みながら歩を進める。
背後と前面を守っていても、四方八方から殺到する蝶を、全て防ぎ切る事は出来ない。
一歩、一歩。
盾に当たる衝撃が、加速的に強くなる。
一歩、一歩。
息が荒くなる。
一歩、一歩。
意識が遠のき始める。
一歩、一歩。
心臓が止まろうとしている。
一歩。
盾を取り落とす。
心臓が止まり……そして、動き出す。
惜別。
サルヴァの神官によって残された、古い奇跡。
死にゆく者の今際の時に踏み止まらせ、別れの時間を与えるための奇跡。
それにより、騎士は生死の境界を踏み止まる。
一歩。
そして騎士はそれを取り出した。
同時に夜闇か、雲によるものか。隠れていた月光が顔を出す。
生命狩りの鎌。
神々さえ恐怖した生命狩りの力。
密やかな牢獄のような世界に居た、純白の半竜の魂から生まれた鎌。
騎士はそれを西行妖に向かって振るった。
――血が出た。
そんな錯覚を覚えるように、西行妖は黒々とした液体を噴出させる。
"春"。
妖夢が、幽々子が集めていた"春"とは何か……騎士は、生命だと考えていた。
命によって木々は葉を付け、草木は顔を出し、花は蕾を開かせる。
吐き出せ。
騎士は鎌を振るう。
吐き出せ。
振るうたびに、その傷口から液体が噴き出る。
命を、吐き出せ。
散々命を啜ってきたのだろう。
鎌を振るう。
ただただ生きるために、死にたくないがために。
喰われる命の意思を、思いを、踏み躙りながら。
鎌を振るう。
もういい加減やめるべきだ。
鎌を振るう。
お前のようなモノは、いい加減に眠りにつくべきだ。
鎌を振るう。
醒めない眠りにつくがいい。
鎌を、振るう。
――そして、桜は散った。
蝶は墜落し、霞へと消える。
ひらり、ひらりと蝶が落ちていく、その中に……幽々子の姿もあった。
花びらのように、風でも吹いてしまえばそのまま吹き飛んでしまいそうな。
そうして降りて来た幽々子を騎士は抱き留めた。
その指に嵌められていた指輪を少し見つめ、考えて、左手の中指へと付け替えて。
そして、騎士は眠りについた西行妖を見上げていた。
「……以上が、この度の異変の顛末です」
「ふぅん、なるほどね」
紅魔館、そのテラス。
久方ぶりに使われた大きな日傘はその館の主と椅子に机、ティーセットを陽光から包み込む。
「面白かったわ、ご苦労だったわね、咲夜」
「いえ、お嬢様の命ならば、どのような事であろうと苦ではありません」
「あら、お利口だこと」
その種族に相応しく、その可憐な見た目には相応しくない笑みを浮かべる主人に、咲夜は問いを投げかける。
「その……私の報告は端的に過ぎたかと思います」
「面白くなかったろう、って?
話す相手によってはそうでしょうけれど、私になら充分よ」
「ねぇ、咲夜?」
「はい」
「最近、外から流れついてきた本に書いてあったのだけれどね。
曰く、逃走には二種類があるそうなの」
「……?
は、はぁ」
「目的のない逃走と、目的がある逃走。
前者が浮遊で、後者が飛行。
……さて、どっちが浮遊で、どっちが飛行なのかしらね?」
「その、お嬢様。
時折お嬢様の話は抽象的で、私のような浅学な者にはどうも……」
「いいのよ、それで。
そうね、もしもあなたがそれを知る事が出来る所にいて、この言葉を思い出せば納得する。
そんなお遊びのような話よ。
あまり気にする事は無いわ」
「ただ、そうね。
敢えて言うならば」
「ただ浮遊していた者が、飛ぼうとした時。
それは無事に飛び切る事が出来るのか、飛び切れたとしてどこにたどり着くのか」
「それが、気になるだけ」
そうして、レミリア・スカーレットは紅茶を飲んだ。
雀が鳴いている。