とある奇跡の平行世界   作:雨宮茂

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四日目の遭遇

世界には決まりごとがある。法律であったり、法則であったり。物理的なことから心理的なことまでと様々な決まりが存在する。しかし、その決まりを崩壊させるようなことが出来るなら、それは神でもあるし、災厄とも言える。つまり私が抱く能力者というものは、世界に対して最高の薬でもあるし、最悪の毒とも捉えられる。世界の決まりを大いに歪ませ崩す超能力者は特に。

 

人に例えるにしては強大で、神に例えるにしてはあまりにも脆弱な存在。どっちつかずの曖昧な彼ら彼女らは例えるなら化け物が相応だろう。誰にも理解されない自分だけの現実が大きく外の世界を侵食しているのだ。ある意味能力者は精神疾患や異常者と言われることに納得できる。

 

自分だけの世界。それが他者と交わる為の世界に具現しているのだから。

 

あってはならない事だと思う。だが興味が引かれるのは確かだ。まだ見つかっていない決まりごとが見つかるかもしれない。さらなる発展と発見が尽きないこの世界で私は無限の可能性をただの1に引き摺り下ろす。

 

そうすれば私の知りたい“自分だけの現実”が何なのか解る日が来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり日が沈み月が輝く夜。静かに語る女性の声が止まった。

 

「これが私から見た木原神無、君達から言えば本名不詳の過去だ」

 

しかし木山一部分は多少脚色したり言わなかった。

 

必要なのは木原神無についてだけ。自分が研究に失敗してそこから色々と破綻したと伝えた。置き去り(チャイルドエラー)については触れていない。

 

上条達は濁した事に訝しるが木山は最後まで無視を決め込んだ。

 

本名不詳(コードエラー)についてよく分かりました。……次は、彼女が取りそうな行動を教えて下さい」

 

「彼女の行動にはそれ相応の意味がある。つまり根元が分かれば一発で分かるが分からなければ、恐らく永久に理解不能だ」

 

簡潔に纏めて伝えると絹旗は唸った。

 

「超極端な人ですね。相応の理由、難しいです。だって私達、理由に値する麦野の能力に関する研究、施設は全部回ったんですよ」

 

「……なるほど、神無のやつ相変わらず手癖の悪い事を」

 

「何か分かりましたか?」

 

理解したのだろうか木山は気怠げに昔を思い起こす。木原神無という女は心理戦に滅法強く、よく人を負かしてきた。特に権力の争奪になると本気で食って掛かっていたのが今でも木山の脳裏に残っている。

 

そして木山は内心で囁く。

 

神無はゲーム盤を舞台とした遊技、若しくは戦略を練っているだろうと。

 

「君らは一つの執着したイメージに捕らわれるように仕向けられている、例えば麦野沈利の能力と言う項目だ」

 

賺さずフレンダは食いついた。

 

「つまり騙されてたの?」

 

「いや、騙してはない。裏をかいたやり方を選んだだけだろう。昔のデータや機材を使うような実験をするのは珍しい事だ、木原神無にとってね。彼女の事だ大方AIM拡散力場か“自分だけの現実”の研究、もしくは能力の新たな有用性に気が付いたとか、その辺かな?」

 

昔の一幕を木山は、ふと思い出していた。

 

木原神無。

 

あの狡猾で権力という権力を食い漁り、金も地位も思うがままにした友人も口癖。それは―――

 

―――科学とは未来に向かう技術だ。昔から学ぶ事はあれど、昔を掘り起こすものではない―――

 

ならば既に周知の原子崩しよりもっと未知数の研究なのだろう。

 

「その自信は?」

 

「直感だよ。進むべき道へ至る手段は多い方がいいと彼女は常々言っていたしな。君らは本命でありながら保険と言うわけだ」

 

「でも……その手の研究所も施設も超多いですよ。どうやって……」

 

だが所詮、昔見た神無という人物ならこうするだろうという予測でしかない。

 

それには木山も同じように、決定打が無いことに不安の色が滲む。

 

「こればかりはどうしようもないな。神無は麦野さんの何に可能性を見出したのか、それとも別の要因か」

 

最後の扉は固く閉ざされ、その壁の向こう側にある答えに辿り着けない。

 

歯がゆさと、悔しさが入り混じった焦燥感はあっという間に部屋を満たした。

 

その中で今まで黙っていた滝壺は口を開く。

 

「こーどえらーは置いといて、むぎのを中心に考えたらどうかな?」

 

「なぜだ?」

 

その場の意見を代弁した木山は腕を組む。

 

「今、こーどえらーの行動理由はむぎのにある。だから、むぎのを中心に考えたら分かるかも」

 

「なるほど、一理ある。では、彼女の些細な変化でもいい。なにか知っている事を教えてくれ」

 

『アイテム』メンバーの視線が上条に向けられる。

 

直接麦野の異変とぶつかり合ったのは彼しか居らず、自然と皆の意識が集中する。少し驚いた上条だが、あの時、自らを原子崩しと称した麦野を思い出す。

 

「何でそうなったか分からねえけど、麦野は自分の事を原子崩しだと名乗ってた。でも麦野と原子崩しは別々なんだよ。説明出来ないけど、全くの別人なんだ」

 

「ふむ。精神の異常か……。ならば前頭葉に関わるような施設などだろうな。しかし神無がそれを視野に入れてなければ空振りだが。……その可能性も少ないだろう」

 

「どうして?」

 

「精神、というよりは恐らく麦野さんの状態は“自分だけの現実”の暴走状態だと思う。神無の死因は能力暴走による脳への圧迫が原因と言っただろう? 詳しく知らないが、彼女の能力は“自分だけの現実”に作用するらしくてな。他の人よりその分野は秀でている。生前と言っていいのか微妙だが、彼女は能力の源であるそれの研究、特に暴走状態について調べていた節があった。麦野さんにその兆候が見られた、だから」

 

「調べるために麦野を誘拐したと。でもよくそんなこと出来ましたね。今更ながら本名不詳が超恐いです」

 

学園都市第四位。その肩書きは伊達じゃない。その能力の威力然り、有用性と有り得ない法則を使いねじ曲げた電子。

 

持ち合わせた全ての特異点はまさしく暴力に特化していた。

 

それを惜しげもなく振るう麦野はどんな能力者より危険で、手を出せば火傷なんて怪我ですまないだろう。

 

その麦野を手玉に取った本名不詳は侮れない筈だ。

 

「結局、見つけたとして円満解決になるのか不安な訳よ?」

 

「見つかる前に神無なら姑息な手を打つだろう。時間になるまで隠し部屋から出てこなかったりとか」

 

「体晶が無いのが悔やまれる」

 

「あったとしても超極力使わない方がいいですよ」

 

「体晶、君はあんな劇薬を使っているのか?!」

 

今まで見たことがないくらい驚いた木山に絹旗はあからさまに渋い表情をした。

 

内緒の話をたまたま聞かれて不機嫌になったそれに近い。

 

「……」

 

「言えないか。しかし、使用するのは勧めない」

 

滝壺の動かない表情に木山は渋々引き下がった。この街の闇には嫌と言うほど思い知らされた。

 

木山では滝壺達の立場をひっくり返せない。だから潔く手を引く。何も出来ないのに偉そうに噛みつくのは筋違いだと思ったからだ。

 

「心配してくれてありがとう。でも、ごめんなさい……」

 

「いや、怒鳴って済まなかった。嫌な思い出しかなくてな。つくづく私はそれと縁があるらしい」

 

自身を嘲笑した木山は痛みを堪えるように歯噛みして手の中をただ、ぼんやりと見つめた。

 

「神無の奴の行動を特定するために君達が持ってるデータチップを貸して貰いたい」

 

「いいよな絹旗?」

 

「うーん。背に腹は超替えられません、……よろしくお願いします」

 

木山は絹旗からデータチップを受け取るとパソコンに入れインストール終了を待つ。

 

その間に木山は問いかけた。

 

「このゲームが終わったら神無をどうする?」

 

「今は決められません。でも、下らない理由なんかで麦野に酷い事をしたなら、許すわけにはいなかい」

 

一切の迷いを切り捨てた上条の言葉に木山は瞳を閉じた。

 

「そうか。君なら彼女を止めてくれるだろう。もう、私ではどうにもできんからな」

 

どこか木原神無と和解する事を諦めている木山に上条は表情を曇らせた。

 

本名不祥いや、木原神無を本当の意味で救えるのは、木山春生だけなのではないかと上条は考えた。深く絡み合った因果を清算出来るのは当事者の二人だけなのだから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その部屋には窓もなく何となく閉塞感を与える。空調は効かせてあるが、なぜか不穏な空気が溜まっていた。

 

その中でやけに絡みつくような抑揚のある声を響かせた黒髪の女はだらしなく頬杖をついていた。

 

「ねぇ、原子崩し。君は何時になったら起きてくれるのかな?」

 

「はぁ? 起きてるわよ。ついに頭がイっちゃった?」

 

向かい合うように座る明るい茶色の髪をした大人びて思わず目で追いかけたくなる美しい彼女、原子崩しは露骨に馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

しかし、それにも本名不詳は動じない。

 

「ふふ、酷いなぁ。私は真面目に君の心配をしてるのに。このまま逃げられると私が困るんだよ『原子崩し』あまり使いたくない手段だけど、まぁいいか」

 

原子崩しは着実に恢復しつつある。本来の彼女の人格が滲み出てきているのが証拠だ。

 

しかし遅い。恢復が遅すぎる。どうやら、上条当麻という光は“原子崩し”、麦野沈利の闇の代名詞を深く切り裂いたらしい。本名不祥が予想した以上に深く、麦野沈利と原子崩しを引き離した。

 

その事は本名不詳にはかなりの痛手で、全く面白くない。

 

「君自身が言わば“自分だけの現実”ならば、私の独壇場だ。原子崩しに麦野さん、鬼ごっこは終わりにしよう」

 

「ちょっと本格的に……ッ!?」

 

次の言葉を発する前に原子崩しの意識は泥沼に引き込まれた。

 

果てのない闇に堕ちていく感覚。それに身を任せ、辿り着いた先は、自分だけの世界だった。意識だけが存在する曖昧で不確かな世界。

 

「なんで、いきなり」

 

見渡す限り一面漆黒の世界は彼女産まれた場所。そして原子崩しだけが知っている場所だ。

 

一人分の世界に、二人目の足音が響く。

 

階段から降りてくるような足音。初めて自分以外が刻む音の方に振り返ると、本名不詳が“居た”。いや、“入ってきた”と言う方が適切か。

 

微笑みを浮かべ世界を見渡す。そして原子崩しに視線を合わせると、納得したように頷いた。

 

「前から君を例えるなら『虎』だと思ってた。手負いの獣。尊大な自尊心(プライド)に臆病で失敗を認めきれない羞恥心。それは元々、麦野さんの心だった。なのにそれが“自分だけの現実”に憑依する事に違和感を覚えていたが、今解消したよ」

 

「何が言いたい」

 

低く唸る声は怒気を含んでおり、刺激すれば彼女はなんの躊躇いもなく本名不詳を殺すだろう。

 

しかしそれは意識の外側の世界、つまり他人と関わる為の世界だったらの話だ。

 

この世界ではまず無理である。

 

「原子崩し、君は麦野さんの世界からつまみ出され、何事もなく消える運命だった。失敗を認めないが故に殺戮し、自身が強者であるがために虐殺する君を、初めて麦野さんは疎んじた。上条当麻に出会って初めて麦野さんは原子崩しを呪った」

 

朗々と語る本名不詳を原子崩しは止めたかった。でも足が動かない。ならば耳を塞ぎたかった、しかし腕からは一切の力が抜けていた。

 

聞きたくない現実を突きつける声を黙って聞くしかなかった。

 

「その事に君は傷付いた。心の傷なんて生易しい。世界を大きく崩壊させたんだから。覚えてる? 君達の世界が“融解”したこと。その時、君の生存本能は“自分だけの現実”を取り込んだ。取り込まれたんじゃない。頭の中にだけ存在する世界の一角になるまで上り詰めた君の誤算は、この忌々しい“壁”かな? ねぇ、名前をどうして“原子崩し”にしたの?」

 

「やめろよ……」

 

石から水を搾り出すような原子崩しの声を無視して本名不詳は、続ける。

 

「麦野さんは原子崩しを疎んだ。原子崩しは“自分だけの現実”になった。ねぇ、君は別に“自分だけの現実”になんて成らずともよかったよね? なのにどうして“自分だけの現実”を選んだの?」

 

「やめろよッ!」

 

「……哀れだね。君を消せば“自分だけの現実”も消える。そこまでして、麦野さんをこの闇の底から救いたかったのかい? 無能力者にしてまで」

 

「黙れッ!!!」

 

激昂した原子崩しは本名不詳に掴みかかるが、スルリと避けた。

 

「確かに用済みにはなる。でも黙って生かしておく価値があると思うの? そうなれば麦野さんは殺されるだけだ。君の目的は麦野さんに自分が居たんだと、覚えていてほしい。でも自分はいらない。そして能力者であることを初めて疎んだ彼女の願いを叶える。確かに一石二鳥だけど、果たして好転するかね?」

 

「ならどうすればいいの! 私では上条当麻を殺せない。麦野を狂わせたあの男を消せば、確かに一時的に壊れたとしても」

 

「麦野さんなら現実から目を逸らして立ち上がっただろうね。それじゃ、無理だったから次の作戦は私が死にます? あっは、巫山戯るなよクソガキが」

 

「そんなに、死にてえかッ!!!」

 

凍るような眼差しと燃えるような眼差しが交差する。

 

「君に死なれちゃ困るんだよ。立ち上がって貰うよ原子崩し。ちょっと荒い治療だけど、まぁ大丈夫でしょう」

 

首を鳴らして本名不詳は口元を歪ませた。

 

そのとき、本名不詳がしたことは目には見えないことだった。

 

自分だけの現実。AIM拡散力場を直接操る事に長けた彼女にとっては、AIM拡散力場に半ば憑依した原子崩しを押さえ込むなど容易い。軽く指を振るような感覚で能力を行使し、それだけで目の前に原子崩しは崩れ落ちる。

 

そのまま動けなくなった原子崩しを置いて、本名不詳は真っ黒世界の歩く。ゆっくりとした足取りは、突然とある場所で止まった。

 

「んで、この壁は無理か」

 

実際壁と言えるのかも怪しい。何故かというと、それは見えないからだ。実態把握が出来ない。人が物を認識するのに必要なのは光の反射と触った感覚と言ったところか。この世界に光の概念はない。

 

だが、こうして原子崩しや周りがどんな物なのかというのは認識できる。そして触れた感覚もある。なのに壁が把握できない。ある一定のラインから強い力で押し返される。弾かれたような感じだ。

 

本名不詳(コードエラー)は一旦壁を諦め横たわる原子崩しを覗き込む。

 

「今のところ平気そうだね」

 

苦しそうに喘ぐ彼女は必死に本名不詳を睨みつける。しかし、焼け石に水。もうどうにもならない。

 

「君自体が“自分だけの現実”なら分かるだろ? 原子崩しでは私には適わない。だって私の能力は“自分だけの現実”に作用するんだからねぇ。つまり私は滝壺理后ちゃんと親戚みたいな能力だ。私の方がスペックいいんだけどね、能力弄る時とか」

 

「…ッはぁ……。ぐ、だか…ら……なんだ!!」

 

「いやぁ、だから今治療してんだけど。たぶん気持ち悪いでしょう? なんせ弄くり回されてるだから。それに耐えて悪態つけるって凄いことなんだからさぁ。君たちって本当に脆いのか強いのか分かんないよ」

 

感心したように頷く本名不詳は原子崩しに触れようとして、力強く弾かれた。

 

最後の意地が本名不詳を拒絶する。

 

だが、その行動に本名不詳はとても嬉しそうに微笑む。

 

「まぁ、なんにしても君には立ち直ってもらわないと。こうして破損した“自分だけの現実”を修復してあげてるんだから」

 

「頼んでねーよ」

 

「はいはい。好意の押し売りだとでも思っといて。でも、治すついでに君に負担かけてるのは、ご愛嬌」

 

仕方がないと言わんばかりの本名不詳は隣に座り込んだ。

 

「しかし、アレだ。なんでこうも似るかねぇ」

 

本名不詳は呟きを零す。

 

「……後は君が微調整しなさい。“自分だけの現実”と君の曖昧な繋がりを強固なものにした。だから君の感性が〈原子崩し〉に大きく響いてしまうから、気を付けてね」

 

「お前を殺した後でな」

 

「無理だと思うけど。この能力は相手の弱点だって一瞬で分かるし、何より抑制出来るからさ。それじゃ、またね」

 

煙が空気中に溶けて無くなるように、本名不詳は原子崩しの世界から出て行った。

 

しかし、原子崩しは外の世界に帰れない。もしくは帰りたくないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム開始から四日目の朝8時。

 

『アイテム』の皆と上条は眠たそうに目を擦りながら仮眠室から出てきた。

 

「ふわぁ、超おはよう御座います」

 

「あぁ」

 

「木山さんは結局、徹夜でやってた訳?」

 

「寝ていないな。気が付けば朝だった」

 

思わず皆は苦い表情をした。その集中力もさることながら、寝る間を惜しんでデータ解析させた罪悪感もある。

 

「別に、その徹夜しなくても良かったんじゃ」

 

「ん? 早い方がいいだろ。それに睡眠時間は後で調節するさ。このくらい慣れている」

 

なんの疲れも感じさせない木山は立ち上がると、コーヒーを注ぐ。ゆっくりと飲むと、少し長く息を吐いた。

 

「はぁ、そうだある程度は絞り込んだ。今から丁度ハッキングをしようか悩んでいたんだが、暗部の君達ならそれ専用の機材は手に入るかい?」

 

「出来るけど、ハッキングしてどうする訳よ?」

 

フレンダの質問に答える前に木山は、コーヒーを飲む。

 

「……それは、今使われてない研究所である筈の電気使用量を見る為さ。神無の事だから、幾つか電気を回した研究所はあるだろうし、またその中から絞り込めればと」

 

「それって犯罪じゃないのでしょうか?」

 

裏社会とは程遠い上条はハッキングの言葉に冷や汗をかいた。しかし木山も『アイテム』の皆もそのくらいなんだ、と言わんばかりに目を細める。

 

「あー、コイツ一般人だった訳よ」

 

「そのくらい超誰でもやってますよ。麦野だって頻繁に不正アクセスして情報を収集してましたから」

 

「それに〈電気使い〉になれば電子ロックなんて玩具だ。学園都市も行き過ぎた事が無ければ黙認黙殺している。電気使用量を見る程度ならお咎めはないだろう」

 

「大丈夫、むぎのだってやんちゃしたけど捕まらなかったから」

 

「俺の知ってる世界じゃない……」

 

また一歩、上条は学園都市の暗い部分をしって肩を落とした。

 

そんな真っ白な彼を見て、なんとなく悪いことをしたと四人は思った。

 

「その機材、何時くらいに取り寄せられる?」

 

「12時くらいです。因みに超新規の機器にする理由は?」

 

「私がやったと言う証拠を限りなく消すためだ」

 

木山の答えに絹旗は頷いた。

 

「分かりました。それじゃちょっと行ってきますね!」

 

「行ってらっしゃい」

 

手を振り見送る滝壺と上条に絹旗も振り返した。

 

これから絹旗は12時まで帰ってこないだろう。残ったメンバーは朝食をなんにしようかと悩んでいた。

 

しかし木山は立ち上がると仮眠室に向かう。

 

「キッチンは好きに使ってくれ。私は寝るから」

 

「お昼は食べますか?」

 

「そうだな、もらうとしよう」

 

「おやすみなさい」

 

部屋に引っ込む前にフレンダが声を掛け、木山は恥ずかしそうに笑った。

 

「うん、…おやすみ」

 

小さな音を立てて閉まる扉を見詰めながら三人はしみじみと思った。

 

やっぱり、誰かと居るのはいいと。

 

学園都市は学生の街。共有の寮以外、学生も大人も一人暮らしだ。だからだろうか、どうにもこう言った挨拶が疎かになりがちだ。

 

この当たり前のやり取りに、こそばゆい何かを感じてしまう事に上条は一種の寂しさを拭えなかった。

 

「朝ご飯とお昼の材料買いに行こう」

 

「ハーイ! 私は鯖缶がいい訳よ」

 

「駄目。かみじょうは何が食べたい?」

 

「そーだな、生姜焼きとか」

 

でも、こうした会話が出来ることに嬉しさもあった。

 

「三人で買い出し行くぞ」

 

「それじゃ昼は鯖缶で!」

 

「焼きそばに決定したよ、ふれんだ」

 

「滝壺が私に鯖缶食べさせてくれない訳よ」

 

落ち込むフレンダの肩を叩きながら上条は苦笑した。

 

「みんなで同じの食べようぜ。だって最近フレンダと一緒に居なかったから滝壺も寂しかったんだよ」

 

「うん、それに個食は駄目」

 

「了解。それじゃスーパーに行く訳よ」

 

人一倍元気に走り出したフレンダを追いかける滝壺と上条は、ここにいない麦野を思った。

 

幸せを噛みしめる事に、欠けた部分が際立つ。

 

幸福を素直に喜べない状況が早く終わればいいと願った。

 

「二人とも早く! タクシー捕まえた訳よ」

 

「早いなフレンダやつ」

 

大通りに出るとフレンダはタクシーに乗っていた。乗り込むと直ぐに走り出す。

 

「どこに行くんだ?」

 

「最寄りのスーパーって頼んだから大丈夫」

 

「そうか、生姜焼きだから豚肉とキャベツと生姜だな」

 

「調味料は揃ってたから買わなくていいよ。でも紙コップと紙皿と割り箸は買うから」

 

フレンダは滝壺の言ったことをメモすると提案をした。

 

「なら私が紙皿とか買ってくるから材料よろしく。飲み物もついでに調達しようか?」

 

「お願いね、ふれんだ。かみじょうには荷物持ちをお願いするけどいいかな?」

 

「任せとけ」

 

役割を割り振り三人は静かに過ごした。

 

そして登校時間を過ぎて人通りの少ない窓の外を眺める。こうして平穏に過ごしているのに、平凡な日常でない事が思い知らされる。

 

上条も普通なら学校に登校して今頃、あの小学生と見間違うくらい小さい先生の話を聞いている筈だ。

 

「平凡っていいなぁ」

 

「でも上条は平凡通り越して馬鹿な訳よ」

 

「なんだとフレンダ!」

 

「大丈夫、そんな馬鹿なかみじょうを私は応援してる」

 

賑やかな車内には三人分の笑い声でいっぱいになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったくこいつと来たらー! いきなりハッキング機材渡せって何事よ」

 

「だから超今、必要なんです。裏ルートで取って下さい」

 

電話口の妙に甘ったるく媚びた声に絹旗は露骨に顔をしかめた。

 

最初、麦野が失踪したとき全くと言っていいほど連絡が取れなかったこの女にそのことを問いただしても仕事が忙しかったの一点張りで、真偽は掴めなかった。

 

だがこれで麦野の失踪が暗部のトップに知れているのが確認できた。麦野が失踪したことに電話の女は一切驚く事も愚痴を言うわけでもなく、日常のくだらない話を聞いたときのようなリアクションを返してくれた。

 

つまり、仕事が行き詰っても麦野に優先的にやらせたい事柄がある。

 

それがなんなのか分からないが、頻繁に反学園都市の輩を葬っている『アイテム』の活動を一時的に止めてまで重要な事に繋がるなにか。

 

問うたところでこの電話の女は答えないだろう。

 

絹旗には彼女が空気のように感じられる。掴んでもすり抜けられ、探ろうにも手段が無い。

 

だからこそ、この人物に好感はもてない。いや、それどころかこうして声を聞くだけで嫌悪感が増幅しているくらいだ。

 

「はぁ、珍しい。『アイテム』で使うの?」

 

「超黙秘です」

 

「こいつと来たら! 可愛くないガキンチョね。いいわよ上げないから」

 

どこか見下したように嘲る声に絹旗は至って冷静に切り返した。

 

「超大人気ないです。やだやだ、こんなんに成りたくない。いいですよ超無能な上司に頼る気ないです」

 

「ぬがぁぁあああ!! こいつと来たらぁぁ!! 本当に可愛げないんだから。そこまで言うなら最高の機材揃えてやる!」

 

ブツッ、と一方的に切られた携帯を見ながら絹旗はニヤリと唇を歪めた。

 

「ふん、チョロいですね。さて朝ご飯!」

 

ファミレスの中は人気が少なく絹旗は周りを気にせずオムライスを頬張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷物を持ちながら上条は帰路を辿る。

 

「ごめんな。金払わせて」

 

「その代わり、ちゃんと荷物持ちよろしくね」

 

「結局、give-and-takeって訳よ。だから気にしない」

 

陽気に笑うフレンダは上条の杞憂を掻き消す。

 

そのままのんびり歩いていると上条は視界の隅に白く揺らめく物を見つけ、思わず目で追った。

 

六月下旬。蒸すような暑さの中、白いそれはコートの裾にも見える。

 

こんな暑い日にその姿は、よく目立つ。しかし服を良く見ると、それは冬に着るコートではなくもっと薄い生地で出来た服だった。

 

そしてその先に居たものは、

 

本名不詳(コードエラー)!」

 

揺れていたのは彼女の真っ白な白衣。

 

動きが止まった上条の視線を二人が追う。

 

「……かみじょう誰あの人?」

 

「あ…ぁ」

 

有り得ない人物の登場に喉が張り付いた上条は一度生唾を飲み込むと、絞り出すように言った。

 

「アイツが、本名不詳だ」

 

二人が息を潜め、フレンダがポケットに手を入れる仕草をした。

 

その間にも本名不詳は裏道に入っていった。

 

「追うぞ!」

 

「うん」

 

車道を横断し本名不詳が入っていった道を突き進むと、彼女が誰かと会談していた。

 

気配に気づいた彼女は振り向くと

 

「やぁ! 久し振りだね。あれからどう進展した?」

 

長年久しく会ってない友人に挨拶をするよう片手を上げる。

 

その軽い言動にフレンダのこめかみは波打った。

 

「本名不詳! 覚悟出来てんだろうな!」

 

「おやおや、出会い頭それかよ。つまんないねぇ。あぁ、街であったら鬼ごっこだっけ? ……君はもう行って良いよ」

 

会談していた男に軽く手を振ると素早く去っていった。

 

何をしていたか気になるが本命が目の前に居るのだ、他の事に気を取られている暇はない。

 

上条が拳を強く握ったとき、隣から破裂音が響いた。決して小さくない音。

 

それは、フレンダが手にした物から発せられ、硝煙が鼻孔を満たす。

 

人を殺すだけの武器をフレンダが使ったことに上条は驚き、呼吸が止まった。

 

「フレンダちゃん愛情表現にしては過激だね。つか通してくれる?」

 

狙いは本名不詳の腹に一発。しかし撃った筈が相手は傷ついていない。

 

それどころか、いつ手に取ったのか本名不詳は弾丸を手で弄んでいた。

 

誰の目にも留まらない速さで放たれた弾丸を掴む。

 

さっきまでの驚愕を吹き飛ばす現象に上条は腰を落として本名不詳を睨む。いつ能力を発動させたのか、その場に居た三人の誰もが分からなかった。

 

だからと言って怯んでいる訳にはいかない上条は、腹の中の怒りを声と一緒に目の前の女に叩きつける。

 

「麦野を返せ!」

 

「はぁー、ゲームのルールに従ってくれよ。捕まえたら返すさ。私が能力者だって知ってるよね?」

 

手の内をひけらかすように本名不詳が手の平から炎を生み出す。

 

しかし、その事に上条たちは不審に感じた。炎を生み出すだけの能力が、人間の動体視力では捉えられない弾丸を掴めるものか。

 

そこでフレンダは慎重に問いただした。

 

「炎系の能力者って訳?」

 

「いや違うよ」

 

フレンダの答えを否定した彼女は炎の壁を上条に向けて放った。

 

炎は上条を焼く前に打ち消され、本名不詳は口元に笑みを浮かべる。

 

「いいね。一筋縄じゃいかないゲームは好きだよ」

 

「そうかよ、ならお前のプライドごとへし折ってやるさ。ゲームマスター」

 

走り出そうとした上条をフレンダが咄嗟に牽制した。

 

腕を掴み下がらせると、連続で本名不詳に向けて弾を撃つ。

 

狭い路地裏に変わった破裂音が立て続けに響く。

 

「サイレンサーつきだからって乱射してると野次馬来るぞ」

 

「さっきから気になってたけど、アンタどうやって弾丸を取ってんの?」

 

「あー、それは私の能力に関係するんでね。そうだ、不公平だよね。私は君らの弱点と能力を知り尽くしてるなのに私の事を一切知らないのは不公平だね。教えて上げる」

 

上条たちは耳を疑った。能力をバラすと言うことは対処や弱点を教えるような物だ。

 

なのに彼女は狭い路地裏で両手を広げ語る。

 

「あぁ、大丈夫正気だよ。私はその程度の情報じゃ負けないからね。私の能力は〈接続援助(リンクサポート)〉文字だけだと分からんだろうから説明してやる。能力として言うならば、滝壺理后、君と近い存在だ。誰かを追い回す事に長けたのが滝壺ちゃんなら、私は誰かの能力を底上げする事に長けた能力だと言える。その他の追加効果もだいたい一緒だ。でも決定打は私には『体晶』がいらないことだろう。その代わりペナルティというか制約というか、使いすぎるとマズいけど」

 

一部の手札をバラまいた本名不詳は唇を陰惨に歪ませて上条を睥睨する。

 

「だから、フレンダと上条君には作用はしないさ。でも、ねぇ馬鹿とハサミは使いようってな。私自身は攻撃できる能力持たないが、誰から借りることは出来るのさ。例えば―――〈原子崩し(メルトダウナー)〉とかねぇ」

 

皆が呼吸を止めた瞬間。不健康な光閃が無慈悲に無差別に爆発した。

 

裏道に隣接していた 建物の一部は無残に融解し、灼熱のマグマのような物が辺り一面に散らばる。

 

上条たちは間一髪で車道に飛び出し逃げた。この時ほど車が道を走っていない事を感謝した初めてだろう。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「材料は大丈夫だよ。ふれんだ割り箸大丈夫?」

 

「結局、自分の命を心配してほしい訳よ滝壺!」

 

「あはははは! ヒャハハハハハハ!! こんなもんかよ。愉快に逃げてんじゃねえぞ。鬼役と逃げ役が逆転してんだろうが!!」

 

「なッ!!?」

 

心臓を鷲掴みされたような絶望と恐怖がやってきた。

 

灼熱の地から悠々と歩いてくる姿はこの世の絶望を体現したようで、狂気に歪んだ顔は見ただけで逃げ出したくなるほど恐ろしい。

 

同時に悪鬼のようなその迫力に押され上条たちは後退する。

 

「おいおい、逃げようってか? まぁいいよ。逃がさないからさぁ、じっくり追い詰めて鳴かせて上げる。せいぜい可愛く鳴けよ。こんな体験滅多に出来るもんじゃねえしなぁ!!!」

 

「ひっ! ……うわぁぁあ、麦野みたい。麦野みたいに恐い訳よ!」

 

怒った麦野に一番トラウマがあるフレンダはへたり込みガクガクと震えながら滝壺に縋って、滝壺も顔面蒼白になりながら目の前の現状に耐えていた。

 

しかし顔色が悪い。貧血を起こしたかのようにフラフラと揺れる滝壺を見かねた上条が、一歩前にでた。

 

「鬼役と逃げる役は変わっちゃいないだろ。それにゲームの参加者は俺だ!」

 

「おぉ、じゃ先ず君からね。……いっちょ派手にやりますか」

 

「滝壺! フレンダを連れて逃げろ。少しの間、時間を稼ぐから」

 

無言で滝壺は頷いてフレンダを抱えて走り出した。決して早くないが、道を曲がり見えなくなった事を確認すると、上条は腰を落として〈原子崩し〉の光閃に備えた。

 

本名不詳は原子崩しの光閃をわざと右手で消しやすい位置に向けて撃つ。理論では実現不可能な電子のビームは壮絶な熱量と反動で上条を僅かに後退させた。

 

熱された風が上条に叩きつけられ、思わず顔をしかめると二撃目が上条の足元近くを通り過ぎ、ビルの一角を灼き落とす。コンクリートがまるで溶かされたバターのようだ。

 

「へぇ、確かに使いにくいね。でも、これなら……いけるかねぇ」

 

「なにブツブツ言ってんだよ。大人しく麦野を返してくれる気になったか?」

 

冗談を交えた挑発に本名不祥はおどけて返した。

 

「はは、冗談はその不幸体質だけにしときなよ」

 

「うるせぇ! 好きで毎日不幸になって訳じゃねぇよ!」

 

自販機に金を飲まれたり、不良とマラソンしたり、うっかり財布を落としたりと日ごろから小さな不幸に見舞われる上条当麻にとって笑われるのは心外である。

 

彼は自分の事だが、本名不詳にとっては至極どうでもいい事柄だ。

 

「あっそ。それならこのゲームを諦めな。不幸が嫌なんでしょう? 麦野さんのことは忘れて欲しいな。彼女の事を考えてくれるなら」

 

これほど良いことはない、と言う様に語る本名不詳に上条当麻は歯噛みする。

 

「お前こそ麦野のことをちょっとは考えてんのかよ!」

 

「当たり前だ。私の全ては彼女のためにある。寧ろお前が考えてんのか?」

 

平然と言い放つ本名不詳の声には、力強い響きはなく、あっさりとしていた。

 

その代わり、言葉は何処までも素直に上条の胸のうちへ入り込んできた。当たり前と語る彼女の意思。

 

それにはどの様な想いが籠められているのか。

 

「私にとって麦野沈利は世界だ。地球上の全ての生命と比べても麦野さんに天秤が傾く。だが麦野さんにとって周りの世界が壊れる事は死も当然。だったら、私ができる事は彼女にとって最上級の答えに世界を導く事だ。そのための行動だ。君は彼女の何を考えて動いているんだい?」

 

答えは、一人の人間に傾けるには重過ぎる想いだった。

 

故に上条の口は一言も言葉を紡げなかった。

 

比べるまでも無く、本名不詳は麦野の事しか考えていない。それが正しいとは思えないが、世界よりも個人が大きい本名不詳の価値観に上条の価値観が追いついていなかった。

 

全を重んじるが故に、個を想う。それの逆が本名不詳。

 

明確なたった一個の基準点。上条はそんなものを持っていない。持っているのは、自分のもつ善悪の境界線くらいだ。そこで立ち向かうべきか、応援するべきか彼の中で決まる。

 

薄っすらとしたグレーゾーンに本名不詳はいた。黒に近い灰色の世界。

 

「麦野のことを考えてるなら、どうして無理やり連れて行ったんだ!」

 

「即決に言えばそれが一番良い答えだったから。君に預けた方が良かったなら私はあの時錯乱したあの子を置いて行ったさ。でもそうじゃない。君に預けたとしても何も変わらなかっただろう。もっとも、君がこの答えに理解を示すとは思えないけど」

 

これ以上の対話を断ち切る。手の平に眩い光りの球を出現させた。

 

上条は反射的に走り出す。

 

その行動を見越していた本名不詳は光りの球を爆発させた。天を突くように閃光が迸り、辺り一帯を根刮ぎ焼き尽くす。

 

上条は迷うことなく右手で打ち消すことを選択する。だが質量の多さに逆に押し返され、瓦礫と一緒に壁に叩きつけられた。

 

「がああぁぁあ!!」

 

光の柱が消え、中心にいた本名不詳の姿は平然と言えなかった。白衣がボロボロに崩れ、覗いた素肌には火傷の傷が刻まれていた。しかし本人は特に意に介す事なく白衣を脱ぎ捨てる。

 

「やりすぎたか……。さてと、上条君。聞こえてるなら教えて上げるよ。麦野沈利を助けるなら、君は覚悟を決めないといけない。生温い答えで私の前に来てみろ? 殺すぞ、次は無いからな」

 

はっきりしない意識のなかで本名不詳がそう言ったのを上条は確かに聞いた。そして彼女がそれだけを告げて去っていたのを見た。

 

 

 

上条当麻は痛む体を引きずりながら木山の研究所に足を向けた。

 

 

 




気づいたら小説投稿し始めて一年経ってた。
にじファンに初投稿したのが十月一日。

それなのに本編に入ってないってちょっとやばくない?
速度上げたいけど上げれないこの気持ち。

暇が来ないかなぁ

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